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(1)
「冬夜さん。本当に大丈夫なんですか?」
愛莉が空の心配をしている。
他にも恵美さんや誠達も家に来た。
「空の手を煩わせるまでもない。私が処刑してやる」
恵美さんがそう言っている。
「相手が悪すぎるんじゃないかと私も思うんだけど」
茜も兄の事を心配してるみたいだ。
みんな僕を見ている。
とりあえず愛莉の手を握ってあげる。
「愛莉が息子の心配をする気持ちはわかるけど、そろそろ息子を信じてあげようよ」
「それは分かっているんですけど……」
それでも不安なのが母親なんだろうな。
あの子が楠木桃花さんの命と等価交換するという取引は翼から聞いていた。
当然警察に通報なんて馬鹿な真似はしない。
それくらいで空達の気が済むはずがない。
楠木桃花さんの旦那さんは白鳥グループの人間。
これで地元の主要勢力の殆どを敵に回したことになる。
その事を相手が理解しているのかどうかは分からないけど。
恵美さんは天音から話を聞いて日本を火の海に包んでやろうと企んだらしい。
スクランブルモードにまでいったそうだ。
それを天音が空の意見を伝えて止めた。
「ただ潰すだけなら最初から親に任せる。でもそれだけだと気が済まない」
空がそう言ったらしい。
空の推測は大体当たっているだろう。
この期に及んでこそこそしているリーダーに誰がついていく?
FGがつかえないんじゃない。
FGが原川と言う男に見切りをつけた。
そう考えるのが妥当だろう。
だから原川組が出て来た。
この期に及んでまだ逃げ続けるなら原川組からも見放されてもおかしくない。
そんなチンピラの最期なんて容易に想像つく。
「だけど空の奴丸腰なんだろ?大丈夫なのか?」
誠が聞く。
僕が預けた逆刃刀は結がへし折ったらしい。
そんなものネット通販で売っているはずがない。
恵美さんに特注で作ってもらうという手段もあったけど、空は必要ないと判断したらしい。
「空は言ったそうだよ。いつから俺が素手で戦えないと錯覚していた……」
ぽかっ
「冬夜さんは子供が心配じゃないんですか?真面目に話してください」
「そうだね、親が出来る事はしておいた方がいいね」
「片桐君、何かあるの?何でもするわよ!」
誠心会とやらも一週間あったらバラバラにしてしまいかねない恵美さんが言った。
「警察へ圧力掛けられるように準備しておいてほしい」
多分空は怒りで我を忘れているだろう。
相手がどうなろうか知った事じゃないが、それで空が捕まるのは避けたい。
「それなら問題ない。心配しないで」
「あとは空もちゃんと考えているよ」
相手が勝手に仕掛けてきたんだ。
空も遠慮する必要は無いと判断するだろう。
しばらくして楠木秋斗君が来た。
春奈さん達も一緒だ。
「後始末は任せて。それより空君の事を……」
春奈さんが言う。
「トーヤはそんなに空の事を信頼してるみたいだけど、少しは不安はないのか?」
カンナが聞いた。
「あるよ?」
さすがに殺したらもみ消しようがない。
それでももみ消すのが江口家だけど。
空はまだ自分でも分かっているはず。
話を聞いてる限り伸びしろがあるように思えた。
自分の息子が殺し屋になるのを恐れているだけ。
だけど信じてやる事だって必要だろう?
空だって分かっているんだ。
自分にもしもの事があったら誰が美希や比呂達を養う?
