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君に会えたら
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(1)
雪は誠司郎を見ていた。
「偶には広い場所で遊ばせてあげたら?」
愛莉さんがそう言うのでそれならとパオラを誘ってみた。
パオラもまだ日本に来てそんなに経ってない。
育児に忙しい年代だからなかなかSHの中でもコミュニケーションが取れない。
それなら誠司君と冬吾さんが一緒なのだから私達も親しくなった方がいい。
そう思ってよく話をしたりしている
そしてパオラも私と同じように誠司郎を連れてきている。
じっと様子を見ていた誠司郎は雪の顔を見てにこりと笑う。
「誠司郎」
「……雪」
誠司郎は雪が気に入ったみたいだ。
あれやこれやと雪にアピールしている。
雪はめんどくさそうに相手していた。
それでもめげずに必死にアピールする誠司郎。
やっぱり誠司君の血を継いでいるのだろうか?
始めてみる同い年の雪に夢中になっていた。
「誠司郎も女の子に弱いのか?」
冬吾さん達と違う点を神奈さんが指摘していた。
「それより問題なのは雪のあの興味の無さなの」
愛莉さんもそう言って3人を見ていた。
少しずつ顔が整ってきている。
雪も色白だけどかわいい顔をしている。
その証拠に誠司郎は雪を気に入ったようだ。
「誠司郎は絶対に誠には近づけられないな」
神奈さんが言っている。
「私も注意しているんだけどどうしても誠司がいない時に色々言ってるみたいで」
「……あの馬鹿何をやったんだ?」
神奈さんが聞くとパオラはため息を吐いて説明した。
「立派に育ってるな。よし」
誠士郎の股間をみてそう言ったらしい。
「パオラ……すまん。あの馬鹿にはちゃんと説明しておく」
「大丈夫です。多分誠司郎は意味わかってないと思うし」
「分かるようになってから注意したんじゃ大体手遅れなんだ」
誠司君の事知ってるだろ?
神奈さんがそう言った。
それでもパオラは笑っている。
「誠司はそれでも自分で気づくことが出来たから」
手遅れになるかもしれないけど自分で恋人の意味を知った。
誠司君なりに悩んで答えを見つけた。
最初から女性の扱いが上手い男の子なんて怖い。
自分なりに恋愛という物を理解していけばいい。
一人で悩む必要なんてない。
その為に恋人がいるのだから。
すると神奈さんと愛莉さんが笑いだした。
「どうしたの?」
パオラが聞いている。
「誠君に妹がいるんだけどね」
高槻千歳先生。
小学校の教師だ。
その千歳さんに初めて恋人が出来たのは大学になってからだった。
それまでは誠さんの態度を見て「私と一緒にいても男の人はつまらないんだ」と思い込んでいたらしい。
しかし冬夜さん達が見つけて来た翔さんと交際を始めて少しずつ知って行った。
その際に誠さんが暴れたらしい。
「誰に断ってちぃと寝たんだ!」
父親ですら「ちぃもついに嫁に行く時が来たのか」と泣いていたらしい。
本人はプロポーズはまだ受けてないのにと不思議そうにしていた。
その後も誠さんは何かとつけて翔さんに絡んでいたそうだ。
「翔!てめぇ俺でさえちぃの生着替え見たのは小学生の時が最後だぞ!」
「俺の隣の部屋でちぃと寝るなんて許さない!」
父親よりもやっかいな兄。
最初は尊敬していた兄でもそんな事を繰り返していたら幻滅する。
「兄には関係ない!」
千歳さんがそう言うと「反抗期だ!」とあれる誠さん。
友達の桐谷瑛大さんと飲みまくってるらしい。
神奈さんと亜依さんはそれが頭痛の種みたいだ。
「多分雪は大丈夫だと思う」
私がそう言うと「どうしてだ?」と神奈さんが聞いていた。
つい最近冬吾さんと相談していた。
「雪は大丈夫だよ」
「どうして?」
「あの子はまだそういうのに興味がないみたいだから」
それよりも誰にもなつかないあの性格をどうにかしないと。
「あの歳ならそうなるよな」
神奈さんも言っていた。
私も初めて聞いた時は同じ事を思った。
でも思い出した。
幼稚園に入って間もない頃に冬吾さんは二人の女の子に告白されたのになぜか無関係の私を選んだ。
理由も聞いてみた。
「瞳子の気持ちに気づいたから。その時から瞳子の事ばかり考えてしまうんだ」
そんな冬吾さんの子供ならそうなってもおかしくない。
「この分だと誠司郎と雪で決まりみたいだな」
「みたいですね。仲良さそうだし」
二人でじゃれ合っているのを見ながら言った。
「瞳子も大変だね」
パオラがそう言っていた。
普通の子供を育てる事だって大変なんだって天音や愛莉さんが言っていた。
結は大人しいから化け物染みたスペックの子供でも制御できたと美希が言っていた。
だけど冬夜さん達は雪の事をこう言っていた。
「分からない」
雪自身が隠しているのか、まだ雪も気づいてない能力があるのか、性格だってこの調子だから上手くわからない。
普通の子でもまだ性格までは分からない。
いくらでも変化して成長していく。
だけど雪は違う。
何を考えて何を企んでいるのかさっぱり分からない。
冬吾さんでさえ心を読むことが出来ない。
一つだけ分かったのはこの子は知識を欲している。
だから何にでも興味を示す。
それだけを言えば普通の子供なんだけど雪がそういう行動をとると脅威に感じてしまう。
もちろんどうしたらいいか冬夜さん達にも相談した。
初めての育児が雪というのは荷が重い。
その事を冬夜さんや冬吾さんは理解してくれていた。
「とにかく雪を見守ること。そして雪を信じてやること」
雪は私と冬吾さんの息子。
絶対に間違った行動はしない。
それだけを忘れたらダメだよ。
冬夜さんはそう言っていた。
「まあ、この調子だと誠司郎は雪と遊ぶのに夢中だろうしな」
片桐家の娘にしてはあまりにも大人しい女の子。
一体雪は何を考えて生きているのか?
それは今だ分からずにいた。
(3)
「綺麗ね。似合ってるわよ莉子」
愛莉がそう言ってくれた。
私と冬眞は今日が卒業式。
せっかくだからと愛莉が着ていたらしい袴を借りる事にした。
すると驚いた。
私だって少し食事を控えめにしたり我慢している。
冬眞は気にせず食べるけど。
にもかかわらず、私の体形では大学時代の愛莉の袴がきつく感じた。
嘘でしょ?
確か愛莉ってパパに合わせて食事してて太ったって言ってたのに。
「それが愛莉の恐怖なんだよ」
本人は気にしているけど周りから見れば全く衰えを知らない愛莉。
その血は翼や天音がしっかり受け継いでいる。
片桐家だけが化け物なんじゃない。
遠坂家も凄いんだとパパが言ってた。
そのパパは私を見て何か考えている。
その様子を見ていた愛莉が父さんを小突いた。
ぽかっ
「いつも言ってるでしょ?娘を困らせたらいけません」
「でもさ、いつも言ってるじゃないか。一度は言ってみたいランキングって……」
「じゃあ、翼の時に言ったからいいですよね」
「いや、でもね。愛莉……」
「いいですよね」
パパはそれ以上何も言わなかった。
絶対的な地位と力と名誉を持つパパですら愛莉には逆らえないらしい。
「俺も父さんみたいになるのかな……」
「冬眞。何か言った?」
「いや、別に……」
冬眞はそれ以上何も言わなかった。
だけどそれを見ていたパパが思いついたかのように話し出した。
「嫁は黙って夫についてくればいいって言えばいいそうだよ」
ぽかっ
また愛莉に小突かれていた。
「誠君や桐谷君の言う事を真似しないでください!」
「でもさ、なんか一度でいいから言ってみたくてさ」
「冬夜さんの願望で子供達を指導しないでください!」
「……そろそろ行った方がいいんじゃない?」
瞳子が時計を見ながら言っていた。
「じゃ、パパちょっと行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
愛莉がそう言うと私は家を出て冬眞と一緒にバス停に向かう。
バスで会場に向かうと卒業式に参加する。
一通り終わると家に帰って着替えてまた街に向かう。
「しんどいでしょ?母さんもそうだったから」
愛莉がそう言って笑っていた。
冬眞はもう就職は決まっていた。
パパ達にももう報告していた。
正真正銘私と冬眞は夫婦になる。
式とか別にしなくていいんじゃないと冬眞と話していたけど。
「片桐家の子供にそんな真似させられない!」
恵美さんがそう言って式を手配してくれた。
「まあ、恵美さんにとっても親戚なんだし甘えとけ」
天音はそう言っていた。
裏を返せば私達が馬鹿な真似をしたらそんな片桐家に泥を塗ることになる。
そんなプレッシャーもあった。
街に着くと皆と合流する。
千帆達はスーツで出席していたので先に昼食等を食べて時間を潰していたらしい。
「実際はちょっと莉子が羨ましかったけどね」
千帆がそう言っていた。
「私も大学行ってたら母さんの着れたみたいでさ」
歩美が言っている。
神奈さんとちょうどサイズが同じだったらしい。
だから神奈さんと沈んでいたそうだ。
「すまん、多分私のせいだ」
「いいよ、善久は気にしてないみたいだから」
優しい旦那様になってもらえそうだと神奈さんに言ったらしい。
「馬鹿を言うな。そんなロリコンに娘をやれるか!」
「馬鹿はお前だ誠!お前娘に言うセリフじゃないことくらいどうしてわからないんだ!」
「善久はパパみたいな変態じゃないから大丈夫だもん!一緒にしないで!」
「む、娘に言われるとショックだぞ?歩美」
「自業自得だ馬鹿!」
多田家は相変わらずらしい。
ただ困ったことになったとパパ達が話していた。
それは酒井家と多田家の関係が親密になる。
当然歩美が嫁に行くとなったらパパや善幸さんと飲むことになる。
今はまだ、パパ達だけだから愛莉も「そういう席は私達も混ぜてください」で済んでいる。
だけど誠さんや瑛大さんが加わるとそれは全く違うものになる。
どうしようかとパパ達が悩んでいると冬吾から聞いていた。
そんな話をしながら打ち上げを始めていた。
社会にでたらそんなに頻繁には会えない。
だから学生生活最後に思いっきり騒ごうと決めていた。
もうすでに杏采や歩美たちは世界を舞台に活躍している。
杏采が妊娠した時に代わりのドライバーを探すのに苦労したくらいだ。
杏采は当然仕事を育人に任せたけど崇博はどうして?と歩美に聞いていた。
「出産は夫婦で乗り越えるの!崇博は無関係なんてふざけた事言ったら承知しないわよ!」
オーナーの恵美さんがそう言うんだからレースに出すわけにはいかない。
そうなるとチームで次の不安は歩美が妊娠した時。
「避妊してくれ」なんて結婚を決めている歩美に言えるはずがない。
言えば恵美さんが激怒する。
どのみち何かあった時の為に控えは必要だったのですぐに探したらしい。
普通だとF1のドライバーになるにはライセンスもだけど必要なものがある。
それは持参金。
日本円にして億を超える多額な持参金が必要になる。
そうでもしないとチームの運営が成り立たないから。
しかしそこは江口グループが総力を上げて立ち上げたプロジェクト。
「腕さえしっかりしてるなら必要ない」
そう言って全国のレースを見て目にとまったレーサーと交渉したそうだ。
しかしそうなると歩美に不安が出る。
歩美より凄いレーサーが現れたら歩美のポジションを奪われる。
「もうすでにPPにも何度も立ってる歩美より凄い選手なんているわけない」
日本のチームで熾烈なトップ争いをしてかつファステストラップを何度も塗り替えてる歩美より凄い選手を探せなんて言われたらスカウトも絶望するだろう。
だけど歩美が子供を産んだら出来るなら育児に集中して欲しいと恵美さんが言っていた。
チームにとっては痛手だけどそれでも育児をおろそかにする母親にはなってはいけないと説得されたそうだ。
「で、もう歩美は子供作る気でいるのか?」
「善久が就職するならいつでもいいでしょって恵美さんと晶さんが言ってた」
それを聞いた善久は苦笑していた。
兄の善明から忠告されたらしい。
「絶対に残業をするな。無茶な会食とかは強気で断っていい」
そんな物より嫁の機嫌を損ねたら大変な事になる。
確実に何世帯かの家族が悲惨な事になる。
善久や善斗の行動がどこかの幸せな家庭を絶望に染める可能性があることを忘れてはいけないよ。
そんな事を聞いているらしい。
1次会が終わった後も2次会、カラオケと朝まで騒いだ。
テレビをつけたら流れるフレーズやF・SEASONの曲を歌っていた。
暴れすぎてカラオケルームを破壊するんじゃないかというくらい。
歌う曲も尽きた頃、岳也が何かを気にしていた。
「沖田の奴結局動かなかったな」
リベリオンの動きがいまいちわからない。
陽葵達が東京で接触したというだけ。
FGもまったく小規模なものになった。
放っておいたら勝手に自滅するだろうと思ったけどリベリオンは別だ。
頭が健在している以上何かを仕掛けてくる。
その時期も茜達が突き止めている。
しかし本当にそれまで待つつもりなのか?
それだけが気がかりだった。
「俺達の代で潰しておくべきだったかも」
「心配しなくても大丈夫だよ」
私がそう言った。
なんせ私達より若い世代は陽葵達。
私達より質が悪い集団だ。
自殺したいなら勝手にしろ。
「ま、どうでもいいし。盛り上がろうぜ」
冬眞が言うと皆再び盛り上がる。
朝まで遊んで家に帰る。
来月から新生活が待っている。
「正直冬眞はどう思っているの?」
さっきの話。
すると冬眞は答えた。
「父さん達も言ってる。今は好きにさせておけと」
下手に藪をつつくもんじゃない。
確かにそんな事を言っていた。
「それより来月から俺も頑張らないとな」
私を養っていかなければならない。
「頼りにしてるよ」
「任せておけ」
そうして学生生活最後の休暇を楽しむことにした。
雪は誠司郎を見ていた。
「偶には広い場所で遊ばせてあげたら?」
愛莉さんがそう言うのでそれならとパオラを誘ってみた。
パオラもまだ日本に来てそんなに経ってない。
育児に忙しい年代だからなかなかSHの中でもコミュニケーションが取れない。
それなら誠司君と冬吾さんが一緒なのだから私達も親しくなった方がいい。
そう思ってよく話をしたりしている
そしてパオラも私と同じように誠司郎を連れてきている。
じっと様子を見ていた誠司郎は雪の顔を見てにこりと笑う。
「誠司郎」
「……雪」
誠司郎は雪が気に入ったみたいだ。
あれやこれやと雪にアピールしている。
雪はめんどくさそうに相手していた。
それでもめげずに必死にアピールする誠司郎。
やっぱり誠司君の血を継いでいるのだろうか?
始めてみる同い年の雪に夢中になっていた。
「誠司郎も女の子に弱いのか?」
冬吾さん達と違う点を神奈さんが指摘していた。
「それより問題なのは雪のあの興味の無さなの」
愛莉さんもそう言って3人を見ていた。
少しずつ顔が整ってきている。
雪も色白だけどかわいい顔をしている。
その証拠に誠司郎は雪を気に入ったようだ。
「誠司郎は絶対に誠には近づけられないな」
神奈さんが言っている。
「私も注意しているんだけどどうしても誠司がいない時に色々言ってるみたいで」
「……あの馬鹿何をやったんだ?」
神奈さんが聞くとパオラはため息を吐いて説明した。
「立派に育ってるな。よし」
誠士郎の股間をみてそう言ったらしい。
「パオラ……すまん。あの馬鹿にはちゃんと説明しておく」
「大丈夫です。多分誠司郎は意味わかってないと思うし」
「分かるようになってから注意したんじゃ大体手遅れなんだ」
誠司君の事知ってるだろ?
神奈さんがそう言った。
それでもパオラは笑っている。
「誠司はそれでも自分で気づくことが出来たから」
手遅れになるかもしれないけど自分で恋人の意味を知った。
誠司君なりに悩んで答えを見つけた。
最初から女性の扱いが上手い男の子なんて怖い。
自分なりに恋愛という物を理解していけばいい。
一人で悩む必要なんてない。
その為に恋人がいるのだから。
すると神奈さんと愛莉さんが笑いだした。
「どうしたの?」
パオラが聞いている。
「誠君に妹がいるんだけどね」
高槻千歳先生。
小学校の教師だ。
その千歳さんに初めて恋人が出来たのは大学になってからだった。
それまでは誠さんの態度を見て「私と一緒にいても男の人はつまらないんだ」と思い込んでいたらしい。
しかし冬夜さん達が見つけて来た翔さんと交際を始めて少しずつ知って行った。
その際に誠さんが暴れたらしい。
「誰に断ってちぃと寝たんだ!」
父親ですら「ちぃもついに嫁に行く時が来たのか」と泣いていたらしい。
本人はプロポーズはまだ受けてないのにと不思議そうにしていた。
その後も誠さんは何かとつけて翔さんに絡んでいたそうだ。
「翔!てめぇ俺でさえちぃの生着替え見たのは小学生の時が最後だぞ!」
「俺の隣の部屋でちぃと寝るなんて許さない!」
父親よりもやっかいな兄。
最初は尊敬していた兄でもそんな事を繰り返していたら幻滅する。
「兄には関係ない!」
千歳さんがそう言うと「反抗期だ!」とあれる誠さん。
友達の桐谷瑛大さんと飲みまくってるらしい。
神奈さんと亜依さんはそれが頭痛の種みたいだ。
「多分雪は大丈夫だと思う」
私がそう言うと「どうしてだ?」と神奈さんが聞いていた。
つい最近冬吾さんと相談していた。
「雪は大丈夫だよ」
「どうして?」
「あの子はまだそういうのに興味がないみたいだから」
それよりも誰にもなつかないあの性格をどうにかしないと。
「あの歳ならそうなるよな」
神奈さんも言っていた。
私も初めて聞いた時は同じ事を思った。
でも思い出した。
幼稚園に入って間もない頃に冬吾さんは二人の女の子に告白されたのになぜか無関係の私を選んだ。
理由も聞いてみた。
「瞳子の気持ちに気づいたから。その時から瞳子の事ばかり考えてしまうんだ」
そんな冬吾さんの子供ならそうなってもおかしくない。
「この分だと誠司郎と雪で決まりみたいだな」
「みたいですね。仲良さそうだし」
二人でじゃれ合っているのを見ながら言った。
「瞳子も大変だね」
パオラがそう言っていた。
普通の子供を育てる事だって大変なんだって天音や愛莉さんが言っていた。
結は大人しいから化け物染みたスペックの子供でも制御できたと美希が言っていた。
だけど冬夜さん達は雪の事をこう言っていた。
「分からない」
雪自身が隠しているのか、まだ雪も気づいてない能力があるのか、性格だってこの調子だから上手くわからない。
普通の子でもまだ性格までは分からない。
いくらでも変化して成長していく。
だけど雪は違う。
何を考えて何を企んでいるのかさっぱり分からない。
冬吾さんでさえ心を読むことが出来ない。
一つだけ分かったのはこの子は知識を欲している。
だから何にでも興味を示す。
それだけを言えば普通の子供なんだけど雪がそういう行動をとると脅威に感じてしまう。
もちろんどうしたらいいか冬夜さん達にも相談した。
初めての育児が雪というのは荷が重い。
その事を冬夜さんや冬吾さんは理解してくれていた。
「とにかく雪を見守ること。そして雪を信じてやること」
雪は私と冬吾さんの息子。
絶対に間違った行動はしない。
それだけを忘れたらダメだよ。
冬夜さんはそう言っていた。
「まあ、この調子だと誠司郎は雪と遊ぶのに夢中だろうしな」
片桐家の娘にしてはあまりにも大人しい女の子。
一体雪は何を考えて生きているのか?
それは今だ分からずにいた。
(3)
「綺麗ね。似合ってるわよ莉子」
愛莉がそう言ってくれた。
私と冬眞は今日が卒業式。
せっかくだからと愛莉が着ていたらしい袴を借りる事にした。
すると驚いた。
私だって少し食事を控えめにしたり我慢している。
冬眞は気にせず食べるけど。
にもかかわらず、私の体形では大学時代の愛莉の袴がきつく感じた。
嘘でしょ?
確か愛莉ってパパに合わせて食事してて太ったって言ってたのに。
「それが愛莉の恐怖なんだよ」
本人は気にしているけど周りから見れば全く衰えを知らない愛莉。
その血は翼や天音がしっかり受け継いでいる。
片桐家だけが化け物なんじゃない。
遠坂家も凄いんだとパパが言ってた。
そのパパは私を見て何か考えている。
その様子を見ていた愛莉が父さんを小突いた。
ぽかっ
「いつも言ってるでしょ?娘を困らせたらいけません」
「でもさ、いつも言ってるじゃないか。一度は言ってみたいランキングって……」
「じゃあ、翼の時に言ったからいいですよね」
「いや、でもね。愛莉……」
「いいですよね」
パパはそれ以上何も言わなかった。
絶対的な地位と力と名誉を持つパパですら愛莉には逆らえないらしい。
「俺も父さんみたいになるのかな……」
「冬眞。何か言った?」
「いや、別に……」
冬眞はそれ以上何も言わなかった。
だけどそれを見ていたパパが思いついたかのように話し出した。
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ぽかっ
また愛莉に小突かれていた。
「誠君や桐谷君の言う事を真似しないでください!」
「でもさ、なんか一度でいいから言ってみたくてさ」
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「……そろそろ行った方がいいんじゃない?」
瞳子が時計を見ながら言っていた。
「じゃ、パパちょっと行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
愛莉がそう言うと私は家を出て冬眞と一緒にバス停に向かう。
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愛莉がそう言って笑っていた。
冬眞はもう就職は決まっていた。
パパ達にももう報告していた。
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「片桐家の子供にそんな真似させられない!」
恵美さんがそう言って式を手配してくれた。
「まあ、恵美さんにとっても親戚なんだし甘えとけ」
天音はそう言っていた。
裏を返せば私達が馬鹿な真似をしたらそんな片桐家に泥を塗ることになる。
そんなプレッシャーもあった。
街に着くと皆と合流する。
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「実際はちょっと莉子が羨ましかったけどね」
千帆がそう言っていた。
「私も大学行ってたら母さんの着れたみたいでさ」
歩美が言っている。
神奈さんとちょうどサイズが同じだったらしい。
だから神奈さんと沈んでいたそうだ。
「すまん、多分私のせいだ」
「いいよ、善久は気にしてないみたいだから」
優しい旦那様になってもらえそうだと神奈さんに言ったらしい。
「馬鹿を言うな。そんなロリコンに娘をやれるか!」
「馬鹿はお前だ誠!お前娘に言うセリフじゃないことくらいどうしてわからないんだ!」
「善久はパパみたいな変態じゃないから大丈夫だもん!一緒にしないで!」
「む、娘に言われるとショックだぞ?歩美」
「自業自得だ馬鹿!」
多田家は相変わらずらしい。
ただ困ったことになったとパパ達が話していた。
それは酒井家と多田家の関係が親密になる。
当然歩美が嫁に行くとなったらパパや善幸さんと飲むことになる。
今はまだ、パパ達だけだから愛莉も「そういう席は私達も混ぜてください」で済んでいる。
だけど誠さんや瑛大さんが加わるとそれは全く違うものになる。
どうしようかとパパ達が悩んでいると冬吾から聞いていた。
そんな話をしながら打ち上げを始めていた。
社会にでたらそんなに頻繁には会えない。
だから学生生活最後に思いっきり騒ごうと決めていた。
もうすでに杏采や歩美たちは世界を舞台に活躍している。
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杏采は当然仕事を育人に任せたけど崇博はどうして?と歩美に聞いていた。
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オーナーの恵美さんがそう言うんだからレースに出すわけにはいかない。
そうなるとチームで次の不安は歩美が妊娠した時。
「避妊してくれ」なんて結婚を決めている歩美に言えるはずがない。
言えば恵美さんが激怒する。
どのみち何かあった時の為に控えは必要だったのですぐに探したらしい。
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それは持参金。
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そう言って全国のレースを見て目にとまったレーサーと交渉したそうだ。
しかしそうなると歩美に不安が出る。
歩美より凄いレーサーが現れたら歩美のポジションを奪われる。
「もうすでにPPにも何度も立ってる歩美より凄い選手なんているわけない」
日本のチームで熾烈なトップ争いをしてかつファステストラップを何度も塗り替えてる歩美より凄い選手を探せなんて言われたらスカウトも絶望するだろう。
だけど歩美が子供を産んだら出来るなら育児に集中して欲しいと恵美さんが言っていた。
チームにとっては痛手だけどそれでも育児をおろそかにする母親にはなってはいけないと説得されたそうだ。
「で、もう歩美は子供作る気でいるのか?」
「善久が就職するならいつでもいいでしょって恵美さんと晶さんが言ってた」
それを聞いた善久は苦笑していた。
兄の善明から忠告されたらしい。
「絶対に残業をするな。無茶な会食とかは強気で断っていい」
そんな物より嫁の機嫌を損ねたら大変な事になる。
確実に何世帯かの家族が悲惨な事になる。
善久や善斗の行動がどこかの幸せな家庭を絶望に染める可能性があることを忘れてはいけないよ。
そんな事を聞いているらしい。
1次会が終わった後も2次会、カラオケと朝まで騒いだ。
テレビをつけたら流れるフレーズやF・SEASONの曲を歌っていた。
暴れすぎてカラオケルームを破壊するんじゃないかというくらい。
歌う曲も尽きた頃、岳也が何かを気にしていた。
「沖田の奴結局動かなかったな」
リベリオンの動きがいまいちわからない。
陽葵達が東京で接触したというだけ。
FGもまったく小規模なものになった。
放っておいたら勝手に自滅するだろうと思ったけどリベリオンは別だ。
頭が健在している以上何かを仕掛けてくる。
その時期も茜達が突き止めている。
しかし本当にそれまで待つつもりなのか?
それだけが気がかりだった。
「俺達の代で潰しておくべきだったかも」
「心配しなくても大丈夫だよ」
私がそう言った。
なんせ私達より若い世代は陽葵達。
私達より質が悪い集団だ。
自殺したいなら勝手にしろ。
「ま、どうでもいいし。盛り上がろうぜ」
冬眞が言うと皆再び盛り上がる。
朝まで遊んで家に帰る。
来月から新生活が待っている。
「正直冬眞はどう思っているの?」
さっきの話。
すると冬眞は答えた。
「父さん達も言ってる。今は好きにさせておけと」
下手に藪をつつくもんじゃない。
確かにそんな事を言っていた。
「それより来月から俺も頑張らないとな」
私を養っていかなければならない。
「頼りにしてるよ」
「任せておけ」
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※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
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※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
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サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
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※全11話 2万字程度の話です。
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