姉妹チート

和希

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霧がかかった祈り

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(1)

「何やってるの?」

 僕は掃除時間に部室棟の裏で、男子生徒の集団が何かしているのを見つけた。

「お前には関係ない、あっちにいってろ」

 そう言われて黙って引き下がるほど僕もお人よしじゃない。

「どうしたんだ?冬吾。そんなに掃除に時間かけでもしょうがないだろ?」

 別の所を掃除していた誠司達が掃除が終わって僕の所に来た。
 そして誠司も「何してんだお前ら?」と聞いていた。
 校章を見た感じ上級生みたいだ。
 しかしあからさまに何かを隠しているようだった。
 誠司も気がついたらしい。
 上級生を押しのけると上半身裸の女子生徒が座り込んで怯えていた。

「君、何されたの?」

 僕が聞くけど女子はかなり酷く怯えてるみたいで話してくれない。
 
「とりあえずこれ着なよ。君のでしょ?」

 そう言って近くに散らばっていた女子の衣類を渡す。

「勝手な真似すんな!」

 俺達はこれから楽しむところなんだと上級生は主張する。
 嫌がる女子生徒を無理矢理……か。
 誠司なら喜びそうだが、嫌がる女子を無理矢理というのは許せなかったらしい。
 まず誠司が上級生の胸ぐらを掴み持ち上げる。

「40秒だけ時間をやる。その間にとっとと消え失せろ」

 誠司が言うけど上級生は余裕があるみたいだ。

「いいのか?俺達SHだぜ?」
「なんだと?」

 誠司は反応した。
 SHに逆らう奴等は容赦しない。
 彼等はそう告げる。

「私の事は良いから逃げて!」

 女子が叫ぶ。
 しかし誠司も隼人もそう言われて女子をおいて行くほどお人よしじゃない。
 それにこいつらに干渉する口実が出来た。
 許せない。
 誠司より先に僕が上級生を殴り飛ばした。

「てめえ!自分が何やってるのか分かってるのか!?」

 殴り飛ばされた上級生が叫ぶ。

「悪いけど僕が暴れる理由が出来た」
「何?」

 そんな事を言ってる間に僕は2人目を殴り飛ばす。

「冬吾だけずるいぞ!俺にもやらせろ!」
 
 誠司がそう言うと、誠司と隼人も加担する。
 それは騒ぎを聞きつけた教師が駆けつけるまで続いた。
 その日の放課後生徒指導室に呼び出された。

「一体どういうことだ?」

 生徒指導の教諭が聞いた。

「ムカついたからぶん殴りました」

 僕が正直に言う。
 女子の事は伏せておいた。
 そういうのを根掘り葉掘り聞かれるのは女子にとってつらい事だと瞳子から聞いたから。
 その日僕達は親を呼び出された。

「冬吾、何があったのかちゃんと説明しなさい」

 普段は真面目な僕が暴行に出た理由を母さんは知りたかったらしい。

「ごめん、今は言えない」
「……家に帰ったら聞かせてくれるの?」
「……うん」
「じゃあ、いいわ」
「よくありません!」

 生徒指導の教諭が言う。
 中には病院で治療している被害者だっている。
 立場的に理由も聞かずに帰す事なんてできないと言った。
 すると誠司が何か思いついたらしい。

「あいつらはセイクリッドハートと名乗った。一々殺す理由がいるならそれで十分だ」
「お前は黙ってろ!」

 誠司の母さんに怒られていた。

「なあ、冬吾。どうして今言えないんだ?何か深い理由があるのか?」

 母さん達には話せるけどここで話せない理由があるなら教えてくれ。
 誠司の母さんが聞いてきた。

「その場にいた女子を傷つける事になるかもしれないから」

 そう言うと誠司のお母さんも納得してくれたらしい。
 あとは教諭をどうやって納得させるかだ。

「失礼します」

 そう言ってやってきたのは冬莉と瞳子と女子生徒だった。
 冬莉はこうなることを予測したらしい。
 確かに女子にとっては屈辱的な事だ。
 だけどだからと言って泣き寝入りしていたら何も変わらない。
 女子は被害者なんだ。
 だから堂々と言えば良い。
 冬莉がそう言って説得したらしい。
 女子は教師に自分がされた事を全部話した。
 まだ未遂だったし女子の立場を考えて僕達は無罪になった。

「さっきはありがとう」

 帰る時に女子から礼を言われた。

「困ってる人がいたら助けるのが僕の家のルールだから」

 そう言うと女子は帰っていった。
 念の為冬莉が付き添うらしい。
 僕達も帰ろうとすると瞳子に小突かれた。

「冬吾君は誰にでも優しくするのはいいけど、少しは私が心配してる事も考えて」

 どういう意味だろ?

「瞳子も大変ですね。冬夜さんに似て自分の彼女の気持ちに鈍い所があるみたい」

 母さんが言う。

「ところで冴は?」

 僕が聞いていた。

「一緒に教室にいたんだけど、気づいたら帰ってた」

 瞳子が言う。
 誠司は気にも止めてないみたいだ。
 隼人と武勇伝を語っている。
 家に帰ると着替えて夕飯の時間になる。
 あ、そうだ。
 あいつらはSHを名乗った。
 茜に今日あったことを伝えた。

「やっぱり中学校にも現れたんだね」

 茜は予想していたみたいだ。

「空達には内緒にしておいて」

 それは僕も考えていた。
 茜は自分達で何とかするつもりらしい。

「冬吾もあまり関わったらいけませんよ」

 母さんが言った。
 日本代表入りがかかってる今そんな不祥事が発覚したら大変だと言う。

「冬夜さんも同じだったから母さんは心配で……」

 父さんも似たような状況で危うい事になったらしい。
 誠司とも相談してみた。

「なるようになるだろ」

 目に映る鬱陶しい連中は叩きつぶす。
 その後に誤魔化すかもみ消すか考えたらいい。

「ところで冴から何か連絡あった?」
「いや、最近口もきいてないからな。何かあったのかな?」

 僕達に休息はない。
 常に運命は廻り続ける。
 そしてその歯車に狂いがすでに出ていたことをまだ僕は知らなかった。

(2)

「あれ?赤西さんじゃない?」

 同い年くらいの男子と出会った。
 まあ、同じ校区だから普通なのだろう。
 ただいる場所に問題があった。
 ここはFGのたまり場。
 きっかけは何となく。
 瞳子に知られたらSHにすぐにばれるので言ってない。
 しかし同じクラスの子がいたとは知らなかった。
 彼の名は白石識……さとりと読むそうだ。

「あんたもFGだったの?」

 そんな事が他の生徒に知られたらただじゃ済まないよ。
 
「それを言ったら赤西さんもだろ?」
「あれ?さとり。お前彼女いたっけ?」

 さとりの友達が声をかけて来た。

「ただのクラスメートだよ」
「ただのクラスメートって……お前大丈夫なのか?」

 私と同じ事を心配してるらしい。

「今までバレなかったんだから大丈夫だよ」

 それにSHから仕掛けてくるなんてないはずだよ。
 さとりはそう言うけど最近のSHの暴走は酷かった。
 黒いリストバンドをしているという理由で恐喝暴行何でもされる。
 婦女暴行事件もおこしたくらいだ。
 どっちが悪でどっちが善なのか分からない状態。
 強い方に群れていたら自分が消えてしまいそうだから。
 溢れかえる理不尽に負けたくないから、私はFGを選んだ。
 今地元で起こっている若者の犯罪の7割がSHの暴走だった。
 冬吾君の兄・空でも手に負えない事態。

「で、こんな時間にここにいるのは何故?」

 女子1人だと危ないよ。と、さとりは言う。

「だいたい赤西さんは彼氏いなかったっけ?」

 彼氏か……。
 うん、と言いたくなかった。
 誠司にとって私は一体何なのか分からなくなっていた。
 そして冬莉に言われて私の気持ちも分からなくなっていた。
 どうして誠司を選んだんだろう?
 そう考え込んでいる私を見て、さとりも気づいたみたいだ。

