姉妹チート

和希

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過去は過去

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「おーい、喜一君」

 大学の構内で俺の名前を馴れ馴れしく呼ぶ奴は一人しかいない。
 俺が振り返ると予想通りの人物だった。

「あのさ、金曜の夜空いてないかな?」

 特に予定があるわけでもない。
 だけど……

「麻里はテレビに出演するんじゃないのか?」

 そのくらいの情報は仕入れている。
 すると麻里は笑って言った。

「あの番組生でやってるわけじゃないから」

 そういうものなのか?
 生でやってそうなテレビだったけど違うんだな。

「まあ、俺は用事なんてほとんどないけど、どうしたんだ?」
「ちょっと会って欲しい人がいてさ。ダメかな?」
「どういう人なんだ?」
「人気女優だよ」

 は?

「そいつと俺があう理由が分からないんだけど」
「その子に喜一君の事話したら是非会いたいって言うから」
「……大丈夫なのか?」
「少しは私を信用してくれてもいいんじゃない?」
「わかったよ」
「ありがと、じゃあ金曜学校終わったら校門で」
「同じ大学なのか?」
「そうだよ」
「名前くらい教えてくれないか?」
「土屋環奈」

 俺だってある程度の知識はある。
 今ブレイク中の若手女優の名前だ。
 金曜になって学校が終ると校門で待っていた。
 すると麻里が綺麗な女性を連れてやってきた。
 別段サングラスやマスクをして顔を隠してるわけじゃない。
 テレビで見たまんまの女性だった。

「はじめまして。土屋環奈です。君が山本喜一君?」
「そうだけど」
「うわあ、写真は麻里に見せてもらったけど実物の方がかっこええやん」

 そう言ってはしゃいでいる土屋さん。

「立ち話も目立つし、どっか夕食でも食べに行こうよ」

 麻里はそう言うと俺達は電車で繁華街に向かう。
 レストランに入って注文を頼むと土屋さんが一方的に質問してきた。

「今彼女いんの?」
「いないよ」
「好きな女性とかは?」
「考えた事もない」
「どうして?」

 事実を話した方が諦めてくれるかもしれない。
 すこし自虐的な思考だけど、俺は過去にやった事実を話した。
 俺の事を軽蔑するだろう。
 そう思っていたけど、土屋さんの反応は全く違っていた。

「それで?」
「え?」
「それが喜一君が人を好きにならない理由とどう関係あるん?」
「普通は嫌がるものじゃないのか?」
「だってそれ中学時代までの話なんでしょ?」

 そんな話は大人になって「昔はやんちゃやってたけど」ってくらいの酒の肴にするくらいだ。
 大事なのは今の俺だと土屋さんは言う。
 やんちゃで済む程度なのかは分からないけど土屋さんの言う事は一理あった。

「でも、それで土屋さんが俺を指名する理由にはなるのか?」

 そもそもどうして俺なんだ?
 土屋さんにそう聞いてみると土屋さんは前菜を食べながら話し始めた。

「最初は嫌だった。どうせテレビを通しての上辺だけの私しか知らんのやろうと思ったから」
「じゃあ、なぜ?」
「さっき喜一君が言ってた事麻里から聞いてた」

 そして今東京で俺は孤立している。
 集まるのはやっぱり不良ばかり。
 そんな人生に嫌気がさしていた。
 でもそんな俺を知っていながら俺と会いたいと言う理由が分からない。

「勘だよ」
「勘?」

 俺が聞き返すと土屋さんはうなずいた。

「喜一君なら上辺だけの私やない、本当の私を見てもらえる……そう思ったんよね」

 まあ、言い方は悪いけど芸能人とかは興味ないし、縁のない物だと思っていたからな。

「で、今日喜一君に会って確信した。喜一君も私と同じなんだって」
「土屋さんと同じってどういう意味?」
「喜一君も私と一緒。山本喜一というこれまでのイメージから抜け出せずに演技をしている。私がタレントの土屋環奈を演じているように」

 大体あってるかもしれないな。

「まだ初対面だけど第一印象が大事だと思うから私は決めたよ。私は喜一君を選ぶ」

 人気女優から告白されるなんて思っても見なかった。
 普通ならもっとカッコいいモデルとか俳優とか選ぶんじゃないのか?

