姉妹チート

和希

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Spirit dreams inside

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(1)

 その晩莉子達は機嫌が悪かった。
 理由は一つ。
 修学旅行2日目スキー研修があった。
 私たちの班にもインストラクターがついた。
 ゲレンデマジックというやつだろう。
 男子はインストラクターに見とれていた。
 冬眞は片桐家でも特殊なようだ。
 もちろん崇博ですら口説くという行為はしなかったから冬眞もしていない。
 ただ綺麗な大人の女性。
 そんな話を夕食の時間中ずっとしていた。
 片桐家の子供は大体の事はこなすらしい。
 しかし面倒がってやろうとしない。
 それが片桐家の彼氏を持った女子の悩みの種。
 冬眞も例外ではなかった。
 しかしそんな冬眞がインストラクターにいいところを見せようと上級者コースでいきなり滑るという離れ業をやってのける。
 見せる相手が違うんじゃないのか?
 そんな事全く考えてないらしい。 
 すごいと褒めるインストラクターに得意気の冬眞。
 負けてられるかと崇博が無茶しようとするとさすがに歩美が止める。

「無理して怪我してレースに出れないなんてなったら母さんに全部言うからね!」

 歩美がそう言うとさすがの崇博も辞めざるを得なかった。
 千帆と姫乃はそもそも滑らなかった。
 理由は面倒だから。
 どうせ、一生に一度くらいしかしないスキーを習っても仕方ないと思った。
 だけどそんな理由を言っても却下されるのは分かってる。
 だから女性の最終武器を使うことにした。

「昨日からどうもお腹が痛くて……」

 当然嘘だ。
 そう言ってホテルの部屋でくつろいでいたらしい。
 だからスキーの様子なんて知らない。
 怒っている莉子達を宥める。

「男だって馬鹿じゃないよ。年上の大人相手に本気になるわけじゃないじゃない」
「私の馬鹿な兄はそんな事関係なく年上の高校生や大学生を相手にしてた」

 歩美が反論する。
 もちろん誠司のことだ。

「どうして男ってバカなの!?」

 歩美がそう母親に聞いたらしい。

「歩美、それは実は微妙に違うんだ」
「どういうこと?」

 すると母親は説明した。
 中には純情すぎて同い年の女子に話しかける事も出来ない男子も存在する。
 誠司の場合は父親の真似をしてるだけのただの馬鹿だ。
 男だからとか関係ない。
 父親の息子だからだ。
 崇博が異常なくらい真面目なだけだ。

「お、俺だって純情だぞ?」

 父親が言うと母親が怒鳴った。
 
「純情って意味を辞書で調べて来い!どこに娘の下着をあさる純情な男がいるんだ!?」

 そんな親もいるんだ……。
 
「まあ、たぶん冬眞達はそこまで考えてないよ」

 生のアイドル見てテンション上げてるような物でしょ。
 女性だってタレント見てキャーキャー騒ぐでしょ?
 多分インストラクターが男性だったら皆そうなるんじゃないの?

「確かに鏡花の言う通りかもね」

 莉子は納得したみたいだ。
 どうせ楽しむのは今のうちだろう。
 東京に行ったら皆男子を引きずり回すつもりなんでしょ?

「それもいいかもしれないね」

 姫乃がそう言って笑った。
 
「ところで鏡花達はあれからどうなの?」

 リベリオンに狙われているとか。
 莉子が心配していた。

「何かあったら絶対に莉子達は動かないで私に知らせろ。私が直々にいたぶってやる」

 天音に言われたらしい。
 天音の高校の修学旅行は韓国だったそうだ。
 焼肉食べ放題で満足しただろうと思ったけどそうじゃなかったみたいだ。
 焼肉しかないのか!?
 そんな不満をお土産にもってきたそうだ。

「私達酒井家にお世話になってるから」

 酒井家に手を出した馬鹿が次々と葬られているだけだった。

「それならよかった」
 
 莉子は安心したみたいだ。

(2)

