姉妹チート

和希

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静かな年明け

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(1)

「あけましておめでとう」

 俺がそう言ってジョッキを掲げると、新年会が始まった。
 空達は今日は流石に自重した。
 空の祖母が亡くなった時、空は何も言えない状態だったそうだ。
 あんなに気丈な翼でさえ涙したという。
 俺達SH中心的人物の片桐家がいないのと、その理由からせっかくの宴も静まり返ってしまう。
 それでも空達に気を使わせないために新年会をした。

「ああ、学。お疲れさん」
「善明、おめでとう」

 酒井善明がやって来た。
 
「皆に気を使わせるから善明だけでも行ってきてよ」

 翼からそう言われて参加したそうだ。
 同様の理由で石原美希も参加していた。
 会場の手配という役割もあるから。
 その翼からも天音が沈んでいると聞いている。
 それでも懸命に大地が支えてるらしい。

「僕達に出来る事はないのでしょうか?」

 善明が言う。
 さすがに俺にもそんな案が浮かばなかった。

「そんなしけた面してたってしょうがねえだろ!盛り上がろうぜ!その方が天音達もきっと喜ぶ」

 弟の遊が言う。
 
「遊の言う通りだよ。派手にやろうぜ」

 妻の水奈がそう言う。
 あ、水奈に言うのを忘れてた。

「水奈、明日はバイト休み取ったか?」
「あ、ああ。学が言うから取った。なんか理由があるのか?」

 水奈が言うと俺は水奈の頭を撫でた。

「去年も大変だったからな。たまには妻を労わってやろうと思ってな」
「なんかあるのか?」

 俺の代わりに美希が答えた。

「ホテルの部屋人数分取ってる。今夜は徹夜で騒ごうって学が提案したの」
「ってことは……」

 水奈は嬉しそうにしている。
 俺はにやりと笑って答えた。

「今日は最後まで付き合ってもらうからな」
「任せとけ!おい、遊!酒持ってこい!」
「おっけー!!」

 俺達に出来る事はこれくらいだ。
 もっともなずなは遊に注意してるが。

「遊もわかってるでしょうね。遊にもしもの事があったら私耐えられない」
「わ、わかってるよ。なずなを泣かせるような真似しねーよ」
「の、割には派手にやってるじゃねーか」

 酒井祈が来た。
 あの晩空が反撃の指示を出すと俺達は徹底的に攻勢に出た。
 週末や休みの日に集まって九頭竜會の縄張りに殴り込みをかける。
 九州全土を掌握している相手に頭数が足りない。
 戦闘できないSHのメンバーもいる。
 だから善明や美希の家の兵隊を借りる事にした。
 拠点は片桐茜が全て掌握している。
 僻地で一般人がいないような場所はUAVで焦土に変えた。
 天音の言葉通りに「九州を地獄」に塗り替えていた。
 しかしまだ九頭竜會の反応はない。
 ただ黙って大人しくしている連中とは思えないが……。
 それにもう一つ問題を抱えている。
 創世神。
 
「イーリスに拘る理由が他にあるんじゃないか?」

 大地の勘がそう言ってるらしい。
 
「景気づけにまとめてぶっ潰してやろうぜ!」

 遊と粋が盛り上がっている。

「善明と美希の家は大丈夫なのか?」
 
 俺が善明に聞いていた。

「……核兵器以外なら何使ってもいいよって言ってるよ」

 善明が苦笑していた。

「相手が四国とか本州なら構わないらしいんだけど」

 美希はむしろ使いたがっているようだ。
 善明も流石に何も言わずにただ笑っていた。
 ちなみに事件はすべて「ガスボンベの爆発」「タバコの消し忘れによる出火」で収まっているらしい。
 物騒な話は無しにして来年の計画も考えなければならない。
 創世神と九頭竜會の件は片付いてるはずだから平和な日常にもどるはず。
 FGの動きはわからないが、山本紗奈からの情報だと大したことは出来ないはずなんだそうだ。
 山本喜一も、その弟勝次も恋人が出来た。
 喜一に至っては既に結婚しているらしい。
 それを聞いた遊達は爆笑していた。
 恋人とどうやってキスをしたらいいか分からない。
 そんな勝次の悩みを聞いていたら天音ですら爆笑したらしい。
 もうさすがにSHに逆らうグループなどいない。
 皆が慢心していた。
 眠くなると水奈を連れて部屋に行く。
 
「たまには妻に甘えさせてくれ」
「……ったくしょうがねえなあ」

 そう言って水奈は笑う。
 色々試したのだが、結局この手が一番手っ取り早いらしい。

「本当はそんな気ないんだろう?」

 ベッドに寝ると水奈が言う。

「……水奈は嫌か?」
「嘘でもそう言ってくれる学が好きなんだ。私は嬉しい」

 そう言って水奈は抱き着いてくる。
 遊と粋はホールでごろ寝していてなずなと花に怒られたらしい。

(2)

「乾杯」

 俺が音頭をとると皆盛り上がり始めた。
 如月リゾートフォレストを貸し切っての、例年通りの新年会。
 本当は年越しパーティのはずなのだが、片桐家の法事が重なってずれてしまった。
 渡辺班の皆が片桐家の事を心配している。
 意外なのは冬夜の母親を担当した西松深雪もかなり落ち込んでいるらしい。
 どんなに優れた技術を持っていても、恩人の母親を救えなかった。
 さすがに今の状態で仕事をさせるのは危ないと思った啓介が休ませているらしいと今聞いた。

「あの深雪があんな風になるなんて思いもしませんでした」

 啓介が言っている。

「しょうがないよ。私ですらいまだに引きずってるしさ……」

 看護師の桐谷亜依さんが言っている。
 亜依さんは今までにも何人もの患者が亡くなるのを見て来たのでまだましらしい。
 だけど深雪さんは今まで死なせた患者がいない神の手と呼ばれた名医だ。
 その最初の患者が冬夜の母親だった。
 渡辺班に所属してる者は少なからず冬夜の助力があって今がある。

「愛莉さんはどうなんだ?」
「ああ、愛莉もかなり落ち込んでるらしい」

 俺が聞くと多田神奈さんが答えてくれた。
 確かに皆で弔問に行った時も、愛莉さんは元気が無かった。
 
「発見が早かったら年齢的にはまだ助かったかもしれない」

 その一言を深雪先生は敢えて封印したらしい。
 自分への言い訳と考えたのもあるが、愛莉さんを責める事になる。
 それでも愛莉さんは自分なりに調べて後悔しているのだろう。
 もっと早い時期に無理にでも病院に行かせるべきだった。
 その兆候を誰よりも早く気づいていたのは子供の冬吾らしい。

「今はオフだから助かりましたよ。今の冬吾を試合に出すなんて無理だ」

 多田誠が言う。
 誠の子供の誠司や友達の瞳子も様子見をしているが、やはり片桐家全体が沈んでいるらしい。

「正志、そんなにショックなのか?」

 妻の美嘉が言う。
 美嘉の親は事情があって疎遠になっている。
 とっくに離婚したらしい。
 美嘉には分からないのかもしれない。

「うちの息子からも色々聞いてるんだけど、あんなに元気だった天音ちゃんですら立ち直れないみたいだから」

 石原大地の母親の石原恵美が言う。
 天音は大地の妻だ。
 
「こんなときこそ夫のあなたが支えてやりなさい!」

 大地にそう言ったらしい。
 そして大地は今頑張って天音を助けているそうだ。
 そんな間の悪い時期に子供達のグループSHに手出しをした愚か者がいたそうだ。
 空がキレるとどうにもならないらしい。
 文字通り逆鱗に触れた。
 だからこそ、大地に力を貸したそうだ。

「天音ちゃんに何かがあってからでは遅いから、兵隊を使いなさい!」

 場所によっては爆撃も許可する。
 母親の決断とは思えないが、事実連日のように爆破事件が九州全土で起きている。

「いっそのことこれで無謀な輩を一掃出来ればいいんですけどねえ」

 酒井善幸がいう。

「そういえば善幸もいよいよ志水家の総帥になるそうだな」
「ええ、まあ。これからますます大変ですよ」

 善幸がそう言って笑っていた。
 善幸も大変だがそれ以上にこれまで以上に妻の晶さんを気づかってやらないといけない。
 今でも物理的に地元を破壊している江口家と志水家。
 これ以上晶さんを刺激すると、間違いなく地元経済を破壊するだろう。
 江口家の総裁・石原望といい、随分な重荷を背負った物だ。
 これから孫が出来たら2人は胃の痛い日々を過ごすだろう。
 
「私達は少なからず片桐君に恩がある。片桐家のためなら尽力するつもりよ」

 恵美さんが言うと、皆が頷く。

「そうだな。冬夜あっての渡辺班だ」

 しかし本当はそんな日が来ないことを願っていた。
 だが、そんな願いも虚しいものになるのだった。
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