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心の太陽
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(1)
「すいません、私こういう者ですが……」
突然俺達の目の前に現れたのは山本組の人事課と名乗った。
「立ち話もなんですから……」
そう言ってファミレスでご馳走になった。
話は簡単な物だった。
俺達が内定を決めた志水建設は残業は例外を除いて一切許されない。
そして納期を忠実に守って品質も一定水準を保つ。
聞こえは良いけど残業を許さないという事は残業手当は出さないという事。
つまりはサビ残を要求される。
出来ないなら基本給を下げる。
残業手当は基本給の何割増しと定められている。
赤字が出るなら人件費を削る非道な会社だという。
一方山本組は給料は志水建設の倍は出す。
残業手当もしっかり出す。
君達にはそれだけの価値があると当社は見てる。
そう人事担当は言う。
給料が倍。
福利厚生もしっかりある。
退職金制度もしっかり整ってる。
喜んでいる者もいた。
しかし俺は慎重に考えた。
そんな甘い話あるわけがない。
必ず裏に何かある。
そんな予感がする。
彼女の高柳三智も同じ考えのようだ。
俺達は相談して暫く考えさせてくれと人事担当に言った。
「いい返事を期待しています」
そう言って人事担当は帰って言った。
その晩のうちにSHに相談していた。
SHには大区工業高校のOBの亀梨光太がいる。
志水建設の実態を知りたい。
そう言っていた。
「少し時間をくれ」
そんな返事が帰ってきた。
そして週末に「学校が終わったら駅前に来てくれ」と連絡があった。
皆を代表して俺と三智が会う事になった。
約束の時間になると駅前で光太先輩と知らない大人が一緒に来た。
「君達2人だけ?」
大人の人が俺達を見てそう言った。
全員で来るのは迷惑だろうから代表で来たと伝えると納得したようだ。
「ついてきなさい。話は夕飯でも食べながらしよう」
大人の人がそう言った。
俺と三智は2人についていく。
大衆居酒屋に着いた。
大人の人がメニューを俺達に渡す。
「好きな物を頼みなさい。ただしお酒はダメだよ。高校生に飲酒させたら立場上まずいんだ」
大人の人がそう言って笑う。
居酒屋の料理は小物が多い。
初めてくる俺達は色々頼んでいた。
光太先輩たちは高校生といると分かっているのかそれでもビールを頼んでいた。
酔いながら話が出来るのだろうか?
注文が終ると光太先輩が説明を始めた。
「まずこの方は志水建設地元支社の社長木元和哉さん」
流石に度肝を抜かされた。
社長自ら俺達を引き留めに来た?
この数日間本社の社長や会長と相談していたらしい。
そして結論として木元社長が直接会って話をする事になったそうだ。
「まず君達の意見を聞きたい。山本組から何を言われたんだい?」
居酒屋を選んだのはざっくばらんに話をしたいから。
そんなに重い話ではなさそうだ。
まあ、高校生にとって居酒屋がリラックスできる場所なのかは別問題だけど。
俺は山本組の人事担当から聞いた話を全部話した。
木元社長は終始笑顔で聞いていた。
ビールを飲んで気分がいいのだろうか?
しかし折角採用を決めた人間を引き抜かれようとしているのにこうも平静でいられるのだろうか?
