姉妹チート

和希

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夏の欠片

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(1)

「どうしたんだ?元気ないじゃないか?水奈」

 今日は渡辺班の海キャンプの日。
 徹底的に飲もうぜと水奈の所に来たら水奈が落ち込んでいる。

「お前今度は何やらかしたんだ?」
「いや……そういうわけじゃないんだ」
「じゃあ、どうしたんだよ?」

 いつもだったらもう始めてるだろ?

「……天音もそのうち分るよ」
「どういう意味だよ」
「ああ、ちょっと事情があってな」

 学がそう言って笑っていた。
 何があったんだ?

「今日悠翔が来れなくてな」

 ギターを買う時に会った同級生のバンドに入ったのは知ってる。
 麻里達の子供達らしい。
 で、折角の夏休みだから江口家の別荘使って合宿してるそうだ。
 やっぱ学に似て真面目なんだな。
 
「でもそれが水奈とどういう関係があるんだよ?」
「天音だって海翔がいつかそうなる日が来るかもだよ」

 翼がやって来た。

「要するにこのバカ娘も母親だったって事だよ」

 神奈さんがそう言って笑っていた。
 大切な息子が自分の下から離れて行った寂しさに包まれているらしい。
 
「でも優奈や愛菜がいるじゃないか?」

 空も私と同じ意見だったらしい。

「……空だってカミラが比呂と夜を過ごした時とか大地達と飲んでいたでしょ?」
「あ、そういう事か。じゃあ、水奈も飲めばいいんじゃないか?」
「空にはわかりませんよ。母親の感情はそんな単純な物じゃないのですよ」

 愛莉がやって来た。
 自分のお腹の中で育った命が立派になって巣立っていく。
 寂しさは父親のそれとはまったく違う物らしい。
 そんな愛莉の気持ちが分かった父さんは「偶には母さんに顔をみせてやりなさい」と空に電話していたそうだ。
 ふーん。

「恵美はどうだったの?」

 愛莉が恵美さんに聞いていた。

「そうね……寂しさもあったけど、それ以上に不安だったわ」

 恵美さんがそう言っていた。
 私という片桐家の娘にふさわしい男になったかどうか不安だったらしい。
 喧嘩なんてふざけた真似したらもう一度戦場に叩き込んでやる。
 望さんは苦笑いをしていた。

「それは私も善明がそうだったわ。しょうもないところまで善君に似てしまったから」

 晶さんが言う。
 空達は興味なかったらしくて大地達と話を始めていた。

「でも、なんで水奈が?」

 誠さんにもそれが不思議だったらしい。
 水奈が説明した。

「水奈~」
 
 そう言って水奈の足を掴んでいた悠翔が昨日の事の様に思えていたらしい。
 ちなみに海翔は優奈と遊んでいるけど別にそんな気分にならなかった。

「あいつ一人で大丈夫かな?」

 水奈らしくない事を言いだす始末。

「お前よりしっかりしてるから心配するな」

 そう言って水奈を励ます神奈さん。

「そういう時は飲め!水奈。お前も悠翔をいっぱしの男にしたってことだろ!」
「そうだ。遊だって同じだ。男ってのは放っておいても父親の背中を見て育つってもんだ!」

 誠さんと瑛大さんが言う。
 だけど2人の嫁には不満があったらしい。

「ああ、そうだ。誠の言う通りだ。それで誠司は致命的なミスを冒したんだ!」
「お前の背中を見て育った?ライブに行っていてろくに家にいた事無いお前が言うのか!?」

 神奈さんと亜依さんが言うと2人とも大人しく去って行った。
 それを見て亜依さんが言う。

「悠翔は立派に育ったよ。私が保証する。だからお疲れ様だ。パーっと盛り上がりな」

 一時は神奈さんと心配していた水奈の子供もしっかり育っている。
 水奈なりに頑張った成果だ。
 今日は盛大に楽しめ。

「わかった……」
「しかし天音は本当にそういう気分ないの?」
「さすがに海翔が優奈を孕ませたとか言い出したらキレるけどな」

 私は翼にそう答えた。
 結莉も茉莉も立派な彼氏を見つけた。
 海翔もしっかり彼女を見つけた。
 彼女が出来るような立派な男の子になった。
 後は片桐家の子供だ。
 特に何も言わなくてもしっかりしてるはずだと言った。

「むしろ大地が結莉達が彼氏の家に泊まるとすぐ飲みに行く方が不満だ」

 それは愛莉達だって一緒だろ?
 すると恵美さんが大地を睨みつける。

「あなたまだそんなしょうもないことを気にしてるわけ!?恋人が出来て愛を育んで子供を作るのは当たり前でしょ!」
「そういや、翼からも聞いているわよ!たかだか彼女と寝るくらいどうって事ないでしょ!」

 恵美さんと晶さんが注意している。
 そしていつもの様に言う。

「母親だって頑張ったんだから声くらいかけてあげなさい」
「そういや、空は最近そう言うのなくなったね?」

 翼が空に聞いていた。

「あの子はまだ子供だよ」

 空は笑って説明した。
 結から聞いたらしい。
 茉奈と寝ていて夜中突然ベッドから出るから「行かないで」と茉奈が抱き着いたらしい。
 そこまではまあ、よくある話だろ。
 突然冷たくなるのは女性にとって不満だから。
 そこは男性とメカニズムが違うらしい。
 だけど結は違った。

「そろそろ時間だからラーメン食べてくる」

 それを聞いた愛莉はパパを呼んでいた。

「どうしたの?」
「どうしたの?じゃ、ありません!彼女と夜を過ごしているのに”ラーメン食べたくなった”ってあんまりにも酷いじゃないですか!?」
「一緒にいたのなら別にいいんじゃないのか?」
「そういう問題じゃありません!」
「……まあ、浮気することは絶対なさそうだからいいわよ」

 恵美さんがため息交じりに言っていた。
 浮気とかふざけた真似したら結をぶっ殺してやる。
 私が手を出さずとも水奈が怒り狂うだろうな。

「ああ、愛莉。一つ相談があったんだけど?」
「どうしたの晶?」
「冬華と椿はあれからどう?」
「……相変わらずみたい」

 今日も元気に水着で遊んでいる。
 そして多分そのまま夜を過ごすんだろう。
 着替えるのが面倒だから。
 シャワー浴びたくないから。
 注意をしようにも母親が茜と冬莉だ。
 難しいだろうな。

「ってことはまさか泉も?」
「ええ、椿と冬華とはちょっとちがうんだけどね」

 潤子はデザイナーのセンスはあるみたいだけど、肝心の自分の格好にはずぼららしい。
 風呂に入らない、着替えない。
 今のうちに注意したいけど泉が「まあ、そのうち入るでしょ?」と放っている。
 さすがに育人が風呂に入れるという歳じゃない。
 だから苦労していた。
 千秋は見た目は綺麗だし風呂とかもちゃんと入るし服も着ている。
 だけど問題は絶望的な服のセンスだ。
 色合いを考えろとか言うそういう問題じゃない。
 スカートの下にジャージを穿く小学生。
 
「どうしてジャージを穿くの?」
「下着見られると嫌じゃない?」
「じゃあ、スカートをやめたらいいんじゃない?」
「スカートの方がお洒落じゃない?」

 モデル志望だから服はデザイナーに任せて自分の時間の時は適当に来ていればいいだろう。
 そんな風に思っているみたいだ。
 唯一の救いはちゃんと毎日お風呂に入る事。
 それなら私も茉莉で同じ苦労をしている。
 茉莉は中学生だ。
 夏になるとTシャツにブラはなしで下はジャージという恰好の女子が地元には発生する。
 しかしそれはまだましなレベルだ。
 なぜなら家から出る時の為にその格好に着替えているから。
 だけど茉莉は違う。

「ちょっとコンビニ行くだけだから面倒だろ!」

 そう言ってパジャマでコンビニに行こうとする。
 さすがに大地と二人で必死に説得する。
 しかし着替えるのが面倒だと拒む茉莉。

「だったら僕が買ってくるよ」
 
 そう言って大地をパシリに使う茉莉。

「そう言う話恵美からは聞かないわね」

 晶さんが聞いていた。
 もちろん茉莉の事は黙っていた。

「そうね、千秋が成長したら茉莉みたいになるかもしれないわね」

 バレてた。
 愛莉の仕業だな。
 だけど愛莉と2人で相談したらしい。
 私を困らせる娘なんて珍しい事が起きている。
 少し私達に任せよう。
 あの野郎……

「そう言えば菫はどうなの?」

 恵美さんが聞くと翼がにこりと笑った。

「そうですね、希美と約束だから詳しくは言えません」

 菫は意外と恥ずかしがり屋さんらしい。
 だからかわいらしいパジャマを着ている。
 外出する時もしっかり着替えるらしい。
 結莉も一緒だ。
 その辺はしっかりしている。
 しかし茉莉もそうだけどまだ小学生だというのに晶さん達を悩ませるのはある意味凄いことだ。
 さすがにそういう問題は善明や大地に言えない。
 そんな事に口出し出来るのは瑛大さんや誠さんくらい。
 もちろんろくなことにならない。

「水奈のところはどうなんだ?」
「ああ、悠翔が叱ってる」

 水奈は放置してたらしい。
 お前本当に子供の世話してたのか?
 だけど悠翔はなぜか樹理を家に連れてくることが多くなった。
 だからそんな姿の妹を見せられないと注意してるらしい。

「別に女子同士だからいいじゃん」

 優奈達はそう抵抗したけど学も一緒に注意したらしくてやめたらしい。
 樹理はなぜ悠翔の家に行くのか?
 普通の理由だった。
 アコギを悠翔が奏でながら樹理が歌っている。
 そうやってセッションして曲を考えているらしい。
 樹理には女子グルで聞いたことがある。
 まだ樹理の気持ちには気づいていないらしい。
 熱心にギターの練習をしているらしい。
 ロックバンドなんて動機は女遊びしたいとか酒飲みたいとかドラッグしたいとかそんなんだと思ってたけど悠翔は違うようだ。
 そして水奈がこんなんだから、悠翔が彼女を作ると寂しいと思っている。
 それを聞いていた神奈さんが言う。

「お前が子供の足を引っ張ってどうする?チャンスなんてそんなに来ないことくらいわかってるだろ?水奈が背中を押してやるべきなのに何やってるんだ?」
「水奈、私はね。冬吾が幼稚園の時に瞳子を連れて来たの。だから気持ちは分かる。でもいつまでも母親にべったりな息子なんてもっと嫌でしょ?」

 いつかは少年は男になる。
 そうなるように育てているんだから当たり前。
 もし悠翔が躊躇っていたら背中を押してやれと愛莉が言っていた。
 そんな話をしながら飲んでいると優奈達が血相を変えてやって来た。

「片桐のお爺さん大変!」
「どうした!?」
 
 私が答えた。
 優奈は言う。

「多分FGの仕業!今は結達が対応してる」

 それを聞いた私と水奈達はビーチにすぐに向かった。

(2)

「なあ、雪。たまには海に入ってみないか?」

 せっかく水着着ているんだし。
 あまり外に出ないから白いけど、でも体つきは良いと思うぞ。
 どうしてあれだけ食ってるのにその体形になるんだ?

「それは片桐家のチートだって天音が言ってた」
「それは母さんも言ってたけどさ……」

 まあ偶には誠司郎に合わせるかと少しだけ海に入ろうと起き上がる。

「雪は日焼けとか気にしないのか?」
「誠司郎に合わせてあげてもいいよ」

 すでに海で遊んでいる茉奈達を見て私は立ち止まって誠司郎を止める。

「どうしたんだ?まさかお前カナヅチとか言わないよな?」
「泳いだことないから分からないけど、そういうわけじゃないの」

 何か様子が変だ。
 それは近くにいた結達も感じたらしい。
 すぐに茉奈達の前に立って海を見ている。
 その後にすぐ異変が起きた。 
 海面が突然盛り上がっている。
 それも何か所も。
 盛り上がった海は変化を始めて人の形を作った時私と結は”DOLLだ”と判断した。

「雪、あれなんだ?」
「多分DOLLだと思う?」
「雪が加勢しないでいいのか?」
「とりあえず様子を見よう」

 結達がいるなら多分大丈夫だろ。
 遠くで様子を見ながらある物を探した。
 それは能力者。
 しかしそれらしい人物はいないみたいだ。
 いないように見せかけているだけ。
 私は大したことのない相手だと判断すると砂浜に腰を下ろして見物していた。
 結達ならどう戦うのか先輩の様子を一度くらい見学しておきたい。

