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アリア
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(1)
「じゃあ、乾杯」
僕はお酒が飲めないけどジュースで誠司と乾杯した。
僕はスペインのチームと、誠司はイタリアのチームとの契約が決まったのでそのお祝い。
瞳子も来ていた。
「誠司も18だ。父さんと飲めなくなるんだから今のうちに飲んでおけ」
「……まあ、今日は特別だ。学校の帰りにビール飲んで帰ったりするんじゃねーぞ」
誠さんと神奈さんはそんな感じで息子と飲んでいる。
「なんか苦いぞこれ」
そんな感想を聞いた父さん達は笑っている。
「まだ誠司が若造って証拠だよ」
父さんはそう言っている。
「先に言っておくけどワインは渋いぞ」
「そうなのか?ブドウだから甘いと思ってたんだけど」
「酒だしなぁ」
「じゃあ、試していい?」
「やめとけ」
「なんで?」
誠司が聞くと誠さんが笑って言った。
「初めてなのに色々飲むと悪酔いするんだよ」
「まあ、いいや。冬吾より先に体験したし」
そんなもん張り合ってどうするんだ?
「ついでだから冬吾も飲んでみろよ」
「天音!やめなさい!冬吾はまだ未成年なのよ!」
母さんが怒っている。
「冬吾は父さんと約束してくれないか?」
父さんが言う。
「何を?」
「冬吾が飲むときは父さんと一緒に飲まないか?」
「あ、それいいですね。その時は母さんも同席するから」
「それってどうなんだ?冬吾はスペインで成人するんだろ?」
誠さんが言うと父さんはそれはわかってると言っていた。
「目標を果たすまでは禁酒する。それでどうだい?」
なるほど日本に戻ってくるまではサッカー一筋でいろって事か。
「わかった」
「言っておくけど、変な店に入るのも許しませんからね」
母さんが言うと分かったと頷いた。
「誠司!お前もだぞ!スター選手なんだろ?少しはスキャンダルとか気にしろ!」
「わ、分かってるって」
「じゃあ、なんで毎回遠征に行くたびにホテルで大人しくてないのか説明しろ!」
「い、命の洗濯は必要だって父さんが」
「ば、馬鹿!それは母さんには内緒だって……」
「やっぱり誠が原因か!!」
誠司の家はこれが正常なんだろうな。
あ、そう言えば聞きたいことあったんだ。
「父さん、イタリアのドラッグストアって何か美味しいの置いてるの?」
「え?」
「へ?」
父さんたちには通じなかったみたいだ。
しかし翼は何か思いつくことがあったんだろう。
僕に詳しく話すように言った。
誠司から聞いただけだ。
「イタリアってドラッグが流行ってるんだって」
「ドラッグ?」
「ああ、気持ちよくなれるそうだぜ」
「どのくらい?」
「俺もやったことないからな。経験したら感想送ってやるよ」
「ば、馬鹿!何親にチクってるんだ!?そう言うのは言わないのがルールだろ!」
「お前の口からルールなんて言葉が出るとは知らなかったぞ。で、冬吾に何を吹き込んでるんだ?」
「母さんの言うとおりだ!私だってやったことないんだぞ!」
「それが当たり前だ!お前はいい加減母親として自覚しろと何度言えばわかるんだ水奈!」
神奈さんと水奈と学が言い合いをしている。
「冬吾君は気にしなくていいの」
瞳子がにこりと笑ってる。
こういう時は大人しく従えと父さんが言ってた。
「でも、冬吾の奴、女も酒も風俗も薬もダメでどうやってストレス発散するんだ?」
免許だってとってないんだぞと誠司が言う。
それなら答えられる。
「サッカーがあるから平気」
「そのサッカーでストレス貯めることになるんだぞ?」
プロなんだ。
勝ち負けだって気にしだす。
今のユースチームみたいな気楽になんて無理だと誠司が言う。
「それでもサッカーがあるから」
勝ち負けも大事かもしれない。
でも一番大事なのは自分が満足できるプレーが出来たか?
それが出来ないと勝てないだろ?
勝っても満足できるかわからない。
常に新しいプレーを考えないといけない。
だから楽しくてしょうがないんだ。
「もちろん瞳子と一緒にいる時も楽しいけどね」
そう言うと瞳子は照れていた。
「……誠。一つ聞いてもいいか?」
「どうした神奈?」
「同じサッカー選手なのになんでこんなに差が出るんだ?説明してくれないか」
「ま、まあ。教育の仕方なんて親に寄るだろ?」
「すると誠は私のせいだと言いたいのか?」
「い、いや。夫婦で育てる物だろ」
「水奈はずっと飲んでいるけど話を聞いてるのか!?母親だって大事なんだぞ」
「だから昼間は飲んでないって。天音と約束してるんだ!」
「ば、馬鹿。水奈、お前ふざけるな」
「……天音。どういうことか説明しなさい」
「神奈さんだって運動会の時とか青空の下で飲むのが気持ちいいって言ってただろ!?」
「神奈!いい加減にして。天音に影響出てるじゃない!」
「愛莉!お前の家は糞真面目過ぎるからそのくらいがいいんだって!」
本当に賑やかな人だな。
そんな様子を見てると瞳子がジュースの瓶を持っていた。
「お酒じゃないけど注いであげる」
「ありがとう」
そう言って瞳子にジュースを注いでもらう。
「冬吾君は本当にサッカー以外に楽しみがないの?」
「……うーん。多分そうなると思うんだ」
「どうして?」
契約を結ぶ時スカウトの人と母さんが話し合っていた。
僕を一人にすると暴飲暴食をすぐにするから見張っててほしいと。
するとスカウトの人が言った。
「選手の食事の管理はチームでするから大丈夫です」
それでも夜間外出となるとチームの仲間とと言うことになる。
でも僕はお酒は飲めない。
そんなんだと、皆をしらけさせる。
だから寮で過ごすことになる。
だから……。
「瞳子が相手してくれたら大丈夫だよ」
「そうなんだ」
瞳子はそう言って笑っていた。
食事を終えると店を出る。
「瞳子車で来てるから少しゆっくりしてきたら?」
冬莉が言うので瞳子の車の助手席に座って瞳子と話をしていた。
海辺にある公園のベンチに座って話をしていた。
するとちょっと離れたところにある結婚式場から花火が上がっている。
今日結婚式を挙げる人がいたんだな。
それを見ていると隣に座っていた瞳子が僕の手を握る。
「どうしたの?」
「言わずに笑って送ってあげようと思ったけどやっぱり正直に言うね」
「うん」
「やっぱり不安なの。寂しい。怖い……」
瞳子の手が震えていた。
泣くのを必死にこらえているんだろう。
大丈夫。
そんな事くらい薄々気づいてた。
年を越せばあっという間に卒業だ。
皆が離れ離れになる時。
「少しだけ時間をくれないかな?」
「何かあるの?」
「期待してて」
瞳子の不安を解消する方法一つだけ思いついたんだ。
「わかった……ごめんね。でも隠し事をしてもいいのか悩んで」
僕に心配させるかもしれない。
そんな気持ちがあったようだ。
だから答えてあげた。
「好きだから不安になる。だけどそのうち愛してるから信じられる。そんな風に想いが変わるそうだよ」
お互い頑張ろう。
きっともう運命は回り始めてる。
お互いが同じ道を歩いていくんだ。
多少間違えたりするかもしれないけど、それでもたどり着く場所はきっと一緒だよ。
「ありがとう」
「大丈夫、心配しないで」
「うん……そろそろ帰ろうか?」
「そうだね」
僕が言うと車に乗って家に帰る。
僕達が一緒にいられる時間はもうそんなに残っていなかった。
(2)
明日は俺は非番をとった。
そして今夜も仕事を終えるとさっさと家に帰る。
「お帰り~私は準備出来てるけど純也どうする?」
「スーツだしこのままいくよ」
「分かった」
そうしてバスに乗って予約を取っておいた店に入る。
あまり格式ばった店じゃなくてカジュアルな店。
コースを頼むと梨々香と話をする。
「今日なんか記念日だっけ?」
「違うよ」
「じゃあ、どうしたの?急に」
先に言ってしまった方が梨々香も食事が美味しいだろうな。
「もう同棲して何年かな?」
「5年目だったかな」
「梨々香はどうだった?俺と暮らして」
「楽しかったよ。……なんでそんなこと聞くの?」
勘違いしたのかな。
不安そうに俺の顔を見る。
「俺も楽しかったよ。梨々香とならずっと一緒にいられる。そう思ったんだ」
「……それならいいんだけど」
「だからこれからもずっと一緒に居てくれないか?」
そう言って指輪の入った小箱を梨々香にプレゼントする。
「え……本当に?」
「こんないたずら考えるほど俺はマヌケじゃないよ」
「私で本当にいいの?」
「言ったろ。これからもずっと梨々香と一緒に居たいって」
だから泣くな。
笑顔で返事をくれないか?
俺は梨々香にそんな顔をさせるために今日を準備したんじゃないぞ。
今日は何もない平凡な日。
そんな日を記念日にしたかった。
「ありがとう。……これでいいかな?」
「ああ、うれしいよ」
「いつから考えてたの?」
「大学卒業した時から」
大人になって働き出して梨々香を養っていけると確かめることが出来たらちゃんと伝えよう。
そう思っていた。
「じゃあ、私は仕事辞めた方がいいかな」
「梨々香が続けたいなら続けてもいいじゃないのか?」
「私はそれより純也と子供を作りたい」
梨々香はそう言って笑う。
だけど俺は少し不安があった。
「俺の本当の親の事は話したよな?」
「ええ、小学校の時だよね」
「俺もろくでもない親になるんじゃないのか……そんな不安があるんだ」
「そんな事絶対あり得ないよ」
遠坂の家で遠坂のお爺さんやりえちゃんに精いっぱい愛情を受けて成長したんだから。
きっと「パパのような警察官になりたい」って言ってもらえると思うよ?
「ならいいんだ……」
「私もいるから心配しないで」
梨々香がそう言って笑う。
その後両親の挨拶はどうする?とか相談しながら食事をしていた。
婚姻届けも出さないと。
結婚式は誰を呼ぼうか?
話題はたくさんあった。
すると梨々香が言う。
「私もいよいよ片桐家か。どんな子供が生まれてくるんだろうね」
「それなんだけど、俺から一つお願いがあるんだ」
「どうしたの?」
それは梨々香と結婚しようと決めた時から考えていたこと。
(3)
「冬夜君。愛莉を連れてすぐに来てほしい」
愛莉パパから連絡を受けて、遠坂家に向かった。
遠坂家には愛莉の両親の他に純也と純也の彼女の石原梨々香が来ていた。
そう言う話か。
純也の面倒は愛莉の両親が見てきた。
だから愛莉パパに何かを報告しに来たのだろう。
二人そろってきたんだ。
なんとなく予想は着く。
愛莉パパは一応純也の親は僕だからと知らせたのだろう。
「りえちゃん、どうしたの?」
愛莉が愛莉ママに聞いていた。
「……とりあえず座りなさい」
愛莉パパが言うので座った。
すると愛莉パパが事情を説明した。
予想通り二人は婚約したらしい。
問題はその先になった。
梨々香は当然片桐家に嫁入りすると思っていた。
だけど純也はそうは考えてなかったらしい。
「遠坂のお爺さんの籍に入りたい」
純也は今日来て愛莉パパに言ったらしい。
それでそれは愛莉パパ一人で回答していいのか悩んで僕達を呼び出した。
「父さんたちへの恩を忘れたわけじゃないんだ」
でも片桐家には子供がたくさんいる。
だけど愛莉パパ達の面倒は誰が見る?
二人とももう高齢だ。
そろそろ考えておかないといけない。
だったら一番お世話になった純也に任せてほしい。
愛莉の両親の世話をどうするかは僕と愛莉も考えていた。
当分は愛莉が見ると言っていたけどその先が続かない。
だけど純也が遠坂家に入るのならその問題は解決する。
反対する理由は僕も愛莉もなかった。
「いいんじゃないですか」
純也がそう希望するなら問題はない。
唯一つだけ問題がある。
「梨々香さんの意見は聞いたの?」
長男の嫁になるなんて想像してなかったんじゃないのか?
梨々香はすぐに答えた。
「どっちにしろ純也君の家に嫁ぐってことはそう言うことだからって今日父親から聞きました」
それを聞いた愛莉パパは少し悩んでいた。
そして一言言った。
「梨衣。私達も頑張った甲斐があったな」
「純也君はそんなに苦労してませんけどね~」
愛莉ママは笑っていた。
「……正人。お前の子供達は立派に育ってるぞ。見てるか」
愛莉パパはそう言って涙を流していた。
その背中を擦っている愛莉ママ。
用件が済むと「近いうちに手続きするから」と言って純也たちも帰って行った。
僕と愛莉も家に帰る。
その夜は夕食でそんな話をしていた。
「パパたちは私達がいるから大丈夫だよ」
翼がそう言う。
ただ問題もあった。
「心配するな!愛莉が骨になるまで私が面倒見てやるから!」
天音がメッセージでそう言っていた。
愛莉は当然怒り出す。
「それが親に向かって言う言葉ですか!?それに天音は私の世話の前に自分の娘の心配をしなさい!」
愛莉はまだまだ苦労が絶えないみたいだ。
(4)
「こんにちは」
冬吾君の家に着くと呼び鈴を押していた。
「あら、今日はおしゃれしてきたのね」
愛莉さんが私を見てそう言う。
「ええ、クリスマスイブだから少し頑張ってみました。……冬吾君は?」
「今準備してるところ、冬莉が手伝ってる」
片桐家の男子は大体が片づけとか整理が下手なのだという。
荷物?
しばらく愛莉さんと話をしていると冬吾君が冬莉と一緒に来た。
「へえ、だいぶ気合入れてるじゃん、ひょっとして下着も?」
「冬莉、瞳子を困らせてどうするの?」
そう言って愛莉さんが怒っているけど、実は先週特別に買っておいた。
冬吾君はあまりそう言うの見ないから分かりやすい物を買っておいた。
それを身に着けているから少し緊張する。
よく考えたらシャワーを浴びるからその時に着替えたらよかったんじゃないかと思ったけど。
冬吾君はロングスカートをはいてる女子が好きなんだそうだ。
お父さんの影響だろうと愛莉さんが言っていた。
今日はお泊りの予定だった。
クリスマスイブだから。
プレゼントも用意しておいた。
冬吾君の家に泊まると思っていたのだけど違うのだろうか?
「瞳子今日はお泊りの用意しておいて」
冬吾君から先日言われたこと。
なのに冬吾君も用意している。
「今日は私の家に泊まるの?」
「違うよ」
冬吾君はそう言って笑う。
愛莉さん達も笑っていた。
「まあ、冬吾に任せておけばいいから」
冬莉も理由を知っているようだ。
そのまま街にバスで出かけた。
いつも通りのデート……だと思った。
しかし街に着くと冬吾君が行ったことのない方向に案内する。
「先にチェックインしておいた方がいいらしいから」
「え?」
ラブホ街を抜けてタワーホテルに向かう私達。
ためらうことなくエントランスを抜けて受付でチェックインの手続きをする冬吾君。
もう慣れてるのかな?
「部屋に荷物置いておいた方がいいよ。邪魔でしょ」
冬吾君がそう言って部屋に案内する。
とても見晴らしのいい部屋だった。
荷物を置くといつも通りのデートをする。
映画を見てゲーセンで遊んでいたらあっという間に日が暮れる。
街のイルミネーションを見ながら冬吾君が予約を取ってある店に行く。
メニューを見て驚いた。
大丈夫なの?
しかし冬吾君は構わず注文を言う。
「肉料理は僕が選んだから魚料理は瞳子が選んだらいいよ」
「う、うん」
どれにしようかためらっていると冬吾君がそっと耳打ちしてくれた。
「僕の事侮ってない?こう見えても有名選手なんだ」
全部自分の広告費などで準備したから大丈夫。
気にしないで好きなの選んでよ。
冬吾君がそういうのでなるべくあっさりなのを選んだ。
理由はきっと冬吾君は肉料理はボリュームあるのを選ぶだろうから。
それだけじゃない、パスタやサラダもある。
最後のデザートも私に選ばせてくれた。
「ブドウジュースだけど……しょうがないよね」
冬吾君がそう言って笑う。
多分そう言うと思って私も返事を用意してあった。
「冬吾君。私は今夜だけはワインは嫌だと思ってたの」
「どうして?」
「最後の晩餐みたいで嫌だから」
神様が死ぬ前に弟子を集めてワインとパンで夕食をする。
最後になんてしたくないから。
「その話なんだけど不思議なんだよね?」
「どうして?」
神様なのに死ぬから?
違うみたいだった。
「その神様なら天音が行ってたんだ。神様は引退してアメリカで豪遊してるって天音が言ってた」
豪遊する神様なんて世界中探してもいないだろ?
冬吾君は色々調べたけどそんな神様はこの神様だけだ。
なのに世界で一番信者が多い神様らしい。
きっと神様がそんな風に怠けて遊んでるから信者が他の神様の信者を殺しまくってるんだろうね。
それはそうだけど……。
「それクリスマスディナーで話す話題なの?」
「あ、ごめん」
「いいよ、私そもそも神様信じてないし」
「そうなんだ。僕は信じてるよ」
「サッカーの神様?」
私が聞くと冬吾君は首を振った。
「父さんが言ってた。恋の神様は努力したものには必ず幸せを与えてくれるって」
だから僕達もきっと幸せになれるよ。
ありがとう。
私はそう言ってもらえることが幸せだよ。
夕食を終えると店を出る。
「さすがにお酒はまずいよね」
冬吾君はお父さんと約束しているらしい。
冬吾君が最初に飲む相手は両親らしい。
私も一緒にしたいな。
「瞳子とは二人っきりで飲みたいんだ」
空達からいい店聞いておいたから。
「たださ……」
冬吾君が何を言いたいのか分かってしまったから、私が先に言った。
「冬吾君の目的はお酒の後の締めのラーメンでしょ?」
「……やっぱりバレるか」
冬吾君はそう言って笑っていた。
ホテルに戻ると先にお風呂どうぞと言われる。
お風呂の広さを確かめる。
この広さなら大丈夫かな?
「冬吾君、今日はクリスマスイブ。だから私のお願いを聞いてもらえないかな?」
「ああ、大丈夫。すぐ寝たりしないよ」
その為に途中コンビニによってケーキとカップラーメン買ってきたんだしと冬吾君は言う。
その組み合わせに突っ込みを入れたいけどそれは敢えてやめておいた。
「そうじゃなくてさ、一緒にお風呂入ろう?」
「え?どうしたの?」
一度もしたことないから。
それだけじゃ理由にならないかな。
私も計算外だった。
そうだ、普通は最初に風呂に入る。
だから着替えに取っておけばよかった。
今更そんな事言ってもしょうがない。
だけど一度脱いだ下着を穿くのはあまりしたくない。
泉や冬莉は平気でするらしいけど。
「その方がにおいが残って高く売れるって聞いたよ」
「冬莉はどこからそんな情報仕入れてくるの!?」
答えは私にも大体わかるようになっていた。
「天音」
その後天音さんは愛莉さんにしっかり怒られたらしい。
それから愛莉さんと泉の母さんはたまにチェックするらしい。
「泉、お小遣い足りないときは父さんに言ってくれたらあげるから、馬鹿な真似はしないでおくれ」
「善君、泉にはカードと大金渡してるのよ!」
スマホにだってしっかりチャージしてある。
高校生で使い切れる額じゃない。
「それはわかってるんだけど、万が一酒井家の娘が使用済み下着売ってたなんてばれたら大ごとだよ」
泉のお父さんは泉の祖父に絞殺されるかもしれない。
泉からも実際小遣い足りないなんて話は聞いてない。
単にどうしてこんな汚い物買うのか不思議に思っただけだろう。
冬莉だってデビューして以来志希と一緒に収入がある。
普通の親なら管理するだろうけど愛莉さんは冬莉に任せた。
冬吾君もそうしているのだから当然ってのもあるし、冬莉が実際に写真撮っているのを部屋に洗濯物を回収にきた愛莉さんが見つけて激怒したらしい。
話がそれてしまった。
で、同じ下着を2日も穿きたくない。
でも今日の下着は冬吾君の為に準備したとっておきの物だ。
一度くらい見て欲しい。
「だめ?」
「瞳子がそういうこと言うなんて珍しいね。わかった」
そう言って冬吾君は着替えを用意して浴室に向かう。
私も浴室に入って服を脱ぐ。
冬吾君はすぐに気づいたみたいだ。
わかりやすい物にしていたから当然だ。
「これが瞳子のクリスマスプレゼント?」
「ちゃんと用意してるから心配しないで」
使用済み下着を買うような変態と付き合った覚えはないから。
「背中流してあげるね」
「僕も流してあげる」
「背中だけでいいの?」
「うん、あとはベッドで楽しむよ」
「あら?明かりをつけてするの?」
「あ、そうか。でも見ても平気なの?」
「見られたくない人とお風呂入らないよ」
「それもそっか」
そんなやりとりをして風呂を出るとケーキを食べながらテレビを見ていた。
普通の音楽番組を見ていた。
「あ、この人前に会ったことある」
サインを渡したらしい。
冬吾君は受け取らなかった。
私に気を使ったとかじゃない。
興味なかったから。
結構大物なんだけどな。
番組が終わるとなんとなく冬吾君が私の顔を見ている。
その意味は分かっていた。
私は冬吾君に身を預けて目を閉じた。
冬吾君だけなのか片桐家の男子は皆そうなのか分からないけど、事が終ったあとカップラーメンを食べだす。
「父さんが言ってた。事後って男性はエネルギーをかなり消費するんだって」
「愛莉さんからは聞いてないの?」
女性は一回だけじゃ満足できないんだよ。
冬吾君は笑った。
「男は次の準備までに時間かかるんだ。ごめんね。それに……」
「まだ何かあるの?」
「プレゼント交換しておかない?」
「あ、そうだね」
私は冬吾君にプレゼントを渡した。
冬吾君もプレゼントをくれた。
ペアのネックレスだった。
「僕もいつも身に着けているから」
冬吾君の言う意味はなんとなく分かった。
「あ、それと……」
冬吾君はスマホを操作する。
「瞳子をグループに誘っておけって母さんから言われてて」
冬吾君がいないと私に連絡が出来る人が冬莉だけになる。
SHを使えばいいけど個人的な相談だってある。
海外にいる間悩みとかあったら相談に乗ってあげたいから片桐家のグループに誘っておきなさいと愛莉さんが言ったらしい。
私が拒否する理由もなかったのでグループに入った。
「冬吾が浮気なんてふざけた真似したら、私が地中海に沈めてやるから心配するな!」
「天音はその言葉遣いをどうにかしなさい!結莉達が真似してるでしょ!」
賑やかな家族だな。
こんな中に私も溶け込んでいくのかな。
「じゃ、そろそろいいよ」
「うん」
そう言って休憩を入れながら疲れはてるまで行為をしていた。
「ねえ、瞳子。お願いがあるんだけど」
「まだするの?」
「そうじゃなくてさ、バレンタインの日でいいからあの下着してほしい」
冬吾君も男の子だったのだろう。
自分でほどいてみたいと言い出した。
「わかった」
その後冬吾君は私をじっと見ていた。
何か考えているようだった。
「どうしたの?」
「いや、誠司が言ってたんだけど」
海外に4年もいたら絶対欲求不満になるぞ!
