姉妹チート

和希

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愛しい微笑み

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(1)

「ねえ、誠司。ちょっといいかな?」
「どうした?」

 何となく察してしまったけど聞いてみた。

「冴の事大丈夫なの?」
「大丈夫だろ?前にも言ったろ?」

 どうせ冴と一緒になるんだろうから、今何をしていても一緒だろ?
 しかしいつもと冬吾の様子が違う。

「誠司最近ちゃんと冴を見てるか?」

 冬吾には冴がおかしい様に見えるらしい。

「去年の修学旅行の時にも言ったけど、誠司は少しやり過ぎだ。そんなんじゃ……」
「だから心配しなくても大丈夫だって言ってるだろ!」
「そんな扱いしてたらいくら冴でも取り返しつかなくなるかもしれないよ」
「問題ないって何度も言わせるな!」

 同じ事を何度も言う冬吾に段々腹が立っていた。

「そんなに冴が気になるならお前が冴と付き合えばいいだろ!?」

 すると冬吾が俺に怒鳴りつけた。

「いい加減にしろ!お前冴の事好きじゃないのか!」

 その声はクラス中に響き渡った。

「どうしたの!?冬吾君」

 瞳子が冬吾を宥める。

「……ごめん。熱くなり過ぎた」

 そう言って冬吾は席に戻る。
 一人でイラついて一人で落ち着く冬吾が許せなかった。
 だから気づかなかった。
 そんな騒動を起こしても全く気にもかけてない冴に。
 その日の練習は最悪だった。
 何度冬吾にパスを渡しても冬吾は返してくる。

「今のは隼人がフリーだったろ!?」

 もっときついマークが冬吾についたらどうするんだ?
 俺の選択肢は冬吾だけでいいのか? 
 だけど、冬吾は自分でマーク振り切るだろ?
 俺に対する当てつけかよ!
 そんな気持ちで練習を続けていたら父さんが練習を止める。

「誠司、替われ」

 冬吾のせいだ。
 あのバカ……。

「お前今自分の失態は冬吾のせいだと思ってるだろ?」

 父さんが突然話しかけてきた。
 父さんまで冬吾の味方なのか?

「……冬吾のプレイよく見てみろ」

 父さんに言われて冬吾を見る。
 冬吾に何人もマークがつく。
 それでも冬吾は振り切る。
 そのカバーにさらにDFが入る。
 当然隼人達が手薄になる。

「冬吾一人で同年齢のDFなら軽く振り切るだろう」

 じゃあ、俺のプレイであってるじゃないか。

「冬吾は冬夜に言われたそうだ」

 俺や隼人に頼り過ぎてないか?
 自分で積極的にプレイに参加する意欲を持ちなさい。
 いつでも、冬吾の替わりはいる。
 練習だからって手を抜くな。
 冬吾がこの先サッカーで生きていくなら大切な事だ。
 きつい練習に耐えてこそ試合で勝ち残れるんだ。
 そのプレイで存在意義を示せ。

「お前が冬吾にしかパスを出さないと相手にバレたら、お前は使い物にならない」
 
 現にお前の代わりの選手は他にボールを散らしているだろ。
 冬吾が俺にパスの選択肢を増やしてくれるならお前は冬吾を活かした選択をしろ。
 父さんはそう言った。

「冬吾の父さんの時もそうだったけど、冬吾がボールを保持するのが一番怖いんだ。逆に言うとそれだけ味方も頼りたくなる」

 だけど今は60分。
 いずれは90分。
 フルでそんなプレイをしていたら冬吾の持ち味が消えてしまうかもしれない。
 どういうプレイを冬吾にさせるかが俺のプレイだと言う。

「言ったろ。冬吾を使いこなせるのは誠司だけだ」

 学校で何があったかどうかは知らないけど、冬吾は私情を一切サッカーに持ち込まない。
 気持ちを切り替えて集中してる。
 冬吾の父親に似て「ゾーン」を作り出すのがうまいらしい。
 頃合いを見て俺をまた戻す。

「集中してプレイしなさい」

 父さんが言う。
 その後は父さんの意見を受け入れてプレイした。
 俺から直接冬吾に渡すだけじゃない。
 隼人や他の選手を経由して最後は冬吾につなぐ戦術。
 あれ?
 俺、最初はそうだったじゃないか。
 勝ち進んで調子に乗ってただけなのか。
 冬吾はそれに気づいていた。
 親友だけど、じゃない。
 親友だからこそ冬吾は俺に厳しくあたるんだ。
 納得いくプレイをしないとダメだから。
 上手く連携が取れるようになったころ練習は終った。
 練習が終わると俺は冬吾のそばにいく。

「今日は悪かった……」
「ポストには隼人がいる。両サイドだって必死に走ってくる。選択肢は僕だけじゃないはずだよ」
「それもあるけど……」
「冴の事は僕も悪かった。2人の問題だし僕が口出ししていい事じゃないよね」

