姉妹チート

和希

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(1)

「2人共何をしているのですか?入学式から遅刻するつもりですか?」

 愛莉がやってくる。
 遅れた理由は私が寝坊したから。
 昨日歩美や千帆達と話をしていた。
 校則のギリギリはどのあたりなのかを相談していた。
 杏采はあまり目立ちたくないからと標準の恰好で行くようだ。
 服装の相談をして目に隈が出来てたじゃシャレにならない。
 冬眞に確認してもらう。

「大丈夫だよ」
 
 冬眞が言うと急いで着替える。
 制服を着ると冬眞が驚いていた。

「莉子、歩美たちと相談した結果がそれか?」
「そうだよ?変かな?」
「いや、普通だったから」

 当然だ、何も弄ってないから。
 冬莉達にも聞いたけどこれが一番楽らしい。
 あまり短くし過ぎると足が冷える。
 ブレザーだから上に何かを羽織る意味もない。
 唯一気をつけていたのは靴下の履き方だけ。
 そう説明していると愛莉が急かす。
 愛莉達は私達の部屋に踏み込んできたりしない。
 もちろん愛莉が気を使わなきゃいけないような状態に朝からなるわけがない。
 それを愛莉に言ったら愛莉が笑っていた。

「冬夜さんは朝から抱きついて来る困った人だったの」

 それを聞いていたパパが言う。

「愛莉という目覚まし時計を止める方法が他になかったんだ」
「……そうですね。人を誘っておいて自分は寝ようとする酷い人でしたね」

 冬眞はそう言うのは全くない。
 私より寝起きが良い。
 私もパパの真似を試みた事がある。

「学校終わったら相手するから」

 そう言って容赦なく振りほどく。
 とりあえず愛莉が急かすので部屋を出る。

「あれ?その靴下どうしたの?」

 愛莉が聞いていた。
 当然だ。
 長すぎる靴下を短くくしゅくしゅとまとめる為の細工だ。
 靴を履いたらつま先がちゃんと履いてないのも分からないはず。

「いけません!そんなだらしない履き方しないでちゃんと履きなさい!」
「でもみんなやってるって言ってたよ」

 上靴脱ぐことなんてないから大丈夫だと愛莉と問答していると冬莉が介入した。

「あのさ、それ止めた方がいい」
「なんで?」
「瞳子はともかく、冴がそれやってたんだよね」

 そのうち面倒になる。
 どうせそんな足首を凝視する変態なんてそんなにいない。
 そんな変態の為に割く時間なんてもったいないでしょ?
 先輩の冬莉が言うと説得力がある。
 大人しく従った。
 そんな私を見ながら冬莉が言う。

「天音もあまり校則すれすれの恰好なんて面倒だからってしなかったんだって」

 どうせ一番見て欲しい大地は違う学校だ。
 どうでもいいガキの為におしゃれする金があったらラーメンを食べる!
 そう言いきって愛莉と喧嘩していたらしい。

「どこの女子高生が帰りにラーメン食べて帰るのですか!」
「ハンバーガーが良くてラーメンはダメってどういう理屈だ!」

 彼氏の前でみっともない姿なんて理由にならねーぞ!

「まあ、天音は防府より遠くの学校に行くんだからお腹空くだろ?」

 パパがそう言って天音を庇ったらしい。
 翼だって弁当以外に焼きそばパン食べてたらしいからそのくらいいいだろと言った。
 だけどその理屈も通じなかった。
 なぜなら……

「天音はバス通学なのですよ!精々学校から駅前まで歩く程度です!翼達より動かないんですよ」
「その分暴れてるから大丈夫だよ」
「それが娘に教える教育ですか!!」

 そう言ってパパは天音と叱られていたらしい。
 リビングで待っていたパパが私たちを見ていった。
 そしてパパは悩んでいる。

「どうしたの?」
「ああ、昨夜誠から電話がかかって来てね……」

 歩美の父さんから言われたらしい。

「お前も最後の娘の女子高生姿だろ?しっかり目に焼き付けとけ」

 なんなら写真をとっておくといい。
 そう言われたそうだ。
 しかし私を見ても歩美のパパが言うような感動はまったくないから不思議に思ったらしい。
 パパは仲間の中心的存在で判断力と指導力が高評価されている。
 しかしどうしてか子供相手だとそれが全く通用しない。

 ぽかっ

 ほら、愛莉に小突かれた。

「朝から馬鹿な事言わないでください!大体冬夜さんは冬莉の時もなんともなかったじゃないですか!」
「それなんだよ愛莉。大体次は結莉や茉莉が女子高生だろ?別にそんなに特別でもなんでもない気がするんだよね」
「誠君の言う事を真に受けないでください!」
「そうだね。それより冬眞に伝えておく事があった」
「え?」

 冬眞が聞いている。

「絶対に焼きそばパンは一度食べておきなさい……」

 ぽかっ

「どうしてそうやって子供の暴飲暴食を勧めるんですか!?」
 
 弁当だけで充分でしょ。
 パパは高校時代愛莉の手作り弁当と焼きそばパンを秤にかけたそうだ。
 その結果両方食べるという手段を選んだ。
 当然愛莉が怒りだす。

「残さず食べるから!」
「そういう問題じゃないの!」

 すると愛莉は冬莉を見ていた。

「冬莉は志希に弁当作ってあげたりしないでいいの?」
「一回だけ作ってあげたよ?」
「え?」

 愛莉も気づかなかったらしい。
 それもそのはずだ。
 それが彼氏への弁当だとは誰も思わないだろう。
 どでかいおにぎりの中に明太子や昆布、梅と高菜、挙句唐揚げまで入れて握ったらしい。
 当然志希が食べられるはずがない。
 残った分は冬吾が食べたそうだ。
 女子高生の手作り弁当ってレベルじゃない。

「そういえば冬莉に料理を教えた試しがなかったわね……」
「それならいい方法があるよ」

 パパが言う。
 嫌な予感しかしない。

「保温が効く水筒にお湯を入れておいてカップラーメンもっていけば……」

 ぽかっ

「そんな手抜きを娘に吹き込まないでください」
「それ僕やったよ」

 冬吾が来た。
 問題は汁を最後まで飲まないと捨てるところが無いらしい。

「そんな事よりそろそろ行かないとまずいんじゃないの?」

 冬莉がそう言って時計を指す。
 私達は急いで学校に向かった。

(2)

 意外だった。
 千帆の事だからきっとスカートの丈くらいは弄ってくると思った。
 なのに普通のスカートの丈だった。
 割と真面目そうな女子高生の恰好。
 髪の色がピンクだ。
 アニメで色んな色の髪をしているのだから普通なのだろう。
 大人しい杏采ですら緑だった。
 にも関わらず片桐兄妹は普通の髪だった。
 うん、茶髪くらい地味に見えてくる世界観だ。
 莉子は3人を見て驚いていた。

「スカート結局普通にしたんだ?」

 そっちかい!
 莉子が千帆達に聞くとあっさり答えた。

「昨夜短くしようとしたらある事に気づいたんだ」
「何かあったの?」
「……莉子が羨ましいって事だよ」

 スカートを短くして太ももを露出してるのを見て喜ぶ変態が千帆達の父親だった。
 いやらしい目つきが気持ち悪いから標準に戻した。
 それでも足首なんかをじっと見ているらしい。
 お洒落をしないのは父親が変態だから。
 莉子達はそう言うのは全くない。
 だからなんでしないのか千帆達は不思議だった。

「パパが全然興味示さないからってのもあるけど……」

 姉の冬莉が言ったそうだ。

「最初は良いけど後で面倒になるから止めとけ」

 片桐家はなんでも面倒だと思う傾向にある。
 その余りある能力を無駄な事ばかりにそそぐ。

「千帆は気持ち悪いっていうけど、全く気にも留めてくれないのもショックだよ」

 莉子が言う。
 どんなに頑張っても母親には勝てないんだそうだ。

「ふーん、私はスカートの下にジャージ穿きたいくらいだけどね」

 姉の泉がやろうとしたら母親から「みっともないからやめなさい!」と注意されたらしい。

「でも冷えるんだし止めた方がいいんでないかい?」
 
 僕が言うと千帆は言った。

「でもそのくらいアピールしないと善斗構ってくれないじゃん!」

 そう言う事は今言わないでおくれ。
 ほら、母さんが睨みつけている。
 それは姫乃の彼氏の石原岳也も同じだったようだ……。

「どういう事か帰ったらちゃんと説明してもらうわよ」
「あ、晶ちゃん。まだ高校生だ。それが普通なんだよ」

 高校生でそんな毎日やってるのは「ナイスボート」くらいだ。

「そう言えば善君も私があそこまでやらないと行動してくれなかったわね?」

 そう言って母さんは父さんを睨みつける。
 一方莉子達の親は歩美の親たちと話している。

「瑛大。お前もしくじったのか?」
「ああ、油断してた。2人共彼氏できてからは警戒するようになってさ……」
「冬夜の所はどうなんだ?茜や冬莉の妹なんだからすごいんじゃないのか?」
「普通だよ。莉子は元々彼氏と一緒にいるような状態だしね」

「それより朝莉子の制服姿見たけど別に何もなかったぞ?」と莉子の父さんが言っている。
 すると歩美の父さんたちがアドバイスしてた。

「お前わかってないな。今しかないんだぞ?」
「孫がそのうち制服着るじゃないか?」
「冬夜、お前後になって後悔するぞ」

 大金出して女性に制服着てもらう世の中だぞと歩美の父さんが言うと莉子の母さんが文句をいった。

「冬夜さんはそんな要求絶対にしません!誠君は冬夜さんに余計なこと言わないで!」
「誠!お前はまだそんなしょうもない事トーヤに吹き込んでたのか!?」

 僕の父さんは杏采の父さんと話をしていた。

「もうひと踏ん張りですね」
「そうだね、高校卒業したら晶ちゃんと旅行でも行かないかと話をしていてね」
「それもよさそうですね。恵美、僕たちもどうだい?」
「あら?望がそんなお誘いしてくれるなら私はいつだってかまわないわよ」

 高校を出たら一人暮らしなり同棲なりするだろう。
 そうじゃなくてもいい加減自分で何でもするべき年だ。
 子供の手が離れたら少しくらい自分たちのやりたい事をしていいだろう。

「片桐君も愛莉ちゃんを誘ってあげたらいいんじゃない?空ももう大丈夫でしょう」
「子供は大丈夫なんだけど、問題は孫なのよ」
 
 花見の時に子供が育児に苦戦しているのを見物しているくらいがいいと莉子の父さんは言っていた。
 しかし翼はともかく天音は本当に大丈夫だろうか? 
 そのころにはもう小学生だ。
 やっぱり様子を見ておかないと不安らしい。と、莉子の母さんは悩んでるそうだ。
 
「愛莉、そのころにはもう小学生だろ。だったらもう僕たちではどうにもならないよ」

 うるさいババアだくらいにしか思わないよと莉子の父さんは言う。
 まあ、希美もそこら辺はわきまえているらしい。
 母さんに”ババア”なんて言い出したら親が大変なことになる。
 善明たちもかなり苦労したらしい。
 僕たちはクラス分けを見た。
 予想はしていたけどやっぱりみんな同じクラスだった。
 教室に入ると異様な雰囲気だった。
 みんながすでに誰かに支配されているような事態。
 その中心人物を僕はすぐに見抜いた。
 オールバックの鋭い目つきの男。
 男は冬眞を見るとこっちに近づいてくる。

「君が片桐冬眞君だね?」
「そうだけど?」

 冬眞が答えると男が冬眞の顔に拳を突き付ける。
 冬眞もすぐに見抜いて紙一重でかわす。
 冬眞のほほに一筋の血が流れる。
 いつの間にか男は刃物を持っていた。
 いつ準備していた?
 ポケットから抜き取るとかそういう芸当じゃない。
 それなら僕たちが気づいていたはずだ。
 攻撃をかわされた男はにやりと笑う。

「俺は沖田浩二。リベリオンのメンバー」
「普通順番が逆じゃないのか?」
「それもそうだな。しかしなかなか楽しませてもらえそうだ」

 お互い愉快な高校生活を楽しもう。
 そういって男は自分の席に戻る。
 僕たちも自分の席に着いた。
 体育館に移動して入学式を済ませると教室に戻って担任の挨拶があってその日は終わり。
 ファミレスで昼食をとって帰ると部屋で着替える。
 夕食まで沖田という男について話していた。
 冬眞もただ事じゃない強さをあの男に感じたらしい。
 みんな用心しようと話をしている。
 前に立ちふさがる絶望と希望。
 そうして新たな学生生活が始まった。
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