姉妹チート

和希

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私達を呼ぶ未来

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(1)

 今日は大吊橋に紅葉を見に出かけていた。
 空と美希、翼と善明、天音と大地君も車で後ろを追いかけて来る。
 空も大地も大人しい走行をしていた。
 空はやはり予想した通り僕に似た性質をしているらしい。
 1人で飛ばして楽しむより、ゆっくりと美希と楽しんでいるのだろう。
 大地君の場合は天音が文句を言っていたそうで、宥めるのに苦労したと後で聞いた。
 大吊橋に着くとちょっとした珍事が起こった。
 誰一人として真っ先に夢バーガーを食べようとする者がいなかった。
 天音ですら母さんと橋を渡るという。
 もうこんな事は2度と無い。
 皆がそう意識していたのだろう。
 最後の思い出にと思ったんだろう。
 橋を渡ると全員で集合写真を撮る。
 その後、戻っていつもの通りに夢バーガーを買いに行く。
 
「お昼食べれなくても知りませんよ」

 愛莉はそう言うが、この子たちは多分昼ご飯もしっかり食べるだろう。

「皆大食いなのは冬夜に似たのね」

 母さんがそう言って笑っていた。
 食べ終わるといつものレストランによる。
 予想通り空達はしっかり食べていた。
 大地君は少々きついらしいけど「料理に悪いと思わないのか!?」と天音が無理矢理食べさせていた。
 食べ終わると地元に帰る。

「麻耶さんきつくないですか?」

 愛莉が母さんを気づかっていた。

「大丈夫、最近少し調子が良いの」

 母さんはそう言って笑っていた。
 母さんの隣には父さんが座っている。
 高原の景色を見ながら2人で楽しんでいる様だ。
 帰り、ファミレスで夕食を食べてそれから解散した。
 空や翼は多分家に帰ってゆっくりするだろうけど、天音達が心配だ。
 茜や純也、冬吾や冬莉、冬眞に莉子は疲れて眠っていた。
 家に帰ると起こして家に入る。
 順番に風呂に入ると最後は愛莉。
 父さんも母さんも先に眠ってしまった。
 愛莉が風呂から出ると飲み物を持って僕の隣に座る。

「なんか信じられないですね。あんなに元気そうな麻耶さんなのに」
「そうだね」

 間違いであって欲しいと愛莉は願っているのだろう。
 だけど現実は常に残酷だった。
 今日が母さんの最後の外出だった。
 月末になると母さんの病状が悪化する。
 入院することになった。
 僕は仕事なので愛莉に付き添いをお願いする。
 母さんは長年暮らした家との別れを惜しむように見ていたらしい。
 薄々気づいていたのだろう。
 もうこの家に戻ってくることは無いという事を……

(2)

 俺達は湯布院に紅葉を見に来ていた。
 この日は片桐家が全員不参加なので、代わりに俺が計画した。

「天音達も大変だな」

 水奈がそう言う。
 
「そうだな……」

 他に返す言葉が無かった。
 空達の祖母の病状は聞いていた。
 西松深雪先生でもどうにもならないらしい。
 でも決して「もう少し発見が早かったら」とは言わなかったそうだ。
 その一言はきっと空の母さんを苦しめる事になるから。
 SHも誰もが知っている事。
 だから今日騒ぎを起こす者はいなかった。
 生きてこそ……
 誰もが自覚していたのだろう。
 ここに来るまでも、帰りも暴走する者はいなかった。
 遊も反省しているらしく、隣に誰を乗せているのかを弁えているのか暴走は無かった。

「せっかく集まったんだから。しけた雰囲気で終わったなんて天音に知れたら悪いから少しくらい楽しくやろうぜ」

 遊が言うと俺達は夕食に決めていたファミレスで騒いでいた。

「学、忘年会はどうするんだ?」

 遊が聞いてきた。

「やるべきなんだろうな……、空達に気を使わせたくない」
「天音達どんな気分なんだろうな……」

 水奈がふと漏らす。
 確かに俺達にはピンとこない話だ。
 親たちはいつ何があってもいいように年内の行事は全てキャンセルさせたらしい。
 光太達の親もいつでも対応できるようにしているそうだ。
 しなかったら現場が一つ大混乱になる。
 SHも俺達の親のグループ渡辺班もそれだけ片桐家の存在がデカいという事だ。
 食事が終ると家に帰る。
 水奈がシャワーを浴びてる間テレビを見ていた。
 水奈がシャワーから出てくると俺が入って、2人でテレビを見ていた。
 今日ばかりは水奈も口数が減っていた。
 やはり天音達の事が気がかりなんだろう。
 そんな時に俺が言ってやれることはある。

「そんなしけた面してたって天音に悪いだろ」
「そうだな……。じゃ、一杯だけいいか?」
「約束は守れよ?」
「わかってるよ」

 水奈はそう言って冷蔵庫に飲み物を取りに行く。
 ただ水奈が泣かないように、不安にならないように。
 俺もまた気をつけないといけないな。

(3)

 朝起きると制服に着替えてダイニングに行く。
 あれ?
 不思議だった。
 私は不思議に思った事を愛莉に質問した。

「愛莉~。パパは?」

 愛莉は笑顔で答えた。

「今日はちょっと用事があってね。帰ってくるのは明日になります」

 用事?
 なんだろう?
 愛莉に聞いても「内緒」とだけ言われた。
 後から起きて来た冬吾や、冬眞も聞いたけどやっぱり教えてもらえなかったようだ。
 最近愛莉と2人で何かしていた事と関係あるのだろうか?
 リビングにはお爺ちゃん一人だけいる。
 お婆ちゃんは入院中。
 だけどその事には無意識に誰もが避けていた。
 まだその事実を受け止めるには時間がかかるから。
 家の中はまるでお通夜の様になっている。
 SHのチャットでも天音や翼はあまり発言していない。
 私は朝食を済ませて準備をすると学校に向かう。

「茜、おはよう」

 友達の江口真香が声をかけて来た。

「お婆ちゃんどうなの?私のお婆ちゃんも気にしていたから」
「うーん……」

 どう答えたらいいか分からなかった。
 深雪先生の話が本当なら来月の今頃は……。

「大変だね」

 真香も心配してるらしい。
 私は真香に質問していた。
 家の中が暗い。私はどうするべきだろう?
 すると真香も悩んでいる。

「多分、茜が頑張るしかないんじゃないかな?」
「私が?」

 そう聞き返すと真香が頷いた。

「きっと誰もがきっかけを待っているんだと思う。茜も含めて」

 だから私がきっかけを作ればいい。
 真香はそう答えた。

「わかった」
 
 正直何をしたらいいのか分からないけど。
 その日はいつも通り家に帰って夕食を食べていた。
 翌日家に帰るとパパの車が停まっていた。
 帰って来たみたいだ。
 家に入ると靴を脱いでリビングに行く。
 するとリビングで愛莉とパパが話をしていた。
 私に気付いたパパが私を見る。

「お帰り茜」
「ただいま……。パパどこ行っていたの?」
「それはまだ内緒です」

 愛莉が笑顔で答えた。

「それより茜、出かける準備をしなさい」

 愛莉が言う。

「今日は前祝だ」
 
 お爺ちゃんが言う。前祝?
 冬吾達も先に帰っていたみたいですでに準備を済ませていた。
 近くの焼き肉屋で焼肉を食べていた。
 愛莉がパパに「お疲れ様でした」と空いたコップにビールを注ぐ。

「愛莉のお蔭だよ」

 パパはそう返す。
 焼肉を食べ終えて家に帰ると、翼達に相談してみた。

「パパ達何か企んでるみたい」

 しばらくして翼から連絡がきた。

「きっとパパなりに考えたんだと思う」

 考えた?

「苦しくても、切なくても、悲しくても、傷ついても、微笑みを与えようと努力しているんだと思う」

 それは多分真香が言っていた事と同じ事?
 パパなりに未来に希望をもたらそうと、何かをしているんだ。
 片桐家の道標になろうとしているのだろう。
 だから私達もパパについていけばいい。
 パパを頼っていればいい。
 翼達と話を終えるとそのまま眠りについた。
 朝起きると着替えて荷物を持ってダイニングに向かう。

「茜!昨夜はお風呂どうしたの!?」
「……一日くらい入らなくても大丈夫だよ」
「あなた女の子でしょ!」

 ちなみに莉子も冬莉も綺麗好きだ。

「もう時間無いから帰って入る」
「ほどほどにしないと壱郎君に嫌われますよ」

 そう言って愛莉は微笑む。
 これでいいんだ。
 いつも通りしていたらいいんだ。
 後はパパに任せたらいい。
 きっとパパがどうにかしてくれる。
 パパはきっと私達の願い事を背負う星屑になっているのだろう。

「行ってきま~す」
 
 そう言って私はまた新しい一日が始まる。
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