優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

八重桜

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(1)

「う、うーん……」

激しい頭痛の中で目が覚めた。
まだ酔いが残ってるようだ。
昨日は、勤め先の新歓があった。
今年入社したのは私を含め3人。
私以外は皆専門学校を出てる。
3次会まで参加して正志を呼び出してその後の記憶は……ない。
気がついたら、ズボンだけ脱いで寝てた。
正志は真面目に大学に行ってるらしい。
行ってる傍らバイトにも行ってる。
私が養ってやるのに。
私の収入だけじゃ不安か?
……いかん、またネガティブになっている。
ネガティブな私を正志は嫌う。
思考を切り替えよう。
それにはシャワーが一番だな。
服を脱ぎシャワーを浴びる。
私達は1LDKの部屋を借りて二人で暮らしてる。
どうせ車だからと私の職場近くにしてもらえた。
私が飲酒運転するのが怖いらしい。
職場まで徒歩5分だから徒歩で行ける。
いらないといってるのに口座に毎月親から仕送りが振り込まれてる。
使わずに貯金してる。
いつか挙げるウェディングの為に……。
シャワーを浴びるとタオルで体を吹いて部屋に戻り服を着る。
正志が起きているのに気づいた。

「脱衣所があるんだからそこで服を脱げと何回言ったらわかるんだ」

叱られた。
昔っからの癖だ。
良く言われる。

「忘れてた」

そう言って謝ると、正志はため息を吐いた。

「今日は私がご飯作ってやるぞ」

いつも店の仕込みの為に朝早く出るから正志に作ってやれない。
今日は思う存分腕を振るうぞ。

「ありがたいんだけどな、もう時間が無い」

時計は8時を回ったばかりだ。

「今日は休日だろ?慌てることないだろ?」
「そうなんだがな、メッセージみなかったか?」

スマホのメッセージを見る。
正志の作ったグループのメッセージがあった。


今日は花見の日だった。
尚更、腕を振るわないわけにはいかないだろ。
私は準備に取り掛かる。

「おいおい、何やってんだ」
「まだ時間はあるだろ、そんなにおしゃれする必要もないしパパッと仕上げるよ」
「時間大丈夫なのか?」
「つまみくらいならささっと作るよ」
「つまみって、お前まだ飲むつもりなのか?」
「神奈とまた飲めるな!」
「勘弁してくれ……」

私は鼻歌交じりに調理をしていた。

(2)

こんなものでいいかな?
私はお弁当箱に作ったものを盛り付けていく。
今日は沢山人が来るからいっぱい作らなきゃね。

「愛莉ちゃん。あとはおばさんやっとくから冬夜起こして準備しなさいな」
「は~い」

エプロンを外すと、2階に上がる。

部屋に入ると冬夜君はTVゲームをしていた。
銃を撃ちまくって血がどばってでるやつ。
皆は「ジャム」って言ってるけど私にはそうは思えない。
そんな事言ってたらイチゴジャム食べれなくなっちゃうよ。
それにしても彼女を朝から働かせておいて自分はのんびりゲームですか?
許せませんね。
後ろからそうっと近づいて目隠しをする私。

「馬鹿、今はだめだ。よせ」

いやだよ~。
冬夜君が操作しているキャラは死んだらしい。

「愛莉折角いい所だったのに」
「ゲームに入り込んでて私に気づかないって酷くないですか?」

こっちは朝からお弁当作ってたんだよ。
抗議する冬夜君を無視してゲームの電源を切る私。

「ちょ!またキルレシオ下げられるじゃないか!」

尚も抗議する冬夜君。

「ご飯できたから早く着替えて降りてきてね」

そう言って部屋を出る。
数分後冬夜君は着替えて降りてきた。
テーブルについて素直に食事する冬夜君。

「おいしい?」
「うん、美味しいよ」

よかった。
ご飯を食べ終えると洗面所に向かう冬夜君。
その間にお皿を洗ってしまう。

「愛莉ちゃん、そんなの私がやるから、今のうちにお化粧とかしてきなさいな」
「大丈夫です、もう軽くしてあるから」

私がお皿を洗い終える頃にのろのろと洗面所から出てくる冬夜君。
麻耶さんが準備してくれたお弁当とお茶の入った水筒。その他諸々準備する。

「じゃ、行こっか。母さん行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」

冬夜君の車に乗って私たちは八重桜で有名なお寺に向かった。


お寺を選んだのには理由がある。
一つは大学入学でばたついてて、花見を忘れていたという事。
もう一つは八重桜は開花の時期が遅くて今からでも間に合うという事。
通行客の邪魔にならない場所ならシートを敷いてもいい。
バーベキュー等火を使わない行為ならしてもいいというわけで、このお寺を選んだ。
お寺に行く前に駅まで車を走らせる。
そこには酒井君が待っていた。

「どうも、お世話になります」

後部座席に乗せるとお寺まで行く。
神奈達が最初についてた。
その後に、石原君たち、指原さん達、最後に渡辺君たちが来て全員集合。
皆それぞれお弁当屋ら飲み物を持ってきていた。
神奈が目にしたのは美嘉さんがもってる銀色の缶。

「あったら飲むしかねーよな!」

神奈が一言言うと美嘉さんも同調する。

「分かってるじゃねーか神奈」

「ダメだ」
「神奈さんはやめておけ……色々問題になるから」

誠君と渡辺君が神奈を止める。

「ちっ、つれねーなあ」

美嘉さんが舌打ちする。
私達は桜の咲いてる庭へと向かった。

(3)

「綺麗~」

愛莉が桜を写真に撮ってる。
僕は早くお弁当を食べたいんだけどね。

「あのぅ~」

酒井君が何か言いたそうだ。

「こう言っちゃなんだけど僕場違いな気がするんだよね」

まあ、そう思うよね。
5組のカップルがいて一人だけ取り残されるとそう思うよね。

「まあ、座れよ酒井君。そういう話ならとことん相談に乗ってやるから」

渡辺君がそう言ってシートに座らせる。
またやる気?
またあれをやる気なの?

「渡辺君そう言う話なら私も相談に乗るよ」

指原さんも乗り気だ。

「えっと、相談って何の相談ですか?」

そこ食いついたら後で悲惨な目に会うよ。
この二人の行動力馬鹿にしたら行けないよ。

「要はこの酒井君って人にも女作ればいいんでしょ?看護学科ならいくらでもいるから。何なら合コンでもセッティングする?」

指原さん直球だね。でもカップル8人いて一人だけボッチで合コンなんて拷問じゃないか。

ぽかっ

「冬夜君は行かなくていいよね?」

愛莉が笑ってる。

「いや、でも友達の合コンだしついて行かないと……」
「いいよね?」

愛莉が笑ってるうちに引き下がったほうが良いな。

「あの、僕合コンなんて興味ないから」
「は?」
「へ?」
「ほえ?」

渡辺君と指原さんと愛莉がそれぞれ不思議そうな顔をしている。

「え?だって彼女いないんじゃないのか?」

渡辺君が質問すると酒井君は質問で返してきた。

「そもそも彼女って学生生活に必要不可欠なものなんでしょうか?」
「面白い理論だな、酒井君」
「酒井君だっけ?彼女いたことあんの?」

桐谷君が質問した。

「あるよ、高校の頃に1年だけ。大学違うから別れたけど」
「それはもったいないよ!私と瑛大大学違うけど付き合ってるよ」
「多分、口実だったんだと思います。僕といても退屈だったんでしょう」

指原さんの質問に即答する酒井君。

「サッカーをしない僕には興味ない。そんな感じでしたからね。まあ、僕からサッカーをとったら何も残らないから」
「そんなことないわよ、酒井君?」

そう言ったのは江口さんだった。

「自分では何も無いと思っていても、相手はあなたの良いところを見つけてくれるかもしれない。それがどんな所でも」
「江口さんでしたっけ?そもそも僕は今彼女という煩わしいしがらみから解放されて喜びにひたっているわけで」
「煩わしい柵がいつか懐かしい物へと変わる日がきっと来るわよ」
「まあ、好きな人が出来たらそうかもしれないけど、今のところいないんで……」
「……トーヤ……何か言ってやれよ」

カンナが僕に話を振ってきた。
でもなあ。

「酒井君の言うことも一理あるんだよね?」
「トーヤ!?」
「好きな人がいるならいいけど、いないのに無理やりくっつけるのもどうかと思うよ。ましてや煩わしいとまで思ってるなら……」
「甘い甘い、甘いよ!片桐君!」

指原さんが反論してきた。

「そんなの草食系男子の言い訳だね。自分で言ってたでしょ!食べないうちから諦めるのは止めろって」
「酒井君はそもそも食べたいものがないんだよ?指原さんだって食欲ない時にラーメン勧められたら。ええ!?ってなるでしょ?」
「僕の話を通り越してラーメンの議論になってる事が不思議でしかたないんだけど……」
「気にするな酒井君。冬夜が話し出すと大抵食べ物の話になるんだ」

渡辺君、なんか僕=食べ物になってるけど先に食べ物の話しだしたの指原さんだよ?
酒井君は好きな人すらいないんだから出来たら応援してあげたらいいんじゃないかな?
なんでもかんでもくっつけようとするのは良くないよ。

「やっぱり片桐君とは話があうね」

酒井君はそう言った。
うん、成人したら美味い酒が飲めそうだね。

「うぅ……」

愛莉が何か言ってる。

「どうした愛莉?」
「冬夜君もいっしょなの?学生生活に彼女なんて必要ないと本気で思ってるの?」

またこの子はしょうもない事を……。

「僕と酒井君の話を一緒にしても仕方ないだろ?僕には愛莉っていう婚約者がいるんだから。根本的に違うよ」

愛莉をあやす。

「うん……」

愛莉は納得したのかしてないのか分からない感じだ。

「話を元に戻すが、本当に今彼女欲しいと思ったことは無いのか?」
「無いですね」

渡辺君の質問にきっぱり答える酒井君。

「なさけねーぞ酒井!!」

突然美嘉さんが叫びだした。

「さっきから聞いてりゃ弱音ばっかり吐きやがって!一度彼女に振られたくらいで傷心して彼女いらないってこったろ!男ならさっさと次の女探すくらいの意地見せろ!」

暴論だよそれは美嘉さん。
美嘉さんの足元には銀色の空き缶が転がっている。ああ、飲んだんだね。

「いや、傷心したわけでなくて。本当に興味が無いだけなんです」
「それは言い訳だ!自分に向き合ってないだけだ!興味ない振りしてる方が気が楽だもんな!でもな、いつか必ず後悔するぞ!せっかくの学生時代に色つけないでどうすんだよ!」
「美嘉言い過ぎだ……。酒井君すまないな」
「いや、いいんです。慣れてますから。友達にも言われたし」
「じゃあ、私も言わせてもらう!」

指原さんが立ち上がった。

「さっきから、なんかこう柳に風、暖簾に腕押しみたいな感じで、こう響いてこないんだよね。めっちゃ腹立つ」
「うん、それで僕ここに来たの場違いだったかなあって……」
「そういう問題じゃない!なんかやる気出せよ。熱くなれよ!自分と向き合って生きて行けよ。諦めるなよ!私だって何度も振られそうになって今があるんだ」

ああ、やっぱり呼ぶんじゃなかった。
呼べと言われて軽々しく呼ぶ相手じゃなかった。
そこまで見抜けなかった僕のミスだ。

「片桐君!今後悔してるでしょ!私は逆だと思う。呼んでよかった!こいつの性根を根本的に叩き直してやる!」

指原さんキャラ変わってきてない。でもないか。

「私も亜依に同感だね。出来るやつだと最初は思ったけど中身はやる気の無いただのぺらっぺらな男じゃねーか!根本的に治療しないとダメだ」

カンナの足元にも銀色の空き缶が。
誠の顔を見る。
誠は首を振る。
止められなかったんだな。

「亜依ちゃんや神奈ちゃんと同感だわ。凄い興味湧いてきた。この男をどこから治してやったらいいのか」

江口さんてそういうキャラだっけ?
石原君の顔を見る。
おたおたしている。

「恵美落ち着いて」
「イッシー、アナタと同類よ。いやある意味アナタより質が悪い」
「片桐君僕タクシー呼んで帰るよ」

そう言う酒井君の手を握り離さない渡辺君。

「逃がさんぞ、俺たちに関わったのが運の付きだと思え」

うわあ、本当ごめん酒井君。
代わりに今度奢るから。

(4)

最初は友達付き合いも大事だなと思ってた。
するとどうだい?
片桐君たちを除く全員がまるで肉食獣。いや、野獣のようじゃないか。
なんかもう帰りたくなってきた。

「片桐君僕タクシー呼んで帰るよ」

そう言って立ち上がると大柄の男、渡辺君が僕の手を掴んで離さない。

「逃がさんぞ、俺たちに関わったのが運の付きだと思え」

片桐君が罠だったという事かい?
片桐君を見る、両手を合わせてごめんと言っている。
片桐君の力をもってしても手に負えない事態に陥ってるようだ。

「そうだな、まずはメッセージのID教えてもらおうか」

渡辺君が言ってる女子4人がスマホを持ち待ち構えてる。
片桐君の彼女……遠坂さんは一人沈んでる。
片桐君に言われたこと気にしてるのかな?
僕の目から見ても明らかに上位ランクの女子4名にメッセージのIDを聞かれる。
文章にするとすっごい、羨ましいと思う人いると思うけどそんな生易しい物じゃない。
教えないと、どうなるかわからないぞという気迫が漂っている。
仕方ないから、スマホを取り出す。
そして一人ずつフルフルしていく。
そういえば他の男性陣はどうしてるのだろう?
一人は興味なさそうにスマホで遊ぼうとして……「ここ通信できないのかよ!」と叫んでいる。
片桐君は……
遠坂さんが桜の花びらを頬に当てて「桜色メイク~」とかよく分からないことを言ってる
それを片桐君が「綺麗だよ」って宥めてる。
片桐君て意外と器用な人なんだね。
もっと不器用な人かと思っていたよ。
残る二人はお手上げと言わんばかりのジェスチャーをしてくれた。

「次はそうだな……、好きな人だ。好きな人を言え。クラスに一人くらい気になる人いるだろ」
「神奈。良さそうな物件無いの?」

渡辺君と指原さんが陣頭切って指示してる。
気になる人どころか遠坂さんと音無さんくらいしか名前知らないんだけど……。

「う~ん、難しいなぁ~」

音無さんからみても難しいらしい。
諦めてくれるよね。

「じゃあ、看護学科からめぼしいのを見つけてくるか……、酒井君だっけ?自動車は持ってるの?」

もってたら自転車通学なんて面倒なことしないよ。
あ、指原さんはキャンパス違うんだっけ?

「誰でもいいんだけどな……酒井!お前一人くらい女子の名前覚えてないのかよ!」

呼び捨てですか?ていうかあなた出来上がってますよね?今言っても覚えているのかすら怪しいんですけど。
なんか言わないと収拾がつきそうにない。
もう僕の好みなんてどうでもいい、取りあえず彼女作らせようとしている。
彼女が出来れば充実したライフを送れる。
そんな価値観につき合わされてる感じがする。
女子の名前女子の名前……。
あ、いた。
あの人ならこの人達諦めてくれるよね。

「し、志水さん?」

3人がポカーンとしてる。

遠坂さんにも聞こえたようだ。
呆気に取られてる。

「志水さんて誰だ?」

美嘉さんが3人に聞いてる。

「確かうちの大学の入学式で宣誓してた人だよね?」

指原さんはキャンパス違うから余り面識がないらしい。

「私の学部にいる人よ。憎たらしい女……」

すごい禍々しいオーラ放ってますけど大丈夫ですか江口さん。

「確かうちらの学年で、いやキャンパス全体でクイーンって言われてる人だよな」

そうです、音無さんの言う通りです。流石に無理でしょう?僕とは月とすっぽんですよ。
さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返る。
これで収まった。やれやれ……。

「本当に志水さんが気になるの?」

いやだな、片桐君そんなわけないじゃないですか。たまたま知ってただけの人ですよ。
キャンパス内で志水さんの名前を知らないって言っただけでどつかれた事ありますからね。

「なんか難しそうだな」

美嘉さんが言う。そうでしょうそうでしょう。無理にも程があるってものですよ。

「でもなんか燃えてきたね!」

え、何を言ってるんですか?指原さん。キャンパス違うからわかんないだろうけどどうにかなる相手じゃないですよ。
大学にいる間中物凄い数のイケメンが囲んでるんですよ。

「ま、まあそういう事なら私から話してみてもいいけど……」

さっきの禍々しいオーラまだ残ってますよ。そんな無理すること無いですよ。

「それよりまず酒井をどうやって認識させるかじゃね?全然さえないやつだし」

ちょっと傷つくけどこの際だからいいです。難しいと認識してくれたら。

「同じゴルフ部に入るってのは?」

そんな高い道具買えませんよ。あんなお金持ちの娯楽みたいなスポーツさせないでください。どうでもいい女の為に払えませんよ。どうでもいいとか言ったらまたどつかれますかね。

「それよりも手っ取り早い手あるぞ。要は認識されればいいんだろ?名を上げたらいいんだろ?」

音無さん、さっき難しいって言ってたじゃないですか?あなた認知症ですか?
武将の首を取ってこいみたいなこと簡単に言わないで下さいよ。

「酒井!お前誠とサッカーやってたんだろ?そうだよな誠?」
「ああ、それは間違いない。キーパーとしてなら優秀だ。なんで推薦でうちの大学に来なかったのか不思議なくらいに」

多田君、君は味方だと思っていたのに寝返るのかい?

「じゃあ、サッカーやれよ!試合だけでりゃいいんだし」

そんな都合の良い話通じるわけないじゃないですか?

「私に声かけてきた人間にサッカー部の主将いたわ。部活毎日出なくてもいいからって言ってた」

あのね江口さん。あなたもあほの子ですか?選手が練習でないで試合だけ出るなんて都合の良い話通るわけが……。

「無理です。僕バイトあるし」
「試合だけ出ればいいんだろ?うちの大学サッカー部弱いしなんとなかるだろ?」

音無さん、そんな友情出演みたいな簡単な感じで言わないでください。大体キーパーが一人いたからって試合が覆るわけが……。

「出来るんだよ、ある方法を使えば……。とびっきりの取引材料がある」

音無さんはそう言って片桐君の顔を見る。
へ?という感じで音無さんを見る片桐君。

「トーヤを試合に出させればいいんだよ。その代わりキーパーに酒井を使えって」

(5)

寝耳に水だった。
僕にサッカーをやれというのか?

「トーヤ友達だもんな、試合出るくらいわけないよな?」

カンナが凄む。
そう言う頼まれ方するの一番困るんだけど……。

「神奈それはダメ!冬夜君やりたくないって言ってるもん!酒井さんだってやりたくないって言ってたよ!」

愛莉が復活したようだ。
頼りになるのは愛莉だけだよ。

「第一、冬夜の活躍が目立ったら酒井が試合に出てもしょうがないだろ?」

誠、ありがとうな。

「サッカーの案は没だな」

渡辺君が言う。
僕は胸を撫でおろす。

「でも他にこいつを目立たせる方法なんてないぜ?」

カンナがずばりと言う。
渡辺君が指原さんに言う。

「指原さんの交渉力でどうにかならないか?」
「教育学部か~OK任せて!」
「遠坂さん前に少し親し気に話してなかった?」

江口さんが愛莉に言う。

「そんなに親しくはなかったような。ていうかさ……酒井君気になる人いるじゃない?ほらバイト先の女性の人」

愛莉が意外な事を言い、酒井君を睨みつける面々。

「酒井~お前~」
「酒井!そんな人いたなんて聞いてないぞ」

カンナより先に誠が裸締めする。

「あ、あの人は駄目だよ。遠坂さん」
「どうして?」
「彼氏いるもん!」

誠が腕を離す。

「男がいようがいまいがびしっといけびしっと!」

カンナ無茶言うなよ。

「じゃあ、計画はこれから煮詰めていこう。何が何でもこの作戦成功させるぞ」

盛り上がる一部の人間。
僕はため息を吐いていた。


帰り道

「酒井君ごめん!」

僕はミラー越しに酒井君に謝罪していた。

「大丈夫、気にしないで」
「普段は皆いい奴らなんだけど。他人の恋愛ごとになると燃え上がるという厄介な性格があって」
「それは大変だね」
「でもさ~今の喫茶店の人に彼氏いるなら、やっぱり新しい人探した方が良いと思う」

愛莉はそう言った。

「辛くない?そういうの」
「僕は僕なりに生きてるから……あんまり目立ちたくないんだよね。そういう存在じゃないだろ?って」
「それは自分が決める事じゃなくて周りの人が決めることだよ……あ、冬夜君私たちの話してあげてよ」
「僕達の?」
「ほら中2のクリスマスの日に聞かせてくれた話」
「ああ……」
「君たちの恋愛はそんなに昔からなのかい?」
「うん、話せば長くなるけど、家まで送るからいいよね?」

酒井君は黙ってうなずいた。

「話は小五の時からなんだけど……」




「なるほどね、そんな事があったんだね」
「多分愛莉の言いたい事はもっと自分に胸を張れ、前を見て歩けって事だと思う」
「片桐君は遠坂さんに認められたんだね」
「そうなるかな?」
「羨ましいね、そういうの。まあ、僕も頑張ってはみるよ……とりあえずは……志水さんだよね」
「本当に志水さんがいいの?」

僕はあまりいい印象無かったけど。

「女性の名前が他に浮かばなかったんだよね」

はい?
ま、まあ僕も人の事言えないけど。

「でもなんとかなるよ。江口さんと石原君も似たようなもんだし……」

愛莉がフォローする。

「でも実を言うとどんな人かも知らないんだよね」
「へ?」
「ほえ?」
「名前だけは覚えたんだけど実際に見たこと無くて……。美人だとは聞いてたよ」
「なるほどね……」
「あ、そこのアパート。僕の家」
「あ、了解」
「じゃあ、今日はありがとう」
「良かったら、また遊ぼうよ」
「わかった。じゃあまたね」

そう言って酒井君は僕達を見送っていた。

「ある意味凄い人だね。あれだけ目立ってる志水さんを見たことないだなんて」

愛莉がため息を吐いてる。

「まあ、単純に他人に興味が無いんじゃないかな?だから他人なんてみんな同じだと思ってる」
「冬夜君は酒井君の事良く分かってるみたいだね」
「昔の僕に似てたから。ある意味共感してるのかもしれない」
「それで私酒井君に妬いたのかな?」
「今は愛莉以外の女性に興味ないから心配しないで」
「本当に?」

愛莉が悪戯っぽく聞いてきた。

「志水さん見てる時鼻の下伸びてたよ」
「そんな意識した覚えないんだけどなあ、ただ派手な服装だなって思っただけ」

そうなんだよな。高貴な気品のある人である反面他人を見下してる節がある。
そこが多分僕の受け付けない部分なのかもしれない。

「じゃあ、冬夜君の好みってどんな人なの?」
「……愛莉みたいな人だよ」
「それ、答えになってない。私のどこが良いの?」

今日はやけに意地が悪いな。

「僕だけに優しくて、僕だけを見てくれて、僕だけを愛してくれて、僕だけにしか見せない仕草をする所かな」
「それって褒めてもらえてるんだよね」
「当たり前だろ?」
「よかった~、私も冬夜君の優しいところ好きだよ。私にしか見せない心の中とかすっごい幸せ」

それはよかった。

「神奈大丈夫かな?また大分飲んでたけど……」
「思ったんだけど愛莉。僕にはお酒止めるけどカンナとか美嘉さんは止めないんだな?」
「それは止める役割の人がちゃんといるから。それに冬夜君は初めて飲むのは私と二人でって決めてるの~」
「……なるほどね。成人式の日は代行頼まなきゃいけないな」
「その日が来ると良いね」
「否が応でもくるさ」
「うん、だからその日まで楽しみにとっておこ?」
「ああ」

本当は父さんと酒を酌み交わす予定だったんだけどな。
まあ、初めてでなくてもいっか?
いつか愛莉パパとも飲む時がくるんだろうな。
酒井君とも飲んでみたい。
きっとうまい酒が飲めるはず。
……酒井君と志水さん……、手立てはあるんだろうか?
八重桜のように遅咲きの桜になる。
そんな予感がした。
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