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蒼い奇跡
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(1)
U-20W杯決勝進出。
それはサッカーファンだけでなく国民を驚かせていた。
その中心には誠君の息子の誠司の大活躍があった。
すでにもう司令塔として完成されたかのようなボールさばきで味方の得点を演出していた。
ボランチの2人と連携して強固なディフェンスを作る。
フィールドの中を完全に支配していた。
一方息子の冬吾はいまいちだった。
U-18の大会ほど目立った活躍は無かった。
終盤になるとベンチに下げられるほど。
冬吾はU-20以上では通用しない。
そう非難されるほどだ。
だけど冬夜さんや誠君は全く動じてない。
むしろ笑っている。
そして今日決勝戦がある。
酒井君の経営するホテルに集まって応援することにしていた。
「あれは片桐君が教えたの?」
「いや、僕達は何も指示してないよ」
公生が聞くと冬夜さんはそう答えた。
「公生は冬吾の不調の理由知ってるのか?」
神奈が公生に聞いていた。
すると公生はくすりと笑う。
「片桐君の息子だよ。あれが不調じゃない事くらいは分かるよ」
「どういう事だ?」
「切り札は先に見せるな……片桐さんがいつも言ってる事」
奈留が答えた。
「じゃあ、アレはわざとしているのか?」
「そんな事してたらファンから叩かれるだけじゃない!」
神奈と恵美が言っている。
「手を抜いてるわけじゃないよ。だからここまで勝ち上がってきたんだろ?」
「おいおい、またそうやってもったいぶるのを止めてくれ。皆が冬夜のような策士じゃないんだぞ」
渡辺君が言うと冬夜さんはくすりと笑った。
「言っておくけどあれを仕掛けたのは多分冬吾じゃない。誠司だ」
「まあ、そうだろうな。あいつの頭の中では決勝まで勝ち上がるつもりだったんだろうし」
「誠司が?あいつ何やったんだ?」
神奈が言うと誠君が答えた。
「凄く簡単な事だよ。冬吾以外で得点を重ねていく。それも冬吾を利用して」
あくまでも冬吾は裏方に徹するだけ。
「それって代表が手加減したってこと?監督がそんな真似許さないと思うけど」
「監督が気づいたからあえて終盤冬吾をベンチに下げてるんだろ?」
誠君の言っている意味がわからない。
すると公生が解説してくれた。
「僕はサッカーの事詳しくないからわからないけど、日本代表の切り札は冬吾なのは僕が見てもわかる」
だから”切り札は先に見せるな”
だけどそれだけじゃ相手の警戒が薄れる。
そこで誠司は考えたんだろう。
いつでも切り札を出すぞとわざとちらつかせた。
冬吾のあのシュートはサッカーをしている人間なら誰でも目に焼き付いただろう。
だから冬吾を、冬吾の右足を警戒しなければならない。
打たせたら絶対に止められない。
それでなくても冬吾のシュートは左右構わず正確に狙いをつけて来る。
だとしたら打たせないようにするしかない。
結果エリア内に固まるなんて真似が出来なくなった。
そして冬吾が敵陣にいる限り警戒せざるを得ない。
その結果相手の攻撃が決め手に欠けていた。
冬吾のマークはフル出場されたら一人では絶対に無理だ。
だって味方がピンチの時は味方ゴール前まで下がるのだから。
その結果、誠司は他の選手にパスを出しやすくなる。
少しでも守りを固めたら冬吾にパスをだしてチェックを入れさせる。
そして結果出来たスペースを見逃す冬吾じゃない。
だから冬吾は得点は少ないけどアシストはいつも以上の数になっていた。
冬吾の目と大胆な発想は誰にも予測が出来ない。
自分が決めずとも劇的なゴールシーンを演出する。
そうやって冬吾に警戒させる。
しかし一つだけ違う点があった。
絶対に自分でゴールを狙わない。
困った時の右足シュートはダメだと冬夜さんが冬吾にアドバイスした。
いざという時に使えないと話にならない。
そして冬吾はそれを実行した。
冬吾も誠司の企みに気づいたんだろう。
裏方に徹底していた。
まだ高校生の発想だ。
日本代表の監督なら気づくだろう。
だから手を貸した。
あたかも冬吾は使えないと言わんばかりにベンチに下げる。
しかし、注意している人間なら気づくはず。
だって冬吾が下げられるのは試合の大勢が決まってからだから。
それでも構わない。
冬吾がいる時間に警戒させて他を手薄にさせたらいい。
後は2人がチャンスを作り出す。
エリア内に固まっている事は冬吾の長距離砲が許さない。
その結果高久隼人のポストプレイが決まりやすくなる。
全部誠司の計算通りなんだろう。
「あいつそこまで企んでいたのか!?」
神奈が驚いていた。
「毎日サッカーの事しか考えてないというのは嘘じゃないらしいな」
誠君がそう言って笑う。
「担任としてはせめて留年しない程度に勉強もして欲しいんですけどね……」
梅本永遠がそう言って笑った。
「じゃあ、この試合も冬吾は裏方に徹するつもりなのか?」
渡辺君が聞いた。
「多分それは無いと思う」
だってこれ決勝だよ?