話を終えると木元社長が言った。
「まず仕事の内容についてだけど。そちらのお嬢さんは総務課だから内勤だ。普通の事務作業だから心配する必要はない。先輩が教えてくれるよ」
「はい」
三智が返事する。
「問題は賀沢君だけど、実際に仕事をしている光太が説明した方が早いだろう」
木元社長が言うと光太先輩が説明した。
俺達がする仕事は工程管理と現場管理。
働いて最初の頃は雑用が主になる。
しかしいずれは小さな現場から任せられるようになる。
そうすると工程管理と予算の調整がメインになってくる。
品質管理と納期の厳守は当然だ。
ただ、残業をすればいいという物でもない。
残業をすれば当然残業手当と言う人件費が加算される。
残業しないと納期を守れないと言うのは、そもそも最初の交渉でミスをしているか、スケジュールの調整をしくじったかのどちらかだ。
それは自分たちに課せられた仕事をきちんとこなせていない証拠。職務怠慢だという。
志水建設の人間は与えられた仕事を忠実にこなすだけでなく更に利益を出す人材を求めている。
最初から残業に頼るようなずぼらな人間は必要ないと言う。
説明を聞いて納得した。
期限の厳守、さらに高品質の物を作り出すように管理する。
それが出来ない下請けは必要ないと切り捨てる権利を与えられる。
そんなプロフェッショナルの人間が集まっているのが志水建設だと光太先輩は言う。
「仕事の内容はそんなとこかな。理解できた?」
「はい」
「じゃあ、俺ビールおかわりします」
「あまり飲み過ぎて麗華さんに叱られるなよ」
次に給与等の待遇面について木元社長から話があった。
「まず、君達は思い違いをしている」
最初にそう切り出した。
俺達は始めて社会に出る。
右も左も分からない新人だ。
当然仕事が出来るはずがない。
教育する必要がある。
それも慣れるのにかなりの時間を要する。
その間会社は何の利益にもならない俺達に給料を支払わなければならない。
ざっくり言うとただの赤字のもとだ。
光太先輩だって最初はそうだった。
給料を稼ぐのならそれに見合った利益を会社が得なければならない。
利益が出て初めて社員に還元される。
俺達の初任給は先輩たちが出した利益で支払われているという事を忘れてはいけない。
その上で妥当な初任給を決めている。
その後の昇給は俺達の働き方一つで変わる。
山本組は高額の初任給を払うとは言っているが研修期間等の話は一切していない。
そういう場合恐らく研修期間の給料が低くて且つ長いだろうと説明してくれた。
でもそんなことは関係ない。
俺達を採用する理由、役に立てない俺達に給料を支払う理由。
それは将来に対する先行投資だと木元社長は言った。
将来きっと成長して会社に貢献してくれるだろう。
会社にとって有望な人材になるだろう。
そんな期待を込めて先行投資をするのだという。
本当に有能な人材を求めるなら経験者を雇う。
大学生ですら雇うメリットはない。
それでも雇うのはそれでは会社の成長が止まってしまう。
いずれ来る世代交代に対応できなくなってしまう。
今の俺達に何の期待もしていない。
ただ、俺たちの将来に望みをかけている。
この数日間上役と相談していたのはそういう事だ。
箸にも棒にもかからない輩に高額の給料を払うことは無い。
ただ、成績優秀で要領がいいだけのテンプレのような人間なら代わりはいくらでもいる。
山本組に行きたいなら勝手に行かせればいい。
そういう結論が出ていたそうだ。
それを止めたのが酒井グループ会長の酒井善幸と木元和哉、そして光太先輩の父親である亀梨興毅副社長だった。
まだ何も知らない子供だからちゃんと説明してやりたい。
折角の将来を棒に振るような真似は先導するべき大人のやる事じゃない。
だから俺が実際に会って話をしてみます。
そして支社長自らが面談に来た。
万能型のテンプレのような人材はごまんといる。
問題はそこからだ。
会社に新しい風を巻き起こしてくれるようなプラスアルファのある人間を求めている。
そして会社は俺達に期待してくれている。
だけど目先の利益に捕らわれて内定を破棄するのなら止めはしない。
しかしもう一度じっくり考えなさい。
ただ、給料をもらうだけのお役所仕事のような仕事を望むのか?
会社に利益をもたらす有能な人材となり、新しい物を産み出す力を求めるのか。
俺と三智は黙って聞いていた。
俺達の考え方は間違っていたんだ。
「すいませんでした」
「構わないよ。若い頃は皆そうだ。光太だって最初は苦労したんだから」
若い将来有望な人材を守る為ならどんな手段も厭わない。
それが志水建設だと最後に説明してくれた。
話と食事が終ると俺達は帰る事にした。
2人は折角だからもう一軒寄るという。
タクシー代を払ってくれた。
「じゃあ、皆とよく相談してね」
そう言って木元社長は光太先輩と繁華街に向かった。
「隆康……もう決まってるよね?」
「皆を説得しないとな」
休み明けに皆と話をして山本組の話を断ることにした。
策者の中では「リストが減るからこの際皆山本組に飛ばしてしまえ」という案もあったそうだ。
俺達の将来は首の皮一枚でつながった。
全て木元社長のお蔭だった。
しかし山本組はさらに動きを過激化させる。
それが自分たちに災いとなって返ってくることを知らずに……
(2)
ある休日、一人で家に居た所、山本グループの人が訪ねてきた。
そして、その人は名刺を渡し、私はこういう者ですと言う。
休日にお邪魔してすいませんが、あまり時間取らせませんから、少し話聞いて下さい。
その前に、確認させて頂きたいのですが、進路先は志水建設さんでしょうか。
こんな事は非常に申し上げにくいのですが、志水建設さんは、色々問題ある企業と聞いています。
残業は許さず、しかしノルマは達成しろ。これは、そこで働いている従業員にすれば、相当厳しいと言わざるを得ません。
なんでも志水建設の社長の娘さんの気分次第で、リストラにしたり、地元の企業を倒産に追い込んだりとか、その極悪非道振りは目に余るものがあり、そこで私ども山本組は、従業員の方々には、皆んなで明るく和気藹々と仕事をして頂きたいと思い、この度当社へとご案内させていただきました。
福利厚生もしっかりしてますし、また給料に関しましても、志水建設さんの倍以上に支給させて頂きたいと考えています。
進路は一生の事なので、どうか後悔されないように、今一度ゆっくり検討して頂いて、後日より良い回答を頂ける事を願い、また来年4月からの入社を心よりお待ちしております。
本日は話を聞いて頂きましてありがとうございました。
休日の所お邪魔しましてすいませんが、本日はこれで失礼させて頂きます。と話をして、帰って行った。
何かよく分からないが、最近は山本グループからの引き抜きが活発になっているらしい。
何かあったら、連絡してほしいとSHのリーダーからは言われているので、その人が来た時から、会話を録音しといたので、その事も含めて山本グループからの引き抜きの話があった事をリーダーに知らせた。
そのあとは、変わった事は特になく、平穏無事に一日が過ぎっていった。
と、言う話を木元支社長と光太君、さらには晶ちゃんのお父さんから話を聞いていた。
引き抜きの話は以前からあった。
その事は木元支社長から報告を受けていた。
放っておけ。そんな話に乗るような雑魚に用はない。
それが志水グループの意向だった。
しかし木元支社長の尽力で若い子供の将来は守られた。
しかし同じような事が3度も続けば我慢の限界という物がある、
晶ちゃんが3回も我慢したことが奇跡のようなものだ、
しかしその怒りはついに爆発した。
地元で怒らせてはいけない人物を一度に何人も怒らせてしまった。
子供の喧嘩で済ませていれば身元不明者が中東でインターネットで銃を突きつけられている姿が流れるだけの話だったのに余程身の破滅を望んでいるようだ。
晶ちゃんと石原恵美さんと楠木春奈さんアポも無しに山本グループに乗り込む。
「面白そうだから私も加わる」
これから起こる災いを「面白そう」の一言で済ませてしまう春奈さん。
そして受付に晶ちゃんが怒鳴り込む。
「今すぐこの会社の責任者を呼び出しなさい!」
「お客様アポイントメントは?」
「そんなもの必要ない。山本グループを解体させたくないなら今すぐ責任者を呼び出しなさい!」
「めんどくさいわ、晶。物理的に解体した方が早い」
「ああ、それもそうね。このビルを廃ビルにしたくないなら今すぐ会わせなさい!」
多分恵美さんは文字通り破壊するつもりだろう。
「お客様失礼ですがお名前は?」
「酒井晶よ。さっさと急ぎなさい。私待たせられるのが嫌いなの!私がここまで出向くのも面倒なのに、これ以上私の機嫌を損ないたくないなら急ぎなさい!」
既に晶ちゃんの怒りは限界突破しているようだけど。
多分晶ちゃんの言ってることは脅しじゃない。
多分交渉する気すらないだろう。
「喧嘩して欲しいなら買ってやる!今すぐこのグループを破産申し立てさせてやる」
そんなところだろう。
読者はきっと忘れてる。
一番喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売ってしまった。
子供のいざこざで済ませておけばよかったのにとうとう文字通り逆鱗に触れてしまった。
受付は電話でやりとりをしている。
表情が引きつっていた。
