姉妹チート

和希

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君がくれたもの

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(1)

「冬吾、瞳子ちゃん来たわよ」

 母さんが呼んでいた。
 部屋を出て玄関に向かうと瞳子がいた。
 さすがに今日は普通の私服だった。
 家にあげると部屋に案内する。

「ねえ、冬吾君?」
「どうしたの?」
「本当に冬吾君の家でよかったの?」

 瞳子の家の方が色々気を使わないで済むんじゃないか?
 瞳子はそう思ったらしい。
 そんな瞳子に僕は笑って答えた。

「瞳子ってそんなに声大きかったっけ?」

 ぽかっ

「私だって我慢するくらいはします」
「それ心配しなくていいから」
「どうして?」

 瞳子が聞くと僕は答えた。
 理由は冬眞と莉子。
 二人な血がつながってない兄妹で付き合っている。
 だから高校生にともなれば当然する。
 莉子も瞳子が言ったように抑えてはいたけど静かな夜にあの声はやっぱり響く。
 だから父さんも母さんも知っていた。
 母さんは「年頃だから当たり前です」と言い、父さんは望さん達と飲みに行く。
 他の家ならともかくうちに限ってそれで怒られるということはないから心配しなくていい。
 だから家に誘ったんだと瞳子に説明した。

「ふーん。冬吾君のお父さんなら大丈夫だよね」
「なにが?」

 瞳子は冴から聞いていたらしい。
 誠司の父さんは冴の声が気になって聞き耳を立てていたそうだ。
 それは別に冴じゃなくてもいい。
 歩美にも同じ真似をして嫌われた。
 水奈の時にもやらかしたそうだ。
 父さんはそういうのないのかって一回聞いたことがある。

「愛莉の声が一番かわいいんだ」

 ぽかっ

「冬夜さんは息子に変なことを吹き込まないでください」
「パパ!娘の声は気にならないのか!?」
「天音も馬鹿なことを言うんじゃありません」
「まあ、さみしいとかそう言うのは思うけどそれだけだよ」
「寂しいなら私がパパの相手してあげる」
「茜もいい加減にしなさい!」

 父さんは冬莉達娘から慕われている。
 隙あらば母さんから奪い取ろうとしている。
 でも自分たちが慕っている父親だ。
 娘の誘惑よりも母さんの方が大事なんだろう。
 同じ父親でこうも違うんだろうか?
 不思議に思ったことがある。

「いいか冬吾!お前はいい父親に恵まれて、恵まれた環境で育ってきたんだ!」

 僕以上に恵まれた子供はいない!と神奈さんが言ってた。
 そういうもんなのかな?

「うーん、私は冬吾君にとって最高の彼女でいられたのかな?」

 そう言って瞳子は笑った。

「当たり前だろ。これからもずっと変わらない」
「うん……」

 そうは言うもののやっぱりこの先が不安なのだろう。
 あまり気にはしないようにしてはいたけど、3年生になってからやっぱりお互い気になりだす。
 離れていく僕達を結ぶ物をどうしたら形に残せるだろうか?
 それはずっと考えていた。
 もちろん海外に行かずに地元に残ることも考えた。 
 でも、それはダメだと思う。
 あの時ああすればよかった。
 そんな後悔を絶対に持たないと言えるかというと自信がない。
 一度は世界を体験してみたい。
 恋と夢。
 はかりにかけて僕は夢を選んだ。
 当然あきらめているわけじゃない。
 瞳子が大学を卒業する頃に一緒になろうって決めている。
 でも僕がそう思っていても瞳子の気持ちが変わるかもしれない。
 それは瞳子のせいじゃない。
 僕が瞳子を不安にさせているだけ。
 僕が一言「一緒についてきてほしい」と言えばついてきてくれるかもしれない。
 でもそれは瞳子の選択肢を潰してしまうんじゃないか。
 瞳子だってやりたいことがあるはずだ。
 それは大学を出て大人になる前にやっておかなければならない事かもしれない。
 父さんたちは10年待って結婚したらしい。
 僕たちはあとたった4年待てばいい。
 メッセージやビデオ通話がある。
 遠距離恋愛なんてナンセンスだ。
 だから僕たちは4年間だけ自由になることを選んだ。
 その代わりこの1年間だけはたくさん思い出を作ろう。
 そう決めて今日花火大会に二人できた。
 たくさんの人の中瞳子と二人で夜空に咲く花を眺めていた。
 お互い何も言わずつないだ手を通して思いを伝えていた。
 花火大会が終わると駅に向かう。
 僕の家に着くまでお互い何も言わなかった。
 瞳子もきっと悩んでいるんだろう。
 家に帰ると父さんたちがリビングでテレビを見ていた。

「早くお風呂をすませなさい」

 母さんが言うので瞳子に先に入ってもらおうとしたけど、なんとなくて聞いてみた。

「一緒に入らない?」

 父さんと母さんが驚いていた。
 母さんに叱られるかなと思った。
 だけど……

「いいんじゃない。でもお風呂の中は音が響くから変な事したらいけませんよ」

 母さんからそう注意されていた。
 父さんは困惑していた。
 
「冬夜さんだって冬吾くらいの時には一緒に風呂入ってたじゃないですか」

 そう言って母さんが慰めていた。

「冬吾君の家ってすごいんだね」

 一緒に湯船につかった瞳子が言っていた。

「瞳子は嫌だった?」
「そんな人と一緒に寝ると思う?」

 そうなるんだよな。

「でもその話誠司君にはしないって約束して」
「なんで?」
「きっと妙な事聞いてくるだろうから」
「分かった」

 風呂を上がると部屋に戻る。
 少しテレビを見てると部屋の雰囲気が変わってくる。
 なんとなく隣に座っている瞳子の肩を抱きよせていた。
 瞳子が僕の顔を見て目を閉じる。
 父さんが言ってた。
 
「床はごつごつしてるからいやみたいだからちゃんとベッドに誘ってあげて」

 父さんの言われるとおりにして瞳子を抱いた。

「もう7月なんだね」
「そうだね……」
「こんな歌があるの」

 太陽と月が仲良くしてくれていたら時間は過ぎないのに。

 それが瞳子の気持ちなのだろう。

「でも時が経たないと僕たちはゴールにたどり着けないよ」

 僕はただベッドで寝ているだけの関係なんて嫌だよ。

「分かってる。……ごめん、言わずにいようと思っていたんだけど」
「どうしたの?」
「やっぱり不安だよ」

 僕は日本に金メダルをもたらすほどの名選手だ。
 それは誠司たちの活躍もあるけど、誠司の采配だってまず僕がいるから成り立つ。
 そんな僕が海外に行ったらもっと魅力的な女性に取られるんじゃないかって不安だと瞳子は訴える。
 そんな瞳子を優しく包んで話す。

「瞳子こんな話知ってる?」

 それは生まれたての赤ちゃんは初めて見たものを親だと認識するって話。
 僕にとって初めて恋をしたのは瞳子だ。
 幼稚園の時に瞳子の気持ちに気づいて瞳子に恋をして今までやってきた。
 僕の中ではお嫁さんは瞳子以外に考えられない。
 だから心配しないで。

「私は幸せなんだね」
「そう言ってくれると僕もうれしい」

 そのまま瞳子を抱いて寝る。
 朝になったら朝食を食べて瞳子は帰る。

「せっかくだから夕食まで一緒にいたらいいのに」

 母さんや冬莉が言うけど瞳子は帰って行った。
 その晩お風呂に入ると父さんにお願いをしてみる。

「契約金とかもらえたら絶対に返すから」

 父さんは母さんと相談していた。

「多分そう言うと思って今までの冬吾が稼いだお金を取ってあるから大丈夫」
「冬吾もやっと決めたのね。きっと瞳子も喜んでくれますよ」

 父さんと母さんが言う。
 また少しだけ僕たちが旅立つ時が近づいた。

(2)

「遅いぞ誠司」
「悪い悪い」

 俺たちは駅前のバス停で待ち合わせをしていた。
 高校3年生組で花火大会を見に行こうと計画していたから。

「晩飯どうする?」
「どうするってSHIPと駅ビル以外に選択肢あるの?」

 冬莉が聞いてきた。
 チャンポンをとるか、たこ焼きを取るか?
 冬吾と冬莉の中ではそのくらいしか差がないらしい。
 いずれ美味しいものを食べる。
 なら今は質より量だ!
 たこ焼きなんて出店で食えばいいだろ?というけど冬吾達は違うらしい。
 ちゃんと花火を見るなら出店をあきらめないと場所が取れない。
 ならたこ焼き専門店で食べればいい。
 お好み焼きも焼きそばもある。
 そんな相談をして冬吾達はチャンポンを諦めて、駅ビルのフードコートに行く。
 
「志希、奢るなんて片桐家の女性に無茶な真似しなくていいからね」

 冬莉はそう言って必死に食べる。
 志希もデビューしてそこそこの収入があるのはコンビを組んでる冬莉も知ってるけどそれでも自分で払うといった。
 片桐家の女性に奢ったりできるのは大地くらいの小遣いがない限り不可能だと冬莉が言う。
 そんな無茶な食い方をしなきゃいいんじゃないかと思ったけど。

「心配しないでもデートの時はちゃんとした店に入ってる」

 そこでは馬鹿食いして志希に恥をかかせるような真似はしてない。
 だから友達と遊ぶ時くらい好きにさせてほしいと志希に言ったようだ。

「育人はどうなんだ?」

 俺は泉に聞いてみた。

「それがさ……」
「なんかあったのか?」
「それなのよ……」

 へ?

「毎月2回くらいはデートに誘ってくれる」
「そりゃよかったじゃないか」
「そうなのかなぁ?」
「泉は何か気になることがあるの?」

 瞳子が聞いていた。

「私信用されてないのかなって」

 目を離したら他の男に取られちゃうのかって心配してくれてるのだろうか?
 そんな不安が泉にあったらしい。

「それは違うよ。泉」
「誠司にわかるの?」
「まあな、たぶんだけど泉と同じことを育人も思ってるんだよ」

 学校が違うから、毎日会えるわけじゃないから。
 自分が他の女性に行くんじゃないのかって心配かけてないか。
 泉を心配させたくないから会う頻度を増やしているんだろ。

「そうなの?いっくん」
「まあ、それもあるんだけど……」
「他に何があるの?」
「僕もまだ若い男子みたいだ」

 育人はそう言って笑う。
 定期的にあって泉とスキンシップをとっていないとデザインに影響が出るみたいだ。
 恋人をモデルというのは色々葛藤するらしい。
 綺麗に見せたいというのもある。
 しかしあまり無理に露出させたものを着せたくないというエゴもある。
 大事にしてるんだな。

「そうならそうと言ってくれたらいいのに」
「泉のお母さんも言ってたろ?デザイナーになるのにモデルの裸くらいでおたおたするなって」

 現にコツを覚えてたみたいでUSEのタレントの衣装はスタッフに頼んで作るらしい。
 衣装合わせの時にだけ自分で確認するくらいだ。
 それをもう2年以上続けてきた。
 女性の裸くらいどうってことないと思うようになったみたいだ。
 だけど泉は別だ。
 泉は育人の彼女だ。
 彼女の裸を見て何とも思わなくなったら終わりだ。
 結局一番難しいのは泉の服を作ることらしい。

「確かにパパ達も一緒に風呂入ったりしてるな」

 冬莉が言う。
 そんな事俺の父さんがやったら大ゲンカだけどな。
 
「僕もこの前瞳子と風呂に入ったよ」
「冬吾君!その話誠司君に言ったらダメって言ったでしょ!」
「なんで?」

 今更瞳子を狙ってるとか考えないぞ。

「……ああ、そういうことね」

 冬莉はそう言って笑った。
 志希はわからないらしい。

「誠司さ、冬吾から聞いて何考えた?」
「え?まあ、一緒に風呂に入るんだから」

 背中を流してあげるとか背中に瞳子の胸とかに石鹸を泡立てたのをつけて冬吾にこすりつけたりとか?
 いくら片桐家でもローションが浴室にあるとは思わないしな。

「そういうことを冬吾君に言わないで!」

 ああ、そう言うことか。

「どうせ冬吾だからしなかったんだろ?」

 風俗にもついてこないくらいだからな。
 やってもないことを聞いてもしょうがないだろ?
 現に冬吾は理解できないらしい。

「それ汚れとれるの?」
「冬吾君は気にしなくていいの!」

 そんな二人を見ながら食事を済ますと、花火大会の会場に言った。
 毎年当たり前のように見ていたこの景色も来年にはお別れだ。
 しっかりと目に焼き付けておいた。
 他のカップルも同じようにじっとその夜空に見とれていた。
 花火が終ると嘘のように静かにみんなが帰りに着く。
 帰りのバスに乗っても誰もしゃべらなかった。
 それぞれ思いがあるのだろう。

「それじゃ、また」

 バスを降りると冬莉が言った。
 
「また会えるよね?」

 瞳子が聞く。

「当たり前だろ」

 俺が笑って答える。
 まだ半年近くあるんだぜ。
 もっと楽しい思い出作っておこうぜ。
 将来再会したときに笑って思い出話が出来るように。
 そう、まだあと半年あるんだ。
 もっともっと笑い飛ばしながら走って行こう。
 長い人生の中でのたった4年間の話だ。
 いつかこの物語が終わるときに笑って幕が下りるように。
 いつでも鼻歌を口ずさみながら笑って生きていこう。

(3)

「純也、事件だ!急げ」
「はい!!」

 そう言って先輩と車に乗るとサイレンを鳴らして夜道を駆け抜ける。
 現場は悲惨だった。
 本当にここ日本か?と疑いたくなるような光景。
 黒いリストバンドをした馬鹿が血だらけで倒れている。
 どう見てももう助からないと思っても救急隊が重傷者を優先して病院に運んでいく。
 唯一人の生き残りから先輩が事情聴取を行っている。

「事件を解決するコツは、現場に残ったわずかな手掛かりをいかに多くつかめるかだ」

 先輩がそう言っていたので俺はその間現場を見ていた。
 すると一枚の紙きれを見つける。

「ガキが調子に乗るとこうなるぞ」

 ロシア語だった。
 と、なると大体事情がつかめてくる。
 先輩が事情聴取を終えるとその被害者も病院に搬送される。

「どこの暴力団の仕業だ?」

 先輩がそう言っている。
 俺の中では大体予想出来ていた。
 黒いリストバンド、ロシア語、暴力団。
 暴力団と断定したのは全員銃弾で穴だらけになっていたから。
 中には刃物で体の一部分を切り落とされたものもいた。
 被害者はかなりの数だ。
 日本の暴力団でもここまでの銃火器を準備できる連中は限られる。
 石原家と酒井家。
 もちろん両家とも関係してない。
 と、なるとあと残るのは……FGの上の誠心会。
 そっちは多分加害者でなく被害者だろう。
 ロシア語を使うやつらと言ったらそんなに多くない。
 きっと空達が言ってたエリツィンの恋人とやらだろう。
 対策本部がすぐに設けられる。
 事件の経緯の説明があった。
 思ったとおりだ。
 自分たちの縄張りだと勘違いしていた図に乗っていた馬鹿がさらに馬鹿な真似をした。
 リベリオンに絡んだらしい。
 
「誰に向かって物を言ってるんだ?」

 そう言って抗争が始まった。
 精々鉄パイプやら拳銃が武器のFGに対して相手は本物のアサルトライフルや機関銃を持ち出した。
 銃声を聞いた周辺の住民が通報して警官が駆けつけた時にはすでに終わっていた。

「相手は誰なんだ?SHか?」

 警察の中でもSHとFGの抗争は問題になっている。
 俺は挙手して発言した。

「どうした片桐?何か心当たりがあるのか?」
「SHは俺も入ってました。でも銃火器を街のど真ん中で考えなしに使うような奴らじゃない」

 精々街のど真ん中を爆撃するくらいだ。
 っていうのは伏せておいた。

「じゃあ、片桐は相手は誰だか目星ついてるのか?」

 公にしてもいいだろう範囲で答えた。

「SHと対立する組織がもう一つあります」
「なんだそれは?」
「……連中はリベリオンと名乗ってました」
「それが加害者だとするネタはあるのか?」
「現場にロシア語で警告する文章がありました」

 それはすでに鑑識に渡している。

「面白いな……リベリオンについて知ってることを説明してくれ」

 そう言われて俺は言えるだけの事を伝えた。
 ロシアのマフィアが絡んでいること。
 片桐家に対して復讐をもくろんでいる事。
 さすがにその母体に企業ジハードの事は伏せておいた。
 そこまで事が大きくなったら多分警視庁が出張ってくる。
 それで解決するならいいけどきっと警視庁の幹部はジハードの息がかかっているだろうから。

「片桐はSHのメンバーだったというが、その敵対勢力が潰れるように仕向けてるわけじゃないだろうな?」

 本部長が聞いてくる。
 まあ、聞かれるだろうな。

「片桐は有能な奴です。そんな馬鹿な考えは起こしません」
「SHのリーダーの空は放っておけと言っています」

 こんな面倒な真似するはずがないし多分この事件の事は知らないだろう。
 知っていたら両方まとめて始末しようとするのが姉の天音だ。

「まあ、いい。じゃあ、その二組の衝突の線で捜査を勧めよう」

 そう言うと皆が席を立つ。
 すると俺は本部長に呼ばれた。

「関係のある人間なら普通は捜査から外すんだが……」

 県警本部長からの要請で俺を捜査に入れるように言われたらしい。
 多分遠坂のお爺さんから一声あったのだろう。

「お前も研修とかで大変な時期だと思うが、すまんな」
「いえ、俺も出来る限り自分で解決させたいと思ってました」
「意気込みはいいが、お前はまだ将来が約束されてる人間なんだ。無茶をするな」

 先輩がそう言う。
 これから大変になりそうだな。
 こっちも研修行ったり忙しい時期にふざけた真似しやがって。
 とりあえずは家に帰ると梨々香が玄関に青ざめた表情でやってくる。

「テレビでニュース見た」
「だろうな」

 じゃなきゃ、遠坂のお爺さんが知るわけがない。

「SHはどうするつもりって?」
「話を聞きたいから一度片桐の実家に来てほしいって空が」

 確かにファミレスで話せる内容じゃないな。
 俺だって機密を漏洩するような真似を堂々とできない。

「疲れてるだろうけど、ごめん」
「いいよ、どうせ警察あてにしても圧力かかるだろうし」
「だろうね。純也の出世に影響しない?」
「影響するような馬鹿な真似はしないよ」

 将来梨々香を養うことが出来なくなる。
 そう言って実家に帰ると空と翼と天音と大地と茜と誠さんと父さんたちがいた。
 現場を調査して知りえた事を話す。
 多分、リベリオンとFGが衝突したんだろうと言っておいたと伝えた。

「まあ、それでいいだろうね」
「で、どうする?」
「それはちょっと待って、まだ招待している客がいるんだ」

 空がそう言ってしばらく待っていると呼び鈴がなった。

「遅くなってすいません」
「いいのよ。上がって」

 現れたのは勝次と加奈子だった。

「空の推測通りだ。あいつら馬鹿な真似しやがった」

 勝次にもFGの情報を知るパイプがある。
 そこから情報を持ってきたらしい。
 やっぱり馬鹿だった。

「他人の縄張りで派手にやってくれてるじゃねーか?」
「ここはお前らの縄張りか?」
「そうだ」
「じゃあ、お前らを潰せば私の縄張りだな」

 そう言った女性の部下が交渉相手のこめかみを拳銃で撃ちぬいた。
 それが抗争の始まり。
 抗争というよりは一方的な虐殺だった。
 FGの馬鹿は相手の規模を確かめもせずに挑んだらしい。
 知っていたら原川組の兵隊を使用するとかやり方もあっただろう。
 だけどSH相手に醜態をさらす程度の雑魚だと侮っていたらしい。
 本当に馬鹿だな。
 その結果金属バットでアサルトライフルに挑むという戦時中の日本兵みたいな馬鹿をした。
 そして一方的に虐殺されたらしい。
 勝次の情報は警察が把握している状況とほぼ一致していた。
 ただ相手がリベリオンという確証は得た。

「で、空はどうするつもり?」

 父さんが空に聞いている。
 最近こういう時の判断は空にさせてる。

「空の王なんだったらそのくらいして見せなさい」

 父さんはそう言って笑う。
 そして空も笑っていた。

「何もしないよ」
「ふざけんな空!大人しくしてろってのか!?」
「天音落ち着いて!」

 大地が天音を宥めている。
 そんな予感がしていた。
 行動に移すなら善明を呼ぶはずだ。

「天音、落ち着きなよ。私たちが動く理由がどこにもないでしょ?」

 まさか「私たちの縄張りで勝手な事するな」とか言わないよね。
 翼がそう説明した。

「あいつらがこれで調子にのって仕掛けてくるなら遠慮なく潰すさ」

 空の王としては「馬鹿が人の縄張りで勝手にいちゃついてる」程度の事だと空が説明する。
 ここで動くのは先にこっちが仕掛けることになる。
 それはリスクがでかいのは前に説明した。
 さらにここでSHが反応したら俺の立場がある。
 もう子供の時みたいに相手を見極めずに暴れるだけじゃだめだ。
 
「もしあいつらが矛先を私達に向けてきたら?」

 天音が聞く。

「そんなの天音が知ってるだろ?自殺志願者の受付は随時してるよ」

 死にたいならしっかり殺してやる。

「じゃあ、なんで私達を呼び出したんだ?」
「僕も大地も仕事がある。翼や天音が行動することになる」

 会社に仕掛けるような馬鹿ならもっと大惨事が待っている。
 大地の会社に銃を向けたらロシアが温暖化するだけだ。
 そんなに死にたいなら勝手に死ね。

「俺が呼ばれたのも情報を知りたかっただけなのか?」

 俺が聞くと誠さんが俺にUSBメモリを渡した。

「その中にエリツィンの恋人の情報が入っている。しっかり地元に流れ込んだ連中を絞っておいた」

 茜や真香たちと協力して掴んだらしい。

「純也が出世してくれると僕達も楽だからね。少しは協力するよ」
「わかった……上に説明しておく」
「うん、気をつけろよ純也。相手は本気らしい」

 そのエリツィンの恋人のボスが来ているらしい。
 俺は家に帰るとちょっと警察署に寄ってくると言って梨々香を降ろす。

「いいか、夜に一人で外出なんてやめろよ」
「分かってる。私だって純也の足手まといになりたくない」

 そう言ってにこりと笑う梨々香を置いて俺は警察署に戻る。
 車を止めて警察署に入る前に「カチャ」という音に反応して振り向こうとすると「見るな!」と片言の日本語で言われた。
 マークされていたか。
 いつから?
 片桐家から?
 いや、たぶんもっと前だろう。
 父さんも言ってた。
 些細なことでも疑いを持ちなさい。
 軽はずみだったか。
 誠さんから受け取って浮かれて警察署に持ってきたらこのざま。
 そして俺は警察でSHのメンバーを明かしていた。
 
「大人しくブツを渡せ」
「何のことだ?」
「ふざけてると撃つよ?」
「お前こそふざけた真似してんじゃねーぞ?」

 片桐家を侮るなよ?

「お前を殺してから奪い取ってもいいんだぞ?」

 それともあの女を狙うか?
 そんな挑発に乗ると思ったか?

「だから舐めてるって言ったんだ」

 片桐家は絶対に先手を打つ真似はしない。
 奥の手を先に使うときはさらに奥の手を準備する2段構え。
 俺の言っている意味が分からないようだ。

「やっぱり痛い目みないと分からないみたいだな」
「やっぱりお前馬鹿だろ?」
「もういい死ね」

 男はそう言って引き金を引こうとした。
 しかし銃声はしなかった。
 代わりに男の悲鳴が聞こえる。

「誰を相手にしてるのかくらい見極めないのはFGと同じくらい馬鹿だね君も」

 子供でも思いつくような標的を無防備にしておくわけがないだろと善明が男の腕をひねり上げていた。
 
「純也は気づいていたみたいだけどどうしてだい?」
「ちょっと考えたらわかるよ」

 SHはニュースでこの事件を知っていた。
 当然管轄内の俺が動く。
 だから俺をつけ狙う間抜けがいるに決まってる。
 空はそこまで計算して僕を実家に呼び出した。
 誠さんのファイルはダミーだろう。
 本物だったとしてもそんな怪しい物を警察に持って行ってもどうにかなるもんじゃない。
 言ったはず。
 絶対にリベリオンの息のかかった上層部がいる事を。
 純也が動けばすぐにわかる。
 だから餌をまいた。
 その餌にのこのこと釣られた間抜けがこの男。

「で、どうすんのそいつ?」
「まあ、挨拶くらいには使えるんじゃないですかね?」
「分かった」

 そう言って善明は男を連れて去って行った。
 俺も家に帰る。
 これであの対策本部の中にリベリオンの奴がいるのが分かった。
 わざわざ教えてくれてありがとう。
 しかしリベリオンは余程死にたいらしい。
 絶対に触れてはいけないものに無防備に触れることになる。
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