姉妹チート

和希

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来日

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(1)

「じゃあ行ってきまーす」
「しっかりお勤め果たしてきなさい」
「ママも天使とダンスとでもしてな!」
「じゃあ、今日はワルツではなくタンゴでも踊ろうかな」

 そういってママが見送ってくれる。
 陽葵と秋久と一緒に幼稚園に向かう。
 しかし本当に退屈な幼稚園生活だった。
 1年の頃は髪の色や目の色で揶揄ってくるエサがいたけど、今は学校中で恐れられている。
 生を司る紫陽花の姫君と死を司る菫の姫君。
 そんな異名がついていた。
 単に目の色で区別したんだろう。
 私たちが微笑むと悲惨な結末が待っている。
 私たちの通う幼稚園の園児は皆が知っていた。
 だから私たちに手を出してくる奴は誰一人いない。
 ただ一人、石原茉莉を覗いて。
 茉莉はママの妹の天音の娘。
 私と互角にやりあえる数少ない人物。
 もっとも秋久や結には到底かなわない。
 普段は情けない秋久だけどその気にさせると私なんかよりずっと強い。
 ママが言うには”片桐家の息子はそう言う設定になっているの”という事だ。
 常にやる気だと死人が出てもおかしくない秋久と結。
 パパはとても強くて優しい人。
 怒らせるとすごく怖い。
 片桐家の男子は怒らせるとリミッターが外れて限界以上の力を簡単に出す。
 だからその彼女は絶対的に安全だけど制御してやらないといけない。
 私達の弟の秋久も幼稚園児ではありえない力を出す。
 その力を隠し持っているのが怖いところだとパパが言ってた。
 そんな秋久にも彼女が出来た。
 一緒にいる時間は大人しく2人で何かしている。
 仲睦まじいというやつだろう。

「私たちもいい加減彼氏くらい作るべきなのかな~」
「それ難しいんじゃない?」

 陽葵はそう言った。
 確かに悪評ばかりが広まっている幼稚園で探すのは大変かもしれない。
 私たちに媚を売るような情けない奴に興味ないし、一発殴っただけで泣き出す弱っちいのと付き合うのも嫌だ。
 理想がパパだから難しい。
 そんな話をしながら幼稚園に行って茉莉達と会う。
 
「よう、まさか腕がなまったとか言わねーだろうな」
「お前こそ言い訳するんじゃねーぞ」

 そう言って私と茉莉はいつものように喧嘩を始める。
 しかし今日は何か違う。
 みんながざわついていた。

「菫、あれ……」

 陽葵が言うので茉莉といったん止めてそれを見る。
 銀髪ってだけで外人というのは偏見だと思うけど気になった。
 一人はロングストレートの女の子、もう一人はボブカットの男の子。
 男の子がカミル・ヴォルフで女の子がカミラと、保母さんが紹介した。

「今日からみんなと一緒に学校生活に送ることになりました。二人とも日本語は十分うまいから仲良くしてあげてね」
「二人はどこから来たんだい?」

 秋久が質問していた。
 まあ、気にはなっていたのでいいや。

「ベルリンです」

 ドイツからか。

「どうして日本に?」
「家庭の事情です」

 さすがに秋久もそれ以上は聞かなった。

「じゃあ、みんな仲良く遊んでてね」

 保母さんが言うと2人は私達のところに来た。
 その瞬間私と陽葵は身構える。

「どうしたの?」

 意外とかわいい声をしている。
 それがかえって警戒感を高めていた。
 陽葵は当然だけど私もずっと警戒していた。
 この二人は危険だ。
 その証拠に私たちに常に殺気をぶつけている。
 いつでも刈り取ってやる。
 そんな状態だった。
 何気ない退屈な暮らしはもう終わったようだ。
 茉莉達と相談もしていた。
 そんな私たちに二人はお構いなしに近づいてきた。

「どうかしたの?」
「いえ、日本人にしては髪の色がめずらしいからあなた達なら大丈夫かなと思って」

 ちなみに揶揄った奴は茉莉と片っ端から殴り飛ばした。

「そういう偏見は持ってる人達じゃないから大丈夫だよ」

 茉奈が自己紹介をして握手を求めようとすると結がそれを制した。
 カミラは結を見る。

「回りくどい事は嫌いなんだ。お前ら何が目的だ?」
「だから友達くらい作っておきたいなと思って」
「結、この人達悪意はないよ」

 茉奈が言うと結はそれ以上追求しなかった。
 もちろん完全に警戒していたけど。

「まあ、この見た目だから友達っていうの?作りづらいから、二人に友達になってほしくて……」

 そういってカミルが手を差し出した。
 握手しろっていうのか。

「……わかった。よろしくね」

 陽葵は何か企んでいるようだ。
 カミルと握手しようとした時だった。

「保母さん来たよ!」

 カミラが言うと素早く手を引っ込める。
 その時しっかり聞こえた。
 陽葵が舌打ちする音が。
 その後は何事もないように給食や昼休みを一緒に過ごしていた。
 そして幼稚園が終わると家に帰る。

「私たち方向が違うから。また明日ね」

 そう言って、二人は別方向に帰っていった。
 家に帰って部屋で相談していた。
 まずはあの握手の件だ。
 する前に陽葵はにやりと笑っていた。
 何かを企んでいたのだろう。
 そしてそのたくらみは失敗した。
 多分カミラが感づいたのだろう。
 だから陽葵の説明を聞くことにした。

「あの二人両方かカミルだけなのかわからないけど何か能力を隠し持ってる」

 私たちにあいさつ代わりに何か仕掛けるつもりだったのだろう。
 それに陽葵が応じたのは聞かなくてもわかる。
 陽葵の能力は”貪欲”
 相手の能力を察した時点で陽葵は能力を奪い取ることができる。
 しかしカミラはそれに気づいたのかわからないけどカミルを止めた。
 陽葵の能力は先に気づかれたら使いにくい。
 能力を見せるチャンスは一度しかないから。
 そのチャンスまで常に隠し持つことになる。
 相手の手札を封じることはできるけど、どうせなら奪い取って使えない状態にしたかった。
 そして二人で間違いなく確認したこと。
 あの二人は私達を敵視していた。
 二人が尋常じゃない訓練を受けていることくらいはわかる。
 多分そういう経験値も私達よりはるかに高いだろう。

「おもしろくなってきたね」

 私が言う。

「あとは相手の正体を突き止めたい」

 いきなりドンパチは馬鹿がやることだとパパが言ってた。
 まずは相手の情報を集めることから戦いは始まる。
 それで相手の出方を確かめてそれを一手ずつ封じていけばいい。
 多分あの様子だと私たちのことは暴かれているのだろう。
 いきなり殴り飛ばしていい相手じゃない。
 しかし、いきなり行き詰った。

「ごめん、その二人が入国した痕跡すらなかった」

 どんなルートで入ったのだろうかわからないだろうけど、小学校に入れたということは間違いなく住民票くらいはあるはず。
 情報も小学校のサーバーに入り込めばすぐにわかるだろう。
 確かにその素性は確かにあった。
 しかし入国した情報は一切ない。
 念のためドイツから引きずり出そうとしたけどそれも無理だった。
 実の両親はいないそうだ。
 そして一つだけたどり着いた情報。
 
「二人の親権を持っているのは神谷十郎」

 ママから借りたスマホで茜のメッセージを見て敵はリベリオンだとはっきりした。

「ただし二人に生半可に手を出したらダメ。誠さん達も言ってる。あいつらただものじゃない」

 茜のメッセージを見て驚いた。
 本当に経験値はかなりのものだった。
 ヘンゼルとグレーテル。
 それが二人のコードネーム。
 ただの日本のチンピラなんか比較にならないくらいのプロ。
 ただ、仕事と趣味を混同することがあるそうだ。

「陽葵達、夕食できたよ」

 ママが言うと私たちは部屋を出る。
 パパはすでに帰ってきていた。

「食事の前に片づけておこう」

 パパが言う。
 きっとカミル達の件だろう。

「子供の喧嘩じゃない、やり合うのは一度だけのつもりでやりなさい」

 無理に二人で戦おうとせずに秋久を頼りなさい。
 能力戦なら秋久の方が上手にやるだろうから。 
 パパはそういった。
 食事が終わると風呂に入って部屋に戻る。

「今年は少しは面白くなりそうね」

 陽葵が言う。
 少しは骨のあるやつが現れたみたいだ。
 退屈させるなよ。

(2)

「どうだった?」

 僕たちの親代わりの神谷十郎が聞いてきた。

「危なかった」

 カミラが止めなかったら間違いなく陽葵の罠にはまっていただろう。
 能力を奪い取る能力を持っているのはわかっていた。
 事前に説明を受けた容姿をしていたのは菫と陽葵だけ。
 だからどちらかだろうと判断した。
 しかしそこからがミスだった。
 あいさつ代わりに脅してやろうと思ったけど、挑発に乗ったように思わせて僕と握手しようとする。
 その時に陽葵がにやりと笑うのをカミラが見逃さなかった。
 多分使い手と能力を把握した時に奪い取れるとかそんな様子なんだろう。
 その証拠に僕が手を引っ込めた時、あからさまに舌打ちしていた。

「一筋縄じゃ行かない」

 どれだけ訓練を積んでいるのかわからないけど、殺気をぶつけたら彼女たちは確実に感じ取っていた。
 武器が使えない幼稚園では仕掛けるのは難しいかもしれない。
 十郎の話だと藤原心音や桐谷茉奈を人質という手もあまり有効だとは思えない。
 あの二人を孤立させてなおかつ確実に仕留めるだけの力がいる。
 二人とも先に能力を発動させるような真似はしないだろう。
 能力を使わない戦闘なら私たちに分があるかもしれないが確実ではない。

「あとどれだけ呼ぶつもりなんですか?」

 カミラが十郎に聞いていた。

「もうすぐ次が到着する頃だ」

 十郎がそういうと装甲車がやってきた。
 乗っているのは石原家や酒井家の者じゃない。
 十郎の手引きした兵隊だ。
 その後に高級車が止まった。
 出てきたのは金髪の背の高い女性。
 暗くてよくわからないけど額にあざのある女性はグラサンをしていた。

「お前が神谷十郎か?」

 女性が十郎に尋ねると十郎はにやりと笑った。
 
「そうだよ、ようこそ日本へ。ヤーナ・アレンスキー」
「……挨拶抜きで話をしよう。我々の標的は誰だ?」
「……片桐冬夜」
「ほう?何者なんだそいつは?」
「日本バスケット界では神と称されている選手。今は税理士事務所の社長」
「……能書きはいい。さっさと説明しろ」
「地元の裏社会を荒らしている子悪党だよ」
「そんな子悪党相手に我々を呼び出したのか?」

 ヤーナが怪訝そうにする。
 しかし十郎は説明する。


「たかが子悪党……だけどそう侮ってやられた躯で山が築けるほどだよ」
「心配するな、上からの依頼でもある。報酬分の仕事はするさ」
「段取りはこちらでするか?」
「いや、結構。まずは観光でもしながらこっちで情報をまとめる。仕掛ける時はまた連絡する」
「油断するなよ?ロシアの猟犬」
「その名前が飾りじゃないって事くらいは教えてやるつもりだ」

 そう言ってヤーナは車に乗り込んで去っていった。

「じゃあ、そろそろ俺たちも帰ろうか。あんまり夜遅いとブギーマンに狙われるからな」

 十郎がそう言ってにやりと笑うと僕たちも車に乗って家に帰った。
 どんなショーを見せてやろうかカミラと相談していた。
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