「7階に社長室がございますのでそちらに向かってください」
「社長如き雑魚で私達の相手は十分だと言いたいわけ!?」
「随分と舐めた真似してくれるじゃない」
「……面倒だからもう潰そうよ」
山本グループは4大企業ほどではないが万単位の人間がかかわっている企業だ。
今年の失業率も跳ね上がることが大体決まったようだ。
「山本が今急いで戻ってきていますので少々お待ちください」
「これ以上待たせるって言うならあなたの首も覚悟しておくのね」
「晶先輩。どうせこの会社倒産するのだから関係ないよ」
すました顔で物騒な事を言っている春奈さん。
「と、とりあえず社長と話をしてみたらどうだい?」
「……善君がそういうならそうするわ」
そうして僕達は社長室で社長と面会していた。
そして僕の予想通りそれは脅しではなかった。
山本グループに関わる全ての企業を大小関係なく潰す。
ヘッドハンティングなんてせこい真似はしない。文字通りその企業を乗っ取ってやっる。
大した案件ではない公共事業も全部志水グループで独占してやる。
山本グループが買い取ってる株を破格で買い占めてやる。
今後山本グループの系列への融資等は凍結して貸しはがしをしてやる、
今後山本グループからの受注案件は全てキャンセルしてやる。
そんな事をすればこっちにも多大なダメージを背負うと思うだろうけどそんなことは無かった。
どのグループも世界を相手にしている企業。
地元だけで収まっている山本グループを潰すことなど造作でもないことだった、
そしてその事を理解している相手社長はひたすら頭を下げていた。
すぐに山本組の人事部長も呼び出されて人事担当と一緒に来て説明をしている。
しかし会長が30分も晶ちゃん達を待たせたことが致命的だった。
恵美さんは早速江口銀行に話をして行動に移していた。
春奈さんも旦那の晴斗に電話して株の買い占めを始めている。
会長はひたすら土下座していた。
「今回の事件は確かに私にも責任がありますが元々は人事部長の独断によるもので」
トカゲの尻尾切りという無駄な足掻きをする会長。
当然の様に晶ちゃん達の怒りの炎を煽るだけだった。
自体は当然深刻化する。
挙句森重県知事が来て頭を下げていた。
一大企業が破産したら地元経済もただでは済まない。
何とか穏便に済ませて欲しいと嘆願する。
「人事部長じゃ物足りない!せめて社長に責任とらせなさい!」
そして社長の解任と言う形で事態は収束した。
なおこの騒動で山本グループが背負った負債は何百億にもなる。
普通の企業なら不渡りレベルだよ。
さらに悲劇が待っていた。
人事部長の存在が消えた。
一家ごといなくなった。
恐らく友愛されてのだろう。
これ以上晶ちゃんを刺激するのは止めて欲しいと心から願うよ。
僕や石原君じゃとめられないよ。
「すいません、私こういう者ですが……」
突然俺達の目の前に現れたのは山本組の人事課と名乗った。
「立ち話もなんですから……」
そう言ってファミレスでご馳走になった。
話は簡単な物だった。
俺達が内定を決めた志水建設は残業は例外を除いて一切許されない。
そして納期を忠実に守って品質も一定水準を保つ。
聞こえは良いけど残業を許さないという事は残業手当は出さないという事。
つまりはサビ残を要求される。
出来ないなら基本給を下げる。
残業手当は基本給の何割増しと定められている。
赤字が出るなら人件費を削る非道な会社だという。
一方山本組は給料は志水建設の倍は出す。
残業手当もしっかり出す。
君達にはそれだけの価値があると当社は見てる。
そう人事担当は言う。
給料が倍。
福利厚生もしっかりある。
退職金制度もしっかり整ってる。
喜んでいる者もいた。
しかし俺は慎重に考えた。
そんな甘い話あるわけがない。
必ず裏に何かある。
そんな予感がする。
彼女の高柳三智も同じ考えのようだ。
俺達は相談して暫く考えさせてくれと人事担当に言った。
「いい返事を期待しています」
そう言って人事担当は帰って言った。
その晩のうちにSHに相談していた。
SHには大区工業高校のOBの亀梨光太がいる。
志水建設の実態を知りたい。
そう言っていた。
「少し時間をくれ」
そんな返事が帰ってきた。
そして週末に「学校が終わったら駅前に来てくれ」と連絡があった。
皆を代表して俺と三智が会う事になった。
約束の時間になると駅前で光太先輩と知らない大人が一緒に来た。
「君達2人だけ?」
大人の人が俺達を見てそう言った。
全員で来るのは迷惑だろうから代表で来たと伝えると納得したようだ。
「ついてきなさい。話は夕飯でも食べながらしよう」
大人の人がそう言った。
俺と三智は2人についていく。
大衆居酒屋に着いた。
大人の人がメニューを俺達に渡す。
「好きな物を頼みなさい。ただしお酒はダメだよ。高校生に飲酒させたら立場上まずいんだ」
大人の人がそう言って笑う。
居酒屋の料理は小物が多い。
初めてくる俺達は色々頼んでいた。
光太先輩たちは高校生といると分かっているのかそれでもビールを頼んでいた。
酔いながら話が出来るのだろうか?
