姉妹チート

和希

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力強く

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(1)

「もうちょっとで出来るから先支度してろよ」

 天音の言う通りに洗面台に向かう。
 天音は意外とお洒落好きらしい。
 だから髪形がちょっとでもおかしいと怒られる。
 
「嫁に恥をかかせて何とも思わないのか!?」

 まあ、姉さんからも言われてきた事だけど。
 今は天音がしてくれたように同じように整えている。
 すると不思議な事が起きた。
 茉莉と結莉がついてきた。
 そして小さいブラシを持って同じように髪を梳かしている。
 その後「抱っこ」と言って抱きかかえてやると顔を洗い始めた。
 
「結莉も!!」

 結莉も言い出したので一人ずつ順番に整えてやる。

「あ、こっちにいたのか。パパの邪魔したらダメだろ?」

 天音がそう言っていた。
 天音に聞いてみた。

「ああ、なんか私達の真似をするのが好きみたいでな」

 なるほど。
 そうやって歯磨きとかも覚えていくらしい。
 この二人は同じくらいの子と比べると異常に成長速度が速い。
 まだ「あーあー」とか「ぶーぶー」とかしか喋らない子が多いのに「お腹空いたー」とかはっきりと言葉をしゃべる。
 母さん達にも聞いたけどやっぱり早いらしい。
 しかし問題もあった。
 天音を見て育っているわけだから当然なんだけど天音に似てきている。
 僕の事を「パパ」と言ってくれるのが奇跡なくらいに。
 僕が仕事に出かける時も「行ってらっしゃい」じゃなくて「天使とダンスでもしてな!」と悪びれもなく言う。
 少しでも女の子らしくと義母さん達が買って来た人形を五体バラバラに引き裂くのが好きらしい。
 天音もとりあえず笑っておけというくらいだ。
 茉莉は退屈そうに幼児向け番組を見るけど結莉は退屈になると寝る。
 お腹が空くのだろうか?
 夕食の時間になるときっちり起きる。 
 あとは僕が帰ってくるとすぐに玄関に迎えに来る。
 もう両足でよちよち歩き始めていた。
 そして僕を見ると「抱っこー」と嬉しそうに言う。
 僕は結莉を抱えてやって「ただいま」というと「パパー」と言う。

「結莉は本当に大地が好きなんだな」

 天音はそう言って笑っていた。
 夕食の後風呂に入れてやる。
 最近は風呂に入った後は寝るだけだと理解したようだ。
 すぐに寝ていた。
 そんな二人の幸せそうな寝顔を見て寝室から出る。
 夜泣きもしないし、そろそろ部屋を分けてもいいんじゃないか?と天音に相談してみた。

「そんなに私を抱きたくなったか?」

 天音はそう言って笑う。

「それもあるけどね。早く欲しいんだろ?男の子」
「茉莉と結莉でああだからな。男の子が楽しみだよな」

 僕は笑うしかなかった。
 あの性格の男の子になったらどうなるんだろう?

「それは嬉しいんだけど、ちょっと相談に乗ってくれないか?」

 相談?

「どうしたの?」

 僕は天音の隣に座った。
 すると天音は少し俯いてた。

「私母親失格なのかな?」
  
 え?

「何かあったの?」
「あの性格どう考えても私似だろ?」

 まあそうだろうね。

「それは別にいいんじゃないの?」
「私の家の娘ならいいけど、大地の家の娘だろ?」

 もっと大人しい女の子の方がいいんじゃないかと悩んでいるらしい。
 天音でも悩むことあるんだな……。

「子供の教育で一番重要視するのは善悪の区別だと思うんだよね」

 天音が他人に向かって水鉄砲を撃ったらいけないと言ったら撃たなくなった。
 ただ「ばーん」というだけ。
 一つずつ例を作って教えて行けばいい。
 天音は確かにやんちゃだったけど、ちゃんと判断は出来ていた。
 天音が一番知ってる事。
 そうやって不安になるより子供達を信じて見守ってやればいい。
 多分そういう事じゃないのかな?

「ならいいんだけど、恵美さんに申し訳ない気がして……」
「母さん達には相談したの?」
「一応な……」

 まだそこまで気にする時期じゃない。
 ただ危険な真似をしないように注意してなさい。
 そう言われたらしい。
 僕もそう思う。
 そして、何よりも……。

「天音はどんな子にしたいの?」

 僕が天音に聞くと天音は答えた。

「わからない。ただ元気に育って幸せになってくれたらいい」
「それでいいじゃないか」
「え?」

 僕は天音の顔を見た。
 今は元気にすくすく育ってる。
 性格がねじれているという事も無い。
 悪い事に手を染めようとしたら注意したらいい。
 根は素直な子なのは分かってる。

「だめだよ」

 その一言できっと理解してしまうだろう。
 天音の子なんだから僕達の言ってる意味くらい分かると思う。

「……でもさ」
「どうしたの?」
「大地はどんな娘に育って欲しいんだ?」

 天音が聞いてきた。

「天音と一緒だよ」
 
 娘だからよく分からない。
 でも天音のような元気で明るい子に育って幸せになってくれたらいい。
 今はそれだけを願っている。
 すると天音は笑った。
 将来どんな人を選ぶんだろう?
 父さんは「自分の背中を見て育つのだから娘から見た自分にそっくりな人を見つけて来る」と言ってた。
 だからろくでもない男を連れてきたときはまず自分が反省しろって。
 僕もしっかりしないとな。
 まだ当分先の事だろう。
 どんな彼氏を連れてくるのだろうか僕達には想像できなかった。

(2)

「やあ、待たせてごめんよ」
「大丈夫です。それより善明は大丈夫なんですか?」

 家に帰らないで大丈夫なのか?と大地は聞いてきた。

「それなら心配ないよ。大地と相談があるから遅くなるって伝えてある」

 もっとも「何の相談ですか?」と聞かれたけど。
 育児については大地の方が経験はある。
 光太達に聞いたらとんでもない事になりそうだから止めておいた。
 府内町の居酒屋に入ると席に案内されて注文をとる。
 大丈夫。相談があるって言ったろ。
 そんな宴会の時みたいに酔うほど飲まないよ。
 翼が育児をしてるのに僕がそんな真似したら僕の運命が尽きる。

「で、何があったんですか?」

 大地が聞いてきた。

「それが何も無いんだ」
「え?」

 そう、何も無い。
 秋久は本当に大人しい。
 大人しいというか自分の運命を悟っているかのような雰囲気を出している。
 喋るようになったけど自己主張をまったくしない。
 ボールを転がすと面倒臭そうにハイハイして拾って翼に渡すんだそうだ。
 男の子なのに、結莉や茉莉に比べると無駄な動きを一切しない。
 翼が相談してくるほどだ。
 母さんは「ある程度したらその情けない根性を叩きなおしてやるから心配しなくていい」と言ったそうだ。
 なんとかしないと小学生になる前に南極で寒中水泳なんてことになりかねない。
 僕はそれを経験した。

「陽葵と菫はどうなんですか?」
「それは問題ない」

 離乳食になって秋久の食事を奪うなんてことはしなくなった。
 ただ、翼が秋久を抱っこしてると「うー」と唸るそうだ。
 あとは翼の見えないところで秋久に色々悪さしてるらしい。
 翼の見える範囲では多分大地が理想としている「大人しい女の子」なのだろう。
 決して母さんに向かって「ばばあ」とか言わないよ。
 ちなみに大地達は解決策を見出したらしい。
 天音の母さんの事は「あーり」、大地の母さんの事は「えみ」と呼ぶようになったらしい。
 あとは結莉の「ガッデム」をどうにかしないとまずい。
 天音と今考えているそうだ。
 と、いっても結莉に「こんにちは」という言葉を教えるだけでいいんだけど小さい子はなかなか興味ない事は覚えない。
 天音も流石にやり過ぎたと反省して童話や子供向けの洋画のアニメを見せたりしてるけどね。
 童話と言ってもいたって普通の童話。
 美希が好んでいる「復讐劇」なんてものじゃない。
 しかし一度ついた癖は治りにくい。
 そんなありきたりの話だと二人共退屈して眠ってしまう。
 厄介なのは一番先に天音が寝てしまう事。