手抜きしたらそれこそマスコミに叩かれる。
この試合は本気を出すはず。
それは相手も分かってるだろう。
だから相手が怖いんだ。
「徹底的にマークしてくるだろうね」
冬夜さんが言う。
それでも多分問題ないと冬夜さんが言う。
「冬夜も誠司の企みに気づいたか?」
「まあね、冬吾の右足シュートを使うタイミングを考えたら、多分そうなるだろうね」
誠君と冬夜さんはそう話しているけど私達には教えてくれなかった。
「答えはすぐ出るはずだから最初から目を離したらダメだよ。瞳子も」
「はい」
瞳子には最前列の椅子を譲っていた。
そして瞳子の視線の先にあるモニターには選手が現れていた。
「あれ?」
瞳子も冬莉も気づいたみたいだ。
冬吾の位置がいつもと違う。
最前線に立っていたのにこの試合いつもより下がり目のポジションだった。
どういう事だろう?
冬夜さんの顔を見る。
やっぱり冬夜さんの予想通りなんだろう。
にやりと笑っていた。
(2)
「よく決勝まで頑張った。皆がベストを尽くした結果だ。胸を張っていいと言いたいところだが……」
どうせなら勝って皆で喜びを分かち合おう。
監督はそう言った。
「冬吾!お前とりあえず食い物の事考えるの止めろ」
「でも僕達アルコール禁止だよ」
コーラがけでもするの?
「お前達の中では勝ちが決まってるんだな」
高久隼人が笑う。
「負けるつもりで試合する奴なんていねーよ」
誠司がそう言って隼人の胸を叩いた。
「じゃあ、今日の試合も誠司にまかせていいな」
「当然っす。エロ動画すら見ずに徹底的に考えました」
だから監督も誠司の提案に乗ったんだろう。
「その様子だと大丈夫だな。大事な一戦だけどリラックスしていけ」
監督が言うと皆で雄たけびをあげてフィールドに向かう。
この試合もとりあえずスタメンになった。
監督も誠司の企みに気づいたらしい。
だから誠司の今日の作戦に賛同した。
審判のコイントス。
こっちからの攻撃だ。
都合がいい。
皆がポジションにつくのを見ながら僕はセンターで誠司と話をする。
「最後の試合だからさっさと決めるよ」
「ばーか、最後じゃねーよ」
「え?」
「俺達の夢はこんなとこじゃないはずだろ?」
「そうだったね」
「じゃ、さっさと位置につけ」
「任せるよ」
そう言ってポジションにつくと相手が動揺している。
当たり前だ。
いつもならトップに立っている僕がボランチ近くまで下がっていたのだから。
困惑するのは無理はない。
それを狙ってやったわけじゃない。
狙いは別にある。
試合が始まるとボールはいったん下がる。
そしてその時間だけは僕にとって都合のいい時間。
試合開始直後にこんなところまで詰めて来る敵なんていない。
こういう時何て言うんだっけ?