注文が終ると光太先輩が説明を始めた。
「まずこの方は志水建設地元支社の社長木元和哉さん」
流石に度肝を抜かされた。
社長自ら俺達を引き留めに来た?
この数日間本社の社長や会長と相談していたらしい。
そして結論として木元社長が直接会って話をする事になったそうだ。
「まず君達の意見を聞きたい。山本組から何を言われたんだい?」
居酒屋を選んだのはざっくばらんに話をしたいから。
そんなに重い話ではなさそうだ。
まあ、高校生にとって居酒屋がリラックスできる場所なのかは別問題だけど。
俺は山本組の人事担当から聞いた話を全部話した。
木元社長は終始笑顔で聞いていた。
ビールを飲んで気分がいいのだろうか?
しかし折角採用を決めた人間を引き抜かれようとしているのにこうも平静でいられるのだろうか?
話を終えると木元社長が言った。
「まず仕事の内容についてだけど。そちらのお嬢さんは総務課だから内勤だ。普通の事務作業だから心配する必要はない。先輩が教えてくれるよ」
「はい」
三智が返事する。
「問題は賀沢君だけど、実際に仕事をしている光太が説明した方が早いだろう」
木元社長が言うと光太先輩が説明した。
俺達がする仕事は工程管理と現場管理。
働いて最初の頃は雑用が主になる。
しかしいずれは小さな現場から任せられるようになる。
そうすると工程管理と予算の調整がメインになってくる。
品質管理と納期の厳守は当然だ。
ただ、残業をすればいいという物でもない。
残業をすれば当然残業手当と言う人件費が加算される。
残業しないと納期を守れないと言うのは、そもそも最初の交渉でミスをしているか、スケジュールの調整をしくじったかのどちらかだ。
それは自分たちに課せられた仕事をきちんとこなせていない証拠。職務怠慢だという。
志水建設の人間は与えられた仕事を忠実にこなすだけでなく更に利益を出す人材を求めている。
最初から残業に頼るようなずぼらな人間は必要ないと言う。
説明を聞いて納得した。
期限の厳守、さらに高品質の物を作り出すように管理する。
それが出来ない下請けは必要ないと切り捨てる権利を与えられる。
そんなプロフェッショナルの人間が集まっているのが志水建設だと光太先輩は言う。
「仕事の内容はそんなとこかな。理解できた?」
「はい」
「じゃあ、俺ビールおかわりします」
「あまり飲み過ぎて麗華さんに叱られるなよ」
次に給与等の待遇面について木元社長から話があった。
「まず、君達は思い違いをしている」
最初にそう切り出した。
俺達は始めて社会に出る。
右も左も分からない新人だ。
当然仕事が出来るはずがない。
教育する必要がある。
それも慣れるのにかなりの時間を要する。
その間会社は何の利益にもならない俺達に給料を支払わなければならない。
ざっくり言うとただの赤字のもとだ。
光太先輩だって最初はそうだった。
給料を稼ぐのならそれに見合った利益を会社が得なければならない。
利益が出て初めて社員に還元される。
俺達の初任給は先輩たちが出した利益で支払われているという事を忘れてはいけない。
その上で妥当な初任給を決めている。
その後の昇給は俺達の働き方一つで変わる。
山本組は高額の初任給を払うとは言っているが研修期間等の話は一切していない。
そういう場合恐らく研修期間の給料が低くて且つ長いだろうと説明してくれた。
でもそんなことは関係ない。
俺達を採用する理由、役に立てない俺達に給料を支払う理由。
それは将来に対する先行投資だと木元社長は言った。
将来きっと成長して会社に貢献してくれるだろう。
会社にとって有望な人材になるだろう。
そんな期待を込めて先行投資をするのだという。
本当に有能な人材を求めるなら経験者を雇う。
大学生ですら雇うメリットはない。
それでも雇うのはそれでは会社の成長が止まってしまう。
いずれ来る世代交代に対応できなくなってしまう。
今の俺達に何の期待もしていない。
ただ、俺たちの将来に望みをかけている。
この数日間上役と相談していたのはそういう事だ。
箸にも棒にもかからない輩に高額の給料を払うことは無い。
ただ、成績優秀で要領がいいだけのテンプレのような人間なら代わりはいくらでもいる。
山本組に行きたいなら勝手に行かせればいい。
そういう結論が出ていたそうだ。
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まだ何も知らない子供だからちゃんと説明してやりたい。
折角の将来を棒に振るような真似は先導するべき大人のやる事じゃない。
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しかしもう一度じっくり考えなさい。
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「すいませんでした」
