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(1)
「はい、結。お口開けて」
結莉がそう言うと素直に口を開ける冬夜。
結莉は口の中に肉を入れて食べさせている。
そんな光景を皆が見ていた。
「あれはやっぱり結莉というか肉につられてるんだろうな……」
カンナが言っていた。
「多分そうだと思う」
美希も結を見ながら言ってた。
ちなみに空達がやろうとすると結莉が怒り出す。
茉莉は我関せずと黙々と肉を食べていた。
大地はただ笑っていた。
その態度が恵美さんは気に食わなかったらしい。
「結莉の将来の婿さんが決まって良い事なのになんて顔してるの!?」
いとこ婚は考えていないと思うんだけど……多分。
空達は結と結莉の様子を見ながら自分も食べていた。
多分結莉に任せて大丈夫だと思ったのだろう。
結莉達は天音がちゃんと躾けているらしい。
まだ火のあるところは危ないから近づいたらいけない。
結は今日また新たな能力を発現した。
桐谷君が火を起こそうと必死になってるのを結が見ていた。
すると突然炭が燃え上がる。
桐谷君も驚いたらしい。
「お前の孫はどうなってんだ?」
誠も流石に驚いたみたいだ。
もちろん結も火は危ないと認識してるみたいでその能力で遊んだりはしない。
美希も空も初めて見たらしい。
愛莉も美希も困っていた。
これで結莉や茉莉のような性格だったらとぞっとする。
よく天音は「焼却炉に放り込んでやる」と言っていたが、冬夜は文字通り「その場で燃やす」だろう。
美希も流石に自信がなくなったみたいだ。
初めての赤ちゃんがこれじゃ無理もない。
愛莉も一緒にみてあげるからと言っていた。
まあ、このやる気の無さは僕を見たのか空を見て来たからか分からないけど。
「冬夜、安心するのはまだ早い」
渡辺君が言う。
それは僕も同じ事を考えていた。
もしこれで僕や空の様にキレると何するか分からない性格だと確実に死人を作るだろう。
「空も出来るだけ結から目を離さないで」
それくらいしかアドバイスできない。
しかし結だけじゃない。
結が異常過ぎるだけだ。
結莉や茉莉もそれなりの能力がある。
家で遊んでる時は2人ともきゃっきゃとなれあってるわけじゃない。
クリスマスプレゼントで買ってもらったモデルガンを使ってガンアクションを繰り広げてるらしい。
それでも様々な遮蔽物を利用したり飛び込んで前転して相手に銃口を向けたり。
訓練を受けなくていいんじゃないかというくらいの動きをするらしい。
もちろん天音は愛莉に叱られていた。
「あなた自分の娘に何を渡してるの!」
天音は笑って誤魔化してた。
水鉄砲じゃ人に向けて撃つから弾を撃てないモデルガンにしたらしい。
するとガンアクションをして遊びだした。
どこでそんなの覚えたのか?
天音のやってるゲームを見ていたそうだ。
「その理屈で言うと水奈の子供もやばそうだな……」
誠が言う。
カンナも水奈の家に行くたびに注意してるらしい。
子供の育児には手を貸さないとはいえ、結莉達や水奈の子供は危険すぎる。
水奈や天音ですら小学校で事件を作り出してきたのだから。
陽葵と菫はともかく、秋久は相変わらずだ。
翼が取り皿に焼けた肉を取って食べさせようとしている。
だけど陽葵と菫だけが食べていた。
秋久は食べれなくて泣き出すかと思ったけど、そんな生易しい物じゃなかった。
水と緊急用のゼリー状の食材を食べていた。
牛筋煮込み味なんてものも売ってるらしい。
食べないと生きていけない。
だけど必要最低限の栄養を補給できていればいいと分かってるのだろうか?
