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愛はいつまで
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(1)
僕と父さんはチャペルの壇上に立っている。
入口から真っ直ぐ伸びたヴァージンロードをウェディングドレスを着た美希と美希の父さんが歩いて来る。
「父さんが母さんと結婚した時はどんな気持ちだった?」
そう聞いてみた。
「今の空と変わらないよ。空の方がきついかもしれないね」
何せ石原家のご令嬢なのだから。
父さんはそう答えた。
白いドレスにヴェールをつけた美希の姿は、とても綺麗で神々しかった。
ゆっくりと僕の目の前まで歩いて来ると美希の父さんが「あとは任せたよ」と言って僕に預ける。
宣誓をして愛を確かめ合って。式は終る。
皆が歓声と拍手をしてくれた。
チャペルの外に出ると美希がブーケを放り投げる。
受け取ったのはなずなだった。
そして披露宴の会場のレストランに移動する。
親からの祝辞や友人代表の光太達の祝いの言葉を聞いていた。
その後歓談の時間に父さん達や光太が挨拶に来る。
「おめでとう、でも2人はこれからなんだからね」
父さんがそう言ってくれた。
話をしているとお色直しを終えた美希が入ってくる。
僕が選んだピンクのドレスを身にまとっていた。
やっぱりお姫様の様に可愛らしい姿になっていた。
皆がスマホで写真を撮っている。
父さん達の仕掛けはそれだけじゃなかった。
突然会場が暗くなる。
そしてスポットライトはフレーズの2人に当てられていた。
「片桐さん、今日はおめでとうございます」
2人は美希の母さんに頼まれ僕達のウェディングソングを用意してくれていたらしい。
生で歌を聞くのは初めてだ。
どこまでも透き通った声で優しいメロディ。
エレキギターのリフの音色も綺麗だった。
僕達も両親に謝辞を述べる。
母さんは喜んでいたけど、驚いたのは父さんが目に涙を貯めていた。
母さんが慰めている。
披露宴が終ると2次会に行く。
2次会にはSHのメンバーだけで行くことにしておいた。
ホテルの地下のパーティ会場で皆が余興などをしてくれる。
「何で私達の時は泣かなかったのに空の時だけ泣くの!?」
「そうだぞ!普通逆だろ!」
そう言って不満を言う天音と翼を善明と大地が優しく宥めていた。
2次会が終ると3次会に行こうと天音が言う。
「美希だって疲れてるだろ」
大地が言うけど「そんな事分かってる!」と天音は言った。
「どうせ二人共新婚初夜とか無理だ!」
美希が疲れてそれどころじゃないはずだと天音が言った。
天音がそうだったから分かるんだろう。
だったら、休んでいても良いから朝まで騒いで思い出を作った方がいい。
そんな話を聞いて美希も「分かった」と言った。
朝までカラオケで騒ぐ。
遊達は相変わらずバカな歌を歌って女性陣の怒りを買うのが好きらしい。
花は別に風俗に行ってるわけでもないからと許しているらしい。
光太も失恋の歌とか縁起でもない歌を歌って麗華に叱られている。
天音や水奈はどういう席なのか分かっているのかデスメタルなんかを歌っていた。
宴は朝まで続いた。
朝になると皆家に帰る。
家に帰るとさすがに美希も疲れたようだ。
さっさと風呂に入って寝てしまった。
一方僕はそんなに疲れてないので起きてる事にした。
すると昼頃にはお腹が空く。
さすがに美希を起こすのは可哀想に思ったので、自分でインスタントラーメンを作ることにした。
匂いに気づいたのか美希が起きて来る。
「言ってくれたら私が作るのに」
「美希は疲れてそれどころじゃないみたいだから、少しでも休ませてあげたいと思って」
「旦那様は少しは寝たの?」
「お昼食べたら寝るよ」
「ちゃんと休んでくださいな」
「分かってる……それよりも」
