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3rdSEASON
雨に打たれて
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(1)
6月。梅雨入りの時期。
蛙の声が聞こえる中僕も蛙のような姿勢で布団を抱えて寝ていた。
愛莉?
とっくに朝ごはんの仕度に向かったよ。
今は一人静かに寝てる……
「冬夜君朝ごはん出来たよ」
寝させてくれるはずもなく……。
ちょっとでも抵抗しようものなら……。
「ふふ~ん。そう来るならいいもん」
愛莉は僕の隣に寝ると背中越しに胸を押し付けてくる。
柔らかい感触が気になって眠れない。
以前の僕なら寝れたはずなのにおかしいな。
「北風と太陽作戦バージョン2!!」
この誘惑に耐えられる男性がいるなら見てみたいものだ。
因みに僕は耐えられない。でもまだ寝ていたい。じゃあどうする?
愛莉を振りほどき体を反転させると愛莉に抱き着く。
「ちょっと冬夜君!?」
「誘ったのは愛莉だからな!」
そう言っての服を脱がそうとしたところで……。
ぽかっ
うん、分かってた。
「冬夜君最近本当に誠君の影響受けて来たね」
「誠じゃなくても年頃の男だったら皆そうなるよ」
「うぅ……しょうがないなぁ。夜だったらいいよ」
「だったら夜抱いてよ」
「今やらないと冬夜君起きてくれないじゃない」
「そりゃ、可愛いお嫁さんに抱き着かれたらそう言う気分にもなるよ」
「可愛いお嫁さん……えへへ~。ってそう言う話じゃなくて!」
「着替えるんだろ?急ごう」
僕はベッドを出ると着替える。
そろそろ夏物買わないとな。あと靴も傷んできてるな……。
その時後ろから抱き着く愛莉。
「私口うるさいお嫁さんになってる?」
上目遣いで訴えるように言う愛莉。
「僕の事を思って言ってくれてるんだろ?分かってるよ」
「わ~い、優しい旦那様で良かった」
「ありがとう、愛莉も早く着替えろよ」
「うん」
そう言って着替えを始める愛莉。
その間にダイニングに言ってご飯を食べていた。
朝食をとっていると愛莉が降りてくる。
愛莉は僕の隣の席について朝食を食べ始める。僕の方が先に食べ終わり洗面所に向かう。
支度を終えようとしたところで愛莉と入れ違いになる。
その後は部屋に戻ってネットのニュースを見る。
へえ、あの歌手引退するんだ。
まあ、その歌手もそんなに気になってる人ではなかったけど。
後はスポーツとかの記事を少し眺めてテレビをつける。
その頃になると愛莉が戻ってくる。
「ゲームに間に合ったかな~?」
「今からやるみたいだよ?」
愛莉はマグカップをテーブルに置くとテレビを一緒に見る。
「愛莉が選んでいいよ」
「じゃあね~赤」
大体愛莉はいつも赤を選ぶ、赤が好きなんだろうか?となるとやっぱり特別な日に使ってくる色が本命なのか?
ぽかっ
「何も言ってないだろ?」
「冬夜君の顔がやらしい顔してたもん」
ゲームは赤であたっていた。
「やった~」と喜ぶ愛莉。
「愛莉って赤色が好きなの?」
「え?なんで??」
「いつも愛莉赤選んでるから」
「特に意識してなかったな~。で、なんでそんな事聞くの?」
「いや、無意識なのか……なるほどね」
「一人で納得してないで説明してよ」
「内緒」
「うぅ……いいもん、当ててやるんだから」
愛莉はそう言って僕の胸に耳を当てる。
そんな事で分かるわけないだろ。
と、言いつつ内心ひやひやしてた。
「うぅ……やっぱり変な事考えてる!」
ぽかぽかっ
「冬夜君は赤やピンクは嫌いなの?私に似合わない?」
「前にも言ったけど、愛莉が着けてたらどんな色でも可愛いよ」
「逆に冬夜君に聞くけどどんな色が好きなの?」
「そうだな~……やっぱりピンクかな?フリフリのついた……」
ぽかっ
「やっぱり変な事考えてた~そんなことは想像しなくていいの。……実物がここにいるでしょ!」
そう言う愛莉の顔は真っ赤だった。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
「あ、いい罰ゲーム考えた!」
「なに?」
「今度服買おうとか靴買おうとか考えてたでしょ?」
なんでその事知ってるの?
「冬夜君の考えることは何となくわかるようになったから」
愛莉は胸を張って言う。
「で、それが罰ゲームとどうつながるの?」
「冬夜君一緒に買いに行こう?」
「いつも一緒に買いに行ってるだろ?」
「その時に冬夜君の好きな下着買ってあげる」
コーヒー吹きそうになった。
朝から何を言い出すかと思えば……。
「で、それを冬夜君の誕生日とかにつけてあげる」
「愛莉は僕を女性の下着売り場に連れて行くつもり?」
ただの変態だぞ。
「冬夜君好みの女性になりたいってこのお嫁さんの気持ちが分かってくれないの?」
「他の客の目はどうするんだよ?」
旦那様が警備員に捕まえられる様を見たいのか?
「大丈夫ショッピングモールの下着屋さんだから。それに今時一緒に下着選ぶなんてラブラブでいいじゃない」
誠君も神奈と一緒に行ってたみたいだよ?と愛莉は言う。
「う~ん色とかだけでもいいから。選択肢作ってあげるから」
「……今回だけだぞ」
「わ~い♪」
その後はテレビを見て時間を潰してた。
テレビでも歌手の引退を大々的にやってた。
父さんが若い頃はすごい人気だったらしい。
ファッションリーダーとしても活躍していたんだとか。
そういや、愛莉ファッション雑誌とか読まないな?
愛莉の顔を見ると目と目があった?
「今度はどうしたの?」
「いや、愛莉がファッション雑誌とか見たこと無いなって思って」
「ほえ?」
「なんか拘りあるの愛莉は」
「冬夜君の好みに合わせてるよ?ちゃんと買う前に冬夜君に聞いてるでしょ?」
「そんなのでいいのか?愛莉が着たい服とかないのか?」
「あまり考えたことない、中学生の頃はお気に入りの店とかあったけど」
そんなものなのか?
「強いて言うなら部屋着かな?」
「部屋着?」
「うん、冬夜君とお揃いのがいいな~」
……なるほどね。
どこまでも僕にあわせるつもりらしい。
「あ、そうだ!」
「どうした?」
「この際だから水着も選んでもらおうっと」
次から次へとこのお嫁さんは……。
「わかったよ」
「わ~い♪」
時計を見る、そろそろ時間か。
「愛莉、そろそろ時間だぞ」
「は~い」
愛莉を連れて家を出る。
雨が降っていた。
僕の傘を使って愛莉の家まで歩く。愛莉を先に助手席に乗せてから運転席に乗る。
「今日も混んでるだろうね」
「そうだな。」
いつもの如くショートカットを使って行く。
駐車場に車を止めると棟まで歩く。
その時、スマホが鳴っていた。
愛莉のも鳴っていたので多分渡辺班だろう。
僕は傘を持っていたので愛莉に見てもらう。
「木元先輩内々定もらえたらしいよ」
そのお祝いを身内でやりたいから週末に集合との事。
要は騒ぎたいんだろう?
まあ、断る理由もないし愛莉にうなずいてみせると愛莉はスマホを操作する。
そうか……就職か。いずれは我が身か。
「あれ?女子会の方にメッセージ入ってる」
それは聞かないほうがいいかな?
そんな気遣いも無駄だったらしく愛莉は声を出して言う。
「咲良さんの彼氏候補見つけただって」
「へ?」
「うわあ、ちょっと離れてるね。APRUの3年生だって」
なるほどね、まあ車で1時間も走れば着くか。
どんな人なのかまでは書かれてなかった。
当日のお楽しみだという。
しかしAPRUの学生だなんて、どれだけ指原さんの顔は広いんだろうか?
(2)
「それじゃ、木元先輩の内々定を祝して乾杯!!」
渡辺先輩がそう言って宴の始まり。
場所は大在駅のそばの居酒屋さん。
「かずさんおめでとうございます!」
「ありがとう、花菜」
大島先輩が木元先輩と乾杯している。
仲睦まじいとはこの事だろうか?
「それもこれも志水さんのおかげだよ、ありがとう」
「私は親に紹介しただけ、内々定をとったのは木元先輩の実力よ」
そう、木元先輩は、志水先輩の親の企業の面接を受けていた。
「それにしてもやっぱり志水さんの推薦が無かったら今頃ぞっとしてたよ」
「……まあ、私でもお役に立てたなら何よりだわ」
皆が、木元先輩を祝福してるなか一人見慣れない顔がつまらなさそうに酒を飲んでいる。
「咲良……ちょっと……」
指原先輩に呼ばれた。ちょっと美形のすらっとした体形のいかにもイケメンな感じ。
「紹介するねAPRUの3年生の檜山春樹君。檜山君彼女が話をした神崎咲良さん」
「檜山です」
「咲良です~。よろしくお願いします」
「じゃ、あとは二人で楽しくね~」
「え?先輩は一緒にいてくれないんですか~?」
「あんたなら緊張するって事はないでしょ。ごゆっくり~」
そう言って指原先輩は皆の元へ行った。
「男慣れしてるんだ?」
「まあ~ちやほやはされてきましたから~」
「ふ~ん、そう言うのってウザくない?」
「え?」
「あ、いや。忘れて……」
その後、檜山君にあれこれ質問しても「ああ……」とか「まあね」とかしか返ってこない。
「どうして今日来たんですか~?」
我ながら直球を投げてみた。
「雫に頼まれただけ」
「え?」
「雫がどうしてもってお願いするから来てみただけ」
私に靡かない。その条件は満たしているけど……。
「正直迷惑なんだよね。こういうの」
「……」
「どうせ、カッコいいとか超クールとかそんなイメージもったんだろうけど。単にウザいから適当にあしらっているだけ」
自意識過剰も大概にしろ……。
「彼女が欲しいとは言ったけど大抵言い寄ってくるのはそう言う女ばかり」
「決めつけるのって良くないと思います~。……てかあんた何様のつもり?」
アルコールが入っているのも手伝っているのだろう、多分彼の本音だと思う。
「頭ごなしに決めつけて調子に乗るのも大概にしろです~。……皆が皆あんたに靡くと思うな」
第一印象は最悪だった。
彼もこんな反応が返ってきたのは初めてなんだろう。やや狼狽えている。
指原さんが異様な空気を察知したのか慌てて戻ってくる。
「やあ、楽しくやれてるかな?」
「指原先輩、ごめんなさい~。……こんな男私から願い下げだわ」
「いったい何があったの?」
「いや、大したことない……」
カチン。
「大したことない?うぬぼれるのも大概にしろ!皆が皆あんたに媚び売ると思ったら大間違いだ。あんたは私を完全に怒らせた!」
「咲良!落ち着いて」
檜山先輩は何も言わずに聞いている。
「気分を害した。私帰ります」
そう言って席を立つ。
皆が私を見ている。
もっと素敵なものを期待していたのに。
「咲良さん、どうしたのです?こっちで飲みなおしませんか?」
「あんたも彼女いるのに馬鹿にするのも大概にしろですぅ~」
そう言って店を出た。
外は雨が降っていた。
私は傘を差し歩いて帰った。
(3)
「うぬぼれるのも大概にしろ!!」
そんな風に言われたのは初めてだ。
暫く呆然とする。
彼女は「帰る」と言ってその場を立ち去った。
ハッと我に返って彼女の後を追う。
傘をさし歩いて帰る彼女を走って追いかける。
「待てよ!」
そう言って彼女の肩に手をやる。
「なんか用ですか?さっさと戻って他の女性物色した方がいいんじゃないですか~?」
「そんなつもりで来たんじゃない!」
「なら、あなたもさっさと帰ったほうがいいんじゃないですか~?あなた風に言うなら『時間の無駄』ですよ」
「さっきは失礼しました。いつもの調子でつい……」
こんな風に一人の女性に固執するのも初めてだ。
「じゃあ、いつもの調子で精々女子にキャーキャー言われてるといいです~。……私はあんたに絶対靡かない」
「……せめて、連絡先でも」
何でこんなみっともない真似してるんだろう?冷静になれ。
「あなたと会うのはこれっきりです~。連絡先交換する意味わかりませ~ん」
「……君、彼氏いるの?」
「……いたらあんたを紹介してもらうなんて馬鹿な真似しないわ」
「じゃあ、俺にもチャンスがあるな」
「自信過剰の男って本当に馬鹿が多いんですね~。私は今あなたを振ったんですよ~」
「お前なら……本気になってもいいかもしれない。そう思った」
「他を当ってください~。じゃあ……」
そう言って彼女は歩き出した。
俺は雨に打たれながら呆然と立ち尽くす。自分の犯した過ちを全て流して欲しかった。
店に戻ると指原さんが「どうだった?」って聞いてくる。
俺は首を振ると……「そうか……」と答える。
「で、あんたは諦める気?」
俺は回答に悩んだ。
あんな風に言われた女性は初めてだ。
完全に嫌われている。これ以上深追いするのは時間の無駄だ。
でも……。
「そのつもりはない」
どしてそんな事を言ったのだろう。
「そこなくちゃね!」
指原さんは乗り気だ。
「片桐君、悪いけど彼送ってやってあげないかな?」
「いいよ?」
「じゃあ、今日はお開きにしようか?2次会行く人はまだ電車あると思うから」
俺は2次会はパスした。
そして片桐君の車で家に向かっている。
隣に座っている遠坂さんはしきりにスマホを弄っている。
「初めてだった。あんな風に言われるの」
「気分はどうだい?」
片桐君がそう言うと俺は「最悪だな……」と笑った。
「それでいいと思う。実をいうとさ、予想してたんだよね。多分そうなるだろうなって」
「……?」
「実はさ、君の事事前に指原さんから説明されてた。その時思ったんだ。多分衝突するなって」
「これから俺がやろうとしてる事はただのストーカーなんですかね?」
「気持ち伝えなきゃ。君も納得いかないだろ?」
「ねえ?檜山先輩。渡辺班に入りませんか?」
遠坂さんは突然後ろを振り向いてそう言った?
「渡辺班?」
「私たちのグループ。ちゃんと謝りたいんでしょ?」
「……それと関係あるの?」
「入らないと話にならないから……」
「じゃあ、入るよ」
遠坂さんとID交換してグループに招待してもらう。
グループの中に咲良さんはいた。
咲良さんから個人チャットの誘いがくる。
俺は許可した。
「さっきはすいません、取り乱しました」
「俺の方こそすまない、気分を害したことは謝るよ」
「話ってそれだけですか~?」
俺は躊躇う。今の気持ちをぶつけて良いのか?酔いのせいもあるんじゃないのか?
「カルボナーラって出来たてを食べないと美味しくないですよ。檜山先輩」
「……勢いって必要だと思うんです。檜山先輩」
二人に後押しされて今の自分の気持ちを伝えた。
「咲良さんさえよかったら俺と……、友達からでもいい」
何ともみっともない台詞だろう?
もっといい台詞を浮かばなかったのか?
「友達は間に合ってます~。私が欲しいのは、彼氏だけ~」
「……いいのか?」
「ウザいなら結構ですけど~」
「……よろしく」
「はい~」
初めてのタイプの女性と付き合う。どう接していいか分からないけど。彼女の前に自分の醜態を曝け出すことになるんだろうな。
どう扱って良いのか分からないけど、これから模索していくさ。その模索を楽しむことにしよう。
「話終わりましたか?」
「ああ……ありがとう」
「良かったです」
家に帰ったらまず咲良さんと話し会おう。これからどうするのかを
夜明けまで語ろう。時間はたっぷりある。
(4)
「深雪……どういうことだ?失敗はしないんじゃなかったのか?」
啓介は私に問い詰める。
「そう言う話をこういう場でするのはどうかと思うけど、それで作戦は破綻した」
「なら、車の中で話そうじゃないか?」
「すでに手遅れだと思うけど?」
「何かいい手はないのか?」
「どんなに良い手を考えても啓介が自滅したんじゃ話にならない」
それに、私と啓介の仲を明らかにした以上、警戒は強まるばかり。
どれだけ皆の絆が強いのかはよく分かった。
「あなた自身諦めがついてるんじゃないの?もう無理だって」
「負けを認めるわけにはいかない!遠坂さんと二人きりになれれば」
「力づくでもってわけ?病院に傷がつくわよ?」
そうなれば、病院はお終い。あなたとの関係も解消される。それは願ったりだけど。
宴が終わると私たちは帰った。
後部座席で車に揺られながら景色を眺めていた。
「深雪、何かいい手は無いのか?」
私はガムを噛んで考える。
私と啓介の仲はバレてしまった。いやバラしたに等しい。
作戦の全容も明かしてしまった。私自身どうでもいいやと思っていたから。
それでも啓介がまだ渡辺班の仲を引き裂きたいなら……。
「標的を変える必要があるかもしれないわね」
誰を標的にしたらいいか分からないけど。
「標的は常に変えている。臨機応変という言葉があるだろう?」
二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉が今の啓介にはピッタリ合ってる。
しかし彼の想いは妄執に近い。
「……二人を引き離すのはもう無理ね、こちらの手は読まれてる」
一番の最善の手……そんなの最初から分かり切ってる。
「あなたが改心したと見せかけるしかないでしょうね」
啓介の表情が険しくなる。
「俺に負けを認めろというのか?」
「まずは相手の警戒心を解かないと話にならない」
余程の奇策を練らないとこちらから仕掛けても返り討ちにあうだけ。
心の隙さえ作れば狙える相手はいる。
それは今までメッセージを見てきて分かった。
「それは出来ない。俺のプライドがゆるさない」
もうプライドに構ってる場合じゃないでしょう。
「なら時期を待つのね。相手の気が緩んだ隙を突くしかないわ」
「持久戦か?」
「先に動いた方が負ける。残念ながら今分があるのはあっちよ」
警戒さえ溶ければ隙を突く奇策を練れるかもしれない。
「分かった、深雪は奇策とやらを考えてくれ。俺は俺の判断で動く」
「勝手に動かれては私も困るのだけど……」
「やられっぱなしなのは性にあわない」
「そう……なら勝手にすると良いわ」
私は半分匙を投げた。この男は既に勝負なんてどうでもいい。保身に懸命のようだ。
「時に聞くけど、どうしてあの人たちに拘るの?」
「俺のプライドをズタズタに引き裂かれた。やり返さないと俺の気が済まない」
なるほどね、そんな事だろうと思った。
「まあ、慎重に動くのね。一筋縄でいく相手じゃない」
「深雪にそこまで言わせるとはな……」
私だって馬鹿じゃない。これ以上続けても時間の無駄なことくらい分かる。
しかし、彼等は続けようと言ってくれた。
きっと私に素敵なプレゼントができるからと。
なら、勝負は続ける。手加減はしない。
ガムを噛む。
そして新たな策を考えていた。
(5)
「咲良良かったね」
「そうだな」
檜山先輩を送った帰りの事だった。
「虹がかかるのは雨が降るからなんだよね?」
「?」
たまに愛莉は訳の分からない事を言う。
「咲良と檜山先輩の間に虹がかかったってことだよ」
「ああ、なるほどね」
「どんどん増えるね。私達の友達」
「そうだな」
「みんな素敵なキャンパスライフになればいいね」
素敵なキャンパスライフってのがどういう物かにもよるだろうけど。
それは僕にも言える事。
愛莉を養うだけの仕事にありつけるのだろうか?
「私たちも負けないくらい幸せになろうね?」
「それは問題ないと思うよ」
「ほえ?」
「すでに皆からは幸せな夫婦に見えてるらしいから」
「……」
「他人と比べるものじゃないけど既に幸せだと思っているから」
「冬夜君……」
愛莉はしばらく黙っていた。
黙っていても分る。
私も幸せだよ。
愛莉の顔はそう物語っていた。
そんな顔にしてやれる自分を誇りに思う。
そしてそんな顔にしてやれるのは僕だけだと自負する。
そんな時愛莉のスマホが鳴る。
メッセージを着信したらしい。
女子会のグループだという
啓介はまだ諦めないみたいよ。大丈夫だとは思うけど気をつけて。
高階先輩からだった。
「諦めの悪い男もいるんだね~」
愛莉はため息を吐く。
雨は上がっていた。
「大丈夫、何も変わらないよ」
愛莉の頭を撫でる。
「うん」
愛莉は一言そう言う。
街の灯りの中を突き進む。
道はライトに照らされていた
暗闇の中を走るけど、僕達の道はヘッドライトに照らされて、そしてその先も町の明かりが照らされていた。
6月。梅雨入りの時期。
蛙の声が聞こえる中僕も蛙のような姿勢で布団を抱えて寝ていた。
愛莉?
とっくに朝ごはんの仕度に向かったよ。
今は一人静かに寝てる……
「冬夜君朝ごはん出来たよ」
寝させてくれるはずもなく……。
ちょっとでも抵抗しようものなら……。
「ふふ~ん。そう来るならいいもん」
愛莉は僕の隣に寝ると背中越しに胸を押し付けてくる。
柔らかい感触が気になって眠れない。
以前の僕なら寝れたはずなのにおかしいな。
「北風と太陽作戦バージョン2!!」
この誘惑に耐えられる男性がいるなら見てみたいものだ。
因みに僕は耐えられない。でもまだ寝ていたい。じゃあどうする?
愛莉を振りほどき体を反転させると愛莉に抱き着く。
「ちょっと冬夜君!?」
「誘ったのは愛莉だからな!」
そう言っての服を脱がそうとしたところで……。
ぽかっ
うん、分かってた。
「冬夜君最近本当に誠君の影響受けて来たね」
「誠じゃなくても年頃の男だったら皆そうなるよ」
「うぅ……しょうがないなぁ。夜だったらいいよ」
「だったら夜抱いてよ」
「今やらないと冬夜君起きてくれないじゃない」
「そりゃ、可愛いお嫁さんに抱き着かれたらそう言う気分にもなるよ」
「可愛いお嫁さん……えへへ~。ってそう言う話じゃなくて!」
「着替えるんだろ?急ごう」
僕はベッドを出ると着替える。
そろそろ夏物買わないとな。あと靴も傷んできてるな……。
その時後ろから抱き着く愛莉。
「私口うるさいお嫁さんになってる?」
上目遣いで訴えるように言う愛莉。
「僕の事を思って言ってくれてるんだろ?分かってるよ」
「わ~い、優しい旦那様で良かった」
「ありがとう、愛莉も早く着替えろよ」
「うん」
そう言って着替えを始める愛莉。
その間にダイニングに言ってご飯を食べていた。
朝食をとっていると愛莉が降りてくる。
愛莉は僕の隣の席について朝食を食べ始める。僕の方が先に食べ終わり洗面所に向かう。
支度を終えようとしたところで愛莉と入れ違いになる。
その後は部屋に戻ってネットのニュースを見る。
へえ、あの歌手引退するんだ。
まあ、その歌手もそんなに気になってる人ではなかったけど。
後はスポーツとかの記事を少し眺めてテレビをつける。
その頃になると愛莉が戻ってくる。
「ゲームに間に合ったかな~?」
「今からやるみたいだよ?」
愛莉はマグカップをテーブルに置くとテレビを一緒に見る。
「愛莉が選んでいいよ」
「じゃあね~赤」
大体愛莉はいつも赤を選ぶ、赤が好きなんだろうか?となるとやっぱり特別な日に使ってくる色が本命なのか?
ぽかっ
「何も言ってないだろ?」
「冬夜君の顔がやらしい顔してたもん」
ゲームは赤であたっていた。
「やった~」と喜ぶ愛莉。
「愛莉って赤色が好きなの?」
「え?なんで??」
「いつも愛莉赤選んでるから」
「特に意識してなかったな~。で、なんでそんな事聞くの?」
「いや、無意識なのか……なるほどね」
「一人で納得してないで説明してよ」
「内緒」
「うぅ……いいもん、当ててやるんだから」
愛莉はそう言って僕の胸に耳を当てる。
そんな事で分かるわけないだろ。
と、言いつつ内心ひやひやしてた。
「うぅ……やっぱり変な事考えてる!」
ぽかぽかっ
「冬夜君は赤やピンクは嫌いなの?私に似合わない?」
「前にも言ったけど、愛莉が着けてたらどんな色でも可愛いよ」
「逆に冬夜君に聞くけどどんな色が好きなの?」
「そうだな~……やっぱりピンクかな?フリフリのついた……」
ぽかっ
「やっぱり変な事考えてた~そんなことは想像しなくていいの。……実物がここにいるでしょ!」
そう言う愛莉の顔は真っ赤だった。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
「あ、いい罰ゲーム考えた!」
「なに?」
「今度服買おうとか靴買おうとか考えてたでしょ?」
なんでその事知ってるの?
「冬夜君の考えることは何となくわかるようになったから」
愛莉は胸を張って言う。
「で、それが罰ゲームとどうつながるの?」
「冬夜君一緒に買いに行こう?」
「いつも一緒に買いに行ってるだろ?」
「その時に冬夜君の好きな下着買ってあげる」
コーヒー吹きそうになった。
朝から何を言い出すかと思えば……。
「で、それを冬夜君の誕生日とかにつけてあげる」
「愛莉は僕を女性の下着売り場に連れて行くつもり?」
ただの変態だぞ。
「冬夜君好みの女性になりたいってこのお嫁さんの気持ちが分かってくれないの?」
「他の客の目はどうするんだよ?」
旦那様が警備員に捕まえられる様を見たいのか?
「大丈夫ショッピングモールの下着屋さんだから。それに今時一緒に下着選ぶなんてラブラブでいいじゃない」
誠君も神奈と一緒に行ってたみたいだよ?と愛莉は言う。
「う~ん色とかだけでもいいから。選択肢作ってあげるから」
「……今回だけだぞ」
「わ~い♪」
その後はテレビを見て時間を潰してた。
テレビでも歌手の引退を大々的にやってた。
父さんが若い頃はすごい人気だったらしい。
ファッションリーダーとしても活躍していたんだとか。
そういや、愛莉ファッション雑誌とか読まないな?
愛莉の顔を見ると目と目があった?
「今度はどうしたの?」
「いや、愛莉がファッション雑誌とか見たこと無いなって思って」
「ほえ?」
「なんか拘りあるの愛莉は」
「冬夜君の好みに合わせてるよ?ちゃんと買う前に冬夜君に聞いてるでしょ?」
「そんなのでいいのか?愛莉が着たい服とかないのか?」
「あまり考えたことない、中学生の頃はお気に入りの店とかあったけど」
そんなものなのか?
「強いて言うなら部屋着かな?」
「部屋着?」
「うん、冬夜君とお揃いのがいいな~」
……なるほどね。
どこまでも僕にあわせるつもりらしい。
「あ、そうだ!」
「どうした?」
「この際だから水着も選んでもらおうっと」
次から次へとこのお嫁さんは……。
「わかったよ」
「わ~い♪」
時計を見る、そろそろ時間か。
「愛莉、そろそろ時間だぞ」
「は~い」
愛莉を連れて家を出る。
雨が降っていた。
僕の傘を使って愛莉の家まで歩く。愛莉を先に助手席に乗せてから運転席に乗る。
「今日も混んでるだろうね」
「そうだな。」
いつもの如くショートカットを使って行く。
駐車場に車を止めると棟まで歩く。
その時、スマホが鳴っていた。
愛莉のも鳴っていたので多分渡辺班だろう。
僕は傘を持っていたので愛莉に見てもらう。
「木元先輩内々定もらえたらしいよ」
そのお祝いを身内でやりたいから週末に集合との事。
要は騒ぎたいんだろう?
まあ、断る理由もないし愛莉にうなずいてみせると愛莉はスマホを操作する。
そうか……就職か。いずれは我が身か。
「あれ?女子会の方にメッセージ入ってる」
それは聞かないほうがいいかな?
そんな気遣いも無駄だったらしく愛莉は声を出して言う。
「咲良さんの彼氏候補見つけただって」
「へ?」
「うわあ、ちょっと離れてるね。APRUの3年生だって」
なるほどね、まあ車で1時間も走れば着くか。
どんな人なのかまでは書かれてなかった。
当日のお楽しみだという。
しかしAPRUの学生だなんて、どれだけ指原さんの顔は広いんだろうか?
(2)
「それじゃ、木元先輩の内々定を祝して乾杯!!」
渡辺先輩がそう言って宴の始まり。
場所は大在駅のそばの居酒屋さん。
「かずさんおめでとうございます!」
「ありがとう、花菜」
大島先輩が木元先輩と乾杯している。
仲睦まじいとはこの事だろうか?
「それもこれも志水さんのおかげだよ、ありがとう」
「私は親に紹介しただけ、内々定をとったのは木元先輩の実力よ」
そう、木元先輩は、志水先輩の親の企業の面接を受けていた。
「それにしてもやっぱり志水さんの推薦が無かったら今頃ぞっとしてたよ」
「……まあ、私でもお役に立てたなら何よりだわ」
皆が、木元先輩を祝福してるなか一人見慣れない顔がつまらなさそうに酒を飲んでいる。
「咲良……ちょっと……」
指原先輩に呼ばれた。ちょっと美形のすらっとした体形のいかにもイケメンな感じ。
「紹介するねAPRUの3年生の檜山春樹君。檜山君彼女が話をした神崎咲良さん」
「檜山です」
「咲良です~。よろしくお願いします」
「じゃ、あとは二人で楽しくね~」
「え?先輩は一緒にいてくれないんですか~?」
「あんたなら緊張するって事はないでしょ。ごゆっくり~」
そう言って指原先輩は皆の元へ行った。
「男慣れしてるんだ?」
「まあ~ちやほやはされてきましたから~」
「ふ~ん、そう言うのってウザくない?」
「え?」
「あ、いや。忘れて……」
その後、檜山君にあれこれ質問しても「ああ……」とか「まあね」とかしか返ってこない。
「どうして今日来たんですか~?」
我ながら直球を投げてみた。
「雫に頼まれただけ」
「え?」
「雫がどうしてもってお願いするから来てみただけ」
私に靡かない。その条件は満たしているけど……。
「正直迷惑なんだよね。こういうの」
「……」
「どうせ、カッコいいとか超クールとかそんなイメージもったんだろうけど。単にウザいから適当にあしらっているだけ」
自意識過剰も大概にしろ……。
「彼女が欲しいとは言ったけど大抵言い寄ってくるのはそう言う女ばかり」
「決めつけるのって良くないと思います~。……てかあんた何様のつもり?」
アルコールが入っているのも手伝っているのだろう、多分彼の本音だと思う。
「頭ごなしに決めつけて調子に乗るのも大概にしろです~。……皆が皆あんたに靡くと思うな」
第一印象は最悪だった。
彼もこんな反応が返ってきたのは初めてなんだろう。やや狼狽えている。
指原さんが異様な空気を察知したのか慌てて戻ってくる。
「やあ、楽しくやれてるかな?」
「指原先輩、ごめんなさい~。……こんな男私から願い下げだわ」
「いったい何があったの?」
「いや、大したことない……」
カチン。
「大したことない?うぬぼれるのも大概にしろ!皆が皆あんたに媚び売ると思ったら大間違いだ。あんたは私を完全に怒らせた!」
「咲良!落ち着いて」
檜山先輩は何も言わずに聞いている。
「気分を害した。私帰ります」
そう言って席を立つ。
皆が私を見ている。
もっと素敵なものを期待していたのに。
「咲良さん、どうしたのです?こっちで飲みなおしませんか?」
「あんたも彼女いるのに馬鹿にするのも大概にしろですぅ~」
そう言って店を出た。
外は雨が降っていた。
私は傘を差し歩いて帰った。
(3)
「うぬぼれるのも大概にしろ!!」
そんな風に言われたのは初めてだ。
暫く呆然とする。
彼女は「帰る」と言ってその場を立ち去った。
ハッと我に返って彼女の後を追う。
傘をさし歩いて帰る彼女を走って追いかける。
「待てよ!」
そう言って彼女の肩に手をやる。
「なんか用ですか?さっさと戻って他の女性物色した方がいいんじゃないですか~?」
「そんなつもりで来たんじゃない!」
「なら、あなたもさっさと帰ったほうがいいんじゃないですか~?あなた風に言うなら『時間の無駄』ですよ」
「さっきは失礼しました。いつもの調子でつい……」
こんな風に一人の女性に固執するのも初めてだ。
「じゃあ、いつもの調子で精々女子にキャーキャー言われてるといいです~。……私はあんたに絶対靡かない」
「……せめて、連絡先でも」
何でこんなみっともない真似してるんだろう?冷静になれ。
「あなたと会うのはこれっきりです~。連絡先交換する意味わかりませ~ん」
「……君、彼氏いるの?」
「……いたらあんたを紹介してもらうなんて馬鹿な真似しないわ」
「じゃあ、俺にもチャンスがあるな」
「自信過剰の男って本当に馬鹿が多いんですね~。私は今あなたを振ったんですよ~」
「お前なら……本気になってもいいかもしれない。そう思った」
「他を当ってください~。じゃあ……」
そう言って彼女は歩き出した。
俺は雨に打たれながら呆然と立ち尽くす。自分の犯した過ちを全て流して欲しかった。
店に戻ると指原さんが「どうだった?」って聞いてくる。
俺は首を振ると……「そうか……」と答える。
「で、あんたは諦める気?」
俺は回答に悩んだ。
あんな風に言われた女性は初めてだ。
完全に嫌われている。これ以上深追いするのは時間の無駄だ。
でも……。
「そのつもりはない」
どしてそんな事を言ったのだろう。
「そこなくちゃね!」
指原さんは乗り気だ。
「片桐君、悪いけど彼送ってやってあげないかな?」
「いいよ?」
「じゃあ、今日はお開きにしようか?2次会行く人はまだ電車あると思うから」
俺は2次会はパスした。
そして片桐君の車で家に向かっている。
隣に座っている遠坂さんはしきりにスマホを弄っている。
「初めてだった。あんな風に言われるの」
「気分はどうだい?」
片桐君がそう言うと俺は「最悪だな……」と笑った。
「それでいいと思う。実をいうとさ、予想してたんだよね。多分そうなるだろうなって」
「……?」
「実はさ、君の事事前に指原さんから説明されてた。その時思ったんだ。多分衝突するなって」
「これから俺がやろうとしてる事はただのストーカーなんですかね?」
「気持ち伝えなきゃ。君も納得いかないだろ?」
「ねえ?檜山先輩。渡辺班に入りませんか?」
遠坂さんは突然後ろを振り向いてそう言った?
「渡辺班?」
「私たちのグループ。ちゃんと謝りたいんでしょ?」
「……それと関係あるの?」
「入らないと話にならないから……」
「じゃあ、入るよ」
遠坂さんとID交換してグループに招待してもらう。
グループの中に咲良さんはいた。
咲良さんから個人チャットの誘いがくる。
俺は許可した。
「さっきはすいません、取り乱しました」
「俺の方こそすまない、気分を害したことは謝るよ」
「話ってそれだけですか~?」
俺は躊躇う。今の気持ちをぶつけて良いのか?酔いのせいもあるんじゃないのか?
「カルボナーラって出来たてを食べないと美味しくないですよ。檜山先輩」
「……勢いって必要だと思うんです。檜山先輩」
二人に後押しされて今の自分の気持ちを伝えた。
「咲良さんさえよかったら俺と……、友達からでもいい」
何ともみっともない台詞だろう?
もっといい台詞を浮かばなかったのか?
「友達は間に合ってます~。私が欲しいのは、彼氏だけ~」
「……いいのか?」
「ウザいなら結構ですけど~」
「……よろしく」
「はい~」
初めてのタイプの女性と付き合う。どう接していいか分からないけど。彼女の前に自分の醜態を曝け出すことになるんだろうな。
どう扱って良いのか分からないけど、これから模索していくさ。その模索を楽しむことにしよう。
「話終わりましたか?」
「ああ……ありがとう」
「良かったです」
家に帰ったらまず咲良さんと話し会おう。これからどうするのかを
夜明けまで語ろう。時間はたっぷりある。
(4)
「深雪……どういうことだ?失敗はしないんじゃなかったのか?」
啓介は私に問い詰める。
「そう言う話をこういう場でするのはどうかと思うけど、それで作戦は破綻した」
「なら、車の中で話そうじゃないか?」
「すでに手遅れだと思うけど?」
「何かいい手はないのか?」
「どんなに良い手を考えても啓介が自滅したんじゃ話にならない」
それに、私と啓介の仲を明らかにした以上、警戒は強まるばかり。
どれだけ皆の絆が強いのかはよく分かった。
「あなた自身諦めがついてるんじゃないの?もう無理だって」
「負けを認めるわけにはいかない!遠坂さんと二人きりになれれば」
「力づくでもってわけ?病院に傷がつくわよ?」
そうなれば、病院はお終い。あなたとの関係も解消される。それは願ったりだけど。
宴が終わると私たちは帰った。
後部座席で車に揺られながら景色を眺めていた。
「深雪、何かいい手は無いのか?」
私はガムを噛んで考える。
私と啓介の仲はバレてしまった。いやバラしたに等しい。
作戦の全容も明かしてしまった。私自身どうでもいいやと思っていたから。
それでも啓介がまだ渡辺班の仲を引き裂きたいなら……。
「標的を変える必要があるかもしれないわね」
誰を標的にしたらいいか分からないけど。
「標的は常に変えている。臨機応変という言葉があるだろう?」
二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉が今の啓介にはピッタリ合ってる。
しかし彼の想いは妄執に近い。
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啓介の表情が険しくなる。
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もうプライドに構ってる場合じゃないでしょう。
「なら時期を待つのね。相手の気が緩んだ隙を突くしかないわ」
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警戒さえ溶ければ隙を突く奇策を練れるかもしれない。
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「俺のプライドをズタズタに引き裂かれた。やり返さないと俺の気が済まない」
なるほどね、そんな事だろうと思った。
「まあ、慎重に動くのね。一筋縄でいく相手じゃない」
「深雪にそこまで言わせるとはな……」
私だって馬鹿じゃない。これ以上続けても時間の無駄なことくらい分かる。
しかし、彼等は続けようと言ってくれた。
きっと私に素敵なプレゼントができるからと。
なら、勝負は続ける。手加減はしない。
ガムを噛む。
そして新たな策を考えていた。
(5)
「咲良良かったね」
「そうだな」
檜山先輩を送った帰りの事だった。
「虹がかかるのは雨が降るからなんだよね?」
「?」
たまに愛莉は訳の分からない事を言う。
「咲良と檜山先輩の間に虹がかかったってことだよ」
「ああ、なるほどね」
「どんどん増えるね。私達の友達」
「そうだな」
「みんな素敵なキャンパスライフになればいいね」
素敵なキャンパスライフってのがどういう物かにもよるだろうけど。
それは僕にも言える事。
愛莉を養うだけの仕事にありつけるのだろうか?
「私たちも負けないくらい幸せになろうね?」
「それは問題ないと思うよ」
「ほえ?」
「すでに皆からは幸せな夫婦に見えてるらしいから」
「……」
「他人と比べるものじゃないけど既に幸せだと思っているから」
「冬夜君……」
愛莉はしばらく黙っていた。
黙っていても分る。
私も幸せだよ。
愛莉の顔はそう物語っていた。
そんな顔にしてやれる自分を誇りに思う。
そしてそんな顔にしてやれるのは僕だけだと自負する。
そんな時愛莉のスマホが鳴る。
メッセージを着信したらしい。
女子会のグループだという
啓介はまだ諦めないみたいよ。大丈夫だとは思うけど気をつけて。
高階先輩からだった。
「諦めの悪い男もいるんだね~」
愛莉はため息を吐く。
雨は上がっていた。
「大丈夫、何も変わらないよ」
愛莉の頭を撫でる。
「うん」
愛莉は一言そう言う。
街の灯りの中を突き進む。
道はライトに照らされていた
暗闇の中を走るけど、僕達の道はヘッドライトに照らされて、そしてその先も町の明かりが照らされていた。
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