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Zwei wing
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(1)
リビングに流れる軽快なポップ。
その歌声、どこかで聞いたことがある。
気になったので料理をしている美希に聞いてみた。
「この曲どうしたの?」
「ネットで最近話題の曲なんです」
美希が説明してくれた。
甘ったるいラブソング。
かなりロックだけど。
しかし女性ボーカルの声が気になる。
どこかで聞いたことがあるような。
「なんて人が歌ってるの?」
美希に聞いてみた。
「F・SEASON」
そう言ってパソコンの画面を指す。
髪の色や髪形は違うけどこの顔誰かに似ているような気がした。
イラストだけ乗せて声は人間の声。
最近流行ってる歌ってみたみたいなもので、本人の顔等は公開せずにイラストを乗せてるだけ。
ボーカロイドと言われるジャンルではないらしい。
それくらいは分かった。
どう聞いても機械で作った声じゃない。
優しい歌詞とは対照的に何かを訴えてくるようなとても激しい歌声。
何かが引っかかる。
突然現れた謎のグループ。
聞いた感じではギターとボーカルのデュオ。
再生回数はもうすぐ1000万回に到達しようとしている。
悩んでいると父さんが帰って来た。
父さんもこの歌声に足を止める。
「美希。茜はどこかお出かけ?」
「茜なら部屋にいるよ」
「呼んできてくれないかな?」
「パパ、どうしたの?ついに愛莉に飽きた?」
美希が呼ぶと茜が降りてきた。
「茜、この曲聞いてみて」
そう言って茜に曲を聴かせる。
「ああ、最近流行ってるグループだね」
最近人気の曲だと説明した。
「どこかで聞いたことある声だね」
「あれ……この声」
母さんも気になったらしい。
そして父さんも母さんも声の正体を知っているようだった。
茜も気になったらしい。
そんなに人気なら天音達も知ってるんじゃないだろうか?
そう思ってスマホで聞いてみた。
「ああ、結莉達が気に入ってる曲だ。それがどうかしたのか?」
「天音は聞いたことある?」
「ラブソングとかあまり趣味じゃないんだよ」
「一回聞いてみてくれない?」
そう言って天音に聞かせると天音もやはりボーカルが気になったみたいだ。
歌声に変えてあるけどどこかで聞いたことがある。
その時父さんが「茜なら正体分かるんじゃないか?」と聞いていた。
「その歌なら知ってる。だけど正体までは分からない。調べてってことなら調べてみるけど」
「お願いしていいかな」
「おっけー」
そう言って茜が調べていた。
どんなに身元を隠していようとネットの中に情報がある以上茜に隠せることはほとんどない。
そして衝撃の事実を知ることになる。
(2)
「冬莉、今日ちょっといいかな?」
「どうしたの?」
何となく予想はついたけど聞いてみた。
「放課後相談したくてさ」
「ファストフード店でいい?」
「出来れば個室がいいんだけど」
「じゃ、SAPでカラオケにでも行く?」
「うん、そこで」
そして放課後になると私達は用があるから先に帰ってと皆に伝える。
「放課後デート?」
瞳子が聞いた。
今さらそんな事を隠すような間柄じゃない。
「まあ、そんなところ」
「いいな。私も憧れるんだけど……」
冬吾だって瞳子の気持ちくらい分かる。
だから放課後にお店に寄って帰るくらいの事はする。
ただ、いまいち理解してないらしい。
だいたい食べ物を食べて帰るそうだ。
瞳子も大変だな。
私達はカラオケに行って部屋に入ると早速志希が話を出す。
「僕達の事かなり大事になってるみたい」
やっぱりその話か。
SHのグルチャでもかなり話題になっている。
茜が正体を暴きに乗り出したみたいだ。
多分バレるのは時間の問題だろう。
動画サイトのアカウントは志希の物だ。
そのアカウントにメールで多数のレコード会社からオファーが来ているらしい。
「うちの会社でCDを売りたい」
そりゃ一月ちょっとで再生数が1000万回なんて状態が起きたらそうなるだろう。
しかし志希は慎重だった。
高校くらいは保険で卒業しておきたい。
しかしきっとレコード会社や芸能事務所に所属したら学業どころじゃなくなる。
ツアーとかもしなきゃいけないだろう。
志希だって作曲のペースを上げないといけなくなる。
どうしようか?という相談だった。
もしデビューを決めるなら私だって同じことが言える。
だってボーカルが私だから。
空達もそれで気づいたらしい。
どこかで聞いた声だと。
問題を解決する策はある。
問題は私と志希の覚悟だ。
私は志希についていくと誓った。
だから志希に判断を委ねよう。
「志希は言ってたよね」
プロとしてやれるだけの自信が欲しい。
これだけの結果を残せば十分なんじゃないの?
「そうだけどやっぱり今は学生だし」
「その問題は一つ案がある。あとは志希がアーティストとして生きていく覚悟が欲しい」
一過性で終わってしまう可能性だってある。
売れなければ解約される。
だけどそれでもこの道で生きていきたいと覚悟があるなら協力する。
「……冬莉にも迷惑かけるよ?」
「片桐家の女性は恐ろしいまでに一途なの。この人と決めたら最後までついていく覚悟を持っている」
問題はそんな私の人生を預けても大丈夫?
高校生で背負えるものじゃないかもしれないけどそれだけの覚悟を決めて欲しい。
そうでなければ今すぐあの曲を削除するしかない。
でも志希の夢なんでしょ?
私は信じてる。
志希の力なら絶対に生き残っている。
初めての楽曲でこれだけの成果を出したのだから。
「……ちょっと荷が重いな」
「やめとく?」
「頼りないかもしれないけど背負ってもいい?」
「学生なんだから仕方ないよ。私も志希を支えるから」
「じゃ、やってみようか」
「うん、がんばろうね」
「で、どうするの?」
「まずここを出て私の家に寄って欲しい」
「冬莉の家に?」
志希が言うと私は頷いた。
こればっかりはパパ達を頼るしかない。
まずはそれからだと説明した。
志希の夢を実現させるのが私の務め。
そう心に誓った。
(3)
「参ったね」
望が言っている。
突然現れた大物。
F・SEASONという名前のユニット。
その人気はかなりの物だ。
しかし正体は謎のまま。
どこの大手レコード会社も必死になって探している。
もちろんIMEだって同じだ。
横取りされてたまるかと必死になっていた。
「誠君達なら分かるんじゃない」
望が言う。
確かに多田君や桐谷君達なら知ってそうな気がした。
しかし聞いてみたけどダメだった。
「俺達詳しいのアイドルだけだし」
いい年して何を考えているんだ。
亜依ちゃんも言っていた。
「いい歳して何馬鹿なことをやってるんだ。傍からみたらキモいおっさんだぞ!」
ちょうどいい年頃の天音ちゃんや水奈ちゃんも知らないらしい。
「私もあんまり邦楽好きじゃないからさ。この前美希から聞いてやっと知ったくらいなんだ」
もっとも結莉達は大地が聞かせて喜んでいたけど。
天音も茜に頼んで調べているらしい。
不可能ではないけど相手もそれなりに知識があるらしくてうまく身元を隠してる。
少々手こずるけど必ず見つけると言っていた。
しかし茜が見つける頃には他のレコード会社も見つけてるかもしれない。
少々強引な手段を取ってでも契約にこぎつけたい。
うちの会社ではフレーズがまだ人気があるけどそろそろ次の世代をターゲットにした歌手を獲得したい。
USEの音楽部門は大地に任せているから大地も必死になっている。
しかしこれほどまでの原石は長らく見てなかった。
意地でも手に入れたい。
そんな時に愛莉ちゃんから電話がかかって来た。
「もしもし」
「あ、恵美?今大丈夫かな?」
「大丈夫よ」
片桐家からの依頼はどんな仕事よりも最優先事項だ。
「今日仕事が終ったら家に寄ってくれないかな?」
「何かあったの?」
まさかリベリオンが動き出した?
こっちは今それどころじゃないというのに。
「そういうのじゃないから大丈夫。ちょっと娘の事でお願いがあって。音楽関係だから大地だと思ったんだけど……」
まさか?
私は望に聞く。
望も感づいたらしい。
「そういう件なら今すぐ行くと伝えて」
望に言われるとその通り愛莉ちゃんに返事する。
「仕事中ごめんね」
「気にしないで」
電話が終ると大地にも連絡する。
「どこの馬の骨とも知れない輩のオーディションなんか部下に任せておきなさい!」
そう言って私達はすぐに片桐家に向かう。
大地と天音ちゃんも一緒に来ていたみたいだ。
「愛莉~」
天音ちゃんが言うと愛莉ちゃんがやってきた。
「あら?天音も来たの?」
「気になったからさ。大地から聞いて一緒に来た」
「まあ、いいわ。皆上がって」
そう言ってリビングに案内されると冬莉とその彼氏が座っていた。
片桐君も座っている。
私達に腰掛けるように愛莉ちゃんが言うと私達は座る。
「じゃ、冬莉から言った方がいいんじゃないの?」
愛莉ちゃんが言う。
「僕から伝えます」
彼氏の方が言うそうだ。
冬莉が頷くと、彼氏は言った。
「僕達がF・SEASONです」
(4)
「僕達がF・SEASONです」
そう言った時冬莉の知り合いのレコード会社の社長たちが驚いていた。
冬莉の父さんは気づいていたみたいだけど黙っていた。
いつか自分で決断するだろうと思っていたらしい。
プロになれるかどうか見極める為に出した曲が異常なまでに人気を出した。
それは朝のワイドショーで報じられるほどの異常な事態。
今も他のレコード会社も血眼になって探しているだろう。
冬莉の姉の茜が探し始めた。
黙っていても隠しきれるものじゃない。
プロになれるなら隠す必要は無い。
しかし問題がいくつかあった。
レコード会社と契約するには年に何枚CDを出すとか条件が発生する。
だけど僕達はまだ学生。
高校生になったばかりだ。
そんなに作曲活動に割く時間がない。
問題はそれだけじゃない。
ライブなどもやっていかないといけない。
休む暇も無くなる。
だから昔の人がやっていたように東京の同人イベントで自主製作のCDを売ればいいと思っていた。
しかしここまで話題が広まった以上そんなやり方では対応できない。
自主販売をすれば当然身元がバレる。
今までの生活は出来なくなってしまう。
それは僕だけの問題じゃない。
ボーカルは冬莉だ。
冬莉を巻き込む事態になる。
とても自分1人で解決できそうな問題じゃないので冬莉に相談した。
すると冬莉は言ってくれた。
「片桐家の娘はどこまでも一途なの。恋人がどんな道を歩もうと最後までついていくって覚悟を決められる人を好きになるの」
だから冬莉の事は気にしないでいい。
僕の思う通りに進めばいい。
迷ったら背中を押してあげるから。
その代わり私の人生を背負う覚悟と決めて欲しい。
私達は2人で1つ。
その事を忘れないで欲しい。
そんな話を冬莉から聞いて僕の覚悟は決まった。
問題は学校生活だ。
せめて高校くらいは卒業したい。
しかし義務教育と違って高校は転校が難しい。
今のレベルの高校に入る事はまず無理だ。
来年入試からやり直すか定時制に通うか。
東京に引っ越さないとやはりだめか。
そんな悩みもあった。
そういうのを全てレコード会社の社長に言った。
「大地、あなたに音楽部門を任せてあるの。あなたが返事しなさい」
すると社長は僕の顔を見た。
その表情は交渉する大人の顔つきだった。
「つまり、契約はしたいけど、高校生活はちゃんと送りたい。出来れば今の高校がいい。そういう事かな?」
随分若そうな社長はそう聞いてきた。
「はい」
無理だと思っていた。
だけど社長の返事が意外だった。
「いいんじゃないの?」
「え?」
冬莉もびっくりしたんだろう。
思わず声がでいてた。
「時間がある時に楽曲を作ってくれたらいい。それをちゃんとレコーディングしてCD販売する」
ダウンロード販売の用意もする。
ライブは地元限定でやればいい。
地元にもドームがあるから大丈夫だろう。
県外の人間も会員制のサイトを作ってネット配信で見れるようにすればいい。
MVも地元で作る事は可能だろう。
スタジオくらいあるんだから。
僕が悩んでいたことをあっさりと解決してしまった。
そんな事可能なのか?