「どうかなさいました?」
「その旦那様ってのどうにかならない?」
「おかしいですか?愛莉さんと相談して決めたのですが」
母さんの仕業か。
2人でラーメンを食べると美希が食器を洗う。
そして僕が勝手な真似をしないようにしっかりとベッドの上で抱きついて眠っていた。
僕もその幸せな感触をしっかりと感じながら眠りについた。
(2)
「おかしくないかな?」
「大丈夫、とても似合ってるわよ」
母さんがそう言ってくれた。
母さんが部屋の外で何か言うと父さんが入って来た。
「綺麗だね」
父さんはとても嬉しそうだ。
「今までありがとう」
二人に礼を言った。
「これまでちゃんと成長してくれたお祝いよ。それにまさか片桐君の息子を捕まえてくるとはさすがね!」
絶対に間違いないと母さんが言う。
父さんは苦笑していたけど。
父さんはじっと私の姿を見ていた。
「望、どうしたの?」
母さんが父さんに聞く。
「いや、なんか不思議な気持ちなんだ」
私がこの日を迎えるまで色々あった。
間違った方向に向かわないようにちゃんと育てて来た。
その結果が今こうして目の前にある。
大地の時とは違う何かがあるようだ。
きっと父さんと母さんの最初の子供だからじゃないのかと母さんが言う。
すると父さんは何か考えていた。
「美希のおむつを取り替えていた頃を思い出すよ」
ぽかっ
母さんがが父さんを小突いていた。
「望は一度も美希のおむつを取り替えた事ないでしょ!」
「いや、片桐君が一度言っておけばいいっていうからさ」
「まったく父親っていうのは」
絶対に空に言ったらだめと母さんが笑っていた。
今さらな気がするけど、やっぱりそういう話を旦那様にされるのは嫌かもしれない。
式が始まるとヴァージンロードを父さんと歩く。
「当たり前だけど美希は小学校5年生になるまで誰かを好きになったことはなかったろ?」
母さんも初恋は高2の時にパパに惚れたと言っていた。
「それが突然空と一緒が良いと言いだしてさすがに慌てたよ」
それでも私や旦那様の気持ちを尊重してくれたのが父さんだ。
母さんは「片桐家に嫁げる嫁に育てないとだめなのだからしっかりしなさい」と父さんに言ったらしい。
それでも私達の気持ちが10年経っても続くのなら祝ってやりたいと言ったそうだ。
そんな父さんの思い出話を聞きながら歩いていく。
そして私は父さんから旦那様に委ねられた。
式が終って披露宴の会場に移動する。
大地達がやってきた。
「姉さん奇麗だよ。おめでとう」
「ありがとう。私達も勝負に加わるからね」
大地の頭を撫でてやる。
そしてお色直しをして宴を進めていく。
私達が両親に感謝の言葉を伝える時が来た。
私はパパの子に生まれてよかった。
今だからそれがしっかり分かる。
空も父さんにそっくり。
私達ちゃんと愛しあっているよ。
これからはパパの代わりに空が私たちを守ってくれる。
私も母さんに似て来た事がとても嬉しいです。
私が生まれた日には慣れない手つきで私を抱く父さんの笑顔
叱られた日もあった。
父さんは滅多に怒らないしいつも笑顔でいてくれた。
どんな時も私達の味方でいてくれた。
ありがとう。
これからは私と空で頑張っていくから。
心配かけるかもしれないけどどうか見守っていてください。
その時旦那様が何かに気づいたようだ。
父さんの目が滲んでいる。
「2人とも幸せにね。頑張って」
父さんが最後にそう言ってくれた。
いけない、私も泣きそうだ。
でも今日は私達の晴れの舞台。
最後まで笑顔でいて両親を安心させようと誓っていた。
披露宴が終ると2次会に行く。
2次会が終ると天音が「お前等どうせ今夜子作り出来ねーからいいだろ!」と朝まで付き合わせる気でいるらしい。
今日くらいいいか。
朝までいつもの仲間と騒いでそして帰る。
いつかこうして騒いでいた日々が懐かしいと思える時が来るのだろうか。
さすがに式を挙げて朝まで騒いでいたら疲れた。
風呂に入ると私はすぐに眠りについた。
明日からはちゃんと旦那様の花嫁でいるから……今日だけは許して。
幸せな空気を実感しながら私は眠りについた。
(3)
「しかし驚きました」
石原君が言う。
「お互い恥ずかしい所を見られたかな」
僕がそう石原君に返す。
子供達が2次会に行くから僕達親もと石原君が会場を準備してくれた。
僕は空のありがとうを聞いた時、凄い充実感に満たされていた。
きっと父さんなら分かってくれるかもしれない。
「恥ずかしいなんて思わなくていいですよ。それだけ手塩にかけて育てた子供なら当然ですから」
石原君も美希の言葉を聞いて思わず泣いたらしい。
しかし母親はそうは思わないそうだ。
「望、娘はいずれ嫁に行くと言ったでしょ。嫁にやれるほどしっかり育ったんだから笑って送り出してあげないとダメでしょ」
「冬夜さんはそういう事は無いと思ったけどやっぱり一人息子だと違うんですか?」
愛莉が聞いてきた。
「まあ、愛莉のお父さんみたいに一人娘が家を出るという状況に似てるかもしれないね」
「翼や天音をなだめるのが大変ですよ」
自分の時は泣いてくれなかったとかなり怒っているそうだ。
「話を変えてすまないんだけど、石原君や。娘を嫁に出す心構えがあれば教えてくれないかい?」
酒井君がやって来た。
酒井君も祈と繭がいたもんな。
「とりあえず笑っとけって感じかな」
笑って送り出してやればいい。
しっかり人を見つけて結ばれていくならそれが娘の幸せ。
娘の幸せはきっと酒井君も祝ってやれるだろ?
「お願いだから、祈の時は気をつけてよ!」
晶さんが言う。
「なんだ、父親の心構えって話か?」
「だったら俺達も混ぜろよ」
渡辺班の問題がやって来た。
誠と桐谷君だ。
また余計な事を言いだすんじゃないか?
皆が心配していた。
だけど一緒に来ていたカンナがニヤリと笑う。
「お前そんな立派な事言えた立場なのか?」
「え?」
誠には身に覚えがないらしい。
「学から聞いたぞ。学が結婚の挨拶に来てお前が外に連れ出した時公園で泣いていたそうじゃないか」
学はカンナに話したらしい。
「そ、それは……。と、冬夜なら分かるよな?」
「そうだね。やっぱり寂しい気分はあるよ」
「片桐君の言う通りだと思います」
僕と石原君は誠を庇った。
「瑛大達はまず遊をどうにかしろ!あの馬鹿は子供作りたいから大学中退するとか言い出したぞ!」
亜依さんも来た。
「お前等はまだましだろ?俺は娘を遠い異国に送り出さないといけないんだぞ」
渡辺君が来た。
「あ、愛莉達はどうなの?」
自分の息子や娘を送り出す時は。
「それは寂しいですよ」
「そうなの?」
「ええ、ですが生まれた時からずっとそうだったから」
成長していって恋人を見つけてそして……。
自分の腕の中だけが行動範囲だったのが徐々に広がっていく。
自分の手から離れていくのを寂しく感じるらしい。
でもそれが普通なんだと言い聞かせるらしい。
子供が成長することを一番寂しく思うのが母親なのだろう。
「それに私は冬夜さんがいるから」
寂しい日は僕に甘えるみたいだ。
「本当愛莉は運がいいよね」
亜依さんが溜息をついている。
「恋ちゃんはどうなの?たまには帰ってきたりする?」
「まあ、年末とかには帰って来るけど。それより問題があってさ」
問題?
「あの子は同棲してるのにあの格好を続けているらしくて」
戸惑った要が亜依さんに相談しているらしい。
「それは羨ましいな」
「だから言ったろ?誠。そっとしておいてやれば親に対する警戒なんてほとんどなくなって勝手に見せてくれる……いてぇ!」
「瑛大は余計な事を吹き込むな!お前あのままで嫁に出すつもりか!?」
「それだったら俺が嫁に貰うから問題ないだろ!」
「お前はいい加減にしろ!」
桐谷君にとってはそんなに羨ましい状況なのだろうか?
「あ、そうだ。思い出した。冬夜に相談があるんだ」
「僕に?」
誠は話を始めた。
子供達が作ったSHの勢力は大規模な物になったらしい。
しかし大きくなりすぎて歪みが生じ始めた。
過激な連中が好き放題暴れているんだそうだ。
「それがどうかしたの?」
僕は素っ気なく答えた。
「どうかしたの?ってすでに犯罪に手を染めてるらしいぞ」
「冬夜さん、それは親として放っておくわけには……」
誠と愛莉が言うけど僕は首を振った。
「空達はもう立派な大人だ。自分たちの不始末は自分で処理するはずだよ」
親がとやかく言う年齢じゃない。
それに……
「SHは子供たちの作ったグループ。それがもし害だと判断したら初めて僕たちが動く時」
子供の悪戯じゃ済ませられないレベルにまで発展するなら親である僕たちが相手をするしかない。
「それって俺達でSHを潰すってことか?」
「潰せるうちにしておきたいね」
「久々に血が騒ぐな……」
美嘉さんが興奮しているのを渡辺君がなだめている。
「落ち着け美嘉。まずは子供に任せようってことを忘れてるぞ」
「でもそんな余裕空達にはないだろ」
「渡辺班と違ってSHは規模が大きすぎるからいくつか問題がある」
例えば大の大人が中学生を袋叩きにするわけにはいかないだろ、と美嘉さんに説明する。
最大火力を使えるのはまだ空達だけのはず。
相手にするのは中高生の不良達。
「それなら空だって相手できないだろ?」
「言ったろ?SHには中高生もいる」
始めるならまずそこから動き始めるだろう。
大人が動き出すなら石原家の兵隊を使えばいい。
まさか最大の敵は身内から出るとは思いもしなかっただろう。
この局面で息子はどういう判断をするか。
まずはお手並み拝見することにした。
僕と父さんはチャペルの壇上に立っている。
入口から真っ直ぐ伸びたヴァージンロードをウェディングドレスを着た美希と美希の父さんが歩いて来る。
「父さんが母さんと結婚した時はどんな気持ちだった?」
そう聞いてみた。
「今の空と変わらないよ。空の方がきついかもしれないね」
何せ石原家のご令嬢なのだから。
父さんはそう答えた。
白いドレスにヴェールをつけた美希の姿は、とても綺麗で神々しかった。
ゆっくりと僕の目の前まで歩いて来ると美希の父さんが「あとは任せたよ」と言って僕に預ける。
宣誓をして愛を確かめ合って。式は終る。
皆が歓声と拍手をしてくれた。
チャペルの外に出ると美希がブーケを放り投げる。
受け取ったのはなずなだった。
そして披露宴の会場のレストランに移動する。
親からの祝辞や友人代表の光太達の祝いの言葉を聞いていた。
その後歓談の時間に父さん達や光太が挨拶に来る。
「おめでとう、でも2人はこれからなんだからね」
父さんがそう言ってくれた。
話をしているとお色直しを終えた美希が入ってくる。
僕が選んだピンクのドレスを身にまとっていた。
やっぱりお姫様の様に可愛らしい姿になっていた。
皆がスマホで写真を撮っている。
父さん達の仕掛けはそれだけじゃなかった。
突然会場が暗くなる。
そしてスポットライトはフレーズの2人に当てられていた。
「片桐さん、今日はおめでとうございます」
2人は美希の母さんに頼まれ僕達のウェディングソングを用意してくれていたらしい。
生で歌を聞くのは初めてだ。
どこまでも透き通った声で優しいメロディ。
エレキギターのリフの音色も綺麗だった。
僕達も両親に謝辞を述べる。
母さんは喜んでいたけど、驚いたのは父さんが目に涙を貯めていた。
母さんが慰めている。
披露宴が終ると2次会に行く。
2次会にはSHのメンバーだけで行くことにしておいた。
ホテルの地下のパーティ会場で皆が余興などをしてくれる。
「何で私達の時は泣かなかったのに空の時だけ泣くの!?」
「そうだぞ!普通逆だろ!」
そう言って不満を言う天音と翼を善明と大地が優しく宥めていた。
2次会が終ると3次会に行こうと天音が言う。
「美希だって疲れてるだろ」
大地が言うけど「そんな事分かってる!」と天音は言った。
「どうせ二人共新婚初夜とか無理だ!」
美希が疲れてそれどころじゃないはずだと天音が言った。
天音がそうだったから分かるんだろう。
だったら、休んでいても良いから朝まで騒いで思い出を作った方がいい。
そんな話を聞いて美希も「分かった」と言った。
朝までカラオケで騒ぐ。
遊達は相変わらずバカな歌を歌って女性陣の怒りを買うのが好きらしい。
花は別に風俗に行ってるわけでもないからと許しているらしい。
光太も失恋の歌とか縁起でもない歌を歌って麗華に叱られている。
天音や水奈はどういう席なのか分かっているのかデスメタルなんかを歌っていた。
宴は朝まで続いた。
朝になると皆家に帰る。
家に帰るとさすがに美希も疲れたようだ。
さっさと風呂に入って寝てしまった。
一方僕はそんなに疲れてないので起きてる事にした。
すると昼頃にはお腹が空く。
さすがに美希を起こすのは可哀想に思ったので、自分でインスタントラーメンを作ることにした。
匂いに気づいたのか美希が起きて来る。
「言ってくれたら私が作るのに」
「美希は疲れてそれどころじゃないみたいだから、少しでも休ませてあげたいと思って」
「旦那様は少しは寝たの?」
「お昼食べたら寝るよ」
「ちゃんと休んでくださいな」
「分かってる……それよりも」
「どうかなさいました?」
「その旦那様ってのどうにかならない?」
「おかしいですか?愛莉さんと相談して決めたのですが」
母さんの仕業か。
2人でラーメンを食べると美希が食器を洗う。
そして僕が勝手な真似をしないようにしっかりとベッドの上で抱きついて眠っていた。
僕もその幸せな感触をしっかりと感じながら眠りについた。
(2)
「おかしくないかな?」
「大丈夫、とても似合ってるわよ」
母さんがそう言ってくれた。
母さんが部屋の外で何か言うと父さんが入って来た。
「綺麗だね」
父さんはとても嬉しそうだ。
「今までありがとう」
二人に礼を言った。
「これまでちゃんと成長してくれたお祝いよ。それにまさか片桐君の息子を捕まえてくるとはさすがね!」
絶対に間違いないと母さんが言う。
父さんは苦笑していたけど。
父さんはじっと私の姿を見ていた。
「望、どうしたの?」
母さんが父さんに聞く。
「いや、なんか不思議な気持ちなんだ」
私がこの日を迎えるまで色々あった。
間違った方向に向かわないようにちゃんと育てて来た。
その結果が今こうして目の前にある。
大地の時とは違う何かがあるようだ。
きっと父さんと母さんの最初の子供だからじゃないのかと母さんが言う。
すると父さんは何か考えていた。
「美希のおむつを取り替えていた頃を思い出すよ」
ぽかっ
母さんがが父さんを小突いていた。
「望は一度も美希のおむつを取り替えた事ないでしょ!」
「いや、片桐君が一度言っておけばいいっていうからさ」
「まったく父親っていうのは」
絶対に空に言ったらだめと母さんが笑っていた。
今さらな気がするけど、やっぱりそういう話を旦那様にされるのは嫌かもしれない。
式が始まるとヴァージンロードを父さんと歩く。
「当たり前だけど美希は小学校5年生になるまで誰かを好きになったことはなかったろ?」
母さんも初恋は高2の時にパパに惚れたと言っていた。
「それが突然空と一緒が良いと言いだしてさすがに慌てたよ」
それでも私や旦那様の気持ちを尊重してくれたのが父さんだ。
母さんは「片桐家に嫁げる嫁に育てないとだめなのだからしっかりしなさい」と父さんに言ったらしい。
それでも私達の気持ちが10年経っても続くのなら祝ってやりたいと言ったそうだ。
そんな父さんの思い出話を聞きながら歩いていく。
そして私は父さんから旦那様に委ねられた。
式が終って披露宴の会場に移動する。
大地達がやってきた。
「姉さん奇麗だよ。おめでとう」
「ありがとう。私達も勝負に加わるからね」
大地の頭を撫でてやる。
そしてお色直しをして宴を進めていく。
私達が両親に感謝の言葉を伝える時が来た。
私はパパの子に生まれてよかった。
今だからそれがしっかり分かる。
空も父さんにそっくり。
私達ちゃんと愛しあっているよ。
これからはパパの代わりに空が私たちを守ってくれる。
私も母さんに似て来た事がとても嬉しいです。
私が生まれた日には慣れない手つきで私を抱く父さんの笑顔
叱られた日もあった。
父さんは滅多に怒らないしいつも笑顔でいてくれた。
どんな時も私達の味方でいてくれた。
ありがとう。
これからは私と空で頑張っていくから。
心配かけるかもしれないけどどうか見守っていてください。
その時旦那様が何かに気づいたようだ。
父さんの目が滲んでいる。
「2人とも幸せにね。頑張って」
父さんが最後にそう言ってくれた。
いけない、私も泣きそうだ。
でも今日は私達の晴れの舞台。
最後まで笑顔でいて両親を安心させようと誓っていた。
披露宴が終ると2次会に行く。
2次会が終ると天音が「お前等どうせ今夜子作り出来ねーからいいだろ!」と朝まで付き合わせる気でいるらしい。
今日くらいいいか。
朝までいつもの仲間と騒いでそして帰る。
いつかこうして騒いでいた日々が懐かしいと思える時が来るのだろうか。
さすがに式を挙げて朝まで騒いでいたら疲れた。
風呂に入ると私はすぐに眠りについた。
明日からはちゃんと旦那様の花嫁でいるから……今日だけは許して。
幸せな空気を実感しながら私は眠りについた。
(3)
「しかし驚きました」
石原君が言う。
「お互い恥ずかしい所を見られたかな」
僕がそう石原君に返す。
子供達が2次会に行くから僕達親もと石原君が会場を準備してくれた。
僕は空のありがとうを聞いた時、凄い充実感に満たされていた。
きっと父さんなら分かってくれるかもしれない。
「恥ずかしいなんて思わなくていいですよ。それだけ手塩にかけて育てた子供なら当然ですから」
石原君も美希の言葉を聞いて思わず泣いたらしい。
しかし母親はそうは思わないそうだ。
「望、娘はいずれ嫁に行くと言ったでしょ。嫁にやれるほどしっかり育ったんだから笑って送り出してあげないとダメでしょ」
「冬夜さんはそういう事は無いと思ったけどやっぱり一人息子だと違うんですか?」
愛莉が聞いてきた。
「まあ、愛莉のお父さんみたいに一人娘が家を出るという状況に似てるかもしれないね」
「翼や天音をなだめるのが大変ですよ」
自分の時は泣いてくれなかったとかなり怒っているそうだ。
「話を変えてすまないんだけど、石原君や。娘を嫁に出す心構えがあれば教えてくれないかい?」
酒井君がやって来た。
酒井君も祈と繭がいたもんな。
「とりあえず笑っとけって感じかな」
笑って送り出してやればいい。
しっかり人を見つけて結ばれていくならそれが娘の幸せ。
娘の幸せはきっと酒井君も祝ってやれるだろ?
「お願いだから、祈の時は気をつけてよ!」
晶さんが言う。
「なんだ、父親の心構えって話か?」
「だったら俺達も混ぜろよ」
渡辺班の問題がやって来た。
誠と桐谷君だ。
また余計な事を言いだすんじゃないか?
