姉妹チート

和希

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封印されし物

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(1)

「おっす!愛莉はまだ生きてるか!?」

 そう挨拶したけど誰も来る気配がない。
 鍵もかけずに不用心だな。
 瞳子くらいいると思ったけどいないようだ。
 まさか本当に愛莉はくたばったのだろうか?

「おい、愛莉。本当にくたばったのか!?お前孫出来たばかりなのに急ぎすぎだろ!」
「天音、その挨拶は止めた方が良いんじゃないかな?」

 大地がそう言う。

「馬鹿だな、大地は。これで本当に反応無かったらあの世に行ったって事だろ?」

 確認する手間が省ける。
 それを聞いていた茉莉も言い出した。

「おいババア!くたばるならお年玉よこしてからくたばれ!」

 ああ、それはちょっと言い過ぎかもな。
 また私が説教食らうんだろうか?

「あなた達は少し言葉遣いを考えなさいと何度言ったら分かるのですか!」

 愛莉は生きていたようだ。……ちっ。

「でも何度呼んでも来ないから本気でくたばったかと思ったぞ」
「そうじゃないの。静かにしてなさい」

 何があったのだろう?
 瞳子が早速育児放棄か。
 それが許されるなら私も実家を出なかったのに。

「とりあえず上がりなさい。大体何の用があって来たの?」
「天音が愛莉は年を越せないかもしれないからお年玉先にもらっておけって」

 最近茉莉はこういう冗談を言うようになった。
 私にも遠慮なく言う。

「翼から聞いたぞ。私は当時の天音よりも大きくなってるそうじゃねーか」

 あの野郎。年越しパーティの時にでも文句を言ってやる。

「胸だけでかくたって、頭の悪そうなゴリラじゃしょうがないんじゃない?」
「んだと?結莉。私に負けたからって僻むのはみっともねーぞ」
「僻むわけないじゃん」
「なんでだよ?」

 やけに余裕のある結莉。
 なんとなく理由は分かってしまった。
 大地の奴また飲みに行くとかふざけた事言わねーだろうな?
 大地は静かに二人のやりとりを聞きながらテレビを見ていた。
 そして結莉は予想通りの答えを出す。

「だって結莉のは芳樹だけの宝物なんだから気にする必要ないじゃん」

 芳樹も多分結莉の言うように思ってるはず。
 パパですらキャバクラに行く金で鉄板焼きで神戸牛食った方が良いと思ってるから。
 それは空や冬吾も変わらない。
 彼女以外がどんなに誘惑しようと興味すら示さない徹底ぶり。
 純也だけは少し違うようだ。
 梨々香の隠れた食欲に驚いていた。
 一度梨々香と大食い勝負してみたいと思った。
 店一個買い占めるくらいの力はある。
 莉子が唯一小食なくらいだ。
 片桐家ってだけで絶対に体形が変わらないというチートが発動するのに気にしているらしい。
 冬眞が倒れるんじゃないかと心配していた。

「で、今日は何の用?」

 石原家の嫁なんだから金がないなんてふざけた事言わないでしょうね?
 さすがにそれは無い。

「SHのグルチャで見たんだけどさ。クリスマスも年越しパーティも無理そうだろ?」

 だから先に挨拶しておこうと思って。
 よいお年をって奴だと説明した。
 そう言いだしたのは大地だ。
 大地はそういう所はやたら気が回る。
 その癖家の事は全く考えていない。
 会社の社長だからあいさつ回りに東京に行こうとしていると恵美さんが怒り出した。

「どうしてあなたが東京に行く必要があるの!?」

 相手が地元に来るのが礼儀でしょ!
 そんな事も分からないテレビ局なんか乗っ取ってやる。
 望さんの仲裁も入って中村支社長に任せる事にしたそうだ。
 あの人も苦労してそうだな。
 そろそろ誰かに椅子を譲りたいと大地に相談していた。
 だから4大企業の社長である、善明や天達も同じだった。
 わざわざ雑魚にあいさつ回りなんて真似は恵美さん達が許さない。
 ただ片桐税理士事務所には行っておけ。
 パパに来てもらうなんて馬鹿な真似したら絶対に許さない。
 それでも天にいたっては年末に向けて糞忙しい中社長室に設置したでかいテレビでアニメを見ながら寝ていたらしい。
 たまたま様子を見に来た繭に見つかってその場で夫婦喧嘩が始まったそうだ。
 天が何かをやらかすと酒井家と如月家の両家に泥を塗る。
 だから繭も常に監視しているそうだ。
 それでも馬鹿をやるのが天なんだけど。

