姉妹チート

和希

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共に生きる

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(1)

 美希の様子がおかしい。
 平静を装っているけど明らかに変だ。
 天音の結婚式があった頃からだ。

「何かあった?」
「別に何もない」

 そんなやりとりを何度も繰り返していた。
 僕にも言えない事なんだろうか?
 たまに一人で外出する事もある。
 今がそんな時だ。
 時計を見る。
 もう父さんは家にいるかな?
 実家に電話をしてみた。

「あら、空。珍しいわね。どうしたの?」

 母さんが出たみたいだ。
 父さんに話があると言うと「ちょっとまっててね」と言って父さんを呼んでいた。

「どうした?」

 父さんの声だ。
 父さんに事情を説明する。

「なるほどね」

 父さんは予想していた。
 ってことは美希の悩みを知っている?

「それは美希自身から聞くべきだと思うよ」

 やっぱり知っているみたいだ。
 これも僕達に対するテストなんだろうか?
 ありがとう、と言って電話を切ろうとすると父さんが言った。

「何も空1人で頑張る必要はないんだよ。2人で暮らすという事はそういう事なんだから」

 父さんは偶に謎かけのような事を言う。
 電話を切るとちょうど美希が帰って来た。

「ごめん空。遅くなっちゃった。夕飯はお弁当買ってきたから……」
「う、うん」
「どうしたの?」
「いや。大丈夫」
「そう。じゃあ、食べよう?」

 そう言って美希は袋から弁当を取り出す。
 お弁当を食べてお風呂に入る。
 いつもの美希のように見えるけどどことなく沈んでいる。
 1人で悩む必要は無い……か。

「ねえ美希」
「どうしたの?」
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
「何を?」
「僕ってそんなに信用無い?」

 そう言うと美希は振り返って僕を見た。

「……そういうわけじゃない。ただ私自身の問題だから」

 2人で暮らすんだから1人で悩む必要は無い。
 それは美希にも言えることじゃないか?
 父さんの言った意味が分かった。

「美希1人で悩む必要は無いよ。何のために僕がいるの?」
「空……」

 美希はそう言うとしばらく考えている。

「ちょっと長い話になるかもしれないけどいい?」
「わかった」

 すると美希が一言言った。

「空を責めるわけじゃないの。ただ……」

 少なくとも大地に結婚という点は先を越された。
 僕は就職してからというけど本当は今すぐしたいんじゃないだろうか?
 それだけじゃない。
 この先、子供を作るのも大地に先を越されるかもしれない。
 僕達は親不孝な事をしてるんじゃないか?
 美希はそう思ったらしい。
 このままでいいのか?
 それが美希の悩みだった。
 そんな事考えたってどうせ僕は美希を愛してしまう。
 答ははっきりしていた。
 それをどうやって美希に伝えてやればいい?
 ……そうか。
 父さんの言った意味が分かった。

「そうだね」

 僕がそう言うと美希は不安気な顔をしていた。

「じゃあ……」
「父さんもそうだったって聞いたことがある」
「え?」

 大学生の時に周りが学生婚する中、自分たちは親に甘えっぱなしで本当にいいのかと母さんが悩んでいたらしい。

「それでもね。父さんは自分の道をまっすぐ突き進んだそうだよ」

 サッカーもバスケも捨てて母さんと共に生きる道を選んだそうだ。
 水奈の父さんが言ったらしい

「互いに好きだから不安になるのが恋だとしたら……」

 お互いに好きだと信じられるのが愛。
 母さん達が幾つもの苦難を超えてその境地に到達したらしい。

「僕もそう思う。今は試練の時。ちゃんとゴールは用意されている」

 苦しい時も二人でおでこを重ねて悩んで生きたい。
 だけど本当は悩む必要すらないのかもしれない。
 どんなに悩んでもどうせ美希を愛してしまうのだから。
 だから……
 
「一人で悩む必要なんてないよ」

 僕はそう言って美希を抱きしめる。

「これから先、色んな困難にあうと思う。それでも僕は変わらない。美希と一緒ならきっと笑って返り討ちにしてやるから」

 だから悩みががあったら、どんな事でもいいから僕に相談して欲しい。
 2人で1つずつ解いていこうよ。

「……空も頼りになる男になったんだね」
「そうでもないよ」
「きっと今の空なら色んな女性に選ばれると思う」
「そんなの考えるだけ無駄だよ」
「……ありがとう。もう平気。明日も早いから早く寝よう?」
「そうだね」

 そう言ってベッドに入ると明かりを消す。

「こんな気持ちにさせておいて、何もしないなんてないよね?」

 暗がりの中、美希はそう言って笑う。
「愛してる」という言葉以外にどうやって伝えたらいいか分からない。
 その度に美希は馬鹿にして笑うんだ。
 僕達の人生がこれでよかったなんて誰にも分からないけど、ただ泣いて笑って過ごす日々。
 そんな君の隣に立っていられることが、僕の生きる意味だろう。
 美希と生きる意味になる。
 僕達は2人で日々を刻んで想いを作り上げてきた。
 それはこれから先もずっと続くんだ。
 美希の手をずっと握っているから。
 健やかなる時も病める時も共に分かち合い生きていこう。
 いくつもの夜を越えて僕は美希と愛を育むだろう。

(2)

「僕達がどうかしたの?」

 運動会が終った後、片づけの為椅子などを教室に運んでいる時だった。
 隣の2組から話声が聞こえた。

「1組って馬鹿だよな。たかだか運動会でムキになって」
「それで、優勝してはしゃいじゃってね」
「冬吾も可哀そうだよな。2組だったらもっと勉強出来ただろうに」
「馬鹿の相手をするのも大変だよね」

 僕達の事を馬鹿にされている事はすぐに分かった。
 だから声をかけてみた。
 少しは悪びれるかと思ったけど、微塵も感じさせずに逆に僕に質問してきた。

「履歴書に”運動会優勝”なんて残らないのになんでそんなに必死なの?」
「履歴書には残らないけど思い出には残るよ」
「そんな思い出なんて形のない物の為に勉強時間割いて成績落としたらどうするの?」
「別に成績落としてないけど?」
「それは片桐だけだろ?他の奴等なんて大したことないじゃん」

 この子達は学校の成績でしか自分のステータスを維持できない残念な種類だという事は分かった。
 価値観が違うのにこれ以上討論しても時間の無駄だ。

「君達には分からないと思う。別に君達の価値観を否定するつもりもないから」

 だから放っておいて。
 そう言って作業に戻ることにした。

「そうやって低能な奴らは”価値観”って言葉に逃げるんだよな」
「多田や高久とかもサッカーなんてものに必死になってさ」
「怪我したらお終いのギャンブルに夢中になって」
「……君達に取り柄が無いだけじゃないの?」
「また出た。学歴があれば取り柄なんてどうでもいいだろ」

 そう言って笑う2組の連中に、今までにないほどの怒りがこみ上げてきた。
 殴り飛ばしたい。
 だけど今日はお祖母ちゃんも見に来た大切な思い出の日。
 そんな無様な思い出は残したくない。
 悔しいけど何も言わずに行こうとした。
 放っておいてほしかった。

「片桐だって同じだぞ。玉蹴りなんかに夢中になってないでもっとまじめに勉強すれば……」

 やっぱり我慢できなかった。
 その場に持っていた椅子をおいて、教室に殴り込もうとした時誰かが僕の腕を掴んだ。
 振り向くと誠司達がいた。

「お前はそういうことするタイプじゃないだろ?」

 誠司がそう言って笑った。
 そんな様子を見ていた2組の連中が笑っていた。

「やっぱり片桐もそっち側の人間かよ」
「低能同士仲良しこよしでやってればいいぜ」

 誠司の腕を振りほどこうとしたけど、誠司は離さなかった。

「悪いな。冬吾はちょっと事情があってお前らの相手をするわけにはいかないんだ。話があるなら俺らが聞いてやるよ」
「なに?暴力に訴えるわけ?多田の姉も問題児だったらしいけど、やっぱり血は繋がってるんだな」
「ああ、そうだ。ムカつく連中は殴り飛ばしてやれって教育されていてさ。悪いけどぶん殴られてよ」
「そんなことしたら先生に言いつけてやるからな。これだから野蛮人は……」
「言いたきゃ勝手に言え」

 それくらいなんてことない。
 そうして誠司が教室に入ろうとした時、瞳子が笑い出した。
 それに気づいた2組の連中が瞳子を見る。

「何がおかしいの?」
「やばい。マジウケる」

 冴も同じ考えのようだ。

「あのさ、偉そうに言ってるけど、じゃあサッカーしてる冬吾君にすら勝てないあんた達っていったいなんなの?」
「なんだと?」
「言いたい事があるなら実力で示せってよく言うけど、得意なお勉強ですら負けてるじゃん」

 瞳子がそう言うと2組の顔色が変わって来た。
 それでも瞳子は構わず続ける。

「断言する。あんた達が有名な大学に行こうとも冬吾君に一生勝てない」

 しかも自負する学歴も僕は高卒だ。
 そんな僕にこれから先一度も2組の連中は勝てないだろうと、瞳子は断言した。

「勉強で勝てなくていちゃもんつけて、殴られたら先生に言いつけるってダサすぎて笑いしかでない」

 冴がそう言って笑っていた。

「冬吾はそうかもしれないけどお前たちは違うだろ?」
「同じだよ。いくら勉強で負けたからって、そんなしょぼい誇りしか持てないあんたに興味すらわかない」

 誠司や僕は将来サッカーで有名になって脚光を浴びるだろう。
 だけど2組の連中は精々官僚になって必死に働いてるだけだ。
 働いてる人を馬鹿にする気はないけど、そんなしょぼい価値観で生きてる人間に興味はない。
 しょぼい価値観しか持てないでいるのに、僕達を馬鹿にする権利はない。
 冴と瞳子はそう言っていた。

「反論があるなら聞いてあげるけど。そのくらいの手間なら割いてあげる」

 冬莉が言う。

「ま、似たような価値観の女子もいるみたいだし仲良くするといいよ。行こ?」

 冴がそういうと僕達は1組の教室に向かった。
 そういえば名前聞いてなかったな。
 ま、いっか。

「でも、驚いた。冬吾君でも怒る時あるんだね」

 瞳子が言うと誠司も言った。

「片桐家の人間は怒らせると何するか分からないから気をつけろって父さんから聞いてたんだ。全くその通りだな」
「誠司だってやる気になってたじゃないか」
「俺はいいんだよ。素行不良で通ってるからな」

 僕はせめて年内は大人しくしておけ。
 お祖母ちゃんの思い出作るんだろ?
 誠司がそう言うと僕達は片づけを済ませて終礼を終わらせて帰る事にした。

「それにしても冬莉はいつも冷静だね」

 瞳子が冬莉に聞いていた。

「暴力沙汰になったらまずいのは私も同じだし、何よりあの程度の討論で何も言えない馬鹿の相手する方が面倒」

 僕が暴れ出したら混ざる気でいたらしい。
 お祖母ちゃんもいるから今日あったことは伏せておいた。
 それでも父さんに隠し事は出来ない。

「冬吾、偶には父さんとお風呂にはいらないか?」
「うん」

 父さんと風呂に入る。

「今日も大活躍だったな」
「……うん」
「で、何があったんだ?」

 やっぱりお見通しだったようだ。
 正直に話した。

「そうだな。価値観が違う者に押し付けられたら腹がたつよね」
「うん」
「互いの価値観を認め合う事は素晴らしい。そう思ってるんだろ?冬吾は」
「……違うの?」
「人はいつも何かを秤にかけるもの。どっちが大切か、何を選択すればいいか」

 僕はサッカーを選んだ。
 ……あれ?

「父さんは何を選んだの?」

 僕が聞くと父さんは即答した。

「愛莉だよ」

 母さんを?

「それから空や翼……天音が産まれてからは家族を優先してきた。今は冬吾や冬莉もだな」

 その為なら安いプライドなんて捨ててやる。
 何を一番守るべきものなのかが大事。
 それを誇りだと父さんは言う。

「そのかわり、誇りを傷けられたら牙をむきなさい。自分を守る為に」

 その時は父さんも一緒に殴りに行ってあげる。
 この地元で父さんを怒らせたらタダじゃ済まないという話を聞いたことがある。
 それだけ凄い人なんだ。

「そろそろ出ようか。すっきりしたろ?」
「うん!」

 そう言って父さんと風呂を出ると父さんはリビングでテレビを見て、僕は部屋に戻って瞳子とメッセージを交わす。
 父さんに言われた事を瞳子に伝えた。

「それで冬吾君の大事な物って何?」
「瞳子だよ」
「嬉しいんだけど、今は私より大事なものあるでしょ?」

 気持ちだけありがたく受け取っておくから。
 瞳子はそう伝えて来た。
 病まないように、消えないように。
 生きる事は悲しくなんてない。
 信じている言葉はある。
 わずかな力が沈まない限り、いくらでも前に進める。
 僕達は笑いながら遥か先へ行くだろう。
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