姉妹チート

和希

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譲れない人

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(1)

「ただいま~」

 今は水奈が瑛大の息子の学と結婚していないから少し静かになってる。
 その代わりに誠司が妻の神奈を怒らせているみたいだけど。
 
「おかえり」

 今日はそれはなかったらしい。
 ただ、神奈の様子が変だ。
 平静を装っているけど20年近く一緒に暮らしていたらそのくらい分かる。

「神奈、今日は何かあったのか?」
「別になんでもないよ……ちょっと愛莉達と相談してただけ」
「相談?」

 誠司のやつまた冬吾に何か吹き込んだのか?
 冬吾は父親の冬夜に似て真面目過ぎるから、刺激が強いから止めとけと言っておいたのに。

「また誠司が原因なのか?」
「……その話風呂の後でもいいか?」

 神奈が真剣な表情で話している。
 何かあったんだろう?
 いつもの誠司の件ならすでに俺に怒鳴りつけてるはずだ。
 
「分かった」

 そう言ってとりあえず風呂に入って夕食にする。
 
「誠、今日は飲まないのか?」
「話があるんだろ?」

 酔った状態で聞くような話じゃなさそうだし。

「すまんな……」

 そう言って少しだけ微笑む神奈。
 誠司や崇博たちが寝ると俺はリビングのソファに座る。
 
「じゃあ、話を聞くよ」
「ここじゃなくて寝室がいい」

 そう言って神奈は寝室に行く。
 俺もその後をついて行った。
 明かりをつけずにベッドに入る。
 ……そう言う悩みか?
 確かにここのところご無沙汰だったな。
 偶にはサービスしとくか。
 神奈がベッドに入ると、俺も入って神奈をやさしく抱く。
 すると神奈が言った。

「待ってくれ、その気にさせたのは悪いと思ってる。だけどその前に私の話を聞いてくれ」
「……何かあった?」

 神奈は頷くと話を始めた。

(2)

「うぅ……」

 私達は美嘉のレストランでランチをしていた。
 愛莉は相変わらず悩んでいる様だ。
 多分育児だろう。
 冬吾か冬莉か茜が原因なのは予想がついた。

「愛莉ちゃん、今度はどうしたの?」

 恵美が言うと愛莉は話を始めた。
 その日冬吾が瞳子と一緒に家に帰って来たらしい。
 冬吾は愛莉の言いつけ通り、瞳子と2人っきりになるときは部屋のドアを開けてあるらしい。
 だから冬吾がDVDを見始めた時にすぐに気がついた。
 大方誠司が「教科書だ!」と渡したんだろう。

「瞳子と見ると盛り上がるぜ!」

 そんな事を吹き込んだのだろう。
 ボリュームを小さくすることを忘れていた、というよりは知らなかったのだろう。
 その声を聞いてすぐに愛莉が駆けつけた。

「冬吾!何してるのですか!?」

 冬吾は不思議そうに愛莉を見ていたそうだ。
 瞳子は恥ずかしそうに俯いていた。

「何を見てるの!すぐに消しなさい!」
「うん、わかった」

 そう言って素直に冬吾はDVDを取り出した。
 それを見て愛莉はそのDVDはどうしたのか?と問いただす。
 案の定犯人は誠司だった。

「こういう物に興味を持つのは早すぎます!」

 そうやって抑え込んだところでどうせネットなんかで知識をつける。
 その知識は大体間違っている。
 だからどう叱ったらいいのか分からなかったらしい。

「……瞳子ちゃんを困らせていいのですか?」

 愛莉はそう言ったらしい。

「冬吾君は悪くないんです。私も内容を知らなかったから」

 瞳子がそう言って冬吾を庇ったらしい。
 しかし冬吾は違う方向に興味が湧いていたらしい。

「誠司はこれを2人で見ると盛り上がるって言ってたんだけどさっぱりわからないんだ」

 当然愛莉にその回答を見出すことが出来ない。
 愛莉は違う角度から冬吾を説得することにした。

「瞳子ちゃんを見てみなさい。瞳子ちゃんの心に触れてみなさい」

 愛莉がそう言うと冬吾はすぐに瞳子を見る。
 恥ずかしい。
 すぐにそれを感じたらしい。

「瞳子、ごめんね」
「ううん。冬吾君も男の子だもん。ただそう言う興味は私に向けて欲しいなって」

 そう言ってこの場は解決すると愛莉も思った。
 だが、冬吾はとんでもない事を言い始めた。

「これさ、兄妹って設定らしいんだけど……」

 以前天音が言っていたらしい。
 血縁者にそういう興味は絶対に湧かない。
 母親や姉や妹には絶対に欲情しない。
 当たり前のことなのだけど、そういうシチュエーションのDVDもある。
 だから冬吾は不思議に思ったらしい。

「どうして兄妹なのにあんなことするの?」

 冬吾自身も冬莉には全く興味がないらしい。
 だから冬莉が下着一枚でリビングをうろうろしてようと気にも留めない。
 流石に愛莉もどう答えたらいいか分からなかった。
 その代わりに瞳子が答えてくれたらしい。

「冬吾君。今冬吾君が思っていることが正しいの。そして冬吾君が私だけに興味を持ってくれたら嬉しい」

 もう少し成長したら冬吾の望みを叶えてあげると約束したそうだ。
 今度こそ解決するかと思った。
 しかしその日の冬吾は常日頃から溜まっていたことを愛莉にぶつけた。

「母さんも天音や翼の交際相手と一緒にしたりするの?」

 そういうジャンルの物も誠司の部屋で見たらしい。

「母さんにも分からないから冬夜さんに聞いてみない?」
「父さんだったら分かるかな」
 
 冬吾はいい意味でも悪い意味でも純粋だ。
 妙な事に興味を示すとすぐに染まってしまう。
 その日トーヤが帰るのを待つとお風呂の後に冬吾と3人で話をした。
 当然トーヤも困っていた。
 しばらく考え込んでいたそうだ。
 
「それは誠司から聞いたのかい?」
「うん」
「冬吾が色々な事に興味を持つのは年頃だから仕方がないんだ。世の中冬吾には絶対に理解できない事がある」
「じゃあ、僕は気にしなくていいの?」
「そうだね。それよりもっと気を配らなきゃいけないことがあったんじゃないのかい?」

 冬吾は首を傾げた。
 トーヤは少し笑って答えた。

「そういう物に興味を示して母さんや瞳子はどう反応した?」

 トーヤがそう言うと、冬吾はすぐに理解したらしい。

「約束忘れてた僕が悪かったんだね?」

 愛莉も瞳子も女性だという事を忘れてはいけない。
 女性だけの秘密もある。
 冬吾はトーヤや愛莉から教わったことを思い出したようだ。
 冬吾はすぐに愛莉に謝った。

「……なるほどな」
 
 私は愛莉に謝った。
 もう何度も繰り返している事。
 冬吾は決して変な趣味をもっていない。
 持っていないから持っている誠司を不思議に思っている。
 ただそれだけの事だ。
 誠司も彼女の冴と2人っきりになると妙な事ばかり要求してると、冴から相談された事がある。

「私は誠司の玩具なんじゃないだろうか?」

 冴にも謝って、私からよく言い聞かせると冴を説得した。
 しかし誠司の悪趣味は誠からどんどん吸収していく。

「……遊もなずなを風俗に連れ込んだそうだよ」

 亜依が言う。
 むしろ学が奇跡的なくらい遊は瑛大の影響を受けているらしい。
 暴走族にも入っていたらしい。
 私達の次の世代もあの二人を中心に悪影響がでるのか?
 私と亜衣は頭を抱える。
 すると愛莉が不思議な事を言いだした。

「恵美や晶って旦那さん相手してくれてる?」
「そうね……ちゃんと愛してくれてるみたい」
「私の所もそうね。なんだかんだ言って時間をみて夜の相手してくれてる」

 まあ、この二人の機嫌を損ねようものなら地元経済が大混乱になる。
 石原も酒井も必死なんだろう。

「でもそれがどうかしたの?愛莉ちゃん」

 恵美が聞いていた。

「冬夜さんも相手してくれてるの。だから変な趣味とか持ってない」
「それって旦那の相手をしてないから、悪趣味に走るんじゃないかってこと?」
「うーん、ちょっと違うかな」

 懸命に働いて稼いでくれる夫を労わる気持ちが必要なんじゃないのか?
 夫婦の仲が悪いと子供はその影響を受ける。
 逆に言えば2人の仲が円満なら不満もたまらないし、それを見た子供も愛しあう意味を学ぶんじゃないのか?

「愛莉の言う事も一理あるかもね」

 亜依が漏らす。
 確かに大地や善明は父親そっくりになっている。
 息子のお手本になるのはやはり父親が一番じゃないのか?
 
「ま、しょうがないか。私もご無沙汰だったしな」

 遊も家を出たしゆっくりできるかもしれない。
 亜依はそう言った。

(3)

「……と、いうわけだ」

 神奈の話をじっと聞いていた。
 やっぱり俺の責任だったか。
 
「す、すまん」
「いいんだ。さっき言った通り私にも責任がある」

 思えば俺が妙な趣味を持ち出したのは、神奈が全く相手してないせいかもしれないと神奈はいう。

「それで、俺はどうすればいい?」

 神奈に聞いてみた。

「男には男の譲れないロマンってのがあるんだろ?」
「ま、まあそうだけど」

 それが今回の事件の引き金なんだろ?