自分1人だけの命じゃない。
だから無策で行くわけがない。
「空の王を怒らせるとどうなるか様子見しよう」
それが僕の結論だった。
(2)
全く無謀な事をしてくれるよ。
よりによって空一人で来いなんて要求するなんて。
僕だったら絶対しないね。
空にとって一番心配なのは仲間が傷つく事。
背後に仲間がいた方がいくらか動きを封じる事が出来る。
しかも人質を取るなんて「殺してください」の合図みたいなものだよ。
それでも美希は空の事が心配らしいけど。
まあ、自分の夫なら当然だろうね。
僕達は空の指示通り殆ど照明の無い公園の駐車場で待機していた。
空からの指示があったらすぐに動く予定だ。
それだけじゃない。
この場所を選んだのも原川って男は分かってないね。
何も無いように見えて夜になると視界が殆どなくなるくらいの照明がすくない。
特殊訓練を受けた江口家と志水家の私兵が潜伏するなんて造作でもない。
空はいらないと言ったけど狙撃手も配置してる。
もう、死ぬしかないね。
今さら謝っても空は止まらないよ。
きっと止められるのは美希だけだよ。
片桐家の人間は母親か彼女に頭を小突かれるとスイッチが切り替わるらしい。
すでに交渉は始まっているようだった。
空一人に対して大勢のチンピラ。
暴力団の構成員。
誠心会とやらの中枢に位置するらしい原川組。
それでもこんな地元にいる人間だ。
末端の人間だろう。
その程度で空を殺せるなんて思い上がりも甚だしいよ。
あまり近づくと気取られるので僕と大地が双眼鏡で様子を見ていた。
「ここから射殺すれば話は済むんじゃないの?」
僕の妻の翼が物騒な事を言う。
「桃花さんの身柄の確保が最優先」
大地が答えた。
それが確認するまでは僕達でも手が出せない。
空はどうやって奪還するか教えてくれなかった。
だけどSHの一番危険な部分に触れたのは間違いない。
「あ、あれ」
大地が何かに気づいたようだ。
僕も見てみると一人の男が女性のこめかみに銃口を当てて前に出た。
「お前が原川郁夫か?」
空の声がPCから聞こえてくる。
どうしてかというと空が骨伝導のマイクを忍ばせているから。
どうやら違うらしい。
奴らは馬鹿じゃないのか?
ここまで聞こえるような大声で言った。
「ガキ一人に頭が来るわけないだろ?」
たかがガキ一人と侮ったのが君の死因になると思うよ?
「ふっ……情けない頭だな」
空が挑発する。
「たかがガキ一人が怖くてお家でこそこそしてるのか?」
彼等の怒りが見えてくる。
そんな事お構いなしに空は続ける。
「一人で来いと言うから来てやったと言うのに……そんなに俺が怖いか?」
「あまり舐めるのも大概にしろよ?糞ガキ」
もう一人の男が前に出る。
多分原川郁夫だろう。
空は来ていると確信していたのか?
「こっちには人質がいる。下手な真似したらこの場で殺すぞ」
「やれるならやってみろ。そんな真似をして死ぬのはお前も一緒だぞ」
人質を取った時点でお前は愚かな選択をしたんだ。
こっちがまともに相手すると思ったか?
「たった一人で何が出来る?」
「試してみたいなら勝手にしろ」
空、流石にやばいんでないかい?
