姉妹チート

和希

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(1)

 終業式の日の出来事だった。
 いつものように学校に行くと下足箱に手紙が入っていた。
 
 好きです。付き合ってください。返事は放課後に教室で知らせて下さい。

 今回は珍しく名前を書いてあった。
 まあ、聞いたこともないのでどっちにしろ同じだけど。
 早く帰ってゆっくりしたいのに面倒な事になった。
 別に律義に会わなくてもいいんじゃないかと思った。

「ちゃんと誠意をもって返事してあげないとダメだよ」

 冬吾が言うので仕方なく付き合う事にした。
 顔が分かれば朝のうちに断ってしまう事も可能なんだけど分からない。

「冬莉は本当にモテるね」

 瞳子は言う。
 
「どうして誰とも付き合わないの?」

 瞳子が聞いてきた。

「顔も知らない人を好きになれなんて無理でしょ?」
「まあ、言われてみるとそうかもしれないけど」

 でも、付き合って知っていけばいいんじゃないかとも瞳子は言う。

「それって私がこの手紙の差出人に少しでも気があればの話だよね?」
「あ、そっか~」

 瞳子も納得したみたいだ。
 私の事より冴と誠司の事の方が気になる。
 5月の連休が終ってから2人が話をしているのを見た事が無い。
 冴は一人で何か考えている様だ。
 私は冴の席に行った。

「最近どうしたの?」

 付き合い悪いよ。
 そんな感じで話しかけてみた。

「あ、ああ。ごめん。今ちょっと色々あるんだ」
「まさか誠司の子を孕んだとか?」
「そんな行為は全然してないよ」

 聞いたら行けない事だったのだろうか?
 冴の表情が暗くなる。

「あ、ごめん」
「気にしないでいいよ。冬莉もそろそろ彼氏作ってみたらいいんじゃない?」

 まあ、気に入った人がいれば作るけどね。
 好きになるってどういう状態なんだろう?
 どうも男子に対していいイメージがない。
 顔も名前も知らない男子から突然好きですと言われても全く嬉しくない。
 そんな事を言ったら皆そうなんだけど。
 しかし少しは男子も頭をひねった方がいいんじゃないのか?
 突然告白じゃなく少しは話しかけて来るとか誘ってくるとか。
 男子だって私の事を一体どれだけ知って告白してくるのだろう?
 見た目で判断したか、単なる体目当てか。
 体目当てで告白する中学生なんて絶対遠慮したいけど。
 そんな事を考えているうちに終業式が終って終礼が済むと教室で待っていた。
 するとある男子と2人っきりになる。

「あなたが手紙の差出人?」
「はい。来てくれてありがとう。それで……」
「ごめん、無理。私あなたの事なんて全く知らないし、いきなり付き合えと言われてはいというほど男なれしてないの」

 伝える事だけ伝えると私は教室を出る。
 彼の言い分を聞かなかったことを後悔するのはまだ先の話だった。
 昇降口には冬吾達が待っている。

「どうだった?」

 瞳子が聞いてきた。
 ただ私の返事を伝えてきたと話した。
 なぜか冬吾が険しい表情をしている。

「どうしたの?」
「本当にそれでよかったの?」

 冬吾の勘は凄くいい。
 だからこういう時の冬吾の意見は無視できない。

「どういう意味?」
「相手の意見を聞いておいた方がよかったんじゃない?」

 それにどんな意味があるのか分からなかった。
 どうせ友達からでもいいからとか、粘り強く交渉してくるだけだろう。

「それだけじゃない気がしたからさ」

 冬吾はそれだけ言った。
 人はどうして異性を好きになるのだろう?
 同性愛と言うのもあるらしいけど、私には興味がない。
 見た事もない全く知らない男子から好きと言われてどうして心が揺れるのだろう?
 家に帰ると茜に聞いていた。

「うーん、私の時は直感だったかな」

 茜は彼氏の壱郎と付き合い始めた時の事を話し始めた。
 一目惚れというやつだろうか?
 だけどそれはリスクが高いんじゃないのか?
 いざ付き合ってみたら誠司みたいな変態だったら絶対後悔する。

