姉妹チート

和希

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Autumn storm

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(1)

 くそ……。
 桜子はやっと気づいたらしい。
 いなくなってから探してたのでは遅い。
 だけど桜子も私達を見張っているわけにはいかない。
 そう思っていた。
 そしたら違う手を考えやがった。
 
「どこ行くんだ?」

 結が席を立つ私達に声をかける。
 
「ちょっとトイレ行って来るだけだよ」

 結が女子トイレまで見張っていたらただの変態だ。
 だけどそんな事はお見通しだ。

「じゃあ、私がついて行くね」

 茉奈がついてくると言う。
 こいつらは悪魔に魂を売りやがった。
 優奈達も同じらしい。
 悠翔と海翔が見張っていて動けないみたいだ。
 しかし悠翔と海翔だけなら「トイレ行ってくる」という手が使える。
 だけど琴音がいた。
 へたに結に逆らっていたら命がいくつあっても足りない。
 大人しくしてるしかなかった。
 どうしてそんな事になったのか。
 それは育休を終えて来年から新しいクラスの担任になる片桐瞳子の仕組んだ罠だった。
 瞳子は冬夜の家を訪ねて冬夜にお願いした。

「あのね、桜子先生は運動会の間ずっと茉莉達を見張っているわけにはいかないの」

 だから結に二人を任せてもいいかな?
 結も毎年騒動に巻き込まれて昼食をゆっくりできないから困っていたそうだ。

「分かった」

 そして茉奈にも伝える。
 結に逆らうような茉奈じゃない。

「じゃあ私も協力するね」

 で、2人に見張られていた。
 茉奈程度なら撒ける。
 だが、それが結にばれたらやはり結の怒りを買う事になる。
 絶対に結を怒らせるなというのはSHの中では常識だった。
 じっとしているのが耐えられない。
 糞暑いのに熱中症で倒れたらどうするつもりだ!
 男子の種目の時間が来た。
 その間に茉奈を説得できるか。
 
「茉奈、私達がいたら結とゆっくり出来ないんじゃないか?」

 茉奈が仕掛けた。

「確かにそうだね~」

 いけるか!?

「……でも結が約束してくれたから」

 運動会の翌日の振り替え休日にデートすると約束したそうだ。
 午前の部のプログラムが終わると親が待っている観覧席に向かう。
 相変わらず渡辺班の連中は飲んで騒いでいた。

「なんて顔してんだお前ら」

 天音がそう言うと私は不満を言った。

「ああ、そんな作戦考えたか桜子」
「何とかならないかな」
「何とかしてやりたいんだけど、私にも見張りがいて飲むことすら出来ないんだ」
「当たり前のことをしてるだけでしょ!いい加減にしなさい」

 天音にも愛莉という監視役がいるらしい。
 こりゃ打つ手ないな。
 そんな私達を見て天音が突然言った。

「私達はここを動けない。茉奈や結もご飯に夢中でここを動けない。そうだよな?祈」
「……確かにそうだな」

 つまり動くなら今というわけだ。
 最高の母親だよ天音は。
 その場から立ち去ろうとする。
 しかし茉奈が一言言った。

「無駄だよ~。茉莉達は気づいてないの?」

 茉奈が言った時、結が見えるようにしたのだろう。
 私達の腕に鎖がまかれていた。

「どこまでも伸びるけし、どこまでも追跡できるよ」

 結の新しい能力か。
 
「二人には悪いんだけど母さんと約束してるんだ」
「美希と?」

 天音が聞いていた。
 結は美希と取引をしたらしい。

「運動会の次の日に茉奈とデートするんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、桜子に協力してあげたらお小遣い少し特別にあげるから」

 そんな取引だった。

「お前自分の息子を小遣いで買うなんて卑怯じゃないか!」

 天音が文句を言うけど美希は動じない。

「私はただ”いい子にしてたら小遣いあげる”って言っただけだよ?」

 別に普通じゃない。
 しかし天音は熱くなると少し判断力が鈍るようだ。

「おい、結!茉莉達を自由にしてやったら私がその倍金を払ってやる」
「他人の家の息子に何を馬鹿な事を言ってるのですか!」
「愛莉!最初にしかけたのは美希だぞ!」
「天音と美希の言ってる意味は全然違うとなぜ気づかないのですか!?」

 優奈と愛菜たちも一緒だ。

「琴音だって退屈だろ?午後出る種目ないだろ?」
「快とお話してるから平気だよ」

 そんなやりとりを聞いていた海翔が言う。

「……僕も優奈とお話したいな」
「う……海翔がそう言うなら……」

 そんな様子を見て私は朔を睨む。
 お前は私の彼氏だろ?
 お前が結を押さえろ。

「む、無理言うなよ。茉莉は俺が死んでも平気なのか?」

 確かに結を相手にしてたら命がいくつあっても足りない。

「へえ、今年はちゃんとおとなしくしてるみたいじゃない」

 桜子が様子を見に来た。

「……で、相変わらず先輩たちはルールを守る気が無いようですね?」

 誠さんや神奈さんを睨んでいた。

「毎年言うけどさ。こういう時くらい騒ぎたいじゃない?」
「……実は瞳子にも言っておいたんだけど……先日職員会議があって」

 瞳子は今日は来ていない。
 だけど愛莉たちは聞いているようだ。
 だから天音も飲まないで我慢してるんだろう。
 桜子が説明する。
 もう何度言っても聞いてくれないからしょうがない。大目に見よう。
 まあ、あまり五月蠅く言って晶さん達の怒りを買うのも得策じゃないと思ったんだろう。
 だけど一つだけ条件があると職員会議で結論が出た。

「ま、まさか父兄参加の種目に出ろとは言わないよな?」

 水奈が言っている。
 そんなフラフラの状態で出れるはずがないと思ったけど。
 
「そんなのは無理だと分かってます。もっと簡単な事です」
「桜子。条件ってなんだ?」

 誠さんが聞くと桜子は言った。

「ゴミくらい片付けて帰ってください」

 毎年上級生が運動会の後ゴミを片付けて帰る。
 その中にビールの空き缶やらも含まれている。
 せめてそれくらいは持って帰ってほしい。
 私達も今年は掃除を担当する。
 もちろんとっとと脱走して帰るつもりだったけど結がいるんじゃしょうがないな。

「大丈夫。瞳子から聞いてるから袋は持ってきた」

 じいじがそう言って笑っていた。

「本当にちゃんと守ってくださいよ」

 本来なら出禁にするところだけど、恵美さん達を敵に回すわけにはいかない。

「午後もちゃんと大人しくしててね」

 そう言って桜子は戻って行った。

「来年から何か作戦立てないとダメだな」

 菫が小声で言う。
 しかし結が応援席に戻る時不思議な事を言った。

「僕が母さんと約束してるのは”運動会の間”だけ」

 ……まさか。
 結を見るとその後はいつもの様に茉奈と話をしていた。
 そして結は約束通り私達を解放した。
 皆が掃除をしている中「今日はひでぇ1日だった」と教室で寝ていた。
 当然の様に桜子に怒られた。
 後日二人はデートを楽しんでいたそうだ。

(2)

「なあ、菫?」
「どうした茉莉?」
「ここからまとめてゴミどもを投げ捨てたら後始末しなくて楽なんじゃないかと思ってな」
「確かにそうだな……。でもさ、茉莉。肝心な事が抜けてるぜ?」
「なんだそれ?」
「どうやってここまでゴミを運ぶんだ?」

 あ、そうか。
 確かに一々持ってくるのは面倒だな。

「茉莉、いつも言ってるだろ?んなもんベランダから放り投げてりゃいいんだよ」

 後は勝手に学校が処理するだろ?
 天音の言う事が正しいんだな。

「そんなわけありません!天音も娘に何を教えてるの!」
「娘に手を出す馬鹿の始末の仕方だよ!教えておかないと可愛い娘が危険な事になるだろ!」

 危険なのは多分私達の方な気がするけど、天音はそう言って娘の私を庇った。
 しかしそれだと優奈は確実に暴れる口実を失う。
 彼氏が海翔だから。
 ってまてよ?

「愛莉、今思ったんだけどその理屈は彼氏はやってもいいけど、彼女はダメって事になるのか?」

 男女平等だって言うじゃないか!?
 しかし愛莉は何の迷いもなく答えた。

「そうですよ。男女が同じなんてありえない事くらい分かる年頃じゃないのですか?」

 男にあって女に無い物。
 女にあって男にある物。
 それは差別とは言わない。
 むしろ当然なんだ。
 そんなもん哺乳類に限らず大抵の動物がそうなっている。
 男は女を狙って色々な手段で気を引いたりして奪い取ろうとする。
 だから彼氏は自分の彼女を絶対に守ろうと力を欲する。
 女性だからって彼氏の背中に隠れているのは嫌だ。
 そんな事を言えるのは子供の間だけ。
 成長すれば差は絶対に出てくる。
 天音もそれで危険な目にあった。
 その時に空が怒りを露わにして天音を守った。

「心配しないでも朔もちゃんと躾けてるよ。てめえの彼女くらいてめえが守れってな」

 祈がそう言っていた。
 その代わり朔が悩んでいたら教えてやれ。
 朔の背中は私が守る。
 だから行きたい時に飛び出せ。
 女性は弱い立場。
 格闘技の選手でもない限りそれが普通。
 その格闘技の選手でもどうしても無力な時期がある。
 普段は天音の尻に敷かれてる大地でも天音にもしもの事があったらためらうことなく原因を排除する。
 女性という立場を利用しながら男女平等を訴えるような間抜けにはなるな。
 ただし女性に対してマウントポジションを取って嫌がらせをしてくる奴に遠慮する必要はない。
 片っ端から血祭りにあげてやれ。
 そんな事をしなくてもきっと朔が黙っていない。
 男と女の関係なんて当たり前なんだ。
 種の保存を提唱しながら、女性は「子供を産む機械」じゃないとほざくフェミニスト。
 そこがどういう場所かを考えずに「おしゃれをする権利」を主張した挙句その姿が注目を浴びると「セクハラ」と訴える間抜け。
 挙句同性婚というどういう理由があるのか分からない仕組みを推奨する頭のねじが欠落している政治家。
 そんな馬鹿に付き合う必要はない。
 好きな人とデートする時とかだけお洒落すればいい。
 愛する人と結婚すればいい。
 それが当たり前の世界なんだ。
 陽葵や菫やカミラ達の髪の色に文句を言う禿共。
 当たり前に生きて胸を張って生きていけ。
 馬鹿な奴らのくだらない主張に付き合う必要はないと天音が言った。

「確かにたかだかピアス開けたくらいでぎゃあぎゃあ五月蠅い教師がいたな」

 紗理奈達が言う。

「それさ、不思議に思ったんだけど」

 空が聞いていた。
 どうしたんだろう?

「何かおかしなこと言ったか?」
「いや、お洒落は好みがある事くらいは理解してるんだ。でもどうしても分からない事があって」
「何が言いたいの?」
 
 空に聞いている美希の表情が険しくなる。
 私もなんとなく空の言いたい事が分かった。

「へそにピアスを開けるのってどうして?誰も見てないでしょ」

 男としては彼女の腹部を見る事になるような事態の時にへそにピアスがあったり全身に入れ墨入れていたら嫌だなあと言いたいらしい。

 ぽかっ

 空は美希に小突かれていた。

「そんな女性のおへそを見る事態が旦那様にはあるのですか?」
「い、いや。さすがに美希はそういう事しないだろ?」

 耳にだってノンホールピアスするくらいだ。
 大地や善明も気持ちは理解していたらしい。
 だけど誠さん達は別だったみたいだ。

「空、お前は分かってない!」
「誠の言う通りだ!お前は分かっていない」

 そういう所にピアスを開けていたり入れ墨をするような強気な女がいざとなったら自分に服従するシチュエーションが良いんだ。
 小学生の前で何を馬鹿な事を言ってるんだろう。

「す、菫。菫はそう言うのは止めて欲しいんだけど」
「心配しなくてもタトゥなんて入れねーよ」

 浴場にも入れないし不便なだけじゃないか。

「お前らは他人の孫娘に何を馬鹿な事言ってるんだ!?」
「瑛大もだ!いい加減にしろ!!」
「と、とりあえずいい加減戻らないか、橋の上で迷惑だろ?」
「冬夜さんはハンバーガー食べたいだけでしょ!」
「まあ、冬夜の言う通りここじゃ迷惑だ。さっさと渡ろう」

 渡辺さんが言うと皆渡る。
 皆がお土産を買ってる間だけという条件で私達はハンバーガーを食べていた。
 茉奈と結は相変わらず見せつけてくれる。

「結。そのソフト美味しそうだね」
「美味しいよ。買ってくる?」
「一口だけでいいよ」
「そっか、じゃあはい」

 そう言って結は茉奈の口にソフトクリームを持っていく。

「美味しいでしょ?」
「うん!」

 少なくとも結と茉奈の中には男女平等なんて言葉はないだろうな。
 お互いの立場を分かって行動している気がした。

(3)

「パパ」

 生まれて初めて僕の事をパパと言ってもらえた。
 こんなに嬉しい事だったんだ。
 僕は雪を抱き上げる。
 雪も嬉しそうにしている。
 それを瞳子や母さん達が見ていた。

「冬吾の子は普通でよかった」

 母さんがそう言っている。
 母さんは結莉や茉莉に「ババア」と言われたのが最初だから。
 ちなみに雪はちゃんと「あーり」と呼ぶらしい。
 父さんの事は「じいじ」だそうだ。
 父さんはある日雪にプレゼントだと言って玩具を買って来た。 

「冬夜さん。さすがに早いのでは?」

 母さんもそう思ったらしい。
 瞳子も同じ事を言っていた。
 積み木の逆のパターン。
 ジェンガと呼ばれるものだ。
 積み上げられたタワーから一本ずつパーツを抜いていく物。
 本来は二人以上でどちらが先に崩すかを競うゲームだけど雪は一人で遊んでいた。
 そう、遊んでいた。
 慎重に一本ずつ抜いていく雪。
 母さんもさすがに戸惑っていた。
 僕は父さんの顔を見ていた。

「想像以上だね」

 父さんもそう言って黙ってしまった。
 片桐家の子供には共通する現象がある。
 それは食事だ。
 子供が離乳食を始める頃からもうスプーンなどを上手に使い始める。
 それは自分の親がそうしているのを見ているから。
 そして普通にご飯などを食べる頃には箸を扱うようになっている。
 さすがにそれを誠司に見せたら驚いていた。

「まあ、片桐家だとそうなるか……」

 誠司はそう言っていた。
 瞳子がある日掃除をしていて弾みで雪のジェンガを崩してしまった。
 瞳子と2人で見ていると結は黙々とジェンカを積み始める。
 その様子は結にもなかった何か特殊なものを感じた。
 結も雪に会った時に「雪って何者?」って言ってたと瞳子が言っていた。
 二人を寝かしつけると父さん達と話をする。
 子育ての相談は父さんと母さんにしている。
 天音達も色々アドバイスしてくれるけど大体母さんに怒られる。
 母さんも雪の成長が心配だったらしい。
 放っておいた椿や冬華が大変な事になってるから。
 母さんが定期的に茜や冬莉の家に行ってるらしい。
 父さんはやっと子育てが終わったとのんびりしてるけど母さんは違うそうだ。

「まさか孫の世話まで私が見ないといけないとは思わなかった」
「愛莉……それは私も一緒なんだ」

 誠司の母親の神奈さんも同じらしい。
 もちろん誠司の子供はパオラがちゃんと見ていて分からない事は神奈さんに相談している。
 誠司の子とは思えないほど素直な子供だった。
 問題は水奈と崇博の子供。
 水奈の娘たちは相変わらず勉強をしてるふりすらしないでゲームをしたりテレビを見ている。
 注意するべきの水奈は「家事で疲れたからゆっくりさせてくれ」と夕飯の時間まで寝ているらしい。
 大体遅刻して茉奈がしたくをするらしい。
 学もあまり文句を言えない理由がある。
 悠翔達が帰ってくると水奈は知らない男性と話をしていた。
 悠翔が学の友達かと思って聞いたら、覚えのない学が水奈に聞く。
 水奈は悪びれもなく話す。
 突然やってきたセールスマンだそうだ。
 とりあえず家に入ると水奈に接触してくるらしい。

「綺麗ですね。何歳ですか」
「まだお若いのでしょうね。肌がとても綺麗だ」

 ……学は神奈さんに相談した。
 自分が水奈に構ってやれてないからそうなったのかと思い詰めたそうだ。

「そういう発想が水奈にもあったのか!」
「感心してる場合じゃないだろこの馬鹿!」

 神奈さん達と亜依さん達が学の家に行って、叱っていたがなぜか学は水奈を庇っていた。

「学、こいつのしようとしてる事は完全に浮気だぞ!」

 神奈さんは怒っていたけどそれでも学は「夫婦の問題だから」と自分にまかせてくれと貫いたそうだ。
 それを見ていた誠さんは「神奈、帰ろう」と言った。

「私にも責任がある。まさかそこまで考えなしの娘だとは思ってなかった!」

 神奈さんはショックで泣き出したそうだ。

「それでも夫がなんとかするって言うんだ。そんな感情まで俺達が口出しできない」

 そう言って誠さんは神奈さんを連れて帰った。
 そんな学をみて水奈も反省した。

「ちょっとした出来心だったんだ。私もまだ女なんだなって……」
「分かってる。俺も仕事が忙しいからって妻の相手をしてやれなかった責任はある」

 子供たちが冬休みに入ったらどこか旅行に行かないか?
 そういう気持ちがあるなら言ってくれ。学も水奈の気持ちにこたえてやるから。
 そう言ってその件は終わったらしい。
 その話はSHのグルチャでも取り上げられていた。

「その手があったか」

 天音がそう言うと翼が激怒した。

「旦那が家族の為に一生懸命働いている時にふざけるな!」
「じょ、冗談だよ」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょ!」
 
 大地と善明が二人で宥めていたそうだ。
 で、次が崇博の子供の博美の問題。
 博美は崇博がF1のレースであまり家にいないから父親の顔を知らない。
 普段は杏采一人で世話をしてる。
 その事を崇博は自覚していた。
 だから家にいる時は思いっきり子供の面倒を見てるらしい。
 そして僕達の様に子供から「パパ」と言われると凄い喜んでいた。
 音声を録音してグルチャに流すほど。

「お前みたいなのを親ばかっていうんだぞ」

 誠司がそう言って茶化していた。

「馬鹿でもいいよ。俺は博美の為なら何でもするぞ!」

 すると崇博が実家に来てた時に誠さんが言ったらしい。

「娘を大事にするのはいいけど、親離れが始まると辛いからほどほどにしとけ」
「お前が勝手に妙な事を水奈達にしたからだろうが!自業自得だ馬鹿たれ!」

 誠さんは崇博にもう娘が嫁に行く時の心構えを話したらしい。

「冬吾も他人事じゃないよ」
 
 父さんはそう言って笑うけど、そういう話は一切しなかった。

「冬吾、母さんから一言いいですか?」
「どうしたの?」
「雪に恋人が出来たからと言って冬夜さん二人で飲みに行ってはいけません」
 
 瞳子や母さんも誘って欲しいらしい。
 まだ1歳の子なのに。
 でも父さんは雪の未来の旦那が誰か分かっているのだろう。
 それは母さんも気づいたみたいであまり聞かなくなった。
 しかし瞳子にはさっぱり見当がつかないらしい。
 それよりも話しかけない限り全く喋ろうともしない雪に相手がいるのかが不安だった。

「まあどうにかなるよ。僕達もそろそろ寝よう」
 
 父さんがそう言うと寝室に向かう。

「冬吾さんもやっぱり雪がお嫁に出ると寂しいですか?」
「まだ先の話だよ。あの子にちゃんとした彼氏が出来るかの方が心配だね」
「それなんですよね」

 父さんでさえ読み取れないほどの用心深い雪の心。
 あの子の心を開くことが出来る男がいるのだろうか?
 でも母さんが言ってた。
 それが当然なんだ。
 あの子はまだ1歳。
 これからいろいろ社会に触れていくのだから。

「どうしたの?」
「あ、いや。瞳子は来年度から復帰?」
「うん、子供の事は愛莉さんが見てくれるからって」

 母さん大丈夫かな?

「じゃ、そろそろ寝ようか」
「もう寝ちゃうの?」
「さっき言ったはずだけど?」

 子供はこれ以上できない。

「……冬吾さんも男なんだね」
「そりゃ4年間我慢してきたからね」
「他の女性にぶつけたりしないでね」
「そんなことしたら天音にバラバラにされるよ」

 そう言って瞳子を抱く。
 今年もあとわずか。
 だけどやることはまだたくさんあった。
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