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とっておきの言葉
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(1)
「あら、志希君いらっしゃい。冬莉はちょっと時間かかるから上がって待ってて」
冬莉の母さんがそう言うと、靴を脱いで家に上がる。
すると見てはいけないものを見た気がした。
慌てて後ろを向く。
「茜!その恰好で部屋を出てはいけないと何回言ったら分かるの!?」
「だって暑いんだよ~愛莉」
「お客さんが来るときくらいちゃんと服を着なさい!」
そう、冬莉の姉の茜さんはパンツ一枚でキッチンにジュースを取りに来ていた。
母親から注意されても全く意味が無いみたいだ。
「大丈夫だって愛莉。冬莉の彼氏でしょ?どうせ冬莉以外に興味ないとかそんなんだって」
誠司達みたいにエロい目で見られることはないから大丈夫だと茜さんが主張する。
「そんなわけありません!馬鹿な事言ってないでさっさと部屋に戻りなさい!」
「志希だって私の事全然見てないじゃん」
さすがに正視できないよ。
そんなの冬莉にしれたら大変だ。
茜さんが部屋に戻っていくとリビングのソファに座る。
前には冬莉の父さんが座ってた。
「志希の家には女姉妹はいないの?」
「僕一人なんです」
「それじゃあ、いきなりあれは戸惑うよね」
冬莉の父さんは笑っていた。
「ちょっと冬莉も気合入れてるみたいだから来たら褒めてあげて」
冬莉の父さんはひそひそと僕に話す。
気合を入れてる?
どういう意味だろう。
「志希~待たせてごめん」
冬莉がやって来た。
「あ、さっき来たばかりだから大丈夫……」
声を失うとはこういう事だろうか?
ピンクの浴衣姿の冬莉を見て固まってしまた。
褒めてやれと言う言葉を思い出して頑張った。
「浴衣似合ってるよ。可愛いよ冬莉」
「ありがとう……で、そう言えってパパに言われたの?」
バレてるし。
「冬夜さんが言わなくても志希君ならそう思いますよ」
冬莉の母さんに助けられた。
「じゃ、バス無くなるから急ごう?」
「そうだね」
今はまだ15時過ぎ。
花火大会が始まるのは20時から。
十分に時間はある。
だけど地元独特の事情がある。
街まで自転車で行こうと思えば行けない距離じゃない。
だけど冬莉の恰好を見て自転車で行こうという発想はない。
前もって「会場までバスで行こう」と冬莉から提案があったからそのつもりでいた。
こんなサプライズがあるとは知らなかったけど。
街に行くバスは1時間に2本程度。
しかも今日は花火大会の日。
乗客も増える。
街について夕食を食べて会場に向かう時間を考えたらこのくらいが丁度いい。
冬莉も浴衣だ。
満員のバスの中立ってるのは辛いだろうし。
バスに乗って街に向かう。
「で、茜の体はどうだった?」
え?
冬莉の顔を見るとにこりと笑っていた。
「み、見てないよ!」
リビングに入って茜さんの姿を見たと同時に目を閉じて後ろを向いた。
「別にそんなに慌てないでよ。私だって志希の事信じてるよ」
ただ、片桐家に来る人は大体驚くか喜ぶかのどちらかだ。
冬莉の父さんも茜さんが突然ああなった時は慌てたらしい。
喜ぶのは誠司の父さん達らしい。
「まあ、流石にまだ茜みたいに成熟してないけどね」
「そんな事無いよ。冬莉も綺麗だよ」
「ありがとう……って言いたいけどそのセリフはNGだよ」
え?
