233 / 535
封印
しおりを挟む
(1)
終業式の日の出来事だった。
いつものように学校に行くと下足箱に手紙が入っていた。
好きです。付き合ってください。返事は放課後に教室で知らせて下さい。
今回は珍しく名前を書いてあった。
まあ、聞いたこともないのでどっちにしろ同じだけど。
早く帰ってゆっくりしたいのに面倒な事になった。
別に律義に会わなくてもいいんじゃないかと思った。
「ちゃんと誠意をもって返事してあげないとダメだよ」
冬吾が言うので仕方なく付き合う事にした。
顔が分かれば朝のうちに断ってしまう事も可能なんだけど分からない。
「冬莉は本当にモテるね」
瞳子は言う。
「どうして誰とも付き合わないの?」
瞳子が聞いてきた。
「顔も知らない人を好きになれなんて無理でしょ?」
「まあ、言われてみるとそうかもしれないけど」
でも、付き合って知っていけばいいんじゃないかとも瞳子は言う。
「それって私がこの手紙の差出人に少しでも気があればの話だよね?」
「あ、そっか~」
瞳子も納得したみたいだ。
私の事より冴と誠司の事の方が気になる。
5月の連休が終ってから2人が話をしているのを見た事が無い。
冴は一人で何か考えている様だ。
私は冴の席に行った。
「最近どうしたの?」
付き合い悪いよ。
そんな感じで話しかけてみた。
「あ、ああ。ごめん。今ちょっと色々あるんだ」
「まさか誠司の子を孕んだとか?」
「そんな行為は全然してないよ」
聞いたら行けない事だったのだろうか?
冴の表情が暗くなる。
「あ、ごめん」
「気にしないでいいよ。冬莉もそろそろ彼氏作ってみたらいいんじゃない?」
まあ、気に入った人がいれば作るけどね。
好きになるってどういう状態なんだろう?
どうも男子に対していいイメージがない。
顔も名前も知らない男子から突然好きですと言われても全く嬉しくない。
そんな事を言ったら皆そうなんだけど。
しかし少しは男子も頭をひねった方がいいんじゃないのか?
突然告白じゃなく少しは話しかけて来るとか誘ってくるとか。
男子だって私の事を一体どれだけ知って告白してくるのだろう?
見た目で判断したか、単なる体目当てか。
体目当てで告白する中学生なんて絶対遠慮したいけど。
そんな事を考えているうちに終業式が終って終礼が済むと教室で待っていた。
するとある男子と2人っきりになる。
「あなたが手紙の差出人?」
「はい。来てくれてありがとう。それで……」
「ごめん、無理。私あなたの事なんて全く知らないし、いきなり付き合えと言われてはいというほど男なれしてないの」
伝える事だけ伝えると私は教室を出る。
彼の言い分を聞かなかったことを後悔するのはまだ先の話だった。
昇降口には冬吾達が待っている。
「どうだった?」
瞳子が聞いてきた。
ただ私の返事を伝えてきたと話した。
なぜか冬吾が険しい表情をしている。
「どうしたの?」
「本当にそれでよかったの?」
冬吾の勘は凄くいい。
だからこういう時の冬吾の意見は無視できない。
「どういう意味?」
「相手の意見を聞いておいた方がよかったんじゃない?」
それにどんな意味があるのか分からなかった。
どうせ友達からでもいいからとか、粘り強く交渉してくるだけだろう。
「それだけじゃない気がしたからさ」
冬吾はそれだけ言った。
人はどうして異性を好きになるのだろう?
同性愛と言うのもあるらしいけど、私には興味がない。
見た事もない全く知らない男子から好きと言われてどうして心が揺れるのだろう?
家に帰ると茜に聞いていた。
「うーん、私の時は直感だったかな」
茜は彼氏の壱郎と付き合い始めた時の事を話し始めた。
一目惚れというやつだろうか?
だけどそれはリスクが高いんじゃないのか?
いざ付き合ってみたら誠司みたいな変態だったら絶対後悔する。
「それでも手にしたいのが愛だって愛莉が言ってたよ」
茜が言う。
食事が済んで風呂に入るとリビングに向かう。
明日から休みだから別に入らなくてもいいんだけど、愛莉が五月蠅い。
パパッと汗を流して出る。
私が来たのに気づいたパパが「どうしたの?」と聞いてきた。
「パパ、少しだけ愛莉貸してくれない?」
「どうしたのですか?」
愛莉も反応した。
愛莉と2人だけで話がしたいと言うとパパは寝室に行った。
私はソファに腰掛けると今日あったことを説明した。
「冬莉は本当にモテるのね」
そう言って愛莉は微笑む。
「でも、それが何か問題あるの?」
「おかしくない?話をしたこともない人を好きになる気持ちがわからない」
「……なるほどね」
そう言うと愛莉は自分がパパを好きになった理由を明かした。
愛莉が小6の時パパが近所の公園で子犬の世話をしているのを見つけた。
それが一目惚れの理由だという。
パパの名前は知っていたし近所に住んでいる事も知っていた。
だけどクラスも違ったし一言も話したことが無かったそうだ。
愛莉はそれから1年近くパパに仕掛けた。
しかしパパは全く気づいてくれなかった。
後から聞いた話だとある障壁があったのだという。
優等生と劣等生。
パパは自分の事を劣等生だと決めつけていたらしい。
作中で多分一番チートじみてると思うんだけど。
そして最後の手段。バレンタインの日に告白をした。
パパはやっと気づいてくれた。
そしてパパと付き合う事が出来た。
だけどパパはなお自分の立場を気にしていた。
愛莉を彼女だと言えないでいたそうだ。
そして誠司の母親が東京から戻って来た。
幼馴染だったらしい。
愛莉は焦った。
そしてクリスマスデートでも、パパは誠司の母親の事を心配していると知った時、怒りと悲しみを覚えたらしい。
「もう冬夜君と別れる!」
挫けてしまいそうになった。
それを引き留めたのはパパだった。
パパは愛莉がパパの事を好きになる1年も前から愛莉の事が好きだとその時教えてくれた。
立場の違いがパパを臆病にしていた。
だけど今言わないと愛莉と別れる事になるかもしれない。
必死だったそうだ。
それからも度々トラブルを起こしながらも愛莉は結婚できた。
「どうして別れなかったの?」
「どんな事があっても冬夜さんと一緒なら乗り越えて行ける。そう思ったから」
そう思える人を「好き」っていう意味だと愛莉が言った。
それは自分の感でしかわからない。
きっと私にもそう思える人が現れる。
恋の神様は誰にでも平等だから。
慌てる必要もない。
私が納得いくまで待てばいい。
「しかし娘とこんな話をするのは久しぶりですね」
「茜や天音達はどうだったの?」
「あの子達は気づいたら勝手に見つけてました」
莉子は冬眞の事が好きらしいし。
話が終ると私は部屋に戻った。
恋の神様は誰にでも平等。
そして私は報いを受ける事になる。
(2)
「おい、お前らFGだろ?」
いつものようにコンビニの駐車場に集まって話をしていると突然現れる招かざる客。
どこで嗅ぎ付けてきたのか知らないけど、最近SHの連中が現れるようになった。
SHには絶対に逆らえないのがFGの掟。
私達は無言で立ち去った。
「あの場所はもうだめかもな」
さとりが言う。
それはさとりと話をする時間が無くなるという事。
SHはどこまでも私達の邪魔をする。
「さとりは夏休み何か予定入れてるの?」
「特に?」
「じゃあさ……」
花火でも見に行こうよ。
さとりは驚いていた。
「いいのか?」
「友達と花火に見に行く事って悪い事?」
「……確かにね」
誠司と行かなくていいのか?
さとりは絶対に言わなかった。
私が誠司の話をするのは止めてとお願いしたのを守ってくれてる。
私の家の前に着くとさとりはいつものように帰っていく。
「待ってよ」
私はさとりを呼び止めた。
「どうしたの?」
「さとりは私を誘ってくれないの?」
私は夏休みという時間を一人で潰さなきゃいけないの?
あの場所はもう使えないって自分で言ったじゃない。
「それはさすがに不味くない?」
さとりが言う。
完全に浮気だ。
でも、本当に浮気なの?
私の気持ちはもうすでに変わってるんじゃないのか?
でもまだ言えない。
やってる事は完全に浮気なんだから。
それでも私はさとりと過ごしたい。
気づいたらさとりにしがみついていた。
「自分でも分からないの!やってる事が悪い事だって事は分かる!」
でもそれでもあなたが良いの。
あなたじゃなきゃいや。
「冴は夏休み予定あるの?」
「特にない」
あのバカは何も誘ってくれなかった。
別にそれが寂しいとは思わなくなっていた。
「明日何時なら空いてる?」
「え?」
私はさとりの顔を見る。
とても優しい表情をしていた。
「さすがにいきなり来て、慌てて準備させたら悪いからさ」
外で遊んでいてSHとかに見つかったら面倒だ。
なら僕の家においで。
さとりはそう言った。
「さとりは女子を家に連れ込んで何をするつもり?」
「あ、変な事は考えてないから」
考えてもいいんだよ。
「呼ぶ前日に電話して欲しい」
それなりの準備をしていきたいから。
「じゃあ、早速明日はどう?」
「わかった。起きたらメッセージ送るよ」
「冴、帰ってきてたの?……その子は誰?」
仕事から帰って来た父さんに見つかった。
「冴さんの友達の白石識と言います」
「友達?」
「うん、クラスメートなんだ。じゃあ、さとりまた明日ね」
「うん、また」
そう言ってさとりが帰っていくと同時に父さんを家に押し込む。
「お前多田君と付き合ってたんじゃないのか?」
父さんが聞く。
こうなると分かってたから今までさとりの事は黙ってた。
困っていると母さんが「友達くらい普通にいるでしょ?冴にも色々あるのよ」と言って援護してくれた。
父さんは娘の色事にはあまり干渉しないようにしてるらしい。
その代わり私が傷つくようなことになったら容赦しないと言っている。
夕飯を済ませると風呂に入って部屋でさとりと話をする。
「さとりは何色が好き?」
「へ?」
「下着の色」
「だ、だからそういうつもりは全くないって!」
凄く焦ってるさとりが面白かった。
「全くないってのも私に魅力がないのかと落ち込むんですけど」
「友達でそれはあり得ないだろ?」
「わかってるじゃん」
「……真面目に話をしていい?」
「うん……」
私のやってる事は誰が見てもアウトだ。
私が誠司としっかりケジメをつけるまでは私に手を出すつもりはない。
さとりの言う通りだと思った。
だけど……。
「私にはさとりがいるから別れるってのもダメなんじゃない?」
私が誠司と別れたからさとりが告白するのも同じじゃないか。
さとりは納得していた。
その上で私はさとりにお願いした。
「ちゃんと誠司には話す。だけど今は……」
話をする機会すら与えてくれないの。
メッセージで「サヨナラ」もおかしな話でしょ?
いつかちゃんと誠司にあって話をするから。
「少しだけ私に甘えさせてほしい」
そうか、私は寂しいから。
甘えたい人がさとりだから。
だからさとりにお願いする。
「冴にそこまで言われたら、僕も断れないよ」
「ありがとう」
「本来なら僕が冴に告白すればいいだけの話なんだろうけど」
さとりも不安だったんだ。
私は単なる誠司の代わりにしか過ぎないんじゃないか。
だから今はまだ封印しておこう。
いつかちゃんと堂々と言える日まで。
終業式の日の出来事だった。
いつものように学校に行くと下足箱に手紙が入っていた。
好きです。付き合ってください。返事は放課後に教室で知らせて下さい。
今回は珍しく名前を書いてあった。
まあ、聞いたこともないのでどっちにしろ同じだけど。
早く帰ってゆっくりしたいのに面倒な事になった。
別に律義に会わなくてもいいんじゃないかと思った。
「ちゃんと誠意をもって返事してあげないとダメだよ」
冬吾が言うので仕方なく付き合う事にした。
顔が分かれば朝のうちに断ってしまう事も可能なんだけど分からない。
「冬莉は本当にモテるね」
瞳子は言う。
「どうして誰とも付き合わないの?」
瞳子が聞いてきた。
「顔も知らない人を好きになれなんて無理でしょ?」
「まあ、言われてみるとそうかもしれないけど」
でも、付き合って知っていけばいいんじゃないかとも瞳子は言う。
「それって私がこの手紙の差出人に少しでも気があればの話だよね?」
「あ、そっか~」
瞳子も納得したみたいだ。
私の事より冴と誠司の事の方が気になる。
5月の連休が終ってから2人が話をしているのを見た事が無い。
冴は一人で何か考えている様だ。
私は冴の席に行った。
「最近どうしたの?」
付き合い悪いよ。
そんな感じで話しかけてみた。
「あ、ああ。ごめん。今ちょっと色々あるんだ」
「まさか誠司の子を孕んだとか?」
「そんな行為は全然してないよ」
聞いたら行けない事だったのだろうか?
冴の表情が暗くなる。
「あ、ごめん」
「気にしないでいいよ。冬莉もそろそろ彼氏作ってみたらいいんじゃない?」
まあ、気に入った人がいれば作るけどね。
好きになるってどういう状態なんだろう?
どうも男子に対していいイメージがない。
顔も名前も知らない男子から突然好きですと言われても全く嬉しくない。
そんな事を言ったら皆そうなんだけど。
しかし少しは男子も頭をひねった方がいいんじゃないのか?
突然告白じゃなく少しは話しかけて来るとか誘ってくるとか。
男子だって私の事を一体どれだけ知って告白してくるのだろう?
見た目で判断したか、単なる体目当てか。
体目当てで告白する中学生なんて絶対遠慮したいけど。
そんな事を考えているうちに終業式が終って終礼が済むと教室で待っていた。
するとある男子と2人っきりになる。
「あなたが手紙の差出人?」
「はい。来てくれてありがとう。それで……」
「ごめん、無理。私あなたの事なんて全く知らないし、いきなり付き合えと言われてはいというほど男なれしてないの」
伝える事だけ伝えると私は教室を出る。
彼の言い分を聞かなかったことを後悔するのはまだ先の話だった。
昇降口には冬吾達が待っている。
「どうだった?」
瞳子が聞いてきた。
ただ私の返事を伝えてきたと話した。
なぜか冬吾が険しい表情をしている。
「どうしたの?」
「本当にそれでよかったの?」
冬吾の勘は凄くいい。
だからこういう時の冬吾の意見は無視できない。
「どういう意味?」
「相手の意見を聞いておいた方がよかったんじゃない?」
それにどんな意味があるのか分からなかった。
どうせ友達からでもいいからとか、粘り強く交渉してくるだけだろう。
「それだけじゃない気がしたからさ」
冬吾はそれだけ言った。
人はどうして異性を好きになるのだろう?
同性愛と言うのもあるらしいけど、私には興味がない。
見た事もない全く知らない男子から好きと言われてどうして心が揺れるのだろう?
家に帰ると茜に聞いていた。
「うーん、私の時は直感だったかな」
茜は彼氏の壱郎と付き合い始めた時の事を話し始めた。
一目惚れというやつだろうか?
だけどそれはリスクが高いんじゃないのか?