「何を考えているのですか!?」

 愛莉がなんか怒ってる。
 美希に何があったのか聞いてみた。

「冬眞達がインストラクターに夢中になってたそうです」

 美希は笑っていた。

「インストラクターって美味しいの?」

 比呂が美希に聞いている。

「食べ物じゃないよ」
「そっか」

 そう言って空とテレビを見ていた。
 
「まったくあの子は何を考えているのでしょうか」

 愛莉が電話を終わってリビングで僕の隣に座る。

「まあ、年頃の男の子だったら普通じゃないの?」

 美希が言っていた。
 全く女性に興味が無いのも考え物だ。
 空の時は朝食に悩むくらいで後は夜ラーメン食べるくらい。
 色気も何もなかったそうだ。

「それは美希もだろ?」
「まあ、あまりアイドルとかは興味なかったので」
「……冬夜さんもそうでした」

 そう言って愛莉が僕を見る。
 
「あの時は石原君が恋をしたんだっけ?」
「そうでしたね」

 やはり冬眞がまともなんだろう。
 冬吾と冬莉も夕食後にラーメンを食べに行っていたらしい。

「で、崇博はどうだったの?」
「同じです。冬眞に対抗して無茶しようとするのを歩美が止めたそうです」
「誠司の弟にしては意外だな」

 誠司が高校時代の時はそんな余裕なかったみたいだけど。
 多分結や比呂の様子を見てる限り冬吾や空のタイプだろうなと思った。
 育ての親が美希と空だしな。
 女癖の悪いとかそういう事は多分ないだろう。
 すると電話が鳴る。
 
「誰かしら?」

 愛莉が電話を取る。

「片桐さんの家で間違いないですか?」
「ええ、そうですけど。どちら様ですか?」

 その一本の電話がまた事件を引き起こすことになる。

(3)

 絶好のチャンスが来た。
 リベリオンが分裂しようとしている。
 焦る神谷十郎。
 この機会を逃す手はないと判断したようだ。
 四宮達樹は誠心会の主力を地元に集めた。
 一気に潰すつもりらしい。
 すでに何件か襲撃が起きていた。
 そして決着をつけるべくこの公園に集結していた。
 人数は圧倒的にFGの方が上。
 ジハードは神谷家を切り捨てるつもりらしい。
 その事を神谷佳織から聞いていた。

「お前の手で俺を殺してくれ」

 彼氏の四宮健太から頼まれたらしい。
 理由は多分抗争に健太たちも巻き込まれるだろうから。
 佳織と戦うなんてできない。
 でもそうしないといけなくなってしまった。
 どんなに足掻こうと親が動けば従うしかない。
 もちろん佳織にそんな真似ができるはずがない。
 悩んだ末、家に電話をかけてきた。
 止めて欲しい。
 ただそれだけの為に。

「勝手につぶし合えばいい」

 そんな考えは誰も持っていなかった。
 父さんは僕に全部を委ねると言った。
 その晩SHの主要メンバーは集まった。

「空は見て見ぬふりをするつもりはないんだろ?」

 善明が言うと頷いた。

「でも私達が介入する口実がない」

 翼がそう言って考えている。

「そもそもそんなの必要なの?」

 僕が言うと皆が僕を見ていた。
 だから僕はにやりと笑って言う。

「いい機会じゃないか」
「そ、空。お前まさか……」

 天音が聞いていた。
 奴らの挑戦に乗ってやろうじゃないか。
 そして僕は一人両陣営の間に立っている。

「お前らSHは関係ない。引っ込んでろ」
「そうはいかない。お前たちには理由がなくても僕達には理由がある」

 四宮の言葉に僕が返す。

「ふん、いままで隠れていたお前らが今更何の用だ?」

 十郎がそう言うと僕はにこりと笑った。

「隠れていた?冗談じゃない。待っていたと訂正するよ」
「どういう意味だ?」

 十郎が言うと僕が説明した。
 FGだろうとリベリオンだろうと関係ない。
 標的は僕達SHなんだろ?
 勝手に二組でダンスして僕達を除け者なんてどういうつもり?

「ガキの喧嘩じゃないんだ。引っ込んでろ!」
「引っ込んでてもらいたいのはお前らだ。ガキ相手にこそこそ裏で動いて情けなくないか?」
「調子に乗るなよクソガキ。お前を今この場で殺すことくらい簡単だぞ?」
「できるならやってみろよ?おっさん」

 その言葉が合図だった。
 大地と善明が両陣営の持っている銃を狙い撃つ。
 こんなの夜の明かりのないところでよくそんな芸当が出来るなと感心していた。
 そんな真似しなくても僕に銃弾が当たるなんてことはまずないんだけど。

「王の護衛くらいまかせておくれ」

 善明が言うから任せることにした。
 それでも僕に襲い掛かろうとすると連中の足元に何発か撃っていた。

「今のが警告。次動いたら今度は殺すから」

 大地がそう告げる。
 しかし闇夜に紛れて動けるのは大地や善明だけじゃなかった。
 十郎の妻の友恵が見事に僕の死角をついて銃を向ける。
 しかし次の瞬間友恵はその場から離れる。
 友恵がいた場所に銃弾が撃ち込まれていた。

