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銃と弾丸
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(1)
「見て結。綺麗だよ」
隣で茉奈がはしゃいでいる。
あの日を境に結莉の代わりに茉奈がそばにいるようになった。
結莉に何か言われたらしい。
必死に俺の気を引こうとしている
見渡す限り草原が広がっている。
他には何も無い。
お菓子も「まだダメ」ってママが言うから食べれない。
やる事ないから寝てたら起こされた。
「天気もいいよ」
雲ってたべられるのかな~?
わた菓子みたいだけど。
どのくらい飛べば届くのかな?
「結、アレは食べ物じゃないよ」
ママが言うんだから間違いないだろう。
「茉奈はなんでそんなに楽しそうなの?」
あまりにも楽しそうなのが不思議だったので聞いてみた。
「結と一緒だから……じゃだめ?」
「……それってどこでもいいんじゃないのか?」
「うん」
「冬夜、そんなにつまらなさそうな顔したらダメ。彼女と一緒に遊びに来てるのに失礼でしょ」
ママがそういうから多分そうなんだろうな。
「僕達どこに向かってるの?」
「お花が綺麗な場所」
お花は食べれないって言ってたな。
でもお弁当があるからいっか。
車がいっぱい並んでる。
皆同じ場所に行くらしい。
何か名物料理でもあるのかな?
僕はラーメンがあればいいんだけど、それじゃダメってパパが言ってた。
世界にはもっとおいしい物があるらしい。
「結が大きくなったら食べに行こうね」
ママが言ってた。
「結、食べ物もいいけど彼女に構ってやったらどうだ?」
せっかく一緒の車に乗ってるのにと比呂が言う。
とはいえ玩具とか持ってきてないから何したらいいか分からない。
「うーん。結ってどんな女の子が好き?」
茉奈が聞いてきた。
実は前日に同じ事をママに聞かれた。
「食べ物くれる人」
「それじゃだめ!」
叱られた。
ママも一緒になって考えてくれた。
「優しい人」
ママがそう言えって言うから言ってみた。
「なるほどね、茉奈は結のどこが好きなの?」
ママが聞くと、よく分からないけど茉奈は凄く恥ずかしがっている。
俺の事が好きなのって恥ずかしいのか?
「えーと、数えきれないほどあるんだけど……優しいところかな」
「へぇ……なるほどね」
ママが笑っていた。
優しいって言葉は万能なんだな。
なんでも一言で片づけてしまう
あんまり深く考えてもお腹減りそうだし止めよう。
やっと駐車場についてゲート前で皆揃っていた。
秋久や陽葵と菫も一緒にいる。
皆揃うとチケットを貰って中に入る。
看板をみるとソフトクリーム屋さんとかあるみたいだ。
じっと見てるとパパが「それはお弁当の後にしようね」と言った。
後で食べられるのか。
何味がいいかな?
チョコレートかな。
でもパパは「ここのバニラソフトは地元では食べられない味だよ」と言っていた。
悩んでいると茉奈が一緒に悩んでた。
「どっちも食べたらいいじゃない」
茉奈がそう言うのでそうすることにした。
芝の上にシートを敷いてお弁当を広げる。
今回も茉奈がおにぎりを作ったらしい。
片桐家では決まりがあるらしい。
「作ってもらった料理は美味しいよって答えるのが礼儀」
どんな理由があろうと作ってくれたのだからありがたく頂きなさい。
だから茉奈にも「美味しいよ」って答える。
「ありがとう、もっと色んな物作れるように練習するね」
茉奈は嬉しそうだ。
「結は何が好きなの?」
「ラーメン」
「……結はもっと色々食わせないとまずいんじゃないのか?」
天音が言っている。
「それなのよね。このまま成長してデートにラーメンなんて母さんが知ったらまずい気がする」
ママも悩んでる。
ラーメンより美味しい物あるのかな。
じいじも同じ事言ってたな。
楽しみだ。
いっぱいお弁当を食べてぽかぽか気持ちよくて眠くなる。
その場に寝転んで寝ようとするとママが「起きなさい」と言う。
「デート中に寝たら茉奈の相手を誰がするの?」
あ、そうか。
とはいえ親の話を聞いていても眠くなる。
するとパパが立ち上がる。
「茉奈も食べ終わったみたいだし、ちょっと結達連れて回って来るよ」
「空、すまんな」
「いいよ、菫たち頼むよ」
そう言って俺達はパパと一緒に回る事にした。
色んな花が咲いている。
とりあえず花は食べ物じゃないから興味ないけど。
茉奈に合わせて「綺麗だね」って言っておいた。
「どこに行こうかな?」
パパが言うと迷わず答えた。
「ソフトクリーム」
「そうだったね」
パパは笑って俺達をソフトクリーム屋さんに連れて行ってくれた。
(2)
「車いっぱいだね」
私の隣に座っている朔は色々話しかけてくる。
退屈だから寝たいんだけど朔が五月蠅くて眠れやしない。
しかし朔はどうしてこんなにテンション高いんだろ?
行けども行けども同じ風景。
しかも車は渋滞して全く進まない。
多分天音は爆睡してるだろうな。
「茉莉はお花とか興味ないのかな?」
朔の母親の祈さんが聞いてきた。
「あんまりないかな」
だって食べてもあまりお腹に溜まりそうにない。
「天音の子だね……」
「そうだろうね……」
朔の両親がそう言って納得してた。
「茉莉達は幼稚園でお友達出来た?」
祈さんが聞いた。
結の警告は幼稚園全体を文字通り震撼させた。
それ以来私達に近づく連中はよくも悪くもいなくなった。
朔や陽葵に菫くらいじゃないだろうか?
保母さん達も腫物に触るような対応。
まあ、結を怒らせると幼稚園が色んな意味でやばい。
しかし普段の結はぼーっとしてる。
食い物の事しか考えてないらしい。
食べれない物には興味が無い。
むしろそんな中で茉奈を恋人と認識しているのかすらも怪しい。
理由は朔にも比呂にもわからないみたいだ。
まあ、3歳ならそんなもんだろ?
おにぎりくれたからとかじゃないだけマシなんじゃないだろうか?
「朔は好きな女の子いるのか?」
何となく聞いてみた。
「いるよ」
「だれ?」
私の知ってる人?
すると朔は予想外の事を言いだした。
「茉莉」
は?
「真面目に聞いてるんだけど?」
「凄く真面目なつもりなんだけど」
「私のどこがいいんだ?」
すると朔の説明が始まった。
優しいところ。
結を庇って一人で叩きのめそうとするところ。
強いところ。
女の子だからって大人しくしてないで自ら飛び出していく勇気。
脆い所。
結と茉奈が仲良くしてるのを羨ましそうに思っているけど、決してそれを出さないところ。
本当は私も結が好きなんじゃないかと思ったそうだ。
だけどそうじゃない。
茉奈の邪魔をするつもりがない事くらいは分かる。
だから自分にもそんな相手が欲しいと思ってるんじゃないか。
だから茉莉の話し相手になってあげたいと思った。
それが好きという感情に変わるまでそんなに時間がかからなかった。
「母さんの昔話を聞いていたら、今の茉莉を見ているようだった」
祈さんも一人で自由にしていたらしい。
だけど父親の陸さんと交際を始めて初めて背中を預けられる人を知った。
だから朔も私が背中を預けられるようになりたい。
そんな事を言う3歳児ってすごいな。
「まだ僕じゃ未熟だって分かってるから。いつかきっとそうなりたいと思ってるんだ」
朔はそう言った。
「いつかきっと……そんな事言ってるうちは絶対になれない」
私はそう返した。
天音が言っていた。
いつかそうなるといいな。
そんな軟弱な心構えじゃ絶対にその時は来ない。
思ったらまず行動しろ。
それでダメでも諦めずに何度も挑めばいい。
それを「いつかきっと」って言うんだ。
自分1人で努力しても相手に伝わらない。
相手にぶつかっていけ。
一人で妄想してても物事始まらない。
ねだるな、勝ち取れ。
最低限の食糧くらい自分の力でもぎ取って来い。
なんでもホイホイ譲るような軟弱な人間は餓死するぞ。
「だってさ、朔」
「うん……わかった」
「わかってねえだろ!」
あまりイライラさせるな。
「僕が相手じゃダメかな」
「なんで男の割にはそう自信がないんだ?」
自信過剰な3歳なんか殺して埋めてやるけど。
まだ理解できないのか。
お前が望むものはなんだ?
自分で自分が望むものくらい言えないヘタレの彼女になる気はないぞ。
すると朔は少し考えて言った。
「茉莉はまるで銃の様に戦いに身を投じる」
「それで?」
「もし茉莉が銃だとしたら……僕は弾丸になってやる」
どこで読んだんだそんな漫画。
3歳の子供が読む絵本の内容じゃないぞ。
「……面白いじゃん。分かったよ。裏切ったら殺すからな」
そう言ってにやりと笑う。
いいぜ、2人で息の続く限りジルバを踊ってやる。
(3)
片桐家は凄いね。
まさか3歳で恋人を見つけるとは。
結莉の事は聞いていたけどね。
まさか朔までね……。
しかし朔は陸に近いと思っていたけどちゃんと祈の血も持っていたんだね。
あんなセリフを言う3歳児なんて恐ろしいにも程があるよ。
そんあ朔と茉莉も冬夜達と一緒にソフトクリーム食べに行ったよ。
しかし秋久はそばで寝ている。
これが普通の3歳だと思うんだけど、この中にいると心配になってくる。
陽葵は意外と女の子なんだ。
買ってあげたノートにお花畑の絵を描いて遊んでいる。
しかし翼の娘だ。
いつその能力を開花させるか分からない。
能力がなくても酒井家と石原家の力を使える。
この子の気分一つで県を傾かせかねない娘。
慎重に扱い方を考えないといけないのだが……。
「秋久を心配していたけどこうなると普通にしてる陽葵が不安だね」
翼が言っていた。
すると大地は言った。
「……僕から言うのは変な話だけど、陽葵ももう才能開花してない?」
大地は気づいたらしい。
秋久がそうだから気づかなかった。
この子もまた気配を殺して接近してくる。
どうして気づかなかったのか?
単純な答えだった。
それがこの子の能力だから。
質量のある残像。
この子は元の位置に自分のコピーを置いて、気配を殺して接近してくる。
しかも本体は相手の死角をついて一気に詰めて来る。
他の子に比べたら地味な能力だけどこの子の素質を考えたらこれほど厄介な相手は無い。
スピードは結莉、パワーは茉莉に引けを取らない。
どう考えても暗殺者のような素質をを備えている。
普段は秋久の面倒を見ているけど、敵を察知すると豹変する。
いつ使ってるか分からないから僕や翼でも気づくのに時間がかかった。
やっぱり最悪の世代だ。
この子達が連携したらこの子達だけで自衛隊くらい片付ける能力を「現時点」で持っているよ。
成長したらどうなるのか怖すぎて想像したくない。
美希や天音達は海外支援に人材派遣する程度だったけど、この子達はそんな生ぬるい処理じゃ済まさないよ。
大丈夫か?
まだ恋愛小説と思ってる人間がどれくらいいるのだろうか?
「心配する事ねーって」
天音が言う。
天音は難癖つけては喧嘩を売っていた。
しかし冬夜達はまだそこまで過激な性格をしてない。
弁当を奪ったりとかしない限り怒る事はないだろう。
結は危害を加えなければ何もしない。
「茉莉は大丈夫なんだろうか?」
大地が聞いていた。
「茉莉も自分で言ってたから大丈夫」
「自分より弱っちいのと喧嘩してもつまんない」
かといって結に喧嘩を売るのは自殺行為だと認識している。
秋久達だって一緒だ。
秋久は僕の息子だからね。
厄介事に巻き込まれるのを極端に嫌う。
だから恋愛という厄介事を嫌っているんだろうね。
「それは晶さんには言ったらダメだよ」
そんな事を母さんが知ったら大惨事だ。
この子も海外旅行に行く羽目になる。
「あとは海翔か」
天音はボーっと花を見ている海翔を見ていた。
翼は海翔達の世代を恐れているらしい。
遊と水奈と天音の子供が勢ぞろいするんだ。
絶対に何か問題を起こす。
翼は親に迷惑かけてたんだねと反省していた。
僕と美希はそんな事無かった。
どちらかというと父さんが母さんを宥めるのに苦労してたくらいだから。
美希も同じような感じだ。
そんな話をしていると空達が戻って来た。
「そろそろ帰ろうか」
翼が言うと片付けて帰路についた。
夕食を食べて家に帰ると子供達を風呂に入れて寝させる。
秋久達も大人しく寝ている。
「あの子達の将来が楽しみだね」
母さん達もそうだったのかな?
翼は楽しみにしているそうだ。
僕は不安だった。
頼むからあの子達に無謀な真似をする輩が現れるのを願うばかりだ。
でも、きっといつかそういう馬鹿が現れるんだろうな。
そろそろジャンルに異能力バトルなんて出て来るんじゃないだろうか?
「見て結。綺麗だよ」
隣で茉奈がはしゃいでいる。
あの日を境に結莉の代わりに茉奈がそばにいるようになった。
結莉に何か言われたらしい。
必死に俺の気を引こうとしている
見渡す限り草原が広がっている。
他には何も無い。
お菓子も「まだダメ」ってママが言うから食べれない。
やる事ないから寝てたら起こされた。
「天気もいいよ」
雲ってたべられるのかな~?
わた菓子みたいだけど。
どのくらい飛べば届くのかな?
「結、アレは食べ物じゃないよ」
ママが言うんだから間違いないだろう。
「茉奈はなんでそんなに楽しそうなの?」
あまりにも楽しそうなのが不思議だったので聞いてみた。
「結と一緒だから……じゃだめ?」
「……それってどこでもいいんじゃないのか?」
「うん」
「冬夜、そんなにつまらなさそうな顔したらダメ。彼女と一緒に遊びに来てるのに失礼でしょ」
ママがそういうから多分そうなんだろうな。
「僕達どこに向かってるの?」
「お花が綺麗な場所」
お花は食べれないって言ってたな。
でもお弁当があるからいっか。
車がいっぱい並んでる。
皆同じ場所に行くらしい。
何か名物料理でもあるのかな?
僕はラーメンがあればいいんだけど、それじゃダメってパパが言ってた。
世界にはもっとおいしい物があるらしい。
「結が大きくなったら食べに行こうね」
ママが言ってた。
「結、食べ物もいいけど彼女に構ってやったらどうだ?」
せっかく一緒の車に乗ってるのにと比呂が言う。
とはいえ玩具とか持ってきてないから何したらいいか分からない。
「うーん。結ってどんな女の子が好き?」
茉奈が聞いてきた。
実は前日に同じ事をママに聞かれた。
「食べ物くれる人」
「それじゃだめ!」
叱られた。
ママも一緒になって考えてくれた。
「優しい人」
ママがそう言えって言うから言ってみた。
「なるほどね、茉奈は結のどこが好きなの?」
ママが聞くと、よく分からないけど茉奈は凄く恥ずかしがっている。
俺の事が好きなのって恥ずかしいのか?
「えーと、数えきれないほどあるんだけど……優しいところかな」
「へぇ……なるほどね」
ママが笑っていた。
優しいって言葉は万能なんだな。
なんでも一言で片づけてしまう
あんまり深く考えてもお腹減りそうだし止めよう。
やっと駐車場についてゲート前で皆揃っていた。
秋久や陽葵と菫も一緒にいる。
皆揃うとチケットを貰って中に入る。
看板をみるとソフトクリーム屋さんとかあるみたいだ。
じっと見てるとパパが「それはお弁当の後にしようね」と言った。
後で食べられるのか。
何味がいいかな?
チョコレートかな。
でもパパは「ここのバニラソフトは地元では食べられない味だよ」と言っていた。
悩んでいると茉奈が一緒に悩んでた。
「どっちも食べたらいいじゃない」
茉奈がそう言うのでそうすることにした。
芝の上にシートを敷いてお弁当を広げる。
今回も茉奈がおにぎりを作ったらしい。
片桐家では決まりがあるらしい。
「作ってもらった料理は美味しいよって答えるのが礼儀」
どんな理由があろうと作ってくれたのだからありがたく頂きなさい。
だから茉奈にも「美味しいよ」って答える。
「ありがとう、もっと色んな物作れるように練習するね」
茉奈は嬉しそうだ。
「結は何が好きなの?」
「ラーメン」
「……結はもっと色々食わせないとまずいんじゃないのか?」
天音が言っている。
「それなのよね。このまま成長してデートにラーメンなんて母さんが知ったらまずい気がする」
ママも悩んでる。
ラーメンより美味しい物あるのかな。
じいじも同じ事言ってたな。
楽しみだ。
いっぱいお弁当を食べてぽかぽか気持ちよくて眠くなる。
その場に寝転んで寝ようとするとママが「起きなさい」と言う。
「デート中に寝たら茉奈の相手を誰がするの?」
あ、そうか。
とはいえ親の話を聞いていても眠くなる。
するとパパが立ち上がる。
「茉奈も食べ終わったみたいだし、ちょっと結達連れて回って来るよ」
「空、すまんな」
「いいよ、菫たち頼むよ」
そう言って俺達はパパと一緒に回る事にした。
色んな花が咲いている。
とりあえず花は食べ物じゃないから興味ないけど。
茉奈に合わせて「綺麗だね」って言っておいた。
「どこに行こうかな?」
パパが言うと迷わず答えた。
「ソフトクリーム」
「そうだったね」
パパは笑って俺達をソフトクリーム屋さんに連れて行ってくれた。
(2)
「車いっぱいだね」
私の隣に座っている朔は色々話しかけてくる。
退屈だから寝たいんだけど朔が五月蠅くて眠れやしない。
しかし朔はどうしてこんなにテンション高いんだろ?
