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懐かしい風景
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(1)
「じゃ、かんぱ~い」
私と紗奈と加奈子は、紗奈の部屋で話をしていた。
紗奈と加奈子は私ときーちゃんの事が気になるらしい。
きーちゃんに嫁入りした私が信じられないらしい。
だから私は2人に聞いてみた。
「きーちゃんって地元で何したの?」
すると2人はきーちゃんの過去について話始めた。
小学校時代からやりたい放題だったらしい。
不良グループ”フォーリンググレイス”を結成したが、”セイクリッドハート”には全く敵わなかった。
それどころかSHの中心人物片桐天音によって何度も命を落としかけたらしい。
それでもFGを地元最大の不良集団にした。
SHには絶対に手を出せないらしいが。
今もその闘争は続く。
きーちゃんが東京に出る際に弟の勝次にバトンタッチしたらしい。
そして今に至る。
「……てなわけ」
「ふーん」
私の知ってるきーちゃんとは全く知らないきーちゃんがいた。
「喜一は東京で何やってるの?」
きーちゃんの妹の紗奈が聞いてきた。
「普通の学生だよ?」
相変わらず不良が集まって”インパルス”というグループをまとめてるらしいけど。
その活動についてはあまりきーちゃんから聞かない。
あまり関わってもいないみたいだし。
それは証明できる。
私がオフの時はいつもそばにいてくれるし、いないときも私と時間の合間を見て連絡してくれる。
私がきーちゃんの家にお泊りしたり、きーちゃんが来てくれたり、今は一緒の家に暮らしている。
きーちゃんも一人暮らしで慣れてたのか私がいない間の家事は何でもやってくれていた。
きーちゃん自身もバイトをしている。
暇な時間が出来るとろくでもない事に巻き込まれるから。
もちろん私のスケジュールに合わせてシフトを組んでいる。
社長からは大学卒業したら旅行でも行って来たらいいと言われている。
「喜一の過去を知ってどう思った?」
あまりにギャップが激しいので幻滅したんじゃないか?
紗奈はそう思ったらしい。
「別に何とも思わない」
学生時代はやんちゃしたけど、大人の社会に入って人柄がガラッと変わるなんてことは普通にある。
目上の人などにあって変わらざるを得ないから。
きーちゃんも「都会に出て自分の身の程を知った」と笑っていた。
過去の事なんてどうでも言い。
大切なのは今。
きーちゃんは私を大事にしてくれてる。
最愛のパートナーという事実は変わらないと紗奈達に説明した。
「なるほどね」
紗奈は納得してくれたらしい。
「じゃあ、勝次もそうなるのかな?」
勝次の恋人の加奈子が言った。
「現になってるんじゃないかな?」
私が答える。
「どういう意味?」
加奈子が聞いてきた。
加奈子の話を聞いた感じだと喧嘩や暴走はするけど、加奈子と交際を続けている。
それは少なからず加奈子の事を大切にしているからじゃないのか?
「でも、勝次は私とキスすらしてくれないんだよ。初めてってわけじゃないみたいだけど」
加奈子の悩みらしい。
「それが変わった証拠じゃない」
私は笑って答えた。
大事にしてるから、好意をもっているから、だから戸惑っているんだ。
遊びでキスをするのは楽だ。
でもそこに恋という要素が加わると人は突然臆病になる。
優しさに触れて滲むように弱さを知る。
そんな私と加奈子の話を聞いて、紗奈は笑っていた。
「そんな風に2人を見てくれていたんだね。……不出来な兄だけどよろしくお願いします」
そう言って紗奈は頭を下げる。
私と加奈子も礼をした。
頃合いを見て私達は寝る事にした。
加奈子と紗奈は紗奈のベッドで寝る。
さすがに3人ではきついので私はきーちゃんと寝る事にした。
今さら気にするような仲じゃない。
「紗奈に何か変な事吹き込まれなかったか?」
きーちゃんが聞いてきた。
「話を聞いてますますきーちゃんの事が好きになった」
私の為にきーちゃんが変わってくれたのか?
それとも変わり果てたきーちゃんに私が一目惚れしたのか。
どっちでもいい事だ。
色んな事が重なって今がある。
私は今を大切に生きていく。
(2)
朝になって準備をして出かける事にした。
まずはUSEの事務所に挨拶に行かなければならない。
紗奈も環奈と意気投合したらしくて、勝次と加奈子も含めて6人で観光しようという事になった。
紗奈の彼氏の小泉優が迎えに来た。
小泉は俺と勝次を見て、表情が険しくなる。
無理もない。
小泉はSHのメンバーであると同時に雪華団のメンバーなのだから。
警戒する小泉に紗奈が説明する。
半信半疑の様だが一緒に行動することに同意した。
まずはUSEの事務所に挨拶に行く。
専務の石原恵美は笑顔で俺達を迎えてくれた。
「新婚生活はどう?」
「順調です」
「夜はどうしてるの?」
「……きーちゃんはとても優しいんです」
環奈は少し照れながら言った。
俺がどれだけ経験人数があるとかそういう話は無かった。
環奈も気にしてないようだ。
だだ、相手が俺で良かった。
そんな風に話していた。
「くれぐれも事故のないようにね」
専務は笑ってそう言った。
社長椅子に座っていた石原望は苦笑していた。
事務所を出るとどこに行きたい?と環奈に聞いてみた。
「きーちゃんのお勧めの場所教えてよ」
「環奈、地元でデートなら絶対外せない場所がある!」
加奈子がそう言った。
勝次でもそれがどこか分かったらしい。
すぐに高速のインターに向かう。
俺は後部座席でスマホを弄っていた。
「何してるん?」
環奈が俺のスマホの画面をのぞき込む。
「環奈、一つだけ謝っておく」
「どうしたん?」
「夜景は諦めてくれないか?」
「どうして?」
「今夜は旅館に泊まろうと思って」
ちゃんと家族風呂も予約したと伝える。
露天風呂と聞いた環奈は喜んでいた。
昼前くらいに俺達は湯布院に来ていた。
いつきてもここは混雑している。
女性陣3人ははしゃぎまわっていた。
「猫が可愛いんだよ」
「犬もいいよ!」
「お洒落なオルゴール屋さんがあるの」
紗奈と加奈子は環奈に色々説明していた。
そんな3人に付き合っていると、小泉が俺に話しかけてきた。
「東京での事件は聞いてる」
きっと環奈がSHを抜けた時の事件だろう。
「笑いたければ笑っていいんだぞ」
巨大な不良集団の頭は、今は自分の妻の面倒を見る事で必死なしょうもないやつだ。
勝次も同じだ。
今は加奈子に引っ張りまわされて困り果ててる。
「今のお前を笑うような奴はSHにはいねーよ」
小泉はそう言った。
「あ、そうだ兄貴。夜景の件は俺に任せてくれないか?」
勝次が言った。
どうするんだ?
「2人が旅館で飯食って風呂行ってる間ファミレスで時間潰してるから」
展望台まで案内してくれるらしい。
「すまんな」
「そう滅多に来れないんだから気にするな」
夕暮れ時になると勝次は時間を潰しに、紗奈と小泉は家に帰る。
俺はタクシーを手配して、予約しておいた旅館に向かった。
部屋に案内されると荷物を置いてとりあえず寛ぐ。
夕食前に風呂を予約しておいた。
後は明日の朝に予約しておいた。
「露天風呂楽しみだな~」
さすがに寒いけどその景色は田舎そのものだ。
この辺だと流石に雪が積もる時がある。
夜空も綺麗だ。
風呂は広いのに環奈は俺にくっついていた。
「今更やん」
風呂を出ると夕食を食べる。
冷えた竹の筒に入った酒を飲む。
環奈の頬が少し赤らめていた。
「あんまり飲み過ぎるなよ」
夜景見に行くんだから。
「うん!」
夕食を済ませるととりあえず浴衣では寒すぎるので着替えて勝次を呼んだ。
勝次の車でここに来る事が出来るのか不安だったが大丈夫だったみたいだ。
「バンパー擦っちまったよ」
そう言って勝次は笑っていた。
それから車で30分くらい走ると展望台に着く。
高速よりもさらに高い位置から別府や製鉄所の明かりが見える。
国道を流れる車をヘッドライトも綺麗だ。
環奈は俺と腕にしがみついて夜景を見ていた。
「2人とも写真撮っておくか?」
勝次が言うので、俺と環奈はスマホを渡す。
2人分写真を撮っておいた。
夜景を楽しむと旅館に戻る。
「明日どうする?迎えに来ようか?」
「環奈荷物は全部持ってきてるのか?」
勝次が聞いてくると、俺は環奈に聞いてみた。
「うん、持って来とるよ」
それならもう少しだけ地元を見てもらうか。
「電車で地元に帰ってそのまま空港に行くからいいよ」
「わかった」
勝次はそう言って俺と環奈を旅館に送って帰っていった。
部屋にもどると浴衣に着替えてテレビを見ていた。
「ねえ、私も浴衣に着替えたよ?」
「それがどうかしたのか?」
俺が聞くと環奈は少し笑っていた。
「帯を解いてくるくる回るやつしたくない?」
本当に開放感に包まれているんだな。
「そういう趣味はないよ」
「まあ、どうせ裸で寝るしいっか」
環奈もこの半年くらいで随分変わった。
時間になると環奈と布団に入る。
環奈は抱き着いてきた。
「きーちゃん、ありがとうね」
「どうしたんだ。いきなり」
「こんな私になれたのは間違いなくきーちゃんのお蔭だよ」
「……そうか」
俺はにこりと笑って環奈を抱き寄せ夜を過ごした。
(3)
朝になると風呂に入って朝食を食べる。
朝食が終ると荷物をまとめて宿を出る。
タクシーに乗って駅に行って時間を見る。
ちょうどいい時間のがあった。
普通の特急よりちょっと高級感のあるやつ。
窓に映る景色は延々と田舎の風景だけど。
そんな何の変哲もない景色をじっと見ている環奈。
地元に戻ると荷物をロッカーに預けて、街を散策した。
「え、ここが中心地なん?」
「そうなんだ。田舎だろ?」
驚く環奈を笑って見ていた。
それから街ブラデートをして昼食を食べて、高速バスの時間まで時間を潰す。
その間環奈は色々写真を撮っていた。
そんなに撮るものなんてないと思ったんだけど。
まさかこんな田舎に人気女優がいるなんて思いもよらないだろう。
しかも旦那を連れてはしゃぎまわっているなんて誰も想像しないだろう。
高速バスが出る時間になるとバスターミナルに着く。
高速バスに乗って空港に行って手続きを済ませる。
「楽しかったね。また来ようね」
環奈は満足したようだ。
「今度は環奈の故郷を案内してくれないか?」
俺が言うと、環奈は気づいたようだ。
「そういや親に挨拶しただけだったね」
でも、そんなに案内するところないよ。
環奈はそう言う。
だけどそんなの関係ないだろ?
「環奈と観る事に意味があるんじゃないのか?」
俺が言うと環奈は嬉しそうだった。
飛行機が離陸する頃、流石に環奈も疲れたのだろう。
俺の方にもたれかけて眠っていた。
その間に俺はスマホでニュースをチェックする。
全国版でも載るほどの抗争に発展していたらしい。
九州の各地での爆発、火災。
大規模な事故。
相当な数の集団での行方不明事件。
被害者はすべて九頭竜會絡み。
相変わらず派手にやってるようだ。
SHに手を出したら容赦しない。
そう警告しているのだろう。
だけど、俺にはもう関係のない世界だ。
今は目の前にいる一人の妻の幸せのために奔走する日々を送っていた。
「じゃ、かんぱ~い」
私と紗奈と加奈子は、紗奈の部屋で話をしていた。
紗奈と加奈子は私ときーちゃんの事が気になるらしい。
きーちゃんに嫁入りした私が信じられないらしい。
だから私は2人に聞いてみた。
「きーちゃんって地元で何したの?」
すると2人はきーちゃんの過去について話始めた。
小学校時代からやりたい放題だったらしい。
不良グループ”フォーリンググレイス”を結成したが、”セイクリッドハート”には全く敵わなかった。
それどころかSHの中心人物片桐天音によって何度も命を落としかけたらしい。
それでもFGを地元最大の不良集団にした。
SHには絶対に手を出せないらしいが。
今もその闘争は続く。
きーちゃんが東京に出る際に弟の勝次にバトンタッチしたらしい。
そして今に至る。
「……てなわけ」
「ふーん」
私の知ってるきーちゃんとは全く知らないきーちゃんがいた。
「喜一は東京で何やってるの?」
きーちゃんの妹の紗奈が聞いてきた。
「普通の学生だよ?」
相変わらず不良が集まって”インパルス”というグループをまとめてるらしいけど。
その活動についてはあまりきーちゃんから聞かない。
あまり関わってもいないみたいだし。
それは証明できる。
私がオフの時はいつもそばにいてくれるし、いないときも私と時間の合間を見て連絡してくれる。
私がきーちゃんの家にお泊りしたり、きーちゃんが来てくれたり、今は一緒の家に暮らしている。
きーちゃんも一人暮らしで慣れてたのか私がいない間の家事は何でもやってくれていた。
きーちゃん自身もバイトをしている。
暇な時間が出来るとろくでもない事に巻き込まれるから。
もちろん私のスケジュールに合わせてシフトを組んでいる。
社長からは大学卒業したら旅行でも行って来たらいいと言われている。
「喜一の過去を知ってどう思った?」
あまりにギャップが激しいので幻滅したんじゃないか?
紗奈はそう思ったらしい。
「別に何とも思わない」
学生時代はやんちゃしたけど、大人の社会に入って人柄がガラッと変わるなんてことは普通にある。
目上の人などにあって変わらざるを得ないから。
きーちゃんも「都会に出て自分の身の程を知った」と笑っていた。
過去の事なんてどうでも言い。
大切なのは今。
きーちゃんは私を大事にしてくれてる。
最愛のパートナーという事実は変わらないと紗奈達に説明した。
「なるほどね」
紗奈は納得してくれたらしい。
「じゃあ、勝次もそうなるのかな?」
勝次の恋人の加奈子が言った。
「現になってるんじゃないかな?」
私が答える。
「どういう意味?」
加奈子が聞いてきた。
加奈子の話を聞いた感じだと喧嘩や暴走はするけど、加奈子と交際を続けている。
それは少なからず加奈子の事を大切にしているからじゃないのか?
「でも、勝次は私とキスすらしてくれないんだよ。初めてってわけじゃないみたいだけど」
加奈子の悩みらしい。
「それが変わった証拠じゃない」
私は笑って答えた。
大事にしてるから、好意をもっているから、だから戸惑っているんだ。
遊びでキスをするのは楽だ。
でもそこに恋という要素が加わると人は突然臆病になる。
優しさに触れて滲むように弱さを知る。
そんな私と加奈子の話を聞いて、紗奈は笑っていた。
「そんな風に2人を見てくれていたんだね。……不出来な兄だけどよろしくお願いします」
そう言って紗奈は頭を下げる。
私と加奈子も礼をした。
頃合いを見て私達は寝る事にした。
加奈子と紗奈は紗奈のベッドで寝る。
さすがに3人ではきついので私はきーちゃんと寝る事にした。
今さら気にするような仲じゃない。
「紗奈に何か変な事吹き込まれなかったか?」
きーちゃんが聞いてきた。
「話を聞いてますますきーちゃんの事が好きになった」
私の為にきーちゃんが変わってくれたのか?
それとも変わり果てたきーちゃんに私が一目惚れしたのか。
どっちでもいい事だ。
色んな事が重なって今がある。
私は今を大切に生きていく。
(2)
朝になって準備をして出かける事にした。
まずはUSEの事務所に挨拶に行かなければならない。
紗奈も環奈と意気投合したらしくて、勝次と加奈子も含めて6人で観光しようという事になった。
紗奈の彼氏の小泉優が迎えに来た。
小泉は俺と勝次を見て、表情が険しくなる。
無理もない。
小泉はSHのメンバーであると同時に雪華団のメンバーなのだから。
警戒する小泉に紗奈が説明する。
半信半疑の様だが一緒に行動することに同意した。
まずはUSEの事務所に挨拶に行く。
専務の石原恵美は笑顔で俺達を迎えてくれた。
「新婚生活はどう?」
「順調です」
「夜はどうしてるの?」
「……きーちゃんはとても優しいんです」
環奈は少し照れながら言った。
俺がどれだけ経験人数があるとかそういう話は無かった。
環奈も気にしてないようだ。
だだ、相手が俺で良かった。
そんな風に話していた。
「くれぐれも事故のないようにね」
専務は笑ってそう言った。
社長椅子に座っていた石原望は苦笑していた。
事務所を出るとどこに行きたい?と環奈に聞いてみた。
「きーちゃんのお勧めの場所教えてよ」
「環奈、地元でデートなら絶対外せない場所がある!」
加奈子がそう言った。
勝次でもそれがどこか分かったらしい。
すぐに高速のインターに向かう。
俺は後部座席でスマホを弄っていた。
「何してるん?」
環奈が俺のスマホの画面をのぞき込む。
「環奈、一つだけ謝っておく」
「どうしたん?」
「夜景は諦めてくれないか?」
「どうして?」
「今夜は旅館に泊まろうと思って」
ちゃんと家族風呂も予約したと伝える。
露天風呂と聞いた環奈は喜んでいた。
昼前くらいに俺達は湯布院に来ていた。
いつきてもここは混雑している。
女性陣3人ははしゃぎまわっていた。
「猫が可愛いんだよ」
「犬もいいよ!」
「お洒落なオルゴール屋さんがあるの」
紗奈と加奈子は環奈に色々説明していた。
そんな3人に付き合っていると、小泉が俺に話しかけてきた。
「東京での事件は聞いてる」
きっと環奈がSHを抜けた時の事件だろう。
「笑いたければ笑っていいんだぞ」
巨大な不良集団の頭は、今は自分の妻の面倒を見る事で必死なしょうもないやつだ。
勝次も同じだ。
今は加奈子に引っ張りまわされて困り果ててる。
「今のお前を笑うような奴はSHにはいねーよ」
小泉はそう言った。
「あ、そうだ兄貴。夜景の件は俺に任せてくれないか?」
勝次が言った。
どうするんだ?
「2人が旅館で飯食って風呂行ってる間ファミレスで時間潰してるから」
展望台まで案内してくれるらしい。
「すまんな」
「そう滅多に来れないんだから気にするな」
夕暮れ時になると勝次は時間を潰しに、紗奈と小泉は家に帰る。
俺はタクシーを手配して、予約しておいた旅館に向かった。
部屋に案内されると荷物を置いてとりあえず寛ぐ。
夕食前に風呂を予約しておいた。
後は明日の朝に予約しておいた。
「露天風呂楽しみだな~」
さすがに寒いけどその景色は田舎そのものだ。
この辺だと流石に雪が積もる時がある。
夜空も綺麗だ。
風呂は広いのに環奈は俺にくっついていた。
「今更やん」
風呂を出ると夕食を食べる。
冷えた竹の筒に入った酒を飲む。
環奈の頬が少し赤らめていた。
「あんまり飲み過ぎるなよ」
夜景見に行くんだから。
「うん!」
夕食を済ませるととりあえず浴衣では寒すぎるので着替えて勝次を呼んだ。
勝次の車でここに来る事が出来るのか不安だったが大丈夫だったみたいだ。
「バンパー擦っちまったよ」
そう言って勝次は笑っていた。
それから車で30分くらい走ると展望台に着く。
高速よりもさらに高い位置から別府や製鉄所の明かりが見える。
国道を流れる車をヘッドライトも綺麗だ。
環奈は俺と腕にしがみついて夜景を見ていた。
「2人とも写真撮っておくか?」
勝次が言うので、俺と環奈はスマホを渡す。
2人分写真を撮っておいた。
夜景を楽しむと旅館に戻る。
「明日どうする?迎えに来ようか?」
「環奈荷物は全部持ってきてるのか?」
勝次が聞いてくると、俺は環奈に聞いてみた。
「うん、持って来とるよ」
それならもう少しだけ地元を見てもらうか。
「電車で地元に帰ってそのまま空港に行くからいいよ」
「わかった」
勝次はそう言って俺と環奈を旅館に送って帰っていった。
部屋にもどると浴衣に着替えてテレビを見ていた。
「ねえ、私も浴衣に着替えたよ?」
「それがどうかしたのか?」
俺が聞くと環奈は少し笑っていた。
「帯を解いてくるくる回るやつしたくない?」
本当に開放感に包まれているんだな。
「そういう趣味はないよ」
「まあ、どうせ裸で寝るしいっか」
環奈もこの半年くらいで随分変わった。
時間になると環奈と布団に入る。
環奈は抱き着いてきた。
「きーちゃん、ありがとうね」
「どうしたんだ。いきなり」
「こんな私になれたのは間違いなくきーちゃんのお蔭だよ」
「……そうか」
俺はにこりと笑って環奈を抱き寄せ夜を過ごした。
(3)
朝になると風呂に入って朝食を食べる。
朝食が終ると荷物をまとめて宿を出る。
タクシーに乗って駅に行って時間を見る。
ちょうどいい時間のがあった。
普通の特急よりちょっと高級感のあるやつ。
窓に映る景色は延々と田舎の風景だけど。
そんな何の変哲もない景色をじっと見ている環奈。
地元に戻ると荷物をロッカーに預けて、街を散策した。
「え、ここが中心地なん?」
「そうなんだ。田舎だろ?」
驚く環奈を笑って見ていた。
それから街ブラデートをして昼食を食べて、高速バスの時間まで時間を潰す。
その間環奈は色々写真を撮っていた。
そんなに撮るものなんてないと思ったんだけど。
まさかこんな田舎に人気女優がいるなんて思いもよらないだろう。
しかも旦那を連れてはしゃぎまわっているなんて誰も想像しないだろう。
高速バスが出る時間になるとバスターミナルに着く。
高速バスに乗って空港に行って手続きを済ませる。
「楽しかったね。また来ようね」
環奈は満足したようだ。
「今度は環奈の故郷を案内してくれないか?」
俺が言うと、環奈は気づいたようだ。
「そういや親に挨拶しただけだったね」
でも、そんなに案内するところないよ。
環奈はそう言う。
だけどそんなの関係ないだろ?
「環奈と観る事に意味があるんじゃないのか?」
俺が言うと環奈は嬉しそうだった。
飛行機が離陸する頃、流石に環奈も疲れたのだろう。
俺の方にもたれかけて眠っていた。
その間に俺はスマホでニュースをチェックする。
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九州の各地での爆発、火災。
大規模な事故。
相当な数の集団での行方不明事件。
被害者はすべて九頭竜會絡み。
相変わらず派手にやってるようだ。
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