姉妹チート

和希

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i for you

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(1)

 今日は何でもないただの休日。
 いつものようにデートしていた。
 映画を見て、水族館に行って夕食を食べていた。
 
「悟仕事は慣れた?」
「ああ、大丈夫」

 残業の多い職種だからそれなりに残業はするけど2時間しか寝れないなんて事態にはならない。
 4大企業だからかもしれないけど、あまり残業時間が多いとそのグループのリーダーが上司に叱られる。
 残業が多いのはその仕事に対する人間をケチり過ぎてるかスケジュールに問題があるかどっちかだと言われる。
 つまりそのグループのメンバーに負荷を異常に掛け過ぎてるからだと管理不行き届きを責められる。
 納期がない大がかりな仕事ならその仕事に見合った人数をかけた方が、残業手当などの不要なコストが削減できるという理論が会社の中にはあった。
 ましてや新人の俺が無茶な残業時間をしていれば当たり前のように上に怒鳴られる。
 実務経験の長い人間が残業が多いとどうしてそんなに時間がかかるのかとまず呼び出される。
 職業上残業は認められる。
 残業手当も深夜残業も当たり前のように出る。
 だが、手当てを出すからにはそれなりの理由がないといけない。
 で、社員が職務怠慢なのか仕事量が異常なのか判断される。
 プログラマーが1人だけというソシャゲーがあるそうだ。
 当然のように不具合が出て、クレームも多くてすぐにサービス終了になった。
 そんな無茶をして失敗するリスクを考えたら多少の人件コストがかかるのは仕方ないという考えで成り立っている。
 そしてそんな管理が上手な人間が上に出世する仕組みがある。
 ただ「期間内に終わらせろ!」と怒鳴る無能な人間は必要ない。
 それなりの手当は出す。
 それに見合った仕事をしろ。
 出来ない奴は出来ない奴なりの仕事しかまわさない。
 最悪部署を変える事もある。
 会社の優遇は地元では珍しい程文句が出ない。
 ただ実力主義という点は他所の企業と変わりない。
 出来る奴が出世して出来ない奴は脱落していけ。
 それが社会のあり方だ。
 それはきっと他の4大企業も変わらないだろうというのは亀梨光太達と話していて実感していた。
 片桐税理士事務所ですらそうなんだから。
 無能に回す仕事はない。
 仕事をしない人間に払う給料はない。
 ブラック企業ではないけど学生から社会人に変わる通過儀礼だ。
 そしてそれに生き残る努力をしていた。
 今日は一大プロジェクトが完了してゆっくりできたから春海とデートをしていた。
 
「ごめん、仕事の話くらいしか話題がなくて」
「気にしないで。ちょっと驚いたけど」

 学生時代はおちゃらけていた悟がこんなに熱く仕事について語る日が来るなんて思わなかったから。
 
「それは俺も驚いてるんだ。でもそうしないと生き残れないから」

 待ってるだけじゃダメだ、自分から仕事を勝ち取りに行くくらいの姿勢でいなくちゃいけない。
 その為には自分の実力もつけていかないといけない。
 遊んでる時間なんてそんなにない。
 そういう業界だから仕方がない。
 でもこんな事をしていたらこの先ますます春海との時間が取れなくなる。
 実際デートする日すらないんだから。
 それは休日がないんじゃない。
 文字通り翌週に向けて体を休ませないといけないから。
 そしたら春海が休日に遊びに来るようになった。
 家の中を掃除したり食事を作ってくれる。
 
「明日もまた遅くなるんでしょ?これ冷蔵庫に入れておくから」

 そう言って料理を保存しておいてくれる。
 まだ結婚してないのにそんな真似をさせていて申し訳ないと思った。
 こんな生活を続けるくらいなら……。
 そう思って今日を準備した。
 春海とならきっとうまくやっていける。
 そんな自身も出来ていた。
 あとは春海の気持ち一つだ。
 デザートを食べ終えると春海に話を切り出した。

「春海、実は今日大事な話があるんだ」
「……うん。どうしたの?」

 春海も何か感じ取ったのだろうか。
 表情が変わっていた。

「就職して仕事を始めて半年くらい経つけどこの様だ。春海に迷惑ばかりかけてデートすらしてやれない」
「それは仕方ないよ。そのくらいで怒るほど私も子供じゃないよ」
「うん、わかってる。ずっと感謝している。春海となら大丈夫。そう思ったからどうか聞いて欲しい」

 そう言ってテーブルに小箱を差し出した。

「きっと寂しい思いをさせるかもしれないけど、それでお俺に付いて来て欲しい。結婚しないか?」

 年収はそれなりにある。
 春海に苦労させる事といったら春海に構ってやれる時間が減っていく一方だ。
 それなら一緒に暮らした方がいい。
 でも社会人で同棲って体裁的にどうなんだと思った。
 春海の両親にも申し訳が立たない。
 だから覚悟した。
 後は春海が俺に人生を預けられるか?

「馬鹿ね。そんな覚悟とっくにしてるよ」
「え?」
「どうして私が就職しないでいたと思ったの?」

 そう遠くないうちにきっとこういう日が来ると思ったから。
 共働きという手も考えた。
 だけど結婚したらすぐに次の段階になる。
 出産。
 それなら俺が覚悟を決めるまで待っていようと思ったらしい。

「本当に私で後悔しない?」
「そんな不安があったらプロポーズしないよ」
「ありがとう、喜んでお受けします」

 そう言って春海は笑みを浮かべた。
 ここがレストランじゃなかったら抱きしめたいくらいに嬉しい。
 話が済んで春海が指輪を受け取ると俺達は店をした。

「やっと結婚できるって嬉しいんだから、お願いだから安全運転してね」
「わかってるよ」

 そのまま春海の実家に向かった。
 春海の両親に挨拶する。

「うそっ!?春海の方が先なの!?」

 春海の姉の海璃が驚いていた。

「悟君と言ったかな?今日は泊まっていきなさい」

 めでたい日だから娘の彼氏と一度飲んでみたかった。

「これで一つ肩の荷が下りたよ。春海のこれから先は悟君にまかせるからね」

 どうか幸せにしてやって欲しい。
 そんな話をしていた。
 
「でもどうして今日だったの?」

 春海が聞いていた。
 なんもないただの休日。
 
「これでも急いだつもりなんだ」

 クリスマスのような記念日にするのも悪くない。
 だけど早く春海に喜んで欲しかった。
 だからちょっと仕事を前倒しで今日を予約していた。

「じゃあ、もう決まったから大丈夫だよね?」

 そんな無茶して俺が倒れたら困る。
 
「わかってるよ」

 春海の花嫁姿見てみたいから。
 何もないただの休日。
 それがたった一言で俺達にとっては特別な記念日になった。

(2)

 たまたまだった。
 たまたまとはいえ見てしまった。
 咄嗟の行動だった。
 彼の手を掴んで無理矢理引っ張る。

「あなた何やってるの!?死ぬ気!?」

 そんな場面いくら私でも見たくない。
 他の場所で死ねと言いたいけどそうも言えなかった。
 彼は泣いていた。
 そして叫ぶ。

「ほっといてくれ!俺にはもう未来はないんだ!」

 どういう意味だろう?
 彼の顔を見る。
 どこかで見た顔だ。
 思い出した。
 大塚拓斗。
 クラスメートだ。
 明るい人気のある少年だったけど何があったのか知らないけど、皆が彼から離れていって彼は孤立した。
 最近思い詰めているように見えたから気にはしていた。
 その時に声をかけてやるべきだったのだろうけど、彼自身性格が変わって荒んでいった。
 とても声をかけられる状況じゃなかった。
 とりあえずここは街のスクランブル交差点。
 ちょっとした騒ぎになる。
 彼の手を掴んだまま「ちょっと来て」と言って引っ張る。
 近くのコーヒーショップに寄ってコーヒーをご馳走する。

「大体お前誰だよ?」

 私の顔なんて覚えてないらしい。

「石原幸」
「そうか、俺は……」
「大塚拓斗。クラスメートくらいは覚えている」
「そうだったんだ……」

 あのやけくそ気味な態度はコーヒーを飲んで落ち着いていた。

「あんな真似二度としないで。親が悲しむよ」
「親はいねーよ……」

 え?
 拓斗を残して首をつって死んだらしい。
 ネトゲのサービスが終了したからとか馬鹿じゃないのというような理由じゃない。
 多額の借金。
 最初は僅かだったのがとんでもない利子が利子をよんで雪だるま式に膨れ上がり100倍くらいになってたらしい。
 毎日の利子だけでも払えと家に押しかけて来るそうだ。
 両親の勤め先まで押しかけて来て両親は精神的に追い詰められてそして首を吊った。
 残されたのは拓斗一人。
 その拓斗一人にまで返済を求めて来たらしい。
 
「払えないなら仕事を斡旋してやる」

 当然グレーなんてもんじゃない、真っ黒な仕事。
 そんな風に追い詰められその事を知った友達は次第に拓斗を遠ざけるようになり、拓斗もまた追い詰められた。
 理由は分かった。

「これで満足したか?今度は石原さんの目の届かないところでやるから心配するな」

 拓斗はそう言って席を立つ。
 人生最後のコーヒーは美味かった。ありがとうと言って……。
 当然行かせるわけがない。
 拓斗の腕を掴む。
 
「あなた私の事馬鹿にしてない?」
「なんでそうなるんだよ?」
「私もあなたを見捨てると思った?残念ね。そんな話を聞いたら余計に放っておけなくなった」
「お前に何ができるんだよ?」
「あなたを救うくらいは出来る」
「子供に何が出来るって言うんだよ!?」

 拓斗の友達と知られたら私の所にも催促がくるかもしれない。
 私に35億なんて金払えるのか!?

「そんなの関係ない」

 たかだか35億で命を捨てたい馬鹿が相手なら望み通り殺してやる。
 石原家に目をつけられたのが運の付きだ。
 
「35億用意すればいいのね?」
「出来るのか?」
 
 する必要があるとは思えないけど。
 それが口実になるならそのくらい何とかなるだろう。

「それでいいならしてあげる」
「そこまでする理由が石原にあるのかよ」
「SHの中では結構使われるセリフがあるの」

 誰かを助けるのに理由がいるかい?

「それじゃ拓斗が納得いかないだろうか別の理由をつけてあげる」
「なんだそれ?」

 私はにこりと笑って言った。

「私がその金で拓斗を買い取る」

 さすがに拓斗も驚いたのだろう。

「俺にそんな価値ねーよ」
「そうね。だからこれから価値をつけていく」
「どういう意味だ?」
「私好みの素敵な彼氏になってもらう。不満な点は全部改善させる」

 母さんが言ってた。

「どんな男かもわからない。でもわずかでも自分の中に相手に価値を見つけたのならそれはあなただけの宝物。絶対に手放してはいけない」

 私がたまたま拓斗を見つけた。
 そして拓斗のあの絶望的な表情を見てしまった。
 何もかも失くした人間の表情。
 それでも生きる希望を求めるように見えた。
 多分それが理由だろう。
 
「お前言ってる事が無茶苦茶だぞ。俺なんかにそんな大金払わなくてもいくらでも彼氏できるだろう」
「と、いう事は拓斗は私に惹かれていたのね」
「……素直に好きって言えないのかよ」
「言うのは簡単。でも今の拓斗にその言葉は逆効果だと思った」

 どうせ同情なんていらないとか言うんでしょ?

「素直じゃないんだな」
「お互い様でしょ」

 拓斗は観念したようだ。

「で、石原は彼氏と何がしたいんだ?」
「そうね、とりあえず幸でいいよ。家に帰ろう」
「それはダメだ。あいつらが待ち構えている」
「それが理由なの?」
「ああ……」
「じゃ、いいわ。ちょっと買い物行こうよ」
「何を買うんだ?」

 私はくすっと笑って言った。

「拓斗の身の回りの物。家に取りに帰れないなら買うしかない」


(3)

「望、ちょっと来てちょうだい」

 部屋で音楽を聴きながら本を読んでいた。
 今日は休日だから会社には行ってない。 
 そんな真似したら恵美が激怒する。
 地元経済を守る方法は家庭を大事にする。
 それが出来ないと恵美が激怒して失業者をうなぎのぼりにさせる。
 とはいえ、家にいても子供達は恋人と遊びに出かけるようになったから特にやる事はない。
 そんな事を考えていると恵美から呼び出された。
 リビングに行くと恵美と幸と……同級生の男の子がいる。
 やけに荷物が多い。
 帰ってくる前に幸が買ったのか?
 僕も座ると恵美に聞いてみた。

「何があったの?」

 彼は幸の恋人。
 すると恵美が笑みを浮かべて言った。

「そうよ。35億で買い取ったらしいわ」

 はい?
 僕はどう答えたらいいのだろう?