行けども行けども同じ風景。
しかも車は渋滞して全く進まない。
多分天音は爆睡してるだろうな。
「茉莉はお花とか興味ないのかな?」
朔の母親の祈さんが聞いてきた。
「あんまりないかな」
だって食べてもあまりお腹に溜まりそうにない。
「天音の子だね……」
「そうだろうね……」
朔の両親がそう言って納得してた。
「茉莉達は幼稚園でお友達出来た?」
祈さんが聞いた。
結の警告は幼稚園全体を文字通り震撼させた。
それ以来私達に近づく連中はよくも悪くもいなくなった。
朔や陽葵に菫くらいじゃないだろうか?
保母さん達も腫物に触るような対応。
まあ、結を怒らせると幼稚園が色んな意味でやばい。
しかし普段の結はぼーっとしてる。
食い物の事しか考えてないらしい。
食べれない物には興味が無い。
むしろそんな中で茉奈を恋人と認識しているのかすらも怪しい。
理由は朔にも比呂にもわからないみたいだ。
まあ、3歳ならそんなもんだろ?
おにぎりくれたからとかじゃないだけマシなんじゃないだろうか?
「朔は好きな女の子いるのか?」
何となく聞いてみた。
「いるよ」
「だれ?」
私の知ってる人?
すると朔は予想外の事を言いだした。
「茉莉」
は?
「真面目に聞いてるんだけど?」
「凄く真面目なつもりなんだけど」
「私のどこがいいんだ?」
すると朔の説明が始まった。
優しいところ。
結を庇って一人で叩きのめそうとするところ。
強いところ。
女の子だからって大人しくしてないで自ら飛び出していく勇気。
脆い所。
結と茉奈が仲良くしてるのを羨ましそうに思っているけど、決してそれを出さないところ。
本当は私も結が好きなんじゃないかと思ったそうだ。
だけどそうじゃない。
茉奈の邪魔をするつもりがない事くらいは分かる。
だから自分にもそんな相手が欲しいと思ってるんじゃないか。
だから茉莉の話し相手になってあげたいと思った。
それが好きという感情に変わるまでそんなに時間がかからなかった。
「母さんの昔話を聞いていたら、今の茉莉を見ているようだった」
祈さんも一人で自由にしていたらしい。
だけど父親の陸さんと交際を始めて初めて背中を預けられる人を知った。
だから朔も私が背中を預けられるようになりたい。
そんな事を言う3歳児ってすごいな。
「まだ僕じゃ未熟だって分かってるから。いつかきっとそうなりたいと思ってるんだ」
朔はそう言った。
「いつかきっと……そんな事言ってるうちは絶対になれない」
私はそう返した。
天音が言っていた。
いつかそうなるといいな。
そんな軟弱な心構えじゃ絶対にその時は来ない。
思ったらまず行動しろ。
それでダメでも諦めずに何度も挑めばいい。
それを「いつかきっと」って言うんだ。
自分1人で努力しても相手に伝わらない。
相手にぶつかっていけ。
一人で妄想してても物事始まらない。
ねだるな、勝ち取れ。
最低限の食糧くらい自分の力でもぎ取って来い。
なんでもホイホイ譲るような軟弱な人間は餓死するぞ。
「だってさ、朔」
「うん……わかった」
「わかってねえだろ!」
あまりイライラさせるな。
「僕が相手じゃダメかな」
「なんで男の割にはそう自信がないんだ?」
自信過剰な3歳なんか殺して埋めてやるけど。
まだ理解できないのか。
お前が望むものはなんだ?
自分で自分が望むものくらい言えないヘタレの彼女になる気はないぞ。
すると朔は少し考えて言った。
「茉莉はまるで銃の様に戦いに身を投じる」
「それで?」
「もし茉莉が銃だとしたら……僕は弾丸になってやる」
どこで読んだんだそんな漫画。
3歳の子供が読む絵本の内容じゃないぞ。
「……面白いじゃん。分かったよ。裏切ったら殺すからな」
そう言ってにやりと笑う。
いいぜ、2人で息の続く限りジルバを踊ってやる。
(3)
片桐家は凄いね。
まさか3歳で恋人を見つけるとは。
結莉の事は聞いていたけどね。
まさか朔までね……。
しかし朔は陸に近いと思っていたけどちゃんと祈の血も持っていたんだね。
あんなセリフを言う3歳児なんて恐ろしいにも程があるよ。
そんあ朔と茉莉も冬夜達と一緒にソフトクリーム食べに行ったよ。
しかし秋久はそばで寝ている。
これが普通の3歳だと思うんだけど、この中にいると心配になってくる。
陽葵は意外と女の子なんだ。
買ってあげたノートにお花畑の絵を描いて遊んでいる。
しかし翼の娘だ。
いつその能力を開花させるか分からない。
能力がなくても酒井家と石原家の力を使える。
この子の気分一つで県を傾かせかねない娘。
慎重に扱い方を考えないといけないのだが……。
「秋久を心配していたけどこうなると普通にしてる陽葵が不安だね」
翼が言っていた。
すると大地は言った。
「……僕から言うのは変な話だけど、陽葵ももう才能開花してない?」
大地は気づいたらしい。
秋久がそうだから気づかなかった。
この子もまた気配を殺して接近してくる。
どうして気づかなかったのか?
単純な答えだった。
それがこの子の能力だから。
質量のある残像。
この子は元の位置に自分のコピーを置いて、気配を殺して接近してくる。
しかも本体は相手の死角をついて一気に詰めて来る。
他の子に比べたら地味な能力だけどこの子の素質を考えたらこれほど厄介な相手は無い。
スピードは結莉、パワーは茉莉に引けを取らない。
どう考えても暗殺者のような素質をを備えている。
普段は秋久の面倒を見ているけど、敵を察知すると豹変する。
いつ使ってるか分からないから僕や翼でも気づくのに時間がかかった。
やっぱり最悪の世代だ。
この子達が連携したらこの子達だけで自衛隊くらい片付ける能力を「現時点」で持っているよ。
成長したらどうなるのか怖すぎて想像したくない。
美希や天音達は海外支援に人材派遣する程度だったけど、この子達はそんな生ぬるい処理じゃ済まさないよ。
大丈夫か?
まだ恋愛小説と思ってる人間がどれくらいいるのだろうか?
「心配する事ねーって」
天音が言う。
天音は難癖つけては喧嘩を売っていた。
しかし冬夜達はまだそこまで過激な性格をしてない。
弁当を奪ったりとかしない限り怒る事はないだろう。
結は危害を加えなければ何もしない。
「茉莉は大丈夫なんだろうか?」
大地が聞いていた。
「茉莉も自分で言ってたから大丈夫」
「自分より弱っちいのと喧嘩してもつまんない」
かといって結に喧嘩を売るのは自殺行為だと認識している。
秋久達だって一緒だ。
秋久は僕の息子だからね。
厄介事に巻き込まれるのを極端に嫌う。
だから恋愛という厄介事を嫌っているんだろうね。
「それは晶さんには言ったらダメだよ」
そんな事を母さんが知ったら大惨事だ。
この子も海外旅行に行く羽目になる。
「あとは海翔か」
天音はボーっと花を見ている海翔を見ていた。
翼は海翔達の世代を恐れているらしい。
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絶対に何か問題を起こす。
翼は親に迷惑かけてたんだねと反省していた。
僕と美希はそんな事無かった。
どちらかというと父さんが母さんを宥めるのに苦労してたくらいだから。
美希も同じような感じだ。
そんな話をしていると空達が戻って来た。
「そろそろ帰ろうか」
翼が言うと片付けて帰路についた。
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秋久達も大人しく寝ている。
「あの子達の将来が楽しみだね」
母さん達もそうだったのかな?
翼は楽しみにしているそうだ。
僕は不安だった。
頼むからあの子達に無謀な真似をする輩が現れるのを願うばかりだ。
でも、きっといつかそういう馬鹿が現れるんだろうな。
そろそろジャンルに異能力バトルなんて出て来るんじゃないだろうか?
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