「警告って言ったろ?僕はまだ20代なんだ。殺人犯にはなりたくないから馬鹿な真似はやめてほしいんだけど」

 善明がそう言うけど、友恵は標的を善明に変えて善明に襲い掛かる。
 善明に銃口を向けると善明は何か動作をする。
 その後友恵は銃を捨ててすぐに回避する。
 友恵が捨てた銃の銃口にナイフが刺さっていた。
 その先頭を皮切りに両陣営が動き出す。
 
「勝手に動かないで欲しいんだけど」

 僕がそう言うと両陣営は動きをぴたりと止めた。
 僕が強制的にそうさせた。
 このまま天音達の餌にしてもいいけどそれじゃ同じことを繰り返すだろう。
 十郎と達樹だけ動けるようにした。

「お前らの目的は僕なんだろ?この場で相手してやるからさっさとこい」

 僕がそう言うけど二人は動かない。

「どうした?お前たちが束になってかかってきても倒せない僕がこうして目の前に立ってやってるんだぞ」

 そういうと「なめるな!」と襲い掛かってきた。
 言葉通りだ。
 当たり前の様に能力は使ってない。
 ただの大人の殴り合い。
 それでも負ける気はしない。
 二人が疲れて諦めて疲れはてるまで僕は一切容赦をしなかった。

「もう終わり?お前らってその程度なのか?」

 僕はまだ息をあげてすらいないぞ?
 タバコでも吸ってたか?
 この程度で諦めるくらいの恨みしか十郎は持っていなかったのか?
 達樹も僕達の縄張りを荒らすつもりじゃなかったのか?
 こんなもんで音を上げるくらいなら端から絡んでくるな。

「もういい……好きにしろ。俺達をどこに運ぶつもりだ?」

 達樹が言うと僕は座り込んでいる達樹の下に行くと思いっきり蹴とばした。

「……お前ら少しは自分で考えたらどうだ?」

 俺たちがどうしてここにいるか考えたのか?
 お前の息子や神谷佳織が知らせたんだ。
 親のしょうもない喧嘩で自分たちまで争わなければならない。
 二人がどんな思いで俺達に知らせたのか考えろ。
 親の都合で子供の仲を引き裂いていいのか?
 それがわからないなら望み通り海外旅行させてやる。
 達樹は何も言わなかった。

「今まで散々他人の家庭を崩壊させてきたお前らが言えることか?」

 十郎が言う。

「確かに僕達はそうしてきたのかもしれない。だからこうして今日相手してやったんだ」

 いつまで根に持っているつもりだ。
 お前らの子供は新しい小さな幸せを見つけたぞ。
 それをお前らが邪魔しているんだ。
 自分の恨みを晴らすために子供の希望すら奪い取るつもりか?
 これ以上そんな連鎖を続けていくのならまずその元を断ってやる。
 お前らの子供は幸せを見つけようとしている。
 光を探し当てたんだ。
 それを見守ってやるのが親なんじゃないのか?
 しかし友恵は俺と違う事を考えていたようだった。

「未来に光を……さすがは生温い環境で育ってきた者は考えが違うわね」

 そう言って笑っていた。
 なんだ?
 俺は何かミスを犯している気がする。
 
「母さん、もうやめよう?こんな事続けたって惨めなだけだよ」

 そう言って佳織が翼達と一緒に出てきた。
 そのとき全力でやばいと直感した。

「翼!まだ出ちゃだめだ!」

 翼も感づいたのか佳織の手を掴む。
 しかし遅かった。

「腐った蜜柑に用はない」

 友恵がそう言うととっさに佳織の前に健太が立って佳織を庇う。
 それを庇ったのが健太の父親の達樹だった。
 一発の銃声が鳴る。
 それは達樹の胸を貫いた。
 達樹が倒れるのを翼が支える。

「父さん!」
「健太!まだ出たら駄目だ!」

 大地がそう言ってあたりを警戒する。
 しかし善明はマズルフラッシュを見逃さなかった。
 素早くナイフを投げつける。

「どう?」
「わからない。まだ隠れてるかもしれない」

 さすがに認識していない敵にまで能力は行使出来ない。
 ただ翼たちを中心にバリアを張るのが精いっぱいだった。

「しっかりして!すぐに救急車を手配するから!」
「舐めるな……俺だってプロだ。今のが致命傷だってことくらいわかる」
「喋らないでじっとして!陽葵、早く止血して!」
「頼むから健太と紀子に合わせてくれないか?」

 翼も延命は難しいと悟ったのだろうか。
 健太と紀子を達樹と話をさせていた。

「お前、自分の子供を何だと思ってるんだ!?」

 天音が叫ぶ。

「ただの子供。それ以上でもそれ以下でもない、目的の邪魔をするなら処分する」

 恨むなら片桐家を恨んで死んでいけ。
 俺たちが余計な真似をしなければこうならなかった。
 今までにない怒りを覚えていた。
 こいつだけは絶対に許さない。

「まあ、いいわ。あなた達の介入で興ざめした。FGとやらとの勝負も四宮が自爆しただけというつまらない結末」

 片桐家への復讐はまたにしましょう。
 バリアを張るのに全力で神谷たちの拘束を解かざるを得なかった。
 彼らは黙ってこの場を去っていく。

「空、達樹があなたに話があるって」

 翼が言うので達樹の下に向かう。

「す、すまないが子供たちの事頼んでもいいか?」
「心配するな。少々増えたところで問題ない」
「それともう一つ。誠心会の後釜はもう決まってる」

 だからFGの支配はまだ続くだろう。

「信じられないかもしれないがこれが常識の危険な世界だ。用心しろ」
「……わかった。お前はもう何も心配しなくていい」
「まさか敵にこんな言葉をいうことになるとはな……ありが……とう」
  
 それが達樹の最後の言葉だった。
 紀子と健太が必死に父さんと叫ぶ。
 しかし腕をだらりとして目を閉じた達樹は救急隊が駆けつけた時にはもう事切れていた。

(4)

 管轄外だったけど父さん達から連絡を受けてすぐに南署に駆けつけた。
 空達は取り調べを受けている。
 さすがに地元だけでなく全国規模に発展していた3グループの抗争に、警察もただ指を咥えているだけでは済ませられなかった。
 だけど、恵美さん達が介入してすぐに釈放されるだろう。
 翼は泣きじゃくる四宮紀子と健太を慰めていた。
 父さんと愛莉も駆けつけていた。

「愛莉、止めても無駄だからな。あの女だけは絶対に許さねえ」
「天音の言うとおりだ。ふざけた真似しやがって……。あいつをぶっ殺すまでは絶対止めねえぞ。そんなに死にたいなら全面戦争してやる」

 天音と水奈は怒っている。
 しかし学は慎重派だった。

「お前たちはそれでいい。だけど恋や瑞穂……梨々香達だっているんだぞ」

 簡単に戦争していい相手じゃない事はさっき分かっただろ?
 自分の子供に躊躇うことなく銃を向ける奴相手だ。

「ふざけんな学。だからなんだ!?そんなふざけた真似する前に棺桶にぶち込んでやる」
「学、止めても無駄だと思う。さっき父さんから話を聞いた限りだと……」

 多分空の逆鱗に触れただろう。
 絶対このままただで済ますわけがない。
 そう、学に説明していると空と善明と大地が出てきた。
 天音はここが警察署だという事すら忘れてるくらい怒っていた。

「大地!ロケラン出せ!空爆くらいじゃ私の気が済まない。奴らの家は全部割り出してんだ。私が直々にさばいてやる」

 ロケット弾を体にぶつけてひき肉にしてやる。
 
「母さんに頼んで、可能な限りの武器を用意してもらう」
「僕は何も言わなくても母さんがやる気だよ……」

 大地と善明が言う。
 だけど空は何も言わない。

「空!お前今更ビビったとか言ったらてめぇの口にパイナップルぶち込むぞ!」

 天音の怒りを愛莉が抑えようとするけど収まりそうにない。
 このままだと恵美さん達が駆けつけた時には大事になりそうだ。
 すでに大事になっているけど。
 しかし空は何も言わない。
 どうしてだ?
 まさか本当にビビったのか?
 こういう時のSHの行動は空が決める。
 皆が空の一言を望んでいた。
 すると様子を見ていた父さんが空の頬を打った。

「安い挑発に乗ったらだめだ。空がSHの王なんだろ?」
「……どういうこと?」

 翼が父さんに聞いていた。

「翼は空の心が読めるんじゃないのか?」
「それがなんかどす黒い感情に包まれていてはっきりわからないの」
「それが空の答えだよ」

 空は後悔と憎悪に包まれている。
 自分の判断ミスだ。
 子供たちが出てきた時点で子供たちにバリアを展開するべきだった。
 どうして狙撃手の存在を想定していなかった?
 あの公園にはうってつけのビル等の建物がなかったなんて理由にならない。
 空も天音達と一緒なんだ。
 自分一人で始末しようとかそんな事を考えているのだろうと父さんが説明した。

「ふざけんな。手前だけ美味しいとこもっていくなんてゆるさねーぞ!」
「天音の言うとおりだよ、一人だなんて絶対だめ」
「二人とも落ち着いて。それが彼らの思惑だと気付いてない時点で彼らの術中にはまってるんだ」

 父さんが言うと2人とも父さんの顔を見た。

「恨むなら片桐家を恨め。そう言ったそうだね?」
「うん」
「彼らの目的覚えてる?」
「え?」

 翼が考え込む。
 すると空が替わって答えた。

「神谷たちと同じ気分を味合わせてから殺す」
「……少しは落ち着いたかい?」

 空が答えると父さんがにこりと笑った。

「ごめん、ちょっと頭冷やす」
「そうしたほうがいい。ファミレスにでも寄って行こう」

 ここは警察署。
 人殺しの話なんてしていい場所じゃないと父さんは笑った。
 ファミレスに着くと空は黙々と食っている。
 それをみんなが見守っていた。
 天音達が何か言おうとすると父さんが止めている。
 そして最後にフライドポテトを食べ始める頃「そろそろ説明をしてあげなさい」と父さんが言った。
 父さんが説明をしてもいいけどSHは空のグループなんだからと言う。
 すると空は話を始めた。

「健太は翼達に任せてるけどさすがに佳織は無理だ。誰か手が空いてる人いない?」
「そうじゃねえだろ!あの女の処刑方法考えるのが先だろ!?」
「そんなの後でいいさ」
「お前まさか本当にビビったのか?」
「天音、落ち着け。さっき父さんが言っていただろ?」

 そうやって僕達に恨みや憎しみを抱かせて満足してから始末する。
 それがリベリオンの目的。
 ただSHに対抗しようとしているFGとはちょっと違うんだ。

「だからそれがなんだっていうんだ?」
「……なるほどですね」

 善明は気づいたようだ。
 俺もさっきから薄々感づいていた。
 こういう時こそ冷静になれ。
 まず最優先すべきことはなんだ?
 3人の生活を確保してやる事だ。
 3人の幸せを願う事だ。
 リベリオンを放っておくつもりはないけど、まずは命を落とした者達を安心させてやること。
 達樹は恨みを晴らせと言ったんじゃない。
 紀子たちの未来を空に託した。
 だったらそれをしっかりと受け止める事が最優先すべきことだ。
 こっちからリベリオンの用意した舞台に上がる必要はない。

「……ちょっと母さんと話をしてくる」

 そう言って店を出る水奈。

「そのあとリベリオンの奴らはどうするんだ?」

 天音はまだ納得がいかないらしい。
 空の替わりに翼が答えた。

「空がいつも言ってる基本だよ。後出しじゃんけん」

 こっちから動く必要はない。
 仕掛けてくるのを待つだけ。

「そ、それって俺はいいけどなずなとかが危険なんじゃ」
「そんなわけない。そうだろ?大地」
「母さんには言ってるから大丈夫」
「じゃ、恵美さんに言っておいてくれない?」

 殺さないで、僕達に渡してほしい。

「何するつもりなんだ?空」
「ああ、ちょっと思いついたことがあった。たまには挑発してやろう」

 ほらさっさと殺されに来いと。
 その方法を空が話すと天音達が盛り上がっていた。

「本気か!?空」
「人一人死ぬくらいでビビる連中じゃないらしいからね」
「……ところで旦那様。その方法どこで知ったの?」

 美希が聞いていた。
 空は平然と答える。

「そういう処刑方法のサイトがあって父さんと見てたんだ」
「結が見るかもしれないのにダメでしょ!」
「冬夜さんもです!何考えているんですか!」

 二人とも怒られていた。
 すると水奈が戻ってきた。

「佳織は母さんが責任もって世話してくれるって」

 神奈さんに頼んでいたらしい。
 片桐家はさすがにもう一杯いっぱいだ。
 増築でもしない限りこれ以上は引き取れない。
 その反面、水奈や誠司が家を出た多田家なら余裕がある。
 ただ問題は誠さんだ。
 女の子を引き取るからには何かしら企んでいるかもしれない。
 
「まあ、大丈夫だろ。あの馬鹿の企みは大体失敗するから」

 神奈さんはそう言ったらしい。

「誠の娘か……」

 父さんはそう言って笑っていた。

「あれ?じいじは娘に甘えたいの?」
「それなら私達がいるから平気でしょ?」

 菫と陽葵が言うと「いい加減にしなさい!」と愛莉が怒る。
 話が決まったところで俺たちは家に帰る。
 死者の望みは復讐じゃない。
 残していった者が幸せに生きていくこと。
 SHは災いを振りまいていくグループじゃない。
 幸せと微笑みをばらまいていくグループだから。
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