いざ付き合ってみたら誠司みたいな変態だったら絶対後悔する。
「それでも手にしたいのが愛だって愛莉が言ってたよ」
茜が言う。
食事が済んで風呂に入るとリビングに向かう。
明日から休みだから別に入らなくてもいいんだけど、愛莉が五月蠅い。
パパッと汗を流して出る。
私が来たのに気づいたパパが「どうしたの?」と聞いてきた。
「パパ、少しだけ愛莉貸してくれない?」
「どうしたのですか?」
愛莉も反応した。
愛莉と2人だけで話がしたいと言うとパパは寝室に行った。
私はソファに腰掛けると今日あったことを説明した。
「冬莉は本当にモテるのね」
そう言って愛莉は微笑む。
「でも、それが何か問題あるの?」
「おかしくない?話をしたこともない人を好きになる気持ちがわからない」
「……なるほどね」
そう言うと愛莉は自分がパパを好きになった理由を明かした。
愛莉が小6の時パパが近所の公園で子犬の世話をしているのを見つけた。
それが一目惚れの理由だという。
パパの名前は知っていたし近所に住んでいる事も知っていた。
だけどクラスも違ったし一言も話したことが無かったそうだ。
愛莉はそれから1年近くパパに仕掛けた。
しかしパパは全く気づいてくれなかった。
後から聞いた話だとある障壁があったのだという。
優等生と劣等生。
パパは自分の事を劣等生だと決めつけていたらしい。
作中で多分一番チートじみてると思うんだけど。
そして最後の手段。バレンタインの日に告白をした。
パパはやっと気づいてくれた。
そしてパパと付き合う事が出来た。
だけどパパはなお自分の立場を気にしていた。
愛莉を彼女だと言えないでいたそうだ。
そして誠司の母親が東京から戻って来た。
幼馴染だったらしい。
愛莉は焦った。
そしてクリスマスデートでも、パパは誠司の母親の事を心配していると知った時、怒りと悲しみを覚えたらしい。
「もう冬夜君と別れる!」
挫けてしまいそうになった。
それを引き留めたのはパパだった。
パパは愛莉がパパの事を好きになる1年も前から愛莉の事が好きだとその時教えてくれた。
立場の違いがパパを臆病にしていた。
だけど今言わないと愛莉と別れる事になるかもしれない。
必死だったそうだ。
それからも度々トラブルを起こしながらも愛莉は結婚できた。
「どうして別れなかったの?」
「どんな事があっても冬夜さんと一緒なら乗り越えて行ける。そう思ったから」
そう思える人を「好き」っていう意味だと愛莉が言った。
それは自分の感でしかわからない。
きっと私にもそう思える人が現れる。
恋の神様は誰にでも平等だから。
慌てる必要もない。
私が納得いくまで待てばいい。
「しかし娘とこんな話をするのは久しぶりですね」
「茜や天音達はどうだったの?」
「あの子達は気づいたら勝手に見つけてました」
莉子は冬眞の事が好きらしいし。
話が終ると私は部屋に戻った。
恋の神様は誰にでも平等。
そして私は報いを受ける事になる。
(2)
「おい、お前らFGだろ?」
いつものようにコンビニの駐車場に集まって話をしていると突然現れる招かざる客。
どこで嗅ぎ付けてきたのか知らないけど、最近SHの連中が現れるようになった。
SHには絶対に逆らえないのがFGの掟。
私達は無言で立ち去った。
「あの場所はもうだめかもな」
さとりが言う。
それはさとりと話をする時間が無くなるという事。
SHはどこまでも私達の邪魔をする。
「さとりは夏休み何か予定入れてるの?」
「特に?」
「じゃあさ……」
花火でも見に行こうよ。
さとりは驚いていた。
「いいのか?」
「友達と花火に見に行く事って悪い事?」
「……確かにね」
誠司と行かなくていいのか?
さとりは絶対に言わなかった。
私が誠司の話をするのは止めてとお願いしたのを守ってくれてる。
私の家の前に着くとさとりはいつものように帰っていく。
「待ってよ」
私はさとりを呼び止めた。
「どうしたの?」
「さとりは私を誘ってくれないの?」
私は夏休みという時間を一人で潰さなきゃいけないの?
あの場所はもう使えないって自分で言ったじゃない。
「それはさすがに不味くない?」
さとりが言う。
完全に浮気だ。
でも、本当に浮気なの?
私の気持ちはもうすでに変わってるんじゃないのか?
でもまだ言えない。
やってる事は完全に浮気なんだから。
それでも私はさとりと過ごしたい。
気づいたらさとりにしがみついていた。
「自分でも分からないの!やってる事が悪い事だって事は分かる!」
でもそれでもあなたが良いの。
あなたじゃなきゃいや。
「冴は夏休み予定あるの?」
「特にない」
あのバカは何も誘ってくれなかった。
別にそれが寂しいとは思わなくなっていた。
「明日何時なら空いてる?」
「え?」
私はさとりの顔を見る。
とても優しい表情をしていた。
「さすがにいきなり来て、慌てて準備させたら悪いからさ」
外で遊んでいてSHとかに見つかったら面倒だ。
なら僕の家においで。
さとりはそう言った。
「さとりは女子を家に連れ込んで何をするつもり?」
「あ、変な事は考えてないから」
考えてもいいんだよ。
「呼ぶ前日に電話して欲しい」
それなりの準備をしていきたいから。
「じゃあ、早速明日はどう?」
「わかった。起きたらメッセージ送るよ」
「冴、帰ってきてたの?……その子は誰?」
仕事から帰って来た父さんに見つかった。
「冴さんの友達の白石識と言います」
「友達?」
「うん、クラスメートなんだ。じゃあ、さとりまた明日ね」
「うん、また」
そう言ってさとりが帰っていくと同時に父さんを家に押し込む。
「お前多田君と付き合ってたんじゃないのか?」
父さんが聞く。
こうなると分かってたから今までさとりの事は黙ってた。
困っていると母さんが「友達くらい普通にいるでしょ?冴にも色々あるのよ」と言って援護してくれた。
父さんは娘の色事にはあまり干渉しないようにしてるらしい。
その代わり私が傷つくようなことになったら容赦しないと言っている。
夕飯を済ませると風呂に入って部屋でさとりと話をする。
「さとりは何色が好き?」
「へ?」
「下着の色」
「だ、だからそういうつもりは全くないって!」
凄く焦ってるさとりが面白かった。
「全くないってのも私に魅力がないのかと落ち込むんですけど」
「友達でそれはあり得ないだろ?」
「わかってるじゃん」
「……真面目に話をしていい?」
「うん……」
私のやってる事は誰が見てもアウトだ。
私が誠司としっかりケジメをつけるまでは私に手を出すつもりはない。
さとりの言う通りだと思った。
だけど……。
「私にはさとりがいるから別れるってのもダメなんじゃない?」
私が誠司と別れたからさとりが告白するのも同じじゃないか。
さとりは納得していた。
その上で私はさとりにお願いした。
「ちゃんと誠司には話す。だけど今は……」
話をする機会すら与えてくれないの。
メッセージで「サヨナラ」もおかしな話でしょ?
いつかちゃんと誠司にあって話をするから。
「少しだけ私に甘えさせてほしい」
そうか、私は寂しいから。
甘えたい人がさとりだから。
だからさとりにお願いする。
「冴にそこまで言われたら、僕も断れないよ」
「ありがとう」
「本来なら僕が冴に告白すればいいだけの話なんだろうけど」
さとりも不安だったんだ。
私は単なる誠司の代わりにしか過ぎないんじゃないか。
だから今はまだ封印しておこう。
いつかちゃんと堂々と言える日まで。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる