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Rebirth
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(1)
「ねえ、誠司。誰と話してるの?」
シャワーを浴びてくると誠司がPCのモニターに向かって話をしてる。
もちろん画面に向かって独り言を言ってるわけじゃないのは、誠司がヘッドセットをしてるのを見てわかった。
誠司は私が戻ってきたのを気づくと「じゃあ、またな」と言って通話を止める。
「ちょっと友達と話していただけだよ」
「じゃあ、どうしてすぐに切るの?」
「そうだな……」
「相手は誰?」
浮気をするような奴じゃないけどやっぱり不安だ。
ちょっと問い詰めていた。
誠司も必要以上に隠すと面倒になると思ったのだろう。
あっさり白状した。
「冬吾だよ」
片桐冬吾。
日本代表でコンビを組んで日本に圧倒的な力を与えている二人。
誠司もチームでトップクラスに位置するけど、冬吾はさらにその上をいってるらしい。
誠司に唯一「こいつだけは敵に回したくない」と言わしめた人物。
興味があった。
それに気になる事があった。
気のせいだといいんだけど。
「誠司は冬吾に私の事話してないの?」
「……ごめん。あいつには話せない」
「どうして?」
別に怒る事でもないけど、隠している理由くらいは知りたい。
「あいつさ、日本に婚約者がいるんだ」
誠司がそう答えた。
「それが私の事を言えない理由とどういう関係があるの?」
すると誠司が説明した。
誠司は4年間サッカーに打ち込むと日本を発つ際に話したそうだ。
冬吾も彼女の中山瞳子に「4年間待って下さい」と話した。
4年間会わずにひたすらサッカーに打ち込んでいる冬吾。
なのに誠司はイタリアで彼女を作ってしまった。
それを後ろめたく感じているらしい。
サッカーに打ち込むんじゃなかったのか?
そう言われるのが怖い。
それに先走って「彼女が出来た」と言って4年間続くのか自信がない。
それは前に話してくれた過去の出来事が理由だろう。
自分には彼女を幸せにする力があるのか?
いつも悩んでいるらしい。
「やっぱり誠司か」
そう思われる羽目になるんじゃないか。
「日本では恋人になるのは一人だけって決まりでもあるの?」
「そんなわけじゃないよ。この間だって友達が振られたけど他の人見つけたって言ってた」
「じゃあ、問題ないじゃない」
別に私と続かなくてもいいじゃない。
私は言ったはずだ。
誠司と今の関係が4年続いていたなら日本についていくって。
続かなくても他にいい人が出来ればそれでいい。
そんな先の事を考えていてもしょうがないでしょ。
今の自分が楽しくやれているならそれでいい。
冬吾達だってそうだ。
友達が彼女と一緒にいるからって妬むような人間が友達なのか?
「もう一つさ……なかなか作れない理由があるんだ」
それが冬吾達に言えない理由。
「俺は冬吾達と違ってあることに気づいてしまったから」
「それは何?」
私が聞くと誠司は答えた。
「女性の恋愛って上書き保存なんだって実感したんだ」
誠司と元カノの話は聞いている。
気づいたら元カノは別の彼氏を作っていた。
別れる時は誠司の事など気にもかけず、ただ新しい彼氏の事だけを気にかけていた。
もう元カノの中では誠司との関係は過去のものになっていた。
原因は自分にあったとしても、その急変は誠司のなかでトラウマになっていた。
私も同じなんじゃないか?
最終予選までは誠司達は呼ばれなかったけど、最終予選では誠司達は招集されて何日か海外に遠征していた。
その間も私に連絡はしっかりしてくれた。
それほどまでに私の事を思ってくれているのは、誠司は私が変わってしまうのを恐れているんだ。
まだ「友達と同棲している」という事実にしておいた方がいいんじゃないか?
少なくとも冬吾達に知らせる事じゃないんじゃないか?
誠司は色々不安を打ち明けてくれた。
「私の事を信用してくれないの!?」
そうやって怒るのは私にだって出来る。
でもそんなことしてもきっと逆効果だ。
「……分かった」
「やっぱりダメか?」
「そうじゃないよ。それって私を失うのが怖いって事でしょ?」
「あ……」
誠司が自分が言った言葉の意味に気づいた時に私は誠司を抱きしめていた。
「誠司が私を大事にしてくれているのは分かっている。でも私は誠司に心配をかけている」
言い方を変えたらそういう事だろう。
「信用してないって言わないんだな」
「何かで読んだことがある」
人を信じるってことは口にすることは簡単だけど、実行するのは難しい。
少しでも疑わずに盲目的に信用される関係になるなんてわずか知り合って数か月の私と誠司の間では難しい。
だから私が出来ることはいつか誠司が「俺の彼女」って胸を張って紹介される存在になりたい。
ただそれだけの事。
「パオラは優しいんだな」
「今頃気づいたの?」
大丈夫、まだ過去を引きずっているならそれでいい。
でもいつかそれは過去のものになる時が来る。
その時まで待っていてあげるから。
だけど……。
「どれだけ経っても後悔と憎悪は忘れない」
そしてどこまでいっても目の前には絶望と希望がある。
それを共に乗り越えて行こう。
私は誠司に背中を預けてる。
あとは誠司が私の事だけを思ってくれる日を待っている。
誠司が後悔してる過去の誠司なんて今の誠司にはない。
でもそれを私や他人が言っても誠司が認められないならしょうがない。
自分で自信が持てるまで見守ってあげる。
生まれ変わった自分に気づくまで待っていてあげる。
イタリア人はヨーロッパの中でもチャラそうに見えるらしいけど、私は違う。
日本人は仕事真面目だと思われていてもそうではない人がいるように。
私の相手は誠司って決めたから覚悟しなさい。
そのくらいで揺らぐような恋なら最初からしない。
私がそう言うとやっと誠司が笑ってくれた。
「ありがとう」
「当然の事でしょ?」
「あのさ、明日一緒に通話しないか?」
「誰と?」
誠司の中で一つハードルを越えたようだ。
いくつハードルがあっても一緒に乗り越えよう。
そんな夜を過ごした。
(2)
あれ?
この人誰だろ?
イタリア人なんだろうな。
色が白くてとてもきれいな人。
「ハジメマシテ」
そう言って礼をしていた。
いいところのお嬢さんなんだろうか?
とりあえず誠司に聞いてみた。
「誠司、この人が前に言ってたマネージャー?」
「わ、馬鹿……」
「誠司はそういう風に言ってたんだね」
イタリア人の女性はそう言って笑っている。
なんとなく二人の雰囲気を見て分かってしまった。
だけど誠司から紹介するのが普通だろう。
そして誠司が紹介してくれた。
「俺の彼女のパオラ・アルマーニ。パオラ、彼が片桐冬吾」
そう言っていた。
そうか、誠司もやっと彼女が出来たのか。
よかったね。
「もう、馬鹿な真似はやめろよ」
また何年も孤独を味わうことになるよ。
だけどパオラさんは違うみたいだ。
たどたどしい日本語で話そうとしていたので「イタリア語で大丈夫」とイタリア語で言った。
どうして僕がイタリア語を覚えたのか。
それは高校時代にイタリアとスペインでかなり悩んだ。
ドイツやロシアはあまり興味なかった。
おいしそうな料理なさそうだし。
で、どっちからオファーが来てもいいように勉強しておいた。
「彼の変態癖は前の彼女の話を聞いた時に知ってるから大丈夫」
不思議なのはパオラにはそういう要求はないらしい。
前にも言ったけど夜遊びもほとんどなくなった。
その代わり朝まで飲みながらPCでゲームをしていて試合当日に二日酔いをおこして監督に怒られたらしい。
日本でも大分事件になったそうだ。
最終予選の終盤で誠司が故障した。
そんな不安が日本中を包んだらしい。
チーム側は「体調不良」としか報道しなかったらしい。
当たり前だ。
サッカーのプロが「二日酔いで試合どころか練習も無理」なんてばれたら大騒動だ。
実際桜子がかなり怒っていたと空から聞いていた。
パオラと大ゲンカして決めたそうだ。
「遅くても時間になったら寝なさい!」
朝に迎え酒なんて絶対に許さない。
朝ごはん等も外食ばかりだったけどパオラがちゃんと栄養を考えて作ってるそうだ。
どうしてパオラにそんな事が出来るのか?
パオラの兄もサッカー選手だったそうだ。
サッカーで挫折して今は亡き人になった。
だから、サッカーを憎んでいた。
だけど、誠司に会って変わった。
「俺が許してやるからもう自分を責めるのを止めろ」
誠司はそう言ったらしい。
それから付き合っていた。
どうして今まで黙っていたのかはなんとなく分かる。
いい人じゃないか。
「大事にしてやれよ」
「やっぱり羨ましいか?」
「そりゃね」
誠司は彼女と同棲。
僕は4年間会えない。
だけど会えないから別れが待ってるなんてことは思っていない。
栗林瑞穂も似たような状況だったんだから。
瞳子の事を信じているつもりだ。
それに毎日会っていたら余計なケンカが待っているかもしれない。
結局がお互いの事をどれだけ思いやれるかだと思う。
「日本では遠距離恋愛って特殊なんですか?」
パオラが聞いた。
日本は島国だから外国って言うと遠くに感じるけど、ヨーロッパだと例えば沖縄から北海道に移動するより近いところもある。
だから異国間の恋愛なんて別に特別でもないらしい。
ただ文化が違って上手くいかない事はあるけど、離れていて寂しいなんてことはそんなにないらしい。
寂しいと思うなら彼のいる国に行けばいい。
親元を離れるのが寂しいなんて事を言って甘えられるのは子供のうちだけ。
実際にパオラも親に説明して、誠司を親に紹介して同棲している。
最近隠しているのはその事だったのか。
「じゃ、俺の親にも説明しないといけないから」
「分かった。僕も瞳子と話がしたいし」
「頑張れよ」
「誠司もね」
そう言って通話を切るとすぐに瞳子から通話が来た。
瞳子に誠司の事を伝える。
「やっぱり冬吾君は寂しい?」
「寂しくないって言ったら瞳子が怒るだろ?」
「まあ、そうだけど……」
私が中退してスペインに行ってもいいんだよ?
「約束は守るつもり。せっかく大学に入学できたんだから頑張りなよ」
別に専業主婦になる必要はないんだから。
僕だってずっと練習しているわけじゃない。
精々90分くらい調整をするだけだ。
あとはアウェイで試合するときに移動したときに家を空けるだけ。
瞳子の代わりに家事をすることくらい普通にできるよ。
現に今自分の家でやっているんだから。
スペインに来て分かったこと。
日本がどれだけ食に恵まれているか?
見方を変えるとどれだけ味にこだわっていないか。
海外ではそんなにデリバリーのサービスがないから、店に行くか自分で作るかしかない。
スペインの食材で作れそうなのを作って食べている。
ひょっとしたらフランスの方がよかったかもしれない。
「冬吾君の基準は料理なんだね」
そう言って瞳子が笑っていた。
「だからやっぱり専業主婦になるよ」
「どうして?」
「どうせ一緒に暮らすなら冬吾君の好みを教えてもらわないといけないし」
「わかった」
「冬吾君は気をつけてね」
二日酔いなんて絶対だめだよ。と瞳子が念を押す。
「約束忘れてないから大丈夫」
「そっか」
「瞳子の方は一人暮らしどう?」
「それがさ……」
何もないんだそうだ。
たまにFGやらリベリオンやらが事件を起こす程度。
あとはバイトと学校生活とたまに飲み会。
いたって普通の学生生活を過ごしているようだった。
(3)
「この馬鹿!」
カンナが誠を叱っている。
誠司もパオラに聞かれたらしい。
「男の人ってそんな事気にするの?」
「父さんは声で興奮するらしいんだ」
「ふーん……、誠司はどうなの?」
「そりゃまあ、パオラが気持ちいいのかなってくらいは気にはするさ」
「それは日本人の女性は一々伝えてくるの?」
「へ?」
「恋人と行為をしているのに気持ちよくないわけないとこの前友達と話していて」
「それってアントニオの彼女?」
「そうだけど、それがどうかした?」
「いや、やっぱ日本人よりでかいのかな?って気になってさ」
「日本人はそんなことまでいちいち比較するの?」
「気にはなるじゃん」
「じゃあ、私が他の男の方が誠司よりでかいって言ったらどうする?」
大体私は誠司が初めてなのに誰と比較したらいいの?
精々小さい時に見た父親くらいしか知らないとパオラは言ったらしい。
「それに長すぎても問題あるって友達が言ってた」
「なんで?」
「全部入れられないから。痛いんだって」
それで断っても「先っぽだけ」と言って頼むらしい。
大体先っぽだけで済ませないのが男らしいけど。
まあ、済むわけないよな……。
ぽかっ
「冬夜さんは余計な事考えないでください」
愛莉が機嫌悪くしてるからこの辺にしておこう。
今日は多田家の人間と食事をしていた。
孫たちは話を気にすることなく食事に夢中になっている。
理由はもうすぐ年末を控えて新年を迎える。
するとサッカーが趣味な人なら誰もが一度は聞いたことがあるだろう。
バロンドール。
世界で優秀な選手に贈られる称号。
冬吾と誠司が少ない候補の中にノミネートされていた。
さらに12月に絞られて最終的に1月に発表される。
それに誠司に恋人が出来たらしい。
イタリアのミラノの名家のお嬢様らしい。
今は誠司と同棲して誠司の体調管理をしている。
放っておくと試合前に朝まで飲む誠司だ。
一安心といったところだけどカンナはまだ心配があるらしい。
その一つがさっきの会話だ。
誠は馬鹿なことを聞いた。
「イタリア人の女性って寝るときどんな声だすんだ?」
「スィ・スィって言うんだ」
イク事をヴェニーレと言ってイキそうになるとスト ヴェネンドと言うらしい。
策者も馬鹿なことほど熱心に調べる。
スィというのはイエスという意味らしい。
女性の声は息を吸うか吐くかで変わってくるらしい。
世界各国で違うけど大別するとこの二つらしい。
ちなみに愛莉は夢中になると声がすごく大きくなる。
ぽかっ
「冬夜さんは余計な事考えないでください!」
「でも、愛莉の声は確かによく響いていたよ」
翼が言う。
「うぅ……」
愛莉が困っていたけど、それを助けたのは天音だった。
「翼、お前が愛莉の事言えるのか?空と一緒の部屋だった時、防音が聞いてるのに聞こえていたぞ」
「うそっ!?私結構我慢していたんだよ」
翼と天音の話を空と大地が笑いながら聞いている。
誠は余程他人の声が気になるらしい。
娘や息子の彼女の声まで聞きたがる性格なんだそうだ。
すると学が言い出した。
「水奈は静かなんです」
「え?」
カンナが驚いていた。
水奈が怒り出す。
「余計な事言わなくていいだろ」
「いや、俺も話を聞いていたら不思議に思えてきたから」
ただ恥ずかしさのあまりに震えながら学を抱きしめて大人しくしているらしい。
自分のやり方が下手なんだろうかと悩んだらしい。
「そういう悩みがあるなら言ってくれたら俺が多田家直伝のテクニックを……」
「いい加減にしろ!」
「水奈は学に不満があるのか?」
天音が聞いたら水奈は首を振っていた。
「してくれるってだけで嬉しいんだ。滅多に誘ってもくれないからさ」
ただ、周りに声が漏れるのが恥ずかしい。
だから出さないようにしているらしい。
そんなに大声をだしているらしい天音や翼が不思議らしい。
「ちなみに母さんも結構大きいぞ」
「ば、ばか。余計なこと言うな」
カンナが慌てている。
カンナの声か……。
ぽかっ
想像するのもだめらしい。
「で、神奈の悩みって何?」
愛莉が話題を変えようとしていた。
「私も誠と2人で生活していた時あったろ?」
あの時の誠はやりたい放題だったらしい。
喧嘩した挙句亜依さんと2人で家出したことがある。
その結果誠は反省したが、問題はその後らしい。
部屋を3年間掃除したことがないという女性の部屋が紹介されていたけど、その状況を誠はたった2日で作り出したらしい。
お前こそファンタジスタなんじゃないのか?誠。
「でも冬吾から聞いたけど割と真面目な生活してるらしいよ」
冬莉がそう言った。
片づけどころか家事という事を全くしない。
それどころか食事すら自炊せずに外食で済ませているらしい。
冬吾も同じかと思ったけど違うみたいだ。
「日本食が恋しい」
だからスーパーで似たような食材を買ってきて食べてるそうだ。
とにかく私生活がでたらめな誠司をパオラがサポートしているそうだ。
僕がバスケをやっていた時に愛莉が栄養面をサポートしていたのと似ている。
カンナも誠の食事は気を配っていた。
それを考えずに外で飲みまくって遊んでいるのが誠だったけど。
「俺は試合に出れないくらいような酔い方をするほど弱くない」
「そうじゃないだろ!試合前日くらい控えるとか注意しなきゃだめだろ!」
確かに誠はどんなに酔っても酔いつぶれることはなかった。
しかし酔った時の誠と桐谷君は渡辺班の最大の問題だった。
まあ、木元先輩や檜山先輩も似たようなもんだったけど。
パオラは上手い事誠司を説得したらしい。
「勝利の美酒って言うんでしょ?一緒にそれを楽しもうよ」
「負けたら飲めないのか?」
「そう思ったら勝とうと思うでしょ?」
落としていい試合なんてない。
リーグ戦でも当たり前だ。
たった一回負けただけで予選突破が危うい状況になる。
実際誠司と冬吾は海外のクラブに慣れなきゃいけないからと1次予選や2次予選は招集されなかった。
その結果、ちょっとした油断で4点差で負けが付いた。
監督や運営陣への責任が当然のように問われた。
やはり二人を呼ぶべきだったんじゃないか。
しかしここ何十年も本大会に出場している日本。
二人だけで強くなったなんて言わせないと意地でも勝ち上がった。
リーグ戦だろうとトーナメント戦だろうと負けていい試合があるわけない。
よほど故障しているとか、体調不良とかない限りベストメンバーで勝ちに行きたいのが本音だろう。
約束された勝利の剣。
冬吾をそう賛辞する者がいるくらいに冬吾の存在は重要だった。
だから本大会前に故障されたらかなわないし、所属しているチームにも責任を取らないといけない。
韓国戦ではあえて冬吾を外していた。
サッカーの試合で足の骨を折りに来るチームだから仕方ない。
冬吾のサッカー生命にかかわる。
冬吾を抜いたくらいで負けるはずがない。
翼や天音、冬吾と冬莉にはライド・ギグという能力が与えられている。
誠司のサッカーのプレイはそれに近い。
常に試合を優勢に持っていき、仲間の能力を最大限以上に引き出す。
「鬼軍曹」
誠司の事をそう評するものもいるそうだ。
そんな誠司の力でもやはり冬吾には勝てないようだ。
「次はもう少し対策練ってくるさ」
誠はそう言ってビールを飲む。
まあ、常にあらゆる戦術を考えないと冬吾に勝つのは難しいだろう。
だって冬吾も毎日鍛錬しているのだから。
最強の盾と言われた誠司のチームの壁すら軽々と突き破る冬吾の攻撃。
まあ、誠司がリスクを覚悟で先制を狙った結果裏目に出たんだろうけど。
「次と言えばクラブワールドカップか?」
「そうなるな」
不安だった誠司の私生活も改善されていた。
次はもっと強力なライバルになって冬吾に挑んでくるだろう。
誰もがそう思っていた。
「ねえ、誠司。誰と話してるの?」
シャワーを浴びてくると誠司がPCのモニターに向かって話をしてる。
もちろん画面に向かって独り言を言ってるわけじゃないのは、誠司がヘッドセットをしてるのを見てわかった。
誠司は私が戻ってきたのを気づくと「じゃあ、またな」と言って通話を止める。
「ちょっと友達と話していただけだよ」
「じゃあ、どうしてすぐに切るの?」
「そうだな……」
「相手は誰?」
浮気をするような奴じゃないけどやっぱり不安だ。
ちょっと問い詰めていた。
誠司も必要以上に隠すと面倒になると思ったのだろう。
あっさり白状した。
「冬吾だよ」
片桐冬吾。
日本代表でコンビを組んで日本に圧倒的な力を与えている二人。
誠司もチームでトップクラスに位置するけど、冬吾はさらにその上をいってるらしい。
誠司に唯一「こいつだけは敵に回したくない」と言わしめた人物。
興味があった。
それに気になる事があった。
気のせいだといいんだけど。
「誠司は冬吾に私の事話してないの?」
「……ごめん。あいつには話せない」
「どうして?」
別に怒る事でもないけど、隠している理由くらいは知りたい。
「あいつさ、日本に婚約者がいるんだ」
誠司がそう答えた。
「それが私の事を言えない理由とどういう関係があるの?」
すると誠司が説明した。
誠司は4年間サッカーに打ち込むと日本を発つ際に話したそうだ。
冬吾も彼女の中山瞳子に「4年間待って下さい」と話した。
4年間会わずにひたすらサッカーに打ち込んでいる冬吾。
なのに誠司はイタリアで彼女を作ってしまった。
それを後ろめたく感じているらしい。
サッカーに打ち込むんじゃなかったのか?
そう言われるのが怖い。
それに先走って「彼女が出来た」と言って4年間続くのか自信がない。
それは前に話してくれた過去の出来事が理由だろう。
自分には彼女を幸せにする力があるのか?
いつも悩んでいるらしい。
「やっぱり誠司か」
そう思われる羽目になるんじゃないか。
「日本では恋人になるのは一人だけって決まりでもあるの?」
「そんなわけじゃないよ。この間だって友達が振られたけど他の人見つけたって言ってた」
「じゃあ、問題ないじゃない」
別に私と続かなくてもいいじゃない。
私は言ったはずだ。
誠司と今の関係が4年続いていたなら日本についていくって。
続かなくても他にいい人が出来ればそれでいい。
そんな先の事を考えていてもしょうがないでしょ。
今の自分が楽しくやれているならそれでいい。
冬吾達だってそうだ。
友達が彼女と一緒にいるからって妬むような人間が友達なのか?
「もう一つさ……なかなか作れない理由があるんだ」
それが冬吾達に言えない理由。
「俺は冬吾達と違ってあることに気づいてしまったから」
「それは何?」
私が聞くと誠司は答えた。
「女性の恋愛って上書き保存なんだって実感したんだ」
誠司と元カノの話は聞いている。
気づいたら元カノは別の彼氏を作っていた。
別れる時は誠司の事など気にもかけず、ただ新しい彼氏の事だけを気にかけていた。
もう元カノの中では誠司との関係は過去のものになっていた。
原因は自分にあったとしても、その急変は誠司のなかでトラウマになっていた。
私も同じなんじゃないか?
最終予選までは誠司達は呼ばれなかったけど、最終予選では誠司達は招集されて何日か海外に遠征していた。
その間も私に連絡はしっかりしてくれた。
それほどまでに私の事を思ってくれているのは、誠司は私が変わってしまうのを恐れているんだ。
まだ「友達と同棲している」という事実にしておいた方がいいんじゃないか?
少なくとも冬吾達に知らせる事じゃないんじゃないか?
誠司は色々不安を打ち明けてくれた。
「私の事を信用してくれないの!?」
そうやって怒るのは私にだって出来る。
でもそんなことしてもきっと逆効果だ。
「……分かった」
「やっぱりダメか?」
「そうじゃないよ。それって私を失うのが怖いって事でしょ?」
「あ……」
誠司が自分が言った言葉の意味に気づいた時に私は誠司を抱きしめていた。
「誠司が私を大事にしてくれているのは分かっている。でも私は誠司に心配をかけている」
言い方を変えたらそういう事だろう。
「信用してないって言わないんだな」
「何かで読んだことがある」
人を信じるってことは口にすることは簡単だけど、実行するのは難しい。
少しでも疑わずに盲目的に信用される関係になるなんてわずか知り合って数か月の私と誠司の間では難しい。
だから私が出来ることはいつか誠司が「俺の彼女」って胸を張って紹介される存在になりたい。
ただそれだけの事。
「パオラは優しいんだな」
「今頃気づいたの?」
大丈夫、まだ過去を引きずっているならそれでいい。
でもいつかそれは過去のものになる時が来る。
その時まで待っていてあげるから。
だけど……。
「どれだけ経っても後悔と憎悪は忘れない」
そしてどこまでいっても目の前には絶望と希望がある。
それを共に乗り越えて行こう。
私は誠司に背中を預けてる。
あとは誠司が私の事だけを思ってくれる日を待っている。
誠司が後悔してる過去の誠司なんて今の誠司にはない。
でもそれを私や他人が言っても誠司が認められないならしょうがない。
自分で自信が持てるまで見守ってあげる。
生まれ変わった自分に気づくまで待っていてあげる。
イタリア人はヨーロッパの中でもチャラそうに見えるらしいけど、私は違う。
日本人は仕事真面目だと思われていてもそうではない人がいるように。
私の相手は誠司って決めたから覚悟しなさい。
そのくらいで揺らぐような恋なら最初からしない。
私がそう言うとやっと誠司が笑ってくれた。
「ありがとう」
「当然の事でしょ?」
「あのさ、明日一緒に通話しないか?」
「誰と?」
誠司の中で一つハードルを越えたようだ。
いくつハードルがあっても一緒に乗り越えよう。
そんな夜を過ごした。
(2)
あれ?
この人誰だろ?
イタリア人なんだろうな。
色が白くてとてもきれいな人。
「ハジメマシテ」
そう言って礼をしていた。
いいところのお嬢さんなんだろうか?
とりあえず誠司に聞いてみた。
「誠司、この人が前に言ってたマネージャー?」
「わ、馬鹿……」
「誠司はそういう風に言ってたんだね」
イタリア人の女性はそう言って笑っている。
なんとなく二人の雰囲気を見て分かってしまった。
だけど誠司から紹介するのが普通だろう。
そして誠司が紹介してくれた。
「俺の彼女のパオラ・アルマーニ。パオラ、彼が片桐冬吾」
そう言っていた。
そうか、誠司もやっと彼女が出来たのか。
よかったね。
「もう、馬鹿な真似はやめろよ」
また何年も孤独を味わうことになるよ。
だけどパオラさんは違うみたいだ。
たどたどしい日本語で話そうとしていたので「イタリア語で大丈夫」とイタリア語で言った。
どうして僕がイタリア語を覚えたのか。
それは高校時代にイタリアとスペインでかなり悩んだ。
ドイツやロシアはあまり興味なかった。
おいしそうな料理なさそうだし。
で、どっちからオファーが来てもいいように勉強しておいた。
「彼の変態癖は前の彼女の話を聞いた時に知ってるから大丈夫」
不思議なのはパオラにはそういう要求はないらしい。
前にも言ったけど夜遊びもほとんどなくなった。
その代わり朝まで飲みながらPCでゲームをしていて試合当日に二日酔いをおこして監督に怒られたらしい。
日本でも大分事件になったそうだ。
最終予選の終盤で誠司が故障した。
そんな不安が日本中を包んだらしい。
チーム側は「体調不良」としか報道しなかったらしい。
当たり前だ。
サッカーのプロが「二日酔いで試合どころか練習も無理」なんてばれたら大騒動だ。
実際桜子がかなり怒っていたと空から聞いていた。
パオラと大ゲンカして決めたそうだ。
「遅くても時間になったら寝なさい!」
朝に迎え酒なんて絶対に許さない。
朝ごはん等も外食ばかりだったけどパオラがちゃんと栄養を考えて作ってるそうだ。
どうしてパオラにそんな事が出来るのか?
パオラの兄もサッカー選手だったそうだ。
サッカーで挫折して今は亡き人になった。
だから、サッカーを憎んでいた。
だけど、誠司に会って変わった。
「俺が許してやるからもう自分を責めるのを止めろ」
誠司はそう言ったらしい。
それから付き合っていた。
どうして今まで黙っていたのかはなんとなく分かる。
いい人じゃないか。
「大事にしてやれよ」
「やっぱり羨ましいか?」
「そりゃね」
誠司は彼女と同棲。
僕は4年間会えない。
だけど会えないから別れが待ってるなんてことは思っていない。
栗林瑞穂も似たような状況だったんだから。
瞳子の事を信じているつもりだ。
それに毎日会っていたら余計なケンカが待っているかもしれない。
結局がお互いの事をどれだけ思いやれるかだと思う。
「日本では遠距離恋愛って特殊なんですか?」
パオラが聞いた。
日本は島国だから外国って言うと遠くに感じるけど、ヨーロッパだと例えば沖縄から北海道に移動するより近いところもある。
だから異国間の恋愛なんて別に特別でもないらしい。
ただ文化が違って上手くいかない事はあるけど、離れていて寂しいなんてことはそんなにないらしい。
寂しいと思うなら彼のいる国に行けばいい。
親元を離れるのが寂しいなんて事を言って甘えられるのは子供のうちだけ。
実際にパオラも親に説明して、誠司を親に紹介して同棲している。
最近隠しているのはその事だったのか。
「じゃ、俺の親にも説明しないといけないから」
「分かった。僕も瞳子と話がしたいし」
「頑張れよ」
「誠司もね」
そう言って通話を切るとすぐに瞳子から通話が来た。
瞳子に誠司の事を伝える。
「やっぱり冬吾君は寂しい?」
「寂しくないって言ったら瞳子が怒るだろ?」
「まあ、そうだけど……」
私が中退してスペインに行ってもいいんだよ?
「約束は守るつもり。せっかく大学に入学できたんだから頑張りなよ」
別に専業主婦になる必要はないんだから。
僕だってずっと練習しているわけじゃない。
精々90分くらい調整をするだけだ。
あとはアウェイで試合するときに移動したときに家を空けるだけ。
瞳子の代わりに家事をすることくらい普通にできるよ。
現に今自分の家でやっているんだから。
スペインに来て分かったこと。
日本がどれだけ食に恵まれているか?
見方を変えるとどれだけ味にこだわっていないか。
海外ではそんなにデリバリーのサービスがないから、店に行くか自分で作るかしかない。
スペインの食材で作れそうなのを作って食べている。
ひょっとしたらフランスの方がよかったかもしれない。
「冬吾君の基準は料理なんだね」
そう言って瞳子が笑っていた。
「だからやっぱり専業主婦になるよ」
「どうして?」
「どうせ一緒に暮らすなら冬吾君の好みを教えてもらわないといけないし」
「わかった」
「冬吾君は気をつけてね」
二日酔いなんて絶対だめだよ。と瞳子が念を押す。
「約束忘れてないから大丈夫」
「そっか」
「瞳子の方は一人暮らしどう?」
「それがさ……」
何もないんだそうだ。
たまにFGやらリベリオンやらが事件を起こす程度。
あとはバイトと学校生活とたまに飲み会。
いたって普通の学生生活を過ごしているようだった。
(3)
「この馬鹿!」
カンナが誠を叱っている。
誠司もパオラに聞かれたらしい。
「男の人ってそんな事気にするの?」
「父さんは声で興奮するらしいんだ」
「ふーん……、誠司はどうなの?」
「そりゃまあ、パオラが気持ちいいのかなってくらいは気にはするさ」
「それは日本人の女性は一々伝えてくるの?」
「へ?」
「恋人と行為をしているのに気持ちよくないわけないとこの前友達と話していて」
「それってアントニオの彼女?」
「そうだけど、それがどうかした?」
「いや、やっぱ日本人よりでかいのかな?って気になってさ」
「日本人はそんなことまでいちいち比較するの?」
「気にはなるじゃん」
「じゃあ、私が他の男の方が誠司よりでかいって言ったらどうする?」
大体私は誠司が初めてなのに誰と比較したらいいの?
精々小さい時に見た父親くらいしか知らないとパオラは言ったらしい。
「それに長すぎても問題あるって友達が言ってた」
「なんで?」
「全部入れられないから。痛いんだって」
それで断っても「先っぽだけ」と言って頼むらしい。
大体先っぽだけで済ませないのが男らしいけど。
まあ、済むわけないよな……。
ぽかっ
「冬夜さんは余計な事考えないでください」
愛莉が機嫌悪くしてるからこの辺にしておこう。
今日は多田家の人間と食事をしていた。
孫たちは話を気にすることなく食事に夢中になっている。
理由はもうすぐ年末を控えて新年を迎える。
するとサッカーが趣味な人なら誰もが一度は聞いたことがあるだろう。
バロンドール。
世界で優秀な選手に贈られる称号。
冬吾と誠司が少ない候補の中にノミネートされていた。
さらに12月に絞られて最終的に1月に発表される。
それに誠司に恋人が出来たらしい。
イタリアのミラノの名家のお嬢様らしい。
今は誠司と同棲して誠司の体調管理をしている。
放っておくと試合前に朝まで飲む誠司だ。
一安心といったところだけどカンナはまだ心配があるらしい。
その一つがさっきの会話だ。
誠は馬鹿なことを聞いた。
「イタリア人の女性って寝るときどんな声だすんだ?」
「スィ・スィって言うんだ」
イク事をヴェニーレと言ってイキそうになるとスト ヴェネンドと言うらしい。
策者も馬鹿なことほど熱心に調べる。
スィというのはイエスという意味らしい。
女性の声は息を吸うか吐くかで変わってくるらしい。
世界各国で違うけど大別するとこの二つらしい。
ちなみに愛莉は夢中になると声がすごく大きくなる。
ぽかっ
「冬夜さんは余計な事考えないでください!」
「でも、愛莉の声は確かによく響いていたよ」
翼が言う。
「うぅ……」
愛莉が困っていたけど、それを助けたのは天音だった。
「翼、お前が愛莉の事言えるのか?空と一緒の部屋だった時、防音が聞いてるのに聞こえていたぞ」
「うそっ!?私結構我慢していたんだよ」
翼と天音の話を空と大地が笑いながら聞いている。
誠は余程他人の声が気になるらしい。
娘や息子の彼女の声まで聞きたがる性格なんだそうだ。
すると学が言い出した。
「水奈は静かなんです」
「え?」
カンナが驚いていた。
水奈が怒り出す。
「余計な事言わなくていいだろ」
「いや、俺も話を聞いていたら不思議に思えてきたから」
ただ恥ずかしさのあまりに震えながら学を抱きしめて大人しくしているらしい。
自分のやり方が下手なんだろうかと悩んだらしい。
「そういう悩みがあるなら言ってくれたら俺が多田家直伝のテクニックを……」
「いい加減にしろ!」
「水奈は学に不満があるのか?」
天音が聞いたら水奈は首を振っていた。
「してくれるってだけで嬉しいんだ。滅多に誘ってもくれないからさ」
ただ、周りに声が漏れるのが恥ずかしい。
だから出さないようにしているらしい。
そんなに大声をだしているらしい天音や翼が不思議らしい。
「ちなみに母さんも結構大きいぞ」
「ば、ばか。余計なこと言うな」
カンナが慌てている。
カンナの声か……。
ぽかっ
想像するのもだめらしい。
「で、神奈の悩みって何?」
愛莉が話題を変えようとしていた。
「私も誠と2人で生活していた時あったろ?」
あの時の誠はやりたい放題だったらしい。
喧嘩した挙句亜依さんと2人で家出したことがある。
その結果誠は反省したが、問題はその後らしい。
部屋を3年間掃除したことがないという女性の部屋が紹介されていたけど、その状況を誠はたった2日で作り出したらしい。
お前こそファンタジスタなんじゃないのか?誠。
「でも冬吾から聞いたけど割と真面目な生活してるらしいよ」
冬莉がそう言った。
片づけどころか家事という事を全くしない。
それどころか食事すら自炊せずに外食で済ませているらしい。
冬吾も同じかと思ったけど違うみたいだ。
「日本食が恋しい」
だからスーパーで似たような食材を買ってきて食べてるそうだ。
とにかく私生活がでたらめな誠司をパオラがサポートしているそうだ。
僕がバスケをやっていた時に愛莉が栄養面をサポートしていたのと似ている。
カンナも誠の食事は気を配っていた。
それを考えずに外で飲みまくって遊んでいるのが誠だったけど。
「俺は試合に出れないくらいような酔い方をするほど弱くない」
「そうじゃないだろ!試合前日くらい控えるとか注意しなきゃだめだろ!」
確かに誠はどんなに酔っても酔いつぶれることはなかった。
しかし酔った時の誠と桐谷君は渡辺班の最大の問題だった。
まあ、木元先輩や檜山先輩も似たようなもんだったけど。
パオラは上手い事誠司を説得したらしい。
「勝利の美酒って言うんでしょ?一緒にそれを楽しもうよ」
「負けたら飲めないのか?」
「そう思ったら勝とうと思うでしょ?」
落としていい試合なんてない。
リーグ戦でも当たり前だ。
たった一回負けただけで予選突破が危うい状況になる。
実際誠司と冬吾は海外のクラブに慣れなきゃいけないからと1次予選や2次予選は招集されなかった。
その結果、ちょっとした油断で4点差で負けが付いた。
監督や運営陣への責任が当然のように問われた。
やはり二人を呼ぶべきだったんじゃないか。
しかしここ何十年も本大会に出場している日本。
二人だけで強くなったなんて言わせないと意地でも勝ち上がった。
リーグ戦だろうとトーナメント戦だろうと負けていい試合があるわけない。
よほど故障しているとか、体調不良とかない限りベストメンバーで勝ちに行きたいのが本音だろう。
約束された勝利の剣。
冬吾をそう賛辞する者がいるくらいに冬吾の存在は重要だった。
だから本大会前に故障されたらかなわないし、所属しているチームにも責任を取らないといけない。
韓国戦ではあえて冬吾を外していた。
サッカーの試合で足の骨を折りに来るチームだから仕方ない。
冬吾のサッカー生命にかかわる。
冬吾を抜いたくらいで負けるはずがない。
翼や天音、冬吾と冬莉にはライド・ギグという能力が与えられている。
誠司のサッカーのプレイはそれに近い。
常に試合を優勢に持っていき、仲間の能力を最大限以上に引き出す。
「鬼軍曹」
誠司の事をそう評するものもいるそうだ。
そんな誠司の力でもやはり冬吾には勝てないようだ。
「次はもう少し対策練ってくるさ」
誠はそう言ってビールを飲む。
まあ、常にあらゆる戦術を考えないと冬吾に勝つのは難しいだろう。
だって冬吾も毎日鍛錬しているのだから。
最強の盾と言われた誠司のチームの壁すら軽々と突き破る冬吾の攻撃。
まあ、誠司がリスクを覚悟で先制を狙った結果裏目に出たんだろうけど。
「次と言えばクラブワールドカップか?」
「そうなるな」
不安だった誠司の私生活も改善されていた。
次はもっと強力なライバルになって冬吾に挑んでくるだろう。
誰もがそう思っていた。
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