476 / 535
空の巣
しおりを挟む
(1)
「どうしたの?誠司郎」
俺達は遊園地に遊びに来ていた。
夜は湖でキャンプをする予定になっている。
雪と一緒にメリーゴーランドに乗ったりして、母さんがそれをビデオに収めたりしている。
しかしまだ身長が足りない俺達では乗れる物がそんなにない。
だから退屈になる。
ぽかっ
母さんに怒られた。
「雪と一緒にいるのだからそんな顔したらだめでしょ」
自分と一緒だと退屈なのかな?
そんな不安を雪に与えてしまう。
もっと一緒に楽しむ努力をしなさい。
母さんの言う通りかもしれない。
「雪、次どれで遊ぼうか……」
「雪!ジンギスカン食べないか!?腹いっぱい食わせてやる!」
「ほんと!?」
雪は天音達に連れられて行った。
「まあ、トーヤの孫娘じゃそうなるよな……」
神奈がため息をついてきた。
「誠司郎、早くしないと私が全部食べちゃうよ!」
雪が言うのでついて行く。
雪とジンギスカンを食べてハンバーガーを食べてラーメンを食べて……とにかく食べ続けていた。
「雪の胃袋ってどうなってるんだ?」
「え?普通じゃないの?」
間違っても普通じゃないなんて言えない。
すると雪はにこりと笑った。
「私は片桐家の娘だから特別だって天音が言ってた」
でも心配しないで。
大食いの女の子と一緒なんていやだろうからデートに誘ってくれたらその時は我慢するから。
……って、え?
「今なんて?」
「私、おかしなこと言った?」
それとも私とデートするのは嫌?
「いや、デートって……」
「そっか……そろそろはっきりしないといけないよね」
すると雪は瞳子に俺と二人で観覧車に乗りたいと言い出した。
「2人じゃないといけないの?」
「出来れば……」
「うーん、さすがにまだ早いかな?」
母さんと瞳子が一緒に乗るという条件を出した。
「別に雪の事を疑っているわけじゃないの」
ただ突然観覧車が止まったりしたら大変だから。
「冬吾さん達には内緒にしておくから」
つまりそういう話なのか。
ゴンドラに乗ると雪は話を始めた。
「あのさ、誠司郎は私と誠司郎の関係をどう思ってるの?」
「友達……だったらいいな」
「それだけ?」
え?
「ただの友達にずっと一緒に居たいなんて言うの?」
「あ……」
「実を言うと私も友達でいたいと思ってる……今は」
でもこれから先もっと仲良くなれたら違う感情が産まれてくるかもしれない。
今は恥ずかしくて言えないけど、いつかきっと言える時が来るかもしれない。
それを予約されてるとか思うかもしれないけどそれでもいい。
上手く行かないかもしれないけどそれでも後悔はしない。
今は今のままでいい。
だから俺にももっと自信を持って欲しい。
「こう見えて私誠司郎の事頼りにしてるんだよ」
「……やっぱり私達一緒にいてよかったかもね。瞳子」
「そうね。さすがにまだキスは早いかな」
「ママは何を聞いていたの?私達はまだそんな関係じゃない!」
慌てる雪を見ながら思っていた。
雪は随分前向きに物事を考えられるようになったんだな。
俺のせいなのかな?
俺のお陰だといいな。
(2)
「鯉がたくさんいるよ~」
茉奈がそう言って大量に買った餌を鯉にやっている。
俺と茉奈はボートに乗って湖の上でくつろいでいた。
最初は1個ずつやっていた茉奈も面倒になってばらまき始めていた。
茉莉達は「ボートの上なんてやる事無くて暇だ!」といってテントで寝ている。
SHは2つのタイプに分けられる。
ボールで遊んだりして楽しむ組と退屈だからとテントで熟睡する組。
大人たちは昼間から酒を飲んで楽しんでいる。
そろそろ時間だからもどろう?と茉奈に言うと、結莉は余っていた餌を全部ばらまこうとしていたので止めた。
「とっておいた方が良いんじゃないの?」
「どうして?」
「だって船着き場でも餌やれるだろ?」
「また買えばいいじゃない」
袋の中に入った餌を茉奈がばらまこうとした時に気づいた。
「茉奈!危ない!」
そういってボートから身を乗り出していた茉奈を押し倒す。
「結。こんな場所だと恥ずかしいよ」
「あ、ごめん」
「テントもダメだからね」
「いや、とりあえず目の前の問題を片付けよう」
「何かあったの?」
茉奈がそう聞くと俺は指差した。
その先で湖面が盛り上がりバカでかい水の巨人が出来ていた。
海の時と同じ奴か。
「どうするの?」
前と同じだ。
ステイシスの能力を発動させる。
ただの水に戻ると湖面が波打って結局茉奈が濡れる。
しかしいくつもの水人形がまた作りあがる。
どこからか声がした。
「なるほど、その無効化の能力も範囲が決まってるみたいだな」
つまり範囲外から仕掛けてるって事か?
しかしそんな襲撃を想定していなかったから状況がまずすぎる。
不安定なボートの上にまともな攻撃を受けたらひとたまりもない。
しかもステイシスを展開し続けるとその範囲が知られてしまう。
とりあえず相手の攻撃を防ぎ続けていた。
「結、私がボート動かすから楷を貸して」
茉奈がそう言うと茉奈に櫂を渡す。
茉奈もボートくらい漕げる。
だけどデートの時は男の子の俺がしてあげると茉奈も喜ぶと母さんから聞いたからそうしてるだけ。
僕達の行動に気づいた相手はその進路を阻むようにしてくる。
どうやら水人形を作るだけじゃないらしい。
その作る際の水の動きを使って波を作る。
漕いでるのが茉奈じゃなかったら転覆してるところだ。
そんな状況だから他の客もパニックになる。
そんな客を狙って攻撃してくる。
ステイシスだけじゃ凌げなくなってきた。
モデルガンを用意してイメージして人形を片っ端から粉砕していく。
しかしこれじゃキリがない。
するとスマホがメッセージを受信した。
「人形は私が対処するから能力者を特定して欲しい」
きっと雪が父さんに伝言したのだろう。
雪の能力が発動して湖面が静かになった。
どうやら目の見えないところには能力を使えないらしい。
船着き場に到着すると秋久達が必死に辺りを探していた。
「せっかくの休みにふざけた真似しやがって!」
茉莉も菫も戦闘準備に入っている。
「秋久、あっち」
雪がそう言って指差すと林の中に違和感のある木が生えていた。
秋久はそれが何かを判断すると躊躇わずに発砲する。
すると木が消失して人が倒れている。
あれが正体?
「人形使いはもう一人いる」
雪がそう言うと俺は森の中に突っ込む。
「結、一人じゃ危ないからだめ!」
母さんが言うけどこの場は雪達に任せて俺はもう一人の人形使いを探した
(3)
「ここは任せるよ」
そう言って俺は林の中にボードで移動する。
この中にいるのは分かり切ってる。
水の能力の奴を上手く樹木を使って隠していたから。
4人目は植物を使う奴だ。
やっと一人ではどうにもならない事を判断したか?
それでもまだ甘いくらいだ。
面倒だからまとめて来いと何度も警告してるのに分からないのだろうか?
まあ、ここなら相手が得意なエリアだろ。
そら、仕掛けて来い。
しかし仕掛けてこなかった。
ぽつんと出来た平地に木の人形が一体。
多分こいつが本体だろう。
「ガキ一人で突っ込んでくるとはずいぶん余裕があるんだな」
「お前こそ俺をこの場所に誘ったつもりなのか?」
「……あまり余裕を見せると死ぬぞ?」
「その言葉そっくりお返ししてやる」
「いつまでそう言ってられるかな?」
男が言うと無数の木の人形が俺を包囲していた。
こいつの能力はこれだけなのか?
それを見極めたかったからまだ様子を見ていた。
すると地面に生えていた雑草が伸びて俺の足に絡みつく。
「それで身動きが取れないだろう」
俺は敢えて何も言わなかった。
「死ぬ前に名前くらい教えておこうか。薔薇猫。それが俺のコードネームだ」
「……あの水人間はなんて言うんだ?」
「ああ、あいつはトレイだ」
なるほどな。
「じゃあ、死ね」
そう言うと木の人形が突進してくる。
本当に馬鹿だな。
「なあ?戦いで必要な事って何だと思う?」
「強さだ。お前に欠けているものだ」
「残念だけどそれは外れだ。少しは頭を使え」
「黙って死ね」
「無理だな」
「なんだと?」
そう言うと俺はステイシスを発動させる。
冬夜や陽葵達の使うステイシスと少し違う。
力を限定して使う事が出来る。
この男が自分を木で固めているように。
草の束縛からも解放された俺は手で払って男に近づいた。
「なぜ俺をこのままに?」
「……俺達の様な能力者同士の戦いで必要なのは、必要最低限の力で相手の力を封じてしとめる事」
なのにお前達は俺の能力を知ろうともしないで、自分の力にうぬぼれてしくじった。
そう、お前はしくじったんだ。この間抜け。
「お前に俺が殺せるのか?」
「その質問はどっちの意味だ?」
俺がお前より強いのかって意味か?
それとも俺に人が殺せるのかって意味か?
「どうして父さん達からお前を遠ざけたと思う?」
どうして俺が一人で飛び込んできたと思う?
「……何をするつもりだ?」
「いいか。覚えておけ。自分の能力を晒すというのは同時に自分の弱点も晒すんだ」
こんな風にな。
そう言うと男を包んでいた木が燃え出す。
男の悲鳴が聞こえてくる。
「高い授業料だったな」
「残った奴は俺より強いぞ」
「まだそんな事を言ってるのか?」
だから間抜けって言うんだ。
俺が何人でもまとめて相手してやると言ったのはその方が俺も対処が難しいからいい練習になる。
水人形はお前レベルの間抜けだから雪に譲った。
だけどお前もやっぱり間抜けだった。
お前より強いのかどうかは知らないけど全員がお前と同じ思考の持ち主ならただの木偶人形だ。
いい練習台になってもらうだけ。
そうして自分が作り出した弱点に焼かれながら男は息絶えた。
骨の始末とかする必要はなかった。
俺の炎は骨どころか灰すら蝕む呪いの炎。
俺が解除するまで最後まで食らいつくす。
木だから火に弱い。
ごく普通の事だった。
始末が終わると、テントに戻る。
それに気づいた母さんが俺に駆け寄ると頬を叩いた。
「あなたまだ14歳なのよ!結に何かあったら母さんがどんな気持ちになるか考えた事あるの!?」
気づいたら母さんが泣いていた。
だけど俺は言う。
「命なんて安いものだよ。特に俺のは……」
ぽかっ
愛莉に小突かれた。
「冬夜さんはまた孫に余計な事を!」
「結、命に軽いも重いもないんだよ」
茉菜がそう言った。
どんなものでも比べられない物。
たった一つしかない大切な物。
そんな物に重いも軽いもない。
自分がいなくなったらどれだけの人が泣いてくれると思う?
そんなの今なら分かるでしょ?
皆が悲しむ。
そんな大切な命なの。
母さんが命懸けで産んだかけがえのない物。
だから母さんの前でそんな事言ったらだめ。
「ま、結もお腹空いてるだろうしそろそろ飯にしようや」
正志がそう言うと皆準備をする。
茉奈は俺の顔を見て言った。
「私だって結の事を大事に思ってる。それがどれだけの物か今夜じっくり教えてあげる」
そう言って笑っていた。
「か、神奈!?まさか茉奈の奴もう!」
「んなわけねーだろ、この変態!」
誠と神奈がよくわからない口論をしていた。
不思議そうに俺が神奈達を見てると茉奈が気づいた。
ぽかっ
「私だって気をつけてるから」
そう言って女性陣の手伝いを始める。
俺は火を起こしてるじいじに伝えた。
「水の奴どうなった?」
「ああ、ちゃんと始末したよ」
雪が圧倒的だったらしい。
能力者を晒すと容赦なく雪の能力を行使する。
有無も言わさず消し去ったそうだ。
「結の相手はどうだったの?」
「木を使う奴だった」
共通しているのは人形使い。
だからDOLLなんだろう。
「……結の考えはあってると思う。だけど美希だけじゃない。愛莉だって心配してたんだ。物騒な事は年上に任せなさい」
まだ俺は守られる立場なんだから。
そうして肉を食べて花火をあげて夜食を食べると茉菜と2人でテントに入って、茉奈が寝るまで話を聞いてやった。
「瑛大と誠はまた性懲りもなく……ふざけるな!こっちにこい」
「だって中学生だぞ!」
「ああそうだ。まだ中学生の孫娘だ!そんな可愛い孫娘に何を期待してるんだこの変態!」
瑛大と誠の考えてる事は偶にわからない。
ぽかっ
「結は興味もったらだめ」
「……わかった」
そんな楽しい夜を過ごした。
こんな楽しい日々が一瞬にして悪夢のような事態になるとは誰も思っていなかった。
「どうしたの?誠司郎」
俺達は遊園地に遊びに来ていた。
夜は湖でキャンプをする予定になっている。
雪と一緒にメリーゴーランドに乗ったりして、母さんがそれをビデオに収めたりしている。
しかしまだ身長が足りない俺達では乗れる物がそんなにない。
だから退屈になる。
ぽかっ
母さんに怒られた。
「雪と一緒にいるのだからそんな顔したらだめでしょ」
自分と一緒だと退屈なのかな?
そんな不安を雪に与えてしまう。
もっと一緒に楽しむ努力をしなさい。
母さんの言う通りかもしれない。
「雪、次どれで遊ぼうか……」
「雪!ジンギスカン食べないか!?腹いっぱい食わせてやる!」
「ほんと!?」
雪は天音達に連れられて行った。
「まあ、トーヤの孫娘じゃそうなるよな……」
神奈がため息をついてきた。
「誠司郎、早くしないと私が全部食べちゃうよ!」
雪が言うのでついて行く。
雪とジンギスカンを食べてハンバーガーを食べてラーメンを食べて……とにかく食べ続けていた。
「雪の胃袋ってどうなってるんだ?」
「え?普通じゃないの?」
間違っても普通じゃないなんて言えない。
すると雪はにこりと笑った。
「私は片桐家の娘だから特別だって天音が言ってた」
でも心配しないで。
大食いの女の子と一緒なんていやだろうからデートに誘ってくれたらその時は我慢するから。
……って、え?
「今なんて?」
「私、おかしなこと言った?」
それとも私とデートするのは嫌?
「いや、デートって……」
「そっか……そろそろはっきりしないといけないよね」
すると雪は瞳子に俺と二人で観覧車に乗りたいと言い出した。
「2人じゃないといけないの?」
「出来れば……」
「うーん、さすがにまだ早いかな?」
母さんと瞳子が一緒に乗るという条件を出した。
「別に雪の事を疑っているわけじゃないの」
ただ突然観覧車が止まったりしたら大変だから。
「冬吾さん達には内緒にしておくから」
つまりそういう話なのか。
ゴンドラに乗ると雪は話を始めた。
「あのさ、誠司郎は私と誠司郎の関係をどう思ってるの?」
「友達……だったらいいな」
「それだけ?」
え?
「ただの友達にずっと一緒に居たいなんて言うの?」
「あ……」
「実を言うと私も友達でいたいと思ってる……今は」
でもこれから先もっと仲良くなれたら違う感情が産まれてくるかもしれない。
今は恥ずかしくて言えないけど、いつかきっと言える時が来るかもしれない。
それを予約されてるとか思うかもしれないけどそれでもいい。
上手く行かないかもしれないけどそれでも後悔はしない。
今は今のままでいい。
だから俺にももっと自信を持って欲しい。
「こう見えて私誠司郎の事頼りにしてるんだよ」
「……やっぱり私達一緒にいてよかったかもね。瞳子」
「そうね。さすがにまだキスは早いかな」
「ママは何を聞いていたの?私達はまだそんな関係じゃない!」
慌てる雪を見ながら思っていた。
雪は随分前向きに物事を考えられるようになったんだな。
俺のせいなのかな?
俺のお陰だといいな。
(2)
「鯉がたくさんいるよ~」
茉奈がそう言って大量に買った餌を鯉にやっている。
俺と茉奈はボートに乗って湖の上でくつろいでいた。
最初は1個ずつやっていた茉奈も面倒になってばらまき始めていた。
茉莉達は「ボートの上なんてやる事無くて暇だ!」といってテントで寝ている。
SHは2つのタイプに分けられる。
ボールで遊んだりして楽しむ組と退屈だからとテントで熟睡する組。
大人たちは昼間から酒を飲んで楽しんでいる。
そろそろ時間だからもどろう?と茉奈に言うと、結莉は余っていた餌を全部ばらまこうとしていたので止めた。
「とっておいた方が良いんじゃないの?」
「どうして?」
「だって船着き場でも餌やれるだろ?」
「また買えばいいじゃない」
袋の中に入った餌を茉奈がばらまこうとした時に気づいた。
「茉奈!危ない!」
そういってボートから身を乗り出していた茉奈を押し倒す。
「結。こんな場所だと恥ずかしいよ」
「あ、ごめん」
「テントもダメだからね」
「いや、とりあえず目の前の問題を片付けよう」
「何かあったの?」
茉奈がそう聞くと俺は指差した。
その先で湖面が盛り上がりバカでかい水の巨人が出来ていた。
海の時と同じ奴か。
「どうするの?」
前と同じだ。
ステイシスの能力を発動させる。
ただの水に戻ると湖面が波打って結局茉奈が濡れる。
しかしいくつもの水人形がまた作りあがる。
どこからか声がした。
「なるほど、その無効化の能力も範囲が決まってるみたいだな」
つまり範囲外から仕掛けてるって事か?
しかしそんな襲撃を想定していなかったから状況がまずすぎる。
不安定なボートの上にまともな攻撃を受けたらひとたまりもない。
しかもステイシスを展開し続けるとその範囲が知られてしまう。
とりあえず相手の攻撃を防ぎ続けていた。
「結、私がボート動かすから楷を貸して」
茉奈がそう言うと茉奈に櫂を渡す。
茉奈もボートくらい漕げる。
だけどデートの時は男の子の俺がしてあげると茉奈も喜ぶと母さんから聞いたからそうしてるだけ。
僕達の行動に気づいた相手はその進路を阻むようにしてくる。
どうやら水人形を作るだけじゃないらしい。
その作る際の水の動きを使って波を作る。
漕いでるのが茉奈じゃなかったら転覆してるところだ。
そんな状況だから他の客もパニックになる。
そんな客を狙って攻撃してくる。
ステイシスだけじゃ凌げなくなってきた。
モデルガンを用意してイメージして人形を片っ端から粉砕していく。
しかしこれじゃキリがない。
するとスマホがメッセージを受信した。
「人形は私が対処するから能力者を特定して欲しい」
きっと雪が父さんに伝言したのだろう。
雪の能力が発動して湖面が静かになった。
どうやら目の見えないところには能力を使えないらしい。
船着き場に到着すると秋久達が必死に辺りを探していた。
「せっかくの休みにふざけた真似しやがって!」
茉莉も菫も戦闘準備に入っている。
「秋久、あっち」
雪がそう言って指差すと林の中に違和感のある木が生えていた。
秋久はそれが何かを判断すると躊躇わずに発砲する。
すると木が消失して人が倒れている。
あれが正体?
「人形使いはもう一人いる」
雪がそう言うと俺は森の中に突っ込む。
「結、一人じゃ危ないからだめ!」
母さんが言うけどこの場は雪達に任せて俺はもう一人の人形使いを探した
(3)
「ここは任せるよ」
そう言って俺は林の中にボードで移動する。
この中にいるのは分かり切ってる。
水の能力の奴を上手く樹木を使って隠していたから。
4人目は植物を使う奴だ。
やっと一人ではどうにもならない事を判断したか?
それでもまだ甘いくらいだ。
面倒だからまとめて来いと何度も警告してるのに分からないのだろうか?
まあ、ここなら相手が得意なエリアだろ。
そら、仕掛けて来い。
しかし仕掛けてこなかった。
ぽつんと出来た平地に木の人形が一体。
多分こいつが本体だろう。
「ガキ一人で突っ込んでくるとはずいぶん余裕があるんだな」
「お前こそ俺をこの場所に誘ったつもりなのか?」
「……あまり余裕を見せると死ぬぞ?」
「その言葉そっくりお返ししてやる」
「いつまでそう言ってられるかな?」
男が言うと無数の木の人形が俺を包囲していた。
こいつの能力はこれだけなのか?
それを見極めたかったからまだ様子を見ていた。
すると地面に生えていた雑草が伸びて俺の足に絡みつく。
「それで身動きが取れないだろう」
俺は敢えて何も言わなかった。
「死ぬ前に名前くらい教えておこうか。薔薇猫。それが俺のコードネームだ」
「……あの水人間はなんて言うんだ?」
「ああ、あいつはトレイだ」
なるほどな。
「じゃあ、死ね」
そう言うと木の人形が突進してくる。
本当に馬鹿だな。
「なあ?戦いで必要な事って何だと思う?」
「強さだ。お前に欠けているものだ」
「残念だけどそれは外れだ。少しは頭を使え」
「黙って死ね」
「無理だな」
「なんだと?」
そう言うと俺はステイシスを発動させる。
冬夜や陽葵達の使うステイシスと少し違う。
力を限定して使う事が出来る。
この男が自分を木で固めているように。
草の束縛からも解放された俺は手で払って男に近づいた。
「なぜ俺をこのままに?」
「……俺達の様な能力者同士の戦いで必要なのは、必要最低限の力で相手の力を封じてしとめる事」
なのにお前達は俺の能力を知ろうともしないで、自分の力にうぬぼれてしくじった。
そう、お前はしくじったんだ。この間抜け。
「お前に俺が殺せるのか?」
「その質問はどっちの意味だ?」
俺がお前より強いのかって意味か?
それとも俺に人が殺せるのかって意味か?
「どうして父さん達からお前を遠ざけたと思う?」
どうして俺が一人で飛び込んできたと思う?
「……何をするつもりだ?」
「いいか。覚えておけ。自分の能力を晒すというのは同時に自分の弱点も晒すんだ」
こんな風にな。
そう言うと男を包んでいた木が燃え出す。
男の悲鳴が聞こえてくる。
「高い授業料だったな」
「残った奴は俺より強いぞ」
「まだそんな事を言ってるのか?」
だから間抜けって言うんだ。
俺が何人でもまとめて相手してやると言ったのはその方が俺も対処が難しいからいい練習になる。
水人形はお前レベルの間抜けだから雪に譲った。
だけどお前もやっぱり間抜けだった。
お前より強いのかどうかは知らないけど全員がお前と同じ思考の持ち主ならただの木偶人形だ。
いい練習台になってもらうだけ。
そうして自分が作り出した弱点に焼かれながら男は息絶えた。
骨の始末とかする必要はなかった。
俺の炎は骨どころか灰すら蝕む呪いの炎。
俺が解除するまで最後まで食らいつくす。
木だから火に弱い。
ごく普通の事だった。
始末が終わると、テントに戻る。
それに気づいた母さんが俺に駆け寄ると頬を叩いた。
「あなたまだ14歳なのよ!結に何かあったら母さんがどんな気持ちになるか考えた事あるの!?」
気づいたら母さんが泣いていた。
だけど俺は言う。
「命なんて安いものだよ。特に俺のは……」
ぽかっ
愛莉に小突かれた。
「冬夜さんはまた孫に余計な事を!」
「結、命に軽いも重いもないんだよ」
茉菜がそう言った。
どんなものでも比べられない物。
たった一つしかない大切な物。
そんな物に重いも軽いもない。
自分がいなくなったらどれだけの人が泣いてくれると思う?
そんなの今なら分かるでしょ?
皆が悲しむ。
そんな大切な命なの。
母さんが命懸けで産んだかけがえのない物。
だから母さんの前でそんな事言ったらだめ。
「ま、結もお腹空いてるだろうしそろそろ飯にしようや」
正志がそう言うと皆準備をする。
茉奈は俺の顔を見て言った。
「私だって結の事を大事に思ってる。それがどれだけの物か今夜じっくり教えてあげる」
そう言って笑っていた。
「か、神奈!?まさか茉奈の奴もう!」
「んなわけねーだろ、この変態!」
誠と神奈がよくわからない口論をしていた。
不思議そうに俺が神奈達を見てると茉奈が気づいた。
ぽかっ
「私だって気をつけてるから」
そう言って女性陣の手伝いを始める。
俺は火を起こしてるじいじに伝えた。
「水の奴どうなった?」
「ああ、ちゃんと始末したよ」
雪が圧倒的だったらしい。
能力者を晒すと容赦なく雪の能力を行使する。
有無も言わさず消し去ったそうだ。
「結の相手はどうだったの?」
「木を使う奴だった」
共通しているのは人形使い。
だからDOLLなんだろう。
「……結の考えはあってると思う。だけど美希だけじゃない。愛莉だって心配してたんだ。物騒な事は年上に任せなさい」
まだ俺は守られる立場なんだから。
そうして肉を食べて花火をあげて夜食を食べると茉菜と2人でテントに入って、茉奈が寝るまで話を聞いてやった。
「瑛大と誠はまた性懲りもなく……ふざけるな!こっちにこい」
「だって中学生だぞ!」
「ああそうだ。まだ中学生の孫娘だ!そんな可愛い孫娘に何を期待してるんだこの変態!」
瑛大と誠の考えてる事は偶にわからない。
ぽかっ
「結は興味もったらだめ」
「……わかった」
そんな楽しい夜を過ごした。
こんな楽しい日々が一瞬にして悪夢のような事態になるとは誰も思っていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる