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貴方の嫁になりました
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(1)
「泉や、おめでとう」
「ありがとう」
今日は泉と育人の結婚式。
大勢の来賓がいる中さすがに泉も緊張しているらしい。
育人も緊張しているかと思ったらそうでもない。
最初は石原君の芸能事務所USEのタレントの衣装を作ってくれたらいいと言う話だった。
だけどその衣装を見たファンが「あの服どこで売ってるんだろう?」とネットで大騒ぎになった。
「育人。覚悟を決めなさい。こういうのは追い風が来ている時に乗った方がいい」
そう言ってオンラインショップを創設した。
さすがに育人一人じゃ手に負えないだろうとスタッフとかき集めて店を地元に構えた。
飛ぶように売れ、そして世界各地のファッションショーに出る珍事態になる。
「やっぱり私が確保しておけばよかった」
英恵さんはそう言って笑っていた。
石原君の娘の杏采も高校を卒業して社長の椅子に座る。
そうして江口グループの服飾部門「フェール ブリエ」は順調に軌道に乗っていた。
泉も今年高専を卒業して何の問題もないので育人と結婚する事になった
しかし化粧品メーカーが軍需産業も担っているコングロマリットの話は聞いたことがあるけど、服飾部門の裏側で核兵器を開発している日本の企業は江口グループだけだろう。
この物語はどこへ向かっていくのか分からない。
ハッピーエンドで終わる事だけは約束されている。
もうラストシーンもすでに決めてあるらしい。
今頃になってやっと終章が見えてきたそうだ。
披露宴が終わるとSHの面々は2次会に向かった。
「善幸、今夜は祝いだ。徹底的に飲もう」
多田君がそう言うと石原君も「会場は用意してあるから」と言った。
会場に着くと渡辺君達がねぎらいの言葉をかけに来る。
「酒井君お疲れさん」
「ありがとう。これでやっと娘は無事に全員相手が見つかったよ」
その気分は渡辺君なら分かるだろう。
「そっか、あとは善斗と善久だけか」
二人とも恋人がいるから大丈夫だろう。
結末が決まっている。
だから余計なエピソードは省くつもりでいるだろう。
その割には過激な話は作りたがるけど。
どうかあきらっきーの出番が来ない事を祈るよ。
「やっぱり肩の荷が降りた気分?」
片桐君が聞いてきた。
そうか、まだ片桐君には莉子がいたね。
「そうだね。仕事も全部善明に押し付けて隠居したい気分だよ」
「僕もまだ杏采がいるから無理かな」
石原君が笑っていた。
渡辺君は茉里奈も紗理奈も結婚したからゆとりがあるんだろう。
後は順調に定年を迎えて第二の人生を歩むだけ。
すると愛莉さんが不思議そうに言った。
「どうして父親は娘が嫁に行くとそんなに動揺するんですか?」
「愛莉ちゃんの言うとおりね。望も娘がキスしたくらいで勝手に飲みに行ってたし」
大地や善明も同じだと聞いていた。
愛莉さんは自分の父親も片桐君と結婚の報告に行くと高いシャンパンを出して涙したそうだ。
だから片桐君は愛莉さんに言っていた。
「やっぱり父親にとって娘って大切なんだよ。小さい時から見守って来た可愛い娘なんだから」
「それは息子も同じじゃないですか」
「息子の場合嫁を連れてくる。娘の場合他家に嫁に出す。その違いじゃないかな」
父親にとってやはり娘の結婚は寂しい。
だけど手塩にかけて育てて立派に成人したのなら祝福してやりたい。
色んな気持ちが混ざってどうしたらいいかわからなくなる。
それだけ父親にとって娘は貴重なんだ。
愛莉さんの父親からも聞いたそうだ。
「だから娘は宝なんだ」
その後の娘のすべてを夫に託す。
父親にとって本当に娘離れの時が来たという事。
「愛莉は息子が結婚する時に何も思わないの?」
片桐君が愛莉さんに聞いていた。
「そうですね。まあ嫁の事は少し気にする程度ですね」
でも愛莉さんの気持ちは多分他の母親とは違うんじゃないかと言う。
それはいつでも実家に帰ってくるからそこまで寂しくはない。
だから息子には言うらしい。
「たまには嫁の実家にも帰ってあげなさい」
片桐君を見ていると自然にそう言うようになったらしい。
母親は父親よりも子供と接してる時間が長い。
だから当然手元を離れるのは寂しい。
だけど、覚悟も自然に出来てくる。
母親にとって子離れは子供が自立を始めた時から始まっている。
子供の心が親から離れて行くことをすぐに感じ取る。
でもそれでいい。
だってそうできるように一生懸命に育ててきた。
どこに送り出しても恥ずかしくない子供に育て上げた。
「だから冬夜さんも私達にも声をかけてください」
すぐに父親だけで飲むのは止めて欲しい。
母親だってずっと子供の面倒を見てきたんだから。
「わかるぜ!俺もそうだった。まだ歩美や佳織がいるんだ」
多田君と桐谷君がやってきた。
この雰囲気を平気でぶち壊す渡辺班の闇の部分。
今夜も二人は期待を裏切らない。
「突然現れて自分の大事な娘と寝るんだから寂しいよな!」
「誠の言う通り!俺だって見た事のない娘の裸を見るんだ。悔しいよな」
「瑛大は恋の裸見たんだろ?」
「揉んでみる?って挑発されたぜ。ちょうど亜依が帰って来たから我慢したけど」
反対に千帆と姫乃は全く見せてくれないらしい。
それが普通だと思ったけど……泉は馬鹿な事をしなければいいけど。
「お前は私のいないところで恋に何をやっていたんだ?」
「心配しなくても最後まではやってねーよ。さすがにそれはダメって言われた……ってあれ?」
桐谷君は恐る恐る後ろを振り向くと亜依さんと神奈さんが立っていた。
いつものパターンだ。
亜依さん達が桐谷君を連行していく。
誰も止めなかった。
「まあ、望がああいう男じゃないだけましって事かしら」
恵美さんが言っている。
「娘という事に関しては多分恵美が一番恵まれているんじゃないかな?」
愛莉さんがそう言っていた。
「どうして?」
「恵美からはそう言う話全く聞いてないから」
「どんな話?」
恵美さんが聞くと愛莉さんが説明した。
泉もそうだけど家族に対して恥じらいと言うものを全く示さない。
それどころか父親を誘惑しようとする。
それは茜と冬莉だけじゃない。
天音や翼でさえ張り合っていた。
しかし最大の問題はそこじゃなかった。
「空も冬夜さんも娘の気持ちに全く気付かないの」
心を読める片桐君でさえそういうのに無関心らしい。
片桐家の小遣いの危機の原因は大体買い食いだ。
だからその話を始めると娘の誘惑に気づかずにそのお店について知りたがる。
そうやって話が脱線しているところに大体愛莉さんが発見する。
空も同じだ。
すぐにおにぎりの話や唐揚げの話に持っていくらしい。
「私だとまだお子様なのかな?」
そんな孫娘の相談を美希と一緒に聞いているんだそうだ。
そりゃ小学生じゃあ無理だよ。
例外もあるけど。
「で、でも誠たちみたいになるよりはましだろ?」
娘は可愛い。
だから大切に育てる。
だけど娘はいくつになろうと娘なんだ。
ただ異性を見ているのとはわけが違う。
片桐君はそう言って言い訳していた。
だけど愛莉さんはそれで納得しない。
「冬夜さんは私が誘っても気づいてくれなかったじゃないですか!」
焼肉食い放題と風俗を秤にかけて迷わず焼肉を選ぶのが片桐君だ。
空も同じらしい。
冬眞や純也が珍しいんだ。
「そういえば善君からもそう言う話聞かなかったわね?」
晶ちゃんが僕を見ていた。
だけど怒ってはいない。
ただ笑っていた。
「でも愛莉の話を聞いていると泉たちの子供が気になるわね……」
片桐君の娘の茜と冬莉は娘が風呂に入りたくないというと「ま、外に出てないからいいか」と言うらしい。
慌てて壱郎と志希が風呂に入れようとするらしい。
風呂に入れて髪を乾かすまですべて男親がやる。
やり方が分からず嫁に相談すると一言ですんだ。
「ほっとけば勝手に乾くから大丈夫」
エアコンつけてるんだから風邪ひくって事はないだろう。
しかしそんな状態でベッドに入ったら寝具が濡れる。
それを乾かす事すら「ベランダ汚れてるから止めといた方がいいんじゃない?」と返ってくる。
さすがに自分の母親に相談したら嫁を「出来ない母親」と思われる。
仕方なく愛莉さんに相談する。
「お布団も洗濯しないとお風呂に入った意味がないでしょ!」
「だったら風呂に入らなくていいじゃん!」
そんなやりとりを何回もしていい加減愛莉さんもうんざりしてるらしい。
……泉もやりかねない。
大丈夫だろうか?
晶ちゃんも同じ心配をしていた。
「晶。冬夜さんが昔こんなセリフを教えてくれたの」
娘に限っては常に最悪の状態を想定しろ。必ずその斜め上の状態になっている。
「愛莉ちゃん。天音ちゃんだけでも私が見ようか?そもそも石原家だし」
恵美さんが愛莉さんにそう言っている。
「恵美も仕事あるし、天音はまた違う問題だから……」
天音はちゃんと娘を風呂に入れている。
もう大地が居なくても風呂に入る。
結莉はもちろん茉莉にも朔がいるから。
もちろん風呂から出て裸で家中を歩き回るという愚行もしない。
まだ自分が子供だと自覚してるらしい。
大地にそれを見せるなんて事もしない。
ここまでは普通の娘だ。
ずいぶん成長したんだな。
そう思った。
問題はここからだった。
二人は部屋に入ると別々の行動をする。
結莉は芳樹と電話をしている。
茉莉はネット対戦で菫や優奈や愛菜と遊んでいるらしい。
そして自分の娘が負けそうになると親が乱入する。
そう、水奈と天音だ。
普通は寝かしつける時間でも全く気に留めない。
それどころか「逃げるのかこのチキン」と挑発して朝になるまでゲームをしているそうだ。
ネット対戦だから外人も乱入する。
だから自然と茉莉と希美は英語を覚えたらしい。
結果だけを見ればいい。
だが、朝まで起きていていつ寝るのか?
言うまでもなく学校でだった。
寝不足だからイライラしている。
クラスの他の人間がうるさいと暴れ出す。
機嫌の悪い菫や茉莉ほど怖い者はない。
一方天音と水奈は朝寝ている。
だから優翔や茉奈、結莉が朝食を支度する。
結莉は割とまともだった。
大地が「夜更かしして肌が荒れたら芳樹に嫌われちゃうかもよ?」と言ってみたらしい。
当然そんな事になったら天音と恵美さんが黙っていないだろう。
だけど結莉はそうは受け取らなかった。
「うぅ……芳樹。そろそろ寝るね」
「うん。僕も寝るよ。また明日ね」
馬鹿な真似をする連中さえいなければ一番安全な子。
だけど手出しして怒り出したら一番手に負えない子。
その話を聞いた恵美さんは晶ちゃんと相談した。
その結果愛莉さんも交えて翼と天音に注意したらしい。
「子供を注意するべき事なのに親がムキになってどうするのですか?」
「挑発してくるのは水奈もだぞ!」
当然学に報告して水奈も学に叱られたらしい。
だから愛莉さんは天音よりも翼の援護をしてやって欲しいと恵美さんが言っていた。
「だから晶も気を付けた方がいい」
繭に至っては旦那の天の方が酷いけど泉が子供を作ったら様子を見てやるべきだ。
「しかし不思議だね」
「どうしたの?片桐君」
片桐君は笑って答えていた。
「ファッションデザイナーの妻が服装に無頓着になるのかな?」
確かにそうなんだけどね。
大企業のご令嬢が銃を持って暴れる世界でその考えは間違ってる気がするよ。
(2)
「なんだよ!今日は朝まで付き合えよ!」
遊や天音達がそう言っていた。
「育人も少しは嫁さんの事考えろ。絶対に育人が想像してる初夜なんて無理だ!」
だったら一緒に遊ぼうぜ!
「うん、泉が疲れてる事は分かってる」
「だったら……」
「だから休ませてやりたいんだ」
いっくんはそう言って断るとタクシーを呼んで家に帰った。
部屋に帰るととりあえず風呂に入る。
いつもの様に全裸で出ようかと思った。
だけど冬華の事を思い出していた。
冬莉は気にも止めてないけど志希は大変らしい。
多分大きくなったら志希ではどうしようもなくなるだろう。
「パパのエッチ!」
そんな時期が待っているのだから。
私は脱衣所で少し考えていた。
私は酒井家の娘。
そして今日からはいっくんの嫁。
いっくんに恥をかかせるような嫁になりたくない。
今がその時なんだ。
私は用意していたパジャマを着る。
遠回しに「裸で歩き回ると僕が目のやり場に困るから服を着て」と言わんばかりにおそろいのパジャマを買っていた。
それを着てリビングに出ると、それに気づいたいっくんが私を見る。
「あ、着てくれたんだ」
似合ってるよと笑顔で言った。
私は黙って床に正座すると深く頭を下げる。
「ど、どうしたの!?」
慌てるいっくんに静かに言う。
「私は今日からいっくんのお嫁になりました」
「う、うん」
「だから嫁として恥ずかしくない行動をとろうと今ここで誓います」
「だ、大丈夫だよ。僕の方こそ嫁に恥をかかせないように努力するよ」
二人で頑張ろう?
いっくんは私の手を取ってそう言った。
「うん、がんばろうね」
「じゃ、疲れただろう?そろそろ寝ようか」
疲れてるのは分かってるから何もしないよ。
だけど私はまだ正座をしていた。
「母さんに聞かれたらせっかくの式が台無しになると思って黙っていたことがあるの」
「何か問題があったの?」
「問題と言えば問題かな」
「どうしたの?」
いっくんが言うと私は少し頬を赤らめながら伝えた。
「私は今日からいっくんの嫁だけど同時に母親になりました」
今年結婚するからと母さんは家を買ってくれた。
だから一緒に同棲していた。
婚姻届けは前もって出しておいたから問題ないけど。
そして先週体調があまりよくなかったからひょっとしてと思って病院に行った。
そして医者から伝えられた。
「そっか……でもどうしてそれが晶さんに怒られるの?」
「嫁入り前に子供を作ったなんて知れたら、母さんじゃなくても父さんが怒り出すかもしれない」
だけど冬莉が言っていた。
「パパは結婚式当日に愛莉から妊娠を伝えられたらしいよ」
結婚した後なら問題ないでしょう。
受精日の計算なんて面倒な事父さんがするわけがない。
ちゃんと結婚してるんだから「おめでとう」と笑っているだろう。
「ってことは僕も父親になるんだね」
「頼りにしてるから」
「うん、僕が出来る事があるなら何でも言ってよ」
「ありがとう」
「そんな姿勢続けていたらつらいんじゃないのか?」
早く横になった方が良い。
いっくんがそう言うと私は寝室に向かう。
私は今日から妻であり母親になる。
だから少しだけ大人になろう。
そんな誓いを決めた記念日。
(3)
その日芸能界は大事件が起きていた。
有名なアイドルグループのメンバーが女性歌手に薬を持ってホテルに連れ込もうとした。
その事実が発覚して現実でもネットの中でも大混乱になっている。
根も葉もないうわさが飛び交い、コメンテーターが勝手な事をほざいていた。
それは僕の予想通りアイドルグループの女性ファンが地雷を抜いた。
メンバーが女性歌手と不倫。
それは当然冬莉や麻里にとってスキャンダルになる。
そう信じていただろう。
だから恵美さん達にちゃんと切り札を与えておいた。
事務所が隠していた画像ファイルを誠たちはいち早く奪い取った。
ネットの中にあるというだけでそれは危険なものだと事務所は気づかなかったのだろう。
それだけでは薬を盛ったことまでは証明できない。
だからその画像と山本環奈さんの証言で利用した店を割り出していた。
当然の様に防犯カメラがある。
環奈さんも喜一から言われていたらしい。
何かあったらまずいからこの店を使え。
喜一は東京に滞在していた事があるからある程度は詳しい。
防犯カメラなんてものがあったら誠や茜にとってみたらいい餌だ。
しっかりその時間の映像を捕らえた。
そこには2人が席を立った後二人の飲み物に何かを入れている場面がしっかり映っていた。
それを証拠に逆に恵美さん達が訴えた。
恵美さん達が用意した弁護士たちだ。
どこかのゲームメーカーの弁護士並の実力はあるだろう。
数日後、メンバーはグループから離脱。
芸能活動も無期限停止となった。
当たり前の様にファンは逆上する。
ファンは全国に存在する。
だから渡辺班や4大企業の怖さなんて知らないものがほとんどだ。
ファンは冬莉や麻里の家の住所を突き止めてネットに公開したり脅迫文を送るようになる。
ネットでそんな事をするのは自殺行為だ。
茜や菫に誠が逆にファンの住所や顔写真、勤め先や学校まで暴いてばらまき始める。
脅迫文を送った連中はすぐに住所を割り出す。
地方の企業とは言え世界中で暴れる企業。
たかだか一般市民如きの人生を狂わせるくらい簡単にやってのける。
実際に冬莉を襲ったところで冬莉が返り討ちにする。
子供を狙えば暇を持て余していた天音や水奈がしっかりガードしていた。
「愛莉が暴れていいって珍しい事言ってるんだ。悪いけど死ね」
「毎日親や学の説教でイライラしてるんだ。すっきりさせてもらうぞ」
麻里達も同じだ。
「息子の事務所の大事なアーティストなんだ。手出しさせないよ」
石原君達がしっかりガードしていたらしい。
二人と関係者に手を出した馬鹿は例のごとく港に集められる。
「自分で海に飛び込むか蹴りおとされるかくらいは選ばせてやる」
空がそう言って逃げ出そうとするやつも全員捕まえて海に放り込んだらしい。
この一件はこれで終わった。
今日はその祝勝会を開いていた。
「なんか思ったよりちょろかったな」
誠がビールを飲みながら聞いていた。
「当たり前だろ。相手は何も知らない素人なんだから」
すぐに住所を突き止める情報網がありながらSHを怒らせるとどうなるかまでは知らなかったらしい。
まあ、こんな地元のグループなんて大したことないとでも勘違いしたんだろう。
地元に住んでいる若者がSHやFGを知らずに冬莉に手を出そうとしたことがある意味凄いけどやっぱりただの馬鹿だ。
相手はこっちの事なんて全く知らなかった。
だけど僕達は事前に大体の状況を把握していた。
そんな二つがぶつかり合えばどうなるかくらい結くらいでも分かるだろう。
その結が志希にお願いしていた。
「肛門の歌歌って」
「ゆ、結。あの歌はダメって言ったでしょ」
空と美希が苦労していた。
「もう少し大きくなったら歌詞教えてあげるから自分で歌えるよ」
まあ、カラオケでも結局配信されてるらしいしな。
「教えたらいけません!」
愛莉も必死だった。
だけど比呂がしっかりCDも買ったらしくて部屋から音楽が漏れてくる。
「その曲は家で流したらダメって愛莉から言われたでしょ?」
「なんで?」
「え、えーとね。あれは大人が聞くものなの」
結はそれでよかった。
だけどやっぱり天音だ。
片桐家では厳禁と言われてる歌を平気で結莉達に聞かせる。
遊達が今騒いで歌っている馬鹿な歌より質の悪い曲。
親は大変だろうな。
「不思議なんですけど」
愛莉が聞いてきた。
「どうしたの?」
「冬夜さんや空達は普通の歌を好んでいたのにどうして結や比呂は違うのでしょうか?」
そんな事か。
「天音は違っていただろ?」
「やっぱりそうなんですね」
愛莉は落ち込んでいた。
「大変な所悪いんだけど片桐君にアドバイスが欲しいんだけどいいかい?」
酒井夫妻が来た。
「やっぱり泉の事?」
愛莉が聞くと晶さんは首を振った。
「まあ、泉の事を言えば泉の事なんだけど」
「やっぱり家事をやらないとか?」
冬莉が聞いた。
「逆なの。あの子真面目に主婦を務めてるみたい」
「じゃあ、何も問題ないじゃない」
愛莉が言うと酒井君が作り笑いをして言った。
「確か片桐君が結婚した時愛莉さんが妊娠してたんだよね?」
「そうだけど……」
ってまさか……
「ひょっとして泉まさか」
冬莉も気づいたみたいだ。
酒井君はそれを聞いて頷いた。
「あの子達は結婚してから子供が出来たって事なのか、子供が出来たから結婚したのか判断出来なくて」
娘の父親としてどうしたらいい?
そんな質問だった。
僕は笑って答えた。
「僕達は子供がそうなったわけじゃないから」
親に報告した時は大騒ぎだったけど。
「愛莉ちゃんやればできるじゃない~」
「うん、冬夜さんが頑張ってくれたの~」
そんなやりとりがあったら。
父さんたちは遅くまで二人で酒を飲んでいたらしいけど。
「でも、結婚は前もって決めてたんでしょ?出来婚にはならないんじゃない?」
亜依さんが聞きつけてやって来た。
「ダメだろ善幸!そこは父親としてビシッと言ってやれ!それって完全に婚前交渉じゃないか!そんな羨ましい事許されるはずが……いてぇ!」
「誠は黙ってろ!私も祝ってやればいいと思うけどな。それより晶も愛莉並みに大変だぞ?」
娘たちの孫が一度に増えてるんだから様子見たり大変だろうとカンナが言う。
「私からもお願いします。小学生になる前に少しは教育をしておいてください」
桜子最近元気ないな。
「お前もいい加減諦めろ!そんなに悩むことじゃないだろ?結莉も芳樹がいるから学校破壊したりしねーよ」
「そうそう。茉奈や優翔は真面目に育ってるじゃないか。今から悩んでると本当に禿げるぞ」
天音と水奈が桜子を励ましている。
「……すいません。俺も嫁の教育が少し甘かったみたいです」
学がそう言って頭を下げると水奈を睨む。
「ば、馬鹿。これ以上厳しくされたら実家に帰るぞ!亭主関白なんて今時はやらねーぞ!」
「馬鹿はお前だ水奈!そんな理由で実家に帰ってきても絶対に家にいれないからな!」
「瞳美。優奈達が問題起こしたら私に言え」
どうせ学校に呼び出しても水奈が行くとは思えないとカンナが言う。
だけど愛莉は何も言わずに様子を見ていた。
いつもだったら怒り出しそうなのにどうしたんだろう?
パーティが終わって家に帰ると寝室で愛莉に聞いてみた。
「だって冬夜さんがおっしゃってたじゃないですか」
娘が子育てに悩むのを見ていればいい。
だからよほどのことが無い限りは天音に任せよう。
天音が悩んでるようには思えないけど。
「ああ見えて色々相談してくるんですよ」
学校で寝ないようにさせるべきなのか静かに寝せておいた方がいいのか?
色々愛莉に相談してくるらしい。
「夜更かしさせないようにするという選択肢は天音にはないのですか?」
「ほ、ほら若いうちに夜更かししないと年とってからじゃつらいだろ?」
「そういう問題じゃないでしょ!」
自分で言っておいてなんだけど少々不安があった。
「まあ、夜更かしはつらいのは確かだね」
早く寝ようか?
「はい」
そう言って僕達は眠りにつく。
夏が過ぎ秋になる。
今年はまだまだ続く。
「泉や、おめでとう」
「ありがとう」
今日は泉と育人の結婚式。
大勢の来賓がいる中さすがに泉も緊張しているらしい。
育人も緊張しているかと思ったらそうでもない。
最初は石原君の芸能事務所USEのタレントの衣装を作ってくれたらいいと言う話だった。
だけどその衣装を見たファンが「あの服どこで売ってるんだろう?」とネットで大騒ぎになった。
「育人。覚悟を決めなさい。こういうのは追い風が来ている時に乗った方がいい」
そう言ってオンラインショップを創設した。
さすがに育人一人じゃ手に負えないだろうとスタッフとかき集めて店を地元に構えた。
飛ぶように売れ、そして世界各地のファッションショーに出る珍事態になる。
「やっぱり私が確保しておけばよかった」
英恵さんはそう言って笑っていた。
石原君の娘の杏采も高校を卒業して社長の椅子に座る。
そうして江口グループの服飾部門「フェール ブリエ」は順調に軌道に乗っていた。
泉も今年高専を卒業して何の問題もないので育人と結婚する事になった
しかし化粧品メーカーが軍需産業も担っているコングロマリットの話は聞いたことがあるけど、服飾部門の裏側で核兵器を開発している日本の企業は江口グループだけだろう。
この物語はどこへ向かっていくのか分からない。
ハッピーエンドで終わる事だけは約束されている。
もうラストシーンもすでに決めてあるらしい。
今頃になってやっと終章が見えてきたそうだ。
披露宴が終わるとSHの面々は2次会に向かった。
「善幸、今夜は祝いだ。徹底的に飲もう」
多田君がそう言うと石原君も「会場は用意してあるから」と言った。
会場に着くと渡辺君達がねぎらいの言葉をかけに来る。
「酒井君お疲れさん」
「ありがとう。これでやっと娘は無事に全員相手が見つかったよ」
その気分は渡辺君なら分かるだろう。
「そっか、あとは善斗と善久だけか」
二人とも恋人がいるから大丈夫だろう。
結末が決まっている。
だから余計なエピソードは省くつもりでいるだろう。
その割には過激な話は作りたがるけど。
どうかあきらっきーの出番が来ない事を祈るよ。
「やっぱり肩の荷が降りた気分?」
片桐君が聞いてきた。
そうか、まだ片桐君には莉子がいたね。
「そうだね。仕事も全部善明に押し付けて隠居したい気分だよ」
「僕もまだ杏采がいるから無理かな」
石原君が笑っていた。
渡辺君は茉里奈も紗理奈も結婚したからゆとりがあるんだろう。
後は順調に定年を迎えて第二の人生を歩むだけ。
すると愛莉さんが不思議そうに言った。
「どうして父親は娘が嫁に行くとそんなに動揺するんですか?」
「愛莉ちゃんの言うとおりね。望も娘がキスしたくらいで勝手に飲みに行ってたし」
大地や善明も同じだと聞いていた。
愛莉さんは自分の父親も片桐君と結婚の報告に行くと高いシャンパンを出して涙したそうだ。
だから片桐君は愛莉さんに言っていた。
「やっぱり父親にとって娘って大切なんだよ。小さい時から見守って来た可愛い娘なんだから」
「それは息子も同じじゃないですか」
「息子の場合嫁を連れてくる。娘の場合他家に嫁に出す。その違いじゃないかな」
父親にとってやはり娘の結婚は寂しい。
だけど手塩にかけて育てて立派に成人したのなら祝福してやりたい。
色んな気持ちが混ざってどうしたらいいかわからなくなる。
それだけ父親にとって娘は貴重なんだ。
愛莉さんの父親からも聞いたそうだ。
「だから娘は宝なんだ」
その後の娘のすべてを夫に託す。
父親にとって本当に娘離れの時が来たという事。
「愛莉は息子が結婚する時に何も思わないの?」
片桐君が愛莉さんに聞いていた。
「そうですね。まあ嫁の事は少し気にする程度ですね」
でも愛莉さんの気持ちは多分他の母親とは違うんじゃないかと言う。
それはいつでも実家に帰ってくるからそこまで寂しくはない。
だから息子には言うらしい。
「たまには嫁の実家にも帰ってあげなさい」
片桐君を見ていると自然にそう言うようになったらしい。
母親は父親よりも子供と接してる時間が長い。
だから当然手元を離れるのは寂しい。
だけど、覚悟も自然に出来てくる。
母親にとって子離れは子供が自立を始めた時から始まっている。
子供の心が親から離れて行くことをすぐに感じ取る。
でもそれでいい。
だってそうできるように一生懸命に育ててきた。
どこに送り出しても恥ずかしくない子供に育て上げた。
「だから冬夜さんも私達にも声をかけてください」
すぐに父親だけで飲むのは止めて欲しい。
母親だってずっと子供の面倒を見てきたんだから。
「わかるぜ!俺もそうだった。まだ歩美や佳織がいるんだ」
多田君と桐谷君がやってきた。
この雰囲気を平気でぶち壊す渡辺班の闇の部分。
今夜も二人は期待を裏切らない。
「突然現れて自分の大事な娘と寝るんだから寂しいよな!」
「誠の言う通り!俺だって見た事のない娘の裸を見るんだ。悔しいよな」
「瑛大は恋の裸見たんだろ?」
「揉んでみる?って挑発されたぜ。ちょうど亜依が帰って来たから我慢したけど」
反対に千帆と姫乃は全く見せてくれないらしい。
それが普通だと思ったけど……泉は馬鹿な事をしなければいいけど。
「お前は私のいないところで恋に何をやっていたんだ?」
「心配しなくても最後まではやってねーよ。さすがにそれはダメって言われた……ってあれ?」
桐谷君は恐る恐る後ろを振り向くと亜依さんと神奈さんが立っていた。
いつものパターンだ。
亜依さん達が桐谷君を連行していく。
誰も止めなかった。
「まあ、望がああいう男じゃないだけましって事かしら」
恵美さんが言っている。
「娘という事に関しては多分恵美が一番恵まれているんじゃないかな?」
愛莉さんがそう言っていた。
「どうして?」
「恵美からはそう言う話全く聞いてないから」
「どんな話?」
恵美さんが聞くと愛莉さんが説明した。
泉もそうだけど家族に対して恥じらいと言うものを全く示さない。
それどころか父親を誘惑しようとする。
それは茜と冬莉だけじゃない。
天音や翼でさえ張り合っていた。
しかし最大の問題はそこじゃなかった。
「空も冬夜さんも娘の気持ちに全く気付かないの」
心を読める片桐君でさえそういうのに無関心らしい。
片桐家の小遣いの危機の原因は大体買い食いだ。
だからその話を始めると娘の誘惑に気づかずにそのお店について知りたがる。
そうやって話が脱線しているところに大体愛莉さんが発見する。
空も同じだ。
すぐにおにぎりの話や唐揚げの話に持っていくらしい。
「私だとまだお子様なのかな?」
そんな孫娘の相談を美希と一緒に聞いているんだそうだ。
そりゃ小学生じゃあ無理だよ。
例外もあるけど。
「で、でも誠たちみたいになるよりはましだろ?」
娘は可愛い。
だから大切に育てる。
だけど娘はいくつになろうと娘なんだ。
ただ異性を見ているのとはわけが違う。
片桐君はそう言って言い訳していた。
だけど愛莉さんはそれで納得しない。
「冬夜さんは私が誘っても気づいてくれなかったじゃないですか!」
焼肉食い放題と風俗を秤にかけて迷わず焼肉を選ぶのが片桐君だ。
空も同じらしい。
冬眞や純也が珍しいんだ。
「そういえば善君からもそう言う話聞かなかったわね?」
晶ちゃんが僕を見ていた。
だけど怒ってはいない。
ただ笑っていた。
「でも愛莉の話を聞いていると泉たちの子供が気になるわね……」
片桐君の娘の茜と冬莉は娘が風呂に入りたくないというと「ま、外に出てないからいいか」と言うらしい。
慌てて壱郎と志希が風呂に入れようとするらしい。
風呂に入れて髪を乾かすまですべて男親がやる。
やり方が分からず嫁に相談すると一言ですんだ。
「ほっとけば勝手に乾くから大丈夫」
エアコンつけてるんだから風邪ひくって事はないだろう。
しかしそんな状態でベッドに入ったら寝具が濡れる。
それを乾かす事すら「ベランダ汚れてるから止めといた方がいいんじゃない?」と返ってくる。
さすがに自分の母親に相談したら嫁を「出来ない母親」と思われる。
仕方なく愛莉さんに相談する。
「お布団も洗濯しないとお風呂に入った意味がないでしょ!」
「だったら風呂に入らなくていいじゃん!」
そんなやりとりを何回もしていい加減愛莉さんもうんざりしてるらしい。
……泉もやりかねない。
大丈夫だろうか?
晶ちゃんも同じ心配をしていた。
「晶。冬夜さんが昔こんなセリフを教えてくれたの」
娘に限っては常に最悪の状態を想定しろ。必ずその斜め上の状態になっている。
「愛莉ちゃん。天音ちゃんだけでも私が見ようか?そもそも石原家だし」
恵美さんが愛莉さんにそう言っている。
「恵美も仕事あるし、天音はまた違う問題だから……」
天音はちゃんと娘を風呂に入れている。
もう大地が居なくても風呂に入る。
結莉はもちろん茉莉にも朔がいるから。
もちろん風呂から出て裸で家中を歩き回るという愚行もしない。
まだ自分が子供だと自覚してるらしい。
大地にそれを見せるなんて事もしない。
ここまでは普通の娘だ。
ずいぶん成長したんだな。
そう思った。
問題はここからだった。
二人は部屋に入ると別々の行動をする。
結莉は芳樹と電話をしている。
茉莉はネット対戦で菫や優奈や愛菜と遊んでいるらしい。
そして自分の娘が負けそうになると親が乱入する。
そう、水奈と天音だ。
普通は寝かしつける時間でも全く気に留めない。
それどころか「逃げるのかこのチキン」と挑発して朝になるまでゲームをしているそうだ。
ネット対戦だから外人も乱入する。
だから自然と茉莉と希美は英語を覚えたらしい。
結果だけを見ればいい。
だが、朝まで起きていていつ寝るのか?
言うまでもなく学校でだった。
寝不足だからイライラしている。
クラスの他の人間がうるさいと暴れ出す。
機嫌の悪い菫や茉莉ほど怖い者はない。
一方天音と水奈は朝寝ている。
だから優翔や茉奈、結莉が朝食を支度する。
結莉は割とまともだった。
大地が「夜更かしして肌が荒れたら芳樹に嫌われちゃうかもよ?」と言ってみたらしい。
当然そんな事になったら天音と恵美さんが黙っていないだろう。
だけど結莉はそうは受け取らなかった。
「うぅ……芳樹。そろそろ寝るね」
「うん。僕も寝るよ。また明日ね」
馬鹿な真似をする連中さえいなければ一番安全な子。
だけど手出しして怒り出したら一番手に負えない子。
その話を聞いた恵美さんは晶ちゃんと相談した。
その結果愛莉さんも交えて翼と天音に注意したらしい。
「子供を注意するべき事なのに親がムキになってどうするのですか?」
「挑発してくるのは水奈もだぞ!」
当然学に報告して水奈も学に叱られたらしい。
だから愛莉さんは天音よりも翼の援護をしてやって欲しいと恵美さんが言っていた。
「だから晶も気を付けた方がいい」
繭に至っては旦那の天の方が酷いけど泉が子供を作ったら様子を見てやるべきだ。
「しかし不思議だね」
「どうしたの?片桐君」
片桐君は笑って答えていた。
「ファッションデザイナーの妻が服装に無頓着になるのかな?」
確かにそうなんだけどね。
大企業のご令嬢が銃を持って暴れる世界でその考えは間違ってる気がするよ。
(2)
「なんだよ!今日は朝まで付き合えよ!」
遊や天音達がそう言っていた。
「育人も少しは嫁さんの事考えろ。絶対に育人が想像してる初夜なんて無理だ!」
だったら一緒に遊ぼうぜ!
「うん、泉が疲れてる事は分かってる」
「だったら……」
「だから休ませてやりたいんだ」
いっくんはそう言って断るとタクシーを呼んで家に帰った。
部屋に帰るととりあえず風呂に入る。
いつもの様に全裸で出ようかと思った。
だけど冬華の事を思い出していた。
冬莉は気にも止めてないけど志希は大変らしい。
多分大きくなったら志希ではどうしようもなくなるだろう。
「パパのエッチ!」
そんな時期が待っているのだから。
私は脱衣所で少し考えていた。
私は酒井家の娘。
そして今日からはいっくんの嫁。
いっくんに恥をかかせるような嫁になりたくない。
今がその時なんだ。
私は用意していたパジャマを着る。
遠回しに「裸で歩き回ると僕が目のやり場に困るから服を着て」と言わんばかりにおそろいのパジャマを買っていた。
それを着てリビングに出ると、それに気づいたいっくんが私を見る。
「あ、着てくれたんだ」
似合ってるよと笑顔で言った。
私は黙って床に正座すると深く頭を下げる。
「ど、どうしたの!?」
慌てるいっくんに静かに言う。
「私は今日からいっくんのお嫁になりました」
「う、うん」
「だから嫁として恥ずかしくない行動をとろうと今ここで誓います」
「だ、大丈夫だよ。僕の方こそ嫁に恥をかかせないように努力するよ」
二人で頑張ろう?
いっくんは私の手を取ってそう言った。
「うん、がんばろうね」
「じゃ、疲れただろう?そろそろ寝ようか」
疲れてるのは分かってるから何もしないよ。
だけど私はまだ正座をしていた。
「母さんに聞かれたらせっかくの式が台無しになると思って黙っていたことがあるの」
「何か問題があったの?」
「問題と言えば問題かな」
「どうしたの?」
いっくんが言うと私は少し頬を赤らめながら伝えた。
「私は今日からいっくんの嫁だけど同時に母親になりました」
今年結婚するからと母さんは家を買ってくれた。
だから一緒に同棲していた。
婚姻届けは前もって出しておいたから問題ないけど。
そして先週体調があまりよくなかったからひょっとしてと思って病院に行った。
そして医者から伝えられた。
「そっか……でもどうしてそれが晶さんに怒られるの?」
「嫁入り前に子供を作ったなんて知れたら、母さんじゃなくても父さんが怒り出すかもしれない」
だけど冬莉が言っていた。
「パパは結婚式当日に愛莉から妊娠を伝えられたらしいよ」
結婚した後なら問題ないでしょう。
受精日の計算なんて面倒な事父さんがするわけがない。
ちゃんと結婚してるんだから「おめでとう」と笑っているだろう。
「ってことは僕も父親になるんだね」
「頼りにしてるから」
「うん、僕が出来る事があるなら何でも言ってよ」
「ありがとう」
「そんな姿勢続けていたらつらいんじゃないのか?」
早く横になった方が良い。
いっくんがそう言うと私は寝室に向かう。
私は今日から妻であり母親になる。
だから少しだけ大人になろう。
そんな誓いを決めた記念日。
(3)
その日芸能界は大事件が起きていた。
有名なアイドルグループのメンバーが女性歌手に薬を持ってホテルに連れ込もうとした。
その事実が発覚して現実でもネットの中でも大混乱になっている。
根も葉もないうわさが飛び交い、コメンテーターが勝手な事をほざいていた。
それは僕の予想通りアイドルグループの女性ファンが地雷を抜いた。
メンバーが女性歌手と不倫。
それは当然冬莉や麻里にとってスキャンダルになる。
そう信じていただろう。
だから恵美さん達にちゃんと切り札を与えておいた。
事務所が隠していた画像ファイルを誠たちはいち早く奪い取った。
ネットの中にあるというだけでそれは危険なものだと事務所は気づかなかったのだろう。
それだけでは薬を盛ったことまでは証明できない。
だからその画像と山本環奈さんの証言で利用した店を割り出していた。
当然の様に防犯カメラがある。
環奈さんも喜一から言われていたらしい。
何かあったらまずいからこの店を使え。
喜一は東京に滞在していた事があるからある程度は詳しい。
防犯カメラなんてものがあったら誠や茜にとってみたらいい餌だ。
しっかりその時間の映像を捕らえた。
そこには2人が席を立った後二人の飲み物に何かを入れている場面がしっかり映っていた。
それを証拠に逆に恵美さん達が訴えた。
恵美さん達が用意した弁護士たちだ。
どこかのゲームメーカーの弁護士並の実力はあるだろう。
数日後、メンバーはグループから離脱。
芸能活動も無期限停止となった。
当たり前の様にファンは逆上する。
ファンは全国に存在する。
だから渡辺班や4大企業の怖さなんて知らないものがほとんどだ。
ファンは冬莉や麻里の家の住所を突き止めてネットに公開したり脅迫文を送るようになる。
ネットでそんな事をするのは自殺行為だ。
茜や菫に誠が逆にファンの住所や顔写真、勤め先や学校まで暴いてばらまき始める。
脅迫文を送った連中はすぐに住所を割り出す。
地方の企業とは言え世界中で暴れる企業。
たかだか一般市民如きの人生を狂わせるくらい簡単にやってのける。
実際に冬莉を襲ったところで冬莉が返り討ちにする。
子供を狙えば暇を持て余していた天音や水奈がしっかりガードしていた。
「愛莉が暴れていいって珍しい事言ってるんだ。悪いけど死ね」
「毎日親や学の説教でイライラしてるんだ。すっきりさせてもらうぞ」
麻里達も同じだ。
「息子の事務所の大事なアーティストなんだ。手出しさせないよ」
石原君達がしっかりガードしていたらしい。
二人と関係者に手を出した馬鹿は例のごとく港に集められる。
「自分で海に飛び込むか蹴りおとされるかくらいは選ばせてやる」
空がそう言って逃げ出そうとするやつも全員捕まえて海に放り込んだらしい。
この一件はこれで終わった。
今日はその祝勝会を開いていた。
「なんか思ったよりちょろかったな」
誠がビールを飲みながら聞いていた。
「当たり前だろ。相手は何も知らない素人なんだから」
すぐに住所を突き止める情報網がありながらSHを怒らせるとどうなるかまでは知らなかったらしい。
まあ、こんな地元のグループなんて大したことないとでも勘違いしたんだろう。
地元に住んでいる若者がSHやFGを知らずに冬莉に手を出そうとしたことがある意味凄いけどやっぱりただの馬鹿だ。
相手はこっちの事なんて全く知らなかった。
だけど僕達は事前に大体の状況を把握していた。
そんな二つがぶつかり合えばどうなるかくらい結くらいでも分かるだろう。
その結が志希にお願いしていた。
「肛門の歌歌って」
「ゆ、結。あの歌はダメって言ったでしょ」
空と美希が苦労していた。
「もう少し大きくなったら歌詞教えてあげるから自分で歌えるよ」
まあ、カラオケでも結局配信されてるらしいしな。
「教えたらいけません!」
愛莉も必死だった。
だけど比呂がしっかりCDも買ったらしくて部屋から音楽が漏れてくる。
「その曲は家で流したらダメって愛莉から言われたでしょ?」
「なんで?」
「え、えーとね。あれは大人が聞くものなの」
結はそれでよかった。
だけどやっぱり天音だ。
片桐家では厳禁と言われてる歌を平気で結莉達に聞かせる。
遊達が今騒いで歌っている馬鹿な歌より質の悪い曲。
親は大変だろうな。
「不思議なんですけど」
愛莉が聞いてきた。
「どうしたの?」
「冬夜さんや空達は普通の歌を好んでいたのにどうして結や比呂は違うのでしょうか?」
そんな事か。
「天音は違っていただろ?」
「やっぱりそうなんですね」
愛莉は落ち込んでいた。
「大変な所悪いんだけど片桐君にアドバイスが欲しいんだけどいいかい?」
酒井夫妻が来た。
「やっぱり泉の事?」
愛莉が聞くと晶さんは首を振った。
「まあ、泉の事を言えば泉の事なんだけど」
「やっぱり家事をやらないとか?」
冬莉が聞いた。
「逆なの。あの子真面目に主婦を務めてるみたい」
「じゃあ、何も問題ないじゃない」
愛莉が言うと酒井君が作り笑いをして言った。
「確か片桐君が結婚した時愛莉さんが妊娠してたんだよね?」
「そうだけど……」
ってまさか……
「ひょっとして泉まさか」
冬莉も気づいたみたいだ。
酒井君はそれを聞いて頷いた。
「あの子達は結婚してから子供が出来たって事なのか、子供が出来たから結婚したのか判断出来なくて」
娘の父親としてどうしたらいい?
そんな質問だった。
僕は笑って答えた。
「僕達は子供がそうなったわけじゃないから」
親に報告した時は大騒ぎだったけど。
「愛莉ちゃんやればできるじゃない~」
「うん、冬夜さんが頑張ってくれたの~」
そんなやりとりがあったら。
父さんたちは遅くまで二人で酒を飲んでいたらしいけど。
「でも、結婚は前もって決めてたんでしょ?出来婚にはならないんじゃない?」
亜依さんが聞きつけてやって来た。
「ダメだろ善幸!そこは父親としてビシッと言ってやれ!それって完全に婚前交渉じゃないか!そんな羨ましい事許されるはずが……いてぇ!」
「誠は黙ってろ!私も祝ってやればいいと思うけどな。それより晶も愛莉並みに大変だぞ?」
娘たちの孫が一度に増えてるんだから様子見たり大変だろうとカンナが言う。
「私からもお願いします。小学生になる前に少しは教育をしておいてください」
桜子最近元気ないな。
「お前もいい加減諦めろ!そんなに悩むことじゃないだろ?結莉も芳樹がいるから学校破壊したりしねーよ」
「そうそう。茉奈や優翔は真面目に育ってるじゃないか。今から悩んでると本当に禿げるぞ」
天音と水奈が桜子を励ましている。
「……すいません。俺も嫁の教育が少し甘かったみたいです」
学がそう言って頭を下げると水奈を睨む。
「ば、馬鹿。これ以上厳しくされたら実家に帰るぞ!亭主関白なんて今時はやらねーぞ!」
「馬鹿はお前だ水奈!そんな理由で実家に帰ってきても絶対に家にいれないからな!」
「瞳美。優奈達が問題起こしたら私に言え」
どうせ学校に呼び出しても水奈が行くとは思えないとカンナが言う。
だけど愛莉は何も言わずに様子を見ていた。
いつもだったら怒り出しそうなのにどうしたんだろう?
パーティが終わって家に帰ると寝室で愛莉に聞いてみた。
「だって冬夜さんがおっしゃってたじゃないですか」
娘が子育てに悩むのを見ていればいい。
だからよほどのことが無い限りは天音に任せよう。
天音が悩んでるようには思えないけど。
「ああ見えて色々相談してくるんですよ」
学校で寝ないようにさせるべきなのか静かに寝せておいた方がいいのか?
色々愛莉に相談してくるらしい。
「夜更かしさせないようにするという選択肢は天音にはないのですか?」
「ほ、ほら若いうちに夜更かししないと年とってからじゃつらいだろ?」
「そういう問題じゃないでしょ!」
自分で言っておいてなんだけど少々不安があった。
「まあ、夜更かしはつらいのは確かだね」
早く寝ようか?
「はい」
そう言って僕達は眠りにつく。
夏が過ぎ秋になる。
今年はまだまだ続く。
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