「まあ、そういうわけだ」
「……お年玉はちゃんと年が明けてからにしなさい」
「じゃあ、クリスマスプレゼントは?」
「天音達からもらうんじゃないの?」
「買ってもらうよ。ラジコン買ってくれるの」
「……ラジコン?」

 女の子なのに?とかいう生温い疑問を感じたわけじゃないのだろう。
 その証拠に愛莉の顔が険しくなっている。
 あんまりいつも難しく考えるとしわが増えるぞ。

「どういうラジコンなの?」

 最近そういやプラモデルのラジコンなんてのがあったな。
 そう言って誤魔化すように茉莉に言っておけばよかった。
 だけど茉莉は素直に答えた。

「いちいち出向いて殺すのも面倒だから買ってもらうの」

 UGV:無人地上車両。
 その名の通り無人で遠隔操作で相手を攻撃する兵器。
 たまたま恵美さんの家の企業で作っていたからそれのサンプルを譲ってもらったと私が補足した。

「それを小学生に与えていい物かどうか天音は判断できないのですか!」
「お、お義母さん。落ち着いて」
「どうせ使う場面なんてねーよ」

 FGもリベリオンも腑抜けだ。
 茉莉達に喧嘩売るような馬鹿はそんなもん使わなくても茉莉達が勝手に殺すだろ。
 母親はその後始末をすればいいんだろ?
 愛莉は説得を諦めたらしい。

「でさ、私からも質問いいかな?」
「どうしたの?」
「瞳子はどうしてるんだ?」
「あの子も大変なのよ」
「……雪ってそんなに問題なのか?」
「ある意味茉莉よりやっかいね」

 愛莉はそう言ってため息を吐いた。
 そりゃそうだ。
 赤ちゃんは泣くことでいろいろな事を訴える。
 まだしゃべることが出来ないからそうするしかない。
 それがしだいに「あーあー」とか話し出して言葉を言えるようになる。
 パパの心配が的中したようだ。
 雪は普段から瞳子と冬吾の側から離れないらしい。
 パパや愛莉が抱いてやろうとしても泣き出すそうだ。
 行動範囲も家の中だけだと限られている。
 外に行こうとすると異様に怯えるらしい。
 だから今は瞳子がつきっきりで見ている。

「その雪って子に会ってみたいんだけど?」

 私が言うと愛莉が瞳子の部屋に案内してくれた。
 茉莉と結莉も雪が気になるみたいだ。
 パパは雪を気にしていたけどそういう事だったのか。
 部屋に入ると瞳子が玩具を振ったりして雪の面倒を見ていた。
 
「どうだ?瞳子?」
「あ、天音来てたんだ」

 瞳子の顔を見るとかなり疲れているようだった。
 
「お前ちゃんと寝てるか」
「それは大丈夫。寝不足とかはない」

 だって雪は普段はほとんど何もしない。
 夜は比較的安心して眠ることが出来る。
 私は瞳子に頼んで雪を抱きかかえる事にした。

「天音……大丈夫?」 
「大丈夫だよ。雪、私が分かるか?」

 雪は私の顔を見て今にも泣きだしそうにしている。
 雪に私と瞳子を見せて「どっちがママか分かるかな~?」と聞いてみた。
 雪は瞳子の方を見ていた。
 まだ顔の向きを変える事は出来ないけど、目でしっかりと瞳子を見ていた。

「心配しないでいい。私は瞳子のお姉さんだ。雪の敵じゃない」

 そう言うと雪はほっとしたようにこっちをぼーっと見ていた。

「今のどういう事?」
「とりあえず雪を休ませてやろう」

 そう言って雪を瞳子に返す。
 多分愛莉にも説明した方がいいだろうからリビングに向かった。

「天音は雪に何をしたの?」
「ああ、ひょっとしてと思って試してみた」
「だから何をしたの?」
「スイッチを入れた」
「え?」

 瞳子が私に聞き返す。
 私はそれを見て説明を続けた。
  
「今ならはっきり言えるけど世話をしていたのは冬吾と瞳子だけじゃないか?」
「……そう言えばそうですね」

 愛莉が答えた。

「だからだよ。雪の中にはまだ瞳子と冬吾しかない。他のものに以上に怯えているんだ」

 あの子は片桐家の人間とは思えないくらいに些細なことに警戒心を示している。
 そして自分が非力だから以上に怯える。
 だから敵じゃないと教えてやれば、知能はあるからすぐに理解する。
 その知能の高さが今の雪を作り出しているんだろう。
 だから雪にいろんなものに触れさせてやらないといけない。
 これは大丈夫だよって教えてやることが重要なんだ。

「それは冬夜さんも言ってましたね」

 やっぱりパパは分かっていたのか。

「でもそれをどうやって教えたらいいのかな?」

 こんな赤ちゃんがいきなり生まれてきて瞳子も分からないのだろう。
 初産で雪は荷が重い。
 だからパパは愛莉に手伝ってやれといったんだ。

「時期的には年が明ける頃には外を見せてやってもいいはずだから散歩とか連れて行ってやってもいいんじゃないか?」

 ただし日光とか防寒とかはしっかりしとけ。
 その間も雪が私達を観察している事に気づいていた。
 やっとこの子に生きるというスイッチが入ったのだろう。
 話が済むと私達は家を出る。

「でも、天音よくわかったわね」
「私だって結莉や茉莉に世話を焼いたからな」
 
 美希に会わせてみるのもいいかもしれない。
 あいつは結の育ての親だから。
 その夜いつもの様にお酒を飲みながら大地とテレビを見ていた。

「さすが母親ってすごいね」
「母親だからだよ」

 よく考えもみろ。
 どんな大勢の赤ちゃんの中に隠れていても自分の赤ちゃんを見つけるんだ。
 それが母親の特質能力。
 それは片桐家だからとか関係ない。
 母親なら当たり前の様に持っている。
 ……水奈でも多分そうなんじゃないか。

「そっか」

 大地はただ感心していた。
 しかし母親しか分からない事があるから、この先は瞳子が頑張るしかない。
 瞳子にとって最大の試練になるかもしれないと思った。

(2)

 うーん。
 結と比呂はテレビを食い入るように見ている。
 カミルや娘たちは部屋でゲームをしているらしい。
 今夜はクリスマスイブ。
 クリスマスにどうしてこんなアニメをやるのか分からなかったけど、下手な恋愛ものよりは美希も嫌わないので見ていた。

「ねえ、男の子ってどうしてこういうロボットが好きなの?」

 美希が僕に聞いてきた。
 すると結が答えた。

「母さんは嫌いなの?」
「嫌いっていうか……子供のアニメでしょ?」

 どうして僕が必死に見てるのか不思議なんだそうだ。
 父さんも大好きだったシリーズ。
 今でも新作が出ている。
 シリーズと言っても色々派閥がある。
 それもいくつもある。
 今日あるのは一番古いシリーズの主人公とライバルが決着をつける作品。
 結局勝敗がつかないんだけど。
 その時に流れるエンディングテーマが流れなかったから僕は少し寂しかった。
 結も美希にどう答えたらいいか分からなかったらしい。

「美希は映画好きだよね」

 ホラーとか人が死ぬ恋愛映画以外は。

「まあ、そこまで好きでもないかな」
 
 ただ好きな俳優が出るからとかそんな理由で見てるだけなんだそうだ。
 そんな美希にこのシリーズの壮大なドラマを伝えるのは難しい。
 そういや父さんも母さんと口論してたな。

「もう冬夜さんは社長なんですよ!いつまでも子供みたいにゲームをするのやめてください!」
「だから子供達が終わってから後でするだけだよ」
「結局するんじゃないですか!」
「だってこのシリーズ凄いんだよ」
「パパが最後なら私が最初にやる!」

 そう言って天音が横取りして部屋に持っていく。

「子供たちが勉強しないのはゲームのせいだとどうして分かってくれないんですか!?」
「そうはいってもあの子達勉強しなくても成績いいから怒る理由にならないだろ?」
「そういう問題じゃありません!」

 そう考えると繭は苦労しそうだな。
 父親が天だからな……。
 ちなみに最近のゲーム機には子供にゲームの時間を強制する機能もある。
 もちろん茜がさっさと解除してしまうんだけど。
 天音か……

「天音に聞いてみたらどう?」

 多分天音もこれ見てるだろ?

「あ、それもそうだね」

 そう言って美希はSHのグルチャで聞いていた。

「美希、それはよく言うじゃない。男はいつまでも子供っぽさが抜けないんだって」

 翼がそう返していた。
 少なくとも誠さんや瑛大さんみたいにアイドルにはまるよりはましだろと言っていた。

「美希。お前一緒に見てなかったのか!?あのシリーズには壮大なドラマがあるんだ!」

 天音もやっぱり好きだったみたいだ。
 美希に熱論する。

「それなら実写でもいいじゃん」

 美希はバッサリと捨てた。
 ドラマやストーリーを楽しませるのは別に宇宙で戦う必要はない。
 冬夜達の大好きな特撮で充分じゃないか。

「美希、それなら説明できる」

 僕がそう言った。
 昔CGを使って登場人物は俳優を使うという映画があった。
 見事にこけた。
 CGの技術は当時より向上してるとはいえやっぱりアニメのままの表現をそのまま再現するのは難しい。
 だけど美希は反論する。

「外国の漫画は実写化して映画出してるでしょ?」

 ロボット物だって他のシリーズはちゃんとCGで描写してる。
 思想や理想、あらゆるテーマが詰まったシリーズ物。
 あ、そういや父さんが言ってたな。
 誠さんがから聞いたらしいけど。

「そういうのは男のマロンって言って女性には分かってもらえないって母さんが言ってた」
「どうしてマロンなの?」

 確かに栗は関係ない気がするな。

「空、それを言うならロマンだ」

 天音が訂正していた。

「どっちでも関係ありません!あなた達親なんだからいい加減卒業しなさい」

 冬吾も見ていたらしい。
 ロボット物だから大丈夫だろう。
 そう判断したのかもしれない。
 そしてSHのグルチャを見てどう説明していいか困惑していたところに母さんが現れた。

「愛莉!それはおかしいぞ!パパだって見てたじゃないか!」

 今頃父さんは母さんに怒られてるだろうな。

「あの……遊も見ていたんだけど、このくらいならいいんじゃないかなって私は思うんです」

 なずながそう言っていた。
 こんなお子様向けのアニメに夢中になっているうちはいい。
 なずなは亜依さんから聞いたらしい。
 表現したら確実に運営に怒られそうなアニメを瑛大さんは見ていたそうだ。
 男の子は皆夢を抱えて生きていく。
 その夢を実現させるために将来の職業を決める。
 それでいいじゃないか。と、なずなは言った。
 だけと美希は言う。

「私も別に見たらいけないって言ってるわけじゃないの。旦那様だって見てるし」

 ただどうして僕や結がこの映画が面白いと思うのかが気になっただけ。
 その理由は簡単な事だ。
 このくらいの隕石を地球に落下させるくらいたやすい2人がどうして必死に落下を食い止めようとするアニメに夢中になるのか?

「美希、自分でやれるから興味を持たないってのは違うんじゃないか?」

 天音が言った。

「そんな事言ったら虫をいたぶるように銃で人を撃ち殺すなんて茉莉や菫なら簡単なのにそう言うアニメを好むのもおかしいだろ?」
「天音……その癖やめさせた方が良い」
「大地がやるのに茉莉はダメなんて理屈は通らないだろ?」
「天音は理屈以前に娘にさせていいかどうかをまず考えなさい!」

 母さんに叱られていた。

「でもね。父さん、母さんも同じなんだよ?」

 結が言った。

「どうしてそうなの?」
 
 僕が聞くと結は答えた。

「日曜日の特撮番組見てる時母さんも一緒に見てる」
「そ、それは……翼や麗華に聞いて」

 どういうことだ?
 簡単だった。
 最近の特撮の俳優はイケメンが多い。
 だから翼や麗華とあの人かっこいいよねって話をするんだそうだ。

「お前あんな若い男好きなのか?」

 天音が聞くと翼は答えた。

「あのさ、遊や天だって若い女性が好きでしょ」

 僕はあれは多分美希が化粧したらああなると思ったから気にもならないけど。

 ぽかっ

「少しは気にしてください!」

 美希に怒られた。

「まさか大地!お前も同じ事考えてたらお前の額に穴をあけてやるぞ!」

 そして大地は選択肢を間違える。

「天音だってちゃんと化粧したらもっと綺麗になるよ」

 うん、やっぱり失敗だと思う。

「ふざけんな!家事や育児糞忙しいのにたかがスーパーに行くくらいで化粧なんてだりぃ真似してられるか!」
「天音はそうなの?」
「……翼。まさか……」
「うん、私は化粧してる」

 同じ社長夫人でも違うんだな。
 ちょっと出かける時にも化粧をするので善明が不安を感じたらしい。

「つ、翼や。僕に何か至らぬとこがあるのかい?」
「どうして?」

 善明は翼が化粧をして出かけるのに浮気の匂いを感じたらしい。

「もう少し私を信用してよ」

 そういう物なのかと翼も心配して晶さん達に相談した。
 すると晶さんが激怒した。

「そんなに心配するなら少しは翼と買い物に行くとしてあげたらどうなの!?そういう気配りの無さは善君そっくり!」
「うーん。となると朔を誘惑するには後は化粧するしかねーのか?」

 茉莉が悩みだす。
 さすがに小学生の下着に興味を持つ変態ならハチの巣にしてやると言っていた。

「父さん、終わったし僕眠いから寝るね」
「あ、僕も寝る。おやすみ」

 結と比呂は部屋に戻っていった。
 すると父さんから個チャが来た。
 シリーズの何作かをピックアップしていた。

「この辺から勧めてみるといいよ。割と女性受けがいいんだ」

 女性受けするイケメンが登場するからシリーズの中で初めて腐女子という層を取り込んだ作品。
 さっそく美希に提案してみる。

「うーん、それはいいんだけど。旦那様は心配しないでね」

 それはあくまでもそう言う見た目がいい俳優とかに興味を持つだけ。
 好意なんてものはみじんもない。
 見た目だけで靡いていく軽い彼女だと思われるのは嫌だ。

「美希は僕にそういう不安は無いの?」

 すると美希はくすっと笑った。

「初めて一緒にお酒飲みに行った時覚えてますか?」

 善明達にバーを勧めてもらった時だ。
 確か締めにラーメン食べた時の話。

「彼女と飲みに来てるのに締めにラーメンを選ぶ旦那様に限ってそれはありません」
「そっか」
「旦那様に言われたのは暇な時に見てみますね」

 分からないところは解説してね。
 美希に解説が必要なのかは分からなかったけど「いいよ」と答えておいた。
 ちなみに水奈と学が静かなので気になって翼が水奈に後で聞いたらしい。
 いつも苦労かけてるからと水奈が手作りのケーキを用意しようとした。
 生クリームを絞っているとそれを見た優奈達がそれを持ってあたりにまき散らす。
 間の悪い事にそこに学が帰って来た。
 水奈は大目玉を食らったらしい。
 その間に悠翔と茉奈が片付けていた。
 最近そう言えば善明が普通にクリスマスを過ごしているらしい。
 標的が変わったのだろうか?

(3)

「そうか、冬夜は今年は欠席か」
「はい」

 父さんは今年は家で年を越すらしい。
 多分瞳子が結から目が離せないからだろう。
 僕達は今年も渡辺班のパーティで年を越す事に決めていた。

「雪って子はそんなに気弱なのか?」

 誠さんがそう言っていた。
 冬吾に聞いたら以上に警戒心が高いとは聞いてる。

「誰の娘が雪の相手になるんだろうな」

 瑛大さんも言っていた。
 それだけみんな比呂の成長を楽しみにしているみたいだ。
 父さん一人を除いて。
 父さんは雪の事を常に気を付けている。

「冬夜さんも孫が可愛いと思う事があるんですね」
「まあね」
「パパ!それはおかしい!じゃあ、結莉と茉莉達はどうなんだ!?」

 天音がすぐに怒りだす。
 だけどパパは言う。

「皆楽しみだよ。多分皆何かを極めるだろうから」

 だから雪が心配なんだ。とは口にしなかったけど翼は気づいたみたいだ。
 パーティに来る前に実家に寄って雪を見た。
 翼は雪を大事に抱えて話しかけていた。
 
「これでお前もおばさんだな!」
 
 天音がそんなメッセージを送って来たらしい。
 翼が怒りだすかと思ったからフォローしてみた。

「ほ、ほら。歳を取ってるとかそういう意味じゃなくて多分結たちとの間柄の話だから」

 それを言ったら天音もとっくにおばさんじゃないのか?と思ったけど。
 すると翼は僕を見て言った。

「そんな事分かってる」

 翼はそう言って返信する。

「あんたも他人事だと思ってるの?」

 翼とは2歳違い。
 20を過ぎたら時間が加速するらしい。
 あっという間に30になる。
 天音だってもう30過ぎてるんだ。
 そう返すと天音は余裕を見せた。

「愛莉を見てたら分かるだろ?あいつ多分干からびてミイラになっても綺麗だぞ」

 それを言うなら翼だって同じじゃないのか?
 そもそもそれを片桐家のチャットで言ったらどうなるか分からなかったのだろうか?

「天音は自分の親にそういう口の利き方をするのを止めなさい!結莉達に言われても知りませんからね!」
 
 それを見ていた茉莉が天音に向かって「そうか、お前もそろそろ女として終わってるのか」と挑発したらしい。
 その後天音の怒りを鎮めるのに大地が苦労したそうだ。

「なんで翼は菫達にババアって言われないんだ?」

 今天音はこの場所でそんな質問を翼にしていた。
 翼はにやりと笑う。

「日頃の教育の違いじゃないの?」

 得意気に言う翼だったけどそれを菫達の意見は違うようだ。

「ほら、年増の女性におばさんとか言ったら小遣いもらえないでしょ?だから言わないの」

 結莉達はまだ小遣いのありがたみが分かっていないから平気で言うんだろうと菫が説明した。
 今夜は翼の機嫌直すのに苦労しそうだと、大地と善明が悩んでいた。

「まあ、しょうがねーよな!年とったババアに誰も興味ねーよ」
「瑛大の言う通りだ。それが男ってもんだろ!?」

 瑛大さんと誠さんがやってきた。
 誠司は問題は無いけどやっぱり誠司郎の世話で大変みたいだ。
 結みたいな問題はないみたいだけど。

「雪になら誠司郎の嫁にもらってやってもいい」

 アルコールが入ってるからだろう。
 誠さんがそんな事を言っていた。
 気弱な清純な女の子にきっとなる。
 誰もがそう思ったみたいだ。
 しかし女性陣はそんな事はどうでもよかったみたいだ。

「ほう、歳を取ったババアは興味ないか。それは興味ある話題だな」
「お前だって歳を取ったジジイだろうが」

 神奈さんと亜依さんがやって来た。
 二人はなんとか言い逃れようとしたけどそれが致命傷だった。
 瑛大さんが燃料を投下する。

「あ、亜依。よく考えろ。歳を取っても男は金を払えば若い女性を抱けるんだ」

 その逆は無いだろ?

「ば、馬鹿瑛大!」

 誠さんが止めようとするももう手遅れ。
 二人は神奈さん達に連行されていった。
 多分、年末の特番のビンタみたいなものなんだろうな。

「大地。お前も同じ事考えてないだろうな?」
「そ、それは多分空や善明と同じだよ。家庭崩壊させるような真似はしないよ」

 多分家庭どころか世界崩壊しそうな気がするけど。
 あ、そう言えば父さんから言われてた。

「天音、水奈来ていないか?」
「お前水奈に興味あるのか?」

 天音も結構機嫌が悪いらしい。

「そうじゃなくて、父さんから伝言を預かっていてさ」
「パパが?」

 天音が言うと美希は思い出したらしい。

「天音が考えてるような事じゃない。本当は冬夜さんが伝えたかったらしいけど雪が心配だからと来れないから」

 美希が言うと天音は水奈を探しに行った。
 その間になずなが聞いてきた。

「水奈に何を言うつもりなの?」
「言ったろ?父さんからの伝言」

 ただのアドバイスだよ。
 そうなずな達と話してる間に水奈がやって来た。

「なんだよ空。こんな日まで説教なんかまっぴらだぞ」

 結構酔ってるな。
 今の水奈に言って大丈夫なのだろうか?
 
「空、大事なの事なのか?」
「いや、以前父さんが誠さん達の相談を受けていていつか言おうと思ったらしいから」

 そう言って水奈を見る。

「水奈。別に水奈のやり方に文句を言うつもりはない。水奈には水奈の教育方法があるんだろうから構わない」

 父さんは最初にそう言っていた。

「だったら何だよ?」
「親として先輩からのアドバイス。水奈に聞いてほしい話があるみたいなんだ」
「話?」
「そう、父さんの受け持ち先の会社の社長が言っていたそうだ」

 そう言って話をする。
 子供にとって親がどういう存在なのかをちゃんと示す方法。
 最初はどんな子だって絶対そうなんだ。
 親は絶対の存在。
 決して逆らったりしない。
 だけどある時期を境にそれが変わる。
 それが反抗期。
 でもその反抗期ですらねじ伏せるとっておきの方法があるとその社長が言ったそうだ。

「どんな方法だ?」

 学が聞いてきたから話を続ける。

「子供にとって親は万能だったら絶対に馬鹿にするような行動はとらない」

 子供が不思議に思ったことすべてに答えて見せる。
 それが小学校だろうと中学校だろうと関係ない。
 子供が学ぶことは常にチェックして予習しておく。
 そして、子供が困っている時に教えてやる。
 それだけで子供は親を尊敬する。
 だけど答えられなかったり間違っていると子供はやがて親を馬鹿にしだす。
 子供では絶対に親を超える事は出来ない。
 そう思わせるだけで絶対に言う事を守る。
 多分片桐家の父親が絶対的な存在なのはそれが理由。
 冬夜がどんなに成長しようと常にその先を行くのが父親。
 親と言うのはそうあるべきだ。
 それが父さんの伝言。

「今はまだいい。でもこれから先そんなんだといつか反抗期が来た時に苦労するよ?」
「……なるほどな」
「母さんも手伝ってやるからお前も少し勉強に時間を割いたらどうだ?」

 神奈さんが言う。
 神奈さんも勉強が苦手で水奈にろくに教える事が出来なかった。
 その事を反省しているんだろう。

「……そんな話ならやっぱり空を意地でも奪い取っておくんだった」
「え?」
「父親が空なら絶対に大丈夫だろ?」
「水奈、それは絶対に許さない」
「お前は夫の前でそう言う話をするな」

 美希と学がそう言って笑っている。

「そう言われたら大地も善明も子供より常に上を行くな」
「天音の言う通りかも。だから希美も善明さんには逆らわないのかもしれない」

 そういう点ではあの二人は模範的な父親なんだろう。

「水奈、そう言う話なら私が聞いてやる。私もトーヤを落とし損ねて失敗した身だから」
「水奈も美希も聞いてあげるわよ。渡辺班の女性は皆同じ事を後悔してるのだから」

 神奈さんと恵美さんがそう言っていた。

「そ、そう言うなよ。おかげで俺と一緒になれたんだから」
「ああ、そうだ。誠と一緒になってどれだけ私が育児に苦労したのか分かってるのか!?」

 いつもの宴会の様子になる。
 そんな皆を翼と一緒に見ていた。
 だけど一つ気になる事があった。
 子供にとって親はいつか越えなければならない存在。
 それにはまだ早い。
 あから親が絶対的な力を持っていなければならない。
 だけど子供が親を超えてしまった時。
 誰が子供を導くのだろう?
 結に限ってそれはない。
 だけどそんな子供が現れるんじゃないか?

「雪は大丈夫なんだろうか?」
「冬吾だったら大丈夫でしょ」

 美希はそう言って笑う。
 そうだといいんだけど……。
 心の中にわずかな不安を残したまま新年を迎える事になった。
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