だけど社長は笑う。
「フレーズは知ってるよね?」
「はい」
「フレーズのギタリストも恋人といたいからと高校生活の3年間は自粛してたんだ」
合間を見て作曲だけして長期休暇のライブに参加する。
それを条件にやってきた。
それに比べたら僕達は恋人同士なんだろ。
スケジュール調整も楽だ。
僕たちを獲得できるならそのくらいの条件に何の不都合もない。
「大地の言う通りだね。父さんもそう思うよ」
「じゃ、USEの契約も済ませておかないとね」
社長の両親がそう言った。
「しかしまさか冬莉だったとはな……なんか聞いた声だと思ったけどさすがに驚いたぞ」
社長夫人であり冬莉の姉の天音さんがそういう。
冬莉の母さんもやっぱり気づいていたらしい。
「母親を侮ってはいけませんよ。自分が産んだ娘の声くらい分かります」
そう言って冬莉の母さんがにこりと笑う。
「もしやとは思ってたんだけど契約書を持って来るのを忘れていた」
「大地はまだ詰めが甘いね。……恵美」
すると女性の人が契約書を持って来た。
「細かい事は私達が調整するから取りあえず『所属します』という契約だけはこの場で決めて欲しい」
他のレコード会社にいつ横取りされるか分からない。
IME以外に楽曲の提供は一切しない。
著作権等は全てIMEが管理する。
とりあえずはそれだけでいいと言われた。
僕と冬莉はこの場でサインする。
「じゃあ、まず今アップロードしてるのを削除して改めてレコーディングしてうちの名義でアップロードするから」
「はい……」
「難しく考えなくていいよ。ちゃんとギャラも払うから」
それはこれからゆっくり決めていこう。と、社長が言った。
その他の事も説明を受けると社長たちは帰って行った。
「冬莉、あなた他人様の前に出るのだから責めて人並みくらいには準備しておきなさい」
「愛莉!そういう事を志希の前で言うの止めて!」
珍しいな。
冬莉が慌ててる。
しかし冬莉のお母さんも意地が悪いらしい。
「今まで好き放題してきたからこういう時に困るのですよ」
「だからって今言わなくてもいいじゃん」
「へえ、冬莉でもそういう感情あったんだ」
様子を見ていたらしい茜がそう言って笑っていた。
あまり長居するのはよくなさそうだ。
「じゃあ、僕そろそろ失礼します」
「はい、うちの娘をよろしくおねがいします」
色々と語弊を産みそうな冬莉の母さんの言葉を聞きながら玄関に向かった。
冬莉が外まで見送りに来る。
「どうしたの?」
「愛莉の言う事気にしないでね」
ああ、それか。
「僕もびっくりしてたんだ。冬莉は化粧とかあまりしないんだね」
「志希までそんな意地悪言うの?」
「しなくても十分綺麗だよって意味で言ったんだけど」
ぽかっ
「それでも少しでも彼氏の前では綺麗でいようって思う時もあるの」
「そうなんだね。ありがとう」
「そんなに大したことじゃないよ」
「じゃあ、また何かあったら連絡する」
「うん」
後日正式にIMEの事務所に挨拶に言った。
そして僕達のF・SEASONは活動を始めた。
リビングに流れる軽快なポップ。
その歌声、どこかで聞いたことがある。
気になったので料理をしている美希に聞いてみた。
「この曲どうしたの?」
「ネットで最近話題の曲なんです」
美希が説明してくれた。
甘ったるいラブソング。
かなりロックだけど。
しかし女性ボーカルの声が気になる。
どこかで聞いたことがあるような。
「なんて人が歌ってるの?」
美希に聞いてみた。
「F・SEASON」
そう言ってパソコンの画面を指す。
髪の色や髪形は違うけどこの顔誰かに似ているような気がした。
イラストだけ乗せて声は人間の声。
最近流行ってる歌ってみたみたいなもので、本人の顔等は公開せずにイラストを乗せてるだけ。
ボーカロイドと言われるジャンルではないらしい。
それくらいは分かった。
どう聞いても機械で作った声じゃない。
優しい歌詞とは対照的に何かを訴えてくるようなとても激しい歌声。
何かが引っかかる。
突然現れた謎のグループ。
聞いた感じではギターとボーカルのデュオ。
再生回数はもうすぐ1000万回に到達しようとしている。
悩んでいると父さんが帰って来た。
父さんもこの歌声に足を止める。
「美希。茜はどこかお出かけ?」
「茜なら部屋にいるよ」
「呼んできてくれないかな?」
「パパ、どうしたの?ついに愛莉に飽きた?」
美希が呼ぶと茜が降りてきた。
「茜、この曲聞いてみて」
そう言って茜に曲を聴かせる。
「ああ、最近流行ってるグループだね」
最近人気の曲だと説明した。
「どこかで聞いたことある声だね」
「あれ……この声」
母さんも気になったらしい。
そして父さんも母さんも声の正体を知っているようだった。
茜も気になったらしい。
そんなに人気なら天音達も知ってるんじゃないだろうか?
そう思ってスマホで聞いてみた。
「ああ、結莉達が気に入ってる曲だ。それがどうかしたのか?」
「天音は聞いたことある?」
「ラブソングとかあまり趣味じゃないんだよ」
「一回聞いてみてくれない?」
そう言って天音に聞かせると天音もやはりボーカルが気になったみたいだ。
歌声に変えてあるけどどこかで聞いたことがある。
その時父さんが「茜なら正体分かるんじゃないか?」と聞いていた。
「その歌なら知ってる。だけど正体までは分からない。調べてってことなら調べてみるけど」
「お願いしていいかな」
「おっけー」
そう言って茜が調べていた。
どんなに身元を隠していようとネットの中に情報がある以上茜に隠せることはほとんどない。
そして衝撃の事実を知ることになる。
(2)
「冬莉、今日ちょっといいかな?」
「どうしたの?」
何となく予想はついたけど聞いてみた。
「放課後相談したくてさ」
「ファストフード店でいい?」
「出来れば個室がいいんだけど」
「じゃ、SAPでカラオケにでも行く?」
「うん、そこで」
そして放課後になると私達は用があるから先に帰ってと皆に伝える。
「放課後デート?」
瞳子が聞いた。
今さらそんな事を隠すような間柄じゃない。
「まあ、そんなところ」
「いいな。私も憧れるんだけど……」
冬吾だって瞳子の気持ちくらい分かる。
だから放課後にお店に寄って帰るくらいの事はする。
ただ、いまいち理解してないらしい。
だいたい食べ物を食べて帰るそうだ。
瞳子も大変だな。
私達はカラオケに行って部屋に入ると早速志希が話を出す。
「僕達の事かなり大事になってるみたい」
やっぱりその話か。
SHのグルチャでもかなり話題になっている。
茜が正体を暴きに乗り出したみたいだ。
多分バレるのは時間の問題だろう。
動画サイトのアカウントは志希の物だ。
そのアカウントにメールで多数のレコード会社からオファーが来ているらしい。
「うちの会社でCDを売りたい」
そりゃ一月ちょっとで再生数が1000万回なんて状態が起きたらそうなるだろう。
しかし志希は慎重だった。
高校くらいは保険で卒業しておきたい。
しかしきっとレコード会社や芸能事務所に所属したら学業どころじゃなくなる。
ツアーとかもしなきゃいけないだろう。
志希だって作曲のペースを上げないといけなくなる。
どうしようか?という相談だった。
もしデビューを決めるなら私だって同じことが言える。
だってボーカルが私だから。
空達もそれで気づいたらしい。
どこかで聞いた声だと。
問題を解決する策はある。
問題は私と志希の覚悟だ。
私は志希についていくと誓った。
だから志希に判断を委ねよう。
「志希は言ってたよね」
プロとしてやれるだけの自信が欲しい。
これだけの結果を残せば十分なんじゃないの?
「そうだけどやっぱり今は学生だし」
「その問題は一つ案がある。あとは志希がアーティストとして生きていく覚悟が欲しい」
一過性で終わってしまう可能性だってある。
売れなければ解約される。
だけどそれでもこの道で生きていきたいと覚悟があるなら協力する。
「……冬莉にも迷惑かけるよ?」
「片桐家の女性は恐ろしいまでに一途なの。この人と決めたら最後までついていく覚悟を持っている」
問題はそんな私の人生を預けても大丈夫?
高校生で背負えるものじゃないかもしれないけどそれだけの覚悟を決めて欲しい。
そうでなければ今すぐあの曲を削除するしかない。
でも志希の夢なんでしょ?
私は信じてる。
志希の力なら絶対に生き残っている。
初めての楽曲でこれだけの成果を出したのだから。
「……ちょっと荷が重いな」
「やめとく?」
「頼りないかもしれないけど背負ってもいい?」
「学生なんだから仕方ないよ。私も志希を支えるから」
「じゃ、やってみようか」
「うん、がんばろうね」
「で、どうするの?」
「まずここを出て私の家に寄って欲しい」
「冬莉の家に?」
志希が言うと私は頷いた。
こればっかりはパパ達を頼るしかない。
まずはそれからだと説明した。
志希の夢を実現させるのが私の務め。
そう心に誓った。
(3)
「参ったね」
望が言っている。
突然現れた大物。
F・SEASONという名前のユニット。
その人気はかなりの物だ。
しかし正体は謎のまま。
どこの大手レコード会社も必死になって探している。
もちろんIMEだって同じだ。
横取りされてたまるかと必死になっていた。
「誠君達なら分かるんじゃない」
望が言う。
確かに多田君や桐谷君達なら知ってそうな気がした。
しかし聞いてみたけどダメだった。
「俺達詳しいのアイドルだけだし」
いい年して何を考えているんだ。
亜依ちゃんも言っていた。
「いい歳して何馬鹿なことをやってるんだ。傍からみたらキモいおっさんだぞ!」
ちょうどいい年頃の天音ちゃんや水奈ちゃんも知らないらしい。
「私もあんまり邦楽好きじゃないからさ。この前美希から聞いてやっと知ったくらいなんだ」
もっとも結莉達は大地が聞かせて喜んでいたけど。
天音も茜に頼んで調べているらしい。
不可能ではないけど相手もそれなりに知識があるらしくてうまく身元を隠してる。
少々手こずるけど必ず見つけると言っていた。
しかし茜が見つける頃には他のレコード会社も見つけてるかもしれない。
少々強引な手段を取ってでも契約にこぎつけたい。
うちの会社ではフレーズがまだ人気があるけどそろそろ次の世代をターゲットにした歌手を獲得したい。
USEの音楽部門は大地に任せているから大地も必死になっている。
しかしこれほどまでの原石は長らく見てなかった。
意地でも手に入れたい。
そんな時に愛莉ちゃんから電話がかかって来た。
「もしもし」
「あ、恵美?今大丈夫かな?」
「大丈夫よ」
片桐家からの依頼はどんな仕事よりも最優先事項だ。
「今日仕事が終ったら家に寄ってくれないかな?」
「何かあったの?」
まさかリベリオンが動き出した?
こっちは今それどころじゃないというのに。
「そういうのじゃないから大丈夫。ちょっと娘の事でお願いがあって。音楽関係だから大地だと思ったんだけど……」
まさか?
私は望に聞く。
望も感づいたらしい。
「そういう件なら今すぐ行くと伝えて」
望に言われるとその通り愛莉ちゃんに返事する。
「仕事中ごめんね」
「気にしないで」
電話が終ると大地にも連絡する。
「どこの馬の骨とも知れない輩のオーディションなんか部下に任せておきなさい!」
そう言って私達はすぐに片桐家に向かう。
大地と天音ちゃんも一緒に来ていたみたいだ。
「愛莉~」
天音ちゃんが言うと愛莉ちゃんがやってきた。
「あら?天音も来たの?」
「気になったからさ。大地から聞いて一緒に来た」
「まあ、いいわ。皆上がって」
そう言ってリビングに案内されると冬莉とその彼氏が座っていた。
片桐君も座っている。
私達に腰掛けるように愛莉ちゃんが言うと私達は座る。
「じゃ、冬莉から言った方がいいんじゃないの?」
愛莉ちゃんが言う。
「僕から伝えます」
彼氏の方が言うそうだ。
冬莉が頷くと、彼氏は言った。
「僕達がF・SEASONです」
(4)
「僕達がF・SEASONです」
そう言った時冬莉の知り合いのレコード会社の社長たちが驚いていた。
冬莉の父さんは気づいていたみたいだけど黙っていた。
いつか自分で決断するだろうと思っていたらしい。
プロになれるかどうか見極める為に出した曲が異常なまでに人気を出した。
それは朝のワイドショーで報じられるほどの異常な事態。
今も他のレコード会社も血眼になって探しているだろう。
冬莉の姉の茜が探し始めた。
黙っていても隠しきれるものじゃない。
プロになれるなら隠す必要は無い。
しかし問題がいくつかあった。
レコード会社と契約するには年に何枚CDを出すとか条件が発生する。
だけど僕達はまだ学生。
高校生になったばかりだ。
そんなに作曲活動に割く時間がない。
問題はそれだけじゃない。
ライブなどもやっていかないといけない。
休む暇も無くなる。
だから昔の人がやっていたように東京の同人イベントで自主製作のCDを売ればいいと思っていた。
しかしここまで話題が広まった以上そんなやり方では対応できない。
自主販売をすれば当然身元がバレる。
今までの生活は出来なくなってしまう。
それは僕だけの問題じゃない。
ボーカルは冬莉だ。
冬莉を巻き込む事態になる。
とても自分1人で解決できそうな問題じゃないので冬莉に相談した。
すると冬莉は言ってくれた。
「片桐家の娘はどこまでも一途なの。恋人がどんな道を歩もうと最後までついていくって覚悟を決められる人を好きになるの」
だから冬莉の事は気にしないでいい。
僕の思う通りに進めばいい。
迷ったら背中を押してあげるから。
その代わり私の人生を背負う覚悟と決めて欲しい。
私達は2人で1つ。
その事を忘れないで欲しい。
そんな話を冬莉から聞いて僕の覚悟は決まった。
問題は学校生活だ。
せめて高校くらいは卒業したい。
しかし義務教育と違って高校は転校が難しい。
今のレベルの高校に入る事はまず無理だ。
来年入試からやり直すか定時制に通うか。
東京に引っ越さないとやはりだめか。
そんな悩みもあった。
そういうのを全てレコード会社の社長に言った。
「大地、あなたに音楽部門を任せてあるの。あなたが返事しなさい」
すると社長は僕の顔を見た。
その表情は交渉する大人の顔つきだった。
「つまり、契約はしたいけど、高校生活はちゃんと送りたい。出来れば今の高校がいい。そういう事かな?」
随分若そうな社長はそう聞いてきた。
「はい」
無理だと思っていた。
だけど社長の返事が意外だった。
「いいんじゃないの?」
「え?」
冬莉もびっくりしたんだろう。
思わず声がでいてた。
「時間がある時に楽曲を作ってくれたらいい。それをちゃんとレコーディングしてCD販売する」
ダウンロード販売の用意もする。
ライブは地元限定でやればいい。
地元にもドームがあるから大丈夫だろう。
県外の人間も会員制のサイトを作ってネット配信で見れるようにすればいい。
MVも地元で作る事は可能だろう。
スタジオくらいあるんだから。
僕が悩んでいたことをあっさりと解決してしまった。
そんな事可能なのか?
だけど社長は笑う。
「フレーズは知ってるよね?」
「はい」
「フレーズのギタリストも恋人といたいからと高校生活の3年間は自粛してたんだ」
合間を見て作曲だけして長期休暇のライブに参加する。
それを条件にやってきた。
それに比べたら僕達は恋人同士なんだろ。
スケジュール調整も楽だ。
僕たちを獲得できるならそのくらいの条件に何の不都合もない。
「大地の言う通りだね。父さんもそう思うよ」
「じゃ、USEの契約も済ませておかないとね」
社長の両親がそう言った。
「しかしまさか冬莉だったとはな……なんか聞いた声だと思ったけどさすがに驚いたぞ」
社長夫人であり冬莉の姉の天音さんがそういう。
冬莉の母さんもやっぱり気づいていたらしい。
「母親を侮ってはいけませんよ。自分が産んだ娘の声くらい分かります」
そう言って冬莉の母さんがにこりと笑う。
「もしやとは思ってたんだけど契約書を持って来るのを忘れていた」
「大地はまだ詰めが甘いね。……恵美」
すると女性の人が契約書を持って来た。
「細かい事は私達が調整するから取りあえず『所属します』という契約だけはこの場で決めて欲しい」
他のレコード会社にいつ横取りされるか分からない。
IME以外に楽曲の提供は一切しない。
著作権等は全てIMEが管理する。
とりあえずはそれだけでいいと言われた。
僕と冬莉はこの場でサインする。
「じゃあ、まず今アップロードしてるのを削除して改めてレコーディングしてうちの名義でアップロードするから」
「はい……」
「難しく考えなくていいよ。ちゃんとギャラも払うから」
それはこれからゆっくり決めていこう。と、社長が言った。
その他の事も説明を受けると社長たちは帰って行った。
「冬莉、あなた他人様の前に出るのだから責めて人並みくらいには準備しておきなさい」
「愛莉!そういう事を志希の前で言うの止めて!」
珍しいな。
冬莉が慌ててる。
しかし冬莉のお母さんも意地が悪いらしい。
「今まで好き放題してきたからこういう時に困るのですよ」
「だからって今言わなくてもいいじゃん」
「へえ、冬莉でもそういう感情あったんだ」
様子を見ていたらしい茜がそう言って笑っていた。
あまり長居するのはよくなさそうだ。
「じゃあ、僕そろそろ失礼します」
「はい、うちの娘をよろしくおねがいします」
色々と語弊を産みそうな冬莉の母さんの言葉を聞きながら玄関に向かった。
冬莉が外まで見送りに来る。
「どうしたの?」
「愛莉の言う事気にしないでね」
ああ、それか。
「僕もびっくりしてたんだ。冬莉は化粧とかあまりしないんだね」
「志希までそんな意地悪言うの?」
「しなくても十分綺麗だよって意味で言ったんだけど」
ぽかっ
「それでも少しでも彼氏の前では綺麗でいようって思う時もあるの」
「そうなんだね。ありがとう」
「そんなに大したことじゃないよ」
「じゃあ、また何かあったら連絡する」
「うん」
後日正式にIMEの事務所に挨拶に言った。
そして僕達のF・SEASONは活動を始めた。
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そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
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