「志希は私をどれだけ見たの?」
見ても無いのに褒めるなんてただのお世辞じゃないか。
冬莉の言う通りだな。
「ごめん」
「見たいならいつでもいいよ」
冬莉はそう言って笑っていた。
街につくとSHIPに向かう。
いつも駅ビルだから。
SHIPは飲食店に特化したスーパー。
いろいろな物が食べられる。
もちろんフードコートもあった。
冬莉は自分の恰好を分かっているのかどうか知らないけどとにかく食べる。
冬莉に恥をかかせられないから、僕も昼飯を抜いて精一杯食べた。
さすがにこれだけ食べると動けない。
そんな僕を見て冬莉は笑う。
「そんなに無理しないでいいのに。飲み物買ってきてあげる。烏龍茶でいいよね?」
「ごめん」
「あのさ、そうやって毎回謝るの止めようよ。私は謝ってほしくてやってるんじゃない。志希の気持ちはとてもうれしいんだよ」
そう言って冬莉は笑ってジュースを買いに行った。
烏龍茶を飲むと少し落ち着く。
「ま、会場までのんびり歩いていたら落ち着くでしょ」
そう言って会場まで歩く。
商店街に飾ってある短冊を見たりしながら。
会場までの途中にあるコンビニでおにぎり買ってる冬莉には恐怖を覚えた。
ちょうどいい時間だったみたいだ。
まだそこまで人も集まってなくて好きな場所で見ることが出来る。
冬莉の恰好をみたらさすがに土手は無理だろうと前の方に行く。
「そんなに前に行くと帰る時巻き込まれるよ?」
あ、そっか。
「こういうの慣れてなくてさ」
「知ってる。私が初めてなんでしょ?」
だから喜んで欲しいの。
冬莉はそう言っていた。
上の方に戻る際に冬莉はタコ焼きやら焼きそばやら買っていた。
下校途中にも凄い量を食べていたから気づいてはいたけど。
ただ気になったのは……。
「いつも思うんだけどさ……」
「どうしたの?」
「小遣い足りてる?」
「……志希がパパになってくれるの?」
「そんな中学生と付き合いたいの?」
「そんなわけ無いでしょ」
そう言って冬莉は僕の頭をこつんと叩いた。
まあ、当然小遣いが足りない。
だから足りなくなったら父さんにねだるんだそうだ。
自分の胸が大きいから父さんに押し当てたら誘惑できるかも。
しかしだいたい失敗するらしい。
冬莉の父さんは話がすぐ脱線する。
その間に風呂を済ませた母さんが冬莉を見つける。
そして冬莉の目的をあっさりと母さんに教える父さん。
毎回激怒させてるらしい。
「そんなに食べてスカートが入らなくなったなんて言っても知りませんよ!」
志希に嫌われますよ!
それでも、冬莉は動じないらしい。
「その時は志希にスカート選んでもらうからいい」
そんな時が来ないことを祈るしかない。
「それくらいでおどおどしないでよ。水着選んでくれたじゃない」
冬莉の姉の天音さんは彼氏に下着を選ばせようとしたらしい。
僕は笑うしかなかった。
やがて人が集まって暗くなってくるとアナウンスが流れる。
対岸から打ち上げられる花火に見とれていた。
ふと隣にいる冬莉を見た。
花火の光に照らされる冬莉の横顔に見とれていた。
冬莉がその事に気づく。
自然と手をつないでいた。
魅力ってそういう意味なんだろうか?
冬莉の手を放して冬莉の肩を抱く。
冬莉も察したのだろうか?
僕の方を見て目を閉じる。
人混みの中で初めてキスをした。
その後は冬莉と花火を見ていた。
手をつないだまま。
それは花火が終って帰る時も一緒だった。
バス停に向かう間冬莉が1人にならないように手をつないでいた。
バスに乗ると冬莉に席を譲る。
すると冬莉が笑みをこぼす。
「愛莉が言ってたんだけど、男の人って着物着てると優しくなるんだって」
冬莉の父さんも空さんも冬吾もみんな同じなんだと言っていた。
「ずっと着物でいようかな」
「その必要は無いよ」
「え?」
冬莉が僕の顔を見る。
「冬莉の事ずっと大事にするから」
すると冬莉は頬を赤らめる。
「それプロポーズ?まだ早いよ」
そう言って笑ってた。
バスを降りると冬莉の家に冬莉を送る。
「今日はありがとうね」
またね。
そう言って家に向かう冬莉を見ていて衝動的な行動だった。
冬莉の背後から冬莉を抱き締めていた。
「……今日はどうしたの?」
「わかんない」
ただ冬莉が愛おしい。
「……離して」
怒らせたのかな?
