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2ndSEASON
変化に向き合え
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「明日、ランドマークタワーで会わせたい人がいるんだけど」
亜依ちゃんからの突然のメッセージ
「誰?」
「うちのクラスのイッシー」
「何で合わないといけないの?」
「イッシー恵美の事好きみたい」
衝撃的だった。
人から好きと言われたことはあるけど、まさかよりによって石原君とは。
動揺が走る。
石原君の事は知っている。
クラスじゃ成績常に上の方にいる。
素行もそんなに悪いひとじゃない。
ただ、ちょっと頼りない感じ。
亜依ちゃんと同じ班だとは知っていたけど、どういう会話からそういう話になったんだろう?
「江口さん、電気消してもいいかな?」
「あ、いいよー」
部屋が暗くなる。
私のスマホの照明だけが灯りになる。
どう返そう?
中学の時は受験勉強に手いっぱいだからと断ってきた。
だけどうちの学校も進学校。
それもうちのクラスは国公立を目指すクラス。
恋愛なんかにうつつを抜かしてる場合ではないはず。
と、いう受験生の理屈を覆したのが愛莉ちゃんだった。
クラスどころか中進組クラスの人達よりも成績がいい彼女は「冬夜君といっしょがいい~」という理由で文系Ⅱを選択した。
恋愛と学業の両立を彼女はこなしている。
冬夜君、こと片桐冬夜君は、平均点よりちょっと上位を維持している。
しかしサッカーやバスケに関して言うとずば抜けた才能を持っている。
スキーでもその才能の一端を見せた。
彼の事を平凡というが全然平凡なんかじゃない。
普段の彼は冴えないの一言だが。
つりあいの取れないカップルと揶揄する者もいるがそんなの人の勝手だろう。
私はそんな二人を見て憧れたものだ。
こんな私でも恋愛の一つや二つしてみたいものだ。
興味が湧いていた。
恋愛でもしてみたら、学業の励みにでもなるのだろうか?と。
散々悩んだ末、亜依ちゃんに返事を送った。
「いいよ。明日の朝挨拶にいくね」と。
(2)
翌日の朝食。
亜依ちゃんたちの班に混ざって朝食をとった。
「こういうこと人任せにして自分は何もしない人ってどうなのかな?と思って」
嫌味だと思われたかな?
でも率直に聞いてみたかった。
「……ごめんなさい」
イメージ通りの人だな。
気を悪くしてごめんね。
「他に言うこと無いの?無いなら行くね」
そう言って席を立とうとしたとき。
「とあるファミレスのハンバーグさ『ここはまずい』って思いこんで食べると本当に不味かったんだよね」
片桐君が突然言い出した謎の発言。
何を馬鹿な事を……。
そう思いながらも彼の話に聞き入っていた。
例えが食べ物だから馬鹿な話に聞こえるけど、要点をつまむとなかなか面白い話だ。
そのあいだ肝心の石原君は一言もしゃべらなかったけど。
「ごめん、こいつ女子とあまり喋ったことが無くて。ちょっと準備させておくから。そうだな、冬夜の言い方で言うと味付けがまだなんだ」
そんなことで良く告白しようって気になったね。
「朝寝起きのところに来るなんて。肉を生で食うようなものだよ?」
またも片桐君の謎発言。
言い得て妙だ。
私は石原君よりも片桐君に興味が湧いたが、隣にいる愛莉ちゃんが相手では敵わないな。
(3)
バスの中。
亜依ちゃんがうまく仲を取り持とうとする。
趣味の読書の話になると急に饒舌になる。
典型的な奥手な男性の特徴だ。
どうせ、その話題が尽きるとまた黙るんでしょう?
合わせてあげる。
少なくともバスに乗ってる時間は退屈せずに済みそうだ。
本の好みも大体あっていた。
嬉しそうに語る石原君。
それを見ているだけでいい事してるんだな、私と思える。
亜依ちゃんたちと愛莉ちゃんたちは、仲良く何かをしてる。
私たちも同じ風に見えているのかな?
……聞いてみよう。
「ところで石原君……イッシーでいいかな?」
「な、なに?」
案の定狼狽える。
「私のどこが好きになったの?」
「え……」
その時だった?
「それでは、新千歳空港に着きました……」
バスガイドが挨拶を終えると拍手が鳴る。
その拍手で石原君が何を言ったのかわからなかった。
飛行機内
離陸するとイヤフォンをし、機内放送に耳を傾ける。
隣の席からとんとんと肩を叩く。
「恵美ちゃん恵美ちゃん。イッシー忘れてる」
その石原君も隣でイヤフォン聞いてるんだけど。
亜依ちゃんは立ち上がると石原君の頭をどついた。
石原君は気がつくとイヤフォンをとる。
「全く~恵美ちゃん放置して機内放送聞いてるなんてどういう神経してるわけ!」
私の好意を無駄にするんじゃないこのたわけ!
と目で訴えていた。
「あ、ああごめん」
「イッシー?」
私は石原君の名前を呼んでいた。
「な、なに?」
「さっきバスの中で聞いた事聞かせてくれない?拍手で良く聞こえなかったの」
これで話題はできたでしょ。
後は貴方の口から言うだけだよ。
「優しくてきれいなところ……かな?」
失望した。
結局私の見てくれしか見てないのね。
ヤッパリ柄にもない事するんじゃなかった。
「恵美ちゃん。最初はそんなもんだって。私も瑛大が可愛いからって理由で付き合ったんだし」
「そ、そうそう。最初から重い理由ぶつけられてもこまるでしょ」
亜依ちゃんと瑛大君がフォローに回る。
でも石原君の口からは……
「ごめん」
違う!私が聞きたいのは謝罪の言葉じゃない。
「僕なんかが人を好きになるなんて烏滸がましいよね」
どこまで自分を卑下すれば気が済むの。
私が悪者みたいじゃない。
「人を好きになれば何か変わるんじゃないかと思ってた。恋の一つや二つしてみれば高校生活が変わると思ってた」
「ちょ、ちょっと恵美ちゃん!?」
「ま、まずいんじゃない亜依」
「それは間違いだったわけね……」
「わーまったまった!」
その時だった。
「分かってるならなんで愛莉泣かすような真似するんだよ!まだわかってないのか!?」
神奈ちゃんが何か怒ってる。
「ま~た片桐君が地雷踏み抜いたね」
「え?」
「片桐君、いつもああやって愛莉の機嫌損ねるのよ。上手く噛み合って無いって言うか……」
「ええ?」
「4年以上付き合ってもケンカするんだもん、お互いまだ知り合って初日でしょ。喧嘩があって当然だよ」
私喧嘩した覚えない。
二人共何か勘違いしてない?
そう思うと笑えて来た。
「フ、フフ……」
「恵美ちゃん、ついに壊れた?」
「ちょっと二人きりで話をしてもいいかな?」
きょとんとする亜依ちゃん。
「いいけど……」
「イッシーちょっときて……」
通路に呼び出す私。
イッシーは固まっている。
緊張してる?
呼び出されて怯えてる?
大丈夫カツアゲとかするために呼び出したわけじゃないから。
「東京に着いたらどこに行く予定なの?」
「み、皆東京のランドマークタワー行きたいって……」
「そう、あくまでもみんなに合わせるつもりなのね?でも私は班が別だけどどうするの?」
「あ……聞いてない」
「あなたはどうして欲しい?」
「で、できれば一緒に」
「別行動をとったらペナルティがあるって知った上でいってるのよね?」
「片桐君たちも別行動だし」
私は両手で彼の背中の壁をどんと叩いた。
「片桐君たちは関係ないの。他の皆も関係ない。あなたがどうしたいのかが聞きたいんだけど」
「だ、だから一緒に……ごめんなさい」
「それは今日だけの話?」
「え?」
鈍いなぁ男って。
「私恋人ができたら何かが変わると思ってた、恋をしたら学校生活が楽しくなると思ってた」
でも其れは大きな間違いだった。なぜならば……。
「恋をしたらじゃない、恋を知ったら変わるものだと分かった。恋人は恋をしてから作るものだとわかった」
「江口さん?」
「今のあなたの目には私はどう映ってる?綺麗?優しい?」
イッシーは頷くのが精いっぱいだったらしい。
「そう、じゃあ覚悟しててね。これから私の本当の姿をばっちり見せてあげる、私しか見れないようにしてあげる。必ず振り向かせて見せる。だから真剣に話を聞いてね」
「はい、聞いてます」
「良い返事ね。まず、私あなたの事好きになったから。理由がしりたい?」
イッシーは無言で頷く。
「まずはその頼りなさ。私の母性をくすぐったみたい。守ってあげたくなっちゃった」
イッシーはきょとんとしている。
「次にその自信の無さ、見てると無性にイライラする、性根から叩き直してあげたいと思った」
イッシーは怯えていた。
「最後にその率直さ、私これでもモテる方だと思ってた。そんな私を前にしても少しも飾ることなくありのままの自分を見せるところ。計算でやってるなら大したものだけど。そうではないみたいだし」
イッシーは後悔の念にかられている?
「私って優しく見えた?実はそうでもないのよ……」
そう言うとここにきて、初めて自分の意思を喋った。
「そうやって、素直じゃないところ。知ってたよ。ある意味僕よりも自虐的だ。江口さんに関わるとろくなことにならない。そう言いたいんでしょ?でも僕もそういうとこ嫌いじゃない……!?」
通路を通ろうとしたCAが声を上げた。
私は彼を壁に押し当て抱きついていた。
「そうやってピンポイントで優しい所は嫌いよ」
「ごめん」
洗面所で立て直した後席に戻る。
「ねえ、もう少し考え直してあげられないかな?彼まだ女子の扱いに慣れてないっていうか……多分人生初の彼女だと思うんだよね」
もどるなり亜依ちゃんが話しかけてくる。
「考え直す必要なんてあるの?」
「え?」と亜依ちゃん。
「私彼と付き合うって決めたんだけど」
「嘘!?」
「マジ!?」
瑛大君と亜依ちゃんは同じリアクションをとった。
「なんならイッシーに聞いてみたら?」
「マジかよイッシー!」
瑛大君がイッシーに言うとイッシーも驚いていた。
「う、うんそうだけど……」
「そうだけよ、じゃねーよ!良かったなイッシー」
「あ、ありがとう。今夜渡辺君たちにも報告するよ」
「今夜と言わず後で報告したら?どうせ一緒に行動するんでしょ?」
「いいの?別行動とって……さっき言ってたじゃん。ペナルティあるって」
「あら?彼と一緒にいたいという女子の気持ちを踏みにじるの?」
「ダメだよイッシー。ペナルティなんて関係ない。最後に集合して戻ればいいんだから!」
ぽかっ!
後ろの席から水田先生が亜依ちゃんを小突く。
「思っててもそう言うことは口にするな。大人を面倒事に巻き込むなと言っただろ」
「は~い」
恋は私を変えた。
そしてその恋が恋人を作った。
まだ、形だけのものだけど。
いつか振り向かせて見せる。
心に決めた、私だった。
応援ありがとうございます!
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