慌てて美希が別の皿に秋久用の肉を取っていた。
「いい?子供の前で馬鹿な歌は絶対歌うんじゃないよ!」
光太に母親の香織さんが注意していた
翼や天音が男性陣に文句を言っていたから。
この歳であんな歌を歌われたら母親的にはたまらないのだろう。
しかし香織さんは分かっていなかった。
僕達の中で一番危険なのは光太なんかじゃない……
「やっぱりあの歌歌うしかねーよな!瑛大」
「だよな、あれしかねーよ!」
そう言って誠や桐谷君が歌いだす。
すぐにカンナや亜依さんが怒り出す。
「小さい子もいるのに何を考えているんだお前は!?」
「いい加減にしろ!そんな事ばっかりやってるから千帆達に嫌われるんだろうが!」
BBQが終ると結は寝ようとしていた。
ぽかっ
結莉が冬夜を引っ張っている。
「花火!」
「……眠い」
冬夜にとって花火はお腹にたまらない物だと理解しているらしい。
美希が言い聞かせていた。
「結莉ちゃんは結と花火を楽しみたいの。女の子の願いくらい叶えてあげなさい」
相手にされてるうちに優しくしておいた方がいいよ。
そんなことを結に教えていた。
仕方なさそうに花火を見ている結。
茉莉もやりたそうにしているけど危険だから見てるだけにとどめておいた。
すると驚いたことに比呂が誘っている。
「仕方ないなぁ」
言葉とは裏腹に嬉しそうにする茉莉。
その時に気づいた。
茉莉のそばに祈の娘の朔がいる。
花火よりも茉莉に見とれていた。
まさか……。
「大地から聞いてたんです。祈の家に行くと朔はずっと茉莉を見てるって」
茉莉は全く気づいてないみたいだけど。
まあ、一歳だもんな……。
花火が終ると冬夜がすぐに匂いを嗅ぎつける。
夜食のラーメンを食べる冬夜。
食べ終えると後はもういいだろうと寝る。
大地がいるから大丈夫だろう。
結莉と茉莉と結と大地が一緒のテントに入っていた。
子供達が寝ると僕達はやっとゆっくりできる。
「しかし結には驚かせられたな」
誠が言う。
空と美希が一番驚いているんだろう。
電磁波や念動力なんてどうでもいいくらいの危険な能力。
あの子はどこへ向かっていくのだろう。
「男のだからと思って誕生日プレゼントに玩具をプレゼントしたんだけど……」
普通の玩具だ。
別に問題しないと思っていた。
1時間でバラバラにしたらしい。
しかもそれをちゃんと組み立てた。
「あれで運動神経も良かったら最強だな」
渡辺君が言う。
空たちの話を聞くと運動音痴という事はない。
通常の子供以上のスピードで発達している。
でも、問題はそこじゃないだろう。
例えばあの電磁波の力を使えばサッカーで相手の頭を吹き飛ばしかねないシュートを撃つかもしれない。
「片桐君の子供だからってしょうか?」
石原君が聞いていた。
多分そうなんだろうね。
「でも石原君の訓練を受けた子供も大変かもしれないよ」
「それは酒井君も同じじゃないですか?」
僕が言うと石原君が言った。
だけど酒井君は頭を振っている。
「秋久はもう訓練する必要ないんじゃないかってくらいなんです」
やる気が無いように見せかけて必要な事はテレビなどを見て学んでる。
どこの世界に玩具で遊んだ後に指紋を拭きとる子供がいるだろうか?
必要以上の訓練をすると手に負えなくなるんじゃないかと思ってるそうだ。
朔がおかしいんじゃないかと思えるくらいに普通に育っている。
まだこれからもっと子供が増えて行くだろう。
木元先輩の娘さんも中島君の息子と結婚したらしいし。
ただ多分孫たちの中心人物は間違いなく結だろう。
だけどまだ1歳だ。
これからを注意深く見ていくしかないだろうな。
陽葵と菫もはしゃいで疲れたのかもう寝ている。
秋久もご飯を食べてさっさと寝た。
石原君と酒井君と僕は一つだけ願っていた。
あの子達を怒らせるような集団が現れないことを。
(2)
「いいか、お前たちに伝えておく事がある」
冬莉が後で二人で散歩がしたいと言っていたから起きていた。
冬吾達も一緒だ。
誠司の父さんと桐谷さんを中心に僕達は集まっていた。
何があるんだろう。
明日の事についてらしいけど。
「絶対に笑顔を絶やすな!」
桐谷さんが言う。
一瞬でもつまんない顔を見せたら地獄が待っている。
今日のテーマパークなんか生温いくらいの地獄が待っている。
なんであんな糞詰まらない場所に毎年行くのか分からないくらいに不思議なんだそうだ。
てことは冬吾達も行ったことがあるのだろうか?
こそっと聞いてみた。
「あるよ」
「どんなとこ?」
「まあ、あそこを気に入る男子の方が気持ち悪いと思うけど」
某メーカーのマスコットキャラのテーマパークらしい。
それはきつそうだ。
「松原君と言ったか!?君は絶対に注意した方がいいぞ」
「そうだ!断言するけど君は今も冬莉に頭が上がらないだろう」
まあ、主導権は冬莉にあるかな。
「今からそんな事だと絶対に苦労するぞ!」
「そうだ、そうやって俺達は女性陣に舐められるんだ!」
「ま、誠そのくらいにしとけ」
冬吾のお父さんが止めに入る。
「ぼ、僕もそう思います。子供達に任せた方がいいんじゃないかと」
「誠君。今日はもうやめとこう」
そうやって毎年大惨事を招いているじゃないか。
泉の父さんが言ってた。
それが何なのかは疑問に思わなかった。
冬吾の父さん達の努力は水の泡になった。
「本当にこの馬鹿は子供達に余計な事を吹き込みやがってて……」
「冬吾や冬眞に変な事吹き込まないで!あの子達は今もちゃんとやってるんだから!」
誠司の母さんと冬吾の母さんが言うと女性陣が一斉に怒り出す。
誠司の父さん達に男の威厳というのが全く見えない。
「志希、散歩連れて行ってくれるんでしょ?行こうよ」
冬莉が声をかけてくれた。
瞳子たちも同じみたいだ。
冬莉の父さんがさっさとこの場を離れた方がいいと合図するので散歩することにした。
「誠司の父さんの言う事は気にしなくていいから」
冬莉が言う。
言ってる意味がさっぱり分からなかったけど。
「私だって志希に変な趣味があるとは思いたくない」
あんなテーマパークで燥いでる志希なんて見たくない。
「そんなに凄いの?」
「片桐家の男子の食欲を無くすほどの威力はあるみたい」
「冬莉の言う通りだね。あれはさすがに凄かった」
冬吾が言うくらいだから凄いんだろうな。
「一緒にいてくれるだけでいいんだよ。私達だって男子が興味がない事くらい分かってるから」
でもたまには自分の趣味に付き合って欲しい。
瞳子がそう言っていた。
「私も初めてなんだけど大丈夫かな?」
頼子も颯真を誘ったらしい。
泉の彼氏の育人は弟や妹の世話で大変らしい。
「……それがさ。俺行った事あるんだよね」
颯真が言った。
多分相手の事は聞かない方がいいだろう。
彼女じゃなくても友達でも行く事があるだろう。
「それならいいんだけど」
「頼子はああいうキャラクター好きなの?」
「まあ、街にあるお店に買い物に行く程度なら」
「なら楽しいよきっと」
「颯真は大丈夫なの?」
「デートでつまらなさそうにするなって基本だと思うんだけど」
そう言って颯真は笑う。
確かにそうだな。
「そういや、志希は経験したの?」
「何を?」
僕が聞くと冬吾は笑う。
「片桐家の男子は大体洗礼を受けるらしいんだ」
冬莉の下着選びに付き合わされたのか?
「冬吾、余計な事聞かなくていい!」
冬莉が慌ててる。
「ごめん、冬莉が嫌がってるから言わない」
それだけで多分冬吾なら気づくだろう。
気づいたらしい。
それ以上追及してこなかった。
だけど頼子は興味あったらしい。
「え?志希はどんなのが好きなの?」
中学生の下着でそんなに種類があるわけない。
「普通のだよ。色だけ選んであげた」
「志希!余計な事言わなくていいって言ったでしょ」
こんなに焦ってる冬莉初めて見た。
それを見て冬吾は容赦しない。
「そんな恥ずかしがる関係じゃないんだろ?冬莉の家での行動見てたらわかるよ」
「冬吾!それ以上言ったら怒るよ!」
実は冬吾から聞いていた。
僕と付き合う前の冬莉の家での行動。
付き合い始めてからパタリとやめたらしい。
僕だけのものでいたいらしいんだ。
そしてそんな僕の心をしっかり冬莉は見抜いていた。
「冬吾!あんただって瞳子が選んでもらったって聞いたよ!」
「空達だって選んだって言ったから普通なんだろうなって」
「冬吾君は不思議そうに見てたよ。こんなに小さいの穿けるのって」
すると頼子が颯真を見ている。
颯真も頼子が何を言いたいのか察したのだろう。
「帰って時間があったらデートしてくれる?」
「分かった」
「でもさ、なんでそんなに選んで欲しいの?普通恥ずかしがるものじゃないの?」
冬眞が聞いていた。
冬眞も小学生の時に選んだらしい。
選択肢が殆どなかった。
さすがにアニメやイラストがプリントされた下着を選ぶのは「子供扱いしないで!」と怒られると予想したから。
「そっか、莉子ももう中学生だもんね」
冬莉はそう言って笑っていた。
「それなんだけどさ。冬莉はいつからそんなに大きくなったの?」
「わかんない。多分去年じゃないかな。気づいたら茜のがサイズあわなかった」
そうして女子トークが続くのを僕達は聞こえないふりをしていた。
湖畔を一周してテントに戻ると誠司の父さん達はまだ説教を受けていた。
「朝の散歩も楽しいから早めに寝ておいた方がいいよ」
冬吾の父さんが言う。
言う通りにそれぞれのテントに入って寝た。
小さいテントが多いのは冬吾の父さんの配慮。
恋人と2人で楽しめという意味らしい。
もちろん変な意味ではない。
それは無理だとすぐに分かった。
「誠と瑛大。何やってんだ?」
「いや、冬莉って慣れてるのかなって……」
体の発育良いのは見たらしい。
「この馬鹿!いい加減にしろ!!」
「ま、待て声くらいいいだろ!」
「冬莉達がいくつだと思ってるんだ。彼氏にだって恥ずかしがる年頃だぞ」
まあ、颯真は「恥ずかしいから耳塞いで」と言われたらしいけど。
冬莉はそんな事無かった。
「あの人達は毎年そうなの」
冬莉はため息をついていた。
そんなに子供のが気になるのだろうか?
「志希はああはならないでね」
「現時点で理解できないから大丈夫じゃないかな?」
年を取って気づくものかもしれないけど今は全く興味ない。
「むしろ冬莉を独り占めしたいから」
そう冬莉の耳元で囁く。
「意外とそういう欲あるんだね」
「そりゃ僕だって男だから」
「だったらもっと迫って来てよ」
私はいつでも準備してるよ。
「わかった……」
とりあえず今日はそっと抱いてやる。
僕の胸の上で冬莉は静かに寝息を立てていた。
写真に撮りたいくらい綺麗な寝顔。
それは心の中にしまっておこう。
(3)
「泉は俺と一緒でいいのか?」
もちろんテントじゃない。
ただ父さん達がいつものパターンになっていたのでそっと抜け出しただけ。
すると泉がついてきた。
泉の彼氏の育人は姉弟の世話があるから来れないらしい。
共働きなんだそうだ。
大変だな。
花火デートどころか普通にデートも出来ないらしい。
一度育人を泉の両親に紹介したらしい。
すごく緊張してたと聞いた。
まあ、酒井家だとそうだろうな。
「誠司一人にしておくのも気の毒に思ったから」
「気使わせて悪いな」
「礼を言いたいのは私の方だよ」
「どうして?」
「まず、今日一人で寂しい思いをしないでいい」
「それは俺も同じだから気にしないでいいよ」
それよりほかにまだあるのか?
「私にいっくんと言う恋人が出来たのはきっと誠司のおかげ」
「……あれは育人が頑張ったからじゃないのか?」
だけど泉は首を振る。
「それっていっくんだけでどうにかなるものじゃないでしょ?」
育人がどれだけ頑張って恋を歌っても、泉に興味がなかったら話にならない。
「だけど誠司を見てると別れてもそれだけ相手の事を願うような大切な物なのかと興味が湧いた」
わずかな種火があればそれでいい。
あとはその火を大きな炎に変えてくれる相手がいるだけでいい。
私に恋の火を灯したのは他でもない俺だと泉は言う。
「俺でも人の役に立てるんだな」
「冬吾がいなかったら中心人物は誠司だよ」
まあ、冬吾には敵いそうにないけどな。
「だから次は誠司の番だよ」
「え?」
泉の顔を見る。
凄く綺麗な笑顔だった。
「私は幸せになれる道が開けた。だから次は誠司が幸せを見つける番」
恋の神様は平等なんでしょ。
だったら必ず現れるから。
「嬉しいけど今はサッカーの神様に祈りたいな」
サッカー選手なら誰もが思うはず。
五輪とW杯。できればクラブワールド杯。
冬吾が敵になる時が来るかもしれない。
その時に冬吾に勝ちたい。
それは俺一人ではどうにもならないかもしれないけど。
次の五輪には候補にきっと上がれるはず。
だから必ず出たい。
そんな気持ちを泉に話した。
「父さんが言ってたんだ。絶対に敵に回したくない相手が冬吾の父さんだったらしい」
冬吾の父さんがボールを保持している時間が一番怖い時間。
それはサッカーのみならずバスケでもそうだったらしい。
その証拠に冬吾の父さんはバスケで五輪金メダルとという結果を残したらしい。
たまたま始めて、いつまでも続けたくないから世界の頂点を見たら止めると言って約束を果たした凄い人。
冬吾も同じだ。
味方でいる分には冬吾ほど頼もしい存在はない。
もちろん冬吾一択なんて真似はしない。
全体をコントロールするのが俺の役目だってわかってる。
それでも苦しい状況の時に必ず応えてくれるのが冬吾だ。
だから代表の練習の時に痛感した。
冬吾にボールが渡った時が一番怖い。
何を仕掛けてくるかさっぱり分からない。
しかも父さんや冬吾の父さんに言われてまだ封印している奥の手がある。
五輪代表になる頃には解禁されているはず。
俺達の世代なら必ず勝てる!
そんな自信の素が冬吾だ。
だけど父さんは言う。
そんな冬吾だから必ずマークされる。冬吾一択なんて真似したら絶対に潰される。だから司令塔の俺は他の選択肢を使わなければならない。
冬吾の父さんが言ってたらしい。
「選択肢が多ければ多い程相手は守りづらくなる」
そして冬吾も成長している。
周りに頼らずに自分からもっと積極的にアピールしなさいと言われたらしい。
それを実践している。
ますます敵に回したくない相手になった。
「だったら一緒のクラブに入ればいいじゃない」
泉はそう言った。
だけど俺は首を振る。
「それじゃ、俺が成長できない」
冬吾を越えるつもりで練習しないとダメだ。
冬吾とは仲間であると同時にライバルじゃないといけない。
そうして俺達はもっと伸びるはずだから。
「サッカーの話ばかりで悪いな」
昔はそんな事なかったんだけどな。
女の事を考えるのやめてから段々つまらない人間になっていく自分がいる。
悪いとは思わないけど。
「私もそれでいいと思うよ」
やりたい事がサッカーならサッカーに夢中になればいい。
その代わり次の彼女が現れたら少しだけでいいから彼女を気づかってあげたらいい。
「そうだな」
「泉!そんなところで2人で何してるの!?」
泉の母さんが俺達を見つけたらしい。
「行った方がいい。面倒になりそうだ」
「それもそうだ。あ、一つお願いしていいかな?」
「なんだ?」
「明日皆どうせデート気分だろうから、2人で時間潰そう?」
「わかったよ」
「じゃあね」
そう言って泉は立ち上がって泉の母さんの下へ行く。
俺も戻ることにした。
「誠司、絶対に泉と浮気なんて馬鹿な真似はよせ。晶さんの怒りを買ったら家なんかひとたまりもない」
「わかってるよ」
「それならいいんだが……」
父さんですら恐れる酒井家か。
でも母さんは違うようだ。
「泉と何話してたんだ?」
「泉に彼氏が出来たのは俺のお蔭だ。ありがとうって」
「そうか……」
「早く俺も幸せになれと言われたよ」
「今のお前なら大丈夫だよ」
母さんがそう言った。
「どうして?」
「今のお前、昔の誠みたいだ」
それってやばいんじゃないの?
「そんなやばい奴と母さんが結婚すると思ったか?」
母さんの初めての彼氏だぞ。
母さんはそう言って笑っていた。
そんな父さんは冬莉達のテントに群がっている。
「あのバカは性懲りもなく……」
「お前も早く寝とけ」といって母さんは父さん達を説教しに行った。
中学生時代の父さんか。
少しだけ興味が湧いたな。
ただ俺の恋の灯が着くのはまだしばらく時間を必要とするようだった。
「はい、結。お口開けて」
結莉がそう言うと素直に口を開ける冬夜。
結莉は口の中に肉を入れて食べさせている。
そんな光景を皆が見ていた。
「あれはやっぱり結莉というか肉につられてるんだろうな……」
カンナが言っていた。
「多分そうだと思う」
美希も結を見ながら言ってた。
ちなみに空達がやろうとすると結莉が怒り出す。
茉莉は我関せずと黙々と肉を食べていた。
大地はただ笑っていた。
その態度が恵美さんは気に食わなかったらしい。
「結莉の将来の婿さんが決まって良い事なのになんて顔してるの!?」
いとこ婚は考えていないと思うんだけど……多分。
空達は結と結莉の様子を見ながら自分も食べていた。
多分結莉に任せて大丈夫だと思ったのだろう。
結莉達は天音がちゃんと躾けているらしい。
まだ火のあるところは危ないから近づいたらいけない。
結は今日また新たな能力を発現した。
桐谷君が火を起こそうと必死になってるのを結が見ていた。
すると突然炭が燃え上がる。
桐谷君も驚いたらしい。
「お前の孫はどうなってんだ?」
誠も流石に驚いたみたいだ。
もちろん結も火は危ないと認識してるみたいでその能力で遊んだりはしない。
美希も空も初めて見たらしい。
愛莉も美希も困っていた。
これで結莉や茉莉のような性格だったらとぞっとする。
よく天音は「焼却炉に放り込んでやる」と言っていたが、冬夜は文字通り「その場で燃やす」だろう。
美希も流石に自信がなくなったみたいだ。
初めての赤ちゃんがこれじゃ無理もない。
愛莉も一緒にみてあげるからと言っていた。
まあ、このやる気の無さは僕を見たのか空を見て来たからか分からないけど。
「冬夜、安心するのはまだ早い」
渡辺君が言う。
それは僕も同じ事を考えていた。
もしこれで僕や空の様にキレると何するか分からない性格だと確実に死人を作るだろう。
「空も出来るだけ結から目を離さないで」
それくらいしかアドバイスできない。
しかし結だけじゃない。
結が異常過ぎるだけだ。
結莉や茉莉もそれなりの能力がある。
家で遊んでる時は2人ともきゃっきゃとなれあってるわけじゃない。
クリスマスプレゼントで買ってもらったモデルガンを使ってガンアクションを繰り広げてるらしい。
それでも様々な遮蔽物を利用したり飛び込んで前転して相手に銃口を向けたり。
訓練を受けなくていいんじゃないかというくらいの動きをするらしい。
もちろん天音は愛莉に叱られていた。
「あなた自分の娘に何を渡してるの!」
天音は笑って誤魔化してた。
水鉄砲じゃ人に向けて撃つから弾を撃てないモデルガンにしたらしい。
するとガンアクションをして遊びだした。
どこでそんなの覚えたのか?
天音のやってるゲームを見ていたそうだ。
「その理屈で言うと水奈の子供もやばそうだな……」
誠が言う。
カンナも水奈の家に行くたびに注意してるらしい。
子供の育児には手を貸さないとはいえ、結莉達や水奈の子供は危険すぎる。
水奈や天音ですら小学校で事件を作り出してきたのだから。
陽葵と菫はともかく、秋久は相変わらずだ。
翼が取り皿に焼けた肉を取って食べさせようとしている。
だけど陽葵と菫だけが食べていた。
秋久は食べれなくて泣き出すかと思ったけど、そんな生易しい物じゃなかった。
水と緊急用のゼリー状の食材を食べていた。
牛筋煮込み味なんてものも売ってるらしい。
食べないと生きていけない。
だけど必要最低限の栄養を補給できていればいいと分かってるのだろうか?
慌てて美希が別の皿に秋久用の肉を取っていた。
「いい?子供の前で馬鹿な歌は絶対歌うんじゃないよ!」
光太に母親の香織さんが注意していた
翼や天音が男性陣に文句を言っていたから。
この歳であんな歌を歌われたら母親的にはたまらないのだろう。
しかし香織さんは分かっていなかった。
僕達の中で一番危険なのは光太なんかじゃない……
「やっぱりあの歌歌うしかねーよな!瑛大」
「だよな、あれしかねーよ!」
そう言って誠や桐谷君が歌いだす。
すぐにカンナや亜依さんが怒り出す。
「小さい子もいるのに何を考えているんだお前は!?」
「いい加減にしろ!そんな事ばっかりやってるから千帆達に嫌われるんだろうが!」
BBQが終ると結は寝ようとしていた。
ぽかっ
結莉が冬夜を引っ張っている。
「花火!」
「……眠い」
冬夜にとって花火はお腹にたまらない物だと理解しているらしい。
美希が言い聞かせていた。
「結莉ちゃんは結と花火を楽しみたいの。女の子の願いくらい叶えてあげなさい」
相手にされてるうちに優しくしておいた方がいいよ。
そんなことを結に教えていた。
仕方なさそうに花火を見ている結。
茉莉もやりたそうにしているけど危険だから見てるだけにとどめておいた。
すると驚いたことに比呂が誘っている。
「仕方ないなぁ」
言葉とは裏腹に嬉しそうにする茉莉。
その時に気づいた。
茉莉のそばに祈の娘の朔がいる。
花火よりも茉莉に見とれていた。
まさか……。
「大地から聞いてたんです。祈の家に行くと朔はずっと茉莉を見てるって」
茉莉は全く気づいてないみたいだけど。
まあ、一歳だもんな……。
花火が終ると冬夜がすぐに匂いを嗅ぎつける。
夜食のラーメンを食べる冬夜。
食べ終えると後はもういいだろうと寝る。
大地がいるから大丈夫だろう。
結莉と茉莉と結と大地が一緒のテントに入っていた。
子供達が寝ると僕達はやっとゆっくりできる。
「しかし結には驚かせられたな」
誠が言う。
空と美希が一番驚いているんだろう。
電磁波や念動力なんてどうでもいいくらいの危険な能力。
あの子はどこへ向かっていくのだろう。
「男のだからと思って誕生日プレゼントに玩具をプレゼントしたんだけど……」
普通の玩具だ。
別に問題しないと思っていた。
1時間でバラバラにしたらしい。
しかもそれをちゃんと組み立てた。
「あれで運動神経も良かったら最強だな」
渡辺君が言う。
空たちの話を聞くと運動音痴という事はない。
通常の子供以上のスピードで発達している。
でも、問題はそこじゃないだろう。
例えばあの電磁波の力を使えばサッカーで相手の頭を吹き飛ばしかねないシュートを撃つかもしれない。
「片桐君の子供だからってしょうか?」
石原君が聞いていた。
多分そうなんだろうね。
「でも石原君の訓練を受けた子供も大変かもしれないよ」
「それは酒井君も同じじゃないですか?」
僕が言うと石原君が言った。
だけど酒井君は頭を振っている。
「秋久はもう訓練する必要ないんじゃないかってくらいなんです」
やる気が無いように見せかけて必要な事はテレビなどを見て学んでる。
どこの世界に玩具で遊んだ後に指紋を拭きとる子供がいるだろうか?
必要以上の訓練をすると手に負えなくなるんじゃないかと思ってるそうだ。
朔がおかしいんじゃないかと思えるくらいに普通に育っている。
まだこれからもっと子供が増えて行くだろう。
木元先輩の娘さんも中島君の息子と結婚したらしいし。
ただ多分孫たちの中心人物は間違いなく結だろう。
だけどまだ1歳だ。
これからを注意深く見ていくしかないだろうな。
陽葵と菫もはしゃいで疲れたのかもう寝ている。
秋久もご飯を食べてさっさと寝た。
石原君と酒井君と僕は一つだけ願っていた。
あの子達を怒らせるような集団が現れないことを。
(2)
「いいか、お前たちに伝えておく事がある」
冬莉が後で二人で散歩がしたいと言っていたから起きていた。
冬吾達も一緒だ。
誠司の父さんと桐谷さんを中心に僕達は集まっていた。
何があるんだろう。
明日の事についてらしいけど。
「絶対に笑顔を絶やすな!」
桐谷さんが言う。
一瞬でもつまんない顔を見せたら地獄が待っている。
今日のテーマパークなんか生温いくらいの地獄が待っている。
なんであんな糞詰まらない場所に毎年行くのか分からないくらいに不思議なんだそうだ。
てことは冬吾達も行ったことがあるのだろうか?
こそっと聞いてみた。
「あるよ」
「どんなとこ?」
「まあ、あそこを気に入る男子の方が気持ち悪いと思うけど」
某メーカーのマスコットキャラのテーマパークらしい。
それはきつそうだ。
「松原君と言ったか!?君は絶対に注意した方がいいぞ」
「そうだ!断言するけど君は今も冬莉に頭が上がらないだろう」
まあ、主導権は冬莉にあるかな。
「今からそんな事だと絶対に苦労するぞ!」
「そうだ、そうやって俺達は女性陣に舐められるんだ!」
「ま、誠そのくらいにしとけ」
冬吾のお父さんが止めに入る。
「ぼ、僕もそう思います。子供達に任せた方がいいんじゃないかと」
「誠君。今日はもうやめとこう」
そうやって毎年大惨事を招いているじゃないか。
泉の父さんが言ってた。
それが何なのかは疑問に思わなかった。
冬吾の父さん達の努力は水の泡になった。
「本当にこの馬鹿は子供達に余計な事を吹き込みやがってて……」
「冬吾や冬眞に変な事吹き込まないで!あの子達は今もちゃんとやってるんだから!」
誠司の母さんと冬吾の母さんが言うと女性陣が一斉に怒り出す。
誠司の父さん達に男の威厳というのが全く見えない。
「志希、散歩連れて行ってくれるんでしょ?行こうよ」
冬莉が声をかけてくれた。
瞳子たちも同じみたいだ。
冬莉の父さんがさっさとこの場を離れた方がいいと合図するので散歩することにした。
「誠司の父さんの言う事は気にしなくていいから」
冬莉が言う。
言ってる意味がさっぱり分からなかったけど。
「私だって志希に変な趣味があるとは思いたくない」
あんなテーマパークで燥いでる志希なんて見たくない。
「そんなに凄いの?」
「片桐家の男子の食欲を無くすほどの威力はあるみたい」
「冬莉の言う通りだね。あれはさすがに凄かった」
冬吾が言うくらいだから凄いんだろうな。
「一緒にいてくれるだけでいいんだよ。私達だって男子が興味がない事くらい分かってるから」
でもたまには自分の趣味に付き合って欲しい。
瞳子がそう言っていた。
「私も初めてなんだけど大丈夫かな?」
頼子も颯真を誘ったらしい。
泉の彼氏の育人は弟や妹の世話で大変らしい。
「……それがさ。俺行った事あるんだよね」
颯真が言った。
多分相手の事は聞かない方がいいだろう。
彼女じゃなくても友達でも行く事があるだろう。
「それならいいんだけど」
「頼子はああいうキャラクター好きなの?」
「まあ、街にあるお店に買い物に行く程度なら」
「なら楽しいよきっと」
「颯真は大丈夫なの?」
「デートでつまらなさそうにするなって基本だと思うんだけど」
そう言って颯真は笑う。
確かにそうだな。
「そういや、志希は経験したの?」
「何を?」
僕が聞くと冬吾は笑う。
「片桐家の男子は大体洗礼を受けるらしいんだ」
冬莉の下着選びに付き合わされたのか?
「冬吾、余計な事聞かなくていい!」
冬莉が慌ててる。
「ごめん、冬莉が嫌がってるから言わない」
それだけで多分冬吾なら気づくだろう。
気づいたらしい。
それ以上追及してこなかった。
だけど頼子は興味あったらしい。
「え?志希はどんなのが好きなの?」
中学生の下着でそんなに種類があるわけない。
「普通のだよ。色だけ選んであげた」
「志希!余計な事言わなくていいって言ったでしょ」
こんなに焦ってる冬莉初めて見た。
それを見て冬吾は容赦しない。
「そんな恥ずかしがる関係じゃないんだろ?冬莉の家での行動見てたらわかるよ」
「冬吾!それ以上言ったら怒るよ!」
実は冬吾から聞いていた。
僕と付き合う前の冬莉の家での行動。
付き合い始めてからパタリとやめたらしい。
僕だけのものでいたいらしいんだ。
そしてそんな僕の心をしっかり冬莉は見抜いていた。
「冬吾!あんただって瞳子が選んでもらったって聞いたよ!」
「空達だって選んだって言ったから普通なんだろうなって」
「冬吾君は不思議そうに見てたよ。こんなに小さいの穿けるのって」
すると頼子が颯真を見ている。
颯真も頼子が何を言いたいのか察したのだろう。
「帰って時間があったらデートしてくれる?」
「分かった」
「でもさ、なんでそんなに選んで欲しいの?普通恥ずかしがるものじゃないの?」
冬眞が聞いていた。
冬眞も小学生の時に選んだらしい。
選択肢が殆どなかった。
さすがにアニメやイラストがプリントされた下着を選ぶのは「子供扱いしないで!」と怒られると予想したから。
「そっか、莉子ももう中学生だもんね」
冬莉はそう言って笑っていた。
「それなんだけどさ。冬莉はいつからそんなに大きくなったの?」
「わかんない。多分去年じゃないかな。気づいたら茜のがサイズあわなかった」
そうして女子トークが続くのを僕達は聞こえないふりをしていた。
湖畔を一周してテントに戻ると誠司の父さん達はまだ説教を受けていた。
「朝の散歩も楽しいから早めに寝ておいた方がいいよ」
冬吾の父さんが言う。
言う通りにそれぞれのテントに入って寝た。
小さいテントが多いのは冬吾の父さんの配慮。
恋人と2人で楽しめという意味らしい。
もちろん変な意味ではない。
それは無理だとすぐに分かった。
「誠と瑛大。何やってんだ?」
「いや、冬莉って慣れてるのかなって……」
体の発育良いのは見たらしい。
「この馬鹿!いい加減にしろ!!」
「ま、待て声くらいいいだろ!」
「冬莉達がいくつだと思ってるんだ。彼氏にだって恥ずかしがる年頃だぞ」
まあ、颯真は「恥ずかしいから耳塞いで」と言われたらしいけど。
冬莉はそんな事無かった。
「あの人達は毎年そうなの」
冬莉はため息をついていた。
そんなに子供のが気になるのだろうか?
「志希はああはならないでね」
「現時点で理解できないから大丈夫じゃないかな?」
年を取って気づくものかもしれないけど今は全く興味ない。
「むしろ冬莉を独り占めしたいから」
そう冬莉の耳元で囁く。
「意外とそういう欲あるんだね」
「そりゃ僕だって男だから」
「だったらもっと迫って来てよ」
私はいつでも準備してるよ。
「わかった……」
とりあえず今日はそっと抱いてやる。
僕の胸の上で冬莉は静かに寝息を立てていた。
写真に撮りたいくらい綺麗な寝顔。
それは心の中にしまっておこう。
(3)
「泉は俺と一緒でいいのか?」
もちろんテントじゃない。
ただ父さん達がいつものパターンになっていたのでそっと抜け出しただけ。
すると泉がついてきた。
泉の彼氏の育人は姉弟の世話があるから来れないらしい。
共働きなんだそうだ。
大変だな。
花火デートどころか普通にデートも出来ないらしい。
一度育人を泉の両親に紹介したらしい。
すごく緊張してたと聞いた。
まあ、酒井家だとそうだろうな。
「誠司一人にしておくのも気の毒に思ったから」
「気使わせて悪いな」
「礼を言いたいのは私の方だよ」
「どうして?」
「まず、今日一人で寂しい思いをしないでいい」
「それは俺も同じだから気にしないでいいよ」
それよりほかにまだあるのか?
「私にいっくんと言う恋人が出来たのはきっと誠司のおかげ」
「……あれは育人が頑張ったからじゃないのか?」
だけど泉は首を振る。
「それっていっくんだけでどうにかなるものじゃないでしょ?」
育人がどれだけ頑張って恋を歌っても、泉に興味がなかったら話にならない。
「だけど誠司を見てると別れてもそれだけ相手の事を願うような大切な物なのかと興味が湧いた」
わずかな種火があればそれでいい。
あとはその火を大きな炎に変えてくれる相手がいるだけでいい。
私に恋の火を灯したのは他でもない俺だと泉は言う。
「俺でも人の役に立てるんだな」
「冬吾がいなかったら中心人物は誠司だよ」
まあ、冬吾には敵いそうにないけどな。
「だから次は誠司の番だよ」
「え?」
泉の顔を見る。
凄く綺麗な笑顔だった。
「私は幸せになれる道が開けた。だから次は誠司が幸せを見つける番」
恋の神様は平等なんでしょ。
だったら必ず現れるから。
「嬉しいけど今はサッカーの神様に祈りたいな」
サッカー選手なら誰もが思うはず。
五輪とW杯。できればクラブワールド杯。
冬吾が敵になる時が来るかもしれない。
その時に冬吾に勝ちたい。
それは俺一人ではどうにもならないかもしれないけど。
次の五輪には候補にきっと上がれるはず。
だから必ず出たい。
そんな気持ちを泉に話した。
「父さんが言ってたんだ。絶対に敵に回したくない相手が冬吾の父さんだったらしい」
冬吾の父さんがボールを保持している時間が一番怖い時間。
それはサッカーのみならずバスケでもそうだったらしい。
その証拠に冬吾の父さんはバスケで五輪金メダルとという結果を残したらしい。
たまたま始めて、いつまでも続けたくないから世界の頂点を見たら止めると言って約束を果たした凄い人。
冬吾も同じだ。
味方でいる分には冬吾ほど頼もしい存在はない。
もちろん冬吾一択なんて真似はしない。
全体をコントロールするのが俺の役目だってわかってる。
それでも苦しい状況の時に必ず応えてくれるのが冬吾だ。
だから代表の練習の時に痛感した。
冬吾にボールが渡った時が一番怖い。
何を仕掛けてくるかさっぱり分からない。
しかも父さんや冬吾の父さんに言われてまだ封印している奥の手がある。
五輪代表になる頃には解禁されているはず。
俺達の世代なら必ず勝てる!
そんな自信の素が冬吾だ。
だけど父さんは言う。
そんな冬吾だから必ずマークされる。冬吾一択なんて真似したら絶対に潰される。だから司令塔の俺は他の選択肢を使わなければならない。
冬吾の父さんが言ってたらしい。
「選択肢が多ければ多い程相手は守りづらくなる」
そして冬吾も成長している。
周りに頼らずに自分からもっと積極的にアピールしなさいと言われたらしい。
それを実践している。
ますます敵に回したくない相手になった。
「だったら一緒のクラブに入ればいいじゃない」
泉はそう言った。
だけど俺は首を振る。
「それじゃ、俺が成長できない」
冬吾を越えるつもりで練習しないとダメだ。
冬吾とは仲間であると同時にライバルじゃないといけない。
そうして俺達はもっと伸びるはずだから。
「サッカーの話ばかりで悪いな」
昔はそんな事なかったんだけどな。
女の事を考えるのやめてから段々つまらない人間になっていく自分がいる。
悪いとは思わないけど。
「私もそれでいいと思うよ」
やりたい事がサッカーならサッカーに夢中になればいい。
その代わり次の彼女が現れたら少しだけでいいから彼女を気づかってあげたらいい。
「そうだな」
「泉!そんなところで2人で何してるの!?」
泉の母さんが俺達を見つけたらしい。
「行った方がいい。面倒になりそうだ」
「それもそうだ。あ、一つお願いしていいかな?」
「なんだ?」
「明日皆どうせデート気分だろうから、2人で時間潰そう?」
「わかったよ」
「じゃあね」
そう言って泉は立ち上がって泉の母さんの下へ行く。
俺も戻ることにした。
「誠司、絶対に泉と浮気なんて馬鹿な真似はよせ。晶さんの怒りを買ったら家なんかひとたまりもない」
「わかってるよ」
「それならいいんだが……」
父さんですら恐れる酒井家か。
でも母さんは違うようだ。
「泉と何話してたんだ?」
「泉に彼氏が出来たのは俺のお蔭だ。ありがとうって」
「そうか……」
「早く俺も幸せになれと言われたよ」
「今のお前なら大丈夫だよ」
母さんがそう言った。
「どうして?」
「今のお前、昔の誠みたいだ」
それってやばいんじゃないの?
「そんなやばい奴と母さんが結婚すると思ったか?」
母さんの初めての彼氏だぞ。
母さんはそう言って笑っていた。
そんな父さんは冬莉達のテントに群がっている。
「あのバカは性懲りもなく……」
「お前も早く寝とけ」といって母さんは父さん達を説教しに行った。
中学生時代の父さんか。
少しだけ興味が湧いたな。
ただ俺の恋の灯が着くのはまだしばらく時間を必要とするようだった。
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