姉妹チート

和希

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君の嘘

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(1)

 朝食を食べると制服に着替える。
 頼子は念入りに洗面所で準備をしていた。
 理由は何となく分かった。
 
「頼子。そんなに気合入れ過ぎなのも考え物だよ?」

 とりあえず会ってみるくらいの気持ちでいいんじゃない?
 絶対に付き合わないといけないって事もないんだし。

「冬莉の言う事も分かるけどさ」

 この恋こそは、このチャンスだけは逃したくない。
 そんなに出会いのチャンスなんてない。
 折角のチャンスをものにしたい。
 そう思うとどうしても力が入ってしまうらしい。
 昨夜も遅くまでメッセージしてたな。
 
「分かったけど、あまり時間かけすぎると遅刻しちゃうよ」
「あ、そうだね!」
 
 最後に鏡を見てささっと整えて荷物を持って部屋を出る。
 大体の生徒が揃っていた。
 それからバスに乗り込んでテーマパークに移動する。
 冬吾はその複雑な道路の構造に見とれていた。
 パパも同じだったと愛莉が言っていた。
 すぐにテーマパークに着く。
 ゲート前で集合して注意事項を聞いて自由行動になる。

「頼子、こっち!」

 誠司が呼んでいた。
 誠司の隣には見た目は好物件の男子がいた。
 
「こいつ立花颯真。颯真、この女子が石原頼子さん」

 誠司が紹介すると颯真はにこりと笑って「よろしくお願いします」と言った。
 立花颯真。
 名前くらいは聞いた事ある。
 女子の中でも結構人気のある男子。
 そんな好物件がフリーなのか?
 大丈夫なのだろうか?
 しかし、頼子は舞い上がっていたみたいだ。

「石原頼子です。よろしくお願いします」
「頼子さんですね。よろしくお願いします」

 そう言って握手を求める颯真。
 その甘い声にころっといってしまったらしい。
 
「じゃ、行こうか。ここなら前に来たことあるからおすすめの場所紹介するよ」
 
 みんなと行動した方がいいでしょ?
 颯真が言うと誰も反対しなかった。
 待ち時間がやたらと長い。
 天音はこれを我慢できたのだろうか?
 そんな事を考えながら颯真と頼子を見ていた。

「立花君は彼女いたんですか?」
「残念ながらずっといなかったんだ」
「どうして?」

 颯真にいないなんて、颯真が同性愛者でもない限りあり得ないと思ったんだろう。
 
「そんなに頼子さんが思ってる程モテてないよ」
 
 颯真はそう言って笑う。
 互いに女子がけん制しあっていたんだろう。

「抜け駆けすんなよこのアマ」

 そんな状況で誰も颯真に声をかけなかったと言ったところか。
 その証拠に泉ですら颯真に見とれていた。
 男子達は苦笑いしていた。
 隣に立っている志希ですら心中穏やかではないらしい。
 しょうがない彼氏だ。

 ぽかっ

「私が彼に気持ちが移ると思った?」
「あ、いや。それはない……と、思う」
「諦めた方がいいよ。私志希以外の男子になんて興味ないから」
「それはありがとう」

 志希はしっかり私の手を掴んでいた。
 余程不安なんだな。
 手を離すと志希の腕に組みついた。

「これなら心配ないでしょ?」
「そうだね」

 そんな光景を見ていた颯真も頼子に言っていた。

「僕達も手くらい繋ごうか?」
「いいんですか?」
「頼子さんが良いなら」

 そう言って2人は手をつないでいた。
 彼は色々話題を持っている。
 その話に頼子は夢中になっていた。
 もちろん2人だけの世界を作り出すわけじゃない。
 私達にも色々話題を振っていた。
 昼食の間も彼が中心だった。
 本当に彼女いなかったのか?と疑いたくなるほど慣れている。
 だけど彼の心を覗いた感じ嘘をついているようには思えなかった。
 だから誰もが同じ事を聞いていた。