皆が心配していた。
だけど一緒に来ていたカンナがニヤリと笑う。
「お前そんな立派な事言えた立場なのか?」
「え?」
誠には身に覚えがないらしい。
「学から聞いたぞ。学が結婚の挨拶に来てお前が外に連れ出した時公園で泣いていたそうじゃないか」
学はカンナに話したらしい。
「そ、それは……。と、冬夜なら分かるよな?」
「そうだね。やっぱり寂しい気分はあるよ」
「片桐君の言う通りだと思います」
僕と石原君は誠を庇った。
「瑛大達はまず遊をどうにかしろ!あの馬鹿は子供作りたいから大学中退するとか言い出したぞ!」
亜依さんも来た。
「お前等はまだましだろ?俺は娘を遠い異国に送り出さないといけないんだぞ」
渡辺君が来た。
「あ、愛莉達はどうなの?」
自分の息子や娘を送り出す時は。
「それは寂しいですよ」
「そうなの?」
「ええ、ですが生まれた時からずっとそうだったから」
成長していって恋人を見つけてそして……。
自分の腕の中だけが行動範囲だったのが徐々に広がっていく。
自分の手から離れていくのを寂しく感じるらしい。
でもそれが普通なんだと言い聞かせるらしい。
子供が成長することを一番寂しく思うのが母親なのだろう。
「それに私は冬夜さんがいるから」
寂しい日は僕に甘えるみたいだ。
「本当愛莉は運がいいよね」
亜依さんが溜息をついている。
「恋ちゃんはどうなの?たまには帰ってきたりする?」
「まあ、年末とかには帰って来るけど。それより問題があってさ」
問題?
「あの子は同棲してるのにあの格好を続けているらしくて」
戸惑った要が亜依さんに相談しているらしい。
「それは羨ましいな」
「だから言ったろ?誠。そっとしておいてやれば親に対する警戒なんてほとんどなくなって勝手に見せてくれる……いてぇ!」
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「それだったら俺が嫁に貰うから問題ないだろ!」
「お前はいい加減にしろ!」
桐谷君にとってはそんなに羨ましい状況なのだろうか?
「あ、そうだ。思い出した。冬夜に相談があるんだ」
「僕に?」
誠は話を始めた。
子供達が作ったSHの勢力は大規模な物になったらしい。
しかし大きくなりすぎて歪みが生じ始めた。
過激な連中が好き放題暴れているんだそうだ。
「それがどうかしたの?」
僕は素っ気なく答えた。
「どうかしたの?ってすでに犯罪に手を染めてるらしいぞ」
「冬夜さん、それは親として放っておくわけには……」
誠と愛莉が言うけど僕は首を振った。
「空達はもう立派な大人だ。自分たちの不始末は自分で処理するはずだよ」
親がとやかく言う年齢じゃない。
それに……
「SHは子供たちの作ったグループ。それがもし害だと判断したら初めて僕たちが動く時」
子供の悪戯じゃ済ませられないレベルにまで発展するなら親である僕たちが相手をするしかない。
「それって俺達でSHを潰すってことか?」
「潰せるうちにしておきたいね」
「久々に血が騒ぐな……」
美嘉さんが興奮しているのを渡辺君がなだめている。
「落ち着け美嘉。まずは子供に任せようってことを忘れてるぞ」
「でもそんな余裕空達にはないだろ」
「渡辺班と違ってSHは規模が大きすぎるからいくつか問題がある」
例えば大の大人が中学生を袋叩きにするわけにはいかないだろ、と美嘉さんに説明する。
最大火力を使えるのはまだ空達だけのはず。
相手にするのは中高生の不良達。
「それなら空だって相手できないだろ?」
「言ったろ?SHには中高生もいる」
始めるならまずそこから動き始めるだろう。
大人が動き出すなら石原家の兵隊を使えばいい。
まさか最大の敵は身内から出るとは思いもしなかっただろう。
この局面で息子はどういう判断をするか。
まずはお手並み拝見することにした。
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聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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