「それ本当なの?」
「幸は本気みたい」

 恵美が言うと幸が事情を説明した。
 なるほど…… 
 ひょっとして。

「拓斗君と言ったかな?その借りた金融会社の名前は分かる?」
「原川金融って言ってました」

 やっぱりか。
 恵美をちらりとみると早速渡辺班に情報を流してる様だ。
 いいタイミングに介入する口実が出来た。
 幸の顔を見ると本気の様だ。
 そうか、幸にも彼氏が出来たのか。
 また片桐君達と飲みに行こうかな。

「それはだめ。私達も誘うって約束よ」

 恵美に読まれた。
 恵美が渡辺班とやり取りしてる間に僕が出来る事をしよう。
 まずは彼からもう少し事情を聴いていた。

「どうしてそんなに借金が膨れ上がったの?」

 借りたのは夏くらいらしい。
 一月で返済できるはずだった。
 だけど知らないうちに借金が増えていた。
 両親は説明を求めた。
 といちとかとごとか言うけどそんなレベルの利子じゃない。
 大体の事を聞くと僕は彼に伝えた。

「そのお金は準備する必要は無い」
「やっぱりだめ?」

 幸が不安そうに聞いている。
 父親より彼氏の方が大切なんだね。
 若干寂しい。

「そうじゃなくて払う必要がない」
 
 簡単に言うと「過払い金請求」だ。
 弁護士はうちの弁護士をつけてあげる。
 明日にでも早速手配するよ。
 どうせ暴力団が出てくるだろう。
 その時が僕達の介入する時だ。
 まとめて潰してやる。

「拓斗君は運が良かったね。あとは僕達に任せて」
「でも返さなくていいなら俺は幸と付き合う理由が無い」

 だから僕達には関係ない話だ。

「生憎とそこまで薄情な人間じゃないんだ。それに幸の顔を見てごらん」
 
 ひたすら拓斗君の事を案じている幸の表情を見てごらん。
 理解したらしい。

「今日はうちに泊まりなさい。その為に幸も準備したのでしょう?」

 部屋はいくつか空いてるけどどうせなら2人で一夜を過ごすのもいいだろう。

「……ありがとうございます」
「じゃ、おじさんは恵美と少し相談があるから、幸は部屋に案内してあげなさい」
「うん。拓斗。こっち」

 2人が部屋に行くのを見ながら恵美に聞いていた。

「望の言っていた通り。ただ、わざわざ出向くのもしんどい歳になったから空達に後始末させようって」

 SHの方がやり方は過激だ。
 空も理解しているらしく、原川組の後ろにいる存在を引きずり出そうと考えているみたいだ。
 それなら任せても大丈夫。

「それと……」

 恵美はにこりと笑って言った。

「来週末でも一緒に飲もうかって」

(4)

「おはよう、拓斗」

 目を開けると幸が隣で寝ていた。
 さすがに驚いた。
 何があった!?
 俺準備してなかったぞ!?
 そんな慌てふためく俺を見て幸は笑っていた。

「ずるいのね。折角のチャンスなのにさっさと寝てしまって」

 何も無かったから安心してという。
 俺はさっさと制服に着替えて部屋を出ようとした。
 幸が着替えるだろうから。
 だけど幸は言う。

「自分だけいそいそと出なくてもいいじゃない。ちょっとは待ってよ」
「でも俺いたら幸着替えられないだろ?」
「どうして?」

 へ?

「あのさ、着替え見られるのが嫌な男子と一緒に寝る程私だって軽くないよ」

 大金で彼氏を買おうとした女子の言うセリフなのかどうかは分からないけど。
 
「私ってそんなに魅力ないかな?」
「見ても無いのに分かるわけないだろ」
「じゃあ、見てよ」
「それは遠慮しとくよ」
「やっぱり魅力ないんだ」

 そうじゃないよ。

「もし想像通りの魅力的な女子だったら俺だって我慢できなくなるだろ」
「……それもそうね」

 何日我慢できるだろう?
 石原家はまだ兄弟が多いみたいだ。
 それでも一番下の岳や杏采も中学生だけど。
 みんなで中学校に行く。
 教室ではいつも通り。
 俺の席の隣に座りたがる者はいない。
 孤立していた。
 すると幸が机を持ってきた。

「ここ空いてるんでしょ?」

 そう言って笑っていた。
 学校に来てこんな楽しい時間は初めてだった。
 幸は成績はいい。
 真面目に授業を受けていた。
 だから授業中は何もしてこない。
 その代わり休憩時間に色々話をする。
 女子中学生らしい話をする……と思ったら。

「拓斗に残念なお知らせがあるんだ」
「どうした?」

 姉の美希は胸がデカいけど私は標準以下。
 俺は笑っていた。
 不思議そうに俺を見る幸。

「幸は胸の大きさで彼女を選ぶ男がいいのか?」

 そんな事言ってたら一生彼氏ができない女子が出来るぞ。

「ふぅん……」

 何か違う思惑があるみたいだ。

「どうした?」
「拓斗が私を彼女と認識してくれたんだなって」
「買われたからな」
「私にとってはどうでもいいくらいだよ」

 無茶苦茶な金銭感覚じゃないか?