「好きな女子とかいなかったんですか?」

 頼子が言うと彼の気持ちが初めて動揺した。

「……いたよ」

 物凄く悲しそうな顔をしていた。

「告白しなかったのか?」

 誠司が聞いていた。
 颯真が告白したら誰もが受け入れるだろう。
 しかし颯真の返事は違っていた。

「出来なかった」
「何で?」

 あまり深入りしない方がいいんじゃないか?
 冬吾もそう思ったらしく初めて口出しした。

「誠司、あまり深入りしない方がいい」
「……冬吾が言うならそうなんだろうな」

 多分その話を聞いていいのは頼子だけ。
 そう思ったのだろう。

「しけた話になってごめん」

 颯真はそう言って笑っていた。
 集合時間になるとゲート前に戻る。
 そしてホテルに帰って話をしていたら頼子のスマホが鳴った。
 多分颯真からだろう。

「お風呂の後に会えるかな?」
「わかった……」

 頼子はそう返していた。

「で、冬莉は何か感づいてるんじゃないの?」
 
 冴が聞いていた。
 多分、冬吾も同じ事を感じていたはずだ。

「後悔」

 その一言が彼を臆病にさせている。
 誠司に似ているかもしれない。

「自分に恋愛をする資格がない」

 そんな事故嫌悪に陥ってると説明した。

「でも付き合ってる人いなかったって言ってたよ?」

 瞳子が聞く。

「だから何となく想像がついたの」

 告白しようとしても出来なかった事態。

「まあ、きっと頼子に話してみようと決意したんじゃないかな?」
「どうして?」

 頼子が聞いてきた。
 私はくすっと笑って頼子に言った。

「簡単だよ。その謎の過去を晒した上で自分を受け入れて欲しいと思ったから」
「それって……」

 瞳子が言うと頷いた。
 多分瞳子の考えが正解だと思う。
 
「そろそろ夕食の時間じゃない?」

 泉が言うと時計を見る。
 私達は部屋を出た。

(2)

 夕食を食べている間も緊張していた。
 味が良く分からなかった。

「今からそんなに固くなってもしょうがないよ」

 冬莉がそう言って笑う。
 夕食を食べた後お風呂に入って部屋に一度戻って荷物を片付けると約束のロビーにやって来た。
 立花君が先に待っていた。

「来てくれてありがとう」
「大丈夫、まだ自由行動時間だし」
「とりあえず座って」

 立花君がそういうので座った。
 立花君も私の隣に座ると深呼吸して言った。

「これは頼子さんには絶対言っておかないといけない事だと思ったから」

 誰にも話したことのない彼だけの秘密を打ち明けてくれるらしい。
 彼には幼馴染の女の子がいた。
 とても明るくて元気な子。
 もちろん彼は好きになっていた。
 だけど幼馴染というポジションはとても優しい。
 いつまでも続けばいい。
 そう思っていたらしい。
 しかしそんな彼女もやっぱり人気があった。
 告白を受けているシーンに遭遇したらしい。
 咄嗟に身を隠して聞いていた。

