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擬態
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(1)
「紗理奈おめでとう」
私は渡辺紗理奈の結婚披露宴に呼ばれていた。
大地と2人でお祝いの言葉をかける。
「サンキュー。次は待たせないからな」
「どういう意味だ?」
「子作りだよ!結莉達よりも強力なガキ産んでやるからな!」
「上等だ!大地!やっぱりもう一匹作るぞ!」
「子供ってそういうものじゃないだろ?」
大地が困っていた。
「でも真面目な話少しは2人でゆっくりしておいた方がいいぞ?」
「どうしてだ?」
「お前私や美穂や美砂見てないのか?」
妊娠が発覚した時から大騒動だぞ。
間違っても結婚式当日に作るものじゃないと言った。
「天音。お前はそういうところは学生の頃と変わってないな。新婚の2人にかける言葉じゃないだろ」
振り返ると高校の時の担任の朝倉瑛一がいた。
美穂の旦那だ。
「紗理奈で、最後だよね?」
美穂が言うと頷いた。
私の高校の時の同期は全員結婚したことになる。
「もちろん2次会来るよな」
「来るなって言われても行ってやるから心配するな」
「でも、紗理奈大丈夫?疲れてるんじゃないの?」
美穂が心配していた。
「天音の時に天音が言ってただろ?」
式の後は疲れて初夜なんてもんやってられるか。
だから今日は皆で騒ぐよ。
「おいおい、疲れてるのは紗理奈だけじゃないんだぞ?」
西松康介が悲鳴を上げていた。
「男の癖に何を情けない事言ってるの。女はその倍は疲れるんだからね」
康介の母親の深雪さんが言うと私の顔を見る。
「今日は片桐君は来てないの?」
「あとで紗理奈の父さんをねぎらう集まりがあるからそっちに顔を出すって言ってました」
「そう、分かった。ありがとうね」
そう言って他の客に挨拶をしていた。
「天音の父親ってなんか凄いんだな」
紗理奈が言う。
渡辺班のリーダーである紗理奈の父親も凄いと思うけど。
確かに県知事ですらパパを尊敬してるらしいから凄いのは確か見たいだ。
恵美さんも言っていたな。
「片桐君を怒らせたら4大企業に地元銀行まで全て敵に回すことになる」
そんなパパも愛莉には頭が上がらないみたいだけど。
パパと愛莉が理想の夫婦なんだって水奈の母さんも言ってたな。
「ああ、母さんはどこで選択を間違えたのかって悩んでいたよ」
水奈が言う。
今日は水奈一人で来たらしい。
子供の面倒は学が見てるそうだ。
さすがにそれは悪いから披露宴が終ったら帰ると水奈が言っていた。
なんだかんだいって水奈にも母親の自覚がついたようだ。
「姉さんおめでとう」
弟の正俊がやって来た。
父親そっくりの図体になったな……。
「何度言ってもダメなの」
彼女の小泉夏希が悩んでいた。
せめて自分の姉の披露宴くらい恥をかかせないようにして欲しい。
2次会は友達が集まるだろうから好きに食べて良い。
そう言ったことを夏希は2次会の会場で後悔していた。
ひたすら食べ続ける正俊を見て頭を悩ませていた。
「正俊!食ってばかりでないで飲め!」
遊が勧めている。
遊と粋と天はあのバカな歌を大声で歌っていた。
紗理奈達は爆笑している。
なずなや繭は困っている様だ。
繭はただでさえ身重なのに何を考えてるんだアイツは。
「お願いだから仕事の飲み会では絶対に止めてと言ってるのですが……」
繭は不安らしい。
社長が歌う歌じゃないよな……
「繭はどう?こんなところ着て大丈夫?」
「正直しんどいけど夫を見張る役目は疎かに出来ないし」
ましてや夫が天だ。
さぞ不安なんだろう。
2次会が終るとさすがに帰るだろうと思っていた。
しかし紗理奈は朝まで行くぞ!と盛り上がっている。
まあ、たまには気晴らしでもしないとやってられない。
そんな状況に追い込まれていた。
(2)
「渡辺君お疲れ様」
僕は渡辺君のコップにビールを注ぐ。
「ああ、やっと解放された気分だよ」
「まだ早いぞ!あの正俊が控えてるんだぞ!」
「正俊なら大丈夫だろ。立派になったし」
来年にでもプロポーズするんじゃないのか?
既に同棲してるんだから。
「立派になったのは図体だけだろ!!」
美嘉さんが頭を抱えていた。
「愛莉の子供は全然体型変らないな?」
「そうなのよ、それがどうしてなのか不思議で」
愛莉も悩むんだな。
そういや愛莉もウェストが大きくなってスカートが穿けなくなったって悩んでたな。
「一体どこまで片桐家は化け物染みてるのよ!」
亜依さんが叫んでいる。
「亜依……見逃した宝ほど貴重なものは無いっていうだろ?」
カンナが亜衣さんを慰める。
「くぅ……ただの食いしん坊だと侮っていたのが間違っていたのね」
「もっと言うなら愛莉と出会う前に力づくで口説いておくべきだったかもな……」
「神奈、ハズレひかされた者同士徹底的に飲むよ!」
「わかってる……こんなくそ亭主つかまされた後悔は忘れない」
「そ、そんな事言うなよ神奈。俺だって頑張ってるんだぜ?」
「亜依だって俺だって頑張って仕事してきたんだ……」
「五月蠅い!てめぇは育児を手伝うどころか子供の性格を捻じ曲げやがったじゃないか!どうするんだあれ!」
カンナは孫まで大変なことになってるらしい。
桐谷君にいたっては育児を全く手伝わずに中島君と地下アイドルの発掘を頑張ってたそうだ。
2人は愛莉に絡みだす。
「愛莉!お前どんだけ恵まれているのか分かってるのか!?ちょっと食いしん坊なだけで全然問題ないじゃないか!」
それに子供まで立派に育ってどういう事だ!?愛莉は苦労した事あるのか!?とカンナが言う。
「それよそれ!片桐家ってだけで優遇され過ぎでしょ!どうなってんのよ!」
亜依さんまで愛莉に絡みだした。
しかし愛莉も悩みがあったみたいだ。
「空は昔の冬夜さんそっくりだし、天音は毎日の様に問題起こすし、茜は家では相変わらずだし、冬莉も元に戻ったし……」
「結構あるんだな」
「で、まだほかにあるの?」
亜依さんが聞いていた。
そして聞いてしまったことをすぐに後悔する。
「娘たちが冬夜さんを誘惑するの。でも冬夜さんは娘の気持ちも考えないで”愛莉が一番だから”って全然娘に興味を示さないの……えへへ~」
「……亜依、飲もう」
「そうだね、神奈」
そんな2人を不思議そうに見ている愛莉。
愛莉はもう50過ぎてるのに相変わらず綺麗だ。
体の衰えも全く知らない。
僕が不思議に思うくらいだ。
「ああ、冬夜。盛り上がるのは良いんだけど」
「どうしたの?」
渡辺君は何かあるみたいだ。
「……先に片づけておかないか?」
何をとは聞かなかった。
あの件だろう。
「こういう席で話す内容じゃないと思ったんだけどね」
「気になって騒げないだろ」
「そうね、先に厄介事を片付けておきましょう」
恵美さんも言うので話題を変えることにした。
「で、何かわかったの?」
「それが不気味なのよ」
恵美さんが言った。
神谷を調べるのは手こずってる反面似非SHに関してはどうぞ持って行ってくださいと言わんばかりにガードが甘い。
だが規模だけはかなりでかくなっている。
規模がデカいからワイドショーでその犯行が取りざたされるようになった。
「わざと目立たせて世間の目をSHに向けているって事か?」
誠が言うけど多分そうじゃないだろう。
「それより神谷の方は?」
僕が聞くと誠と恵美さんは首を振った。
「手掛かりすらつかめない」
似非SHの末端にまこりん21を送り込んで引きずり出そうとしたけど無理だったそうだ。
戸籍のない人間だからしょうがないだろう。
今までの様に神谷のスマホを特定して個人情報を抜き取るという真似が出来ない。
神谷十郎の存在が擬態みたいなものなのだから。
これ以上神谷十郎を洗おうとしても無駄だろう。
ならどうする?
「おい、トーヤ。さっきから何考えこんでるんだ?」
「神奈。今そっとしておいて。冬夜さんは今入ってるから」
愛莉が止めてくれた。
愛莉か……。
愛莉をじっと見て考える。
何か見落としてないか?
自分の記憶をたどっていく……。
するとある事を思いだした。
「分かったよ。友恵」
感じからして十郎の奥さんか誰かだ。
組織が大きくなるほど表面くらいは隠せなくなる。
もしかしたら何かの糸口かもしれない。
僕は恵美さんの顔を見る。
「恵美さんと誠。プランを変えよう」
「どういう事?」
恵美さんが言うと指示を出す。
「神谷十郎は戸籍がないから個人情報が掴めない。そうだね?」
「ええ、データがないからどうしようもない」
「だから調べる対象を変えよう。神谷友恵という人間を探って欲しい」
「誰よそれ?」
「多分十郎の妻」
十郎は日本にいられなくなって上海に逃亡した両親が亡くなった。
だから神谷という姓とあまり関係ないかもしれない。
となると次に調べるとしたら友恵の方だ。
神谷本体については分からないかもしれない。
しかし神谷友恵という人間が存在するのなら何かしら引っかかるかもしれない。
根拠はある。
結の同級生の神谷佳織。
彼女が真っ当に幼稚園に通ってるなら絶対に何かしらのデータが見つかるはず。
本体の中味が分からないならまずは外側を見つける事。
神谷が属する組織が分かればいくらか調べる糸口を見つけられるかもしれない。
怖いのは相手の強さでも規模の大きさでもなくて、相手の正体が分からない事。
相手は僕達の事を調べつくしている。
相手がどうでもいい事に夢中になってる間にそれを調べたい。
「でも友恵って人間も戸籍が無いかもしれないわよ」
恵美さんが聞いたけど僕は首を振った。
日本の幼稚園に子供を通わせているんだ。
神谷の名前が偽造かもしれないけど絶対に何かしら個人情報が管理されてるはず。
じゃないと幼稚園に通わせるなんて無理な話だろ?
きっかけが見つからないなら作り出せばいい。
テレビでやってた。
亀裂が無くてよじ登れない時は無理矢理穴を岩に開けてそこに手を引っかけて上ると。
それでダメでもまだ手はある。
「まだあるの?」
晶さんが聞くと答えた。
テレビで報道されるほどに派手に暴れたんだ。
地元でそんな馬鹿がいたら必ずSHなり渡辺班が潰しにかかる。
同じ事が東京でも言えるんじゃないの?
そろそろ東京を牛耳る裏社会が何かしら反応を示すはず。
それを手掛かりに掴んでいけばいい。
今やる事は相手を知る事じゃないだろう。
相手がどんなものなのかを確認する事。
しかもできれば相手にその事を気取られないようにしたい。
奴らは東京を拠点にした。
だけど標的はこの地元だ。
地元が舞台なら誠たちならそこまでエリアを限定すれば可能だろ?
「そういう事なら任せとけ。とりあえず相手を知ればいいんだな」
「片桐君の言う通りね。最終的な目的が私達なら何かしら侵入してくる」
「そしてそれを見逃すほど私達は間抜けじゃない」
誠と恵美さんと晶さんが頷く。
「一つの事に拘らずにあらゆる状況の変化に対応する。相変わらず指揮官様は発想の転換が上手いね」
「でも片桐さん。一つだけ疑問があるんですけど」
公生が言ってなるが聞いてきた。
大体奈留の言いたい事は分かる。
「そんな表に目立った似非SHが使い物になるか?だろ?」
「ええ……いくら規模をでかくしようとそんな組織が役に立つのか不思議で……」
「役には立ってるよ」
「え?」
奈留は気づかなかったみたいだ。
前に言ったはず、彼等の目的はSHにヘイトを溜める事。
だから彼等にそこまで力が無くてもいい。
そのSHに対抗する組織がリベリオン。
SHの反逆をうたう組織。
「て、事は似非SHは捨て駒か」
「だろうね」
渡辺君が聞くと僕は頷いた。
神谷十郎はミスを犯した。
それは直々に僕に接触した事。
手の出しようが無かった時にわざわざ糸口を作ってくれた。
後はそこから引きずり出していけばいい。
「じゃ、今できる事はそれくらいだから」
後は渡辺君を弄って盛り上がろう。
「そうだな。渡辺君も色々思うところがあるだろう」
「だけど孫って楽しみもあるんだぜ」
「俺は少しは休憩したいんだけどな」
「正志、それは諦めろ。紗理奈の奴天音よりも強力なガキ製造するって息巻いてるぞ」
誠と桐谷君と渡辺君が言うと、美嘉さんがそう言って笑った。
「それが悩みなんだ。あいつ育児をしながら店やっていけるのか?」
「私が出来たんだから問題ねーよ」
「問題だらけの娘になったじゃないか」
「犯罪犯してないんだから問題ねーって」
そんな感じで渡辺君を労いながら夜は盛り上がっていた。
(3)
「あんたの言う通りやってるけど、他のグループに目をつけられている。大丈夫なのか?」
「心配するな。全部計算済みだ」
俺は目の前の男に似非SHのリーダーを任せていた。
期待通りにSHはでかくなっていた。
関東エリアから次のエリアに拡大してもいい頃だと思っていた。
しかしそれだけ派手に目立てば当然他のグループから目をつけられる。
敵もかなり作ったみたいだ。
それも計算通り。
何も心配する事はない。
これまで通り活動を続けるだけでいい。
この男は実に理想的な男だった。
言われた事を忠実にこなす。
しかし自分では判断が出来ない。
それでいい。
判断させる必要がない。
まさに理想の人材だった。
話を終えると俺達は店を出て男と別れる。
「……替えは用意してるの?」
「当たり前だ」
日本には野心もなくただ忠実に命令を実行する人間なんていくらでもいる。
それ以上の能力をもつ人間もいるけどそんな奴は必要ない。
飼い犬のような人間が望ましい。
「せっかくだからもう一件くらいよって行かない?」
友恵にとってもこんなくだらない事だけの為に東京に来たわけじゃない。
「悪いけどそれは無理の様だ」
俺が言うと友恵も察したようだ。
俺達は無言で路地裏の中に誘い込む。
どこまでも間抜けな奴だ。
簡単に姿を現した。
生ゴミだらけのネズミがいないだけの路地裏。
こんな世界で俺達は生き抜いてきたんだ。
「何の用だ?」
俺が聞くと男は答える。
「あまりよそ者がデカい面されるとこっちが困るんだよ」
そう言って一人は銃口をこっちに向けもう一人は仕込み刀を持っていた。
たった2人か。
「お前らだけか?」
「……下手な真似はするなよ?お前らはここで死んでいくんだ」
「それは俺達なのか?」
「なんだと」
銃を俺に向けた男が首を傾げた瞬間だった。
友恵は素早く銃を抜いて銃を持った男を目掛けて発砲する。
男は倒れた。
こっちが反撃するのが想定外だったのだろう。
しかし刀を持った男は俺達に背を向けて逃走する。
間抜けな奴だ。
友恵は容赦なく2発目を離す。
男の足を撃ち抜いた。
男は倒れて撃たれた足を抑えて悶えている。
そんな男に近づいて見下ろす。
「お前らがどこの鉄砲玉かは興味ない。ただ一言だけ伝えておけ」
くたばれ。
そう言い残して俺達は立ち去った。
「順調みたいね」
友恵が言う。
「まだ、序盤だ。油断は禁物だよ」
「そうね。しっかり基盤を作らないと」
友恵が言う。
俺達が表に立つのは最後だけでいい。
片桐冬夜が這いつくばっている時に同じように見下ろしてやる。
とどめの一撃は俺の物だ。
誰にも譲るつもりはなかった。
精々足掻いてろ。
そんな事を考えながら俺達はホテルに戻った。
「紗理奈おめでとう」
私は渡辺紗理奈の結婚披露宴に呼ばれていた。
大地と2人でお祝いの言葉をかける。
「サンキュー。次は待たせないからな」
「どういう意味だ?」
「子作りだよ!結莉達よりも強力なガキ産んでやるからな!」
「上等だ!大地!やっぱりもう一匹作るぞ!」
「子供ってそういうものじゃないだろ?」
大地が困っていた。
「でも真面目な話少しは2人でゆっくりしておいた方がいいぞ?」
「どうしてだ?」
「お前私や美穂や美砂見てないのか?」
妊娠が発覚した時から大騒動だぞ。
間違っても結婚式当日に作るものじゃないと言った。
「天音。お前はそういうところは学生の頃と変わってないな。新婚の2人にかける言葉じゃないだろ」
振り返ると高校の時の担任の朝倉瑛一がいた。
美穂の旦那だ。
「紗理奈で、最後だよね?」
美穂が言うと頷いた。
私の高校の時の同期は全員結婚したことになる。
「もちろん2次会来るよな」
「来るなって言われても行ってやるから心配するな」
「でも、紗理奈大丈夫?疲れてるんじゃないの?」
美穂が心配していた。
「天音の時に天音が言ってただろ?」
式の後は疲れて初夜なんてもんやってられるか。
だから今日は皆で騒ぐよ。
「おいおい、疲れてるのは紗理奈だけじゃないんだぞ?」
西松康介が悲鳴を上げていた。
「男の癖に何を情けない事言ってるの。女はその倍は疲れるんだからね」
康介の母親の深雪さんが言うと私の顔を見る。
「今日は片桐君は来てないの?」
「あとで紗理奈の父さんをねぎらう集まりがあるからそっちに顔を出すって言ってました」
「そう、分かった。ありがとうね」
そう言って他の客に挨拶をしていた。
「天音の父親ってなんか凄いんだな」
紗理奈が言う。
渡辺班のリーダーである紗理奈の父親も凄いと思うけど。
確かに県知事ですらパパを尊敬してるらしいから凄いのは確か見たいだ。
恵美さんも言っていたな。
「片桐君を怒らせたら4大企業に地元銀行まで全て敵に回すことになる」
そんなパパも愛莉には頭が上がらないみたいだけど。
パパと愛莉が理想の夫婦なんだって水奈の母さんも言ってたな。
「ああ、母さんはどこで選択を間違えたのかって悩んでいたよ」
水奈が言う。
今日は水奈一人で来たらしい。
子供の面倒は学が見てるそうだ。
さすがにそれは悪いから披露宴が終ったら帰ると水奈が言っていた。
なんだかんだいって水奈にも母親の自覚がついたようだ。
「姉さんおめでとう」
弟の正俊がやって来た。
父親そっくりの図体になったな……。
「何度言ってもダメなの」
彼女の小泉夏希が悩んでいた。
せめて自分の姉の披露宴くらい恥をかかせないようにして欲しい。
2次会は友達が集まるだろうから好きに食べて良い。
そう言ったことを夏希は2次会の会場で後悔していた。
ひたすら食べ続ける正俊を見て頭を悩ませていた。
「正俊!食ってばかりでないで飲め!」
遊が勧めている。
遊と粋と天はあのバカな歌を大声で歌っていた。
紗理奈達は爆笑している。
なずなや繭は困っている様だ。
繭はただでさえ身重なのに何を考えてるんだアイツは。
「お願いだから仕事の飲み会では絶対に止めてと言ってるのですが……」
繭は不安らしい。
社長が歌う歌じゃないよな……
「繭はどう?こんなところ着て大丈夫?」
「正直しんどいけど夫を見張る役目は疎かに出来ないし」
ましてや夫が天だ。
さぞ不安なんだろう。
2次会が終るとさすがに帰るだろうと思っていた。
しかし紗理奈は朝まで行くぞ!と盛り上がっている。
まあ、たまには気晴らしでもしないとやってられない。
そんな状況に追い込まれていた。
(2)
「渡辺君お疲れ様」
僕は渡辺君のコップにビールを注ぐ。
「ああ、やっと解放された気分だよ」
「まだ早いぞ!あの正俊が控えてるんだぞ!」
「正俊なら大丈夫だろ。立派になったし」
来年にでもプロポーズするんじゃないのか?
既に同棲してるんだから。
「立派になったのは図体だけだろ!!」
美嘉さんが頭を抱えていた。
「愛莉の子供は全然体型変らないな?」
「そうなのよ、それがどうしてなのか不思議で」
愛莉も悩むんだな。
そういや愛莉もウェストが大きくなってスカートが穿けなくなったって悩んでたな。
「一体どこまで片桐家は化け物染みてるのよ!」
亜依さんが叫んでいる。
「亜依……見逃した宝ほど貴重なものは無いっていうだろ?」
カンナが亜衣さんを慰める。
「くぅ……ただの食いしん坊だと侮っていたのが間違っていたのね」
「もっと言うなら愛莉と出会う前に力づくで口説いておくべきだったかもな……」
「神奈、ハズレひかされた者同士徹底的に飲むよ!」
「わかってる……こんなくそ亭主つかまされた後悔は忘れない」
「そ、そんな事言うなよ神奈。俺だって頑張ってるんだぜ?」
「亜依だって俺だって頑張って仕事してきたんだ……」
「五月蠅い!てめぇは育児を手伝うどころか子供の性格を捻じ曲げやがったじゃないか!どうするんだあれ!」
カンナは孫まで大変なことになってるらしい。
桐谷君にいたっては育児を全く手伝わずに中島君と地下アイドルの発掘を頑張ってたそうだ。
2人は愛莉に絡みだす。
「愛莉!お前どんだけ恵まれているのか分かってるのか!?ちょっと食いしん坊なだけで全然問題ないじゃないか!」
それに子供まで立派に育ってどういう事だ!?愛莉は苦労した事あるのか!?とカンナが言う。
「それよそれ!片桐家ってだけで優遇され過ぎでしょ!どうなってんのよ!」
亜依さんまで愛莉に絡みだした。
しかし愛莉も悩みがあったみたいだ。
「空は昔の冬夜さんそっくりだし、天音は毎日の様に問題起こすし、茜は家では相変わらずだし、冬莉も元に戻ったし……」
「結構あるんだな」
「で、まだほかにあるの?」
亜依さんが聞いていた。
そして聞いてしまったことをすぐに後悔する。
「娘たちが冬夜さんを誘惑するの。でも冬夜さんは娘の気持ちも考えないで”愛莉が一番だから”って全然娘に興味を示さないの……えへへ~」
「……亜依、飲もう」
「そうだね、神奈」
そんな2人を不思議そうに見ている愛莉。
愛莉はもう50過ぎてるのに相変わらず綺麗だ。
体の衰えも全く知らない。
僕が不思議に思うくらいだ。
「ああ、冬夜。盛り上がるのは良いんだけど」
「どうしたの?」
渡辺君は何かあるみたいだ。
「……先に片づけておかないか?」
何をとは聞かなかった。
あの件だろう。
「こういう席で話す内容じゃないと思ったんだけどね」
「気になって騒げないだろ」
「そうね、先に厄介事を片付けておきましょう」
恵美さんも言うので話題を変えることにした。
「で、何かわかったの?」
「それが不気味なのよ」
恵美さんが言った。
神谷を調べるのは手こずってる反面似非SHに関してはどうぞ持って行ってくださいと言わんばかりにガードが甘い。
だが規模だけはかなりでかくなっている。
規模がデカいからワイドショーでその犯行が取りざたされるようになった。
「わざと目立たせて世間の目をSHに向けているって事か?」
誠が言うけど多分そうじゃないだろう。
「それより神谷の方は?」
僕が聞くと誠と恵美さんは首を振った。
「手掛かりすらつかめない」
似非SHの末端にまこりん21を送り込んで引きずり出そうとしたけど無理だったそうだ。
戸籍のない人間だからしょうがないだろう。
今までの様に神谷のスマホを特定して個人情報を抜き取るという真似が出来ない。
神谷十郎の存在が擬態みたいなものなのだから。
これ以上神谷十郎を洗おうとしても無駄だろう。
ならどうする?
「おい、トーヤ。さっきから何考えこんでるんだ?」
「神奈。今そっとしておいて。冬夜さんは今入ってるから」
愛莉が止めてくれた。
愛莉か……。
愛莉をじっと見て考える。
何か見落としてないか?
自分の記憶をたどっていく……。
するとある事を思いだした。
「分かったよ。友恵」
感じからして十郎の奥さんか誰かだ。
組織が大きくなるほど表面くらいは隠せなくなる。
もしかしたら何かの糸口かもしれない。
僕は恵美さんの顔を見る。
「恵美さんと誠。プランを変えよう」
「どういう事?」
恵美さんが言うと指示を出す。
「神谷十郎は戸籍がないから個人情報が掴めない。そうだね?」
「ええ、データがないからどうしようもない」
「だから調べる対象を変えよう。神谷友恵という人間を探って欲しい」
「誰よそれ?」
「多分十郎の妻」
十郎は日本にいられなくなって上海に逃亡した両親が亡くなった。
だから神谷という姓とあまり関係ないかもしれない。
となると次に調べるとしたら友恵の方だ。
神谷本体については分からないかもしれない。
しかし神谷友恵という人間が存在するのなら何かしら引っかかるかもしれない。
根拠はある。
結の同級生の神谷佳織。
彼女が真っ当に幼稚園に通ってるなら絶対に何かしらのデータが見つかるはず。
本体の中味が分からないならまずは外側を見つける事。
神谷が属する組織が分かればいくらか調べる糸口を見つけられるかもしれない。
怖いのは相手の強さでも規模の大きさでもなくて、相手の正体が分からない事。
相手は僕達の事を調べつくしている。
相手がどうでもいい事に夢中になってる間にそれを調べたい。
「でも友恵って人間も戸籍が無いかもしれないわよ」
恵美さんが聞いたけど僕は首を振った。
日本の幼稚園に子供を通わせているんだ。
神谷の名前が偽造かもしれないけど絶対に何かしら個人情報が管理されてるはず。
じゃないと幼稚園に通わせるなんて無理な話だろ?
きっかけが見つからないなら作り出せばいい。
テレビでやってた。
亀裂が無くてよじ登れない時は無理矢理穴を岩に開けてそこに手を引っかけて上ると。
それでダメでもまだ手はある。
「まだあるの?」
晶さんが聞くと答えた。
テレビで報道されるほどに派手に暴れたんだ。
地元でそんな馬鹿がいたら必ずSHなり渡辺班が潰しにかかる。
同じ事が東京でも言えるんじゃないの?
そろそろ東京を牛耳る裏社会が何かしら反応を示すはず。
それを手掛かりに掴んでいけばいい。
今やる事は相手を知る事じゃないだろう。
相手がどんなものなのかを確認する事。
しかもできれば相手にその事を気取られないようにしたい。
奴らは東京を拠点にした。
だけど標的はこの地元だ。
地元が舞台なら誠たちならそこまでエリアを限定すれば可能だろ?
「そういう事なら任せとけ。とりあえず相手を知ればいいんだな」
「片桐君の言う通りね。最終的な目的が私達なら何かしら侵入してくる」
「そしてそれを見逃すほど私達は間抜けじゃない」
誠と恵美さんと晶さんが頷く。
「一つの事に拘らずにあらゆる状況の変化に対応する。相変わらず指揮官様は発想の転換が上手いね」
「でも片桐さん。一つだけ疑問があるんですけど」
公生が言ってなるが聞いてきた。
大体奈留の言いたい事は分かる。
「そんな表に目立った似非SHが使い物になるか?だろ?」
「ええ……いくら規模をでかくしようとそんな組織が役に立つのか不思議で……」
「役には立ってるよ」
「え?」
奈留は気づかなかったみたいだ。
前に言ったはず、彼等の目的はSHにヘイトを溜める事。
だから彼等にそこまで力が無くてもいい。
そのSHに対抗する組織がリベリオン。
SHの反逆をうたう組織。
「て、事は似非SHは捨て駒か」
「だろうね」
渡辺君が聞くと僕は頷いた。
神谷十郎はミスを犯した。
それは直々に僕に接触した事。
手の出しようが無かった時にわざわざ糸口を作ってくれた。
後はそこから引きずり出していけばいい。
「じゃ、今できる事はそれくらいだから」
後は渡辺君を弄って盛り上がろう。
「そうだな。渡辺君も色々思うところがあるだろう」
「だけど孫って楽しみもあるんだぜ」
「俺は少しは休憩したいんだけどな」
「正志、それは諦めろ。紗理奈の奴天音よりも強力なガキ製造するって息巻いてるぞ」
誠と桐谷君と渡辺君が言うと、美嘉さんがそう言って笑った。
「それが悩みなんだ。あいつ育児をしながら店やっていけるのか?」
「私が出来たんだから問題ねーよ」
「問題だらけの娘になったじゃないか」
「犯罪犯してないんだから問題ねーって」
そんな感じで渡辺君を労いながら夜は盛り上がっていた。
(3)
「あんたの言う通りやってるけど、他のグループに目をつけられている。大丈夫なのか?」
「心配するな。全部計算済みだ」
俺は目の前の男に似非SHのリーダーを任せていた。
期待通りにSHはでかくなっていた。
関東エリアから次のエリアに拡大してもいい頃だと思っていた。
しかしそれだけ派手に目立てば当然他のグループから目をつけられる。
敵もかなり作ったみたいだ。
それも計算通り。
何も心配する事はない。
これまで通り活動を続けるだけでいい。
この男は実に理想的な男だった。
言われた事を忠実にこなす。
しかし自分では判断が出来ない。
それでいい。
判断させる必要がない。
まさに理想の人材だった。
話を終えると俺達は店を出て男と別れる。
「……替えは用意してるの?」
「当たり前だ」
日本には野心もなくただ忠実に命令を実行する人間なんていくらでもいる。
それ以上の能力をもつ人間もいるけどそんな奴は必要ない。
飼い犬のような人間が望ましい。
「せっかくだからもう一件くらいよって行かない?」
友恵にとってもこんなくだらない事だけの為に東京に来たわけじゃない。
「悪いけどそれは無理の様だ」
俺が言うと友恵も察したようだ。
俺達は無言で路地裏の中に誘い込む。
どこまでも間抜けな奴だ。
簡単に姿を現した。
生ゴミだらけのネズミがいないだけの路地裏。
こんな世界で俺達は生き抜いてきたんだ。
「何の用だ?」
俺が聞くと男は答える。
「あまりよそ者がデカい面されるとこっちが困るんだよ」
そう言って一人は銃口をこっちに向けもう一人は仕込み刀を持っていた。
たった2人か。
「お前らだけか?」
「……下手な真似はするなよ?お前らはここで死んでいくんだ」
「それは俺達なのか?」
「なんだと」
銃を俺に向けた男が首を傾げた瞬間だった。
友恵は素早く銃を抜いて銃を持った男を目掛けて発砲する。
男は倒れた。
こっちが反撃するのが想定外だったのだろう。
しかし刀を持った男は俺達に背を向けて逃走する。
間抜けな奴だ。
友恵は容赦なく2発目を離す。
男の足を撃ち抜いた。
男は倒れて撃たれた足を抑えて悶えている。
そんな男に近づいて見下ろす。
「お前らがどこの鉄砲玉かは興味ない。ただ一言だけ伝えておけ」
くたばれ。
そう言い残して俺達は立ち去った。
「順調みたいね」
友恵が言う。
「まだ、序盤だ。油断は禁物だよ」
「そうね。しっかり基盤を作らないと」
友恵が言う。
俺達が表に立つのは最後だけでいい。
片桐冬夜が這いつくばっている時に同じように見下ろしてやる。
とどめの一撃は俺の物だ。
誰にも譲るつもりはなかった。
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