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3rdSEASON
耳をすませば
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(1)
蝉の鳴き声が聞こえ始める頃。
僕達は期末に向けて準備を始めていた。
毎日空いた時間を見つけて図書館に通いレポート用の資料をあさる日々。
「愛莉、これなんだっけ?」
「あ、そこはこの間の授業で……」
と、いって愛莉はノートを取り出し説明する。
「冬夜君、これどうやってグラフ化するんだっけ?」
と、聞かれれば、愛莉に説明する。
持ちつ持たれつの関係が続いてた。
授業も受けつつレポートを提出していく。
ついでに言うと期末試験の勉強もしなければいけない。
履修単位上限まで取っている僕たちは、それはもう必死だった。
息抜きの場所は決まっている。
カランカラン。
「はい、いらっしゃいませ。あ、片桐君いらっしゃい」
一ノ瀬さんがそう言って席を案内してくれる。
「アイスコーヒーとアイスティー一つずつ……」
「あれ?今日も食べ物はいらないの?」
愛莉が不思議そうに言った。
「うん……なんか食欲湧かなくてさ」
「やだ!?夏バテ!?」
「かも……」
「だめだよ、しっかり食べないと!冬夜君死んじゃうよ!」
愛莉から食べろって言われてこれほど嬉しいことは無いのに、どうしてだろう?食欲がわかない。
「勉強し過ぎで知恵熱でもだしたかい?」
厨房からマスターが笑っている。
「やだ!そうなの……」
またそんな泣きそうな顔をして。イヤでも笑わないとダメじゃないか。
「大丈夫だよ。愛莉のせいなんかじゃないから」
そう言って頭を撫でてやる。
「うん……」
「そんな顔するなって。愛莉の笑顔が一番の栄養なんだから」
「そうなの?」
「ああ」
「わかった!」
そう言って愛莉は作り笑いをする。
こじらせてるな……。しょうがない、今日は夜勉強休むか。
「酒井君勘定を」
「え?もう帰るの?」
「ちょっと、やることで来たから」
「なんか用事あったっけ?」
愛莉が質問する。
「今出来たんだよ」
頭上にクエスチョンマークが浮かんでそうな顔をする愛莉。
「じゃ、また来るね」
「はい、ありがとうございました~」
「どこに行くの?」
「家に帰る」
愛莉の問いに即答する僕。
「え?でも用事あるって……」
「愛莉今日もお泊りだろ?」
「うん、ていうかもう冬夜君の家に住み込んでるようなものだけど……」
「それはよかった」
「?」
愛莉の頭上にある疑問は家に帰ればすぐに消せるから。
(2)
冬夜君の食欲がない?
そんなこと今まであった?
知恵熱のせい?
私また冬夜君に迷惑かけてる?
「そんなことないよ」と冬夜君は言う。
でも元気がない。
わたしのせいだよね?
無茶な時間割作ったせいだよね?
「愛莉の好きなのを履修すればいい」
でも冬夜君が倒れたら意味ないよ。
どうしたらいいの?
悩んでいると冬夜君が用事が出来たから帰ると言い出した。
どこに行くの?と聞いたら家と言う。
挙句私に「今日は泊り?」と聞いてくる。
「うん」と答えると「それはよかった」という。
何をするつもりなの?
答えはいつも単純で。
冬夜君は部屋に戻ると部屋着に着替える。
今日はおでかけないんだね。
いつも通りテーブルにノートPCと資料等を並べる。
ノートPCを起動しようとすると冬夜君がノートPCをぱたんと閉じた。
そして手招きする。
私が冬夜君に並ぶように座った次の瞬間時とした。
冬夜君が私にもたれかかってくる。
久しぶりだね、こんな気持ち。
今まで忙しくてゆっくりできたなかったから。
冬夜君の用事ってこの事?
冬夜君はテレビを点けた。
ニュースワイドをやってる。
……あ。
私は立ち上がった。
「どうしたの?」
冬夜君が聞いてきた。
「ちょっと待って」
私はそう言って部屋を出た。冬夜君が元気出るような夕飯用意してあげなくっちゃ。
ご飯を食べてお風呂に入った後。再び冬夜君の部屋でくつろぐ。
今日は勉強お休みだね。
21時になるとアニメが始まった。
有名なアニメ制作会社の映画。
女子中学生が主人公で同じ本を借りている男子に興味を惹かれ……というあらすじのお話。
お話も面白いけど、作中で流れる曲が好きだ。
聞いてると自然と涙がでてくる。
冬夜君が驚いて「大丈夫」と聞いてきたけど、「大丈夫だよ」とにっこり微笑んだつもり。
今日は冬夜君を元気づけるって決めたのに私が泣いて心配かけてどうする。
しっかりしろ私。
映画が終わると、私はノートPCを開け起動した。
一日の締めくくり。小遣い帳に記帳する。
今月はあんまり使ってない。
食費が激減してる。
最近冬夜君間食少ないからかな?
元気つけてあげなきゃ……。
冬夜君はぼんやりニュースを見ている。
私はリモコンを使ってテレビを消す。
今日はもうおしまい。ゆっくり寝よっ!
(3)
土日も図書館に通っていた。
ひたすら勉強。
お昼休みに、外に出て空気を吸う。
そしてお弁当を食べて再び図書館へ。
お蔭でレポートの方は大方目途がついた。
あとはプレゼンテーションの準備をする事と期末試験の勉強をするだけ。
愛莉にプレゼンテーション用のソフトの使い方を教えながら、自分の資料も作っていく。
2週間くらいで出来上がった。
上手く行った。
多分大丈夫だ。
後は試験勉強だけ。
愛莉に聞きながら。渡辺班の間で出回っている問題集を解いていきながら……。
授業を受け、空いた時間は図書館で勉強。
そして帰りに青い鳥に寄る。
最近はアイスコーヒーしか頼まなくなった。
皆が心配してる。
大丈夫だよ。
愛莉が癒してくれるから。
最近とても優しいんだ。
ずっと優しいけど、今はもっと優しい。
大丈夫だよ。
心配しないで。
これまでだってやってこれただろ?
今回も乗り切れるさ。
だから笑って行こう。
そんなある日、渡辺班から招集がかかった。
どうしたんだろう?
「言い出した本人が忘れたのか?皆週1で集まってるぞ?」
あ、そうだった。
期末で忙しくてそれどころじゃなかった。
ごめん。
(4)
その日は試験一週間前の休日だった。
呼び出された場所は海。
海でBBQをやるらしい。
大丈夫なの?
試験あるんだよ?
でも、この日はどうしても行こうと、愛莉が言う。
分かったよ。
海に着くと誠たちがBBQの準備をしていた。
とりあえず、更衣室に行って水着に着替える。
女性陣も皆水着だ。皆上にパーカーを羽織っていたけど。
BBQをするのに水着に着替える必要があるのか?
後で遊ぶんだろう?因みに僕は気分とノリで。
若干名銀色の缶を持っているが気にしない。
乾杯をして、肉を焼き始める。
すぐにいい匂いが辺りを包む。
肉を頬張る。
美味いなぁ。
野菜も食べなきゃダメと愛莉が野菜を取り皿にのせる。
BBQが終わると皆は海で遊んでる。
僕は木陰で持ってきた椅子に座って参考書を見てた。
ぽかっ
「今日は勉強は忘れるの!」
愛莉に怒られた。
勉強して怒られるなんて珍しい事もあるもんだな。
「皆と遊ぼう?」
そういう愛莉の笑顔は日差しのせいかもしれないけどとても眩しくて。
体から力が抜けていく。
あれ?どうしたんだろう?
ちょっと休むね。
おやすみなさい。
(5)
「余程疲れてたんだね」
亜依がそう言う。
「うん、ずっと勉強漬けだったから」
週1の集まりも忘れる程没頭してたもんね。
「冬夜の悪い癖だな、一つの事に没頭するとずっとその集中力を維持する。そして体力が力尽きるまで、誰かが気づくまで途切れることは無い」
渡辺君の言う通りだと思う。
「いつか本当に倒れるぞ……ってもう倒れてるか」
カンナの言う通り冬夜君は眠りについていた。
「愛莉ちゃんがコントロールしてあげないとね」
恵美の言う通りだと思う。こんなんじゃお嫁さん失格だよ。
「みんなごめんね。心配かけて」
「皆分かってるさ。遠坂さんが悪いわけじゃない」
渡辺君がそう言ってくれる。
「みんな何やってるんだよこっちきて遊ぼうぜ!そこにいるのは愛莉だけでいいだろ。後のみんなは邪魔なだけだ」
「美嘉の言う通りだな。今は冬夜を休ませてやろう」
渡辺君がそう言うと皆海へ向かって行った。
冬夜君が手にしていた参考書を手に取り椅子に腰かけ読みながら冬夜君の見張りをする。
「あれ?僕寝てた?」
「2時間ほどね」
冬夜君が目覚めた。
「あちゃあ、やってしまったか」
「大丈夫だよ。皆遊んでるから」
「愛莉が遊べなかったんだろ?ごめんな……」
「耳をすませてみて」
聞こえるでしょ、波の音、風の音、虫の音。そして夏の音。
「……もう夏だったんだな」
「そうだよ。知らないうちにね」
「そんな事にも気づかなかった」
「お疲れ様。ごめんね」
「大丈夫、もう十分休んだ」
「だからってもう無茶したらだめ。これからは私がちゃんと見てるから」
冬夜君が無茶してたら止めてあげるから。
私のメンテが必要だって言ってたけど今一番必要なのは冬夜君のメンテだよ。
「テスト終わったら夏休みだな」
「また色んな所に行こうね」
「誠たちと遊園地行く約束もしてたしな」
「盆のシーズン過ぎたら大阪のテーマパーク行こうよ」
「そうだった、長い休みだったんだな」
冬夜君が起き上がる。
どうしたの?
「折角だし遊んでいこう?愛莉と海来るなんて滅多にないんだし。最近水着姿も見てなかったな」
「本当に興味あるならプールでもいいんだよ?」
「……考えておく」
本当に?私はいつでもいいんだよ?待ってるね。
「じゃ、混ざろうか?」
「うん」
そう言うと私達は皆のところに向かった。
(6)
「今日はお疲れさまー!」
皆がそれぞれのドリンクのつまったコップを高々と上げる。
疲れたらお腹が空いた。
今までの分を取り戻すかのように貪りつく。
ぽかっ
「時間はあるんだからそんなにがっつかないの!」
「わ、わかったよ!」
「今日はトーヤの為に集まったんだぞ!皆に感謝しろよ!」
え?
「最近冬夜思いつめてたからな……。心配になってな。メッセージグルにも全然反応しないし」
ああ、ずっと入りっぱなしだったのね。
「まさか勉強にまで没頭するとは羨ましいよ」
誠が呟く。そんなにいいものではないらしいぞ。
「そうか誠は知らないんだったな……。こいつ愛莉としてるときも没頭するらしいぞ。二人で世界を共有するらしい」
カンナが余計な事を誠に告げ口する。
「あ、それは内緒だよ神奈!」
「冬夜何でもありだな。そう言えば言ってたっけ?『車に乗ってエンジンをかけた瞬間に車が自分の一部になった感じがする』って」
そんな事も言ったな。
「ああ、冬夜教えてくれよ。俺も神奈と世界を共有してえ!」
「お前の世界なんか共有したくない!どうせエロい事しか考えてないんだろ」
「受け入れてくれるって神奈いったじゃないか!!」
バシッ!
カンナの投げた、おしぼりが命中した。
「それ以上言ったら分かってるだろうな……」
止めといた方が良さそうだぞ誠。
「まあ、冬夜の問題は遠坂さんが解決してくれるさ、な?」と、渡辺君が言うと愛莉はにっこり笑った。
「うん、夫の制御は妻のつとめだもんね!」
愛莉の中ではすでに夫婦なんだな……。
「それは解決したとしてあっちはどうするの?」
石原君が指差す方には江口さんと志水さんが……。
「雑魚を連れて満悦してるあなたに何言われても何とも思わないわね」
「その雑魚にすら幻滅されたあなたが何言っても説得力ないわね」
うわぁ、二人共出来上がってるなぁ。
って、止めなくていいのか?
「二人を止めるのは最適な奴がいるだろ?」と渡辺君が言う。
「僕に止めろなんて無茶言わないでください」と石原君が叫んでる。
「ぼ、僕を巻き込むんですか?」と酒井君。
3時間の宴は終わり、解散する。
「じゃ、冬夜今後は気をつけろよ」と、誠が言ってカンナを乗せて帰って行った。
「とーやまたな!!」と、美嘉さんが手を振って行った。
「僕たちも帰ろうか?」と愛莉に言うと愛莉は笑顔でうなずく。
こういう時素直に家に直行していいんだろうか?
どこか寄り道した方が良いんだろうか?
そういうことをするなら多分家でも大丈夫なんだよね。
「愛莉、この後……」
「お家にかえりま~す」
「……はい」
愛莉を連れ家に帰ると「だからお断りします!」と母さんの叫び声が……。
「どうしたの母さん」
「あ、冬夜お帰り……実は……」
母さんはそう言って愛莉の方をちらりと見る。
「あ……私シャワーお借りしますね!」
そう言って部屋に行く愛莉。
「実はね、伯父さんから電話があって、『勝也を夏休みにこっちに来させたい』って言いだしてね」
「え?」
「もちろん断ったわよ。愛莉ちゃんの事もあるし……」
「断るに決まってるだろ!愛莉ちゃんは息子の大事な婚約者だぞ!」
父さんが怒鳴ると、がたっと階段の方から物音が。
3人が振り向くと、愛莉が立っていた。
「ご、ごめんなさい。聞くつもりはなかったんだけど……」
愛莉の顔が青ざめている。
「愛莉ちゃん気にしなくていいんだよ。断固拒否するからな。おじさんたちは愛莉ちゃんの味方だ」
「そうよ愛莉ちゃん、うちの息子頼りないけどやるときはやる子だから」
「でも神奈の時みたいなことになったら……」
僕は愛莉に近づいて、両肩を掴む。
「大丈夫だから、気にしなくていいから、お風呂入っておいで」
「本当に?冬夜君無茶しない?」
「しないよ、愛莉泣かせるようなことしないから」
「うん」
そう言うとお風呂に向かう愛莉。
まだ諦めてなかったんだな……。
不吉な足音が音を立てて近づいてきた……。
蝉の鳴き声が聞こえ始める頃。
僕達は期末に向けて準備を始めていた。
毎日空いた時間を見つけて図書館に通いレポート用の資料をあさる日々。
「愛莉、これなんだっけ?」
「あ、そこはこの間の授業で……」
と、いって愛莉はノートを取り出し説明する。
「冬夜君、これどうやってグラフ化するんだっけ?」
と、聞かれれば、愛莉に説明する。
持ちつ持たれつの関係が続いてた。
授業も受けつつレポートを提出していく。
ついでに言うと期末試験の勉強もしなければいけない。
履修単位上限まで取っている僕たちは、それはもう必死だった。
息抜きの場所は決まっている。
カランカラン。
「はい、いらっしゃいませ。あ、片桐君いらっしゃい」
一ノ瀬さんがそう言って席を案内してくれる。
「アイスコーヒーとアイスティー一つずつ……」
「あれ?今日も食べ物はいらないの?」
愛莉が不思議そうに言った。
「うん……なんか食欲湧かなくてさ」
「やだ!?夏バテ!?」
「かも……」
「だめだよ、しっかり食べないと!冬夜君死んじゃうよ!」
愛莉から食べろって言われてこれほど嬉しいことは無いのに、どうしてだろう?食欲がわかない。
「勉強し過ぎで知恵熱でもだしたかい?」
厨房からマスターが笑っている。
「やだ!そうなの……」
またそんな泣きそうな顔をして。イヤでも笑わないとダメじゃないか。
「大丈夫だよ。愛莉のせいなんかじゃないから」
そう言って頭を撫でてやる。
「うん……」
「そんな顔するなって。愛莉の笑顔が一番の栄養なんだから」
「そうなの?」
「ああ」
「わかった!」
そう言って愛莉は作り笑いをする。
こじらせてるな……。しょうがない、今日は夜勉強休むか。
「酒井君勘定を」
「え?もう帰るの?」
「ちょっと、やることで来たから」
「なんか用事あったっけ?」
愛莉が質問する。
「今出来たんだよ」
頭上にクエスチョンマークが浮かんでそうな顔をする愛莉。
「じゃ、また来るね」
「はい、ありがとうございました~」
「どこに行くの?」
「家に帰る」
愛莉の問いに即答する僕。
「え?でも用事あるって……」
「愛莉今日もお泊りだろ?」
「うん、ていうかもう冬夜君の家に住み込んでるようなものだけど……」
「それはよかった」
「?」
愛莉の頭上にある疑問は家に帰ればすぐに消せるから。
(2)
冬夜君の食欲がない?
そんなこと今まであった?
知恵熱のせい?
私また冬夜君に迷惑かけてる?
「そんなことないよ」と冬夜君は言う。
でも元気がない。
わたしのせいだよね?
無茶な時間割作ったせいだよね?
「愛莉の好きなのを履修すればいい」
でも冬夜君が倒れたら意味ないよ。
どうしたらいいの?
悩んでいると冬夜君が用事が出来たから帰ると言い出した。
どこに行くの?と聞いたら家と言う。
挙句私に「今日は泊り?」と聞いてくる。
「うん」と答えると「それはよかった」という。
何をするつもりなの?
答えはいつも単純で。
冬夜君は部屋に戻ると部屋着に着替える。
今日はおでかけないんだね。
いつも通りテーブルにノートPCと資料等を並べる。
ノートPCを起動しようとすると冬夜君がノートPCをぱたんと閉じた。
そして手招きする。
私が冬夜君に並ぶように座った次の瞬間時とした。
冬夜君が私にもたれかかってくる。
久しぶりだね、こんな気持ち。
今まで忙しくてゆっくりできたなかったから。
冬夜君の用事ってこの事?
冬夜君はテレビを点けた。
ニュースワイドをやってる。
……あ。
私は立ち上がった。
「どうしたの?」
冬夜君が聞いてきた。
「ちょっと待って」
私はそう言って部屋を出た。冬夜君が元気出るような夕飯用意してあげなくっちゃ。
ご飯を食べてお風呂に入った後。再び冬夜君の部屋でくつろぐ。
今日は勉強お休みだね。
21時になるとアニメが始まった。
有名なアニメ制作会社の映画。
女子中学生が主人公で同じ本を借りている男子に興味を惹かれ……というあらすじのお話。
お話も面白いけど、作中で流れる曲が好きだ。
聞いてると自然と涙がでてくる。
冬夜君が驚いて「大丈夫」と聞いてきたけど、「大丈夫だよ」とにっこり微笑んだつもり。
今日は冬夜君を元気づけるって決めたのに私が泣いて心配かけてどうする。
しっかりしろ私。
映画が終わると、私はノートPCを開け起動した。
一日の締めくくり。小遣い帳に記帳する。
今月はあんまり使ってない。
食費が激減してる。
最近冬夜君間食少ないからかな?
元気つけてあげなきゃ……。
冬夜君はぼんやりニュースを見ている。
私はリモコンを使ってテレビを消す。
今日はもうおしまい。ゆっくり寝よっ!
(3)
土日も図書館に通っていた。
ひたすら勉強。
お昼休みに、外に出て空気を吸う。
そしてお弁当を食べて再び図書館へ。
お蔭でレポートの方は大方目途がついた。
あとはプレゼンテーションの準備をする事と期末試験の勉強をするだけ。
愛莉にプレゼンテーション用のソフトの使い方を教えながら、自分の資料も作っていく。
2週間くらいで出来上がった。
上手く行った。
多分大丈夫だ。
後は試験勉強だけ。
愛莉に聞きながら。渡辺班の間で出回っている問題集を解いていきながら……。
授業を受け、空いた時間は図書館で勉強。
そして帰りに青い鳥に寄る。
最近はアイスコーヒーしか頼まなくなった。
皆が心配してる。
大丈夫だよ。
愛莉が癒してくれるから。
最近とても優しいんだ。
ずっと優しいけど、今はもっと優しい。
大丈夫だよ。
心配しないで。
これまでだってやってこれただろ?
今回も乗り切れるさ。
だから笑って行こう。
そんなある日、渡辺班から招集がかかった。
どうしたんだろう?
「言い出した本人が忘れたのか?皆週1で集まってるぞ?」
あ、そうだった。
期末で忙しくてそれどころじゃなかった。
ごめん。
(4)
その日は試験一週間前の休日だった。
呼び出された場所は海。
海でBBQをやるらしい。
大丈夫なの?
試験あるんだよ?
でも、この日はどうしても行こうと、愛莉が言う。
分かったよ。
海に着くと誠たちがBBQの準備をしていた。
とりあえず、更衣室に行って水着に着替える。
女性陣も皆水着だ。皆上にパーカーを羽織っていたけど。
BBQをするのに水着に着替える必要があるのか?
後で遊ぶんだろう?因みに僕は気分とノリで。
若干名銀色の缶を持っているが気にしない。
乾杯をして、肉を焼き始める。
すぐにいい匂いが辺りを包む。
肉を頬張る。
美味いなぁ。
野菜も食べなきゃダメと愛莉が野菜を取り皿にのせる。
BBQが終わると皆は海で遊んでる。
僕は木陰で持ってきた椅子に座って参考書を見てた。
ぽかっ
「今日は勉強は忘れるの!」
愛莉に怒られた。
勉強して怒られるなんて珍しい事もあるもんだな。
「皆と遊ぼう?」
そういう愛莉の笑顔は日差しのせいかもしれないけどとても眩しくて。
体から力が抜けていく。
あれ?どうしたんだろう?
ちょっと休むね。
おやすみなさい。
(5)
「余程疲れてたんだね」
亜依がそう言う。
「うん、ずっと勉強漬けだったから」
週1の集まりも忘れる程没頭してたもんね。
「冬夜の悪い癖だな、一つの事に没頭するとずっとその集中力を維持する。そして体力が力尽きるまで、誰かが気づくまで途切れることは無い」
渡辺君の言う通りだと思う。
「いつか本当に倒れるぞ……ってもう倒れてるか」
カンナの言う通り冬夜君は眠りについていた。
「愛莉ちゃんがコントロールしてあげないとね」
恵美の言う通りだと思う。こんなんじゃお嫁さん失格だよ。
「みんなごめんね。心配かけて」
「皆分かってるさ。遠坂さんが悪いわけじゃない」
渡辺君がそう言ってくれる。
「みんな何やってるんだよこっちきて遊ぼうぜ!そこにいるのは愛莉だけでいいだろ。後のみんなは邪魔なだけだ」
「美嘉の言う通りだな。今は冬夜を休ませてやろう」
渡辺君がそう言うと皆海へ向かって行った。
冬夜君が手にしていた参考書を手に取り椅子に腰かけ読みながら冬夜君の見張りをする。
「あれ?僕寝てた?」
「2時間ほどね」
冬夜君が目覚めた。
「あちゃあ、やってしまったか」
「大丈夫だよ。皆遊んでるから」
「愛莉が遊べなかったんだろ?ごめんな……」
「耳をすませてみて」
聞こえるでしょ、波の音、風の音、虫の音。そして夏の音。
「……もう夏だったんだな」
「そうだよ。知らないうちにね」
「そんな事にも気づかなかった」
「お疲れ様。ごめんね」
「大丈夫、もう十分休んだ」
「だからってもう無茶したらだめ。これからは私がちゃんと見てるから」
冬夜君が無茶してたら止めてあげるから。
私のメンテが必要だって言ってたけど今一番必要なのは冬夜君のメンテだよ。
「テスト終わったら夏休みだな」
「また色んな所に行こうね」
「誠たちと遊園地行く約束もしてたしな」
「盆のシーズン過ぎたら大阪のテーマパーク行こうよ」
「そうだった、長い休みだったんだな」
冬夜君が起き上がる。
どうしたの?
「折角だし遊んでいこう?愛莉と海来るなんて滅多にないんだし。最近水着姿も見てなかったな」
「本当に興味あるならプールでもいいんだよ?」
「……考えておく」
本当に?私はいつでもいいんだよ?待ってるね。
「じゃ、混ざろうか?」
「うん」
そう言うと私達は皆のところに向かった。
(6)
「今日はお疲れさまー!」
皆がそれぞれのドリンクのつまったコップを高々と上げる。
疲れたらお腹が空いた。
今までの分を取り戻すかのように貪りつく。
ぽかっ
「時間はあるんだからそんなにがっつかないの!」
「わ、わかったよ!」
「今日はトーヤの為に集まったんだぞ!皆に感謝しろよ!」
え?
「最近冬夜思いつめてたからな……。心配になってな。メッセージグルにも全然反応しないし」
ああ、ずっと入りっぱなしだったのね。
「まさか勉強にまで没頭するとは羨ましいよ」
誠が呟く。そんなにいいものではないらしいぞ。
「そうか誠は知らないんだったな……。こいつ愛莉としてるときも没頭するらしいぞ。二人で世界を共有するらしい」
カンナが余計な事を誠に告げ口する。
「あ、それは内緒だよ神奈!」
「冬夜何でもありだな。そう言えば言ってたっけ?『車に乗ってエンジンをかけた瞬間に車が自分の一部になった感じがする』って」
そんな事も言ったな。
「ああ、冬夜教えてくれよ。俺も神奈と世界を共有してえ!」
「お前の世界なんか共有したくない!どうせエロい事しか考えてないんだろ」
「受け入れてくれるって神奈いったじゃないか!!」
バシッ!
カンナの投げた、おしぼりが命中した。
「それ以上言ったら分かってるだろうな……」
止めといた方が良さそうだぞ誠。
「まあ、冬夜の問題は遠坂さんが解決してくれるさ、な?」と、渡辺君が言うと愛莉はにっこり笑った。
「うん、夫の制御は妻のつとめだもんね!」
愛莉の中ではすでに夫婦なんだな……。
「それは解決したとしてあっちはどうするの?」
石原君が指差す方には江口さんと志水さんが……。
「雑魚を連れて満悦してるあなたに何言われても何とも思わないわね」
「その雑魚にすら幻滅されたあなたが何言っても説得力ないわね」
うわぁ、二人共出来上がってるなぁ。
って、止めなくていいのか?
「二人を止めるのは最適な奴がいるだろ?」と渡辺君が言う。
「僕に止めろなんて無茶言わないでください」と石原君が叫んでる。
「ぼ、僕を巻き込むんですか?」と酒井君。
3時間の宴は終わり、解散する。
「じゃ、冬夜今後は気をつけろよ」と、誠が言ってカンナを乗せて帰って行った。
「とーやまたな!!」と、美嘉さんが手を振って行った。
「僕たちも帰ろうか?」と愛莉に言うと愛莉は笑顔でうなずく。
こういう時素直に家に直行していいんだろうか?
どこか寄り道した方が良いんだろうか?
そういうことをするなら多分家でも大丈夫なんだよね。
「愛莉、この後……」
「お家にかえりま~す」
「……はい」
愛莉を連れ家に帰ると「だからお断りします!」と母さんの叫び声が……。
「どうしたの母さん」
「あ、冬夜お帰り……実は……」
母さんはそう言って愛莉の方をちらりと見る。
「あ……私シャワーお借りしますね!」
そう言って部屋に行く愛莉。
「実はね、伯父さんから電話があって、『勝也を夏休みにこっちに来させたい』って言いだしてね」
「え?」
「もちろん断ったわよ。愛莉ちゃんの事もあるし……」
「断るに決まってるだろ!愛莉ちゃんは息子の大事な婚約者だぞ!」
父さんが怒鳴ると、がたっと階段の方から物音が。
3人が振り向くと、愛莉が立っていた。
「ご、ごめんなさい。聞くつもりはなかったんだけど……」
愛莉の顔が青ざめている。
「愛莉ちゃん気にしなくていいんだよ。断固拒否するからな。おじさんたちは愛莉ちゃんの味方だ」
「そうよ愛莉ちゃん、うちの息子頼りないけどやるときはやる子だから」
「でも神奈の時みたいなことになったら……」
僕は愛莉に近づいて、両肩を掴む。
「大丈夫だから、気にしなくていいから、お風呂入っておいで」
「本当に?冬夜君無茶しない?」
「しないよ、愛莉泣かせるようなことしないから」
「うん」
そう言うとお風呂に向かう愛莉。
まだ諦めてなかったんだな……。
不吉な足音が音を立てて近づいてきた……。
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侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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