優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

6文字の伝言

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(1)

「冬夜君おはよう!」

愛莉の元気な声で目を覚ます。時計はまだ8時を回ったばかりだった。僕は再び布団にもぐりこんだ。

ぽかっ

「婚約者が朝ごはん一生懸命作ったのに寝ちゃうんですか!」

朝ごはんと言う響きに体がピクリと反応する。だが、今日は眠気の方が強かった。一言が余計だったかもしれない。

「あとで食べるからもうちょっと寝させて」
「それだと冷めるちゃう!」
「レンチンするから」
「うぅ……せっかく作ったのに……」

まずい、拗ねる一歩手前だ。いやもうすでに手遅れかも。とにかくこのまま放っておいたら取り返しのつかないことになる。起きろ僕!起き上がると部屋を出ようとする愛莉を背後から抱きしめる。

「ごめん、今から食べるから。可愛いお嫁さんの朝ごはんだもんね。冷めないうちに食べないと勿体ないよね」

可愛いに反応したのかお嫁さんに反応したのか分からないけど、とりあえず愛莉の機嫌は元に戻ったようだ。

「本当にそう思ってる?心から誓えますか?もう同じことしないって約束する?」

出来るかどうかわからないけど、ここは素直に従った方がいいだろう。僕がうなずくと愛莉に笑顔がもどった。

「じゃ、ご飯食べよ」

その前に、仲直りのキスをする。ここまでしておけば愛莉の機嫌もよくなるだろ?

「早く行った行った」

照れ隠しをするように僕の背中を押す愛莉。顔は下を向いたままだった。


お雑煮を食べ終えると愛莉はいつも通り片付け。僕もいつも通り部屋に戻る。と、いっても部屋に戻ったところでゲームは厳禁、勉強も愛莉によって規制されている。やることと行ったらPCを眺めるくらいか?
特に真新しいニュースもなく動画サイトを眺めては笑ってる。

「あれ?起きてたんだ?」

愛莉がマグカップを二つ持って部屋に戻ってきた。愛莉がそれをテーブルの上に置くとPCをそのままにしてテーブルの前に座る。愛莉がその隣に座る。テレビをつけるといつも通りのワイドショーなのか朝のニュースなのか分からない番組をやってた。愛莉はそれを眺めてる。僕の体に自分の体を密着させて。愛莉のツボにはまっているのか夢中になってみているが、僕は全く興味がない。ワイドショー自体に興味がないのかもしれない。芸能ニュースとか正直どうでもいい。そんな僕を愛莉は不思議そうに見ていた。

「冬夜君番組面白くない?」
「あんまり興味ないって言った方が正確かな?芸能ニュースとかあまり興味ないし」
「でも前”エルト”の女性ボーカル好きって言ってたよ?あと好きな女優さんもいるみたいだし」

エルトとは前に僕が愛莉に同じ格好をさせた音楽ユニットの名前だ。

「確かに好きだけど、あの人が結婚したとか出産したとか聞いても『ああ、そう』としか思わない。そりゃ人間だもんいつかは結婚もするさ。おめでとうとしか思わない。愛莉も好きなアイドルが結婚してもそこまで驚かないだろ?」
「まあ、言いたい事は分かるけど少しは見ておいた方が良いよ?その方が話題も広がると思うし」
「今一番夢中になってるものが傍にいるからどうでもいいやって思ってみてるだけ、愛莉の顔を見ている方が興味があるよ」

ぽかっ

「もう……馬鹿っ!」

口調は怒っているが表情はどこまでも優しかった。その後はテレビを見ながら愛莉が感想をいい、それに返事をしてやる。そんな風にして午前中は時間を潰した。

「もういい加減お雑煮飽きたよね?ラーメンでも作ろうか?」

愛莉がそう言うと僕は「うん」とうなずく。愛莉はキッチンに降りて行った。
味噌ラーメンの美味しい匂いが部屋に届いてくると僕はダイニングに向かう。
愛莉は僕の好みが分かっている。きっちり玉子が入ってあった。
ラーメンを食べると愛莉が食器を片付ける。部屋に戻ってテレビを見ながら漫画を読んでいるといつの間にか戻ってきた愛莉から漫画を取り上げられた。

「漫画も禁止!!」

愛莉の顔は笑っている。

昼からはちょっとだけ勉強をしていた。入り込まない様にテレビをつけたまま。そうして2,3時間たった頃今日のお出かけの準備をすることになったのだけど。
愛莉は案の定着ていく服に悩んでいる。そんな愛莉にお願いをしてみた。

「愛莉、僕から提案があるんだけど」
「な~に?」
「冬の間はさ、ロングスカートでいいと思うんだよね」
「なんで?」
「僕の好みだから、ロングスカートにロングコート着ている愛莉って凄く可愛いよ」

女性の服装に男性の願望をぶつけるのはどうかと思ったけどダメもとでお願いしてみた。

「ふ~ん、ミニスカートとか興味ないの?神奈が言ってたよ『ミニスカートやショートパンツに黒いストッキング吐かせるのが誠の好みだ』って。冬夜君は私の脚線美に興味ないの?」

それは今愛莉が十分露出してるだろ?とは言えない。

「夏場とかなら愛莉の言うようなファッションの方が動きやすいし、愛莉の好みにまかせるけど、冬場ならそんなに動きずらい所には行かないから。……正直に言う。愛莉をそう言う目で他の人に見られるのは嫌だ」

別に気にしたこと無いけど、そう言ってみた。それが効果あったらしい。

「冬夜君がそこまでいうならそうする~。それならさ、赤のスカートとこの前の黒いスカートどっちが好き?」

そうやって愛莉の衣装選びを手伝ってやりながら自分も着替えて準備を済ませる。愛莉も着替えて化粧をすると家を出て集合場所に向かっていた。

(2)

この前の焼き鳥屋さんの前。
渡辺班全員が集合していた。
予約は渡辺君がしていたらしく、席を案内してくれた。席につくと、皆がそれぞれ飲み物を注文し配られる。皆に飲み物が配られると渡辺君が立ちあがる。

「じゃあ、今年も皆よろしく!!乾杯!」

渡辺君が挨拶すると、宴が始まった。
カンナと愛莉は楽し気に話をしている。それを聞きながら焼き鳥を食べる僕。向かいに座っているのは誠だった。

「今日の遠坂さんの服装も冬夜が選んだのか?」
「選んでくれって言われたら選ぶだろ?」
「ふーん、お前の好みがなんとなく分かった気がする」

まあ、別に知られて困ることでもないけどな。

「僕も誠の好み愛莉から聞いたぞ。相変わらずマニアックな事考えてるみたいじゃないか?」
「うっ!神奈が遠坂さんに喋ったのか?」
「まあ、そうだろうな」

誠は僕に顔を近づけるように言うとひそひそと話した。

「あれからミニスカート穿いてくれなくなってさ」
「自業自得だろ?」
「スキニーパンツ穿いてることが多いんだけど、カンナの体形だろ?そりゃもうたまららないってもんでさ……」
「なーにを男二人でひそひそ喋ってるのかな?誠」

カンナが笑ってる、その笑顔が怖い。

「なにってただの世間話だよな?冬夜」
「そ、そうだよ。カンナって何着ても似合うよなって話してただけ」

嘘はついてない。

「冬夜君!誠君の話を鵜呑みにしたらだめだからね!」
「その言い方ってひどくないかい?遠坂さん」

誠が抗議する。

「だって本当の事だもん。冬夜君が折角私に興味もってくれてるのに変な趣味に走られたら私困る」
「トーヤが愛莉に興味を示した?なんだそれ?興味あるな。聞かせろよ」
「今日ね洋服選ぶ時に冬夜君が自分の好みの服を着てくれって言ってくれたの。可愛いからとか。他の男性に変な目で見られたくないとか。それが嬉しくて」
「そういや、この前もトーヤの要望に応えたって言ってたな」
「うん、氷上の妖精さんみたいだって褒めてくれたの~」

今日も愛莉の脳内にアルコールが分泌されてるようだ。そこまでは言ってないぞ。

「へえ、トーヤも言うようになったじゃないか。やっぱり付き合う相手間違えたかな……」
「そ、そんな事言うなよ神奈。傷つくぞ」
「お前が変な事言うからだろ!この前だって……」
「この前?」

僕が聞き返すと誠が慌てて止めた。

「わあ!その話はストップストップ!!」

誠が騒ぐから皆の注目を集めた。

「なにがあったの?」と皆が聞いてくる。

「いや……そんなにいい話じゃないんだけど……」

カンナが言葉を詰まらせている。普段のカンナなら絶対に言わなかったことだろう。でも今日のカンナはいつもと違っていた。

「そこまで言ったらもう話せよ神奈。おかわりお願いします」と、美嘉さんが言う。
「そうだな……もう過ぎたことだし話すか。私もおかわり!」
「神奈、あまり飲み過ぎないほうが……」
「今日お前の要望聞いてやるんだからいいだろ!」
「要望?」

僕が再び聞き返す。

「ああ、今日ナースのコスプレが出来るホテルに泊まる代わりに飲んでも良いって言われたんだよ」

誠……お前……。
頭を抱える誠。

「で、さっきの話の続きなんだけどさ……」

カンナが語り始めた。
それは、初詣が終わった後の話らしい。
誠がどういうツテでもらって来たのか分からないが高校の制服を用意してきた。
それを着てからプレイをしてほしいと要求してきた。
高2の時に発覚したことだけどカンナは中1の時に父親に肉体関係を迫られた経験がある。
制服姿のカンナの衣服を一枚一枚誠に脱がされたときにフラッシュバックが起きたらしい。
身を震わせて怯えるカンナ。
そんなカンナに興奮する誠。
でもカンナが過剰に怯えるから途中でやめたとか……。

「誠君さいてー!」

愛莉がそう言うとそれを口火に次々とヤジが飛ぶ。

「この変態!」「多田君ってそう言う人だったの。酷い!」「彼女の気持ち考えなさすぎです」「音無さん可哀そう」「ちょっと教育が必要かしら?」「……変態」等、主に女性陣からのブーイングが。

僕を含めて男性陣は何も言わなかった、僕は単に想像の範疇を超えていて頭がついて行かなかっただけ。他の男性陣もそうなんだろうか?

「男共もなんかいってやれ!」と、美嘉さんが言う。
「まさかあなた達も同じことしようとか考えてるんじゃないでしょうね?」と江口さんが睨むと、「流石にそれはないよ」と渡辺君が言う。

誠の味方をしてやりたいけど……上手い言葉が浮かばない。あ!誠あれだよ。

「其処にマロンはあるのだろうか?」

僕が言うと女性の鋭い視線を一身に受ける。

「い、いや。前にも似たようなことやらかした時に言ってたんだよね。誠栗が好きみたいだから……」

ぽかっ!

「冬夜君はいいからこれでも食べてなさい!」

そう言って取り皿に山盛りに取る愛莉。

「それを言うならロマンだ……」と誠。
「どっちでもいいだろ!」と半ギレの美嘉さん。
「うちの瑛大がまだマシに思えて来たわ……」と指原さんが言うと、女性陣皆が同意する。
「次の議題は多田君の変態癖についてだな……」と渡辺君が言う。
「いや、私も悪いんだ。いつまでも引きずっていて……」と神奈が静かに語る。
「神奈は悪くない、むしろそんな酷い目にあわせておいて次はナース服だなんて信じられない」と愛莉が怒っている。
「そ、それはだから今日は好きに飲んでいいからって……」と誠が釈明するも「そんなの理由にならない!」と愛莉は否定する。

まあ、何も言わないほうが利口なのかな?
それにしても誠の奴制服が良いなら高校生の時にやっとけば良かったろうに……看護師の服なんか着せたってどうせ脱がせるんだから同じだろ?
誠のやることはたまに良く分からない。一度誠の気持ちになって見る必要もあるのかな?

ぽかっ

「冬夜君は今日は食べ物の事だけ考えてればいいの!」

そうか、食ってればいいのか。
じゃあ、愛莉の言葉に甘えることにしよう。

(3)

多田君の衝撃的な発言から炎は燃え上がった。
前を見ると、まるで虫けらを蔑むかのような目で多田君を見る志水さんがいた。
片桐君が多田君の親友だったらしく、彼を弁護しようと試みるが、失敗におわるどころか火に油を注ぎ、自分はフェードアウトという最悪な結果に終わってしまった。

「私も悪いんだ……誠の要求くらい受け入れてやりたいと思ってるんだけど、どうしても恥ずかしくて」

そりゃ普通の女性なら恥ずかしいでしょうね。でも、普段の彼女からは想像もつかないほど落ち込んでる音無さんだった。まあ、飲んでるせいもあるかもしれないけど。

「神奈!神奈は悪くない、悪いのは多田君だ。神奈の優しさにつけこんで無茶な要求を続けている多田君が悪い!性懲りもなくまだコスプレさせようとする神経を疑うよ」と、憤慨する指原さん。

まあ、片桐君が言うにそこにロマンがあったからなんでしょうね。
すると志水さんが立ち上がる。

「それにしても片桐君はともかく……一つも非難もしようとしない男性陣にも問題があるんじゃなくて?」

うわあ、飛び火してきたよ。

「落ち着こう志水さん、みんな思考が追い付いてないだけだ」と、渡辺君が宥める。
「いや、晶の言う通りだ!男どもはどうもだらしない!」と美嘉さん。
「美嘉も落ち着け、経験したことのない世界に放り出されたら誰だって戸惑うだろ?今そう言う状況なんだよ」
「正志も経験したいのか?」
「そう言う問題じゃなくてだな……」

渡辺君も久世さんを宥めるので手一杯のようだ。

「そういや聞いたことあるね。男は皆少なからず変態だって」

それは偏見だよ。ほら、桐谷君も何か言ってあげて。

「ぼ、僕は違うからね!」

そうじゃなくてですね、自分だけ蚊帳の外に出ようなんて考え良くないと思いますよ。

「み、皆さん落ち着きましょうよ。もう済んだ話でしょう」

もう済んだ話……。それが余計な言葉だったらしい。

「済んだ話ですって?今もなお要求してるのよ多田君は」
「大体酒井君は自分は関係ないって顔してるけど仲間の問題でしょ!?それって問題だと思いますけど」

ああ、余計な事言うんじゃなかった。一ノ瀬さんまで加わってきたよ。
石原君は耳を塞いでる。ああ、そう言う手があったんですね。
当の本人である多田君はすすり泣く音無さんを宥めるのに必死のようで。
的は僕に絞られるかと思ったけどどうやら女性陣だけで盛り上がることになったようだ。

「まずは多田君の変態癖をどうにかしないとね。片桐君の食べ物に対する欲求も酷かったけどそれ以上の問題だよ」と指原さん。
「大丈夫だ……私がしっかりしてればこんな事にならなかったんだから……」と、泣きながら言う音無さん。それ以上飲むのは控えた方が良いと思いますよ。
「甘いよ神奈、そんなんだから多田君はつけあがるんだよ。根本的に治療しないと」

その時片桐君が突然語りだした。

「フレンチのカトラリーが突然並べられてる時は戸惑ったんだよね」

本当に訳の分からないことを言う人ですね、片桐君は……。

「だから冬夜君は食べてなさい……」
「続けろよ冬夜」

遠坂さんが制しようとすると、渡辺君が片桐君に話を続けるように促した。

「ナプキンの使い方も分らない、どうしようか?と思ってると、ドリンクを持ってきたときに愛莉が突然ナプキンを広げて二つ折りにして膝の上に置いたんだ。黙ってその通りにしたよ」

今はフランス料理のマナーの話をしてる時ではないと思いますけどね。

「勝手の知らない世界に入った時いつも愛莉が誘導してくれる。逆にスケートの時みたいに戸惑っている愛莉を見たら手助けしてやる……良く分からないけど二人で支え合うってそういう事じゃないかな?」
「あのさ、訳の分からない世界に突然放り込まれた神奈の気持ちはどうなるの?」
「だから今があるんだろ?」

指原さんの疑問にためらいなく答える片桐君。

「誠にとってもカンナの世界は未知のものなんだよ。それに対して自分は嫌だってカンナは答えた。もう誠は同じ過ちはしないよ。でもこれならいけるんじゃないか?って手探りの状態なんだよ。後は二人の問題だよ。どれだけ譲れるか、自分が引き下がるか。そうやって二人の世界って作っていくものなんじゃない?」

片桐君の言葉に皆が聞き入ってた。

「指原さんだって何度も桐谷君と衝突してきたろ?」
「ま、まあそうだけど……」
「志水さんだって、やっと酒井君の心の殻を破ることが出来たんじゃない?自分の殻から抜け出して体当たりして」
「どうしてその事を?」

志水さんが怪訝な顔をする。

「見てたら分かるよ」

分かる片桐君が凄いですよ。

「僕だって中学の頃に何度も愛莉と喧嘩した。今も愛莉を偶に傷つけてる。でも愛莉が笑って言ってくれたんだ『私のトリセツ随時更新が必要だからね』って。誠も自分でカンナのトリセツ作るしかないよ」