「喜一君どうかな?環奈は良い子だよ」

 東北から一人上京してきて麻里と同じ高校に通っていたらしい。
 地元よりも強い訛りが災いして孤立していたそうだ。
 て、事は交際歴はないのか。

「普通はありがたい話だと思うんだけど、俺は……」

 断ろうと思った。
 芸能事務所も黙ってないだろう。
 上手くいくはずがない。
 そう思った。

「どうして?」

 土屋さんが聞いてきたので正直に答えた。

「土屋さんの所属してる事務所も黙ってないだろ?」
「それはむしろ逆だよ喜一君」

 麻里が土屋さんに代わって答えた。
 麻里と土屋さんは同じ芸能事務所らしい。
 土屋さんは俺が思った通り恋愛経験がない。
 なのでキスシーンとかはカットさせてきた。
 理由は事務所の上層部の「ファーストキスが演技なんて悲しすぎるでしょ」という意見を通していたから。
 麻里が俺に土屋さんを紹介したのも「早いところ彼氏作って恋愛してみなさい。その方がもっといい演技が出来るはず。役に感情移入できるでしょ」という事務所の意向。
 しかしあまりにも純真な土屋さんに引き換え、俺は汚れすぎている。
 つり合いが取れない。
 だから他を当たってくれと返す。

「つり合いが取れないなんて誰が決めたん?」

 土屋さんが真顔で言う。

「私って女性として魅力が欠けてる?」
「そんな事は無いさ」

 だからもっといい男がいるはず。

「私は麻里から喜一君の話を聞いてこの人だって決めた。私の心で喜一君を選んだ。なんで喜一君は私を選んでくれないん?」
「俺に選ぶ資格がないだけの話だよ」
「それは誰が決めるん?私がいいって言ってるんだからいいやん」

 土屋さんは中々引き下がらない。
 でも最初だけかもしれない。
 俺に幻滅する時が来るかもしれない。
 女優だから時間もそんなに取れないだろう。
 色々考えた末俺は折れた。
 すると土屋さんは喜んだ。

「よかったね。環奈」
「ありがとう、麻里。……えーと喜一君だからきーちゃんでいいかな?」

 は?

「彼氏だもん。なんか特別な呼び方したい」

 きーちゃんか……。
 天音のやつが聞いたら腹を抱えて笑うだろうな。

「好きに呼びなよ。俺も環奈って呼ばせてもらう」
「うん、よろしくね。あ、連絡先交換しようよ」

 そう言って環奈はスマホを取り出す。

「あ、そうだ。麻里、私ときーちゃんの写真撮ってよ」
「いいよ」

 俺は環奈と並ぶと麻里に写真を撮ってもらう。
 環奈はその画像を麻里から受け取ると加工して俺に送信してきた。

「いっぺんやってみたかったんよ。ペア画像」

 だから俺のスマホのホーム画面をこれを使ってくれという。
 画像は俺の方にはきーちゃん、環奈の方にはかんなと文字が書いてあってハートが二つに分かれていた。
 食事を終えると麻里と環奈は家に帰る。
 俺も一軒だけ寄って家に帰った。
 家に帰ってスマホを見るとメッセージが山の様に来ていた。

「しつこいかな?」

 最後に書かれていた文章。

「ごめん、ちょっと寄り道していて気づかなかった」
「いいんよ。私ちと強引すぎるかなと思って」

 初めての恋愛で手探りの状態らしい。

「徐々に慣れて行けばいいさ。よろしくな」
「ありがとう。こちらこそよろしくね、きーちゃん」

 その後少し電話をして寝る事にした。
 まさか俺が恋愛物語の舞台に立つ?
 誰も想像しなかったであろう事が今現実で起こっていた。
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