「自慢していいよ」
この大会で初めての僕の得点だった。
(3)
前半戦は冬吾君のお父さんの言う通りだった。
最初から日本が仕掛けて来た。
愛莉さんだけでなく皆驚いていた。
冬吾君のお父さんと誠司君のお父さんは予想していたみたいだ。
相手は何が起きたか分からなかっただろう。
悪い夢でも見ていた気分じゃないだろうか。
予想できてもこれは止めようがない。
テレビやゲームで知っていると思うけど、キックオフすると必ずボールは自陣に下げる。
一般的にいきなりシュートはあまりない。
そして相手の選手は自陣に必ずいないといけない。
その状況で冬吾君の位置までボールを下げられたら相手は絶対にチェックできない。
それが日本代表の狙いだった。
冬吾君の右足で撃つシュートはその位置からでも十分届くし目にも映らない速度で敵ゴールに突き刺さる。
ヒントは冬吾君の父さんが言っていた。
「冬吾の右足シュートを止めるのはリスクが高すぎる。ならば撃たせないようにするしかない」
そこで恐らく誠司君が仕組んだのだろう。
いつもよりも下げ気味で待機してもらって冬吾君にシュートを打たせる。
この大会で一度もシュートを打ってない冬吾君が初めてシュートを打った。
試合開始早々の失点。
さすがに動揺する。
後はいつものように冬吾君が前線に立ったり守備エリアまで下がったりして、相手をかき回す。
冬吾君がシュートを打つ。
それが事実になった時、当然冬吾君を警戒せざるを得ない。
やる気になってる冬吾君を野放しには出来ない。
そしていつもの通りに誠司君が徹底的に攻勢に出る。
ゴールを演出するのは誠司君だけじゃない。
冬吾君にボールが渡ればほぼゴールシーンになる。
しかし相手もこれ以上の失点は避けようと必死に守る。
守備も混乱していたのだろう。
打たれないと思っていた右足シュートがいきなり突き刺さったのだから。
どっちを守ればいいか分からず劣勢になっていた。
しかし守備も固い。
余計なファールを取られないように必死だった。
ファールを与えたら冬吾君が必ず決める。
そんな膠着状態で1-0で前半を終えた。
「これはどういう理屈なんだい?」
公生さんが聞いていた。
「切り札を出す最高の瞬間だっただけだよ」
冬吾君のお父さんが解説していた。
先に見せたらいけない。
しかし初めて見せたあの衝撃はそう簡単に拭えない。
常に相手は警戒していた。
それだとまっているだけで決め手に欠ける。
だから絶対に止められない、防ぐことが出来ない場面で切り札を出した。
誠司が考えたんだろう。
そして監督もそれに乗った。
だから冬吾は最初あの位置に待っていた。
「て、事はキックオフが日本になったら必ず決めて来るってことか?」
渡辺さんが聞いていた。
「最初から狙ってくると気づかれたら体を張って止めるでしょ」
どこを狙ってくるのか分からないしあれを片手で止めようとするのは無茶だと冬吾君のお父さんは説明した。
「じゃあ、相手はやっぱりびびって前に出てこれないのか?」
誠司君のお母さんが言う。
「それじゃ、負け確定だからやるとしたらカウンター狙いだろうね」
「まあ、それしかないな。日本代表も舞い上がって若干上がり気味になってるし」
冬吾君と誠司君のお父さんが言う。
でも2人の表情を見ているとそれだけでは無いみたいだ。
まだ誠司君は企んでる?
それとも冬吾君?
後半も瞬きせず見る必要がありそうだった。
(4)
後半戦が始まった。
僕にはしっかりマークがついている。
右足をしっかり狙われていた。
まあ、無理もないか。
でもそれを予想していなかったわけじゃない。
相手も決勝まで勝ち上がった事だけの事はある。
なかなか得点に結びつけない。
追加点が欲しい。
仲間が焦っている。
焦るあまりに前のめりになり過ぎた。
一瞬の油断が命取りになる。
相手ボールになって一気にカウンターを決めて来る。
慌てる仲間達。
オフサイドぎりぎりでボールを受け止めて一気に詰め寄る敵。
DFが慌てて戻る。
キーパーと対峙するとシュートを狙う。
江本さんも止められなかったみたいだ。
後半44分の悪夢。
そう思われていた。
だけど寸前のところで僕の足に吸い付くように受け止めていた。
僕はリベロじゃないけどこの位置まで戻る事は出来る。
この位置からでもシュートは狙える。
しかしさすがに体を張って止めてくるだろう。
相手FWも慌てて僕につく。
「助かった」
江本さんが言う。
こういう時何て言うんだっけ?
