姉妹チート

和希

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澪音

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(1)

「結、綺麗だよ」

 茉奈は楽しそうに見ていた。
 俺は紅葉を見るより柿を見たいんだけどな。
 だけど他所の柿をとったらおまわりさんに捕まるって母さんが言ってたからスーパーで買ってもらおう。
 比呂は寝ている。
 毎年同じところで飽きたらしい。
 興味があるのは吊橋の売店にあるハンバーガーだけ。
 毎年のように起こる事がある。
 それは何人かが前の車を追い抜いていく。
 その結末も毎年同じなんだけどどうして同じ事を繰り返すのだろう?
 パパが言ってた。

「同じ事を繰り返すから戦争が起きるんだよ」

 難しくてよく分からなかった。
 紅葉が綺麗だと茉奈は見とれている。
 どこかの県でもみじ饅頭というものがあるらしい。
 一度食べてみたい。
 もみじは食べ物じゃないと聞いていた。
 もみじおろしという物にも紅葉は一切使われていないらしい。
 なんでだろう?
 吊橋に着くと比呂が起きる。
 じいじ達は吊橋へ行こうとするが天音達とパパ達は売店に直行した。

「好きなだけ食べなさい」

 父さんがそう言うととりあえず全種類網羅することにした。 
 
「やっぱ子供達皆パパに似たんだな」

 天音がそう言っていた。
 ハンバーガーを食べ終えるとソフトクリームを食べながら皆の帰りを待つ。
 秋久達が帰って来た。
 菫の機嫌が悪そうだ。
 何があったのか秋久に聞いてみた。
 菫は人混みが嫌いらしい。
 遅々として進まない行列にイライラしていたそうだ。

「もう全員残らず突き落としてやる!」

 そんな事を言っているのを菫の両親が宥めていたらしい。
 両親は疲れ果てていた。 
 皆揃うとレストランに行く。
 まだ鉄板は危ないらしいので、母さんがハンバーグを切って皿にのせてくれる。
 それをひたすら食べていた。
 物足りないけど「今夜焼肉行くからその時一杯食べようね」と母さんが言うから大人しく言われたとおりに外でお馬さんを見ていた。
 馬は食べられるらしい。 
 どんな味がするんだろう?

「多分さ、母さん達が私達を外に出した理由だけど……」

 陽葵には思い当たる事があったらしい。

「幼稚園にもいるリベリオンやFGの事で話があるみたい」
「ふーん」
「ってそれだけか?とーや」

 危険人物がそばにいるんだぞ。
 茉莉はそう言う。
 俺や秋久にしたら陽葵達や茉莉の方が怖いんだけど。

「そう言う事を絶対に口にしたらダメ」

 母さんが言ってたから黙っておいた。
 父さん達が小学生の時から対立していたFG。
 恵美達が人生のレールから突き落とした者たちの集団がリベリオン。
 それが何か俺達に関係あるのか?

「わかんないけど天音達が警戒するくらいだからやばい相手じゃないのか?」

 茉莉が言うけど俺にはわからない。

「そういうのってただ負け犬がぎゃあぎゃあ喧しいだけだろ?」

 少なくとも四宮には警告した。
 次ふざけた真似したら殺すよ?
 でも天音が言ってたな。

「馬鹿は死ぬしかない」

 しかし父さん達も片っ端からバカンスに連れていったり建造物の一部にしてやってるのに懲りずによくやるな。
 
「諦めたら試合終了ですよ」

 ってやつだろうか?
 しかし頑張っても”人生終了”なのに、不思議だった。

(2)

「しかし結は本当に茉奈がそばにいると大人しいわね」

 恵美さんが言ってた。
 多分食事中ってのもあると思うけど。
 食事を放棄して遊びだすなんて真似は片桐家では許されない。
 それは茉莉ですら破る事の出来ないルール。
 それに結なりに好きという意味を理解したのかもしれない。
 茉奈がそばにいることで心が落ち着くんだろう。
 
「あの子達は大丈夫なんでしょうか?」

 石原君が聞いている。
 聞くだけ無駄だと思うよ。
 世界中で結の隣にいる事が一番安全なのだから。

「そうなるとやっぱり片桐君の家の子供を嫁か婿に迎えたいところね」

 晶さんが言う。

「晶……それが一番難しいんだ」

 カンナが言う。
 基本的に食べ物優先の息子達。
 どんな理由で女の子を好きになるのか分からない。
 結の気持ちも美希達にはわからないのだから。
 
「神奈は凄く簡単に言うけど冬夜さんの子供達は育てるのが大変なんだよ」

 愛莉が困った顔をして言う。
 いくら言っても何度でも同じことをやる。
 唯一父親の命令は絶対だという事は守っている。
 天音や愛莉は笑っていた。

「まあ、愛莉には悪い事したと思ってるって。私だって結莉や茉莉の世話が大変なんだ」

 まさか幼稚園から呼び出されるとは思わなかったと言って笑う。
 結莉はともかく茉莉は大変らしい。
 天音が注意するとちゃんと「あきら」「えみ」「あーり」と使い分けるがしばらくたつと「ババア」呼ばわり。
 恵美さんはまだ孫娘だから分かるけど、晶さんは絶対やばい。
 天音達もヒヤヒヤしてるらしい。
 だけどどういうわけか晶さんはにこにこしてる。
 どうしてなのか、愛莉も不思議に思った。

「決まってるじゃない。朔の大事なお嫁さん候補なのでしょ?」

 となりにいた酒井君が驚いていた。

「そ、そこまで考えるのはまだ早いんじゃないのかい?」
「あら?善君は茉莉ちゃんが気に入らないの?」
「そ、そうじゃなくてね」
「やっと酒井家にも強力な血が入って来るわよ」

 酒井君はただ笑っていた。
 祈も笑うしかないみたいだ。

「天音、もし朔が浮気なんかふざけた真似したら私にすぐ言ってくれ」
「祈、その必要はない。そんなふざけた真似したら茉莉が埋めるよ」
「天音は娘を育ててるという自覚があるの!?」
「女だって自分の身くらい自分で守るだろ!」
「愛莉、いい加減諦めなよ。血が繋がってなくても片桐家に入れば大人しい女の子なんて無理だよ」

 翼がそう言うと愛莉は頭を抱える。
 更には茜、冬莉、莉子と続くのだから仕方ないだろう。

「今夜時間をくれるかい?」

 愛莉にそっと耳打ちした。

「どうしたのですか?」
「苦労してる妻を慰めるくらいはしてあげたいから」
「分かりました」
「……ったく。やっぱりトーヤの家が一番チートじゃねえか」

 私達にも分けてくれとカンナや亜依さんが言う。
 それを聞いた天音が大地を見る。

「神奈さんも亜衣さんも茉奈がいるじゃないか」

 あれは片桐家最強人物に違いないと天音が言う。
 あれを超える子供なんて生まれてきたらさすがに地球が持たない。

「ああ、孫の話で盛り上がっているところ悪いんだけどそろそろ本題に入らないか?」

 渡辺君が言った。
 孫たちには聞かせられない話。
 それはリベリオンについて。
 子供達SHには手を出すなと言っておいたけど情報くらいは与えておいた方がいいだろうと思ったから。
 キーワードは神谷という姓のみ。
 しかしその名前に関する情報はどこを辿っても潰されるらしい。
 誠一人じゃなくて公生や茜、真香とそっち方面に明るい人材を全部投入しても見つからない。
 上手い具合に潰されるか隠蔽されるか、下手するとこっちを攻撃してくるらしい。
 ネット上にその情報があるのは確かだと誠は結論付けた。
 理由はそれだけ派手にリアクションがあるから。
 無かったら何もする必要がない。
 その根拠が神谷十郎。
 いくら探しても何もしてこなかった。
 当たり前だ。
 戸籍すらない人間なのだから。
 日本には何の情報もつかめなかった。
 日本で生まれてもいないのだから当然だろう。
 高橋、四宮、神谷。
 手掛かりはそれだけ。
 高橋は高橋グループの残党。
 四宮は誠心会の中心的立場というだけで、リベリオンとどういう関係なのか分からない。
 神谷については晶さんや恵美さんがかなり手こずって中華系のマフィアの人間だという事を掴んだ。
 晶さんや恵美さんが手こずる相手だ。
 余程の強力な組織なんだろう。
 もう少し手掛かりが欲しいがこっちも犠牲を出したくない。
 とはいえ、すでに犠牲者は出ている。
 それだけ危険な相手だからSHには手を出すなと指示した。
 しかしそれは遅かった。
 冬吾達が似非SHと接触したらしい。
 その事を知った茜がすぐに調べた。
 そしたら確かに関東エリアに君臨するグループが存在した。
 やってることはカラーギャング程度ではない。
 完全な反社会的勢力。
 何の目的があってこんな真似を?
 それは翼と空が考えたらしい。

「これは序の口。彼等の狙いはSHの失墜」

 SHの名を騙り人々を不幸に陥れて、SHに恨みを持つ人間を増やすのが目的じゃないかと翼達は考えた。
 ただの烏合の衆より同じ信念を持った者の方が結束力も高い。
 巨大な反SH勢力を作るつもりなんじゃないかと推測した。
 しかし問題がある。 
 そんな物を作る理由。
 すでにSHに対抗する勢力は持っているはずの神谷。
 なんでそんな回りくどい事をするのか翼達も分からなかった。

「上等じゃねーか。早いうちに潰そうぜ。大地週末開けとけ!殴り込みに行くぞ」
「落ち着いて天音。標的が分からないのに探し回るだけで週末が終ってしまうよ」
「大地の言う通り、私達も今彼等の根城を探ってる。冬吾達が関東ってエリアを限定してくれたから早いうちに解るはず」

 天音を大地と恵美さんが宥めてる。

「で、根城が分かったらどうするつもりだ?」
「面倒だから関東エリアだけなら核一発落とすだけで解決するでしょう」
「母さんそれはだめ。旦那様も言ってたけどそんな事してテレビとかが見れなくなったら結を怒らせる」

 恵美さんと美希のやり取りもなんかずれてる気がするんだけど。
 
「冬夜さんはどうするおつもりですか?」

 愛莉が僕に聞くと皆が僕を見る。

「何もしないよ?」

 そもそも何かする必要あるの?
 当然皆が怒り出す。

「トーヤ。てめぇぶるったとか寝言言ってるとお前からぶっ殺すぞ!」
「パパ!あいつらは私達SHの名前を使って下らねえことしてるんだ!やられっぱなしでいてたまるか!」

 カンナと天音が言う。

「じゃ、カンナ達は何を潰すの?」
「そりゃ、そのリベリオンとかいう奴らだろ?」
「どこにいるの?」
「お前話聞いてなかったのか?関東にいるのは間違いないんだろ!?」
「……そういう事か」

 空は気づいたらしい。
 流石は空の王だね。
 判断力は確かだ。

「空!お前まで寝ぼけてるんじゃねーぞ!」

 天音が言うが空は落ち着いていた。

「そもそもその関東にいるSHを潰す理由はあるの?」

 空は最適解を出した。
 関東にいる仲間がそれで騙されたとかなら何がなんでも潰す。
 しかし似非SHは空達のSHとは違う集団だ。
 たまたま名前が同じだけ。
 その証拠にSHのサイトなんていくらでも検索にかかる。
 地元でSHを騙るふざけた奴は鬱陶しいから潰すけど、わざわざ東京へ赴く必要はあるのか?

「彼等の目的もわからないのに、遠征する理由は無いよ」

 空が言うとSHの陣営は黙ってしまった。

「で、トーヤ。渡辺班が出ない理由はどうしてだ?」

 カンナが聞く。

「カンナ。少しは自分で考えろ。相手は似非SHだ。渡辺班の出る幕はないだろ?」
「でもそのリベリオンとやらの標的になってるんだろ。さっさと潰した方がいいだろ」
「本当にそう思う?」
「……どういう意味だ?」
「冬夜、お前の悪い癖だ。分かったんじゃないのか?相手の目的とやらが」

 誠が気づいたようだ。
 皆が僕を見る。

「高橋グループ……太陽の騎士団の残骸が絡んでるんだろ?」

 なら目的なんて誰でもわかるだろ?
 僕達への復讐だ。
 だからどんな手段を取るのか分からないけど最終的には僕達に手を出してくるだろう。
 それを待ち構えておいた方が効率よくないか?

「片桐。お前本当はその手段もわかってるんじゃないのか?」
「だからそんな余裕でいられるんだろ?」

 丹下さんと椎名さんが言う。

「冬夜さん、本当なのですか?」

 愛莉が言うと頷いた。
 神谷十郎はわざわざ僕の前に姿を出して復讐を宣言した。
 その時から考えていた。
 そして似非SHの話を聞いた時に確信した。
 彼等は僕達をただ葬るだけじゃ気が済まないらしい。
 だから回りくどい手段を取った。
 SHをなぜ選んだのかは分からないけど、多分若者が集まると思ったのだろう。
 その名前を使ってSHにヘイトを集める。
 
「SHのせいで人生を谷底に突き落とされた」

 そんな感情を持った人間を増産したいんだろう。
 僕達に罪悪感をもたせたい。が多分彼等の目的だ。
 僕達に犯した罪の重さを思い知らせたい。
 償いようのない罪悪感を持たせたい。
 そして取り返しのつかない後悔を抱かせたうえで潰す。
 だから仮に渡辺班が、SHが潰しに行ったところで彼等の手助けをするだけ。
 勝手にやらせたらいい。
 彼等の恨みなんて知った事じゃない。
 今までだって同じだったろ?
 こっちには失業率を爆上げさせた人間を抱えているんだから。
 恵美さん達はいつも言ってる。

「そんな雑魚放っておけ」

 シチューが冷める方が重要なくらいだ。
 だから今回の件でそこまで慌てる必要がない。
 そんな事しても彼等の思い通りに事が運ぶだけ。
 好きにさせたらいい。
 ただし僕達に手を出して来たら倍にして返してやればいい。

「……多分考えるまでもないけど神谷十郎は太陽の騎士団の末裔か何かだ」

 地元に居場所が無くなって海外にとんずらして何があったか分からないけど神谷と接触した。
 そう考えると相手の全容が見えてくる。
 恵美さん達に調べてもらったのはもし相手が直接手を出してきた時に規模を把握しておく必要があったから。
 相手のやり口が見えている状態で待ち構えたら負ける事はまずない。
 その為にこっちから敢えて持ち札を見せない。
 好きにさせておいた方が相手もどう出たらいいか分からないだろう。
 そんなにらみ合いが続くような相手じゃない。
 絶対に何か仕掛けてくる。
 勝負はその時だ。

「片桐君に接触したのが運の尽きだったね」

 公生がそう言って笑う。

「しつこいやつらね。うじうじとうっとうしい」

 地獄に突き落とした張本人が言っている。

「つまり相手にしない。って事でいいのか?」

 渡辺君が言うと頷いた。

「子供は大丈夫なんですか?」

 水奈が聞いていた。

「この世界で一番危険なのは結を怒らせる事」

 まだそんなに難しい事を考えない年頃だ。
 あの子はSHや渡辺班が何をしたかなんて関係ない。
 その気になったら地球を破壊するよ。
 だから子供に手を出すなんて馬鹿な真似は絶対にしない。
 その証拠に秋久に仕掛けて失敗して一度も手を出してないだろ。
 何かもう少し策を練ってくるよ。

「大変な孫を持ったものですね」

 愛莉が溜息をつく。

「秋久もだけど陽葵も菫も怒らせなかったら素直な子だから……」

 翼がそう愛莉に言うけど愛莉は首を振る。

「冬夜さんの時もそうだったの。怒らせない。それが一番難しい事なの」

 大体結莉はともかく茉莉と菫はどうする?
 そう言うと天音と善明は笑っていた。

「お腹空いた」

 店に戻って来た結が空に言っていた。
 時間を見ると15時を回っていた。
 そろそろおやつの時間か。

「話もまとまったしそろそろ店を出ようか」

 そう言うと店を出る。
 地元の焼き肉屋で夕食を済ませて家に帰る。
 部屋に戻ろうとする茜を呼び止めた。

「昼間話した通りだからあまり無理に突き止めなくていい」

 茜はにやりと笑う。

「私達はね、そうまでして隠されると意地でも暴いてみたくなるの」
「誠にも言っておいたけど入り過ぎるなよ」
「分かってる」

 そう言って茜は部屋に戻った。
 風呂に入ってテレビを観た後愛莉とベッドに入る。

「じゃ、約束だから」
「冬夜さんは平気なんですか?」
「何が?」
「だって昼間の話では私達のやったことが原因みたいだから」
「所詮世の中弱肉強食」

 もちろんセーフティネットはあるけど、人生生き残りを賭けた競争だ。
 その競争を止めた時人類の発展は止まる。
 それに僕達がやったことが原因というけど、もとはと言えば渡辺班の名を騙った愚行が起因なんだ。
 僕達が悪いとか相手が悪いとか今さらどうでもいい。
 ただ僕達に手を出すなら容赦はしない。
 それだけの事。

「確かにそうですね」

 そう言って愛莉は抱き着いて来る。
 この世界で何人が罪を犯さずに生きられると言うのだろう。
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