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(1)
今日はみんなで紅葉狩り。
本当に狩り取るわけじゃないけど。
紅葉なんて食べられないし。
俺はつり橋に着くと毎年恒例のハンバーガーを食べに父さん達と急ぐ。
その時不思議に思ったこと。
結莉や海翔はついてくるけど天音と茉莉はつり橋の方に向かった。
大地が海翔と結莉の面倒を見ているようだ。
「何かあったの?」
翼が聞いていた。
「ハロウィンの後から様子が変わってしまって」
大地が説明した。
天音は真面目に家事をしていた。
勉強を教えるなんてことはしない。
だって結莉も茉莉も天音が言わなくてもさっさと宿題だけ終わらせてしまうから。
それ以上の勉強はするだけ無駄だから天音は要求しない。
だって宿題すら必要ないんじゃないかと思える程理解力が高いのは俺と同じ。
でもその後の行動が変わった。
結莉はゲームをしているけど茉莉はスマホで朔とメッセージをやり取りしている。
そして茉莉は大食いをしなくなった。
結莉は今僕と二つ目のハンバーガーを食べている。
あの時愛莉達に怒られたのが余程答えたみたいだと大地が話していた。
「天音は無茶やるけど落ち込むとしばらく引きずる癖があるから」
翼がそう言っていた。
「僕もいつも通りで良いと言ってるんだけど、やっぱり石原家の名前が天音には重いようで」
「そういう事なんだ」
父さんはそう言って三つ目のハンバーガーを口にする。
「それなら多分問題ないよ」
「どうしてですか?」
父さんが言うと大地が聞いていた。
「だって要は石原家の嫁だからってプレッシャーを感じてるって事でしょ?」
そんなの別に僕達がとやかくいう事じゃないだろう。
「でもこのままだとまずいような気が」
「対処法は大地が知ってると思うんだけど?」
「どういう意味?」
母さんが父さんに聞いていた。
「翼は天音が石原家のパーティに行った時の話覚えてる?」
「……なるほどね」
母さんも納得したようだ。
だけど大地は分かっていないようだ。
母さんが説明した。
「簡単だよ。天音が大地の嫁になるって決めた時がちがちに緊張してたでしょ?」
それを祈が説得した。
天音には大地がいる。
大地が守ってくれる。
茉莉だって同じでしょ?
茉莉に失礼な態度を取ったらきっと朔が動く。
動かなければ祈や晶さんが黙ってない。
朔で手に負えない状況になったら同じ事だ。
だからそんなに卑屈になる必要なはない。
堂々としていればいいんだ。
ただ自分から問題を起こすような真似をしなければいい。
それもパーティの場所とか他人がいる場所でだけ。
こんなところでくらい楽しまないと大人になったらもっと窮屈な世界が待っている。
そう天音に教えてやればいい。
「……ありがとう。早速試してみます」
大地はそう言ってにっこり笑っていた。
ハンバーガーを食べ終わる頃には皆橋を渡り終えたみたいだ。
天音達も戻ってきていた。
やっぱりいつもの天音じゃない。
茉莉達は違うようだ。
ソフトクリームを食べに売店に向かう。
「……天音は食べないの?」
「あ、ああ。あんまりみっともない真似できないしな」
そう言っている天音を心配そうに見ている愛莉と恵美。
じいじは普通に他の人と話をしている。
大地はさっき考えていたのだろう。
どうやって励ますかその手段を。
だからすぐに天音に近づくと天音を抱きしめた。
「お、おい。いきなりどうしたんだ?みんな見てるぞ!」
「僕に抱かれる姿って見られたくないの?」
「そうじゃなくて、こんなところでこんな真似してたらただのバカップルだろ?」
「それは違うって天音も知ってるじゃないか」
僕達は夫婦だ。
「だからってこんなところでいきなりする奴いないだろ。愛莉だってしないぞ!」
「あら?冬夜さんはしてくれましたよ」
愛莉がそう言って笑っている。
だけど天音は困っていた。
「あとで相手するから今は許してくれ。こんなの見られたらまた……」
「何かあるの?」
「あるだろ!」
「何があるのさ?」
「大地、いくら何でも私でも怒るぞ!」
「いいよ。いくらでも聞いてあげる。早く怒りなよ」
そう言って天音から離れる。
天音は何も言わずに大地を見ていた。
「どうしたの?小言ならいくらでも受け止めるから」
「私は何か大地に何かしたか?こんな場所でそんな真似できないの大地だって分かるだろ?」
「分からないね」
「なんでだよ!」
「さっきから天音は何を恐れているの?」
愛莉やじいじ?天音の両親?それともそれ以外の何か?
天音が恐れているものを教えてくれたら大地が守る。
天音の行く手を遮る霧を全部薙ぎ払ってみせる。
だからいつも通りで良いんだ。
父さんや翼が言ってた。
一つの失敗で落ち込むのは天音の悪い癖。
でも落ち込んでる天音を支えるのが夫の大地。
「天音ちゃんは勘違いしている。前にも言ったけど茉莉も結莉も善悪の基準はしっかりしている」
ただ少し環境が変わった世界での振る舞い方を知らない。
それは小学校だけでなく、この先いろんな世界を2人は見ていく。
その歩き方を教えてあげるのが天音の役目。
最低限の事さえできれば問題ない。
石原家の娘に無礼を働いた輩は地獄に突き落としてやる。
そう恵美さんがいった。
「天音は結莉には芳樹がいると言ってましたね。その通りなの」
結莉は芳樹がいるから迷惑をかけられないから大人しくしてる場所ではそうしてる。
そのかわり結莉が不愉快な状況になったら芳樹の代わりに結が動く。
茉莉にも朔がいる。
ただ結と比較するのは可哀そうだ。
朔だっていつかは彼女を守れるようになるはず。
その間だけ天音が誘導してあげなさい。
あーりがそう言った。
「天音。僕もまだハンバーガー食べてないんだ。一緒に買いに行かないか?」
「冬夜さんは少しは周りの空気を考えてください」
「……ソフトクリームも忘れてはいけないよな」
そう言ってじいじと天音は売店に行った。
「大地も随分大胆な作戦に出たわね」
「空からアドバイスを受けた時から思いついたんだ」
恵美と大地が話をしている。
僕は茉奈を見ていた。
「どうしたの?」
茉奈が聞いている。
「茉奈もぎゅーってしたら喜ぶのか?」
「うーん……ここだとちょっと恥ずかしいかな」
「俺にされると恥ずかしいのか?」
ぽかっ
母さんに小突かれた。
「彼女を困らせたらダメでしょ。そういうのは二人っきりの時にしなさい」
「二人っきりならいいの?」
「いいよ。ただしまだ大きくなるまでは部屋のドアは開けておきなさい」
「どうして?」
「何をするかわからないから」
よくわからない事を母さんに言われて訳が分からない。
そんな俺を見てみんな笑っていた。
(2)
私が面倒事を起こすと天音が怒られる。
そう思うと大人しくしてるよりしかなかった。
今も彼氏の朔と一緒につり橋を渡っている。
少しだけ揺れている。
今の私の気持ちと同じくらい。
いつもは天音が背中を支えてくれていた。
その天音が今気持ちが不安定みたいだ。
私はどうふるまえばいいのか分からなかった。
「揺れるの怖い?」
朔はそう思ったらしい。
「いや、そういうわけじゃない」
「ならいいんだけど、元気ないからさ」
「気を使わせて悪い」
「いいんだ。その為に俺がいるんだから」
そうだったな。
「朔はやっぱりおとなしい女の子が好きか?」
あまり意識してなかったけど少しは不安だったのだろう。
「もしそうなら俺が茉莉を好きにならないだろ」
そう言って朔は笑っていた。
橋を渡り終える頃に朔が言う。
「いつもなら茉莉が自分で始末するんだろうけど。今の茉莉を守るくらいの事は出来るよ」
「そうか、じゃあ。試してみるか?」
希美の声を聞いて振り返ると菫は銃を持ってとびかかって来た。
「今のお前、格好の的だぜ!そんな隙を見せるなら後ろから食っちまうぞ!」
とっさに私も銃を取ろうとするが躊躇ってしまった。
また天音に迷惑をかける。
その一瞬のためらいが命取りだった。
「様子見てたけど今のお前じゃつまらないから……悪いけど死ね」
お前まじか!?
こんなところで実弾ぶっ放すのか?
とっさに朔が間に入る。
しかし菫が撃つ前に善明が銃を奪い取った。
「こんな人ごみの中で流れ弾が他の人に当たったら大変だからやめておくれ」
そう言って善明は銃を菫に返す。
「菫こんなところでおっぱじめたら親に迷惑かかるだろ。何考えてるんだ?」
すると菫は言った。
「そうだよ、親が後始末してくれる。何一人で大人ぶってんだよ。私らはまだ子供だ。好き放題暴れて問題あるのか?」
授業が詰まらなかったら帰ればいい。
気に食わない奴がいたらぶっ殺してやればいい。
遠慮なんてする年頃じゃねーんだよ。
面倒な事は親に押し付けていい年頃なんだ。
今すっきりしとかねーと将来皺だらけになっても知らねーぞ。
「まあ、茉莉には垂れる乳がないから問題いなよな」
そう言って菫が笑った。
「お願いだからまずそれを一つずつ減らしていく努力をしてくれないかな?」
桜子が悲痛な声で言っている。
「天音、戻ろう」
「茉莉?」
「……結莉と海翔だけハンバーガー食べまくってずるいだろ」
私が天音に言うと希美が笑った。
「お前本当に腹出ても知らねーぞ」
朔だって幻滅するぞ。
「我慢しなくていいんだろ?だったら今を楽しむさ」
明日の事なんて誰も分からない。
だったら精いっぱい今日を生きてやる。
なぜか菫もついてきた。
「お前も食べるのか?」
そう聞くと菫は笑った。
「まあ、正行もいねーしな」
菫だって片桐家の血が流れているんだと笑っていた。
(3)
天音と子供たちは空と翼とその子供達と昼食を必死に食べていた。
菫と陽葵も負けじと食っていた。
ため息を吐きながら秋久と話をしていた。
「結局こうなるんですね」
愛莉がそう言ってため息を吐く。
「片桐君はここまで予想してあの時あんな事を?」
石原君が聞いてきたので即答した。
「そうだよ」
すると恵美さん達も僕を見る。
「この状況を予想してあんな風に怒ったの?」
「まあね」
「なんでそんな事思いつくのですか?」
「そんなの決まってるじゃないから」
天音だからだよ。
あの子は昔から変わってない。
昔から問題を起こしてばかりだけど愛莉の一言を気にしたりして不安になる。
それを支えてやるのは僕じゃない。大地の仕事だ。
そう考えたらこうなるだろ?
「それが予想できるのは片桐君だけだよ」
酒井君も驚いていた。
「で、この後はどうなるの?」
恵美さんが聞くと答えた。
「そんなに突然変わるわけないよ。まだ問題を起こすだろう」
「それじゃまた繰り返すわけですか?」
「愛莉。あの子は昔から問題を起こして叱られて反省する」
そう、天音は馬鹿じゃない。
自分のしたことの何が悪かったのかを悩む。
それを導いてやるのが大地の務め。
茉莉だってそうだ。
今はまだ朔は普通の子供だけど大きくなったら立派になるよ。
ああいう場で茉莉が何か起こしても朔が庇うさ。
天音が茉莉を守るだろう。
そしてその姿を見て茉莉は育つ。
だから心配することはない。
あの子の中で子供を指導するという事が少しくらいは理解できただろう。
母親の背中を見て育つという自覚が少しくらいは出来ただろう。
それを踏まえたうえで茉莉達の面倒を見るんだ。
いきなり目に見えた変化はないだろうけど、それでも進歩はしたはずだ。
それをまた様子見してやればいいんじゃないのか?
「冬夜さんは嫁には厳しいんですね」
天音達の様子を見に行くのがどれだけ不安なのかは愛莉と恵美にしか分からないらしい。
でも一つだけ確信していることがある。
「いきなりぶっ殺すぞはなくなったはずだろ?」
「……そういえばそうですね」
「どこかでこんな話を聞いたことがあるんだ」
「どんな話ですか?」
愛莉が聞くと僕は説明した。
花や木に一度にたくさんの水や肥料を与えても大きくならない。
子供だって同じだ。
少しずつ得を積んでいくんだ。
だから些細な事でもいいから褒めてやったらいい。
それを茉莉や結莉は喜ぶ。
そしてもっと褒めてもらいたくてもう一つステップを踏もうとする。
それを成長って言うんだろ?
「……片桐君や。それじゃうちの希美の事も少しアドバイスしてくれないかい」
「そうね……片桐君の言う通り善明のいう事は聞くけど、善明がいないところで何をしでかすか不安だわ」
酒井君と晶さんがそう言っていた。
今日もあそこで実銃撃とうとしていたらしい。
善明が止めなかったら大惨事だ。
多分銃弾が茉莉に当たることはない。
その為に朔が前に立ったのだろう。
体を張って止めるわけじゃない。
何らかの力を使って止めるつもりだったのだろう。
だから茉莉を守るのは秋久じゃないと秋久は判断した。
しかしその力が危険だと祈から聞いていたから善明が銃を取り上げた。
いくら化け物染みた力を持っていても実力も経験もけた違いの父親に適うはずがない。
それに……。
「何かあるの?」
「晶さん。あの2人実は仲がいいんだろ?」
僕がそう言うとみんな驚いていた。
「なんでそう思ったの?」
「普段は殺さない程度にやり合ってるんだろ?」
子供の戯れと言うにはちょっとやりすぎな所もあるけど。
きっと菫は悩んでいる茉莉に「しっかりしろ!」と発破をかけるつもりでいたんだろう。
菫の相手がそんなに落ち込んでいたらやりがいが無い
あの程度の事でうじうじするな。
らしくねーぞ。
そう伝えたかっただけだと思う。
あの子達は普段は見せないけどいざとなったらしっかり連携が取れうグループになってる。
ひょっとしたらSHの次世代の主力になるかもしれないね。
「善明もよかったじゃないか。菫に恋人出来たんだろ?」
「それが……どうやら菫も翼に似たみたいで」
「善明、それどういう意味?」
翼が善明を睨みつける。
「彼女に逆らえないのは片桐家の男子の宿命?」
「……多分石原君や酒井君も同じじゃないの?」
「あら?そうなの望」
「善君もそう言う話あまりしないわね」
「恵美さん。それはない!大地がその証拠だ!」
天音が話に入って来た。
「どういう意味なの?天音ちゃん」
「あ、天音あれはしょうがないだろ」
「しょうがないわけないだろ!ふざけんな!」
「大地、何をやったの?」
石原君が聞いていた。
すると天音が説明した。
偶にはこういうのもいいだろう。
鮮度のいい魚が売っていたから天音は買ってきて捌いて刺身にした。
日本酒とちょうどいいだろうと大地と2人で飲むのを楽しみにしていた。
だけど魚が苦手な大地はピーナツバターを自分で用意した。
欲しそうに見ていた結莉や茉莉に刺身を譲って。
「だから、魚は骨があって苦手だって前にホイル焼きを作ってくれた時に言ったじゃないか」
「お前は馬鹿か!刺身に骨が無いことくらい小学生でも知ってるぞ!」
最近の子供は刺身が海を泳いでいると思ってるらしいけど。
だから水族館で感動するらしい。
天音達は食えるか食えないかくらいしか思ってなかったらしいけど。
「大地!あなたまだそんな馬鹿な事子供の前でしてるの!結婚したら直しなさいとあれほど言ったでしょ!」
「天音。それなら僕からいい提案があるんだけど」
石原君が言った。
「多分鮭は大丈夫だと思うんだ。ふりかけにして食べられるから」
「まあ、確かにそうだけど。そこから慣らしていけって事ですか?」
「うん、まずは身をほぐした物から食べさせていけばいいんじゃないかな」
魚が生臭いなんて理由もあるかもしれない。
「それは望がそうだったからでしょ!望もそうだった。美希が作った魚介類のパスタを食べようともしなかった」
「あれは貝がじゃまじゃないか」
「そんあの言い訳にならない!菫は殻ごと食べようとしてたわよ!」
またずいぶんと豪快な食べ方だな。
「菫、お前貝の食い方すらしらないのか?」
「歯があるんだからかみ砕けばいいだろ?」
「まさかとは思うが海老やカニもそうなのか?」
「それはないよ、さすがに海老やカニは殻を剥くから」
善明が説明していた。
「なあ、トーヤ。私達の世代の子供にもアドバイスしてやってくれないか?」
カンナが言っていた。
誠と瑛大の孫娘にしては珍しいことになってるらしい。
それは愛莉たちの様に亜依さんと水奈の家に様子見に行った時らしい。
「やばい!母さん達が来た!二人とも服を着ろ!」
「いいじゃん、じいじがいたらお小遣いくれるんでしょ?」
「馬鹿!私が怒られる!頼むから下着だけでもつけてくれ!」
そんな声が外まで響いてきたので預かっていた合鍵で踏み込んだら大変なことになっていた。
「この馬鹿はどうして来ると前もって教えていたのにこうなんだ!」
「神奈はお小遣いくれないの?」
「その馬鹿な考えは誰から聞いたんだ?」
「天音」
それを聞いた愛莉は天音を睨む。
「お、お前私を巻き込むなってあれほど言っただろ!」
「私が言ったんじゃない。優奈が言ったんだ!」
どうせ子供が帰ってきたら遊べないのなら、子供達がいない午前中にゲームしようぜ。
そんな事を2人で決めていたそうだ。
だから子供たちが帰ってきたら昼ご飯を食べて片付けがてらに部屋を掃除したらいいと思っていた。
昼過ぎからだからカンナ達が帰ってくるまでには間に合うと思っていたらしい。
しかし計算外の事が起きた。
優奈達が裸で歩き回る。
「服を着ろ!風邪ひくぞ」
「馬鹿は風邪ひかないって神奈が言ってたよ」
「引き方が馬鹿だったら誰でも引くぞ!」
「それに神奈達が来るんでしょ?」
誠も一緒だったら小遣いくれるかもしれない。
そんな判断をしているらしい。
「と、いうことは天音も午前中は遊んでいたわけですか?」
「子供の前でしてないからいいだろ?」
「そんなわけありません!」
ってことは……。
僕は亜依さんを見る。
「琴音もいっしょだよ。遊が困ってる」
「え?」
水奈も驚いたそうだ。
「パパ、どうして夜はママと一緒に寝てるの?」
「夫婦だからだよ」
「じゃあ、私もパパと一緒に寝たい」
「こ、琴音はもう一人で寝れるだろ」
「私だけ一人ぼっちなんてずるい!」
「朱鳥がいるじゃないか」
「朱鳥がママと一緒に寝たらいいじゃない」
「パパを困らせたらダメでしょ。琴音はもう一人で寝れるんだから」
「だったらママが一人で寝たらいい」
その話をなずなから聞いて笑っていたそうだ。
あの遊がそうなるのか。
しかし琴音の場合祖父が問題だった。
「琴音。夫婦になると夜はプロレスをするんだ……いてぇ!」
「お前は4歳の子供に何を吹き込んでるんだ馬鹿!」
その話を結も聞いていたらしい。
不思議そうに空と比呂を見ていた。
「父さんと母さん喧嘩してるの?」
さすがに空にもどうにもならないらしい。
「そういや、お前は朔に抱いてもらえたのか?」
「この腰抜けはキスすらしようとしねーよ」
「なんですって……?」
希美と茉莉の話を聞いていた晶さんが一言いうと祈を睨む。
「そういうのは母親が作法を教えないと善明みたいになってからでは遅いわよ!」
そう言って祈を叱っていた。
まだ男女の関係は早いと思うけど、何か説明をしないと収拾がつきそうにない。
皆が僕に援護を求める。
僕は一言言った。
「茉莉達はゲームばっかりしてるだろ?」
大体の子供がウンと言った。
「だから分からないんだよ」
たまには恋愛ドラマとか見てみたらどうだい?
当たり前の愛し方と言うのが分かるかもしれない。
キスをしたり抱き合う意味を分かるかもしれない。
そういう恋のお手本を見てごらん。
最近のドラマは規制が激しい。
茉莉達が起きてる時間に如何わしい表現なんて絶対にない。
「……ていうわけだ。少しは女の扱い方を勉強しとけ!」
茉莉は朔にそう言って食事に戻る。
朔は知らないわけじゃないだろう。
ただ笑っていた。
「結はまだいいよ。私もまだ恥ずかしいし」
「わかった」
結は僕や空と同じ道を順調に歩んでいるんだろうな。
子供たちの育児はこれからも続いていく。
いつか誰かと結婚して子供を産むまで。
その時にまた天音達は僕達の心を知るだろう。
それが延々と続く物語。
今日はみんなで紅葉狩り。
本当に狩り取るわけじゃないけど。
紅葉なんて食べられないし。
俺はつり橋に着くと毎年恒例のハンバーガーを食べに父さん達と急ぐ。
その時不思議に思ったこと。
結莉や海翔はついてくるけど天音と茉莉はつり橋の方に向かった。
大地が海翔と結莉の面倒を見ているようだ。
「何かあったの?」
翼が聞いていた。
「ハロウィンの後から様子が変わってしまって」
大地が説明した。
天音は真面目に家事をしていた。
勉強を教えるなんてことはしない。
だって結莉も茉莉も天音が言わなくてもさっさと宿題だけ終わらせてしまうから。
それ以上の勉強はするだけ無駄だから天音は要求しない。
だって宿題すら必要ないんじゃないかと思える程理解力が高いのは俺と同じ。
でもその後の行動が変わった。
結莉はゲームをしているけど茉莉はスマホで朔とメッセージをやり取りしている。
そして茉莉は大食いをしなくなった。
結莉は今僕と二つ目のハンバーガーを食べている。
あの時愛莉達に怒られたのが余程答えたみたいだと大地が話していた。
「天音は無茶やるけど落ち込むとしばらく引きずる癖があるから」
翼がそう言っていた。
「僕もいつも通りで良いと言ってるんだけど、やっぱり石原家の名前が天音には重いようで」
「そういう事なんだ」
父さんはそう言って三つ目のハンバーガーを口にする。
「それなら多分問題ないよ」
「どうしてですか?」
父さんが言うと大地が聞いていた。
「だって要は石原家の嫁だからってプレッシャーを感じてるって事でしょ?」
そんなの別に僕達がとやかくいう事じゃないだろう。
「でもこのままだとまずいような気が」
「対処法は大地が知ってると思うんだけど?」
「どういう意味?」
母さんが父さんに聞いていた。
「翼は天音が石原家のパーティに行った時の話覚えてる?」
「……なるほどね」
母さんも納得したようだ。
だけど大地は分かっていないようだ。
母さんが説明した。
「簡単だよ。天音が大地の嫁になるって決めた時がちがちに緊張してたでしょ?」
それを祈が説得した。
天音には大地がいる。
大地が守ってくれる。
茉莉だって同じでしょ?
茉莉に失礼な態度を取ったらきっと朔が動く。
動かなければ祈や晶さんが黙ってない。
朔で手に負えない状況になったら同じ事だ。
だからそんなに卑屈になる必要なはない。
堂々としていればいいんだ。
ただ自分から問題を起こすような真似をしなければいい。
それもパーティの場所とか他人がいる場所でだけ。
こんなところでくらい楽しまないと大人になったらもっと窮屈な世界が待っている。
そう天音に教えてやればいい。
「……ありがとう。早速試してみます」
大地はそう言ってにっこり笑っていた。
ハンバーガーを食べ終わる頃には皆橋を渡り終えたみたいだ。
天音達も戻ってきていた。
やっぱりいつもの天音じゃない。
茉莉達は違うようだ。
ソフトクリームを食べに売店に向かう。
「……天音は食べないの?」
「あ、ああ。あんまりみっともない真似できないしな」
そう言っている天音を心配そうに見ている愛莉と恵美。
じいじは普通に他の人と話をしている。
大地はさっき考えていたのだろう。
どうやって励ますかその手段を。
だからすぐに天音に近づくと天音を抱きしめた。
「お、おい。いきなりどうしたんだ?みんな見てるぞ!」
「僕に抱かれる姿って見られたくないの?」
「そうじゃなくて、こんなところでこんな真似してたらただのバカップルだろ?」
「それは違うって天音も知ってるじゃないか」
僕達は夫婦だ。
「だからってこんなところでいきなりする奴いないだろ。愛莉だってしないぞ!」
「あら?冬夜さんはしてくれましたよ」
愛莉がそう言って笑っている。
だけど天音は困っていた。
「あとで相手するから今は許してくれ。こんなの見られたらまた……」
「何かあるの?」
「あるだろ!」
「何があるのさ?」
「大地、いくら何でも私でも怒るぞ!」
「いいよ。いくらでも聞いてあげる。早く怒りなよ」
そう言って天音から離れる。
天音は何も言わずに大地を見ていた。
「どうしたの?小言ならいくらでも受け止めるから」
「私は何か大地に何かしたか?こんな場所でそんな真似できないの大地だって分かるだろ?」
「分からないね」
「なんでだよ!」
「さっきから天音は何を恐れているの?」
愛莉やじいじ?天音の両親?それともそれ以外の何か?
天音が恐れているものを教えてくれたら大地が守る。
天音の行く手を遮る霧を全部薙ぎ払ってみせる。
だからいつも通りで良いんだ。
父さんや翼が言ってた。
一つの失敗で落ち込むのは天音の悪い癖。
でも落ち込んでる天音を支えるのが夫の大地。
「天音ちゃんは勘違いしている。前にも言ったけど茉莉も結莉も善悪の基準はしっかりしている」
ただ少し環境が変わった世界での振る舞い方を知らない。
それは小学校だけでなく、この先いろんな世界を2人は見ていく。
その歩き方を教えてあげるのが天音の役目。
最低限の事さえできれば問題ない。
石原家の娘に無礼を働いた輩は地獄に突き落としてやる。
そう恵美さんがいった。
「天音は結莉には芳樹がいると言ってましたね。その通りなの」
結莉は芳樹がいるから迷惑をかけられないから大人しくしてる場所ではそうしてる。
そのかわり結莉が不愉快な状況になったら芳樹の代わりに結が動く。
茉莉にも朔がいる。
ただ結と比較するのは可哀そうだ。
朔だっていつかは彼女を守れるようになるはず。
その間だけ天音が誘導してあげなさい。
あーりがそう言った。
「天音。僕もまだハンバーガー食べてないんだ。一緒に買いに行かないか?」
「冬夜さんは少しは周りの空気を考えてください」
「……ソフトクリームも忘れてはいけないよな」
そう言ってじいじと天音は売店に行った。
「大地も随分大胆な作戦に出たわね」
「空からアドバイスを受けた時から思いついたんだ」
恵美と大地が話をしている。
僕は茉奈を見ていた。
「どうしたの?」
茉奈が聞いている。
「茉奈もぎゅーってしたら喜ぶのか?」
「うーん……ここだとちょっと恥ずかしいかな」
「俺にされると恥ずかしいのか?」
ぽかっ
母さんに小突かれた。
「彼女を困らせたらダメでしょ。そういうのは二人っきりの時にしなさい」
「二人っきりならいいの?」
「いいよ。ただしまだ大きくなるまでは部屋のドアは開けておきなさい」
「どうして?」
「何をするかわからないから」
よくわからない事を母さんに言われて訳が分からない。
そんな俺を見てみんな笑っていた。
(2)
私が面倒事を起こすと天音が怒られる。
そう思うと大人しくしてるよりしかなかった。
今も彼氏の朔と一緒につり橋を渡っている。
少しだけ揺れている。
今の私の気持ちと同じくらい。
いつもは天音が背中を支えてくれていた。
その天音が今気持ちが不安定みたいだ。
私はどうふるまえばいいのか分からなかった。
「揺れるの怖い?」
朔はそう思ったらしい。
「いや、そういうわけじゃない」
「ならいいんだけど、元気ないからさ」
「気を使わせて悪い」
「いいんだ。その為に俺がいるんだから」
そうだったな。
「朔はやっぱりおとなしい女の子が好きか?」
あまり意識してなかったけど少しは不安だったのだろう。
「もしそうなら俺が茉莉を好きにならないだろ」
そう言って朔は笑っていた。
橋を渡り終える頃に朔が言う。
「いつもなら茉莉が自分で始末するんだろうけど。今の茉莉を守るくらいの事は出来るよ」
「そうか、じゃあ。試してみるか?」
希美の声を聞いて振り返ると菫は銃を持ってとびかかって来た。
「今のお前、格好の的だぜ!そんな隙を見せるなら後ろから食っちまうぞ!」
とっさに私も銃を取ろうとするが躊躇ってしまった。
また天音に迷惑をかける。
その一瞬のためらいが命取りだった。
「様子見てたけど今のお前じゃつまらないから……悪いけど死ね」
お前まじか!?
こんなところで実弾ぶっ放すのか?
とっさに朔が間に入る。
しかし菫が撃つ前に善明が銃を奪い取った。
「こんな人ごみの中で流れ弾が他の人に当たったら大変だからやめておくれ」
そう言って善明は銃を菫に返す。
「菫こんなところでおっぱじめたら親に迷惑かかるだろ。何考えてるんだ?」
すると菫は言った。
「そうだよ、親が後始末してくれる。何一人で大人ぶってんだよ。私らはまだ子供だ。好き放題暴れて問題あるのか?」
授業が詰まらなかったら帰ればいい。
気に食わない奴がいたらぶっ殺してやればいい。
遠慮なんてする年頃じゃねーんだよ。
面倒な事は親に押し付けていい年頃なんだ。
今すっきりしとかねーと将来皺だらけになっても知らねーぞ。
「まあ、茉莉には垂れる乳がないから問題いなよな」
そう言って菫が笑った。
「お願いだからまずそれを一つずつ減らしていく努力をしてくれないかな?」
桜子が悲痛な声で言っている。
「天音、戻ろう」
「茉莉?」
「……結莉と海翔だけハンバーガー食べまくってずるいだろ」
私が天音に言うと希美が笑った。
「お前本当に腹出ても知らねーぞ」
朔だって幻滅するぞ。
「我慢しなくていいんだろ?だったら今を楽しむさ」
明日の事なんて誰も分からない。
だったら精いっぱい今日を生きてやる。
なぜか菫もついてきた。
「お前も食べるのか?」
そう聞くと菫は笑った。
「まあ、正行もいねーしな」
菫だって片桐家の血が流れているんだと笑っていた。
(3)
天音と子供たちは空と翼とその子供達と昼食を必死に食べていた。
菫と陽葵も負けじと食っていた。
ため息を吐きながら秋久と話をしていた。
「結局こうなるんですね」
愛莉がそう言ってため息を吐く。
「片桐君はここまで予想してあの時あんな事を?」
石原君が聞いてきたので即答した。
「そうだよ」
すると恵美さん達も僕を見る。
「この状況を予想してあんな風に怒ったの?」
「まあね」
「なんでそんな事思いつくのですか?」
「そんなの決まってるじゃないから」
天音だからだよ。
あの子は昔から変わってない。
昔から問題を起こしてばかりだけど愛莉の一言を気にしたりして不安になる。
それを支えてやるのは僕じゃない。大地の仕事だ。
そう考えたらこうなるだろ?
「それが予想できるのは片桐君だけだよ」
酒井君も驚いていた。
「で、この後はどうなるの?」
恵美さんが聞くと答えた。
「そんなに突然変わるわけないよ。まだ問題を起こすだろう」
「それじゃまた繰り返すわけですか?」
「愛莉。あの子は昔から問題を起こして叱られて反省する」
そう、天音は馬鹿じゃない。
自分のしたことの何が悪かったのかを悩む。
それを導いてやるのが大地の務め。
茉莉だってそうだ。
今はまだ朔は普通の子供だけど大きくなったら立派になるよ。
ああいう場で茉莉が何か起こしても朔が庇うさ。
天音が茉莉を守るだろう。
そしてその姿を見て茉莉は育つ。
だから心配することはない。
あの子の中で子供を指導するという事が少しくらいは理解できただろう。
母親の背中を見て育つという自覚が少しくらいは出来ただろう。
それを踏まえたうえで茉莉達の面倒を見るんだ。
いきなり目に見えた変化はないだろうけど、それでも進歩はしたはずだ。
それをまた様子見してやればいいんじゃないのか?
「冬夜さんは嫁には厳しいんですね」
天音達の様子を見に行くのがどれだけ不安なのかは愛莉と恵美にしか分からないらしい。
でも一つだけ確信していることがある。
「いきなりぶっ殺すぞはなくなったはずだろ?」
「……そういえばそうですね」
「どこかでこんな話を聞いたことがあるんだ」
「どんな話ですか?」
愛莉が聞くと僕は説明した。
花や木に一度にたくさんの水や肥料を与えても大きくならない。
子供だって同じだ。
少しずつ得を積んでいくんだ。
だから些細な事でもいいから褒めてやったらいい。
それを茉莉や結莉は喜ぶ。
そしてもっと褒めてもらいたくてもう一つステップを踏もうとする。
それを成長って言うんだろ?
「……片桐君や。それじゃうちの希美の事も少しアドバイスしてくれないかい」
「そうね……片桐君の言う通り善明のいう事は聞くけど、善明がいないところで何をしでかすか不安だわ」
酒井君と晶さんがそう言っていた。
今日もあそこで実銃撃とうとしていたらしい。
善明が止めなかったら大惨事だ。
多分銃弾が茉莉に当たることはない。
その為に朔が前に立ったのだろう。
体を張って止めるわけじゃない。
何らかの力を使って止めるつもりだったのだろう。
だから茉莉を守るのは秋久じゃないと秋久は判断した。
しかしその力が危険だと祈から聞いていたから善明が銃を取り上げた。
いくら化け物染みた力を持っていても実力も経験もけた違いの父親に適うはずがない。
それに……。
「何かあるの?」
「晶さん。あの2人実は仲がいいんだろ?」
僕がそう言うとみんな驚いていた。
「なんでそう思ったの?」
「普段は殺さない程度にやり合ってるんだろ?」
子供の戯れと言うにはちょっとやりすぎな所もあるけど。
きっと菫は悩んでいる茉莉に「しっかりしろ!」と発破をかけるつもりでいたんだろう。
菫の相手がそんなに落ち込んでいたらやりがいが無い
あの程度の事でうじうじするな。
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そう伝えたかっただけだと思う。
あの子達は普段は見せないけどいざとなったらしっかり連携が取れうグループになってる。
ひょっとしたらSHの次世代の主力になるかもしれないね。
「善明もよかったじゃないか。菫に恋人出来たんだろ?」
「それが……どうやら菫も翼に似たみたいで」
「善明、それどういう意味?」
翼が善明を睨みつける。
「彼女に逆らえないのは片桐家の男子の宿命?」
「……多分石原君や酒井君も同じじゃないの?」
「あら?そうなの望」
「善君もそう言う話あまりしないわね」
「恵美さん。それはない!大地がその証拠だ!」
天音が話に入って来た。
「どういう意味なの?天音ちゃん」
「あ、天音あれはしょうがないだろ」
「しょうがないわけないだろ!ふざけんな!」
「大地、何をやったの?」
石原君が聞いていた。
すると天音が説明した。
偶にはこういうのもいいだろう。
鮮度のいい魚が売っていたから天音は買ってきて捌いて刺身にした。
日本酒とちょうどいいだろうと大地と2人で飲むのを楽しみにしていた。
だけど魚が苦手な大地はピーナツバターを自分で用意した。
欲しそうに見ていた結莉や茉莉に刺身を譲って。
「だから、魚は骨があって苦手だって前にホイル焼きを作ってくれた時に言ったじゃないか」
「お前は馬鹿か!刺身に骨が無いことくらい小学生でも知ってるぞ!」
最近の子供は刺身が海を泳いでいると思ってるらしいけど。
だから水族館で感動するらしい。
天音達は食えるか食えないかくらいしか思ってなかったらしいけど。
「大地!あなたまだそんな馬鹿な事子供の前でしてるの!結婚したら直しなさいとあれほど言ったでしょ!」
「天音。それなら僕からいい提案があるんだけど」
石原君が言った。
「多分鮭は大丈夫だと思うんだ。ふりかけにして食べられるから」
「まあ、確かにそうだけど。そこから慣らしていけって事ですか?」
「うん、まずは身をほぐした物から食べさせていけばいいんじゃないかな」
魚が生臭いなんて理由もあるかもしれない。
「それは望がそうだったからでしょ!望もそうだった。美希が作った魚介類のパスタを食べようともしなかった」
「あれは貝がじゃまじゃないか」
「そんあの言い訳にならない!菫は殻ごと食べようとしてたわよ!」
またずいぶんと豪快な食べ方だな。
「菫、お前貝の食い方すらしらないのか?」
「歯があるんだからかみ砕けばいいだろ?」
「まさかとは思うが海老やカニもそうなのか?」
「それはないよ、さすがに海老やカニは殻を剥くから」
善明が説明していた。
「なあ、トーヤ。私達の世代の子供にもアドバイスしてやってくれないか?」
カンナが言っていた。
誠と瑛大の孫娘にしては珍しいことになってるらしい。
それは愛莉たちの様に亜依さんと水奈の家に様子見に行った時らしい。
「やばい!母さん達が来た!二人とも服を着ろ!」
「いいじゃん、じいじがいたらお小遣いくれるんでしょ?」
「馬鹿!私が怒られる!頼むから下着だけでもつけてくれ!」
そんな声が外まで響いてきたので預かっていた合鍵で踏み込んだら大変なことになっていた。
「この馬鹿はどうして来ると前もって教えていたのにこうなんだ!」
「神奈はお小遣いくれないの?」
「その馬鹿な考えは誰から聞いたんだ?」
「天音」
それを聞いた愛莉は天音を睨む。
「お、お前私を巻き込むなってあれほど言っただろ!」
「私が言ったんじゃない。優奈が言ったんだ!」
どうせ子供が帰ってきたら遊べないのなら、子供達がいない午前中にゲームしようぜ。
そんな事を2人で決めていたそうだ。
だから子供たちが帰ってきたら昼ご飯を食べて片付けがてらに部屋を掃除したらいいと思っていた。
昼過ぎからだからカンナ達が帰ってくるまでには間に合うと思っていたらしい。
しかし計算外の事が起きた。
優奈達が裸で歩き回る。
「服を着ろ!風邪ひくぞ」
「馬鹿は風邪ひかないって神奈が言ってたよ」
「引き方が馬鹿だったら誰でも引くぞ!」
「それに神奈達が来るんでしょ?」
誠も一緒だったら小遣いくれるかもしれない。
そんな判断をしているらしい。
「と、いうことは天音も午前中は遊んでいたわけですか?」
「子供の前でしてないからいいだろ?」
「そんなわけありません!」
ってことは……。
僕は亜依さんを見る。
「琴音もいっしょだよ。遊が困ってる」
「え?」
水奈も驚いたそうだ。
「パパ、どうして夜はママと一緒に寝てるの?」
「夫婦だからだよ」
「じゃあ、私もパパと一緒に寝たい」
「こ、琴音はもう一人で寝れるだろ」
「私だけ一人ぼっちなんてずるい!」
「朱鳥がいるじゃないか」
「朱鳥がママと一緒に寝たらいいじゃない」
「パパを困らせたらダメでしょ。琴音はもう一人で寝れるんだから」
「だったらママが一人で寝たらいい」
その話をなずなから聞いて笑っていたそうだ。
あの遊がそうなるのか。
しかし琴音の場合祖父が問題だった。
「琴音。夫婦になると夜はプロレスをするんだ……いてぇ!」
「お前は4歳の子供に何を吹き込んでるんだ馬鹿!」
その話を結も聞いていたらしい。
不思議そうに空と比呂を見ていた。
「父さんと母さん喧嘩してるの?」
さすがに空にもどうにもならないらしい。
「そういや、お前は朔に抱いてもらえたのか?」
「この腰抜けはキスすらしようとしねーよ」
「なんですって……?」
希美と茉莉の話を聞いていた晶さんが一言いうと祈を睨む。
「そういうのは母親が作法を教えないと善明みたいになってからでは遅いわよ!」
そう言って祈を叱っていた。
まだ男女の関係は早いと思うけど、何か説明をしないと収拾がつきそうにない。
皆が僕に援護を求める。
僕は一言言った。
「茉莉達はゲームばっかりしてるだろ?」
大体の子供がウンと言った。
「だから分からないんだよ」
たまには恋愛ドラマとか見てみたらどうだい?
当たり前の愛し方と言うのが分かるかもしれない。
キスをしたり抱き合う意味を分かるかもしれない。
そういう恋のお手本を見てごらん。
最近のドラマは規制が激しい。
茉莉達が起きてる時間に如何わしい表現なんて絶対にない。
「……ていうわけだ。少しは女の扱い方を勉強しとけ!」
茉莉は朔にそう言って食事に戻る。
朔は知らないわけじゃないだろう。
ただ笑っていた。
「結はまだいいよ。私もまだ恥ずかしいし」
「わかった」
結は僕や空と同じ道を順調に歩んでいるんだろうな。
子供たちの育児はこれからも続いていく。
いつか誰かと結婚して子供を産むまで。
その時にまた天音達は僕達の心を知るだろう。
それが延々と続く物語。
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