やばいのは空だった。
「プロをなめるなよ。その女を殺せ」
そう言ったと同時だった。
空の姿が消えた。
本気を出した時の空の行動速度は僕や大地でも目に負えない。
突然消えたように見える。
そして空の姿を探している間に空は元の位置にいた。
片手で桃花さんを抱きかかえている。
ほんの一瞬の出来事だった。
彼等にとっては悪夢の3秒だったろう。
(3)
この程度の距離で悠長に銃を構えてる時点でど素人だって言うんだ馬鹿が。
俺は低姿勢で一気に桃花さんを捕まえていた男に肉薄する。
男は俺に気づいてない。
そのまま男の顎を殴り上げる。
右腕で桃花さんを抱えてまわし蹴りをする。
こんな速度で動けば当然周りに衝撃波を生じる。
後ろにいた雑魚共を一瞬にして倒す。
倒れた頃には俺は元の位置に桃花さんを抱えて立っていた。
多分原川には何があったか理解できないだろう。
俺の動きは善明達でも追えないらしいから。
俺は桃花さんに駐車場の方に向かうように言う。
桃花さんが移動している間じっと原川達を睨みつけていた。
原川組の人間は全員腰を抜かして泡を吹いていた。
原川もその中に含まれている。
桃花さんが無事に駐車場に消えると、原川に言う。
「この後の選択肢をお前らにやる」
原川が俺とサシで勝負するか全員皆殺しにされたいか選べ。
「ふざけやがって……」
ゆっくりと立ち上がった原川がスーツを脱いで前に出る。
俺もゆっくりと原川に近づく。
原川が蹴りをしてきた。
わずかだが距離がある。
だけど俺は後ろにのけぞった。
理由は原川の靴のつま先から何かが飛び出したのが見えたから。
刃物を仕込んでいたらしい。
空振りした原川の足を掴むとその刃物を手刀で叩き折る。
ダサい真似しかできない奴は最後までダサい。
足を掴まれた状態で拳銃を持ち出す原川。
臆する事無く原川に接近して思いっきり殴り飛ばす。
歯を全部砕く勢いで殴った。
思い切り血を吐いてた。
血を吐いてる間に原川の銃を持っている方の手首を手刀で叩く。
手首の骨くらい簡単に折れるだろう。
片足は俺が持ち上げているから原川は拾う事すらできない。
「お前、自慢していいぞ」
そう言って掴んでいた足を離すと鼻を目掛けて思いっきり殴り飛ばす。
多少は手加減したけど。
さすがに「頭部粉砕」は恋愛小説としてどうかと思ったから。
あっけなく倒れて気絶する原川とそれを見ている子分たち。
「お前らも相手してやろうか?」
そう言って手招きする。
しかし目の前で起こったことに恐怖を覚えたのだろう。
子分たちは散り散りに逃げ出す。
そしてそれが叶わなぬことだと悟るのにそんなに時間がかからなかった。
水奈や学、光太に善明、天音と大地、と大勢の傭兵が退路を塞いでいた。
「あんまり舐めない方がいいですよ?」
大地が言う。
俺達は一人も逃すつもりはなかった。
この場で原川組を解散させてやる。
しかしまだ俺は甘かったらしい。
奴らは保険をかけていた。
警察に通報していた。
後から駆け付けた警官にして見れば俺が加害者だろう。
一々ダサい真似しやがって。
楠木さんが必死に警官に説明する。
とはいえ、この惨状を作ったことに変わりはない。
さすがに言い逃れできない。
パトカーに乗せられ警官に連行された。
(4)
「詰めが甘いよ。空」
父さんはそう言って迎えに来てくれた。
まさかチンピラが警察を頼るなんて考えなかった。
だけど、父さんはその事を予想していたらしい。
恵美さんに頼んで手配していた。
「ありがとうございます」
桃花さんがそう言って深く頭を下げる。
「僕達が巻き込んだんだから気にしないで」
きっとまだ桃花さん動揺してるから支えてあげてと秋斗に言う。
「子供もいるしファミレスでいいかな?」
夕食食べてないからエンプティだよ。
皆でファミレスで打ち上げする。
