姉妹チート

和希

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LET'S GET STARTED READY STEADY GO

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(1)

「二人とも何やってるの?そろそろ行かないと間に合いませんよ」

 そう言って愛莉が部屋に来た。
 私は冬眞の荷物を慌てて整理していた。
 それを見て愛莉はため息をついた。
 
「冬眞もやっぱりそうなのですね」

 愛莉が言うと私は頷いた。
 完全無欠と言われる片桐家の男子でも弱点はある。
 余計な事に興味を持つ。
 性欲よりも食欲が強い。
 そして、整理整頓が下手。
 で、冬眞は朝になってバッグに荷物が入らないと慌てていたので中身を見たらもうひどい状態だった。
 東京で着る私服を着る前からしわくちゃにしてどうするの!?
 そう言って冬眞と変わって冬眞のバッグの中身を全部出して一から整理していた。
 その時に発覚する忘れ物。

「昨夜あれだけ準備してたのにどうして忘れるの!?」
「しおりに書いてなかったから忘れてたんだよ」
「だからってスマホの充電器くらい持っておかないと旅行中持つわけないでしょ!」

 他にも髭剃りがないとか寝癖を直すつもりがないのかと文句を言いながらブラシを用意したりしていたら愛莉が来た。
 そんな説明をしながら愛莉と2人で急いで冬眞の荷物を準備する。

「なんで携帯ゲーム機を持っていくのですか!?」
「飛行機で暇だって茜が言ってたんだ」
「莉子の相手をしてあげようって気はないのですか!?」

 本当に世話の焼ける彼氏だ。
 荷物の準備が終わると愛莉が車に乗るように言う。
 どうせ学校に帰ってくるのは夜だから愛莉が迎えに行くから、学校にも送ってあげる。
 そう言って部屋を出るとリビングにはパパがいた。
 私達の様子を見て笑う。

「冬眞も空と同じだったんだね」
「冬夜さんも一緒でした……」

 困った血だと愛莉が漏らす。
 愛莉の車で高校に着くと皆すでに集まっていた。

「莉子達は時間ギリギリの上に車の送迎付きなんてすごい重役出勤だね」

 歩美がそう言って笑っていた。
 歩美に事情を説明すると笑っている。
 
「それ千帆達もやらかしたらしいよ」

 そう言って千帆を見る。
 どこに行く気だ?と目を疑いたくなるような荷物を持っているのを夜不安に思った亜依さんがチェックしたらしい。
 
「姫乃たちは何をしに修学旅行に行くつもりなの?」

 そう言って余計なものを全部取り除いていた亜依さんが不思議に思ったらしい。
 それは東京では私服を着るけどそれ以外は制服だ。
 そりゃブラウスの替えくらいはいるだろうけどどうして上着やスカートを何着も持っていくのか?
 下着もやけに多い。
 なぜだ?
 亜依さんが問い詰めると2人は白状した。
 それを聞いて亜依さんは唖然としてたらしい。

「その場で脱いで売ったら高く売れるって聞いたから」
「二人とも何を考えてるんだ!?修学旅行で制服売る馬鹿がどこにいるの!?」

 大体そんな簡単に買う人が見つかるわけないだろ。
 亜依さんが言うと2人は得意気に言った。
 二人とも買い手をSNSを使って見つけていたらしい。
 当然亜依さんは激怒した。
 こういう時父親が怒るものだと思っていた。
 しかし亜依さんの旦那さんがそんなはずがなかった。

「なんだ二人とも小遣い足りないなら父さんに売ってくれたらいいのに」
「お前は娘に何を求めてるんだ!」
「パパは気持ち悪いから嫌!」

 父親は気持ち悪いのに他人なら平気なのだろうか?

「そういや冬莉も同じ事言ってたな」

 冬眞が思い出したらしい。

「素直に小遣いが足りないと言えばいいのに」

 パパはそう言って笑って財布を持ってこようとすると愛莉が見つけて止めていた。

「別に制服欲しいわけじゃないよ」
「そういう問題ではありません!」

 片桐家では冬莉がいたころはよくあった光景だ。
 多分今度は陽葵と菫が同じことをするんだろう。
 陽葵と菫にとって、パパと善明はいい遊び道具だと思ってるみたいだし。

「うちも泉が母さんを困らせてます」

 善斗が笑って言う。

「自分の制服や下着を売って小銭を稼ぐなんてみっともない真似を酒井家では絶対に許しません!」
「別に小遣い欲しいわけじゃない」

 中古車1台軽く買える小遣いをもらっているのだからそのくらいの金欲しがるわけがない。

「たださ、私の洗ってない制服の方が高く売れるって冬莉が言ってたんだよね」

 どうしてそんなもん欲しがる男がいるのか理解できないと泉は言ったらしい。
 すると晶さんは頭を抱えて旦那さんに相談したらしい。
 酒井家では割と珍しい光景だそうだ。
 どんなにいろんな能力を持っていようと晶さんを悩ませる泉や結莉が間違いなく最強だろう。

「でも、千帆達がよくそんなに制服持ってるな」

 冬眞が聞いていた。
 冬眞は学ランなんて一着あればいいだろと言っていた。
 その割には自転車で派手にこけてズボンに穴開けたりして愛莉に怒られている。

「冬眞がみっともない格好をしていたら、恥ずかしいのは莉子なんですよ!」

 まあ、その時は私が縫ってあげたけど。
 その後愛莉が何着か予備を準備したらしい。
 女子はブレザーとはいえスカートが汚れたら洗うしかない。
 だから着替えが必要になる。
 私と同じだと思っていたら違うらしい。

「気分に応じて使い分けてるの」

 姫乃が説明した。
 今日は寒いしあまり冷やしたくないなと思ったら標準丈を。
 風が強くてスカートがひらひら舞ってうっとうしい時は短いのを穿くそうだ。

「ちょっとまって。風が強い時に短いの穿いてたら捲れたりするんじゃないの?」
「ああ、それなら俺が説明できる」

 冬眞が言った。
 標準丈のスカートをはいて自転車に乗っていると意外と捲れる。
 そのくせ下に短パンを穿いている。
 だから平気だと思ったらやっぱりみられたくないらしくて片手でスカートを押さえている。
 見られてもいいように短パン穿いてると思ったら違うんだな。
 長くても自転車の乗り方が悪かったら捲れる。
 逆に捲れない乗り方をしていたら短くても大丈夫だと冬眞が解説した。

「……で、なんで冬眞がそんな事に詳しいのかは説明してもらえるんだよね?」
「そんなの崇博から聞いたにきまってるじゃん」
「崇博!?どういうこと?」

 歩美が崇博を問い詰めた。

「あまりにも不可解な行動だったから兄さんに聞いたんだよ」

 崇博は悪びれもなく答えた。
 そういう知識は大体兄の誠司に聞けば分かるから聞いてるらしい。
 女性はあまり体を冷やすのはよくないから露出の高いのを嫌がるのは許してやれ。
 杏采の裸なんてのは崇博だけが見れたら問題ないだろ?

「そ、そろそろ皆整列してるよ」

 杏采が言うと私達は群れの中に入る。
 今日から修学旅行が始まる。

(2)

「おー!飛んだぞ!」
 
 クラスの男子がはしゃいで拍手をしている。
 そりゃ飛行機なんだから飛ぶだろ?
 スマホでゲームするのも考えたけどせっかくだから機内放送を聞いていた。
 古臭い曲が流れているけど今の曲よりはよっぽどましだ。
 歌手なのに見た目が売りという訳の分からないグループや歌手。
 冬吾が見たら袋叩きにしそうなくらい厚化粧をしているV系バンド。
 そんなのに比べたらはるかにましだ。
 最近聞く曲に困るという事はなくなった。
 冬莉達のグループの曲を聴いてればいいから。
 だからたまにこんな古い曲を聴くのも悪くない。
 父さんが好きだったユニットの曲も流れていた。
 父さんは愛莉にこのユニットのボーカルの真似をしてもらえたらしい。
 その事を白状した時愛莉に怒られるかと思ったらそうはならなかった。
 逆にそのボーカルの髪形に合わせてカットしたという。

「冬夜君がそういう事に興味持ってたことが嬉しいから」

 そう言って愛莉は笑っていたそうだ。

「で、冬眞は彼女の相手してくれないの?」
 
 隣に座っていた莉子がイヤフォンを取ってそう聞いてきた。

「だって飛行機の中で何しろっていうんだよ?」

 精々機内放送聞きながら寝てるくらいだろ。
 別に雲を写真に撮ろうとか思わないし。

「札幌着いたら何しようかとか相談するとかあるでしょ」
「それ意味無いって冬吾が言ってた」

 自由散策と言っても行くところなんてそんなにない。
 精々ラーメン食うくらいだ。
 冬吾だからかもしれないけどそのくらいしか魅力がなかったらしい。

「じゃ、東京は?」
「それって俺達だけで決めたら悪いだろ?」
「確かにそうだね」
「それなら私達も混ぜてよ!秋葉原行きたいんだ」

 前の席に座っていた千帆達が言った。

「なんで?」

 莉子が聞いたら千帆達はそろって答えた。

「メイド喫茶ってまだあるらしいよ!」

 面白そうだから行ってみない?
 そりゃ別にいいけど……千帆達女子だよな?

「楽しいのか?」
「世の中の男共がどんなことをしたら喜ぶのか研究する必要があるでしょ?」
「……姫乃、俺にそういう趣味はないぞ?」

 岳也がため息をついていた。

「あのさ岳也。別に浮気しろって言ってるわけじゃないんだよ?」

 ただ、学生のうちに遊んでなかった男性ほど浮気する可能性が高い。
 そんな話をどこから聞いたか知らないけど姫乃はそれで岳也に少し遊ばせてみようと思ったらしい。
 本当はススキノにでも放り込んでみようかと思ったけど自分たちにもあまりしてくれないのになんかいやだと抵抗を感じたそうだ。

「姫乃たちはそうなの?」

 莉子が聞いていた。
 ただ、腹を下しただけなのに岳也達は妙に気を使って「今日は無理だな」とか色々理由をつけて我慢してるらしい。
 そうしているうちに姫乃達が欲求不満になっているそうだ。

「岳也。とりあえずそう言う雰囲気になったら誘ってみなよ。姫乃だって馬鹿じゃない。そのくらい計算してる」

 無理な時は自然に姫乃達が断るはずだ。
 断られた時に落ち込まずに察してやればいい。
 あまりそう言うのを聞かれると姫乃達が困る。
 そうだった場合「じゃあ、無理だな」と落ち込むし、そうじゃなかった場合「検査薬買ってこようか?」と心配しだす。
 そんなに恐れていると「じゃあ、あんたとはもうしない!」と怒り出す。
 女子だって正確に把握してるわけじゃないんだから不安を煽るような真似はしない方がいい。

「……本当に姫乃達は計算してるのか?」

 岳也が不思議な事を言った。
 ちなみに莉子は毎日体温計っているし、カレンダーに不可解な印をつけている。
 多分聞かない方がいいと思ったので触れていない。

「なんでそう思ったんだ?」

 俺が岳也に聞いてみた。
 すると岳也は小声で話した。
 何度か姫乃とは経験している。
 なのに不思議なことが起きた。
 シーツが真っ赤に染まる。
 さすがに岳也も動揺したそうだ。

「あちゃ~。残念だったね」

 姫乃はそう言って笑いながらシーツを洗面所に持って行って洗っていたそうだ。
 その理由は姫乃から後で聞いた。

「だからさ、女子だって完璧じゃないんだって」

 莉子が説明する。
 規則正しい周期で毎回来るわけがない。
 体調によって早まったり遅れたりすることがある。
 男女の関係でありがちなケンカの理由が遅れた時。
 1か月くらい遅れることだってある。
 なのに男が慌てだす。
 山口の実家に逃げ帰った男もいるらしい。
 忘れたらいけない。
 そういう時に一番不安なのは女子なんだ。
 そんな時に彼氏が慌ててどうする?
 そういうケアが出来るのが彼氏なんじゃないのか。

「だからその手の話題はあまり女子だってしたくないし、姫乃に任せて恋を楽しみなよ」
「……なるほどな」

 岳也は納得したらしい。

「そう言えば冬眞はそういう心配全然してくれないね?」
 
 莉子は俺に話を振ってきた。

「自分で今理由を言ってたじゃないか」
「それでも多少は気にするんじゃないの?」
「言っておくけど同じ家に住んでるんだから逃げ出そうとか考えてないからな」

 愛莉たちだって黙ってないだろう。

「じゃあ、なんで?」
「父さんが言ってたんだ」
「パパが?」

 莉子が言うと俺は頷いた。
 父さんは神奈さんが修学旅行中に気分が悪くなったと言って騒ぎになった時に何のことが分からなかったらしい。
 それで父さんはどうしてなのか分からず愛莉に聞いたら愛莉や亜依さん達からかなり怒られたらしい。
 理由を渡辺さんから説明されて父さんはとりあえず「お腹大丈夫?」と愛莉に聞いたらしい。
 愛莉は笑っていたそうだ。
 その時にやっぱり渡辺さんから聞いたらしい。

「いいか?あんまり必要以上に女性の体調を気にするのはだめだ。彼女を不安にさせるだけだから、なるべく優しくしてやれ。何があっても責任はとるくらいの事は言ってやればいい」

 本当に事故を起こしたのなら絶対に責任を取らないとダメだ。
 両親や相手の両親に頭を下げるくらいは当たり前。
 その上でできた赤ちゃんをどうするかを彼女としっかり相談しろ。
 実家に逃げ出したり、お腹を殴って流産を図ろうとしたりするのは絶対だめだ。

「なんで勝手に子供作ったんだよ!」

 そのセリフは死亡フラグだと覚えとけ。
 心配するな。
 平気で隕石で地形を破壊する物語でもそんなドロドロした展開は望んでいない。
 ただ、そんな事態が起きなくてもそんな態度をとっていたら彼女の方から別れを言われても仕方ないぞ。
 そんな話を父さんから俺が聞いていた。

「渡辺さんって人は凄い人なんだね」
「そりゃ渡辺班のリーダーだしな」

 実質今は父さんが指揮しているみたいだけど。
 それでも渡辺さんが言ったらしい。

「全責任は俺が取る。そうじゃないと冬夜が自由に指示を出せなくなる」

 だから今でも渡辺班なんだそうだ。

「なるほどね」

 SHはそうじゃない。
 SHリーダー”空の王”を名乗る空は自らの責任で行動する。
 だけどそれを周りの仲間が認めない。
 
「お前は王なんだから、そこで構えてろ。実際に動くのは俺達だけで充分だ」

 空が動くと地形が破壊されて当たり前の世界。
 それを恐れているわけじゃない。
 空が動かないと何もできない情けない組織になりたくない。
 頭なんて何もしなくていいんだ。
 ただ、何かあったら責任を取ったらいい。
 そして次期の王も誰がなるか誰もが知っていた。

(3)

「おーい、鏡花たち何ぼーっとしてんだよ。寒いしさっさと行こうぜ」

 冬眞が言って私が急ごうとすると、直人が腕を離さなかった。

「地元と違うんだ。あまり急ぐと足を滑らせるぞ」

 確かに雪に埋もれるまでは想像していたけど思った以上に雪が踏み固められて油断すると滑りそうだった。
 冬眞達は「ただ寒い」と言ってたけど私達にとってはそうじゃなかった。
 地元から離れた場所にいた事はあったけど、こんな風に旅を楽しむなんて事はなかった。
 中学の時の修学旅行もSHと敵対していたからこんな風に穏やかな気持ちじゃなかった。
 だから当たり前の楽しみ方をずっと忘れていた。
 そんな現状に直人も戸惑っているんだろう。

「お前らどうせまたこんなに平和でいいのか?とかしょうもない事考えてるんだろ?」

 冬眞がそう言う。

「お前の面見てるとこっちまでしらけるんだよ」

 だからもっと楽しめ。
 雪ばっかりだし寒いしいいところ無いけどそれでも楽しまないと来た意味ないだろ?
 例えば北海道とか寒い地域は美人が多いらしいぞ。
 それを探すのもありだろ……

 ぽかっ

「冬眞は私の前でそういう事を平気で言うわけ!?」

 莉子に怒られていた。

「どうせ相手にしてくれないから見て楽しむだけだよ」
「それでもダメ!」

 そんな2人とそれを見守っているグループの皆を見ていると安心する。
 そうか、そういう風に楽しめばいいんだね。

「直人もお気に入りの子いた?」

 この流れに乗ってみた。
 それを直人も察したみたいだ。

「冬眞、それは無理だろ」
「なんでだ?」
「だって時期を考えろよ」

 皆ニット帽をかぶったりマフラーしたりで顔が分からない。
 顔のどこか一部分でも隠れていると綺麗かどうかなんて判断できないと直人が説明した。
 
「さすが直人慣れてるんだな」
「頼むからそういう事を鏡花の前で言わないでくれ」
「そうか、じゃあもう集合場所付近にラーメン屋あることに賭けるしかないな」
「冬眞はさっきラーメン食べたでしょ!」

 そんな風な日常会話をしながら歩いていく。
 雪の中を歩いているから足跡を残していく。
 もういまさら後戻りはしない。
 俺達にも幸運を下さい。
 二度と過去を振り返りはしないから。
 ここから俺たちの新しいステージが始まる。
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