「それでも手にしたいのが愛だって愛莉が言ってたよ」

 茜が言う。
 食事が済んで風呂に入るとリビングに向かう。
 明日から休みだから別に入らなくてもいいんだけど、愛莉が五月蠅い。
 パパッと汗を流して出る。
 私が来たのに気づいたパパが「どうしたの?」と聞いてきた。

「パパ、少しだけ愛莉貸してくれない?」
「どうしたのですか?」

 愛莉も反応した。
 愛莉と2人だけで話がしたいと言うとパパは寝室に行った。
 私はソファに腰掛けると今日あったことを説明した。

「冬莉は本当にモテるのね」

 そう言って愛莉は微笑む。

「でも、それが何か問題あるの?」
「おかしくない?話をしたこともない人を好きになる気持ちがわからない」
「……なるほどね」

 そう言うと愛莉は自分がパパを好きになった理由を明かした。
 愛莉が小6の時パパが近所の公園で子犬の世話をしているのを見つけた。
 それが一目惚れの理由だという。
 パパの名前は知っていたし近所に住んでいる事も知っていた。
 だけどクラスも違ったし一言も話したことが無かったそうだ。
 愛莉はそれから1年近くパパに仕掛けた。
 しかしパパは全く気づいてくれなかった。
 後から聞いた話だとある障壁があったのだという。

 優等生と劣等生。

 パパは自分の事を劣等生だと決めつけていたらしい。
 作中で多分一番チートじみてると思うんだけど。
 そして最後の手段。バレンタインの日に告白をした。
 パパはやっと気づいてくれた。
 そしてパパと付き合う事が出来た。
 だけどパパはなお自分の立場を気にしていた。
 愛莉を彼女だと言えないでいたそうだ。
 そして誠司の母親が東京から戻って来た。
 幼馴染だったらしい。
 愛莉は焦った。
 そしてクリスマスデートでも、パパは誠司の母親の事を心配していると知った時、怒りと悲しみを覚えたらしい。

「もう冬夜君と別れる!」

 挫けてしまいそうになった。
 それを引き留めたのはパパだった。
 パパは愛莉がパパの事を好きになる1年も前から愛莉の事が好きだとその時教えてくれた。
 立場の違いがパパを臆病にしていた。
 だけど今言わないと愛莉と別れる事になるかもしれない。
 必死だったそうだ。
 それからも度々トラブルを起こしながらも愛莉は結婚できた。

「どうして別れなかったの?」
「どんな事があっても冬夜さんと一緒なら乗り越えて行ける。そう思ったから」

 そう思える人を「好き」っていう意味だと愛莉が言った。
 それは自分の感でしかわからない。
 きっと私にもそう思える人が現れる。
 恋の神様は誰にでも平等だから。
 慌てる必要もない。
 私が納得いくまで待てばいい。

「しかし娘とこんな話をするのは久しぶりですね」
「茜や天音達はどうだったの?」
「あの子達は気づいたら勝手に見つけてました」

 莉子は冬眞の事が好きらしいし。
 話が終ると私は部屋に戻った。
 恋の神様は誰にでも平等。
 そして私は報いを受ける事になる。

(2)

「おい、お前らFGだろ?」

 いつものようにコンビニの駐車場に集まって話をしていると突然現れる招かざる客。
 どこで嗅ぎ付けてきたのか知らないけど、最近SHの連中が現れるようになった。
 SHには絶対に逆らえないのがFGの掟。
 私達は無言で立ち去った。

「あの場所はもうだめかもな」

 さとりが言う。
 それはさとりと話をする時間が無くなるという事。
 SHはどこまでも私達の邪魔をする。

「さとりは夏休み何か予定入れてるの?」
「特に?」
「じゃあさ……」
 
 花火でも見に行こうよ。
 さとりは驚いていた。

「いいのか?」
「友達と花火に見に行く事って悪い事?」
「……確かにね」
 
 誠司と行かなくていいのか?
 さとりは絶対に言わなかった。
 私が誠司の話をするのは止めてとお願いしたのを守ってくれてる。
 私の家の前に着くとさとりはいつものように帰っていく。

「待ってよ」

 私はさとりを呼び止めた。

「どうしたの?」
「さとりは私を誘ってくれないの?」

 私は夏休みという時間を一人で潰さなきゃいけないの?
 あの場所はもう使えないって自分で言ったじゃない。

「それはさすがに不味くない?」

 さとりが言う。
 完全に浮気だ。
 でも、本当に浮気なの?
 私の気持ちはもうすでに変わってるんじゃないのか?
 でもまだ言えない。
 やってる事は完全に浮気なんだから。
 それでも私はさとりと過ごしたい。
 気づいたらさとりにしがみついていた。

「自分でも分からないの!やってる事が悪い事だって事は分かる!」

 でもそれでもあなたが良いの。
 あなたじゃなきゃいや。

「冴は夏休み予定あるの?」
「特にない」

 あのバカは何も誘ってくれなかった。
 別にそれが寂しいとは思わなくなっていた。

「明日何時なら空いてる?」
「え?」

 私はさとりの顔を見る。
 とても優しい表情をしていた。

「さすがにいきなり来て、慌てて準備させたら悪いからさ」

 外で遊んでいてSHとかに見つかったら面倒だ。
 なら僕の家においで。
 さとりはそう言った。

「さとりは女子を家に連れ込んで何をするつもり?」
「あ、変な事は考えてないから」

 考えてもいいんだよ。

「呼ぶ前日に電話して欲しい」

 それなりの準備をしていきたいから。

「じゃあ、早速明日はどう?」
「わかった。起きたらメッセージ送るよ」
「冴、帰ってきてたの?……その子は誰?」

 仕事から帰って来た父さんに見つかった。

「冴さんの友達の白石識と言います」
「友達?」
「うん、クラスメートなんだ。じゃあ、さとりまた明日ね」
「うん、また」

 そう言ってさとりが帰っていくと同時に父さんを家に押し込む。

「お前多田君と付き合ってたんじゃないのか?」

 父さんが聞く。
 こうなると分かってたから今までさとりの事は黙ってた。
 困っていると母さんが「友達くらい普通にいるでしょ?冴にも色々あるのよ」と言って援護してくれた。
 父さんは娘の色事にはあまり干渉しないようにしてるらしい。
 その代わり私が傷つくようなことになったら容赦しないと言っている。
 夕飯を済ませると風呂に入って部屋でさとりと話をする。

「さとりは何色が好き?」
「へ?」
「下着の色」
「だ、だからそういうつもりは全くないって!」

 凄く焦ってるさとりが面白かった。

「全くないってのも私に魅力がないのかと落ち込むんですけど」
「友達でそれはあり得ないだろ?」
「わかってるじゃん」
「……真面目に話をしていい?」
「うん……」

 私のやってる事は誰が見てもアウトだ。
 私が誠司としっかりケジメをつけるまでは私に手を出すつもりはない。
 さとりの言う通りだと思った。
 だけど……。

「私にはさとりがいるから別れるってのもダメなんじゃない?」

 私が誠司と別れたからさとりが告白するのも同じじゃないか。
 さとりは納得していた。
 その上で私はさとりにお願いした。

「ちゃんと誠司には話す。だけど今は……」

 話をする機会すら与えてくれないの。
 メッセージで「サヨナラ」もおかしな話でしょ?
 いつかちゃんと誠司にあって話をするから。

「少しだけ私に甘えさせてほしい」

 そうか、私は寂しいから。
 甘えたい人がさとりだから。
 だからさとりにお願いする。

「冴にそこまで言われたら、僕も断れないよ」
「ありがとう」
「本来なら僕が冴に告白すればいいだけの話なんだろうけど」

 さとりも不安だったんだ。
 私は単なる誠司の代わりにしか過ぎないんじゃないか。
 だから今はまだ封印しておこう。
 いつかちゃんと堂々と言える日まで。
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