 冬吾はあまり気にかけていないらしい。
 家に帰ると夕食を済ませて風呂に入る。
 部屋に戻るとスマホを手にする。
 冬吾の言う通り偶には冴と話をするか。
 しかし冴のスマホは通話中だった。
 何か立て込んでいるのだろうか?
 そのくらいにしか考えていなかった。
 俺は運命というにも時に逃げていただけだった。
 そう気づいた時にはもう戻る事の出来ない状況に立っていた。

(2)

「善明、今日は早く帰ってきて欲しいんだけど」

 翼からの呼び出し。
 会社中が慌てる。
 僕に残業させられない。
 なんかの漫画であったね。
 コールをしたらその島ごと焼きつくしてしまう禁断の要請。
 それに近い恐怖が翼の呼び出しにはあった。
 しかしおかしい。
 今日の献立は別に普通だった。
 まあ、献立関係なく今は緊急事態宣言みたいなものだけど。
 何かあったのは間違いないようだ。
 それがどうでもいい事かどうかは僕が決める事じゃない。
 翼が決める事だ。
 とりあえず定時を過ぎると真っ先に帰った。
 家に帰ると翼が待っていた。

「善明の実家に行きたいんだけど」
「何かあったのかい?」
「うん、先に晶さんに伝えるのが筋だろうし」

 翼は嬉しそうにしている。
 まさか……
 慎重に運転して実家に帰る。
 翼は前もって母さんに話をしていたらしい。
 家には母さんの他に翼の母親も着ていた。
 この流れは多分間違いないだろう。
 僕達はリビングでソファに腰かける。

「で、何があったの?翼」

 母さんが話した。
 翼はにこりと笑って答えた。

「ちょうど3ヶ月になるそうです」
「よく頑張ったわね。翼」

 翼の母さんは言った。
 翼の話によると三つ子らしい。
 男の子と女の子が2人。
 最近食欲なさそうだったし、家に帰っても気だるそうだった。
 もしかして……とは思っていたんだけど。
 
「晶に任せるのが道理なのかな?」
「初産だし愛莉の方が翼も安心するんじゃないの?」

 僕がいない間誰が翼の世話をするかで相談していた。
 結果二人で時間が空いた時に様子を見に行くと言う事で話がついた。
 父さんは「翼は一時実家に帰っておいた方がいいんじゃないかい?」とは言わなかった。

「善明は妊娠中の嫁の世話をする気がないの!?」
 
 そう言われることを悟っていたのだろう。
 なぜなら自分がその経験をしているだろうから。
 下手をすればまた地元の失業率を上げることになる。
 
「じゃあ、今夜はお祝いね」

 もちろん翼は飲まなかったけど、僕もジュースにしておいた。
 翼が出産するまでは控えておこうと決めておいた。
 夕食を終えると家に帰る。

「今どんな気持ち?」
 
 翼が聞いてきた。

「複雑な気持ちだよ」

 間違っても「勝手に子供作るな」とは思わない。
 折角子供が出来たのに顔も見ることなくあのアニメより悲惨な死を迎えるだろうから。
 しかし、それはこれからも続く。
 身重の翼を放って仕事なんて真似したらただじゃ済まないだろう。

「翼も頑張ったね」
「私だけじゃないよ」

 僕の協力があったから舞い降りた奇跡だという。

「子供の名前も決めないとですね」
「そうだね」
「男の子は善明に似た素敵な子になるといいね」

 きっと女性に頭の上がらない子が出来るよ。
 間違っても恋人にむかって「お前を殺す」なんて言い出さないことを祈るよ。
 そんな事を母さんに知られたら僕は子供を失ってしまう。

「女の子も翼に似てきっと素敵な子が産まれるよ」

 色んな意味で凄い子になるだろうね。
 タバコだけは吸わないように気をつけないと。

「でもよかった。善明に喜んでもらえて」

 喜ばないと僕が亡き者になってしまう。
 とりあえず僕の命は首の皮一枚でつながったとホッとしてるよ。
 しかし問題はこれからだ。
 色々準備をしないといけない。
 僕も翼に付き合わなければならない。
 会社としては大変な事になるだろう。

「お前の命はあらゆる意味で貴重なのだから大事にしなさい」

 僕が父さんに言われた事をそのまま伝えるんだろうな。

「いつ頃生まれるんだい?」

 翼に聞いてみた。

「来年の4月頃だそうです」
「気をつけておくれ」
「わかってます。母さんも見に来てくれるみたいだから」
 
 翼に子供が出来た。
 天音は悔しがっているみたいだ。

「大地!あなたなにやってるの!?」
「大地は悪くないんです。私に付き合ってくれてるし」

 予想とは裏腹に落ち込んでいる天音。
 そんな天音を支えるのが大地の役目でしょ!と大地の母親から怒られたそうだ。
 すこしでも地元経済の被害が減るといいな。
 そんな事を考えていた。
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