「誠司はロマンしか知らない。だけど大切な彼女を大事にする方法を知らないんだ。それを誠がから教えてやってくれないか?」

 神奈は言う。
 しかしそれをどうやって教えたらいいか分からないんだが……。
 神奈に聞いてみると神奈は俺を抱きしめる。
 少し恥ずかしそうだったが。
 それは昔っから変わらない。

「私は愛莉と違って甘え上手じゃない。だからどうしていいか分からない」

 そんな神奈を上手く甘えさせてくれ。

「言っとくけどもう、子供はいらないからな」

 神奈はそう言って笑う。
 2人で夜を過ごすと朝になる。
 朝食の時に誠司に言う。

「誠司は冴の事をどう思ってるんだ?」
「す、好きだけど」
「だったら大事にしてやれ。譲れないロマンもあるけどそれ以上に大事にしなけらばいけないのは恋人への愛情だ」

 あまり恋人を困らせていると愛想尽かされるぞ。
 俺だって色々やってきたけど、神奈に対する愛情は誰よりも強いと自負してる。
 お前も冴が大切なんだろ?

「……わかった」

 そう言って誠司は学校に向かう。
 それを聞いていた神奈が「お前もちゃんと父親やれるじゃねーか」と笑っていた。
 あの子達が将来大人になっても絶対に忘れてはいけない事。
 俺達親はそれを自身で示さなければならない。

(4)

 皆風呂に入って、ビールを飲みながら父さんとテレビを見ていると茜と冬莉がいつもの恰好でやってきた。
 冬莉も小6になると昔の愛莉に似てきたな。

「パパ~」

 茜が僕の腕にしがみつく。
 冬莉も反対の腕にしがみつく。

「どうしたの?」
「今月お小遣いピンチでさ~」
「そういう事は愛莉に相談する決まりじゃなかったのかい?」
「そこ何とか融通できないかな~」

 この二人が小遣いピンチなんてことあるんだろうか?
 茜のPCの部品は大体愛莉パパが買ってるし、冬莉に至ってはいつ使ってるんだと思うくらいなんだけど。

「いいじゃないか、冬夜。娘が甘えてくるうちが花だぞ」

 父さんがそう言う。

「お爺ちゃんがあげるよ。ちょっと財布を取ってくるから待ってなさい」
「その必要はありません!」

 冬莉と茜は恐る恐る振り返る。
 そこには風呂から出た愛莉が立っていた。

「その恰好で部屋から出たらいけないと言ったでしょ!」
「だってさ~どうせ冬眞も冬吾も部屋から出てこないしいいじゃん」

 茜が言う。

「僕がどうしたの?」
 
 冬吾は丁度飲み物を取りに来てたようだ。
 不思議そうに僕と茜と冬莉を見ている。

「まあ、子供なんだからしょうがないよ」

 父さんがそう言って財布を持って来た。

「いけません!小さいうちから父親を惑わすなんて娘に育てた覚えはありません」

 愛莉は多分小遣いを強請っていた事よりも僕を誘惑しようとしたことが許せなかったのだろう。
 それから愛莉の説教が続いた。
 冬吾は何か考えている様だ。
 じっと茜たちが愛莉に説教されるのを見ている。
 愛莉の説教が終って2人が部屋に戻ると、冬吾が愛莉に抱きついた。

「ど、どうしたの?」
「……僕も小遣い欲しい」

 どうやら茜たちの真似をしてみたかったんだろう。

「い、いけません。そんな事をしたら冬夜さんに怒られますよ」

 ここで叱らなかったら愛莉がへそを曲げるだろうな。

「冬吾、愛莉は父さんの大事な人なんだ。誰にも譲れないよ」
「そっかぁ~」

 冬吾はすぐに部屋に戻っていった。

「いけませんよ。冬夜さん。自分の息子にムキになられては」

 愛莉はそう言う割には嬉しそうに僕に抱きつく。

「愛莉だって天音や茜が僕におねだりしてた時怒ってたじゃないか?」
「いけませんか?私だって女ですよ?」
「それなら僕だって男だ」
「そうですね」

 愛莉は笑顔で答えた。
 そんな僕達を面白そうに見ている父さん。
 きっと母さんの事でも思っているのだろう。
 ようやく片桐家に笑顔がもどってきたようだ。
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