313 / 535
さよなら弱虫
しおりを挟む
(1)
暇だ。
家でテレビ見てた方がまだましだ。
そんな事を考えながら積み木を適当に積み重ねて遊んでいた。
「結、何してるの?」
「……積み木積んでる」
結莉は事あるごとに俺の周りに来る。
俺といて何か楽しい事でもあるのだろうか?
まあ、食べ物をくれるから別にいいけど。
さすがに幼稚園はお菓子を持ってきていい場所じゃないらしい。
茉莉と菫は派手に戦闘してる。
本気でやりあっているのだろう。
本気を出せる相手だと知っているからそうしているのだろう。
陽葵は退屈そうに髪をいじって遊んでいる。
優翔は秋久と比呂と話をしている。
優翔の側にいる茉奈は俺の方をじっと見ている。
俺に何か文句があるのだろうか?
言いたい事があるならはっきり言えばいいのに、あいつは言わない。
とりあえず分かる事は俺と結莉が一緒にいることが羨ましいという事だけ。
だったらそうすればいいのに。
「茉奈、こっち来いよ」
声をかけると優翔に何か言われてこっちに来る。
結莉は良く思っていないみたいだけど、とりあえず茉奈を睨んでいた。
茉奈が俺の側に座る。
「な、なんか結君の気に障る事したかな?」
俺はお前に何かしたのか?
そう聞きたくなるほど俺に怯えている。
その態度がイライラさせる。
「こっちを見てたから俺に何か用があるのかと思って呼んだだけ」
「ご、ごめんなさい」
何か用があるのかと聞いただけなのに、今にも泣きだしそうな茉奈。
「じゃあ、もう見ないようにするから行くね」
そう言って立ち上がって優翔のところに戻ろうとする茉奈を呼び止めた。
「それがお前の本音なのか?」
どうして俺もこんなに茉奈の事を気にしているのだろう?
「え?」
「そもそもなんで俺の事を見ていたんだ?」
「それは……」
そう言って黙り込んでしまう茉奈。
すると様子を見ていた結莉が突然言った。
「無駄だよ。自分の意見も言えないような弱虫を結が好きになるはずがない!」
結莉の言葉にびくつく茉奈。
好き?
「なんだよ、石原も桐谷も片桐の事が好きなのか?」
そう言って何人かのガキが絡んできた。
パパが言ってた黒いリストバンドを付けた馬鹿ってこいつらの事か。
結莉はすでに馬鹿を威嚇している。
菫と茉莉も戦闘を止めてこっちを見ている。
馬鹿はそんな事気にも留めずに俺に聞いていた。
「で、片桐はどっちが好きなんだ?」
「すぐ泣く桐谷とゴリラの血が流れた石原か……どっちが好みなんだ」
「誰がゴリラだこら!砂場に埋めるぞ鼻たれガキが」
結莉が立ち上がる。
茉奈は俺の腕にしがみついて泣き出しそうになっている。
「やるつもり?俺達FGに逆らって無事に生きていけると思ったの?」
「残念だったな」
「その名前を聞いた時点でお前の人生は終了だ」
ガキが声に反応した時すでに菫と茉莉に殴り飛ばされていた。
「結は絶対動くな!」
そう言って比呂や秋久も加担する。
結莉も俺のそばを離れない。
だけど気になるのは茉奈の寂しそうな表情だった。
男の価値は女の子の涙をどれだけ止められるか……か。
俺はガキどもを睨みつける。
その瞬間ガキどもは突然悲鳴を挙げた。
多分体から虫が湧いてくる悪夢でも見ているのだろう。
「一回だけ警告で許してやる。次に鬱陶しい真似をしたら殺すぞ」
幻覚の時間は1分間。
それが過ぎるとガキどもの戦意は喪失していた。
それを過ぎると茉奈の下に行く。
案の定茉奈は泣いている。
「いいか、一度しか言わない。俺は泣き虫は嫌いだ」
泣いてばかりで無抵抗なだけの間抜けだなんて嫌いだ。
黙っているだけで状況がよくなることなんて一つもない。
助けて欲しいならそう叫べ。
力を貸して欲しいならそう言え。
その時は力になってやる。
分かったのか分かってないのか茉奈は優翔たちのところに戻っていった。
(2)
「天音と翼も呼ばれたんだ」
「水奈もよばれたのか?」
さっそく菫と茉莉が暴れたらしい。
FGってのは余程の馬鹿なんじゃないだろうか?
今日は幼稚園でもめ事が起きたらしい。
結と菫と茉莉が主犯だそうだ。
当然秋久や比呂も類に漏れず暴れていた。
これからはこんな日が続くのだろうか?
私達で解決しないと愛莉はともかく恵美さんが出てきたら大惨事だ。
茉莉や結莉はともかく茉奈が関わってるって事が驚いた。
大人しい茉奈が暴れるなんて考えられない。
何をしてくれたんだ?
そんな事を考えながら幼稚園についた。
幼稚園で異様な光景があった。
結の機嫌は悪そうだ。
結莉は泣いている。
茉莉が私達に気づいたみたいだ。
「あ、ママ」
そう言って近づいてきた。
「一体何があったんだ?」
茉莉に説明していた。
結莉が泣いているって何事だ。
場合によってはただじゃ置かねーぞ。
「あなたが片桐君のお母さんですか?」
保母さんが聞いてきた。
「ええ、そうですけど?」
「あなた方はどんな教育をしてきたのですか」
知らないおばさんが何人か出て来て私達に文句を言う。
やっぱり結達の仕業か?
に、しては結莉が泣いている理由が分からない。
ばばあ共は文句ばかり並べて事情がよく分からない。
「茉莉、事情を説明しろ」
「あまね、結莉達は悪くない」
やったのは俺だと結が言う。
結を怒らせたのか。
馬鹿な事をしてくれる。
「死人はいないだろうな」
さすがに園児で殺人なんてことしたら恵美さんに怒られる。
まあ、どのみち愛莉には怒られるだろうけど。
「でも、それでどうして結莉が泣いてるの?」
「結莉は何もされてないよ。ただ結が……」
そう言って茉莉が説明した。
驚いた。
「結が茉奈を選んだから失恋した」
茉莉の一言に水奈も耳を疑ったらしい。
翼もうすうす感づいていたようだ。
詳しく聞いてみると泣いている茉奈の為に結が怒った。と、いうだけのもの
幻覚を見せて警告したらしい。
次に鬱陶しい真似をしたら殺すと脅したそうだ
なるほどな……
「じゃあ、茉奈が関係しているのは?」
「多分そうじゃないかな」
自分ではなく茉奈が引き金で結を怒らせたという事。
それが悔しくて泣いているのだろう。
この歳で失恋はつらいだろうな。
後で慰めてやるか。
「で、なんで私が呼び出されなきゃいけないんだ?」
保母さんに聞いていた。
「ですから片桐君の行動に問題があるから……」
「結は私の息子です。文句が遠慮なくどうぞ」
茉莉達の説明ではお前らが頭を下げるべきなんじゃないのか?
怪我すらさせてないぞ。
最初に菫と茉莉がぶん殴ったらしいけど。
「あなたそれでも母親なの?他人様に怪我をさせて」
「最初に仕掛けてきたのはあなた方のお子さんじゃないですか」
殴られたくらいで親に泣きつくなら端から喧嘩売って来るな。
「あなた誰?若い娘が子供のしつけ方すら教わってないわけ?」
「自分で喧嘩うってやられたら親に泣きつく情けない子供に育てたつもりはありません」
「口の利き方すらなってないわね。こんな野蛮な子がいる幼稚園に預けられません」
「どうぞご自由に。もっともそんな情けないお子さんがどこへ行っても同じだと思いますが」
「あなた誰?」
時間をかけすぎた。
タイミングが悪かった。
一番厄介な人が出て来た。
「結莉と茉莉の祖母です。天音ちゃんの家に行ったら誰もいないし美希も留守だから連絡したの」
「で、この子の教育にどんな問題があるのか教えて欲しいのだけど?」
親が出て来るなら私達が相手してやる。
文句があるならさっさと言え。
恵美さんと晶さんの剣幕に押されて何も言えないババアに代わって私が説明した。
「あら?残念だったわね。でもまたいい相手が見つかるから」
恵美さんがそう言うと結莉が少し寂しそうに頷いていた。
結以上の存在なんてそんなにいるわけないと思うけど。
「いい彼氏?こんな危険な子供のどこがそう言えるの?」
「彼女に脅迫する命知らずに警告しただけじゃない」
警告で済んでよかったでしょ。
一歩間違えたらたった3年で一生を終えるところだったわよと恵美さんが言う。
「やはりこんな危ない所に子供を預けられません」
「だからどうしたの?心配しないでもここどころか地元中に居場所が無いようにしてやってもいいわよ?」
大人の喧嘩になったら恵美さんに勝てる人間なんて探すのもめんどくさい。
といっても、このまま平行線が続いて結が腹を空かせて暴れ出したら面倒だ。
「結。幼稚園で能力使うのは極力避けなさい」