「構わないよ。若い頃は皆そうだ。光太だって最初は苦労したんだから」
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「じゃあ、皆とよく相談してね」
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なんでも志水建設の社長の娘さんの気分次第で、リストラにしたり、地元の企業を倒産に追い込んだりとか、その極悪非道振りは目に余るものがあり、そこで私ども山本組は、従業員の方々には、皆んなで明るく和気藹々と仕事をして頂きたいと思い、この度当社へとご案内させていただきました。
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本日は話を聞いて頂きましてありがとうございました。
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何かよく分からないが、最近は山本グループからの引き抜きが活発になっているらしい。
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多分晶ちゃんの言ってることは脅しじゃない。
多分交渉する気すらないだろう。
「喧嘩して欲しいなら買ってやる!今すぐこのグループを破産申し立てさせてやる」
そんなところだろう。
読者はきっと忘れてる。
一番喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売ってしまった。
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受付は電話でやりとりをしている。
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「随分と舐めた真似してくれるじゃない」
「……面倒だからもう潰そうよ」
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今年の失業率も跳ね上がることが大体決まったようだ。
「山本が今急いで戻ってきていますので少々お待ちください」
「これ以上待たせるって言うならあなたの首も覚悟しておくのね」
「晶先輩。どうせこの会社倒産するのだから関係ないよ」
すました顔で物騒な事を言っている春奈さん。
「と、とりあえず社長と話をしてみたらどうだい?」
「……善君がそういうならそうするわ」
そうして僕達は社長室で社長と面会していた。
そして僕の予想通りそれは脅しではなかった。
山本グループに関わる全ての企業を大小関係なく潰す。
ヘッドハンティングなんてせこい真似はしない。文字通りその企業を乗っ取ってやっる。
大した案件ではない公共事業も全部志水グループで独占してやる。
山本グループが買い取ってる株を破格で買い占めてやる。
今後山本グループの系列への融資等は凍結して貸しはがしをしてやる、
今後山本グループからの受注案件は全てキャンセルしてやる。
そんな事をすればこっちにも多大なダメージを背負うと思うだろうけどそんなことは無かった。
どのグループも世界を相手にしている企業。
地元だけで収まっている山本グループを潰すことなど造作でもないことだった、
そしてその事を理解している相手社長はひたすら頭を下げていた。
すぐに山本組の人事部長も呼び出されて人事担当と一緒に来て説明をしている。
しかし会長が30分も晶ちゃん達を待たせたことが致命的だった。
恵美さんは早速江口銀行に話をして行動に移していた。
春奈さんも旦那の晴斗に電話して株の買い占めを始めている。
会長はひたすら土下座していた。
「今回の事件は確かに私にも責任がありますが元々は人事部長の独断によるもので」
トカゲの尻尾切りという無駄な足掻きをする会長。
当然の様に晶ちゃん達の怒りの炎を煽るだけだった。
自体は当然深刻化する。
挙句森重県知事が来て頭を下げていた。
一大企業が破産したら地元経済もただでは済まない。
何とか穏便に済ませて欲しいと嘆願する。
「人事部長じゃ物足りない!せめて社長に責任とらせなさい!」
そして社長の解任と言う形で事態は収束した。
なおこの騒動で山本グループが背負った負債は何百億にもなる。
普通の企業なら不渡りレベルだよ。
さらに悲劇が待っていた。
人事部長の存在が消えた。
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恐らく友愛されてのだろう。
これ以上晶ちゃんを刺激するのは止めて欲しいと心から願うよ。
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