「何かあったの?」
「何も無いよ」

 あいつは中学生になってサッカーでも活躍して女子に常に囲まれている。
 そんな状況がよほど気分が良いんだろう。
 私の事など全く気づいて無いようだ。
 最初は私だって注意してた。
 だけどそれを鬱陶しいと感じたようだ。
 話しかけてくることすらなくなった。
 私も段々馬鹿馬鹿しくなってあいつに口出しすることを止めた。

「そっか、多田君はモテそうだもんね」

 さとりはそう言って笑う。
 もう嫌だ。
 そう思ってFGへと流れて行った。

「さとりはどうしてFGへ?」
 
 私から質問してみた。
 単なる反抗心らしい。
 SHで無い者は人ではない。
 そんな横行が続いてる中に群れているのが嫌だった。
 さとりも、自分が消えないように自分の旗を立てた。
 FGに入ったからと言ってSHに何かできるわけではない。
 決してSHに手を出したらいけない。
 そういうルールがずっと昔から続いていた。
 私も感じた事だけどFGの方が居心地が良かった。
 どうだっていい事を悩んだって仕方がない。
 生まれ変われるわけじゃないんだから。
 この深い夜の闇に飲み込まれないようにわずかでも光り輝く。
 繰り返す下らない日常に折れてしまわないように。
 
「中坊共はそろそろ帰れ。SHに見つかるとやっかいだ」

 少し年上の人が言うと私とさとりも帰る。
 さとりは私の家まで送ってもいいか?と聞いた。

「どうしてそんなこと聞くの?」
「赤西さんは女子だから、男子に家を知られたくないとかあるだろ?」

 私の事をそんな風に見てくれる人がまだいたんだ。

「別にいいよ。その代わり条件がある」
「条件?」
「私とさとりはただのクラスメート。FGの仲間であることは秘密にして欲しい」

 瞳子達を面倒事に巻き込みたくない。
 FGであることを隠したいのはさとりも一緒だったみたいだ。

「分かった。でも彼氏には伝えなくていいの?」
「私といる時は誠司の話をするのはやめて」

 あいつの事を忘れたくてこんな真似をしているんだから。
 理由を聞かれることはなかった。

「まあ、そう言う事なら」
「それともう一つ。私はさとりって呼んでるんだから、さとりも私の事は冴でいいよ」

 さすがに何かあったと思ったのだろう。
 だけど何も聞いてこなかった。
 ただ「分かった」と言っただけ。

「じゃあ、送ってよ」
「……うん」

 何か躊躇っている様だ。
 
「どうしたの?」
「いやさ、こういう時ってお約束で多田君がいそうな気がしてさ」

 家の前で待ってるんじゃないか?
 そんな心配をしていた。
 ……隠すのも面倒だ。
 私と誠司の関係を全部さとりに話した。

「なるほどね。でも、そんな事話していいの?」
「聞きたくなかった?」
「いや、僕が冴に対して感情を抱く事は心配してないのかな?って」

 そんな気になったなら、その時はその時だ。

「私今自分の事が分からなくなっていて……さとりがそうなったとしても私が応えられない」
「なるほどね」

 私の家の前に着くとさとりと別れる。

「ちょっと待って!」
「どうしたの?」
「連絡先くらい教えてよ」
「……そういう気持ちはないって自分で言ってたじゃないか」
「友達なら連絡先くらい教えるでしょ?」

 友達という関係に私は逃げた。
 そんな理由を悟ったのかさとりと連絡先を交換する。

「じゃ、また」

 なるべく学校では一緒にいない方がいいね。
 さとりはそう言って家に帰っていった。
 家に帰ると私は着替えてベッドの上に寝そべった。
 さとりの事は瞳子にも冬莉にも知られたくない。
 だけど私は自分がさとりに対してどう思ってるのか分からなかった。
 同じような境遇で出会った私達。
 これから私達はどうしたらいいのだろう?
 そんな事を考えている事がもうすでに私の心は決まっていたのかもしれない。
 さとりの優しさに触れて滲むように自分の弱さを知る。
 だから誰かに甘えたくなる。
 だけどまた同じことを繰り返すんじゃないか?
 さとりに限ってそんな事はないはず。
 そんな思考がすでに答えを出している事を私は気づけずにいた。
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