冬莉を離すと冬莉は僕の方に振り返る。
そして僕を抱きしめた。
「こうじゃないと志希とキスできない」
そう言ってキスをした。
いつもと違うキス。
ちょっとだけ大人の感じのキス。
「でもだめだよ」
え?
不安が襲う僕をみて冬莉が笑った。
「そうじゃなくてさ、志希泊まる準備してないでしょ?」
冬莉も浴衣の着方が分からない。
だからこれ以上はダメ。
そういう意味だったらしい
「でも、その調子なら大丈夫だね」
今度からいつこんな空気になってもいい様に準備しておくね。
冬莉はそう言って笑った。
「僕も準備しておくよ」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、また」
そう言って僕は振り返り家に帰ろうとすると、今度は冬莉が背後から抱きついていた。
「好きって意味やっと理解できた気がする」
離れたくない。
ずっとこのまま一緒にいたい。
そんな淋しい気持ちも含んでるんだと理解したらしい。
「帰ったら声を聞かせてほしい」
「わかった」
そう言って家に帰る。
風呂に入ってメッセージを送っていた。
「電話してもいい?」
するとしばらくして返事が来た。
「いいよ」
僕は冬莉に電話をして、冬莉と話をする。
すると冬莉は提案をしてきた。
「ビデオ通話しない?」
僕の顔を見たいらしい。
すぐにビデオ通話に切り替える。
すると冬莉が言った。
「愛莉の言ってた意味が今なら分かるんだ」
「どういう意味」
僕が聞くと冬莉は恥ずかしそうに答える。
「志希が大好きって意味だよ」
「……僕も大好きだよ」
一度転がり出すとずっと止まらない物。
勢い任せで手に入れたものは転がり出した。
その場しのぎで転がりながら、いつか光に届くまで転がっていくんだろう。
(2)
「お待たせ」
浴衣姿の瞳子が出て来た。
「浴衣似合ってるよ」
「ありがとう。じゃ、急ごう?」
そう言って瞳子とバス停に向かった。
バスに乗ると街に向かう。
「今日は冬莉もデートだって言ってたね」
「うん、志希が迎えに来るって言ってた」
きっと志希の奴驚くだろうな。
そう思って笑っていたら瞳子に聞かれたから答えた。
「まあ、志希だったらそうだろうね」
「だろ?」
「でもさ……」
ぽかっ
「彼女の前で考える事じゃないよ」
いくら妹とはいえ他の女性のそんな姿想像してたら悲しいと瞳子は言った。
「ごめん、そう言う意味で言ったんじゃないんだ」
冬莉も志希と付き合うまでは同じような状態だったし。
「まあ、冬吾君の事は信じてるけど」
瞳子だけしか興味ない。
「じゃあ、どうして?」
僕が聞くと瞳子が舌をペロッと出した。
なんかそういうやりとりも恋人らしくてやってみたかったらしい。
それで僕が慌てる様を見たかったんだそうだ。
バスを降りると商店街の中にある洋食屋さんに行く。
僕は大盛りサイズが凄い事になってる店。
瞳子は普通サイズのを食べていたけど。
その後は商店街に飾ってある短冊の願い事を見ながらゆっくりと歩いて会場に向かう。
ちょっとゆっくりし過ぎたみたいだ。
沢山の人が来ていた。
場所を確保して花火が打ちあがるのを待っていた。
出店は見なかった。
こんな人混みの中を連れまわしていい状態の瞳子じゃないし、瞳子一人残すことも出来ない。