美希が結に言って聞かせる。
結の落ち度なんてそれくらいだろ。
「わかった」
結は素直だから言われた事はしっかり守る。
これ以上時間をかけても自分の立場が危ないと悟ったババア共は大人しく引き下がった。
私達も家に帰る事にした。
泣いていた結莉も茉莉達と話をしながら帰っている。
「絶対無理だと思っていたんだけどな」
手を繋いでる茉奈を見ながら水奈が言った。
まあ、この歳で恋人見つけてくるなんてまともに考えたらあり得ないだろう。
でも一つだけ注意することがある。
「茉莉の話を聞いた限りだとまだ始まったかどうかも怪しい」
結はただ「自分の主張くらいしっかり守れ。それすらできない奴の相手なんかしない」と言っただけなんだ。
まだ結の中では恋とか好きとかそういう感情すらないだろう。
ただ放っておけなかったから守っただけの話。
「そうだな」
私の話を水奈だけじゃなく、茉奈もしっかり聞いてるように思えた。
(3)
結が言っていた。
ただ泣いているだけの私なんて嫌いだ。
だから……
助けて欲しい時はそう言え。
力を貸して欲しい時はちゃんと言え。
そしたら力になってくれる。
でも、ママや天音さんの話を聞いているとそれでもだめな気がした。
誰かを頼っているだけじゃだめ。
自分で自分の意思を持たなきゃだめだ。
私自身の意見を伝えないとだめ。
「どうした?今日の事で悩んでるのか?」
私は優翔とママと一緒に風呂に入っている。
私は聞いてみた。
「ママ、この髪なんだけど……」
「ああ、黒に染めたいと言ってたな」
気弱な私に合わない程派手なピンクのグラデーションの髪の色。
でもそうじゃない。
この髪でもおかしくないくらい強くならなきゃいけない。
だから……
「やっぱりこのままでいい」
「そうか」
ママはそう言ってにこりと笑った。
「結の影響を受けたか?」
母さんがそう言うと恥ずかしいけど私はうなずいた。
「結に言われたからそうする。母さんはそれでもいいと思うぞ」
結局はそれが自分の意思なんだ。
誰かに似合ってるとかこんなのが、好みだとか言われてそれに合わせようとするのは大人でもある事。
「そんな私が好き」
その言葉が聞きたくてひたむきに頑張るのが好きになるって事。
「結は私の事好きになってくれるかな?」
「茉奈の頑張り次第じゃないかな」
お風呂から出るとパパが「水奈、幼稚園から呼び出されたらしいけど何かあったのか?」と聞いていた。
ママはにこりと笑ってパパに言った。
「喜べ、茉奈に彼氏候補が出来た」
パパはむせていた。
「も、もうなのか?」
「ああ、しかも相手は……」
パパは結の事を聞くと驚いていた。
「結って結莉と仲良かったんじゃないのか?」
「結にとって結莉はそうじゃなかっただけだろ」
絶対に空と飲みに行くとかするなよとママが言っていた。
次の日朝になるとパパと優翔と支度をする。
ママは朝までゲームをしているから寝ている。
愛菜と優菜もそれを見ているから同じだ。
優翔がカギを掛けると幼稚園に向かう。
幼稚園の門の前で両頬をぺちっとたたく。
今日から変わるんだ。
さようなら弱虫な私。
幼稚園に入ると先に来ていた結の下に行く。
相変わらず絶妙なバランスで積み木を積んでいた結が私に気付いた。
すると結莉が結の隣を譲ってくれた。
「どうしたんだ?」
私は何も言わずに結の積み重ねた積み木の上にさらに重ねて見せた。
「これからは一緒に遊んで欲しい」
「いいけど」
「ありがとう」
「やればできるじゃん」
結莉がそう言って私の背中を叩いた。
そのはずみで積み木が崩れる。
でも何度でも積み重ねていけばいい。
「じゃ、私邪魔だろうから陽葵とお話してるね」
そう言って結莉は陽葵達のところに行く。
「で、なんで俺と遊びたいんだ?」
結が聞いてくるから私は笑って答えた。
「結が好きだから」
「俺って美味しそうか?」
不思議そうに私を見ている結。
結はまだ人を好きになると言う事を知らないんだろう。
だからその事を教えてあげたらいい。
私を好きにさせてやるんだ。
暇だ。
家でテレビ見てた方がまだましだ。
そんな事を考えながら積み木を適当に積み重ねて遊んでいた。
「結、何してるの?」
「……積み木積んでる」
結莉は事あるごとに俺の周りに来る。
俺といて何か楽しい事でもあるのだろうか?
まあ、食べ物をくれるから別にいいけど。
さすがに幼稚園はお菓子を持ってきていい場所じゃないらしい。
茉莉と菫は派手に戦闘してる。
本気でやりあっているのだろう。
本気を出せる相手だと知っているからそうしているのだろう。
陽葵は退屈そうに髪をいじって遊んでいる。
優翔は秋久と比呂と話をしている。
優翔の側にいる茉奈は俺の方をじっと見ている。
俺に何か文句があるのだろうか?
言いたい事があるならはっきり言えばいいのに、あいつは言わない。
とりあえず分かる事は俺と結莉が一緒にいることが羨ましいという事だけ。
だったらそうすればいいのに。
「茉奈、こっち来いよ」
声をかけると優翔に何か言われてこっちに来る。
結莉は良く思っていないみたいだけど、とりあえず茉奈を睨んでいた。
茉奈が俺の側に座る。
「な、なんか結君の気に障る事したかな?」
俺はお前に何かしたのか?
そう聞きたくなるほど俺に怯えている。
その態度がイライラさせる。
「こっちを見てたから俺に何か用があるのかと思って呼んだだけ」
「ご、ごめんなさい」
何か用があるのかと聞いただけなのに、今にも泣きだしそうな茉奈。
「じゃあ、もう見ないようにするから行くね」
そう言って立ち上がって優翔のところに戻ろうとする茉奈を呼び止めた。
「それがお前の本音なのか?」
どうして俺もこんなに茉奈の事を気にしているのだろう?
「え?」
「そもそもなんで俺の事を見ていたんだ?」
「それは……」
そう言って黙り込んでしまう茉奈。
すると様子を見ていた結莉が突然言った。
「無駄だよ。自分の意見も言えないような弱虫を結が好きになるはずがない!」
結莉の言葉にびくつく茉奈。
好き?
「なんだよ、石原も桐谷も片桐の事が好きなのか?」
そう言って何人かのガキが絡んできた。
パパが言ってた黒いリストバンドを付けた馬鹿ってこいつらの事か。
結莉はすでに馬鹿を威嚇している。
菫と茉莉も戦闘を止めてこっちを見ている。
馬鹿はそんな事気にも留めずに俺に聞いていた。
「で、片桐はどっちが好きなんだ?」
「すぐ泣く桐谷とゴリラの血が流れた石原か……どっちが好みなんだ」
「誰がゴリラだこら!砂場に埋めるぞ鼻たれガキが」
結莉が立ち上がる。
茉奈は俺の腕にしがみついて泣き出しそうになっている。
「やるつもり?俺達FGに逆らって無事に生きていけると思ったの?」
「残念だったな」
「その名前を聞いた時点でお前の人生は終了だ」
ガキが声に反応した時すでに菫と茉莉に殴り飛ばされていた。
「結は絶対動くな!」
そう言って比呂や秋久も加担する。
結莉も俺のそばを離れない。
だけど気になるのは茉奈の寂しそうな表情だった。
男の価値は女の子の涙をどれだけ止められるか……か。
俺はガキどもを睨みつける。
その瞬間ガキどもは突然悲鳴を挙げた。
多分体から虫が湧いてくる悪夢でも見ているのだろう。
「一回だけ警告で許してやる。次に鬱陶しい真似をしたら殺すぞ」
幻覚の時間は1分間。
それが過ぎるとガキどもの戦意は喪失していた。
それを過ぎると茉奈の下に行く。
案の定茉奈は泣いている。
「いいか、一度しか言わない。俺は泣き虫は嫌いだ」
泣いてばかりで無抵抗なだけの間抜けだなんて嫌いだ。
黙っているだけで状況がよくなることなんて一つもない。
助けて欲しいならそう叫べ。
力を貸して欲しいならそう言え。
その時は力になってやる。
分かったのか分かってないのか茉奈は優翔たちのところに戻っていった。
(2)
「天音と翼も呼ばれたんだ」
「水奈もよばれたのか?」
さっそく菫と茉莉が暴れたらしい。
FGってのは余程の馬鹿なんじゃないだろうか?
今日は幼稚園でもめ事が起きたらしい。
結と菫と茉莉が主犯だそうだ。
当然秋久や比呂も類に漏れず暴れていた。
これからはこんな日が続くのだろうか?
私達で解決しないと愛莉はともかく恵美さんが出てきたら大惨事だ。
茉莉や結莉はともかく茉奈が関わってるって事が驚いた。
大人しい茉奈が暴れるなんて考えられない。
何をしてくれたんだ?
そんな事を考えながら幼稚園についた。
幼稚園で異様な光景があった。
結の機嫌は悪そうだ。
結莉は泣いている。
茉莉が私達に気づいたみたいだ。
「あ、ママ」
そう言って近づいてきた。
「一体何があったんだ?」
茉莉に説明していた。
結莉が泣いているって何事だ。
場合によってはただじゃ置かねーぞ。
「あなたが片桐君のお母さんですか?」
保母さんが聞いてきた。
「ええ、そうですけど?」
「あなた方はどんな教育をしてきたのですか」
知らないおばさんが何人か出て来て私達に文句を言う。
やっぱり結達の仕業か?
に、しては結莉が泣いている理由が分からない。
ばばあ共は文句ばかり並べて事情がよく分からない。
「茉莉、事情を説明しろ」
「あまね、結莉達は悪くない」
やったのは俺だと結が言う。
結を怒らせたのか。
馬鹿な事をしてくれる。
「死人はいないだろうな」
さすがに園児で殺人なんてことしたら恵美さんに怒られる。
まあ、どのみち愛莉には怒られるだろうけど。
「でも、それでどうして結莉が泣いてるの?」
「結莉は何もされてないよ。ただ結が……」
そう言って茉莉が説明した。
驚いた。
「結が茉奈を選んだから失恋した」
茉莉の一言に水奈も耳を疑ったらしい。
翼もうすうす感づいていたようだ。
詳しく聞いてみると泣いている茉奈の為に結が怒った。と、いうだけのもの
幻覚を見せて警告したらしい。
次に鬱陶しい真似をしたら殺すと脅したそうだ
なるほどな……
「じゃあ、茉奈が関係しているのは?」
「多分そうじゃないかな」
自分ではなく茉奈が引き金で結を怒らせたという事。
それが悔しくて泣いているのだろう。
この歳で失恋はつらいだろうな。
後で慰めてやるか。
「で、なんで私が呼び出されなきゃいけないんだ?」
保母さんに聞いていた。
「ですから片桐君の行動に問題があるから……」
「結は私の息子です。文句が遠慮なくどうぞ」
茉莉達の説明ではお前らが頭を下げるべきなんじゃないのか?
怪我すらさせてないぞ。
最初に菫と茉莉がぶん殴ったらしいけど。
「あなたそれでも母親なの?他人様に怪我をさせて」
「最初に仕掛けてきたのはあなた方のお子さんじゃないですか」
殴られたくらいで親に泣きつくなら端から喧嘩売って来るな。
「あなた誰?若い娘が子供のしつけ方すら教わってないわけ?」
「自分で喧嘩うってやられたら親に泣きつく情けない子供に育てたつもりはありません」
「口の利き方すらなってないわね。こんな野蛮な子がいる幼稚園に預けられません」
「どうぞご自由に。もっともそんな情けないお子さんがどこへ行っても同じだと思いますが」
「あなた誰?」
時間をかけすぎた。
タイミングが悪かった。
一番厄介な人が出て来た。
「結莉と茉莉の祖母です。天音ちゃんの家に行ったら誰もいないし美希も留守だから連絡したの」
「で、この子の教育にどんな問題があるのか教えて欲しいのだけど?」
親が出て来るなら私達が相手してやる。
文句があるならさっさと言え。
恵美さんと晶さんの剣幕に押されて何も言えないババアに代わって私が説明した。
「あら?残念だったわね。でもまたいい相手が見つかるから」
恵美さんがそう言うと結莉が少し寂しそうに頷いていた。
結以上の存在なんてそんなにいるわけないと思うけど。
「いい彼氏?こんな危険な子供のどこがそう言えるの?」
「彼女に脅迫する命知らずに警告しただけじゃない」
警告で済んでよかったでしょ。
一歩間違えたらたった3年で一生を終えるところだったわよと恵美さんが言う。
「やはりこんな危ない所に子供を預けられません」
「だからどうしたの?心配しないでもここどころか地元中に居場所が無いようにしてやってもいいわよ?」
大人の喧嘩になったら恵美さんに勝てる人間なんて探すのもめんどくさい。
といっても、このまま平行線が続いて結が腹を空かせて暴れ出したら面倒だ。
「結。幼稚園で能力使うのは極力避けなさい」
美希が結に言って聞かせる。
結の落ち度なんてそれくらいだろ。
「わかった」
結は素直だから言われた事はしっかり守る。
これ以上時間をかけても自分の立場が危ないと悟ったババア共は大人しく引き下がった。
私達も家に帰る事にした。
泣いていた結莉も茉莉達と話をしながら帰っている。
「絶対無理だと思っていたんだけどな」
手を繋いでる茉奈を見ながら水奈が言った。
まあ、この歳で恋人見つけてくるなんてまともに考えたらあり得ないだろう。
でも一つだけ注意することがある。
「茉莉の話を聞いた限りだとまだ始まったかどうかも怪しい」
結はただ「自分の主張くらいしっかり守れ。それすらできない奴の相手なんかしない」と言っただけなんだ。
まだ結の中では恋とか好きとかそういう感情すらないだろう。
ただ放っておけなかったから守っただけの話。
「そうだな」
私の話を水奈だけじゃなく、茉奈もしっかり聞いてるように思えた。
(3)
結が言っていた。
ただ泣いているだけの私なんて嫌いだ。
だから……
助けて欲しい時はそう言え。
力を貸して欲しい時はちゃんと言え。
そしたら力になってくれる。
でも、ママや天音さんの話を聞いているとそれでもだめな気がした。
誰かを頼っているだけじゃだめ。
自分で自分の意思を持たなきゃだめだ。
私自身の意見を伝えないとだめ。
「どうした?今日の事で悩んでるのか?」
私は優翔とママと一緒に風呂に入っている。
私は聞いてみた。
「ママ、この髪なんだけど……」
「ああ、黒に染めたいと言ってたな」
気弱な私に合わない程派手なピンクのグラデーションの髪の色。
でもそうじゃない。
この髪でもおかしくないくらい強くならなきゃいけない。
だから……
「やっぱりこのままでいい」
「そうか」
ママはそう言ってにこりと笑った。
「結の影響を受けたか?」
母さんがそう言うと恥ずかしいけど私はうなずいた。
「結に言われたからそうする。母さんはそれでもいいと思うぞ」
結局はそれが自分の意思なんだ。
誰かに似合ってるとかこんなのが、好みだとか言われてそれに合わせようとするのは大人でもある事。
「そんな私が好き」
その言葉が聞きたくてひたむきに頑張るのが好きになるって事。
「結は私の事好きになってくれるかな?」
「茉奈の頑張り次第じゃないかな」
お風呂から出るとパパが「水奈、幼稚園から呼び出されたらしいけど何かあったのか?」と聞いていた。
ママはにこりと笑ってパパに言った。
「喜べ、茉奈に彼氏候補が出来た」
パパはむせていた。
「も、もうなのか?」
「ああ、しかも相手は……」
パパは結の事を聞くと驚いていた。
「結って結莉と仲良かったんじゃないのか?」
「結にとって結莉はそうじゃなかっただけだろ」
絶対に空と飲みに行くとかするなよとママが言っていた。
次の日朝になるとパパと優翔と支度をする。
ママは朝までゲームをしているから寝ている。
愛菜と優菜もそれを見ているから同じだ。
優翔がカギを掛けると幼稚園に向かう。
幼稚園の門の前で両頬をぺちっとたたく。
今日から変わるんだ。
さようなら弱虫な私。
幼稚園に入ると先に来ていた結の下に行く。
相変わらず絶妙なバランスで積み木を積んでいた結が私に気付いた。
すると結莉が結の隣を譲ってくれた。
「どうしたんだ?」
私は何も言わずに結の積み重ねた積み木の上にさらに重ねて見せた。
「これからは一緒に遊んで欲しい」
「いいけど」
「ありがとう」
「やればできるじゃん」
結莉がそう言って私の背中を叩いた。
そのはずみで積み木が崩れる。
でも何度でも積み重ねていけばいい。
「じゃ、私邪魔だろうから陽葵とお話してるね」
そう言って結莉は陽葵達のところに行く。
「で、なんで俺と遊びたいんだ?」
結が聞いてくるから私は笑って答えた。
「結が好きだから」
「俺って美味しそうか?」
不思議そうに私を見ている結。
結はまだ人を好きになると言う事を知らないんだろう。
だからその事を教えてあげたらいい。
私を好きにさせてやるんだ。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる