姉妹チート

和希

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departure

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(1)

「やっぱり青空の下で飲むのは気持ちいいな!瑛大」
「おうよ!最高だぜ誠!」

 この2人は相変わらずだった。
 もちろん「父兄参加は学に任せる」と言って水奈も天音と飲んでいる。
 亜依さんや神奈さんが怒るはずがない。
 飲んでるんだから。
 それでも遊が「琴音たちが頑張ってるのに出来ない」と断っていたのが不思議なくらいだ。
 天音だって海翔がいるから去年までみたいに僕達がいるから大丈夫だろとは言えない。
 そもそもそんなの気にも止めてないようだったけどSHというか渡辺班は今年も小学校の運動会を勝手に宴会の会場にしていた。
 一方海翔や結は頑張って走っていた。
 結は手加減して走らないといけないから面倒なんだそうだ。
 それでも「かっこいい結が見たい」と茉奈が言えば1等になりたい。
 後ろを見ながら適度なスピードでゴールのテープを駆け抜けていた。
 結莉も頑張っていた。
 しかしそれを見ていた親は大地だけ。
 天音達は盛り上がっている。
 さすがに母さんが「天音は何をしに来てるのか分かってるのですか?」と注意していた。

「宴会だろ?」

 当然の様に答える天音に母さんは頭を抱えていた。
 しかし一緒に見ていた翼はもっと違う事に気づいていた。

「空、何か変じゃない?」
「何かあった?」
「さっきの徒競走。茉莉達がいなかった」
「へ?」

 3年生が走る徒競走に結莉や茉奈はいたけど茉莉や菫達はいなかった。
 すると学も気づいたらしい。

「優奈と愛奈がいなかった」

 当然の様に大地が天音に聞いている。

「気のせいだろ?」

 さも当然の様に答える天音。
 しかし午前の部が終わってお昼休憩になっても結莉だけで茉莉と菫達がいない。
 結莉に聞いてみても「知らない」と答えるだけ。
 しかし結莉が何かを隠している事を翼が見抜いた。
 学も悠翔の態度から何かを確信したようだ。

「水奈、正直に言えば大目に見てやる。優奈達に何を教えた?」
「大したことじゃねーよ。どっかサボるのにちょうどいい場所がないかって聞いたから教えただけだ」
「それはどこだ?」
「私と天音が考えたところは全部桜子にバレて使えないから大丈夫だよ」

 何が大丈夫なのか知らないけど翼はそうは思わなかったみたいだ。

「天音、正直に言いなさい。今年は何を吹き込んだの?」
「水奈が言っただろ。私達の隠れ家はすべて潰された」
「つまり天音が使えなかった場所ってことだね?」
「おい、いくら私でも娘を裏切るようなことはしないぞ」
「ってことは何か教えてたわけね?」
「あっ!」

 天音も飲んでるとはいえ意外と揺さぶりに弱いな。

「水奈!優奈達はどこにいるんだ!?」
「天音も言っただろ!言えないって」
「つまり知ってるわけね?」

 その声を聞いて二人が振り返ると桜子と瞳美先生がいた。

「渡辺班は私達に何か恨みでもあるんですか?孫の世代まで私達を悩ませて楽しいですか?」
「大したことじゃねーよ。あんまり悩むと禿げるぞ桜子」

 天音が笑ってごまかそうとするけど母さん達が問い詰める。
 しかし天音達は絶対に口を割らない
 困ってる桜子をよそに翼は何かに気づいたようだ。
 
「今日は海翔も運動会に出てる。大地もここにいる……大地、茉莉達に家の鍵預けてるんじゃないの?」

 翼が言うと天音がばらすな!とジェスチャーしている。
 それだけで充分だ。
 
「い、家にもちゃんと飯は用意してるから……」

 大地が白状した。

「そういう問題じゃないでしょ!」

 そう言って桜子達は天音と水奈を引きずって大地の家に向かう。

「でもどうして琴音は真面目に出たんだ?」

 瑛大さんが聞いていた。
 遊が答えた。

「パパが見に来てくれるから頑張るね」

 そう言って張り切っていたそうだ。
 
「なんで琴音と優奈達でそんなに差がついたんだろ?」

 しかも遊の娘でなく学の娘が問題を起こす。
 
「やっぱり私のせいなのかな」

 騒動で酔いが醒めた神奈さんが言うと父さんが否定した。

「そもそもそこで間違ってないか?」
「どういう意味だよ冬夜?」

 誠さんも興味あったそうだ。
 誠さんが聞くと父さんは母さんを見た。

「天音は翼と同じ愛莉の娘だ。水奈だって神奈の娘だろ?」
「……言ってる意味がわかんねーぞ。天音は愛莉の娘なのになぜかそうなった。だけど水奈は私の娘だから……」
「変わらないだろ?愛莉も神奈も」

 父さんがそう言うと誠さんが気づいたようだ。
 それに気づいた神奈さんが説明を求めていた。

「神奈。お前の学生時代と大人になってからの事を思い出せ。俺は確かに問題を起こしたけど神奈は違うだろ?」

 母さんと父さんと同じ大学に行けるように苦労してバイトして就職までした。
 アルコールが入って暴れたり多少は問題あったけどそれでも母さんと変わらない。
 母さんだって父さんと喧嘩したりわがまま言ったりしてたそうだから。

「カンナの教育を否定するつもりは無いよ。僕の家だって天音と茜と冬莉が愛莉を困らせていたんだ」
「つまりトーヤは何が言いたいんだ?」
「そんなの悩むだけ無駄だ」
 
 子供の性格なんて生まれ来て物心つく頃まで誰にも分からない。
 問題はそれからだ。
 母さんや神奈さんのように天音や水奈が試行錯誤するしかない。
 お爺さんもそんな感じで父さんを見ていたし、父さんも僕達を試すかのように見ている。
 翼の娘の陽葵や菫も翼達を手こずらせている。
 子供はそういう物だ。
 何がいけない事なのか、何をしないといけないのか、一つ一つを教えていくしかない。
 どうやって教えたらいいのかなんて子供によって変わるのだから模範解答なんて存在しない。
 明らかに孫が誤った道を進んでいるのなら修正してやらないといけない。
 だけど優奈達や茉莉達はただ母親の模倣をしているだけだ。
 菫だって善明や翼から想像つかない娘になった。
 それを一つずつ正していくのは親の仕事。
 むやみに神奈さん達が口を出したらいけない。
 その良い例が天音だ。
 天音が母親失格なんて事を口にしたらその娘の茉莉はどう思う?
 まともに考えたら間違いなくぐれる。

「どうして私なんかを産んだんだ!?」

 そんな事を言われたら天音はさらなる苦しみを得る。
 孫の心配をするのは仕方がないけど手を出しすぎたらいけない。
 どうしても悩んで娘が聞いてきたときだけ助言してやればいい。
 そうでなくても娘には旦那ってパートナーがいるんだから。
 順序で言うなら旦那と相談するのが普通じゃないか?

「冬夜さんはどうしてそこまで天音を信じてるんですか?」
「愛莉の娘だから。愛莉の教育に間違いはないと思ってるから」

 茉莉や菫や優奈達を気にしすぎるあまり忘れてないか?
 結莉や海翔、秋久や悠翔や茉奈だって同じように生まれて同じように育ってきたんだ。
 親が悪いから子供が悪いとは思えない。

「なるほどね。それぞれの子供に対応して親も工夫しないといけないわけね」

 恵美さんが言った。

「多少のやんちゃは許してやればいい。精々結婚式の時にばらしてからかってやればいいさ」
「パパはそういう意地悪は平気でするよね。娘が困っているの見て楽しいの?」
「冬夜さんは昔からそうなんです。私が何度注意しても直してくれないの」

 父さんが言うと翼と母さんが言っていた。
 じゃあ、僕も菫達が結婚する時にネタを考えたらいいのかな?

 ぽかっ

「あまり娘を困らせないで下さいな」

 美希に釘を刺された。

「愛莉はまだいい方だ。お前と旦那を交換して欲しいよ」

 神奈さんが言った。
 水奈が学を家に泊めた時部屋扉に耳をくっつけて水奈の声を聞こうとしたらしい。

「私にも言わせて!昔っから何度も言ってるけど愛莉は絶対に恵まれてる!」

 そう言って母親が騒ぎ出すと父親は何も言えなくなる。
 だけど父さんは誠さんにアドバイスしていた。

「誠司の子供は大丈夫だよ」
「そういや、お前誠司が名前を考えてるまで気づいてたな?」
「多分それは息子の名前だ」
「なんで性別まで分かるんだ?」
「冬吾はきっと娘の名前を考えてるだろうから」

 父さんは笑ってみんなに言った。

「冬夜達の世代を最悪の世代と呼ぶならば……」

 冬吾の子供達は「最後の世代」だ。
 父さんがそう言うと皆が首を傾げていた。
 永遠に続くと思われた物語に終止符を打つ者。
 父さんの目には最後の花嫁が誰なのか見えているのだろうか?

(2)

「冴、大丈夫?」
「うん、辛い時は研斗がいてくれるから」

 私達は地元駅にいた。
 SHの人間は来なかった。
 きっと冴にとってあまり良いイメージを持ってないだろうからと自粛していた。
 だから私だけが見送りに来ていた。
 
「瞳子、最後までありがとうね。SHの皆にもお礼を伝えて」
「それはもうちゃんと伝言を預かってる」

 そう言って私はSHの皆からのメッセージを冴に伝えた。

「元気なガキ作れ。あと、沖縄に遊びに行った時少し安くしろよ」

 天音にはどうでもいいような価格の気がするけど。
 でも冴と研斗君は笑っていた。

「瞳子も新婚旅行に使ってくれ。ぼろい民宿だけど」

 研斗君がそう言うと私は首を振った。

「私も愛莉さんと同じなんだ。新婚旅行は断然ヨーロッパがいい」
 
 冬吾君の稼ぎを考えたらそのくらいどうってことないだろうし何より……。

「天!分かってるわね!?片桐家の新婚旅行でふざけたプラン出したら潰すわよ!」

 恵美さんがそう言って天を恫喝していたらしい。

「まあ、相手が冬吾ならそのくらい余裕だよね」
「でも私は本音を言うと悔しい」
「どうして?」
「だって、冴はもう結婚して子供まで出来てるじゃない」
「……冬吾が帰国したら頑張りな」

 そう言って冴は笑っていた。
 冬吾君の事だから「やり方忘れた」とか言って困りそうな気がする。

「私も教師になるしどうかな?」
「そんな事言ってもたもたしてると誠司に自慢されて困るって冬吾に言ってやったらいいよ」

 そういう風に張り合う物なのだろうか?

「じゃ、そろそろ行くね。またいつか会えたらいいね」
「そうだね」
「行こうか?」

 研斗君が言うと2人は改札口に向かう。
 すると冴の足が止まって私の方を振り返る。

「誠司に伝えて欲しい。誠司と一緒にいられた時間は今では大切な思い出だって」
「分かった」

 涙を浮かべている冴を見ていたらそういう他なかった。
 二人の姿が見えなくなると私も家に帰る。
 SHのグルチャで誠司君に伝えていた。

「より戻そうって言うなら考えてやると伝えてくれ」
「日本人は嫁の前で浮気を堂々と宣言するわけ!?」
「パオラさん。それはその馬鹿だけだ!」

 水奈がそう言っていた。
 多分冬吾君も見ているはず。
 冬吾君に向けて言ってみた。

「冴が言ってたことで一つ不安があるんだけど」
「冬吾。あんた何かやらかしたの?」

 冬莉が聞いている。

「何か僕やったっけ?」
「何もしてないよ」

 だから問題なの。
 彼女の抱き方忘れたとか言わないよね?

「あ……」

 的中したようだ。
 これが世界で一番優秀なフォワードの私生活なんだろう。

「お前、俺がちゃんとプレゼントしてやっただろ!」

 誠司君が動画を送っていたけど見なかったらしい。
 本当にサッカーの事だけを考えていたようだ。

「日本人て皆そうなの?」
「パオラさん。それは多分冬吾だけ」

 泉が呆れていた。

「そういう事なら冬吾。父さんが言ってた事がある」

 空がそう言って冬吾にアドバイスしていた。
 冬吾君のお父さんが愛莉さんと初めてを経験しようとした時にどうしたらいいか分からなくて誠さんに聞いたらしい。

「いいか!分からなくても流れに任せておけば愛莉さんの方が知識は絶対に上なんだ」

 愛莉さんの動作に合せていたらいい。
 多分ゴムの付け方まで知っているはずだ。

「旦那様は弟に何を馬鹿な事を教えてるのですか!?」
「美希だって最初そうだったじゃないか」
「そういう事を人前で言わないでください!」
「冬吾、帰国したらお姉さんが実践で教えてあげようか?」
「茜は夫の前でそういう冗談止めてくれ」
「冗談とわかってるならいいじゃない」
「茜も空も何を馬鹿な事言ってるのですか!?」

 誰だろう?
 愛莉さんがチャットをみて不思議そうにしている結を見つけてスマホを見せてもらったらしい。

「でも、やっぱり瞳子に教えてもらうしかないかな」
「その言い方ちょっとひっかかるんだけど」
「どうして?」
「それって暗に私が冬吾君以外の男とそういう経験積んでいたって事じゃない?」
「あ、そっか。ごめん……」

 そう言って落ち込んでる冬吾君の姿が思い浮かぶ。

「大丈夫。空が言ってた通り女性の方がそういう知識多いから」

 個人チャットで送っておいたら返事がすぐ帰って来た。

「そっか。じゃあ、教わろうかな?」
「その代わり条件があるけどいい?」
「条件?」
「久しぶりなんだから私が満足するまで付き合って欲しい」
「分かった」

 冬吾君もやっぱり男の子なんだ。
 早く私を抱きたいって言ってくれた。
 少し嬉しかった。
 残るはあと半年。
 いよいよ夢がすぐそばまで近づいてきている気がした。

(3)

「おめでとう!」

 SHのメンバーがお祝いをしてくれた。
 今日私は教員試験に合格した。
 来年から教師として小学校の教壇に立つ。

「でもどうして冬吾と結婚するのに教師になんてなるわけ?」

 冬莉が聞いていた。
 冬吾君の年棒ならでかい家に住んで家事は家政婦に、赤ちゃんの世話はベビーシッターに任せておけばいい。
 私は他の主婦勢と集まってのどかな午後を楽しめばいいいじゃないと冬莉が言う。
 実はその事は恵美さんからも言われていた。
 冬吾君の世話とかきっと大変だから働いたりしてたら過労死するわよって言われた。
 だけどきっと冬吾君も家事は手伝ってくれる。
 だって今だって一人で自分でやってるんだから。
 冬吾君とも相談した。

「そもそも瞳子はなんで教師になりたかったんだ?」

 水奈と天音が聞いていた。
 理由は桜子先生。
 今も水奈と天音の子供の世話で病気になるんじゃないかというほど悩んでいるらしい。

「まあ、あんまり悩むと校長みたいに禿げるぞ?」
「女でヅラなんていやだろ?」

 水奈と天音はそう桜子先生に助言したけど桜子先生は二人に言う。

「そう思うんだったら悩みの原因をどうにかして!」

 水奈はともかく片桐家の一族は桜子先生を困らせているらしい。
 冬吾君のお父さんも大学生時代にバスケで金メダルを取るまで登り上がってそして「頂点をみたからもういい」と勝手にやめたそうだ。
 そのバスケをしてる間も片桐家固有の暴飲暴食を発揮してマネージャーをしていた桜子先生を怒らせていた。
 その後も天音や冬莉と続いて止めに冬夜と結莉達を投入した。

「片桐先輩は私に何か恨みがあるんですか?」

 去年の年越しパーティでそんな話をしていた。
 愛莉さんも片桐家の娘には参っているらしい。
 翼も同じみたいだ。
 隙あらば夫を寝取ろうと策を練る娘達。
 天音は違うみたいだ。

「お前娘と寝たなんて言ったら殺すぞ!」
「まだ小学生だよ!それにそんな真似したら僕の母さんに殺されるよ!」
「当たり前だ!そんな欲があるなら私を抱けばいいだろ!」

 海翔を産んでから頻度が減ったらしい。

「学も水奈が言ってたぞ!全然かまってくれないって!」
「それは俺が水奈に言いたいくらいだ!水奈に構う余裕が出来るくらい優奈達の世話をしっかりしろ!」

 夏休みも大変だったらしい。 
 2学期が始まろうかという時に学が家に帰ったら水奈が玄関で待っていた。

「大事件だ!学」
「今度は何をやったんだ?」
「何もやってないから問題なんだ!」

 夏休みの宿題を全くしていなかったらしい。
 それなら水奈が手伝うという奥の手があるような気がしたけどそうじゃなかった。
 水奈は小学校2年生の宿題も分からなくて大変だったらしい。
 水奈って大卒だよね?
 で、学が帰ってくるのを待っていたそうだ。
 学が全部やってしまえばいいけど、それでは2学期になって優奈達が追い付けない。
 もっとも追いつこうとする姿勢が全く二人に無いから問題なんだけど。
 悠翔と茉奈はしっかりやって水奈が優奈達の宿題で悩んでる間に夕飯を支度していた。
 で、学が一つずつ優奈達に説明してる間に水奈が余計な事を思いつく。

「もう時間が無い!最後の手段だ!優翔と茉奈にやってもらえ!」
「それが母親の言う事か!?水奈は娘に勉強させる気ないのか!?」
 
 で、最後は深夜になって優奈と愛奈が寝てしまって優翔と茉奈が全部終わらせた。

「どうしてこうなるまで気づかなかったんだ?」

 学が後日水奈に聞いたらしい。
 さすがに足し算すらできない娘を不安に感じたみたいだ。
 すると水奈が驚くべきことを言いだした。
 それは算数の授業があった日の事だ。
 瞳美先生は優奈を指名したらしい。
 すると優奈は驚くべき質問をした。

「先生、これなんて読むの?」
「え?」

 小学生だから漢字が読めなかった?
 そういえば優奈は自分の名前をひらがなで書いていたそうだ。
 そのくらいならまだいい。
 まだ続きがあった。

「で、結局私は何をしたらいいの?」

 その問題の意味が分からなかったらしい。
 八百屋さんにお金を持って行って値段がいくらだったからいくら残っているでしょう?
 そんな引き算の問題だった。
 しかし「そんなの八百屋の店員に全部渡せばおつり帰ってくるから問題なくない?」と笑顔で答えたらしい。

「ていうか電子マネー使ったら問題ないじゃん」
「使えないお店だったら大変でしょ?店員さんが間違えるかもしれないし」
「そんな細かい事気にしなくていいって水奈が言ってた」
「……とにかくそういう問題だから答えてもらえないかな」
「分かった!ちょっと待ってて」

 そう言って優奈はスマホを取り出した。

「桐谷さん。授業中にスマホを使ったらいけないって注意したでしょ?」
「でも計算するなら計算機使った方が楽じゃん」
「あ、優奈。茉莉達が昼休みゴキブリ狩りするって」
「わかった~」

 そんな感じで授業にならないらしい。
 今は小学生でも英語やプログラミングの授業もある。
 そして英語の授業で優奈が「それならとっておきの言葉があるって水奈から聞いた」と言ったらしい。

「なんていうの?」
「日本語でOK」

 さすがにまずいと思った瞳美先生が水奈に相談したらしい。
 しかしそんなのがバレたらまずいと思って水奈が隠していた。
 だけどよほどまずい状態になったら私達に連絡してくれと神奈さんや亜依さんが言っておいたらしい。
 そして神奈さん達が聞いて大問題になる。

「なんでそんなになるまで放っておいたんだ!?」
「どうせ誰かの嫁になるんだからいいだろ!」
「そういう問題じゃないだろこの馬鹿!」
「神奈落ち着いて、今は誰の責任かを問いただす時じゃない」

 優奈達の学力をどうにかしないとそのうち取り返しのつかないことになる。
 亜依さんがそう伝えると誠さんが言った。

「俺暇だから俺が教えるよ。理数系なら得意だしプログラミングならもっと得意だ」
「じゃあ、俺が国語とか英語教えたらいいか?」

 誠さんと瑛大さんがそう言ったらしい。

「お前は孫娘を犯罪者にするつもりか!?」
「瑛大は仕事あるだろうが!」

 なるほど……それであんな募集していたのか?
 どんな募集か?
 すごくまともな事だ。
 SHの大学生はバイトをしていない人間もいる。
 友諠や拓斗とか冬眞や善斗。
 しかし亜依さん達は女子大生を選んだ。
 理由は優奈達がまた馬鹿な事を企むから。
 それでもやはり悩んだらしい。

「女子大生の家庭教師か!?俺も様子見に行くかな!」
「お前が学の家に来たって水奈から連絡あったら帰る家が無いと思え!」

 ……そういう弊害が出る。
 結局亜依さんの娘の千帆達が交代で見る事になった。

「いやぁ、結構参った」

 千帆達がそう言って笑っていた。

「どうしたの?」

 私が聞いたら説明してくれた。

「ねえ、千帆」
「どうしたの?」
「こんな大昔の事勉強する意味あるの?」
「え?」
「水奈が言ってたよ?過去は振り返るなって」
「あ、それとこれとは別なのよ」
「どうして?」

 まず学ぶことの意味を教える事から始めたらしい。

「お前いくらなんでもそれはまずいだろ?」
「茉莉は違うのか?」
「あいつは私の娘だからな」

 寝てても授業の中身くらい把握する。
 だから成績も悪くはない。
 結には敵わないらしいけど。
 その結ですら茉奈と一緒に喋りながらノートを取ってるらしい。
 片桐家ってすごいな……。
 そんな冬吾君の子供を授かるのか……。
 急に不安になった。
 それを察した冬莉が言う。

「心配することない。片桐家の男は冬吾か空だから」

 冬吾君の様になんにでも興味をしめすか、普段はやる気という物が欠落している空。
 持って生まれた能力を生かすことなく無駄に使って生きている。
 馬鹿がちょっかい出さなかったら絶対に何もしない。
 それで生じる面倒事を嫌うのが片桐家の血筋。

「でも一つだけ気になる事があるの」

 冬莉がまじめな顔になる。
 片桐家の冬吾君の父さんの血を継いでいる男子は冬吾と空だけ。
 血を継いでなくても片桐家というだけで化け物染みた子供が現れる。
 きっと瞳子が産む子供は今の結ですら敵わない想像が出来ない子供になる。
 冬莉の父さんが言っていたそうだ。

「まあ、性別まで予想してるみたいだから」
「確かにパパの直系の孫か。瞳子、私が言えたことじゃないけど育て方間違えたら絶対やばいぞ?」

 天音もプレッシャーをかけてくる。

「まあ、その前に冬吾が問題なんじゃないの?」

 泉が言った。
 冬吾君は恋人の抱き方を忘れたらしい。
 それをまず思い出させないと子作りどころの話じゃないでしょ。

「それなら俺達が教えておくよ」
「冬吾に妙な性癖つけるからダメ!」

 遊が言うとなずなが注意した。
 それを聞いていた琴音がまた悪戯を思いついたらしい。

「パパ、せーへきって何?」
「あ、ああ」

 さすがに自分の娘に教える事じゃないと困っている。
 そして苦し紛れの言い訳を思いついた。

「み、ミルクセーキみたいなもんだよ」
「美味しそうだね。私にも教えて」
「琴音。男は体内でミルクセーキを作るんだ……いてぇ!」
「天は他人様の娘になんてことを教えてるんですか!」

 さすがになずなが琴音を連れて席を外した。

「遊はまだ琴音に教えてないのか?」
「琴音はまだ8歳だぞ」
「馬鹿だな。優奈はとっくに知っているぞ」
「……それは初耳なんだが?」

 学が水奈を睨みつける。

「だ、大丈夫だ?悠翔には教えてないから」

 だから兄妹で馬鹿な事はしないと得意気に語る。

「どうして悠翔には教えてないんだ?」
「そんなの決まってるだろ?」

 悠翔は男だ。
 だから水奈が教えて水奈に興味を持ったら困るだろ?

「……そろそろ帰ろうか」
「な、なんでだよ?」
「家に帰って水奈に説教という用事が出来た」
「ま、まて。天音だって絶対同じだ」
「馬鹿、水奈!何勝手にばらしてるんだ!」

 そんな感じで時間もいいくらいになったから私達は店を出た。
 帰る時に天音が言う。

「あんまり難しく考えるな」
「え?」

 片桐家の子は良くも悪くもマイペースで育つ。
 海翔だってそうだったから。
 馬鹿な真似は絶対にしない。
 それが面倒だと思うのが片桐家の男だと天音が言って帰って行った。
 家に帰ると冬吾君と話をする。

「ねえ、子供何人くらい欲しい?」
「それは瞳子に合せるけど大丈夫なの?」
「何が?」
「瞳子は教師になれるんだろ?」

 子供が出来たらいきなり育休なんて許されるのか?

「出来なきゃ恵美さんの手間が増えるだけじゃないかな」
「それもそうだね」

 そんな感じでもうすぐ来る未来の事を二人で語っていた。
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