ただ、入口にジュースが売っていたのでそれだけは買っておいた。
花火が上がり出すと皆それに見とれている。
右腕に何が温かい物が当たった。
見ると瞳子が腕に組みついている。
「えへっ」
そんな瞳子の笑顔が綺麗だった。
花火が終るとバス停に向かう。
大移動だ。
横断歩道の信号があってないような事になっていた。
バス停に辿り着くとまだ最終便は出ていない。
それに乗って家に帰る。
バスを降りて瞳子の家に送ると、僕は家に帰る。
「あら?今日泊まるんじゃなかったの?」
母さんが聞いていた。
「それがさ、準備忘れてた」
「男の子なんだからそのくらい平気でしょ?」
滅多にないんだから瞳子をがっかりさせてはいけないと母さんは言った。
父さんはとりあえず笑っていた。
風呂に入って部屋に戻ると瞳子とメッセージを打っている。
すると誰かがノックした。
「いいよ」
僕が返事すると部屋に入ってきたのは茜だった。
ちゃんとTシャツとショートパンツを穿いている。
「さすがに冬吾とあの格好で二人っきりは色々まずいなと思ってさ」
そう言って適当なところに茜が座る。
不思議だったので茜を見ていると茜が気づいた。
「なんだ?お姉ちゃんに欲情したか?」
「そうじゃなくてさ……」
どうして茜が僕の部屋に来たの?
そう茜に質問すると茜は答えた。
「いやあ、冬莉が彼氏とビデオ通話でイチャイチャしててさ、居心地悪いから逃げて来た」
冬莉がか……
「で、冬吾は何してるの?」
「瞳子とメッセージしてる」
「私が部屋に来てる事は言わない方がいいよ」
色々面倒になるから。
「でも冬吾もビデオ通話くらいしてあげたらいいのに」
まあ、今は夏休みだしそれもありかもしれないな。
でも瞳子が言ってたんだ。
「突然ビデオ通話は無理だよ。部屋にいる時はやっぱり油断してるし」
そう言ってた事を茜に伝える。
「やっぱそうだよね。家にいる時くらい解放されたいよ」
ひょっとして瞳子も下着姿かもしれないよ。
「カマかけてみたらいいんじゃない?”瞳子の下着姿が見たい”って……」
それ破滅の未来しか見えないんだけど。
しかし別の意味で破滅の時が来た。
「茜は弟に何を吹き込んでるのですか!」
茜が僕の部屋に入るのを見逃さなかったらしい。
母さんが部屋に来た。
「だって冬莉のラブラブっぷりの中いるのは居心地悪いよ」
「だったら茜も壱郎と一緒にいればよかったじゃないですか!?」
「それはちゃんと考えてるから大丈夫だって」
花火なんて暑いし人一杯で鬱陶しいし面倒だから行かなかっただけらしい。
「それがどうして冬吾の部屋にいる事に繋がるんですか?」
「パパと一緒ならいいの?」
「その恰好なら許します」
「じゃあ、パパでも誘惑してくるか。冬吾またね」
「茜!馬鹿な事を考えるんじゃありません!」
茜が出ていくと母さんも後を追う。
そんな話を瞳子としてる。
「うーん、ごめん。パジャマってわけじゃないんだけど」
ジャージにTシャツでいるらしい。
髪もまとめてるしあまり僕に見られたくないらしい。
一つ疑問があった。
「瞳子さ。キャンプする時は一緒に寝てるのに家だとやっぱり違うの?」
「キャンプする時は”冬吾君と一晩過ごす”って前提で準備してるから」
なるほどね。
「今度は山だね。楽しみだね」
「そうだね」
そんな話をしながら夜を過ごした。
朝になって聞いたけど茜が「パパ、たまには私と寝る?」って言ったらしくて母さんが激怒してたらしい。
「あら、志希君いらっしゃい。冬莉はちょっと時間かかるから上がって待ってて」
冬莉の母さんがそう言うと、靴を脱いで家に上がる。
すると見てはいけないものを見た気がした。
慌てて後ろを向く。
「茜!その恰好で部屋を出てはいけないと何回言ったら分かるの!?」
「だって暑いんだよ~愛莉」
「お客さんが来るときくらいちゃんと服を着なさい!」
そう、冬莉の姉の茜さんはパンツ一枚でキッチンにジュースを取りに来ていた。
母親から注意されても全く意味が無いみたいだ。
「大丈夫だって愛莉。冬莉の彼氏でしょ?どうせ冬莉以外に興味ないとかそんなんだって」
誠司達みたいにエロい目で見られることはないから大丈夫だと茜さんが主張する。
「そんなわけありません!馬鹿な事言ってないでさっさと部屋に戻りなさい!」
「志希だって私の事全然見てないじゃん」
さすがに正視できないよ。
そんなの冬莉にしれたら大変だ。
茜さんが部屋に戻っていくとリビングのソファに座る。
前には冬莉の父さんが座ってた。
「志希の家には女姉妹はいないの?」
「僕一人なんです」
「それじゃあ、いきなりあれは戸惑うよね」
冬莉の父さんは笑っていた。
「ちょっと冬莉も気合入れてるみたいだから来たら褒めてあげて」
冬莉の父さんはひそひそと僕に話す。
気合を入れてる?
どういう意味だろう。
「志希~待たせてごめん」
冬莉がやって来た。
「あ、さっき来たばかりだから大丈夫……」
声を失うとはこういう事だろうか?
ピンクの浴衣姿の冬莉を見て固まってしまた。
褒めてやれと言う言葉を思い出して頑張った。
「浴衣似合ってるよ。可愛いよ冬莉」
「ありがとう……で、そう言えってパパに言われたの?」
バレてるし。
「冬夜さんが言わなくても志希君ならそう思いますよ」
冬莉の母さんに助けられた。
「じゃ、バス無くなるから急ごう?」
「そうだね」
今はまだ15時過ぎ。
花火大会が始まるのは20時から。
十分に時間はある。
だけど地元独特の事情がある。
街まで自転車で行こうと思えば行けない距離じゃない。
だけど冬莉の恰好を見て自転車で行こうという発想はない。
前もって「会場までバスで行こう」と冬莉から提案があったからそのつもりでいた。
こんなサプライズがあるとは知らなかったけど。
街に行くバスは1時間に2本程度。
しかも今日は花火大会の日。
乗客も増える。
街について夕食を食べて会場に向かう時間を考えたらこのくらいが丁度いい。
冬莉も浴衣だ。
満員のバスの中立ってるのは辛いだろうし。
バスに乗って街に向かう。
「で、茜の体はどうだった?」
え?
冬莉の顔を見るとにこりと笑っていた。
「み、見てないよ!」
リビングに入って茜さんの姿を見たと同時に目を閉じて後ろを向いた。
「別にそんなに慌てないでよ。私だって志希の事信じてるよ」
ただ、片桐家に来る人は大体驚くか喜ぶかのどちらかだ。
冬莉の父さんも茜さんが突然ああなった時は慌てたらしい。
喜ぶのは誠司の父さん達らしい。
「まあ、流石にまだ茜みたいに成熟してないけどね」
「そんな事無いよ。冬莉も綺麗だよ」
「ありがとう……って言いたいけどそのセリフはNGだよ」
え?
「志希は私をどれだけ見たの?」
見ても無いのに褒めるなんてただのお世辞じゃないか。
冬莉の言う通りだな。
「ごめん」
「見たいならいつでもいいよ」
冬莉はそう言って笑っていた。
街につくとSHIPに向かう。
いつも駅ビルだから。
SHIPは飲食店に特化したスーパー。
いろいろな物が食べられる。
もちろんフードコートもあった。
冬莉は自分の恰好を分かっているのかどうか知らないけどとにかく食べる。
冬莉に恥をかかせられないから、僕も昼飯を抜いて精一杯食べた。
さすがにこれだけ食べると動けない。
そんな僕を見て冬莉は笑う。
「そんなに無理しないでいいのに。飲み物買ってきてあげる。烏龍茶でいいよね?」
「ごめん」
「あのさ、そうやって毎回謝るの止めようよ。私は謝ってほしくてやってるんじゃない。志希の気持ちはとてもうれしいんだよ」
そう言って冬莉は笑ってジュースを買いに行った。
烏龍茶を飲むと少し落ち着く。
「ま、会場までのんびり歩いていたら落ち着くでしょ」
そう言って会場まで歩く。
商店街に飾ってある短冊を見たりしながら。
会場までの途中にあるコンビニでおにぎり買ってる冬莉には恐怖を覚えた。
ちょうどいい時間だったみたいだ。
まだそこまで人も集まってなくて好きな場所で見ることが出来る。
冬莉の恰好をみたらさすがに土手は無理だろうと前の方に行く。
「そんなに前に行くと帰る時巻き込まれるよ?」
あ、そっか。
「こういうの慣れてなくてさ」
「知ってる。私が初めてなんでしょ?」
だから喜んで欲しいの。
冬莉はそう言っていた。
上の方に戻る際に冬莉はタコ焼きやら焼きそばやら買っていた。
下校途中にも凄い量を食べていたから気づいてはいたけど。
ただ気になったのは……。
「いつも思うんだけどさ……」
「どうしたの?」
「小遣い足りてる?」
「……志希がパパになってくれるの?」
「そんな中学生と付き合いたいの?」
「そんなわけ無いでしょ」
そう言って冬莉は僕の頭をこつんと叩いた。
まあ、当然小遣いが足りない。
だから足りなくなったら父さんにねだるんだそうだ。
自分の胸が大きいから父さんに押し当てたら誘惑できるかも。
しかしだいたい失敗するらしい。
冬莉の父さんは話がすぐ脱線する。
その間に風呂を済ませた母さんが冬莉を見つける。
そして冬莉の目的をあっさりと母さんに教える父さん。
毎回激怒させてるらしい。
「そんなに食べてスカートが入らなくなったなんて言っても知りませんよ!」
志希に嫌われますよ!
それでも、冬莉は動じないらしい。
「その時は志希にスカート選んでもらうからいい」
そんな時が来ないことを祈るしかない。
「それくらいでおどおどしないでよ。水着選んでくれたじゃない」
冬莉の姉の天音さんは彼氏に下着を選ばせようとしたらしい。
僕は笑うしかなかった。
やがて人が集まって暗くなってくるとアナウンスが流れる。
対岸から打ち上げられる花火に見とれていた。
ふと隣にいる冬莉を見た。
花火の光に照らされる冬莉の横顔に見とれていた。
冬莉がその事に気づく。
自然と手をつないでいた。
魅力ってそういう意味なんだろうか?
冬莉の手を放して冬莉の肩を抱く。
冬莉も察したのだろうか?
僕の方を見て目を閉じる。
人混みの中で初めてキスをした。
その後は冬莉と花火を見ていた。
手をつないだまま。
それは花火が終って帰る時も一緒だった。
バス停に向かう間冬莉が1人にならないように手をつないでいた。
バスに乗ると冬莉に席を譲る。
すると冬莉が笑みをこぼす。
「愛莉が言ってたんだけど、男の人って着物着てると優しくなるんだって」
冬莉の父さんも空さんも冬吾もみんな同じなんだと言っていた。
「ずっと着物でいようかな」
「その必要は無いよ」
「え?」
冬莉が僕の顔を見る。
「冬莉の事ずっと大事にするから」
すると冬莉は頬を赤らめる。
「それプロポーズ?まだ早いよ」
そう言って笑ってた。
バスを降りると冬莉の家に冬莉を送る。
「今日はありがとうね」
またね。
そう言って家に向かう冬莉を見ていて衝動的な行動だった。
冬莉の背後から冬莉を抱き締めていた。
「……今日はどうしたの?」
「わかんない」
ただ冬莉が愛おしい。
「……離して」
怒らせたのかな?
冬莉を離すと冬莉は僕の方に振り返る。
そして僕を抱きしめた。
「こうじゃないと志希とキスできない」
そう言ってキスをした。
いつもと違うキス。
ちょっとだけ大人の感じのキス。
「でもだめだよ」
え?
不安が襲う僕をみて冬莉が笑った。
「そうじゃなくてさ、志希泊まる準備してないでしょ?」
冬莉も浴衣の着方が分からない。
だからこれ以上はダメ。
そういう意味だったらしい
「でも、その調子なら大丈夫だね」
今度からいつこんな空気になってもいい様に準備しておくね。
冬莉はそう言って笑った。
「僕も準備しておくよ」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、また」
そう言って僕は振り返り家に帰ろうとすると、今度は冬莉が背後から抱きついていた。
「好きって意味やっと理解できた気がする」
離れたくない。
ずっとこのまま一緒にいたい。
そんな淋しい気持ちも含んでるんだと理解したらしい。
「帰ったら声を聞かせてほしい」
「わかった」
そう言って家に帰る。
風呂に入ってメッセージを送っていた。
「電話してもいい?」
するとしばらくして返事が来た。
「いいよ」
僕は冬莉に電話をして、冬莉と話をする。
すると冬莉は提案をしてきた。
「ビデオ通話しない?」
僕の顔を見たいらしい。
すぐにビデオ通話に切り替える。
すると冬莉が言った。
「愛莉の言ってた意味が今なら分かるんだ」
「どういう意味」
僕が聞くと冬莉は恥ずかしそうに答える。
「志希が大好きって意味だよ」
「……僕も大好きだよ」
一度転がり出すとずっと止まらない物。
勢い任せで手に入れたものは転がり出した。
その場しのぎで転がりながら、いつか光に届くまで転がっていくんだろう。
(2)
「お待たせ」
浴衣姿の瞳子が出て来た。
「浴衣似合ってるよ」
「ありがとう。じゃ、急ごう?」
そう言って瞳子とバス停に向かった。
バスに乗ると街に向かう。
「今日は冬莉もデートだって言ってたね」
「うん、志希が迎えに来るって言ってた」
きっと志希の奴驚くだろうな。
そう思って笑っていたら瞳子に聞かれたから答えた。
「まあ、志希だったらそうだろうね」
「だろ?」
「でもさ……」
ぽかっ
「彼女の前で考える事じゃないよ」
いくら妹とはいえ他の女性のそんな姿想像してたら悲しいと瞳子は言った。
「ごめん、そう言う意味で言ったんじゃないんだ」
冬莉も志希と付き合うまでは同じような状態だったし。
「まあ、冬吾君の事は信じてるけど」
瞳子だけしか興味ない。
「じゃあ、どうして?」
僕が聞くと瞳子が舌をペロッと出した。
なんかそういうやりとりも恋人らしくてやってみたかったらしい。
それで僕が慌てる様を見たかったんだそうだ。
バスを降りると商店街の中にある洋食屋さんに行く。
僕は大盛りサイズが凄い事になってる店。
瞳子は普通サイズのを食べていたけど。
その後は商店街に飾ってある短冊の願い事を見ながらゆっくりと歩いて会場に向かう。
ちょっとゆっくりし過ぎたみたいだ。
沢山の人が来ていた。
場所を確保して花火が打ちあがるのを待っていた。
出店は見なかった。
こんな人混みの中を連れまわしていい状態の瞳子じゃないし、瞳子一人残すことも出来ない。
ただ、入口にジュースが売っていたのでそれだけは買っておいた。
花火が上がり出すと皆それに見とれている。
右腕に何が温かい物が当たった。
見ると瞳子が腕に組みついている。
「えへっ」
そんな瞳子の笑顔が綺麗だった。
花火が終るとバス停に向かう。
大移動だ。
横断歩道の信号があってないような事になっていた。
バス停に辿り着くとまだ最終便は出ていない。
それに乗って家に帰る。
バスを降りて瞳子の家に送ると、僕は家に帰る。
「あら?今日泊まるんじゃなかったの?」
母さんが聞いていた。
「それがさ、準備忘れてた」
「男の子なんだからそのくらい平気でしょ?」
滅多にないんだから瞳子をがっかりさせてはいけないと母さんは言った。
父さんはとりあえず笑っていた。
風呂に入って部屋に戻ると瞳子とメッセージを打っている。
すると誰かがノックした。
「いいよ」
僕が返事すると部屋に入ってきたのは茜だった。
ちゃんとTシャツとショートパンツを穿いている。
「さすがに冬吾とあの格好で二人っきりは色々まずいなと思ってさ」
そう言って適当なところに茜が座る。
不思議だったので茜を見ていると茜が気づいた。
「なんだ?お姉ちゃんに欲情したか?」
「そうじゃなくてさ……」
どうして茜が僕の部屋に来たの?
そう茜に質問すると茜は答えた。
「いやあ、冬莉が彼氏とビデオ通話でイチャイチャしててさ、居心地悪いから逃げて来た」
冬莉がか……
「で、冬吾は何してるの?」
「瞳子とメッセージしてる」
「私が部屋に来てる事は言わない方がいいよ」
色々面倒になるから。
「でも冬吾もビデオ通話くらいしてあげたらいいのに」
まあ、今は夏休みだしそれもありかもしれないな。
でも瞳子が言ってたんだ。
「突然ビデオ通話は無理だよ。部屋にいる時はやっぱり油断してるし」
そう言ってた事を茜に伝える。
「やっぱそうだよね。家にいる時くらい解放されたいよ」
ひょっとして瞳子も下着姿かもしれないよ。
「カマかけてみたらいいんじゃない?”瞳子の下着姿が見たい”って……」
それ破滅の未来しか見えないんだけど。
しかし別の意味で破滅の時が来た。
「茜は弟に何を吹き込んでるのですか!」
茜が僕の部屋に入るのを見逃さなかったらしい。
母さんが部屋に来た。
「だって冬莉のラブラブっぷりの中いるのは居心地悪いよ」
「だったら茜も壱郎と一緒にいればよかったじゃないですか!?」
「それはちゃんと考えてるから大丈夫だって」
花火なんて暑いし人一杯で鬱陶しいし面倒だから行かなかっただけらしい。
「それがどうして冬吾の部屋にいる事に繋がるんですか?」
「パパと一緒ならいいの?」
「その恰好なら許します」
「じゃあ、パパでも誘惑してくるか。冬吾またね」
「茜!馬鹿な事を考えるんじゃありません!」
茜が出ていくと母さんも後を追う。
そんな話を瞳子としてる。
「うーん、ごめん。パジャマってわけじゃないんだけど」
ジャージにTシャツでいるらしい。
髪もまとめてるしあまり僕に見られたくないらしい。
一つ疑問があった。
「瞳子さ。キャンプする時は一緒に寝てるのに家だとやっぱり違うの?」
「キャンプする時は”冬吾君と一晩過ごす”って前提で準備してるから」
なるほどね。
「今度は山だね。楽しみだね」
「そうだね」
そんな話をしながら夜を過ごした。
朝になって聞いたけど茜が「パパ、たまには私と寝る?」って言ったらしくて母さんが激怒してたらしい。
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この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
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