「サッカー好き?」
江本さんは不思議そうな顔をしていた。
僕はにこりと笑うとゆっくりと右足でドリブルをする。
父さんが言ってた。
「左右どちらでも自在に使えるようになったらトップレベルになれるかも」
右足で左足くらいの精度のシュートが打てたらベストだ。
だから密かに練習していた。
守備がつくけど前には立とうとしない。
こんな至近距離で右足シュートを打ては故障するのは間違いない。
あばら骨くらいへし折るだろう。
だから無意識に右足で蹴ると相手は怯む。
僕は開けられた道をドリブルするだけ。
客も言葉を失っていた。
だけど相手ペナルティエリアに入ると我を取り戻した相手の監督が叫ぶ。
多少の犠牲はやむを得ない。
どのみち下手に手を出してPKになったら最悪だ。
僕の前にDFが立ちふさがる。
それがミスだよ。
相手のキーパーからは僕が見えない。
だけど右足で打つと思い込んだキーパーは右に警戒する。
DFも同じだ。
だから一瞬ボールが消えたように見えたのだろう。
右に思い切り飛んだキーパーを嘲笑うようにDFの股の間を左足で打つ。
きっとDFからはボールが消えたように見えたのだろう。
がら空きのゴールにボールが転がる。
追加点を取った。
すでにアディショナルタイムに入っている。
もはや完全にどう対処していいのか分からない相手は混乱していた。
あっというまにホイッスルが鳴る。
僕達は栄光を掴んだ。
「結局お前が美味しいとこどりか?」
誠司が僕の下に来て頭を叩く。
「これを予測してあんな策を考えたんだろ?」
「まあな」
そう言って誠司と握手する。
悪夢の44分は、奇跡の44秒に変わった。
(5)
「ちょっと本当にやってのけたわよ!」
恵美さんが興奮している。
「本気であいつらなら五輪行けそうだな」
誠も流石に子供の成長に喜んでいるんだろう。
プレイを実践したのは冬吾だけどプランを考えたのは誠司だ。
あの二人がつるんだら、これから日本に劇的な瞬間を何度でも与えるだろう。
「年棒考えておくからね。4年間海外でプレイしたら来てくれるんでしょ?」
恵美さんが言ってる。
あの二人を獲得するためならどんだけお金がかかろうと構わないと思っているらしい。
まああの二人の夢が地元チームでクラブワールドカップ制覇だからあまり欲を言わないだろう。
しかし愛莉には不安があったようだ。
この試合を決定づける得点を決めたのは冬吾だ。
当然冬吾にインタビューがあるだろう。
愛莉は嫌な予感しかしなかったらしい。
そしてその通りだった。
「お酒は飲めないのでコーラで我慢します」
「食べ物は良いのですか?」
「家に帰ってラーメン食べたいです」
誠とカンナは爆笑していた。
天音も笑っている。
「お前の子供はどこに行っても食い物だな!」
「しかも家でラーメン食いたいなんてトップレベルの選手の発言じゃねーぞ」
カンナと誠が言っている。
「愛莉ちゃん、アレは諦めた方がいい」
恵美さんがそう言っている。
「食べ物は覚悟してたの……ただ」
お家でラーメン食べたいってどうなの?
「……もっとグルメにしないとダメみたいね」
そういう事なら手伝うわよ。
恵美さんがそう愛莉に言っていた。
「冬夜さんも他人事だと思わないでください!韓国のりでおにぎり食べたいとか!」
「だって韓国のりでおにぎりが美味しいって聞いたから」
「そういう情報ばかり冬吾に与えるからこうなったんですよ!」
「愛莉、これはもう片桐家ならしょうがないって」
天音がそう言って茉莉と結莉達を指す。
孫たちは試合に興味が無かったらしくて食べ物を一生懸命食べていた。
愛莉は頭を抱える。
「もう俺達が教える事は無さそうだな」
誠が言う。
「そうだね。僕の想像をはるかに超えてるよ」
後は経験を重ねていくだけだろう。
すでにあの二人は名選手として語られるのは間違いなさそうだ。
後日報道ではあの44秒を”蒼い奇跡”と賞賛されたそうだ。
U-20W杯決勝進出。
それはサッカーファンだけでなく国民を驚かせていた。
その中心には誠君の息子の誠司の大活躍があった。
すでにもう司令塔として完成されたかのようなボールさばきで味方の得点を演出していた。
ボランチの2人と連携して強固なディフェンスを作る。
フィールドの中を完全に支配していた。
一方息子の冬吾はいまいちだった。
U-18の大会ほど目立った活躍は無かった。
終盤になるとベンチに下げられるほど。
冬吾はU-20以上では通用しない。
そう非難されるほどだ。
だけど冬夜さんや誠君は全く動じてない。
むしろ笑っている。
そして今日決勝戦がある。
酒井君の経営するホテルに集まって応援することにしていた。
「あれは片桐君が教えたの?」
「いや、僕達は何も指示してないよ」
公生が聞くと冬夜さんはそう答えた。
「公生は冬吾の不調の理由知ってるのか?」
神奈が公生に聞いていた。
すると公生はくすりと笑う。
「片桐君の息子だよ。あれが不調じゃない事くらいは分かるよ」
「どういう事だ?」
「切り札は先に見せるな……片桐さんがいつも言ってる事」
奈留が答えた。
「じゃあ、アレはわざとしているのか?」
「そんな事してたらファンから叩かれるだけじゃない!」
神奈と恵美が言っている。
「手を抜いてるわけじゃないよ。だからここまで勝ち上がってきたんだろ?」
「おいおい、またそうやってもったいぶるのを止めてくれ。皆が冬夜のような策士じゃないんだぞ」
渡辺君が言うと冬夜さんはくすりと笑った。
「言っておくけどあれを仕掛けたのは多分冬吾じゃない。誠司だ」
「まあ、そうだろうな。あいつの頭の中では決勝まで勝ち上がるつもりだったんだろうし」
「誠司が?あいつ何やったんだ?」
神奈が言うと誠君が答えた。
「凄く簡単な事だよ。冬吾以外で得点を重ねていく。それも冬吾を利用して」
あくまでも冬吾は裏方に徹するだけ。
「それって代表が手加減したってこと?監督がそんな真似許さないと思うけど」
「監督が気づいたからあえて終盤冬吾をベンチに下げてるんだろ?」
誠君の言っている意味がわからない。
すると公生が解説してくれた。
「僕はサッカーの事詳しくないからわからないけど、日本代表の切り札は冬吾なのは僕が見てもわかる」
だから”切り札は先に見せるな”
だけどそれだけじゃ相手の警戒が薄れる。
そこで誠司は考えたんだろう。
いつでも切り札を出すぞとわざとちらつかせた。
冬吾のあのシュートはサッカーをしている人間なら誰でも目に焼き付いただろう。
だから冬吾を、冬吾の右足を警戒しなければならない。
打たせたら絶対に止められない。
それでなくても冬吾のシュートは左右構わず正確に狙いをつけて来る。
だとしたら打たせないようにするしかない。
結果エリア内に固まるなんて真似が出来なくなった。
そして冬吾が敵陣にいる限り警戒せざるを得ない。
その結果相手の攻撃が決め手に欠けていた。
冬吾のマークはフル出場されたら一人では絶対に無理だ。
だって味方がピンチの時は味方ゴール前まで下がるのだから。
その結果、誠司は他の選手にパスを出しやすくなる。
少しでも守りを固めたら冬吾にパスをだしてチェックを入れさせる。
そして結果出来たスペースを見逃す冬吾じゃない。
だから冬吾は得点は少ないけどアシストはいつも以上の数になっていた。
冬吾の目と大胆な発想は誰にも予測が出来ない。
自分が決めずとも劇的なゴールシーンを演出する。
そうやって冬吾に警戒させる。
しかし一つだけ違う点があった。
絶対に自分でゴールを狙わない。
困った時の右足シュートはダメだと冬夜さんが冬吾にアドバイスした。
いざという時に使えないと話にならない。
そして冬吾はそれを実行した。
冬吾も誠司の企みに気づいたんだろう。
裏方に徹底していた。
まだ高校生の発想だ。
日本代表の監督なら気づくだろう。
だから手を貸した。
あたかも冬吾は使えないと言わんばかりにベンチに下げる。
しかし、注意している人間なら気づくはず。
だって冬吾が下げられるのは試合の大勢が決まってからだから。
それでも構わない。
冬吾がいる時間に警戒させて他を手薄にさせたらいい。
後は2人がチャンスを作り出す。
エリア内に固まっている事は冬吾の長距離砲が許さない。
その結果高久隼人のポストプレイが決まりやすくなる。
全部誠司の計算通りなんだろう。
「あいつそこまで企んでいたのか!?」
神奈が驚いていた。
「毎日サッカーの事しか考えてないというのは嘘じゃないらしいな」
誠君がそう言って笑う。
「担任としてはせめて留年しない程度に勉強もして欲しいんですけどね……」
梅本永遠がそう言って笑った。
「じゃあ、この試合も冬吾は裏方に徹するつもりなのか?」
渡辺君が聞いた。
「多分それは無いと思う」
だってこれ決勝だよ?
