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ignited
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(1)
「あれ?」
「あ……」
別府の花火大会に行く途中だった。
妊婦とその旦那さんを見てリリーが反応した。
どこかで見た事のあるカップルだった。
旦那さんが話しかけてきた。
「久しぶりだな。隣の人は彼氏さん?」
「うん……」
「久しぶりだね。2人も花火見に来たの?」
「まあ、そんなところかな」
リリーが紹介してくれた。
現在活動休止中のユニットのフレーズの増渕将門と麻里だそうだ。
将門さんはリリーの元カレになるらしい。
さすがに身重の妻を連れて混雑の中に入れない。
だったらリゾートホテルから見るのだったら問題ないんじゃないのか?
将門さんはそう考えたらしい。
「リリーは付き合って何年くらい経ってるの?」
「まだ1年も経ってない」
入社したくらいに交際を始めたとリリーが説明した。
「そうなんだ、素敵な彼氏だね」
「ありがとう、子供は男の子?」
麻里さんはリリーが聞くとくすっと笑った。
「両方」
「へ?」
リリーも耳を疑ったみたいだ。
麻里さんが説明する。
三つ子で男の子と女の子両方いるらしい。
「大変だね」
「でも、頑張らないと」
そう言って麻里さんはお腹をさすっている。
「リリー、そろそろ夕食の時間」
「あ、じゃあまたね」
「待ってリリー。SHに戻ってこないのか?」
将門さんがリリーに聞いていた。
セイクリッドハード。
その名前を聞いたら警察も逃げ出しそうな物騒な集団。
リリーも入っていたのだろうか?
「そうだね。ちょうどいいから入っておこうかな?」
弓弦も入ったらいいよ。
リリーはそう言う。
大丈夫なのか?
まあ、とりあえずグループに入っていた。
「時間とらせてごめんね。じゃあ、俺達も送迎バス来るから」
そう言って増渕さん達と別れた。
「リリー、大丈夫なのか?そのSHってのは」
「え?あ、そうか。弓弦知らなかったんだね」
夕食をしながらリリーはSHについて説明をしてくれた。
元々は小学生のグループだった。
ただの仲のいい友達グループ。
しかしそのSHに反発する組織FGが出来た。
それから片桐家を中心にFGとの抗争が始まった。
規模の大きさではFGに分があったけど個人の戦闘能力に差があり過ぎた。
加えて片桐翼や天音が持つ情報統制能力は人数の差なんて関係なしに無敵だった。
FGは中学、高校、大学、暴走族、ギャングと拡大していくけど全く歯が立たないらしい。
地元にSHさえいなければ最強と言われたFG。
そんなSHの名前を悪用する奴がいた。
多分俺が知ってるSHの噂はそのあたりの事だろう。
今はまた情勢が違うらしい。
SHの現リーダー片桐空はその性悪な部分を切り捨てた。
しかし今度はFGだ。
FGは本物の暴力団と手を組んだ。
それでもSHには勝てないらしい。
単純に頭のカリスマ性もあったけど片桐空の常識離れした能力は拳銃を所持している程度では歯が立たないらしい。
それに暴力団がそんな凶器を持ち出してもSHには何の脅しにもならない。
逆にSH側に「何をしてもいい」という口実を与えるだけになるらしい。
もっとも「FGは殺して燃やせ」というルールがあるんだとか。
やっぱり物騒なグループじゃないか?
「それは抗争してる間だけ」
夏はキャンプに行ったり、年越しパーティを開いたり、恋人がいない相手に紹介したり。
普通のグループなんだそうだ。
そんな情報を抜けていたリリーが知っている理由を聞いてみた。
「私だって故郷に友達くらいいるよ」
友達から情報を聞くくらいはする。
「なるほどね」
小学校の時に発足したグループだから同じ小学校の友達がいれば大体手に入る。
夕食を済ませると会場に向かった。
彼女と花火を見る。
「綺麗だね」
だけどいずれは散ってしまう。
彼女は寂しそうに言う。
「それでもまた次が上がるんだ」
「……そうだね」
花火が終ると駐車場に向かう。
車で来ると行きは時間を潰す場所があるから早めにくるけど、帰りは一斉に帰る。
当然国道は混む。
地元に戻る頃にはかなり遅くなっていた。
だけどあまり心配なかった。
「今夜泊っていくんだろ?」
俺が運転しながら聞くとリリーは笑って答えた。
「準備はしてある」
俺が済んでいるアパートに着くと、風呂に入ってベッドに入る。
「弓弦も変わったね」
「何が?」
ちなみに俺はタバコを吸わない。
「前は私が泊まるってだけで慌ててたのに」
「……言っとくけどリリーだけだからな」
「それは信じてるよ。信じさせてくれるから」
そう言ってリリーは抱き着く。
「ねえ、弓弦」
「どうした?」
「私ここに住んでもいいかな?」
「え?」
週に1度だけなんて寂しいから。
毎日会いたいくらいだと言う。
あまりそこまでべったりしないらしいけど、過去の反省なのか一人だと不安だと言う。
「あと少しだけ待ってくれないか?」
「どうして?」
私じゃ不安?
そんな事を聞いてきた。
「そうじゃないんだ」
「じゃあどうして?」
彼女のブロンドの髪を撫でながら答えた。
「きっとリリーの持つ不安は同棲程度で拭えないかもしれない」
「……気づいてたんだ」
そりゃずっとリリーを見ていたからな。
「でも、どうしてそれが待つ理由なの?」
「もっと確かな形にしたいから」
あまり慌てても仕方がない。
最高の形でリリーに伝えたい事があるから、それまで待って欲しいとリリーに伝える。
さすがにリリーも気づいたんだろう。
「それこそもっと慎重になったほうがいいんじゃない?」
リリーが言う。
「だから待ってって言ったんだ」
「分かった……私信じてるからね」
「誓うよ。俺は絶対にリリーを傷つけないから」
「うん」
次の日朝起きるとリリーはいない。
朝食の準備をしていた。
意外とリリーは和食派らしい。
「どうして奈良の大学に通ったと思ってるの?」
リリーはそう言って笑う。
食事が済むと着替えて出勤だ。
最初は一緒に出勤すると同期の仲間が冷かしていたけど、それも無くなった。
周りからそう見えるって事は本当は今でもいいのかもしれない。
だけど形で示してあげたかったから、もう少しだけ待ってもらう事にした。
(2)
「こっちは準備出来たわよ」
よくこんな土地あったな。
考える事を止めたらしい。
江口家の本家の土地に比べたら遥かに狭い。
最初が問題だった。
呼び鈴を押して「ごめんください」なんて挨拶が通用する相手じゃない。
そのくらいは分かっている。
しかし最初から突然空爆も失礼だと晶ちゃんが言っていた。
どこから突っ込んだらいいのか分からない。
白鳥カンパニーの支社長の晴斗は巨大なハンマーを持ってタックトップ一枚で立っている。
誰も彼が社長なんて思わないだろう。
そういえば大昔に体を鍛え抜いた市長ってのがいたね。
晶ちゃんのお父さんも凄かったけど。
渡辺班の戦闘組は大体揃ったみたいだ。
「じゃ、始めようか」
一応説明しよう。
これからの訪問先は原川組の家。
ちょっと挨拶するだけの作戦。
別に晩御飯を調べに行くわけじゃない。
相手も暴力団の家。
監視カメラがあったけど、僕と石原君で破壊済み。
銃弾程度なら、爆弾程度なら防ぎそうな門がそびえたっていたけど運が悪かった。
まさか日本の家に設置されて砲撃されるとは思っていなかっただろう。
そのまさかを晶ちゃんはやってのけた。
道路が狭いのと僕達にも被害が出るので戦車は諦めてくれた。
距離が問題だった。
なら別の手段を取る。
僕達は防爆が施された装甲車に乗っている。
近距離で危険なら長距離で狙えば良い。
発想がそもそも間違ってる気がするんだけど……。
風切り音が鳴る。
みんな耳をふさいで備えた。
そう、長距離から砲撃できる物。
なんでただの企業が迫撃砲なんて持ってるんだい。
福利厚生で予算を出してるらしいよ。
流石に慣れたよ。
海から逃れようとした船を潜水艦で沈めるくらいだからね。
かなりのベテランが狙ったらしい。
正確に門に命中した。
爆発の煙で何も見えなくなるけど、やがて静まって門が跡形もなく粉砕されていた。
それを確認して僕達はお家にお邪魔する。
派手な挨拶した代わりに大げさなお出迎えだ。
「冬夜は下がってろ」
多田君達が前に立つ。
「誠先輩の言う通りっす。雑魚相手に大将が出る必要ないっす」
「酒井君、なまってないよね?」
「子供達に負けるわけにもいかないからね」
石原君と話をする。
もちろん4人だけで相手なんて無茶はしない。
大勢の迷彩服を着た体格のいい外人部隊がやってくる。
「晴斗、それ使ってみたかったんだろ?今がチャンスなんじゃない?」
片桐君が言うと晴斗は意図を察したみたいだ。
「おっしゃあ!」
そう言ってドアに近づき思い切りハンマーを振り回す。
ノックなんて生易しい物じゃないそれは、ドアを思いっきり破壊した。
意外とドアは普通なんだな。
後で残骸を見たら結構分厚い鉄の扉だったけど。
中にも沢山の構成員がいる。
しかし片桐君が手を出す必要は無かった。
子供達ですら空に手出しさせなかった。
だったら親もそうあるべきだと思ったのだろう。
とりあえず奥の部屋に行くと家族がいた。
父親らしい人が銃を懐から出そうとすると、石原君が銃口を父親に向ける。
「あまり面倒な真似させないでください。僕もあまり妻を苦労させたくないんです」
こんな場所で殺人なんて起きたらもみ消すのも一苦労する。
この状況でもみ消しが出来ると思うのが凄いけどね。
「何の真似だてめーら!」
「四宮達樹さんだね?」
片桐君は表情一つ変えずに告げる。
四宮達樹が新しい原川組の頭。
空達より少し年上の男。
喧嘩も強いらしい。
「俺に何の用があるんだ?」
「単に挨拶に来ただけだよ」
「なんだと?」
そんなに大人の喧嘩にしたいなら望み通りしてやる。
これからお前らの身に何が起ころうと片桐君の知った事じゃない。
子供達に妙な真似をしたら容赦なく殺してやる。
久々の喧嘩だから手加減の仕方を忘れた。
精々震えて毎日を過ごせ。
片桐君の用件はたったそれだけだった。
その割には被害がデカすぎると思うんだけど。
爆撃しなかったのは用件を伝える事が出来なくなってしまう。
それでは彼等は理解してくれない。
なら直接出向くとしよう。
それが今回の作戦。
警察には既に手を打ってある。
いくら騒ごうと駆けつける事はない。
四宮は家族に「奥の部屋に行ってろ」と言うと立ち上がる。
「なかなか度胸のある奴じゃねーか。俺とサシで勝負しろ。それで白黒はっきりさせてやる」
「そんな事言わない方がいいと思うよ」
「なんだと?」
片桐君の忠告は無駄だった。
神奈さんと美嘉さんが揃って四宮を殴り飛ばす。
「てめえ、何様のつもりだ!舐めた態度してんじゃねーぞ!」
「神奈の言う通りだ!てめえごときにとーやの手を煩わせるんじゃねえ」
そう言って倒れた四宮を徹底的に痛めつける。
「神奈、ミニスカートで蹴りはやめとけ」
「誠!そう思うんだったら、こんな下着要求するんじゃねえ!」
一体多田君は何を要求したんだい?
「私だってもうすぐ50だ。少しは考えてくれ。流石に恥ずかしいぞ」
その割には派手に踏みつけてるんだけど。
「正志は少しは私の事に興味を示せ!何穿いても反応薄いとやりがいがないだろ!」
四宮の事情など二人の下着の事情に比べたらどうでもいいらしい。
ピクリとも動かなくなった四宮を確認すると皆撤収する。
「今日は車じゃないし少し飲んでいかないか?」
「ごめん、愛莉家に残してるから」
「僕も恵美を家に残してるから」
仕事帰りのサラリーマンのような話をしながら僕達は撤収した。
ガスの元栓からガスが漏れて引火して爆発。
事件はそう片付いた。
門の破壊はどう言い訳するんだろう?
そんな呑気な事を考えている僕もちょっと価値観が変わってしまったのだろうか?
「あれ?」
「あ……」
別府の花火大会に行く途中だった。
妊婦とその旦那さんを見てリリーが反応した。
どこかで見た事のあるカップルだった。
旦那さんが話しかけてきた。
「久しぶりだな。隣の人は彼氏さん?」
「うん……」
「久しぶりだね。2人も花火見に来たの?」
「まあ、そんなところかな」
リリーが紹介してくれた。
現在活動休止中のユニットのフレーズの増渕将門と麻里だそうだ。
将門さんはリリーの元カレになるらしい。
さすがに身重の妻を連れて混雑の中に入れない。
だったらリゾートホテルから見るのだったら問題ないんじゃないのか?
将門さんはそう考えたらしい。
「リリーは付き合って何年くらい経ってるの?」
「まだ1年も経ってない」
入社したくらいに交際を始めたとリリーが説明した。
「そうなんだ、素敵な彼氏だね」
「ありがとう、子供は男の子?」
麻里さんはリリーが聞くとくすっと笑った。
「両方」
「へ?」
リリーも耳を疑ったみたいだ。
麻里さんが説明する。
三つ子で男の子と女の子両方いるらしい。
「大変だね」
「でも、頑張らないと」
そう言って麻里さんはお腹をさすっている。
「リリー、そろそろ夕食の時間」
「あ、じゃあまたね」
「待ってリリー。SHに戻ってこないのか?」
将門さんがリリーに聞いていた。
セイクリッドハード。
その名前を聞いたら警察も逃げ出しそうな物騒な集団。
リリーも入っていたのだろうか?
「そうだね。ちょうどいいから入っておこうかな?」
弓弦も入ったらいいよ。
リリーはそう言う。
大丈夫なのか?
まあ、とりあえずグループに入っていた。
「時間とらせてごめんね。じゃあ、俺達も送迎バス来るから」
そう言って増渕さん達と別れた。
「リリー、大丈夫なのか?そのSHってのは」
「え?あ、そうか。弓弦知らなかったんだね」
夕食をしながらリリーはSHについて説明をしてくれた。
元々は小学生のグループだった。
ただの仲のいい友達グループ。
しかしそのSHに反発する組織FGが出来た。
それから片桐家を中心にFGとの抗争が始まった。
規模の大きさではFGに分があったけど個人の戦闘能力に差があり過ぎた。
加えて片桐翼や天音が持つ情報統制能力は人数の差なんて関係なしに無敵だった。
FGは中学、高校、大学、暴走族、ギャングと拡大していくけど全く歯が立たないらしい。
地元にSHさえいなければ最強と言われたFG。
そんなSHの名前を悪用する奴がいた。
多分俺が知ってるSHの噂はそのあたりの事だろう。
今はまた情勢が違うらしい。
SHの現リーダー片桐空はその性悪な部分を切り捨てた。
しかし今度はFGだ。
FGは本物の暴力団と手を組んだ。
それでもSHには勝てないらしい。
単純に頭のカリスマ性もあったけど片桐空の常識離れした能力は拳銃を所持している程度では歯が立たないらしい。
それに暴力団がそんな凶器を持ち出してもSHには何の脅しにもならない。
逆にSH側に「何をしてもいい」という口実を与えるだけになるらしい。
もっとも「FGは殺して燃やせ」というルールがあるんだとか。
やっぱり物騒なグループじゃないか?
「それは抗争してる間だけ」
夏はキャンプに行ったり、年越しパーティを開いたり、恋人がいない相手に紹介したり。
普通のグループなんだそうだ。
そんな情報を抜けていたリリーが知っている理由を聞いてみた。
「私だって故郷に友達くらいいるよ」
友達から情報を聞くくらいはする。
「なるほどね」
小学校の時に発足したグループだから同じ小学校の友達がいれば大体手に入る。
夕食を済ませると会場に向かった。
彼女と花火を見る。
「綺麗だね」
だけどいずれは散ってしまう。
彼女は寂しそうに言う。
「それでもまた次が上がるんだ」
「……そうだね」
花火が終ると駐車場に向かう。
車で来ると行きは時間を潰す場所があるから早めにくるけど、帰りは一斉に帰る。
当然国道は混む。
地元に戻る頃にはかなり遅くなっていた。
だけどあまり心配なかった。
「今夜泊っていくんだろ?」
俺が運転しながら聞くとリリーは笑って答えた。
「準備はしてある」
俺が済んでいるアパートに着くと、風呂に入ってベッドに入る。
「弓弦も変わったね」
「何が?」
ちなみに俺はタバコを吸わない。
「前は私が泊まるってだけで慌ててたのに」
「……言っとくけどリリーだけだからな」
「それは信じてるよ。信じさせてくれるから」
そう言ってリリーは抱き着く。
「ねえ、弓弦」
「どうした?」
「私ここに住んでもいいかな?」
「え?」
週に1度だけなんて寂しいから。
毎日会いたいくらいだと言う。
あまりそこまでべったりしないらしいけど、過去の反省なのか一人だと不安だと言う。
「あと少しだけ待ってくれないか?」
「どうして?」
私じゃ不安?
そんな事を聞いてきた。
「そうじゃないんだ」
「じゃあどうして?」
彼女のブロンドの髪を撫でながら答えた。
「きっとリリーの持つ不安は同棲程度で拭えないかもしれない」
「……気づいてたんだ」
そりゃずっとリリーを見ていたからな。
「でも、どうしてそれが待つ理由なの?」
「もっと確かな形にしたいから」
あまり慌てても仕方がない。
最高の形でリリーに伝えたい事があるから、それまで待って欲しいとリリーに伝える。
さすがにリリーも気づいたんだろう。
「それこそもっと慎重になったほうがいいんじゃない?」
リリーが言う。
「だから待ってって言ったんだ」
「分かった……私信じてるからね」
「誓うよ。俺は絶対にリリーを傷つけないから」
「うん」
次の日朝起きるとリリーはいない。
朝食の準備をしていた。
意外とリリーは和食派らしい。
「どうして奈良の大学に通ったと思ってるの?」
リリーはそう言って笑う。
食事が済むと着替えて出勤だ。
最初は一緒に出勤すると同期の仲間が冷かしていたけど、それも無くなった。
周りからそう見えるって事は本当は今でもいいのかもしれない。
だけど形で示してあげたかったから、もう少しだけ待ってもらう事にした。
(2)
「こっちは準備出来たわよ」
よくこんな土地あったな。
考える事を止めたらしい。
江口家の本家の土地に比べたら遥かに狭い。
最初が問題だった。
呼び鈴を押して「ごめんください」なんて挨拶が通用する相手じゃない。
そのくらいは分かっている。
しかし最初から突然空爆も失礼だと晶ちゃんが言っていた。
どこから突っ込んだらいいのか分からない。
白鳥カンパニーの支社長の晴斗は巨大なハンマーを持ってタックトップ一枚で立っている。
誰も彼が社長なんて思わないだろう。
そういえば大昔に体を鍛え抜いた市長ってのがいたね。
晶ちゃんのお父さんも凄かったけど。
渡辺班の戦闘組は大体揃ったみたいだ。
「じゃ、始めようか」
一応説明しよう。
これからの訪問先は原川組の家。
ちょっと挨拶するだけの作戦。
別に晩御飯を調べに行くわけじゃない。
相手も暴力団の家。
監視カメラがあったけど、僕と石原君で破壊済み。
銃弾程度なら、爆弾程度なら防ぎそうな門がそびえたっていたけど運が悪かった。
まさか日本の家に設置されて砲撃されるとは思っていなかっただろう。
そのまさかを晶ちゃんはやってのけた。
道路が狭いのと僕達にも被害が出るので戦車は諦めてくれた。
距離が問題だった。
なら別の手段を取る。
僕達は防爆が施された装甲車に乗っている。
近距離で危険なら長距離で狙えば良い。
発想がそもそも間違ってる気がするんだけど……。
風切り音が鳴る。
みんな耳をふさいで備えた。
そう、長距離から砲撃できる物。
なんでただの企業が迫撃砲なんて持ってるんだい。
福利厚生で予算を出してるらしいよ。
流石に慣れたよ。
海から逃れようとした船を潜水艦で沈めるくらいだからね。
かなりのベテランが狙ったらしい。
正確に門に命中した。
爆発の煙で何も見えなくなるけど、やがて静まって門が跡形もなく粉砕されていた。
それを確認して僕達はお家にお邪魔する。
派手な挨拶した代わりに大げさなお出迎えだ。
「冬夜は下がってろ」
多田君達が前に立つ。
「誠先輩の言う通りっす。雑魚相手に大将が出る必要ないっす」
「酒井君、なまってないよね?」
「子供達に負けるわけにもいかないからね」
石原君と話をする。
もちろん4人だけで相手なんて無茶はしない。
大勢の迷彩服を着た体格のいい外人部隊がやってくる。
「晴斗、それ使ってみたかったんだろ?今がチャンスなんじゃない?」
片桐君が言うと晴斗は意図を察したみたいだ。
「おっしゃあ!」
そう言ってドアに近づき思い切りハンマーを振り回す。
ノックなんて生易しい物じゃないそれは、ドアを思いっきり破壊した。
意外とドアは普通なんだな。
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中にも沢山の構成員がいる。
しかし片桐君が手を出す必要は無かった。
子供達ですら空に手出しさせなかった。
だったら親もそうあるべきだと思ったのだろう。
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父親らしい人が銃を懐から出そうとすると、石原君が銃口を父親に向ける。
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こんな場所で殺人なんて起きたらもみ消すのも一苦労する。
この状況でもみ消しが出来ると思うのが凄いけどね。
「何の真似だてめーら!」
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片桐君は表情一つ変えずに告げる。
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空達より少し年上の男。
喧嘩も強いらしい。
「俺に何の用があるんだ?」
「単に挨拶に来ただけだよ」
「なんだと?」
そんなに大人の喧嘩にしたいなら望み通りしてやる。
これからお前らの身に何が起ころうと片桐君の知った事じゃない。
子供達に妙な真似をしたら容赦なく殺してやる。
久々の喧嘩だから手加減の仕方を忘れた。
精々震えて毎日を過ごせ。
片桐君の用件はたったそれだけだった。
その割には被害がデカすぎると思うんだけど。
爆撃しなかったのは用件を伝える事が出来なくなってしまう。
それでは彼等は理解してくれない。
なら直接出向くとしよう。
それが今回の作戦。
警察には既に手を打ってある。
いくら騒ごうと駆けつける事はない。
四宮は家族に「奥の部屋に行ってろ」と言うと立ち上がる。
「なかなか度胸のある奴じゃねーか。俺とサシで勝負しろ。それで白黒はっきりさせてやる」
「そんな事言わない方がいいと思うよ」
「なんだと?」
片桐君の忠告は無駄だった。
神奈さんと美嘉さんが揃って四宮を殴り飛ばす。
「てめえ、何様のつもりだ!舐めた態度してんじゃねーぞ!」
「神奈の言う通りだ!てめえごときにとーやの手を煩わせるんじゃねえ」
そう言って倒れた四宮を徹底的に痛めつける。
「神奈、ミニスカートで蹴りはやめとけ」
「誠!そう思うんだったら、こんな下着要求するんじゃねえ!」
一体多田君は何を要求したんだい?
「私だってもうすぐ50だ。少しは考えてくれ。流石に恥ずかしいぞ」
その割には派手に踏みつけてるんだけど。
「正志は少しは私の事に興味を示せ!何穿いても反応薄いとやりがいがないだろ!」
四宮の事情など二人の下着の事情に比べたらどうでもいいらしい。
ピクリとも動かなくなった四宮を確認すると皆撤収する。
「今日は車じゃないし少し飲んでいかないか?」
「ごめん、愛莉家に残してるから」
「僕も恵美を家に残してるから」
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私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
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