まあ普通の健全な男性だったらそうだろうね。
「心配しなくてもエッチな動画見るくらいは許してあげるよ」
「そうじゃないんだ」
今、私の裸を写真に撮っておけばそう言う動画見ずに済むんじゃないか?
ぽかっ
「冬吾君のスケベ」
私がそう言って笑うと冬吾君も笑っていた。
「じゃあ、乾杯」
僕はお酒が飲めないけどジュースで誠司と乾杯した。
僕はスペインのチームと、誠司はイタリアのチームとの契約が決まったのでそのお祝い。
瞳子も来ていた。
「誠司も18だ。父さんと飲めなくなるんだから今のうちに飲んでおけ」
「……まあ、今日は特別だ。学校の帰りにビール飲んで帰ったりするんじゃねーぞ」
誠さんと神奈さんはそんな感じで息子と飲んでいる。
「なんか苦いぞこれ」
そんな感想を聞いた父さん達は笑っている。
「まだ誠司が若造って証拠だよ」
父さんはそう言っている。
「先に言っておくけどワインは渋いぞ」
「そうなのか?ブドウだから甘いと思ってたんだけど」
「酒だしなぁ」
「じゃあ、試していい?」
「やめとけ」
「なんで?」
誠司が聞くと誠さんが笑って言った。
「初めてなのに色々飲むと悪酔いするんだよ」
「まあ、いいや。冬吾より先に体験したし」
そんなもん張り合ってどうするんだ?
「ついでだから冬吾も飲んでみろよ」
「天音!やめなさい!冬吾はまだ未成年なのよ!」
母さんが怒っている。
「冬吾は父さんと約束してくれないか?」
父さんが言う。
「何を?」
「冬吾が飲むときは父さんと一緒に飲まないか?」
「あ、それいいですね。その時は母さんも同席するから」
「それってどうなんだ?冬吾はスペインで成人するんだろ?」
誠さんが言うと父さんはそれはわかってると言っていた。
「目標を果たすまでは禁酒する。それでどうだい?」
なるほど日本に戻ってくるまではサッカー一筋でいろって事か。
「わかった」
「言っておくけど、変な店に入るのも許しませんからね」
母さんが言うと分かったと頷いた。
「誠司!お前もだぞ!スター選手なんだろ?少しはスキャンダルとか気にしろ!」
「わ、分かってるって」
「じゃあ、なんで毎回遠征に行くたびにホテルで大人しくてないのか説明しろ!」
「い、命の洗濯は必要だって父さんが」
「ば、馬鹿!それは母さんには内緒だって……」
「やっぱり誠が原因か!!」
誠司の家はこれが正常なんだろうな。
あ、そう言えば聞きたいことあったんだ。
「父さん、イタリアのドラッグストアって何か美味しいの置いてるの?」
「え?」
「へ?」
父さんたちには通じなかったみたいだ。
しかし翼は何か思いつくことがあったんだろう。
僕に詳しく話すように言った。
誠司から聞いただけだ。
「イタリアってドラッグが流行ってるんだって」
「ドラッグ?」
「ああ、気持ちよくなれるそうだぜ」
「どのくらい?」
「俺もやったことないからな。経験したら感想送ってやるよ」
「ば、馬鹿!何親にチクってるんだ!?そう言うのは言わないのがルールだろ!」
「お前の口からルールなんて言葉が出るとは知らなかったぞ。で、冬吾に何を吹き込んでるんだ?」
「母さんの言うとおりだ!私だってやったことないんだぞ!」
「それが当たり前だ!お前はいい加減母親として自覚しろと何度言えばわかるんだ水奈!」
神奈さんと水奈と学が言い合いをしている。
「冬吾君は気にしなくていいの」
瞳子がにこりと笑ってる。
こういう時は大人しく従えと父さんが言ってた。
「でも、冬吾の奴、女も酒も風俗も薬もダメでどうやってストレス発散するんだ?」
免許だってとってないんだぞと誠司が言う。
それなら答えられる。
「サッカーがあるから平気」
「そのサッカーでストレス貯めることになるんだぞ?」
プロなんだ。
勝ち負けだって気にしだす。
今のユースチームみたいな気楽になんて無理だと誠司が言う。
「それでもサッカーがあるから」
勝ち負けも大事かもしれない。
でも一番大事なのは自分が満足できるプレーが出来たか?
それが出来ないと勝てないだろ?
勝っても満足できるかわからない。
常に新しいプレーを考えないといけない。
だから楽しくてしょうがないんだ。
「もちろん瞳子と一緒にいる時も楽しいけどね」
そう言うと瞳子は照れていた。
「……誠。一つ聞いてもいいか?」
「どうした神奈?」
「同じサッカー選手なのになんでこんなに差が出るんだ?説明してくれないか」
「ま、まあ。教育の仕方なんて親に寄るだろ?」
「すると誠は私のせいだと言いたいのか?」
「い、いや。夫婦で育てる物だろ」
「水奈はずっと飲んでいるけど話を聞いてるのか!?母親だって大事なんだぞ」
「だから昼間は飲んでないって。天音と約束してるんだ!」
「ば、馬鹿。水奈、お前ふざけるな」
「……天音。どういうことか説明しなさい」
「神奈さんだって運動会の時とか青空の下で飲むのが気持ちいいって言ってただろ!?」
「神奈!いい加減にして。天音に影響出てるじゃない!」
「愛莉!お前の家は糞真面目過ぎるからそのくらいがいいんだって!」
本当に賑やかな人だな。
そんな様子を見てると瞳子がジュースの瓶を持っていた。
「お酒じゃないけど注いであげる」
「ありがとう」
そう言って瞳子にジュースを注いでもらう。
「冬吾君は本当にサッカー以外に楽しみがないの?」
「……うーん。多分そうなると思うんだ」
「どうして?」
契約を結ぶ時スカウトの人と母さんが話し合っていた。
僕を一人にすると暴飲暴食をすぐにするから見張っててほしいと。
するとスカウトの人が言った。
「選手の食事の管理はチームでするから大丈夫です」
それでも夜間外出となるとチームの仲間とと言うことになる。
でも僕はお酒は飲めない。
そんなんだと、皆をしらけさせる。
だから寮で過ごすことになる。
だから……。
「瞳子が相手してくれたら大丈夫だよ」
「そうなんだ」
瞳子はそう言って笑っていた。
食事を終えると店を出る。
「瞳子車で来てるから少しゆっくりしてきたら?」
冬莉が言うので瞳子の車の助手席に座って瞳子と話をしていた。
海辺にある公園のベンチに座って話をしていた。
するとちょっと離れたところにある結婚式場から花火が上がっている。
今日結婚式を挙げる人がいたんだな。
それを見ていると隣に座っていた瞳子が僕の手を握る。
「どうしたの?」
「言わずに笑って送ってあげようと思ったけどやっぱり正直に言うね」
「うん」
「やっぱり不安なの。寂しい。怖い……」
瞳子の手が震えていた。
泣くのを必死にこらえているんだろう。
大丈夫。
そんな事くらい薄々気づいてた。
年を越せばあっという間に卒業だ。
皆が離れ離れになる時。
「少しだけ時間をくれないかな?」
「何かあるの?」
「期待してて」
瞳子の不安を解消する方法一つだけ思いついたんだ。
「わかった……ごめんね。でも隠し事をしてもいいのか悩んで」
僕に心配させるかもしれない。
そんな気持ちがあったようだ。
だから答えてあげた。
「好きだから不安になる。だけどそのうち愛してるから信じられる。そんな風に想いが変わるそうだよ」
お互い頑張ろう。
きっともう運命は回り始めてる。
お互いが同じ道を歩いていくんだ。
多少間違えたりするかもしれないけど、それでもたどり着く場所はきっと一緒だよ。
「ありがとう」
「大丈夫、心配しないで」
「うん……そろそろ帰ろうか?」
「そうだね」
僕が言うと車に乗って家に帰る。
僕達が一緒にいられる時間はもうそんなに残っていなかった。
(2)
明日は俺は非番をとった。
そして今夜も仕事を終えるとさっさと家に帰る。
「お帰り~私は準備出来てるけど純也どうする?」
「スーツだしこのままいくよ」
「分かった」
そうしてバスに乗って予約を取っておいた店に入る。
あまり格式ばった店じゃなくてカジュアルな店。
コースを頼むと梨々香と話をする。
「今日なんか記念日だっけ?」
「違うよ」
「じゃあ、どうしたの?急に」
先に言ってしまった方が梨々香も食事が美味しいだろうな。
「もう同棲して何年かな?」
「5年目だったかな」
「梨々香はどうだった?俺と暮らして」
「楽しかったよ。……なんでそんなこと聞くの?」
勘違いしたのかな。
不安そうに俺の顔を見る。
「俺も楽しかったよ。梨々香とならずっと一緒にいられる。そう思ったんだ」
「……それならいいんだけど」
「だからこれからもずっと一緒に居てくれないか?」
そう言って指輪の入った小箱を梨々香にプレゼントする。
「え……本当に?」
「こんないたずら考えるほど俺はマヌケじゃないよ」
「私で本当にいいの?」
「言ったろ。これからもずっと梨々香と一緒に居たいって」
だから泣くな。
笑顔で返事をくれないか?
俺は梨々香にそんな顔をさせるために今日を準備したんじゃないぞ。
今日は何もない平凡な日。
そんな日を記念日にしたかった。
「ありがとう。……これでいいかな?」
「ああ、うれしいよ」
「いつから考えてたの?」
「大学卒業した時から」
大人になって働き出して梨々香を養っていけると確かめることが出来たらちゃんと伝えよう。
そう思っていた。
「じゃあ、私は仕事辞めた方がいいかな」
「梨々香が続けたいなら続けてもいいじゃないのか?」
「私はそれより純也と子供を作りたい」
梨々香はそう言って笑う。
だけど俺は少し不安があった。
「俺の本当の親の事は話したよな?」
「ええ、小学校の時だよね」
「俺もろくでもない親になるんじゃないのか……そんな不安があるんだ」
「そんな事絶対あり得ないよ」
遠坂の家で遠坂のお爺さんやりえちゃんに精いっぱい愛情を受けて成長したんだから。
きっと「パパのような警察官になりたい」って言ってもらえると思うよ?
「ならいいんだ……」
「私もいるから心配しないで」
梨々香がそう言って笑う。
その後両親の挨拶はどうする?とか相談しながら食事をしていた。
婚姻届けも出さないと。
結婚式は誰を呼ぼうか?
話題はたくさんあった。
すると梨々香が言う。
「私もいよいよ片桐家か。どんな子供が生まれてくるんだろうね」
「それなんだけど、俺から一つお願いがあるんだ」
「どうしたの?」
それは梨々香と結婚しようと決めた時から考えていたこと。
(3)
「冬夜君。愛莉を連れてすぐに来てほしい」
愛莉パパから連絡を受けて、遠坂家に向かった。
遠坂家には愛莉の両親の他に純也と純也の彼女の石原梨々香が来ていた。
そう言う話か。
純也の面倒は愛莉の両親が見てきた。
だから愛莉パパに何かを報告しに来たのだろう。
二人そろってきたんだ。
なんとなく予想は着く。
愛莉パパは一応純也の親は僕だからと知らせたのだろう。
「りえちゃん、どうしたの?」
愛莉が愛莉ママに聞いていた。
「……とりあえず座りなさい」
愛莉パパが言うので座った。
すると愛莉パパが事情を説明した。
予想通り二人は婚約したらしい。
問題はその先になった。
梨々香は当然片桐家に嫁入りすると思っていた。
だけど純也はそうは考えてなかったらしい。
「遠坂のお爺さんの籍に入りたい」
純也は今日来て愛莉パパに言ったらしい。
それでそれは愛莉パパ一人で回答していいのか悩んで僕達を呼び出した。
「父さんたちへの恩を忘れたわけじゃないんだ」
でも片桐家には子供がたくさんいる。
だけど愛莉パパ達の面倒は誰が見る?
二人とももう高齢だ。
そろそろ考えておかないといけない。
だったら一番お世話になった純也に任せてほしい。
愛莉の両親の世話をどうするかは僕と愛莉も考えていた。
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「いいんじゃないですか」
純也がそう希望するなら問題はない。
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「梨々香さんの意見は聞いたの?」
長男の嫁になるなんて想像してなかったんじゃないのか?
梨々香はすぐに答えた。
「どっちにしろ純也君の家に嫁ぐってことはそう言うことだからって今日父親から聞きました」
それを聞いた愛莉パパは少し悩んでいた。
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「純也君はそんなに苦労してませんけどね~」
愛莉ママは笑っていた。
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愛莉パパはそう言って涙を流していた。
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用件が済むと「近いうちに手続きするから」と言って純也たちも帰って行った。
僕と愛莉も家に帰る。
その夜は夕食でそんな話をしていた。
「パパたちは私達がいるから大丈夫だよ」
翼がそう言う。
ただ問題もあった。
「心配するな!愛莉が骨になるまで私が面倒見てやるから!」
天音がメッセージでそう言っていた。
愛莉は当然怒り出す。
「それが親に向かって言う言葉ですか!?それに天音は私の世話の前に自分の娘の心配をしなさい!」
愛莉はまだまだ苦労が絶えないみたいだ。
(4)
「こんにちは」
冬吾君の家に着くと呼び鈴を押していた。
「あら、今日はおしゃれしてきたのね」
愛莉さんが私を見てそう言う。
「ええ、クリスマスイブだから少し頑張ってみました。……冬吾君は?」
「今準備してるところ、冬莉が手伝ってる」
片桐家の男子は大体が片づけとか整理が下手なのだという。
荷物?
しばらく愛莉さんと話をしていると冬吾君が冬莉と一緒に来た。
「へえ、だいぶ気合入れてるじゃん、ひょっとして下着も?」
「冬莉、瞳子を困らせてどうするの?」
そう言って愛莉さんが怒っているけど、実は先週特別に買っておいた。
冬吾君はあまりそう言うの見ないから分かりやすい物を買っておいた。
それを身に着けているから少し緊張する。
よく考えたらシャワーを浴びるからその時に着替えたらよかったんじゃないかと思ったけど。
冬吾君はロングスカートをはいてる女子が好きなんだそうだ。
お父さんの影響だろうと愛莉さんが言っていた。
今日はお泊りの予定だった。
クリスマスイブだから。
プレゼントも用意しておいた。
冬吾君の家に泊まると思っていたのだけど違うのだろうか?
「瞳子今日はお泊りの用意しておいて」
冬吾君から先日言われたこと。
なのに冬吾君も用意している。
「今日は私の家に泊まるの?」
「違うよ」
冬吾君はそう言って笑う。
愛莉さん達も笑っていた。
「まあ、冬吾に任せておけばいいから」
冬莉も理由を知っているようだ。
そのまま街にバスで出かけた。
いつも通りのデート……だと思った。
しかし街に着くと冬吾君が行ったことのない方向に案内する。
「先にチェックインしておいた方がいいらしいから」
「え?」
ラブホ街を抜けてタワーホテルに向かう私達。
ためらうことなくエントランスを抜けて受付でチェックインの手続きをする冬吾君。
もう慣れてるのかな?
「部屋に荷物置いておいた方がいいよ。邪魔でしょ」
冬吾君がそう言って部屋に案内する。
とても見晴らしのいい部屋だった。
荷物を置くといつも通りのデートをする。
映画を見てゲーセンで遊んでいたらあっという間に日が暮れる。
街のイルミネーションを見ながら冬吾君が予約を取ってある店に行く。
メニューを見て驚いた。
大丈夫なの?
しかし冬吾君は構わず注文を言う。
「肉料理は僕が選んだから魚料理は瞳子が選んだらいいよ」
「う、うん」
どれにしようかためらっていると冬吾君がそっと耳打ちしてくれた。
「僕の事侮ってない?こう見えても有名選手なんだ」
全部自分の広告費などで準備したから大丈夫。
気にしないで好きなの選んでよ。
冬吾君がそういうのでなるべくあっさりなのを選んだ。
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冬吾君がそう言って笑う。
多分そう言うと思って私も返事を用意してあった。
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私が聞くと冬吾君は首を振った。
「父さんが言ってた。恋の神様は努力したものには必ず幸せを与えてくれるって」
だから僕達もきっと幸せになれるよ。
ありがとう。
私はそう言ってもらえることが幸せだよ。
夕食を終えると店を出る。
「さすがにお酒はまずいよね」
冬吾君はお父さんと約束しているらしい。
冬吾君が最初に飲む相手は両親らしい。
私も一緒にしたいな。
「瞳子とは二人っきりで飲みたいんだ」
空達からいい店聞いておいたから。
「たださ……」
冬吾君が何を言いたいのか分かってしまったから、私が先に言った。
「冬吾君の目的はお酒の後の締めのラーメンでしょ?」
「……やっぱりバレるか」
冬吾君はそう言って笑っていた。
ホテルに戻ると先にお風呂どうぞと言われる。
お風呂の広さを確かめる。
この広さなら大丈夫かな?
「冬吾君、今日はクリスマスイブ。だから私のお願いを聞いてもらえないかな?」
「ああ、大丈夫。すぐ寝たりしないよ」
その為に途中コンビニによってケーキとカップラーメン買ってきたんだしと冬吾君は言う。
その組み合わせに突っ込みを入れたいけどそれは敢えてやめておいた。
「そうじゃなくてさ、一緒にお風呂入ろう?」
「え?どうしたの?」
一度もしたことないから。
それだけじゃ理由にならないかな。
私も計算外だった。
そうだ、普通は最初に風呂に入る。
だから着替えに取っておけばよかった。
今更そんな事言ってもしょうがない。
だけど一度脱いだ下着を穿くのはあまりしたくない。
泉や冬莉は平気でするらしいけど。
「その方がにおいが残って高く売れるって聞いたよ」
「冬莉はどこからそんな情報仕入れてくるの!?」
答えは私にも大体わかるようになっていた。
「天音」
その後天音さんは愛莉さんにしっかり怒られたらしい。
それから愛莉さんと泉の母さんはたまにチェックするらしい。
「泉、お小遣い足りないときは父さんに言ってくれたらあげるから、馬鹿な真似はしないでおくれ」
「善君、泉にはカードと大金渡してるのよ!」
スマホにだってしっかりチャージしてある。
高校生で使い切れる額じゃない。
「それはわかってるんだけど、万が一酒井家の娘が使用済み下着売ってたなんてばれたら大ごとだよ」
泉のお父さんは泉の祖父に絞殺されるかもしれない。
泉からも実際小遣い足りないなんて話は聞いてない。
単にどうしてこんな汚い物買うのか不思議に思っただけだろう。
冬莉だってデビューして以来志希と一緒に収入がある。
普通の親なら管理するだろうけど愛莉さんは冬莉に任せた。
冬吾君もそうしているのだから当然ってのもあるし、冬莉が実際に写真撮っているのを部屋に洗濯物を回収にきた愛莉さんが見つけて激怒したらしい。
話がそれてしまった。
で、同じ下着を2日も穿きたくない。
でも今日の下着は冬吾君の為に準備したとっておきの物だ。
一度くらい見て欲しい。
「だめ?」
「瞳子がそういうこと言うなんて珍しいね。わかった」
そう言って冬吾君は着替えを用意して浴室に向かう。
私も浴室に入って服を脱ぐ。
冬吾君はすぐに気づいたみたいだ。
わかりやすい物にしていたから当然だ。
「これが瞳子のクリスマスプレゼント?」
「ちゃんと用意してるから心配しないで」
使用済み下着を買うような変態と付き合った覚えはないから。
「背中流してあげるね」
「僕も流してあげる」
「背中だけでいいの?」
「うん、あとはベッドで楽しむよ」
「あら?明かりをつけてするの?」
「あ、そうか。でも見ても平気なの?」
「見られたくない人とお風呂入らないよ」
「それもそっか」
そんなやりとりをして風呂を出るとケーキを食べながらテレビを見ていた。
普通の音楽番組を見ていた。
「あ、この人前に会ったことある」
サインを渡したらしい。
冬吾君は受け取らなかった。
私に気を使ったとかじゃない。
興味なかったから。
結構大物なんだけどな。
番組が終わるとなんとなく冬吾君が私の顔を見ている。
その意味は分かっていた。
私は冬吾君に身を預けて目を閉じた。
冬吾君だけなのか片桐家の男子は皆そうなのか分からないけど、事が終ったあとカップラーメンを食べだす。
「父さんが言ってた。事後って男性はエネルギーをかなり消費するんだって」
「愛莉さんからは聞いてないの?」
女性は一回だけじゃ満足できないんだよ。
冬吾君は笑った。
「男は次の準備までに時間かかるんだ。ごめんね。それに……」
「まだ何かあるの?」
「プレゼント交換しておかない?」
「あ、そうだね」
私は冬吾君にプレゼントを渡した。
冬吾君もプレゼントをくれた。
ペアのネックレスだった。
「僕もいつも身に着けているから」
冬吾君の言う意味はなんとなく分かった。
「あ、それと……」
冬吾君はスマホを操作する。
「瞳子をグループに誘っておけって母さんから言われてて」
冬吾君がいないと私に連絡が出来る人が冬莉だけになる。
SHを使えばいいけど個人的な相談だってある。
海外にいる間悩みとかあったら相談に乗ってあげたいから片桐家のグループに誘っておきなさいと愛莉さんが言ったらしい。
私が拒否する理由もなかったのでグループに入った。
「冬吾が浮気なんてふざけた真似したら、私が地中海に沈めてやるから心配するな!」
「天音はその言葉遣いをどうにかしなさい!結莉達が真似してるでしょ!」
賑やかな家族だな。
こんな中に私も溶け込んでいくのかな。
「じゃ、そろそろいいよ」
「うん」
そう言って休憩を入れながら疲れはてるまで行為をしていた。
「ねえ、瞳子。お願いがあるんだけど」
「まだするの?」
「そうじゃなくてさ、バレンタインの日でいいからあの下着してほしい」
冬吾君も男の子だったのだろう。
自分でほどいてみたいと言い出した。
「わかった」
その後冬吾君は私をじっと見ていた。
何か考えているようだった。
「どうしたの?」
「いや、誠司が言ってたんだけど」
海外に4年もいたら絶対欲求不満になるぞ!
まあ普通の健全な男性だったらそうだろうね。
「心配しなくてもエッチな動画見るくらいは許してあげるよ」
「そうじゃないんだ」
今、私の裸を写真に撮っておけばそう言う動画見ずに済むんじゃないか?
ぽかっ
「冬吾君のスケベ」
私がそう言って笑うと冬吾君も笑っていた。
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