誰も異論を唱える者はいなかった。
全員が納得していた。
遠坂さんは恥ずかしそうに下を向いている。

「俺なりの神奈のトリセツか……」

多田君が呟いていた。

「頑張れ多田君」

渡辺君が多田君の肩を叩く。

「話はついたようだな、じゃあ気を取り直して乾杯!」
「お客様そろそろラストオーダーの時間です」

久世さんが言うと店員がラストオーダーの時間を告げに来た。

「続きは2次会でだな!」

渡辺君がそう言うとみな和やかなムードで歓談を始めた。

「片桐君てすごいでしょ?」

隣に座っていた石原君がそう耳打ちした。

「ああやっていつも自分の世界に引き込んで説得するんだよね高校の時からそうだったんだ」

石原君がそう言うと、僕と石原君は二人揃って片桐君を見る。
そこには遠坂さんに餌付けされている片桐君が映っていた。ああいう仲になるまで色々あったんだろうな。ああいう境地に立った時世界はどういう風に映るのだろう?
ちょっとだけ恋人と言うものに興味が湧いた。

(4)

「おーい冬夜君」

返事がない。眠っているようだ。
私達は2次会のカラオケに来ていた。
そこでパーティコースの料理が並べられている。

「……もう食べれない」

冬夜君の寝言が示すかのように冬夜君は食べるだけ食べて……そして寝た。

「カラオケで眠れるって余程疲れてるか鈍いかのどちらかだよね?」と亜依は言う。否定はできない……悔しいけど。

でも冬夜君は鈍くなんてないよ。さっき証明してみせたでしょ。どんな難題だって瞬時に解いてしまう。たまにずれてる時あるけど。その時は私が支えてあげるんだ。

「本当に愛莉が羨ましいよ。こんな彼氏だったら誰もが羨ましがるだろ」

カンナだって誠君みたいな彼氏いるじゃない。羨ましいよ。ちょっと悪癖があるだけでそれさえなかったら完璧なんだから。
それは冬夜君も一緒か。食べ癖とやる気の無ささえ無くせば完璧なのにね。私はちょっと笑みをこぼす。

「二人で培ってきた物なんだろうな、遠坂さんの冬夜を見る目を見ていればわかるよ」

渡辺君がそう言ってくれた。すっごい時間かかったけどね。ちょっとだけ自慢に思える私の婚約者。

「こいつは自分の事は劣等生だと思ってるけど、絶対そんなことねーよ……」

誠君はため息交じりにそう呟く。

「冬夜君は今はそうは思わない様に努力してるよ。私が罰ゲーム与えたもん」
「罰ゲーム?興味あるわね?そんなにイヤな事なの?」

恵美がそう言うと私は頷いた。

「本人は人前ではあまり言いたくないみたいだけどね」
「ああもうジレッたいな!とーやを変える魔法みたいな罰ゲームってなんだよ!」

美嘉さんがしびれを切らしている。私はそっと皆に説明した。

「そ、それが罰ゲームなのか?」

カンナが驚く。私は頷く。それだけで冬夜君も私も幸せになれるんだよ。たった6文字の伝言。

「なるほどな。ま、いいや。とーやの事は愛莉に任せておいて私たちは盛り上がろうぜ」

美嘉さんがそう言うと皆が端末に曲を入力していく。
そして盛り上がる中、冬夜君は自分には関係ないかのように静かに眠る。

「愛莉、お前も曲入れろよ」

美嘉さんがそういうと私はカラオケに行くと決まった時から歌ってあげようと思ってた歌を唄った。
失恋の歌だけど冬夜君がそのメロディが好きだと言っていた歌。
歌い終えると膝の上で眠っていたはずの冬夜君が目を覚ましていた。

「ごめん、起こしちゃったかな?」
「いや2次会に来ていて寝てた僕にも問題あると思うし、それに……」
「それに?」
「愛莉覚えていてくれたんだね。ありがとう。上手だったよ」
「ありがとう」

ハッとして見渡すと私達を見ている14人の目線。

「お熱い事で」

神奈がそういうと皆の囃し立てる声が。
慌てて起きようとする冬夜君の頭を押さえる私。

「せっかくだからゆっくりしてなよ」
「で、でもちょっと恥ずかしくないか?」
「私といちゃつくのが恥ずかしいの?」

私がそう言うと冬夜君は私の膝の上に頭を乗せる。

「いつまでもいちゃついてないでトーヤも何か歌えよ」

神奈がそう言うと冬夜君に端末を渡す。
冬夜君が私の目を見る。
言わんとすることは分かる。

「いいよ」

冬夜君が端末に曲名を入力する。順番が回ると二人でマイクを持ってデュエット曲を歌う。
昔は照れながら言っていたのに今はためらいもなく好きだなんて言える冬夜君を誇りに思う。
冬夜君を好きだと思う気持ちに理由など何も要らない。
薄紅色の雪が舞い冷たい風が吹く夜の温かい宴だった。
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