「大地も苦労してるんだね」
「善明もこれからが本番ですよ」

 子供が成長すると出来る事が増えて行く。
 それはRPGのレベルが上がると行ける場所が増えるように。
 その時に放っておくととんでも無い方向へ成長していく。
 そんな話をしていると大地が少し考えていた。

「これは僕の経験上の話なんですけど」
「何かいい案があるのかい?」

 大地は頷いて話し出した。
 大地も小さい時姉さんに弄られていたそうだ。
 弟の世話をするのが好きな時期があるんだそうだ。
 だから一姫二太郎って言うんだろう。
 そのうち陽葵と菫にもそんな意識が芽生えて秋久の世話を始めるんじゃないか?
 大地はそう言った。
 そう言われるとそうかもしれない。
 僕は長男だったけど妹の祈に散々揶揄われたね。
 半分以上馬鹿にしていた。
 ある程度話をすると時間を見て店を出る。
 家に帰ると翼が驚いてた。

「今日は大地と飲んでくるって言ってなかった?」
「一軒よっただけだよ」

 陽葵達をおいて夜遊びなんて自殺行為はごめんだね。

「それなら何か締めのご飯でも用意しましょうか?」
「それはいいけど陽葵たちは大丈夫なのかい?」

 僕がそう言うと翼はニヤリと笑った。
 美希が陽葵たちから離れると壁に手をやって支えて立っていた。
 それはすごいんだけど……。
 秋久の様子がどうも気になった。
 試してみるか。
 秋久の両手を掴んで上に万歳させて手を放す。
 普通は転ぶだろう。
 だけど秋久は立っていた。
 多分陽葵達の真似をしていればいいと思ったのだろう。
 だから敢えて壁に手をやって支えていた。
 そんな雰囲気を悟ってしまったので試してみた。

「うそ……いくらなんでもまだ早いんじゃないの」

 この子は僕達の気づかないところで力を蓄えて成長していた。
 それを妬んだ菫が秋久に体当たりする。
 秋久は転ぶ。
 やっぱり僕の子供なんだ。
 秋久は泣かずに何事も無かったかのように座っていた。
 時間的に限界だったんだろう。
 眠そうにしている。
 菫はそのまま寝転んで寝ようとしていた。
 翼が抱きかかえて寝室に連れて行こうとしているのを止めて僕は3人を抱えて寝室に行く。
 秋久はベッドに入るなりすぐに寝る。
 今は寝る時間。休息の時間だと認識しているんだろう。
 末恐ろしい子だ。
 一方陽葵と菫はまだ普通の赤ちゃんだった。
 僕が部屋を出ようとすると喚きだす。
 しょうがないから眠りにつくまで側にいてやる。
 しばらくして眠ったのを見て部屋をそっと出る。
 翼がお茶漬けを用意してくれていた。

「お疲れ様です。助かりました」
「翼こそ毎日苦労かけるね」

 そう言ってお茶漬けを食べる。

「でも善明はどうして気づいたの?」

 秋久が自立できることを察した事が不思議だったらしい。
 僕は小さい頃から訓練を受けている。
 だから観察眼が凄い。
 それで気づいた。
 秋久が仕方なく立ってからその後に手をめんどくさそうに壁につけているのを。

「やっぱり善明の息子なんだね」
 
 そう言って翼もお茶を飲んでいた。
 うん、秋久は間違いなく僕の血を継いでいるよ。
 だから将来が不安だった。
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