手抜きしたらそれこそマスコミに叩かれる。
この試合は本気を出すはず。
それは相手も分かってるだろう。
だから相手が怖いんだ。
「徹底的にマークしてくるだろうね」
冬夜さんが言う。
それでも多分問題ないと冬夜さんが言う。
「冬夜も誠司の企みに気づいたか?」
「まあね、冬吾の右足シュートを使うタイミングを考えたら、多分そうなるだろうね」
誠君と冬夜さんはそう話しているけど私達には教えてくれなかった。
「答えはすぐ出るはずだから最初から目を離したらダメだよ。瞳子も」
「はい」
瞳子には最前列の椅子を譲っていた。
そして瞳子の視線の先にあるモニターには選手が現れていた。
「あれ?」
瞳子も冬莉も気づいたみたいだ。
冬吾の位置がいつもと違う。
最前線に立っていたのにこの試合いつもより下がり目のポジションだった。
どういう事だろう?
冬夜さんの顔を見る。
やっぱり冬夜さんの予想通りなんだろう。
にやりと笑っていた。
(2)
「よく決勝まで頑張った。皆がベストを尽くした結果だ。胸を張っていいと言いたいところだが……」
どうせなら勝って皆で喜びを分かち合おう。
監督はそう言った。
「冬吾!お前とりあえず食い物の事考えるの止めろ」
「でも僕達アルコール禁止だよ」
コーラがけでもするの?
「お前達の中では勝ちが決まってるんだな」
高久隼人が笑う。
「負けるつもりで試合する奴なんていねーよ」
誠司がそう言って隼人の胸を叩いた。
「じゃあ、今日の試合も誠司にまかせていいな」
「当然っす。エロ動画すら見ずに徹底的に考えました」
だから監督も誠司の提案に乗ったんだろう。
「その様子だと大丈夫だな。大事な一戦だけどリラックスしていけ」
監督が言うと皆で雄たけびをあげてフィールドに向かう。
この試合もとりあえずスタメンになった。
監督も誠司の企みに気づいたらしい。
だから誠司の今日の作戦に賛同した。
審判のコイントス。
こっちからの攻撃だ。
都合がいい。
皆がポジションにつくのを見ながら僕はセンターで誠司と話をする。
「最後の試合だからさっさと決めるよ」
「ばーか、最後じゃねーよ」
「え?」
「俺達の夢はこんなとこじゃないはずだろ?」
「そうだったね」
「じゃ、さっさと位置につけ」
「任せるよ」
そう言ってポジションにつくと相手が動揺している。
当たり前だ。
いつもならトップに立っている僕がボランチ近くまで下がっていたのだから。
困惑するのは無理はない。
それを狙ってやったわけじゃない。
狙いは別にある。
試合が始まるとボールはいったん下がる。
そしてその時間だけは僕にとって都合のいい時間。
試合開始直後にこんなところまで詰めて来る敵なんていない。
こういう時何て言うんだっけ?
「自慢していいよ」
この大会で初めての僕の得点だった。
(3)
前半戦は冬吾君のお父さんの言う通りだった。
最初から日本が仕掛けて来た。
愛莉さんだけでなく皆驚いていた。
冬吾君のお父さんと誠司君のお父さんは予想していたみたいだ。
相手は何が起きたか分からなかっただろう。
悪い夢でも見ていた気分じゃないだろうか。
予想できてもこれは止めようがない。
テレビやゲームで知っていると思うけど、キックオフすると必ずボールは自陣に下げる。
一般的にいきなりシュートはあまりない。
そして相手の選手は自陣に必ずいないといけない。
その状況で冬吾君の位置までボールを下げられたら相手は絶対にチェックできない。
それが日本代表の狙いだった。
冬吾君の右足で撃つシュートはその位置からでも十分届くし目にも映らない速度で敵ゴールに突き刺さる。
ヒントは冬吾君の父さんが言っていた。
「冬吾の右足シュートを止めるのはリスクが高すぎる。ならば撃たせないようにするしかない」
そこで恐らく誠司君が仕組んだのだろう。
いつもよりも下げ気味で待機してもらって冬吾君にシュートを打たせる。
この大会で一度もシュートを打ってない冬吾君が初めてシュートを打った。
試合開始早々の失点。
さすがに動揺する。
後はいつものように冬吾君が前線に立ったり守備エリアまで下がったりして、相手をかき回す。
冬吾君がシュートを打つ。
それが事実になった時、当然冬吾君を警戒せざるを得ない。
やる気になってる冬吾君を野放しには出来ない。
そしていつもの通りに誠司君が徹底的に攻勢に出る。
ゴールを演出するのは誠司君だけじゃない。
冬吾君にボールが渡ればほぼゴールシーンになる。
しかし相手もこれ以上の失点は避けようと必死に守る。
守備も混乱していたのだろう。
打たれないと思っていた右足シュートがいきなり突き刺さったのだから。
どっちを守ればいいか分からず劣勢になっていた。
しかし守備も固い。
余計なファールを取られないように必死だった。
ファールを与えたら冬吾君が必ず決める。
そんな膠着状態で1-0で前半を終えた。
「これはどういう理屈なんだい?」
公生さんが聞いていた。
「切り札を出す最高の瞬間だっただけだよ」
冬吾君のお父さんが解説していた。
先に見せたらいけない。
しかし初めて見せたあの衝撃はそう簡単に拭えない。
常に相手は警戒していた。
それだとまっているだけで決め手に欠ける。
だから絶対に止められない、防ぐことが出来ない場面で切り札を出した。
誠司が考えたんだろう。
そして監督もそれに乗った。
だから冬吾は最初あの位置に待っていた。
「て、事はキックオフが日本になったら必ず決めて来るってことか?」
渡辺さんが聞いていた。
「最初から狙ってくると気づかれたら体を張って止めるでしょ」
どこを狙ってくるのか分からないしあれを片手で止めようとするのは無茶だと冬吾君のお父さんは説明した。
「じゃあ、相手はやっぱりびびって前に出てこれないのか?」
誠司君のお母さんが言う。
「それじゃ、負け確定だからやるとしたらカウンター狙いだろうね」
「まあ、それしかないな。日本代表も舞い上がって若干上がり気味になってるし」
冬吾君と誠司君のお父さんが言う。
でも2人の表情を見ているとそれだけでは無いみたいだ。
まだ誠司君は企んでる?
それとも冬吾君?
後半も瞬きせず見る必要がありそうだった。
(4)
後半戦が始まった。
僕にはしっかりマークがついている。
右足をしっかり狙われていた。
まあ、無理もないか。
でもそれを予想していなかったわけじゃない。
相手も決勝まで勝ち上がった事だけの事はある。
なかなか得点に結びつけない。
追加点が欲しい。
仲間が焦っている。
焦るあまりに前のめりになり過ぎた。
一瞬の油断が命取りになる。
相手ボールになって一気にカウンターを決めて来る。
慌てる仲間達。
オフサイドぎりぎりでボールを受け止めて一気に詰め寄る敵。
DFが慌てて戻る。
キーパーと対峙するとシュートを狙う。
江本さんも止められなかったみたいだ。
後半44分の悪夢。
そう思われていた。
だけど寸前のところで僕の足に吸い付くように受け止めていた。
僕はリベロじゃないけどこの位置まで戻る事は出来る。
この位置からでもシュートは狙える。
しかしさすがに体を張って止めてくるだろう。
相手FWも慌てて僕につく。
「助かった」
江本さんが言う。
こういう時何て言うんだっけ?
「サッカー好き?」
江本さんは不思議そうな顔をしていた。
僕はにこりと笑うとゆっくりと右足でドリブルをする。
父さんが言ってた。
「左右どちらでも自在に使えるようになったらトップレベルになれるかも」
右足で左足くらいの精度のシュートが打てたらベストだ。
だから密かに練習していた。
守備がつくけど前には立とうとしない。
こんな至近距離で右足シュートを打ては故障するのは間違いない。
あばら骨くらいへし折るだろう。
だから無意識に右足で蹴ると相手は怯む。
僕は開けられた道をドリブルするだけ。
客も言葉を失っていた。
だけど相手ペナルティエリアに入ると我を取り戻した相手の監督が叫ぶ。
多少の犠牲はやむを得ない。
どのみち下手に手を出してPKになったら最悪だ。
僕の前にDFが立ちふさがる。
それがミスだよ。
相手のキーパーからは僕が見えない。
だけど右足で打つと思い込んだキーパーは右に警戒する。
DFも同じだ。
だから一瞬ボールが消えたように見えたのだろう。
右に思い切り飛んだキーパーを嘲笑うようにDFの股の間を左足で打つ。
きっとDFからはボールが消えたように見えたのだろう。
がら空きのゴールにボールが転がる。
追加点を取った。
すでにアディショナルタイムに入っている。
もはや完全にどう対処していいのか分からない相手は混乱していた。
あっというまにホイッスルが鳴る。
僕達は栄光を掴んだ。
「結局お前が美味しいとこどりか?」
誠司が僕の下に来て頭を叩く。
「これを予測してあんな策を考えたんだろ?」
「まあな」
そう言って誠司と握手する。
悪夢の44分は、奇跡の44秒に変わった。
(5)
「ちょっと本当にやってのけたわよ!」
恵美さんが興奮している。
「本気であいつらなら五輪行けそうだな」
誠も流石に子供の成長に喜んでいるんだろう。
プレイを実践したのは冬吾だけどプランを考えたのは誠司だ。
あの二人がつるんだら、これから日本に劇的な瞬間を何度でも与えるだろう。
「年棒考えておくからね。4年間海外でプレイしたら来てくれるんでしょ?」
恵美さんが言ってる。
あの二人を獲得するためならどんだけお金がかかろうと構わないと思っているらしい。
まああの二人の夢が地元チームでクラブワールドカップ制覇だからあまり欲を言わないだろう。
しかし愛莉には不安があったようだ。
この試合を決定づける得点を決めたのは冬吾だ。
当然冬吾にインタビューがあるだろう。
愛莉は嫌な予感しかしなかったらしい。
そしてその通りだった。
「お酒は飲めないのでコーラで我慢します」
「食べ物は良いのですか?」
「家に帰ってラーメン食べたいです」
誠とカンナは爆笑していた。
天音も笑っている。
「お前の子供はどこに行っても食い物だな!」
「しかも家でラーメン食いたいなんてトップレベルの選手の発言じゃねーぞ」
カンナと誠が言っている。
「愛莉ちゃん、アレは諦めた方がいい」
恵美さんがそう言っている。
「食べ物は覚悟してたの……ただ」
お家でラーメン食べたいってどうなの?
「……もっとグルメにしないとダメみたいね」
そういう事なら手伝うわよ。
恵美さんがそう愛莉に言っていた。
「冬夜さんも他人事だと思わないでください!韓国のりでおにぎり食べたいとか!」
「だって韓国のりでおにぎりが美味しいって聞いたから」
「そういう情報ばかり冬吾に与えるからこうなったんですよ!」
「愛莉、これはもう片桐家ならしょうがないって」
天音がそう言って茉莉と結莉達を指す。
孫たちは試合に興味が無かったらしくて食べ物を一生懸命食べていた。
愛莉は頭を抱える。
「もう俺達が教える事は無さそうだな」
誠が言う。
「そうだね。僕の想像をはるかに超えてるよ」
後は経験を重ねていくだけだろう。
すでにあの二人は名選手として語られるのは間違いなさそうだ。
後日報道ではあの44秒を”蒼い奇跡”と賞賛されたそうだ。
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