「母さんが話してた事があるの」

 両親が学生時代の時、母親の方がデート代を払っていたらしい。
 父親はあまりいい気分がしなかったんだろう。

「僕は恵美の紐じゃない!」

 そんな事を言われたら母親も泣きだしたらしい。

「私は望といられる大切な時間を買っているだけなのに」

 恋人といられる大切な時間。
 恋人と呼べる大切な人をつなぎとめる価値はどんなものにも替えがたい。

「なるほどな」
「だから気にしないで」
「その分応えるよ」
「自分がしたいだけじゃないの?」
「それって悪い事か?」

 そんな風に思えるのは幸だけだぞ。

「浮気したらただじゃ済まないからね」

 そんな話をしていた時だった。
 突然教室の扉が開いた。

「大塚!出てこい!!」

 原川金融の奴らだ。
 俺が立ち上がろうとすると幸が腕を引っ張る。
 幸の顔を見ると「大丈夫だから」と言う。
 しかし連中が俺を見つけるとこっちにやってくる。
 その行く手を阻んだのは幸の双子の兄の友誼だった。

「来る場所間違えてない?ここ学校なんだけど?」

 お前らのようがチンピラが来て良い場所じゃない。
 友誼はそう言った。

「あんまり大人をなめるなよガキ」
「心配するなそんなつもりはない」

 そう言って友誼は男を殴り飛ばした。

「大人だから加減する必要ないよね?」
「ふざけやがって……」

 友誼一人でこの人数は無理だ。
 俺も加わろうとした。

「拓斗は幸を守れ!そのくらい出来ないと幸の彼氏なんて認めないからな!」

 友誼はそう言ってこっちを見て笑うと、背後から捕まえようとする奴がいた。
 
「友誼後!!」
  
 だけど友誼はびくともしなかった。
 そして捕まえようとした男は誰かに首を掴まれ持ち上げられていた。

「友誼こいつだれ?」

 立花颯真達3年組がいつの間にか来てた。
 騒ぎを聞きつけたんだろう。
 幸が知らせたのかもしれない。
 その背後から片桐冬吾が現れた。

「お前らの事は空から聞いてる。あんまり舐めないでくれないかな?」

 お前らがどこのチンピラだか知らないけどここは僕達の根城だ。
 勝手に乗り込んできてただで帰してもらえると勘違いしないでね。

「母さん達が後始末してくれるって。適当に始末しておいて」

 酒井泉が言うと、友誼は男を廊下に引きずりだして窓から外に投げ捨てた。
 ここ3階だぞ!?

「天音が昔言ってたからさ。紐無しバンジー」
 
 冬吾がそう言って笑う。

「他に体験したい奴いるなら遠慮なくどうぞ?」

 冬吾が言う。
 多分本気で全員投げ捨てるつもりだろう。
 いらない物は窓から投げ捨てたらいいと考えてるみたいだ。

「大塚!借りた金返さずにふざけた真似してただで済むと思ってねーだろうな!?」

 男が言うと片桐冬莉が答えた。

「その件なら早いうちに片付けるから大人しくしてろ。ってのが空からの伝言」

 冬莉が言うと男たちは帰った。

「案外甘っちょろい人間なんだね。校舎に火をつけるくらいはやると思ったけど」

 冬吾がそう言うと3年組は帰っていった。
 しかしやはり教室に来られたのは痛かった。
 俺は幸も巻き込んだらしい。

「すまない……」
「……どうしてSHが強いかわかる?」

 幸が言う。

「どうしてなんだ?」
「仲間を傷つける奴を絶対に許さない。どんなことがあっても仲間を絶対に守る」

 そんな信頼関係がSHにはある。
 そこらへんのでたらめな似非SHとは違う。
 たとえ相手が軍隊だろうがテロリストだろうが誇りを傷つける者に容赦はしない。
 だから最強なんだと幸が言っていた。

「私も一緒だよ。拓斗が一緒なら怖い物なんてない」
「俺も守るよ。幸を一生守る」
「ありがとう」

 下校時間になるとSHの皆が待っていた。

「帰りはおにぎり派?それともからあげ派?」

 そんな話題で盛り上がっていた。

(5)

「空、そろそろ時間じゃないのかい?」

 社長がそう言った。

「すいません、ちょっと用事があるのでお先に失礼します」
「いいよ、一応外回りで直帰って扱いにしとくから」

 その分ふんだくって来いと社長が言う。
 楠木さんに残務を任せて僕は原川金融の前に行く。
 大地と善明がいた。
 3人で十分だろう。

「全く面倒な事をしてくれるよ」

 この間にもまた被害を被ってる人がいる事を思い知らせないといけないと善明が笑う。
 大地は違う事を考えていた。

「原川ってやつ出てきますかね?」
「行ってみないと分からないだろうね」

 あと一台車が来た。
 大地の父さんが手配した弁護士だ。
 4人揃うとビルの階段を上る。
 そして原川金融の事務所に入った。

「なんだてめーら!?」

 接客の対応としては最悪だな。
 それは放っておいて大地が用件を告げる。

「ここでお金を借りていた大塚君の件で来たんだけど」

 それだけでも凄い事だよ。
 大地が自ら出向いたなんてことが他であったらその会社消し飛ぶよ?
 そんな事も分かってないらしい。

「金を用意したんだろうな!?」

 どうみてもただのチンピラな社員が怒鳴りつける。
 後は弁護士にまかせる。

「かなりの過払い金があるのでそれを請求しに来ました」

 要約してみた。
 グレーどころか真っ黒の闇金だ。
 普通なら通報してガサ入れされてもおかしくない状況だったらしい。
 それでも男は言う。

「寝ぼけた事言ってんじゃねーぞ!」
「寝ぼけた事言ってるのはどっちかな?」

 大塚君の両親が借りたお金は調べたら30万円ちょっとだった。
 それがたった2ヶ月で35億ってのが無茶苦茶って事くらい最近の中学生でも知ってるぞ。

「それがお宅らの誠意なのか?借款くらいみたんだろうが?」
「きちんと説明してない上に法外な利子の借款なんて無効なことくらい勉強してから仕事しろ」

 うちの事務員ですらある程度税法の事は勉強してるぞ。
 担当の者が不在だった場合にある程度はフォローできるようにと父さんの配慮だ。
 担当に言伝するにもそっちの方がスムーズに事が進むから。
 こいつらは本当に馬鹿じゃないのか?

「あんまり俺達を甘く見るなよ。頭でっかちの若造には分からねーだろうけど、世の中理屈で動いてるわけじゃねーんだよ!」

 そう言って懐からまた物騒な物を取り出す。
 ここは日本だぞ?
 僕は気に留めずに話をつづけた。

「原川郁夫っていう奴はいる?お前じゃ話にならないからそいつ呼んで来い」
「舐めるなよ!若造!」

 そう言って銃を僕に向けた瞬間男は倒れた。
 
 ぱすっ

「そうやって面倒な事増やすの止めてくれませんか?僕もこう見えて忙しいんです」

 大地が銃口を向けたまま言う。
 時間通りに家に帰らないと天音が黙ってない。

「で、原川ってのはいないの?」
「お前ら如きに出てくると思ったのか?」
「あ、そう」

 僕がそう言うと大地は弁護士に一言言って出て行ってもらった。

「じゃ、話を続けようか?理屈で片づけてやろうと思ったけど、物足りないらしいな?」

 会社を倒産させられるのと物理的に潰されるのとどっちがいいか選べ。
 相手はどっちも選ばなかった。
 全員殺されないと気が済まないらしい。
 だけど一々一人ずつぶん殴るのも面倒だ。
 
「じゃ、僕達帰るから」
「そうだね。早く帰らないと色々面倒だ」
「空の言う通りですね」

 そう言って3人そろって事務所の外に「退避」する。
 その後に微妙に振動が伝わってくる。
 ずどんという音と共に。
 理由は簡単。
 巨大な鉄球をぶら下げたクレーンが鉄球をぶつけたから。
 ビルの壁ごと事務所を破壊した。
 階段を降りると迷彩服を着た連中とすれ違う。
 その中のベレー帽をかぶった男と大地が話をする。
 とりあえず彼等に警告くらいしないと次が困るからね。
 そう。この程度で済ますつもりはさらさらなかった。
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――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

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