「それにしても空の動きは本当に分かりませんでした」
「本当だよ、片桐君は何をやったんだい?」
翼でも分からなかったらしい。
そりゃ銃の引き金を撃つ瞬間にあれだけ動けば誰もが分からないだろう。
善明は「悪夢の3秒」と称したらしいけど。
「結も凄いと思ったけど、空も化け物みたいになっちゃってるじゃない」
翼はそう言って笑っていた。
「これからどうなるんでしょうね?」
大地が言う。
警察に抵抗しながらも茜に言われた通り原川の醜態を写真に撮っておいた。
これを使ってネットに流すらしい。
FGは多分原川を見捨てるだろう。
FG対原川組と言う構図も予想していた。
あれだけ痛めつけたら原川組もSHに簡単に手出ししないはず。
食事が終ると皆家に帰る。
風呂に入ると先に風呂に入った美希がスマホを見て笑っていた。
嫌な予感がする。
「何見てるの?」
美希に聞くとスマホを見るように言われたので見ていた。
僕の速さは野球の投球をもとらえる程の高精度のカメラで連続でシャッターを切っても捉えることが出来なかったようだ。
気がついたら宙に拳銃が舞い、僕はいつの間にか桃花さんを抱えて元の位置にいた。
傍から見たら一瞬消えただけの画像。
「やっぱり空の王はやる事が違うわ」
そう言って天音や遊が爆笑していた。
結は寝ていると思ったけど起きてた。
床にモデルガンを置いて離れた位置から一瞬で銃を取る練習をしている。
さすがに2歳でそれは無いと思うけど……。
3人の子供に「もう寝なさい」と言うと素直に部屋に戻る。
「旦那様はどんどんすごくなりますね」
ベッドの中で美希が言う。
「ベッドの中では美希を満足させることで精いっぱいだけどね」
「じゃ、満足させてくださいな」
「結達に声聞こえないかな?」
「またそんな意地悪言うのですか?」
聞こえたらちゃんと言い訳するから大丈夫。
美希が言うなら大丈夫だろう。
「でもさ、美希」
「どうしたの?」
「僕の事を凄いというけど……」
僕や父さんの事を凄いというけど。
それよりすごいのはそんな僕達が本気出した時にげんこつ一つで元に戻す美希じゃないのか?
「それ愛莉に聞いたんだけど皆そうみたいなんだよね」
冬眞ですら莉子に制御されるらしい。
結もきっと結莉に制御されるんだろうな。
「もういいでしょ?最近構ってくれないから寂しかったんだよ」
「分かったよ」
今年度もあとわずかで終る。
冬吾達も中学を卒業する。
さすがに何もないだろうと思っていた。
「冬夜さん。本当に大丈夫なんですか?」
愛莉が空の心配をしている。
他にも恵美さんや誠達も家に来た。
「空の手を煩わせるまでもない。私が処刑してやる」
恵美さんがそう言っている。
「相手が悪すぎるんじゃないかと私も思うんだけど」
茜も兄の事を心配してるみたいだ。
みんな僕を見ている。
とりあえず愛莉の手を握ってあげる。
「愛莉が息子の心配をする気持ちはわかるけど、そろそろ息子を信じてあげようよ」
「それは分かっているんですけど……」
それでも不安なのが母親なんだろうな。
あの子が楠木桃花さんの命と等価交換するという取引は翼から聞いていた。
当然警察に通報なんて馬鹿な真似はしない。
それくらいで空達の気が済むはずがない。
楠木桃花さんの旦那さんは白鳥グループの人間。
これで地元の主要勢力の殆どを敵に回したことになる。
その事を相手が理解しているのかどうかは分からないけど。
恵美さんは天音から話を聞いて日本を火の海に包んでやろうと企んだらしい。
スクランブルモードにまでいったそうだ。
それを天音が空の意見を伝えて止めた。
「ただ潰すだけなら最初から親に任せる。でもそれだけだと気が済まない」
空がそう言ったらしい。
空の推測は大体当たっているだろう。
この期に及んでこそこそしているリーダーに誰がついていく?
FGがつかえないんじゃない。
FGが原川と言う男に見切りをつけた。
そう考えるのが妥当だろう。
だから原川組が出て来た。
この期に及んでまだ逃げ続けるなら原川組からも見放されてもおかしくない。
そんなチンピラの最期なんて容易に想像つく。
「だけど空の奴丸腰なんだろ?大丈夫なのか?」
誠が聞く。
僕が預けた逆刃刀は結がへし折ったらしい。
そんなものネット通販で売っているはずがない。
恵美さんに特注で作ってもらうという手段もあったけど、空は必要ないと判断したらしい。
「空は言ったそうだよ。いつから俺が素手で戦えないと錯覚していた……」
ぽかっ
「冬夜さんは子供が心配じゃないんですか?真面目に話してください」
「そうだね、親が出来る事はしておいた方がいいね」
「片桐君、何かあるの?何でもするわよ!」
誠心会とやらも一週間あったらバラバラにしてしまいかねない恵美さんが言った。
「警察へ圧力掛けられるように準備しておいてほしい」
多分空は怒りで我を忘れているだろう。
相手がどうなろうか知った事じゃないが、それで空が捕まるのは避けたい。
「それなら問題ない。心配しないで」
「あとは空もちゃんと考えているよ」
相手が勝手に仕掛けてきたんだ。
空も遠慮する必要は無いと判断するだろう。
しばらくして楠木秋斗君が来た。
春奈さん達も一緒だ。
「後始末は任せて。それより空君の事を……」
春奈さんが言う。
「トーヤはそんなに空の事を信頼してるみたいだけど、少しは不安はないのか?」
カンナが聞いた。
「あるよ?」
さすがに殺したらもみ消しようがない。
それでももみ消すのが江口家だけど。
空はまだ自分でも分かっているはず。
話を聞いてる限り伸びしろがあるように思えた。
自分の息子が殺し屋になるのを恐れているだけ。
だけど信じてやる事だって必要だろう?
空だって分かっているんだ。
自分にもしもの事があったら誰が美希や比呂達を養う?
自分1人だけの命じゃない。
だから無策で行くわけがない。
「空の王を怒らせるとどうなるか様子見しよう」
それが僕の結論だった。
(2)
全く無謀な事をしてくれるよ。
よりによって空一人で来いなんて要求するなんて。
僕だったら絶対しないね。
空にとって一番心配なのは仲間が傷つく事。
背後に仲間がいた方がいくらか動きを封じる事が出来る。
しかも人質を取るなんて「殺してください」の合図みたいなものだよ。
それでも美希は空の事が心配らしいけど。
まあ、自分の夫なら当然だろうね。
僕達は空の指示通り殆ど照明の無い公園の駐車場で待機していた。
空からの指示があったらすぐに動く予定だ。
それだけじゃない。
この場所を選んだのも原川って男は分かってないね。
何も無いように見えて夜になると視界が殆どなくなるくらいの照明がすくない。
特殊訓練を受けた江口家と志水家の私兵が潜伏するなんて造作でもない。
空はいらないと言ったけど狙撃手も配置してる。
もう、死ぬしかないね。
今さら謝っても空は止まらないよ。
きっと止められるのは美希だけだよ。
片桐家の人間は母親か彼女に頭を小突かれるとスイッチが切り替わるらしい。
すでに交渉は始まっているようだった。
空一人に対して大勢のチンピラ。
暴力団の構成員。
誠心会とやらの中枢に位置するらしい原川組。
それでもこんな地元にいる人間だ。
末端の人間だろう。
その程度で空を殺せるなんて思い上がりも甚だしいよ。
あまり近づくと気取られるので僕と大地が双眼鏡で様子を見ていた。
「ここから射殺すれば話は済むんじゃないの?」
僕の妻の翼が物騒な事を言う。
「桃花さんの身柄の確保が最優先」
大地が答えた。
それが確認するまでは僕達でも手が出せない。
空はどうやって奪還するか教えてくれなかった。
だけどSHの一番危険な部分に触れたのは間違いない。
「あ、あれ」
大地が何かに気づいたようだ。
僕も見てみると一人の男が女性のこめかみに銃口を当てて前に出た。
「お前が原川郁夫か?」
空の声がPCから聞こえてくる。
どうしてかというと空が骨伝導のマイクを忍ばせているから。
どうやら違うらしい。
奴らは馬鹿じゃないのか?
ここまで聞こえるような大声で言った。
「ガキ一人に頭が来るわけないだろ?」
たかがガキ一人と侮ったのが君の死因になると思うよ?
「ふっ……情けない頭だな」
空が挑発する。
「たかがガキ一人が怖くてお家でこそこそしてるのか?」
彼等の怒りが見えてくる。
そんな事お構いなしに空は続ける。
「一人で来いと言うから来てやったと言うのに……そんなに俺が怖いか?」
「あまり舐めるのも大概にしろよ?糞ガキ」
もう一人の男が前に出る。
多分原川郁夫だろう。
空は来ていると確信していたのか?
「こっちには人質がいる。下手な真似したらこの場で殺すぞ」
「やれるならやってみろ。そんな真似をして死ぬのはお前も一緒だぞ」
人質を取った時点でお前は愚かな選択をしたんだ。
こっちがまともに相手すると思ったか?
「たった一人で何が出来る?」
「試してみたいなら勝手にしろ」
空、流石にやばいんでないかい?
やばいのは空だった。
「プロをなめるなよ。その女を殺せ」
そう言ったと同時だった。
空の姿が消えた。
本気を出した時の空の行動速度は僕や大地でも目に負えない。
突然消えたように見える。
そして空の姿を探している間に空は元の位置にいた。
片手で桃花さんを抱きかかえている。
ほんの一瞬の出来事だった。
彼等にとっては悪夢の3秒だったろう。
(3)
この程度の距離で悠長に銃を構えてる時点でど素人だって言うんだ馬鹿が。
俺は低姿勢で一気に桃花さんを捕まえていた男に肉薄する。
男は俺に気づいてない。
そのまま男の顎を殴り上げる。
右腕で桃花さんを抱えてまわし蹴りをする。
こんな速度で動けば当然周りに衝撃波を生じる。
後ろにいた雑魚共を一瞬にして倒す。
倒れた頃には俺は元の位置に桃花さんを抱えて立っていた。
多分原川には何があったか理解できないだろう。
俺の動きは善明達でも追えないらしいから。
俺は桃花さんに駐車場の方に向かうように言う。
桃花さんが移動している間じっと原川達を睨みつけていた。
原川組の人間は全員腰を抜かして泡を吹いていた。
原川もその中に含まれている。
桃花さんが無事に駐車場に消えると、原川に言う。
「この後の選択肢をお前らにやる」
原川が俺とサシで勝負するか全員皆殺しにされたいか選べ。
「ふざけやがって……」
ゆっくりと立ち上がった原川がスーツを脱いで前に出る。
俺もゆっくりと原川に近づく。
原川が蹴りをしてきた。
わずかだが距離がある。
だけど俺は後ろにのけぞった。
理由は原川の靴のつま先から何かが飛び出したのが見えたから。
刃物を仕込んでいたらしい。
空振りした原川の足を掴むとその刃物を手刀で叩き折る。
ダサい真似しかできない奴は最後までダサい。
足を掴まれた状態で拳銃を持ち出す原川。
臆する事無く原川に接近して思いっきり殴り飛ばす。
歯を全部砕く勢いで殴った。
思い切り血を吐いてた。
血を吐いてる間に原川の銃を持っている方の手首を手刀で叩く。
手首の骨くらい簡単に折れるだろう。
片足は俺が持ち上げているから原川は拾う事すらできない。
「お前、自慢していいぞ」
そう言って掴んでいた足を離すと鼻を目掛けて思いっきり殴り飛ばす。
多少は手加減したけど。
さすがに「頭部粉砕」は恋愛小説としてどうかと思ったから。
あっけなく倒れて気絶する原川とそれを見ている子分たち。
「お前らも相手してやろうか?」
そう言って手招きする。
しかし目の前で起こったことに恐怖を覚えたのだろう。
子分たちは散り散りに逃げ出す。
そしてそれが叶わなぬことだと悟るのにそんなに時間がかからなかった。
水奈や学、光太に善明、天音と大地、と大勢の傭兵が退路を塞いでいた。
「あんまり舐めない方がいいですよ?」
大地が言う。
俺達は一人も逃すつもりはなかった。
この場で原川組を解散させてやる。
しかしまだ俺は甘かったらしい。
奴らは保険をかけていた。
警察に通報していた。
後から駆け付けた警官にして見れば俺が加害者だろう。
一々ダサい真似しやがって。
楠木さんが必死に警官に説明する。
とはいえ、この惨状を作ったことに変わりはない。
さすがに言い逃れできない。
パトカーに乗せられ警官に連行された。
(4)
「詰めが甘いよ。空」
父さんはそう言って迎えに来てくれた。
まさかチンピラが警察を頼るなんて考えなかった。
だけど、父さんはその事を予想していたらしい。
恵美さんに頼んで手配していた。
「ありがとうございます」
桃花さんがそう言って深く頭を下げる。
「僕達が巻き込んだんだから気にしないで」
きっとまだ桃花さん動揺してるから支えてあげてと秋斗に言う。
「子供もいるしファミレスでいいかな?」
夕食食べてないからエンプティだよ。
皆でファミレスで打ち上げする。
「それにしても空の動きは本当に分かりませんでした」
「本当だよ、片桐君は何をやったんだい?」
翼でも分からなかったらしい。
そりゃ銃の引き金を撃つ瞬間にあれだけ動けば誰もが分からないだろう。
善明は「悪夢の3秒」と称したらしいけど。
「結も凄いと思ったけど、空も化け物みたいになっちゃってるじゃない」
翼はそう言って笑っていた。
「これからどうなるんでしょうね?」
大地が言う。
警察に抵抗しながらも茜に言われた通り原川の醜態を写真に撮っておいた。
これを使ってネットに流すらしい。
FGは多分原川を見捨てるだろう。
FG対原川組と言う構図も予想していた。
あれだけ痛めつけたら原川組もSHに簡単に手出ししないはず。
食事が終ると皆家に帰る。
風呂に入ると先に風呂に入った美希がスマホを見て笑っていた。
嫌な予感がする。
「何見てるの?」
美希に聞くとスマホを見るように言われたので見ていた。
僕の速さは野球の投球をもとらえる程の高精度のカメラで連続でシャッターを切っても捉えることが出来なかったようだ。
気がついたら宙に拳銃が舞い、僕はいつの間にか桃花さんを抱えて元の位置にいた。
傍から見たら一瞬消えただけの画像。
「やっぱり空の王はやる事が違うわ」
そう言って天音や遊が爆笑していた。
結は寝ていると思ったけど起きてた。
床にモデルガンを置いて離れた位置から一瞬で銃を取る練習をしている。
さすがに2歳でそれは無いと思うけど……。
3人の子供に「もう寝なさい」と言うと素直に部屋に戻る。
「旦那様はどんどんすごくなりますね」
ベッドの中で美希が言う。
「ベッドの中では美希を満足させることで精いっぱいだけどね」
「じゃ、満足させてくださいな」
「結達に声聞こえないかな?」
「またそんな意地悪言うのですか?」
聞こえたらちゃんと言い訳するから大丈夫。
美希が言うなら大丈夫だろう。
「でもさ、美希」
「どうしたの?」
「僕の事を凄いというけど……」
僕や父さんの事を凄いというけど。
それよりすごいのはそんな僕達が本気出した時にげんこつ一つで元に戻す美希じゃないのか?
「それ愛莉に聞いたんだけど皆そうみたいなんだよね」
冬眞ですら莉子に制御されるらしい。
結もきっと結莉に制御されるんだろうな。
「もういいでしょ?最近構ってくれないから寂しかったんだよ」
「分かったよ」
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さすがに何もないだろうと思っていた。
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