「ごめん、好きな人がいるの」

 思春期ならあり得る話だろう。
 立花君にはショックだったらしくてそのまま帰ったらしい。
 それから突然彼女が倒れたり病院で過ごす時間が出て来た。

「なんか重い病なのか?」
「ちょっと立ち眩みしただけ」

 そうは言うものの入院の頻度は高くなってきた。
 次第に体が動かなくなったらしくて車いすで行動していた。
 そんなある日彼女が立花君に聞いた。

「颯真は誰か好きな人いるの?」
「……いるわけないだろ?」

 咄嗟に嘘を吐いた。

「そっか」

 3学期が始まる頃には彼女は殆ど病室で過ごしていた。

「颯真さ、キスしたこともないんでしょ?」
「そうだけど」
「じゃあ、私がもらってあげるよ」

 そう言ってキスはしたらしい。
 彼女は原因不明の病に侵されていることを彼女の両親から知らされたのは彼女が亡くなった後だった。
 
「絶対に言わないで欲しい」

 そうお願いされていたらしい。
 そして両親から手紙を受け取った。
 彼女がもしもの事があったら立花君に渡して欲しい。
 彼は自分の家で手紙を読んで呆然とした。
 彼女が原因不明の不治の病に侵されていたこと。
 彼女は立花君が好きだったこと。
 彼女が告白されたとき立花君が聞いていることに気づいていた事。
 だから咄嗟に「好きな人はいる」と答えた。
 自分の命が僅かだと思った時せめて立花君に自分の初めてのキスだけはプレゼントしたかった。
 そして最後の一文を読んだ時、立花君は泣いたらしい。

「ごめんね。私は颯真が好きだった。颯真といれて幸せだった。颯真もいつか好きな人と幸せになって」

 後悔したらしい。
 どうして彼女に好きって言ってやらなかった。
 自分の気持ちにどうして嘘を吐いた。
 その結果が今だ。
 自分は一生恋をしない。
 そう決意したらしい。
 だけど私に会ってしまった。 
 彼女にそっくりな私に会ってしまった。
 これは立花君にやり直す機会を与えてくれたんじゃないのか?
 だから私に優しくした。
 だけど私が笑うたびに彼女を思い出してしまう。
 また自分の気持ちを隠したまま過ごすのか?
 同じ事を繰り返したくない。
 だから立花君が今思っていることを打ち明けよう。
 あとは私が受け入れてくれることを願うだけ。

「皆僕の事を女性の扱いが上手いって言うけどそんな事ない。自分の好きだった人に好きと言えないダメな男だよ」

 立花君がそう言った。

「じゃあ、今伝えてよ」
「え?」

 立花君が私の顔を見る。
 伝える時があるとしたら今だよ。
 同じ事を繰り返すつもりはないんでしょ?
 だから今伝えて欲しい。

「僕にそんな資格あるんだろうか?」
「資格があるのかどうかは誰が決めるの?」

 私と立花君の問題なんだから2人で決めたらいいじゃない。
 立花君は少し考えてから静かに言った。

「僕は頼子さんが好きだ。できればずっとそばにいて欲しい」
「頼子」

 私がそう言うと彼は私の顔を見ていた。

「颯真って呼んでいいかな?」

 ちょっと照れ臭いけど。

「頼子……大好きだ」

 颯真はそう言って私を抱きしめる。
 当然、他の生徒が見ている。

「大丈夫だよ。私はどこにも行かないから」

 ずっと一緒にいてあげる。

「ありがとう」
「お前達!何をやってるんだ!?」

 体育の教師が怒鳴りつけた。
 どうして体育教師ってこういう奴が多いんだろう?
 時間も消灯時間に近づいていたから「また明日」と言って部屋に戻った。

「なるほどね、そんな過去があったんだ」

 何かあると思っていた冬莉は納得したらしい。
 
「誠司の奴実は知ってたんじゃない?」

 冴が言う。
 冬莉がメッセージを打っている。
 返事が返ってくると冬莉が言った。
 冴の言う事は少し当たっていた。
 旅行前に相談を受けていたらしい。

「頼子さんって今彼氏いるのかな?」

 そんな相談を受けていたそうだ。
 その理由は知らなかったらしいけど。

「じゃあ、頼子も早い所初めてのキスプレゼントしてあげないとね」

 冬莉がそう言って笑っていた。

「あと一日で終わりか」

 瞳子が言うと冴が言う。

「その残りの一日が大事な日なんだよ」

 最終日は水族館に行くだけ。
 水族館という場所はデートには丁度いい反面、男子の本性が見える。
 退屈そうにしてる男子なんかは要注意だと冴が言う。
 
「多分冬吾達は大丈夫だよ」

 冬莉が言った。
 今頃「決して笑顔を絶やすな!」とか色々相談してるだろう。
 そんな苦労をしてくれる人が大好きなんだ。
 精々振り回してやろう。
 そう言って眠ることにした。
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