「誠司郎もたまには傍観者になるのもいいんじゃない?」
「雪って本当に呑気だな」
 
 そう言いながら見学していた。
 結も同じ結論を出したらしい。
 すぐに力を解放する。
 ステイシスが発動すると能力が使えなくなる。
 人形を作って上手くごまかしたつもりだろうがそんなのはステイシスには関係ない。
 海水の人形と化していた能力者は海に沈む。
 ラッシュガードの下に隠していた銃を取り出した茉莉が躊躇わずに眉間に向けて発砲する。
 思ったよりやるらしい。
 銃が見えた瞬間に海に潜って躱す。
 相手も馬鹿じゃないらしい。
 作戦が失敗したと判断した仲間がジェットスキーで駆けつける。
 まとめて始末しようと茉莉達が銃を構えるが秋久がそれを止める。
 ジェットスキーの操縦者が銃をこっちに向けていたから。
 何もできない結達を相手にすぐに逃げ去っていった。
 それなりに利口になっているらしい。
 見学を終えると誠司郎と海で遊んでいる。

「海水は冷たいね」

 そんな風にはしゃいでいる。
 そんな私を盗撮しようとして神奈に怒られている誠の事は黙っておいた。

「さっきのなんだったんだろうな?」
「本気で聞いてるの?相手は”DOLL”だよ?」

 おそらく何らかの人形を作り出す能力者。
 だからその性質さえ分かれば怖がることはない。
 性質さえ分かってしまえば弱点も露呈するのだから。
 まあ、私にとってはどうでも良いことだけど。

「ねえ、誠司郎。せっかく海水に浸かっちゃったしやってみたい事あるんだけど」
「え?」

 私は両手で海水を掬って誠司郎にかけた。

「何するんだよ」
「楽しそうだなってドラマ観て思ってたんだよね」
「じゃあ、俺も遠慮しないからな」

 そうやってパパ達が呼びにくるまで誠司郎と水かけっこをして楽しんでいた。

(3)

 その晩夜食を食べて孫たちが寝ると、誠たちを中心に盛り上がっていた。

「誠司郎もやっぱり女性の裸にそこまで興味を示すの?」
「まだ、幼稚園児だから」

 誠司だってまだそんなものに興味を示してなかった歳だ。

「トーヤ、この際腹を割って話さないか?」

 カンナが誠を連れてやって来た。

「やっぱり男にとって女性は胸が無いとダメなのか?」

 本当にしょうもないことを聞くな。
 僕がどう答えても愛莉が怒り出すじゃないか。
 色々考えて返事をした。

「誠司郎を見たらわかるんじゃないか?」
「え?」
「自分の相手をそんな目で普通は見ないよ」
「どうしてだ?」

 誠が聞いていた。

「それって男としてどうなの!?」

 亜依さんが聞いている。
 どういえば分かってもらうだろう?

「簡単だよ。嫌われたくないから」

 だから誠司郎が正常なんだよ。
 現に水かけっこして遊んでただけだろ。
 雪のあんな楽しそうな顔見たのは冬吾だって初めてじゃないのか?

「それはそうとついに能力者出てきたね」

 冬吾が言う。
 見事に結が追い返したという事実の裏側でもう一つ無視できない事実がある。

「それはなんですか?」

 愛莉が聞いてくるとにこりと笑って答えた。

「雪達は何をしていた?」
「見物してたそうですね。だから冬夜さんにDOLLだと伝えたんでしょ?」
「そ、能力者が現れたのに雪は見学していた」
「びびってたってことか?」
「その方が子供らしくていいんだけどね。残念だけど違うんだ」
「どういうことだ?冬夜」

 渡辺君も気になったらしい。

「だから見学してたんだよ」

 能力を見て見破ったんだろう。
 そして「自分が手を出すまでもない」と判断した。
 だから結達に任せて、結達ならどう戦うか見学していた。
 多分茉莉や希美、秋久達の事もしっかり見ていたはずだ。
 この先雪が戦闘する時の参考になればいいと思ったんだろう。
 そしてこの程度の相手に自分の能力をわざわざ見せる必要が無い。
 実はそれもちょっと違う。

「でも逃がしたら意味が無いでしょ?」

 恵美さんが言う。
 だけど僕は首を振った。
 あの子は多分何かしら彼らについて知っていることがある。
 そこからが雪のもっと恐ろしい所だ。

「本当は雪が手を下さなかったのではなくて”手を下せなかった”んじゃないかってこと」

 そういう結論を出したに違いない。

「どうして?」
「雪の能力については皆分かってる?」
「既成概念だっけ?」

 ありえない事象を全否定する能力。

「普通に使えばいいじゃない?」

 恵美さんが出し惜しみする必要が無いと言う。

「誰に向けて使うの?」
「DOLLにじゃないの?」
「あっ!」
 
 愛莉と翼は気づいたみたいだ。

「どういうことだよ翼」
「そのDOLLは誰でどこにいる?ってことだよね?パパ」
 
 翼の言うとおりであってるだろう。
 もちろん射程や範囲が問題なんじゃない。
 おそらく世界中のどこにいてもその人間が分かれば例外なく行使するだろう。
 だけど大前提が必要だった。
 能力は分かった。だけど能力者は隠れていて分からない。
 能力を否定したとしても肝心の能力者を逃してしまう。
 一度だけチャンスがあった。
 それは彼らが逃亡を図った時。
 銃やボートごと消し去ることが出来た。
 だけど雪は用心深い。
 自分の能力を行使する条件を悟られたくなかった。
 あとは結達の戦いを見ておきたかった。
 いつか参考になるだろうから。
 能力者同士の戦いなんてめったに起きない。

「能力自体がでたらめに強いんだからまとめて消せばいいだろ?」
「天音、そうじゃないの。ただ物を破壊したりする力ならそれでいい」

 だけど曖昧な条件で使ったら結達を巻き込んでしまう。
 理解してるの?
 能力の所持者というだけで雪自身も既成概念の外にいるんだよ。

「厄介な能力だな」
「そうだよ、そして恐ろしいのはそれを理解している雪」

 まだ幼稚園児なのに。
 
「それにしてもやっと本体が動き出したってこと?」

 翼が話題を変えてきた。
 これまで執拗にFGをいたぶってきてここに来てやっと反応してきた。
 問題はここからだ。
 相手だって必死に反撃してくるだろう。
 僕達が身動きできなくする何かを用意してくるだろう。
 油断しちゃいけない。
 これまで以上に注意しなさい。

「そこまで危険なら俺達が相手した方がいいんじゃないか?」

 渡辺君が言う。
 だけど酒井君や石原君なら分かるはず。

「逆です。あそこまで本格的に来たのならSHに……子供達に任せた方が良い」
「僕もそう思いますね。相手は間違いなくプロだ」
「石原と酒井はそういうけどプロなのに子供に任せていいのか」
「プロだからですよ。空や天音、大地や善明の方が戦闘に慣れてる」

 だから僕達は戦闘に参加せずに子供達が自由に暴れられるようにしてやればいい。
 今までの様に。

「まあ、トーヤが言うならそうなんだろうな」

 神奈は納得したようだ。

「で、片桐がFGだったらどう攻める?」

 丹下さんが聞くと僕は「どうでしょうね」とだけ返した。
 それだけSHに隙がない。攻める側だと厳しいだろうと言っておいた。
 本当はいくつか手段を考えていた。
 だけどそれを防ぐ手立てがない。
 あるとすればそんな余裕を与えないくらい徹底的に怯えさせること。
 現状相手はこういう夏休みなら油断してるかもしれないと思って来たんだろう。
 その確証はある。
 結は何度も「一人ずつとか出し惜しみせずにまとめて来い」と挑発してるのにそれをしない。
 相手も必死でそれに気づいてないだけかもしれない。
 その証拠にこんな時期に仕掛けてくるという間抜けな判断をしているから。
 あとは相手がそれに気づかないうちに殲滅できるか?
 今それを口にすると皆が動揺して逆に気づかれてしまうから。
 絶対にそんな馬鹿な事はやるわけない。
 渡辺班の皆もそう思っている守りが固そうで実は無防備な部分。
 有効かもしれないけどリスクが高すぎる一手。
 だけど奴らは馬鹿な事にそれに気づいてしまったみたいだ。
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