優等生と劣等生

和希

文字の大きさ
126 / 442
3rdSEASON

オタサーの姫

しおりを挟む
(1)

「冬夜君、そろそろ起きよ?」

愛莉が体を揺すっている。
今日は休みだろ?
ゆっくり寝かせてくれよ。

「うぅ……ゆっくり寝たいのは分かるんだけど今日は渡辺君から招集かかってる日だよ?」

そんなのあったっけ?ああ……メッセージ来てたな。

「どうせそんな大した用事じゃないんだろ?遅れても問題ないよ」
「私も休みだしどっか遊び行きたーい」

愛莉が一生懸命僕の体を引きずりだそうと腕を引っ張る。
精一杯の抵抗を試みたが、やがて。

どすん

痛い。

「やっと起きてくれた~」
「もっと優しく起こしてくれたって……」
「冬夜君それじゃ最近起きるどころか熱中しちゃうんだもん」

愛莉の顔は不満どころか嬉しそうに言っていた。
僕は素直にパジャマを脱ぎ、着替える。
愛莉は僕のパジャマを拾い「洗濯してくるね~」と部屋を出て行った。
愛莉は最近うちに入り浸りだ。
一週間分の着替えを用意して。部屋に泊まり込んでる。
その代わり洗濯等を一手に引き受けてる。
勉強してそれだとぶっ倒れるぞと言ってみたものの……。

「冬夜君が癒してくれるから大丈夫だよ」って聞かない。

遠坂家と片桐家の間でも取引が行われているらしい。

「……ケジメはつけないといけないと思うのですが……ま、まだ学生ですから」
「すいませんね、まあ嫁が来たと思って歓迎しますよ」
「息子には『カードでさっさと婚約指輪買ってしまいなさい』と言ったのですが、自分で買うと言って聞かないもので」
「まあ~学生婚は~むずかしいですから~」

そんな感じの会話が行われたとか。
親は何考えてるんだ?
と、いうわけで一週間のほとんどは家で過ごしている。
週末は僕より早く起きてコードレスの静音掃除機を使って掃除をしてその後僕を起こす。
そして「どこか連れてってー」とか「勉強しよう?」とか……要するに構って欲しいアピールをする。
数日前に来た渡辺君からのメッセージ。

「ファミレスに集合」

ファミレスで何を話すのかはしらないけど、要するに愛莉にとっては【出かける口実】ができたわけだ。
着替えた後愛莉が選択してる間暇なのでゲームでもしてると……。

ぽかっ

「冬夜君は間違いなくぐーたら亭主だね」
「……何か手伝う事ある?」
「ないよ」

にこりと笑って言う愛莉。

「じゃあ、ゲームしてたっていいじゃないか?」

愛莉は僕に抱き着き。

「ちょっとはさ『朝からお疲れ様』とか一言ないの?その一言で疲れとれちゃうんだけどな~」
「お疲れ様」

そう言って愛莉をそっと抱く。

「ありがとう」

反発するかと思ったけどこういう時は素直なんだな。そこがまた可愛い所なんだが。

「それはそうとその後のグループメッセージ見た?」
「見てないけど何かあったの?」
「なんか亜依と桐谷君の仲が怪しいんだよね」
「へえ……」

僕はスマホをとり、ログをたどる。
桐谷君がメッセージを削除したところから雲行きが怪しくなってる。
何を言ったんだ?桐谷君。

(2)

その昔【サバンナ】と呼ばれた車の助手席に座り、瑛大の運転で待ち合わせ場所に向かっている。
シーンと静まり返る車内。
信号で車を止めたところで私が沈黙を破った。

「瑛大。スマホ出せ」
「な、なんでだよ」
「いいから出せ……」

同じことを何度も言わせるな。
瑛大からスマホを受け取ると暗証番号を入力し画面を開く。
なんで私が知ってるかって?
私が私の誕生日に、設定させたから。
こうでもしないとこの馬鹿は私の誕生日すら忘れてしまう。
画面を開くと知らない黒髪のロングのツインテールにしている女性の画像がホーム画面になっていた。

「この女だれ?」
「みゆきちゃんだよ。この前話しただろ?」

みゆきちゃんだぁ?

「で、みゆきちゃんとやらとどういう関係なんだよ」
「だから、僕が入った特撮研究会にいる女の子で誰のものってことはないよ、『みんなのみゆきちゃん』を守ろうって決めてるんだよ」

アイドル的存在か?

「じゃあ、この前メッセージで言ってた『みゆきちゃんは僕の物』ってのはどう説明してくれるんだ?」
「だから彼女って意味じゃないって。ノリだよノリ!」
「……まだ大学始まってから2週間しかたってないんだぞ?」
「だから浮気とかそんなんじゃないから」
「心の浮気って言うんだこの馬鹿」

どれだけ私が泣いたかわかってるのか?

「ごめんってば、さっきも謝ったろ!許してよ」

私は答えなかった。答えられなかった。
どういったらいいのか分からない。
これ以上追及しても、重たい女と思われるかもしれない。
かといって「じゃあ、許す」って気にもならない。
どうしたらいいのかわからない。
判断は今日渡辺班に任せようと思う。

(3)

ファミレスで。
僕達は指原さんの話を聞いていた。
指原さんは話し終えると泣き出した。
桐谷君が慰めようとするが全く取り合ってもらえないといった感じだ。
非は桐谷君にある。
それは誰もが思ってる事だろう。
でもアイドルに恋をするなんて誰でもあることだろ?
僕は食べ物に恋をしてるけどね。
アイドルは……あんまり興味が無いな。

「オタサーの姫ってやつか?」

カンナが聞きなれない言葉を発した。

「なにそれ?」

僕と石原君が聞いた。

「オタサーってわかるか?」

僕と石原君は首を振った。

「オタクが集まるサークルだよ。瑛大みたいな。そこにいる紅一点の事をそう呼ぶんだ」

ふーん、桐谷君サークル活動やってるんだ。

「片桐君が思ってるようなサークルじゃないよ。特撮研究会っていうサークルだから」
「と、特撮!?」

まあ、漫研みたいなものか?
そんなところに女性が入ってくるもんなのか?

「まあ、純粋に趣味を楽しみたくて入る人もいるけど。中にはちやほやされてるうちに高飛車になる女もいてな……瑛大が関わってもろくなことねーよ。やめとけ」
「みゆきちゃんはそんな子じゃないよ!」

桐谷君が叫ぶ。

「やけにみゆきちゃんの事肩に持つんだね。そんなにいいならいっそ告っちゃえば。そして一人で玉砕してこい!」

そう言って指原さんは泣く。

「悪いが今回は瑛大が悪いぞ。ただでさえ大学離れてるんだろ?少しは配慮してやれ」
「だからちょっとしたミスだって」
「グループチャット見せて見ろ」

桐谷君が渡辺君にスマホを渡すと、渡辺君は桐谷君に暗証番号を聞き画面を開く。
渡辺君はメッセージグループを見ていて「ふむふむ」と、言い桐谷君にスマホを返す。
そして、きっぱりという。

「音無さんの言う通りただのオタサーの姫だよ。指原さんが気にするほどの存在じゃない」
「で、でもみゆきちゃんて人が瑛大を好きになったら」
「それはない、多分地元大学の志水さんのような存在だよ。規模は小さいけど。誰か特定の人を好きになったりはしない。ちやほやされて満足してるタイプだ」
「どうしてそんなことわかるの?」
「瑛大のメッセージグループのログ見た?」

渡辺君が聞くと、指原さんは首を振る。

「今度見せてもらうといい。あ、今がいいかもしれないな。瑛大」

渡辺君が桐谷君に促すとスマホを指原さんに渡す。
指原さんは、メッセージグループを確認しているようだった。
そしてあることに気がついたらしい。

「みゆきちゃんとの会話ログがない」

俗にいう既読スルーってやつみたいだ。

「な、その気は全く感じないだろ?」
「確かに……」
「そういう事だ。とはいえ、瑛大にペナルティを与える必要はあるな」

渡辺君がそう言う。

「冬夜、お前は何か遠坂さんに罰か課せられたことはあるか?」

渡辺君がそう聞いてくると「あるよ?」と答えた。

「その罰今言っても問題ないか?」
「別にいいけど?」
「ちょっと待って!!」

愛莉が耳打ちする。

「冬夜君バスケのは言っちゃだめだからね!」

愛莉でも気にするお年頃になったのか?

「そっちじゃないよ、もう一つの方」
「そ、それならいいよ」

多分今も生きている罰。

「愛莉に言われたんだ『卑屈になったら、自分を劣等生だと思ったら罰を与えまーす。愛してるって10回言ってって」

皆が驚く。

「お前そんな約束してたのか」と、誠が言う。
「なるほど、愛莉にしてみたら得しかないよな」と、カンナが言う。
「それはいいかもしれないな」と、渡辺君が言う。

「瑛大お前今日から毎晩指原さんに電話しろ。そして『愛してる』って言うんだ」
「……もし破ったら?」
「その時は俺が黙ってない」

にやりと渡辺君が笑う。
呼び出してフルボッコとかにするんだろうなぁ。
その時誠が言った。

「あのさ……言いづらかったから言わなかったんだけど。みゆきちゃんって彼氏いるぜ?」

呆気にとられる僕達。

「なんで誠が知ってるんだよ?まさかお前……」

カンナが凄む。

「違うよ同じ大学だからさ、結構有名なんだよその子。男ったらしで有名だって。証拠の画像もあるぜ?サッカー部で回ってたんだよね」

そう言って誠は自分のスマホを操作して皆に見せる。
そこにはさっきの黒髪の女性が知らない男と腕を組んで歩いてる姿が。

「た、ただ腕を組んでるだけだろ」

動揺する桐谷君。いや、そのリアクションはまずいだろ。
そんな桐谷君を無視して別の画像を見せる。
また違う男と抱き合ってキスしてる場面。
桐谷君は二人の男性の正体を知ってるようだった。
なぜって?同じ特撮研究会のメンバーだったから。

「これで瑛大がみゆきちゃんを気にかける必要ななくなったな?」

渡辺君が言う。
慎重に行けよ、桐谷君。選択間違えたらゲームオーバーだぞ。

「も、もともと気にしてねーし」

ちょっと動揺してるけどまあ、大丈夫だろう。

「だから、色んな男を誘惑して貢がせてるだけの女だって、大学中で噂されてるぞ?桐谷君はしらなかったの?」

誠があっさりと言う。

「し、知ってたし」
「じゃあ、なんで追っかけてたんだよ!」
「だからノリでって言ったじゃんか!」
「お前マジだっただろ……」
「そんなわけねーって、俺には亜依しかいないって」

この調子なら大丈夫かな?
愛莉の顔を見る。
愛莉もこっちを見てにこりと笑った。

「まあ、そういう事でこの話は終わりにしようや。罰は守れよ瑛大」
「わ、わかったよ」
「で。呼んだ理由なんだけど。皆どんな調子かなって気になって招集かけたんだけど」
「そんな理由だったんだ」

愛莉が驚いていた。

「冬夜は友達が出来たんだよな?」

渡辺君が、僕に話を振ってきた。

「ああ、酒井君の事?まあね、大学の唯一の情報源だし」
「それだよそれ、俺たちに足りない事って情報だと思うんだよ。だからなるべくみんなで情報を共有しようって思ってさ」
「それって何か意味あるの?経済学部の皆は良いけど私教育学部よ?」
「それ言ったら私も看護学科だよ!」
「俺も私立大だしな」

江口さんと指原さんと誠と瑛大が口を揃えて、質問する。
渡辺君は笑って答えた。

「インカレサークルって知ってるか?あれの小さなもんだと思えばいい。より安全で安価なサークルだ。どうせみんなサークル入ってないんだろ?」
「確かにバイトでそれどころじゃないわね」

指原さんが言う。

「メリットはあるの?」
「偶にこうして集まって相談したり、時には騒いだりする場所って重要だと思わないか?」
「ああ、そういうことね」

江口さんも納得したらしい。

「桐谷君、俺とID交換しない?今回のようなことも含めて同じ大学同士共有できる情報ってあると思うから」

そう言って誠と桐谷君は互いに自分のスマホをフルフルする。

「また暇があったら、声をかけるよ。冬夜も良かったら酒井君をつれてくるといい。俺も美嘉の休みが合えば連れてくる」

二十歳になったら盛り上がろうなと、いう事も付け足して。

「渡辺、美嘉によろしく言っておいてくれな?また飲もうって!」と、カンナが言うと。

「それはだめだ!」

誠と渡辺君が口を揃えて言う。

こうして、僕達の小さなサークルのコンパは幕を閉じた。

(4)

「冬夜君、真っ直ぐ帰ったりしないよね?」

愛莉が車に乗るとそう言った。

「……いつものコースでいいかい?」
「うん♪」

僕は車を出した。
いつものコースとは別府に向かい山を越えて湯布院に行き210号線を走って帰るコースの事。
湯布院に行くコースは二通りある。
普通に九州横断道路を通るコースと明礬温泉を超えて牧場なんかを抜けて湯布院に下りるコースの事。
何十年も前にやった朝ドラで舞台になったお店の前を通る。
今日は横断道路の方で良いかな?

「愛莉どっちがいい?」
「う~ん、山の方がいいかな?さっき冬夜君の燃料補給したから大丈夫だよね?」

お腹が満たされると眠くなるんだけど。
と、言う前に睡眠防止のガムを口に放り込まれるわけだけど。
どっちにしろ別府に行くのは変わりない。
そして別府のとある小屋造りの喫茶店に寄るのが定番になってる。
ここはハンバーグが有名なんだよね……

ぽかっ

「パフェ半分こしよっ」

いつも半分も食べないじゃないか?
しかしオタサーの姫か……。
愛莉がサークルに入らないのはそういう理由もあるのかもしれない。
自分が望まなくとも担ぎ上げられる人の気持ち……なんとなくわかる。
もっとも誠の話を聞いてると担ぎ上げられたがってる気もするけど。

「冬夜君もやっと私の気持ちに気づいてくれたんだね」

愛莉が僕の顔を見てそう言った。

「嬉しいよ。そういうの」
「答えあってた?」

愛莉は満面の笑みでうなずいた。


車に乗る前にコンビニに寄りジュースなどを買ってくる。
そして港の前を曲がり、山をひたすら上る。
サファリパークの案内の看板が出てるところを曲がりひたすら山を登っていくと明礬温泉だ。
そこを通過していく。
愛莉が「家族湯入る?」って聞いたけど、お風呂のセット用意してないだろ?と軽く受け流す。

「冬夜君の意地悪~」

愛莉が拗ねる。それもまた可愛い。
日出JCTが見えた辺りで道は由布岳の方に向けて走る。
走り慣れてるからもうナビを見るまでもない。
もっとも愛莉は助手席に座ってDVDに熱中するというタイプでもないが。

「安全に運転してね?」と気遣い、CDを聞くにとどめる。

僕のの大好きなかわいい19歳の恋人のためのブルースという古いJ-POPの女性歌手の歌だ。
もうすぐ19歳。でもまだ未成年だけど大人みたいに背伸びしたい時期を甘えたい年頃。
僕も愛莉も今年で19歳か。
後1年で大人になれる。
寂しさを感じるというけれど今のところそれはない、愛莉がそばにいるから。
カンナや誠とは疎遠になったけど。
でも今日、渡辺班という強いつながりはあるんだなぁと実感した。
17歳の時のような焦りはない。
車も手に入ったし行動範囲も広がった。
けれど相変わらず親に頼りっぱなし。
就職したら恩返ししないとな。
お金貯めて愛莉のエンゲージリング買ってプロポーズして……。
プロポーズの台詞考えないとな。
どんなのがいいのかな?
毎朝僕のみそ汁作ってくださいっていうのもなんか亭主関白っぽいし何より僕はパン食だ。
幸せな家庭を気づきましょうとかそんなのなのかな?
二人で一緒に年を取って行こうってのもありなのかな?
前にネットで検索したんだけど……。
気づくと隣で愛莉が泣いている。
車を端に寄せて止めた。

「どうしたの愛莉?」
「冬夜君の心の中覗いたら思わず涙が出てきて」

え?僕何か泣くようなこと考えた。

「冬夜君、私にプロポーズしてくれようとしてるんだなぁって」

そこまで読まれてたか。
恥ずかしさがこみあげてきた。

「台詞考えなくていいよ?」
「え?」
「多分言い終わる前に抱きついてキスしてるから」

なるほどね。

「台詞くらいちゃんと言わせてよ」

僕は車を再び走らせる。

「じゃあ、今聞かせて」
「今は指輪準備してないから」
「冬夜君、私思ったんだけど指輪ってそんなに重要なのかな?」
「え?」
「隣にいる大好きで愛してやまない彼が一生懸命プロポーズの言葉を考えててくれてる……それだけで十分プロポーズじゃない?」
「愛莉……僕の我儘言っていい?」
「な~に?」
「結婚くらいは自分の力でちゃんとやりたいんだ」

愛莉はクスクス笑っている。
なんかおかしい事言ったかな?

「あまり待たせないでね?私も結婚資金貯めるから……」
「働くの?」
「ううん。ただ冬夜君が遊ぶお金大体出してくれてるからその分貯金してる~」
「なるほどね」

広大な高原のなかをゆっくりと車は走る。
もう日が暮れている。
湯布院に着くころには日没に近かった。

「どうする?明日も休みだけど」
「流石に毎回毎回泊りがけってわけにはいかないだろ?」
「うぅ……そうだね」
「今日はお泊りセットも用意してないし大人しく帰ろう?」
「は~い」

へそを曲げる愛莉。

「家に帰ったらゆっくりいちゃつこう?」
「うん♪」

湯布院の中はやはり混んでる。
分ってはいたけれど。

「愛莉、お腹空いてない」
「空いてないけど……冬夜君お腹空いた?」
「まあね」

ていうか食べたいものがあったから。
愛莉はスマホで検索している。
納得したようだ。

「さっきファミレスだったしね。いいよ。食べよ?瓦そば」
「ありがとう」
「いえいえ」

(5)

帰りに瓦そばのお店に寄る。
瓦そばとは熱した瓦の上に茶そばと具材を乗せて暖かい麺つゆで食べる料理。
ここの瓦そばは地元産の牛肉が乗ってある。
ちょっと私にはボリュームありすぎかな?
それにそんなにお腹空いてないし。
まあ、心配はしてないけど。
冬夜君は自分のを食べつくすと私の分を食べ始める。
美味しそうに食べる冬夜君を見てるだけで私の胃袋も満たされた気分になるよ。


食べ終わるとまっすぐにお家に帰る……。
途中足湯があったので少し休憩して行こ?って言ったら車を止めてくれた。
足湯にのんびり足を浸かりながら、冬夜君とお話しする。
もっぱら冬夜君の注目は、足湯より側に売ってあるブルーベリーのソフトにいっていたが。
後で食べようね。
こう見えて私寛大になったんだよ。


足湯を出てソフトクリームを食べる頃には辺りは暗くなっていた。
交通量も増えてきて冬夜君の車を煽る車も増えてきた。
その度にハザードランプをつけて車を脇に寄せ先に行かせる冬夜君。
あくまでも制限速度を守って走ってくれてる。
真面目だね。
安心できるよ。
いけない、睡魔がきちゃう。

「冬夜君はスピード飛ばしたいって思ったことはないの?」

とりあえず話題を作ってみた。

「あるよ」

うぅ……。

「そっか……」
「一流のドライバーほど安全運転にこだわるんだって」
「?」
「いつなにがどこから飛び出してくるか分からない。そんな中で0.1秒の判断の遅れが命取りになるような運転はしないって書いてた。僕もそう思う。この車の挙動限界があるのわかってるから無茶しようとは思わない」
「なるほど」
「飛ばしたかったらサーキットに行くよ。最もそんな車じゃないけど」

冬夜君はすでに一流だね。

「愛莉はそんなスリリングな走りを見たい?」

突然言い出した冬夜君。

「見たいって言ったら見せてくれるの?」

意地悪で行ってみただけなのに……。
冬夜君は、帰り道から外れて行った。

某県道。
車道の幅は十分ある。
山頂に着くとうじゃうじゃと走り屋さんぽい車が止まってる。

「また来たぜ、あの四駆」
「今日こそぎゃふんと言わせてやろう」
「ATでしかもドノーマルなんだぜあの車」
「しかも運転手若葉マークだぜ」

冬夜君は車道に車を止め隣に車が止まるのを待ってる。
いかにもな車が隣についた。
ギャラリーの一人がカウントを始める

「3,2,1……」
「お前に生命を吹き込んでやる!!」
「え?」

冬夜君が何か言ってる。

「スタート!!」

最初の直線はやはり相手の方が速いみたい。
冬夜君の言うように走り向きではなかったようだ。
冬夜君の顔を見る。
余裕すら見てとれる。

「愛莉しっかりつかまってろ!」

そう言うと冬夜君は無謀ともいえるスピードでカーブに差し迫った。
相手のクルマはブレーキランプが点いて減速してるのに冬夜君は全く減速する気配すらない。

「お前に魂があるのなら…応えろ!!」

ギリギリのところでブレーキを踏むと言ったんカーブと反対側にハンドルを切ってすぐにカーブの方向に切る。
車は横滑りしカーブを通過していく。
カーブを超える度に後ろの車は小さくなっていく。
物凄いスピードで走ってるのは分かる。
分かるけど体感できなかった。
なんだろ?いつもの運転と変わらない感覚。
もっともタイヤはキーキーなってるけど。
山を下りる頃には相手のクルマは見えなくなってた。
ふもとの自販機で一度止まりジュースを飲んでると相手のクルマが追い付いてきた。

「よぉ、今日は彼女連れかよ……完敗だ。今度までに腕磨いてるから待ってろよ」

冬夜君が手を振ってこたえると相手のクルマはまた山を登って行った。

「冬夜君、いつの間にこんなテクニックを!?」

教習所じゃ教えてくれなかったよ?

「なんかさ、誠と遊びに来たときに気がついたらやってた」

けろっと答える……けど。

ぽかっ

「私に黙ってこんな危険なことして事故ったらどうするの?」
「だから偶にだって!」
「それでも私に黙ってたのは許せません!」
「う……」

冬夜君は困っている。

「ご、ごめん」
「ジェットコースターみたいで楽しかったよ。怖いって感じ全然しなかった」
「へ?」
「でもこんな危ない真似はやめようね?」
「今日は飛ばしてるところ見たいって言ったから来ただけだよ。ここ、車の通り夜少ないから安全らしいんだ」

ぽかっ

「一度見たからもう十分、やめようね。それに今日はって言ってた。前にも来たことあるんでしょ?」
「まあ、何回か、ストレス発散に」
「私がストレスになってる?」
「い、いやそういうわけじゃないけど」
「冬夜君のストレスは私にぶつけて、可能な限り受け取るから」
「……わかった」
「……うぅ」

私は迷ってしまった。
さっき言ったばかりなのに。

「どうした愛莉?」
「ごめん、もう一回だけ許してあげるから山にいこ?」
「わかったよ」

そう言って冬夜君はまた山に登る。
だって格好良かったんだもん。
彼氏持ちなら分かってくれるよね?この気持ち。
冬夜君の夜遊びは今夜を境に無くなったかと思ったけど。
このテクニックを活かすときが来るとは思いもよらなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...