優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

風の憧憬

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(1)

季節は清和の頃になっていた。
今年は誰一人5月病にかかることはなく平穏無事に過ごしていた。
朝は愛莉に起こされ、着替えて、朝食をとって、準備して部屋でのんびり過ごす。
時間になれば大学に行って、授業を受けてお昼を食べて午後の授業を受けて青い鳥に向かう。
何の変りもない日々を送っていた。
変わったことがあるとすれば……。

カランカラン。

ほら着た。

高階深雪。西松の幼馴染。
彼女は足繁に青い鳥に通ってる。渡辺班と親しくなろうと必死なようだ。
そのひたむきな様がが皆に伝わったのか徐々にみな彼女と親しんでいった。
愛莉も、そんな一人だ。あれだけ警戒していたのが嘘のように親しくなっていく。
僕はというと困惑していた。彼女に気を許すわけにはいかなかった。
西松の幼馴染というのも原因の一因だが、気になることが一つある。彼女は何かを隠している。それは確信に近かった。
僕がある質問をすると明確に避けようとする。答えられない何かがあるのか?


そうしていつものように青い鳥で時間を潰しているとカランカランとドアベルが鳴る。

「本当にいつもいるね」

高階さんは今日は西松君を連れてやってきた。
二人は僕達の対面に座る。
そしていつものように高階さん主導で会話が始まる。
愛莉と女性同士の会話。愛莉は嬉しそうに話をしている。
僕と西松君は黙って話を聞いていた。
西松君を観察する。
やっぱり何か企んでる。愛莉を見てにやりと笑う西松君。
そして志水さん江口さん石原君、大島さんがやってきた。
大島さんが会話に加わる。志水さんと江口さんは何か相談しているようだった。
会話はやがて高階さんの一言で空気が変わる

「片桐君は遠坂さんのどこが好きになったんですか?」

彼女の興味が初めて僕に向いた瞬間だった。
彼女が隠していた爪が初めて見えた瞬間だった。

「それ、答える必要あるの?」

別に隠す必要もなかったけど、彼女に対して何らかの防衛本能が無意識のうちに働いたのかもしれない。今の僕は彼女に対して警戒していた。

「別に隠さなくてもいいじゃない。あのね……」
「愛莉!そろそろ行こう」

高階さんに余計な情報を与えたくなかった僕は席を立つと愛莉の腕を引っ張る。

「気を悪くしたらごめんなさい、よほど言いたくない理由だったのね」

見え透いた芝居をするのは止めろ。僕はそう言わんばかりに愛莉の手を取り会計を済ませる。

「遠坂さんごめんなさいね。またね」

高階さんがそう愛莉に言うと愛莉は「またね~」と返した。
車に乗り込むと愛莉が言う。

「どうしたの?冬夜君。あんな態度は失礼だと思うよ」
「愛莉忘れたの?高階さんは西松君の仲間だよ?」
「そうとは限らないんじゃない?彼女西松君と明らかに違って仲良くしたいだけだよ~」

僕の考えすぎか?だけど僕の直感は彼女を敵とみなしている。仮想敵に簡単に情報を漏らしていいはずがない。

「僕はそうは思わない。彼女は何か切り札を隠し持っているように見える」
「うぅ……、高階さんは良い人だよ~」

今度の敵は今までとは全くタイプの違う敵のようだ。愛莉を先に落とし僕を落そうとする……そうか。彼女の目的は僕か。
今までみたいに強引に引きはがそうとせず自然と引き離そうとする策にでたのか。

「……しばらく青い鳥には行かないほうがいいな」
「えぇ~」

愛莉は抗議の声をあげる。

「どうしてそこまで彼女を避けようとするの?高階さんは良い人だよ?少なくとも冬夜君の思ってるような人じゃない。冬夜君の考えすぎだよ」
「ダメなものはダメだ!」

大声を出していた。愛莉はびくつく。

「冬夜君がダメならいい。私一人で青い鳥に行くから!」
「じゃあ、好きにしろ!!」

何をいらついてるんだろう?落ち着かないと相手の思うつぼだ。でも話の通じない愛莉にイライラが止まらない。
車を愛莉の家の駐車場に止めると愛莉が運転席に座ろうとする。

行かせたらだめだ。

思わず愛莉を抱きしめる。

「離して!」
「落ち着いて、家でじっくり話し合おう」
「いや、冬夜君のお説教なんか聞きたくない」
「愛してる旦那さんのお願いでも聞いてくれないの?」
「そんなお嫁さんのいう事全然聞いてくれないじゃない?」
「だからそれを説明するから」
「冬夜君は、西松君の知り合いってだけで敵視してるだけだよ。彼女悪い人なんかじゃない」
「100歩譲って彼女が良い人だったとしても今の青い鳥には西松がいる。愛莉一人行かせるなんて例え愛莉に嫌われてもできない」

嫌われてもって言葉に反応したのか愛莉の抵抗は止まった。

「……ちゃんと説明してくれる?」
「ああ、納得いくように説明するよ」
「じゃあ家に帰る……それと」

ぽかっ

「嫌われるとか嫌いになると二度と言わないで、私がどれだけその言葉に怯えているのか冬夜君解ってない!
「それだけの覚悟があったんだ……。愛莉を守る騎士としてはね」
「……そんなに危険な事なの?」
「そうかもな」

そう言って愛莉を家に連れて行くと部屋でゆっくり思ってること全てを話した。



「それって冬夜君の思い込みじゃないの?」
「だといいんだけどな」

西松君には前科がある。僅かでも可能性がある場合は軽率な行動はとるべきじゃない。

「……わかった。青い鳥には行かないようにする。冬夜君と喧嘩してまで行くところじゃないし」
「うん、お願いします」
「さっきはごめんね。冬夜君の意見ちゃんと聞かないで私が我儘言って……」
「僕も怒鳴ってごめん」
「いいの。あ、買い物に行かない?今日は冬夜君の好きな物作ってあげる」
「愛莉の作ったものなら何でも食べるよ」
「それじゃ意味がないの!あ、麻耶さんに言わなきゃ」

そう言って部屋を出る愛莉。
その間に、スマホを操作して皆に注意を喚起する。

「冬夜がそう言うんだったらそうなんだろうな」
「分かった気をつける」

そんな返信が返ってくる。

「冬夜君!買い物行こう!?」

愛莉の声が聞こえてくる。僕も部屋を出て愛莉の買い物につきあうことにした。

(2)

「竹本君!?」

僕が丹下先生の準備室に入ると海未ちゃんと新名さんがいた。
海未ちゃんは何も言わずに準備室を出て行った。

そんなに露骨に避けなくてもいいのに……。

「竹本……」

丹下先生がそう言って僕に近づくと拳骨を脳天に食らった。

「お前用事があるとき以外ここに入室禁止。理由はわかってるよな?」

丹下先生が言うと僕は「わかってます」と言った。他に何を言えば良いのか分からなかった。

「竹本君ごめんね。海未ちゃん竹本君を避けてるみたいなの……」

言われなくても分るよそのくらいの事。

「全く余計な事しやがって……海未はそう言う耐性全くないんだから。手を出したらどうなるかわかってるよな?って言ったよな?」
「そう言う言い方無いと思いますけど。先生に人の恋愛を阻害する権利あるんですか~」

そう言ってやってきたのは花山さんだった。

「竹本君、特に用が無いなら私に付き合わない?青い鳥行こう?真鍋君も誘ってるし」
「い、いいけど」
「じゃ、行こう」

そう言って花山さんは僕の手を取って準備室を出て行った。
その途中準備室に戻る海未ちゃんに会う。
海未ちゃんはぺこりと頭を下げると。逃げるように走り去ろうとすれば花山さんがその手を掴む。
海未ちゃんは立ち止まり花山さんを見る。

パシッ

渇いた音が廊下に響く。

「いい歳して逃げてるだけなんて情けないとは思わないの!あんたに告るために竹本君がどれだけ悩んだか考えたことある!?正攻法であなたに告白したんだからあなたにはそれに応える義務があるんじゃないの?それが残酷な結果でも今のままだと竹本君を苦しめるだけだよ!勝手に言い分に聞こえるかもしれないけど逃げんな!」

花山さんは一気にまくし立てた。その剣幕に圧された海未ちゃんは半泣きしている。それでも彼女は僕を見ると一言言った。

「ごめんなさい。好きな人がいるんです」

そう言うと海未ちゃんは逃げるように走り去っていった。

「どう?気分は?」
「痛いけど……清々しいです」

言葉通り晴れ晴れとしていた。やっと終わりを告げたんだなと。

「それは良かったわ。じゃあ次の番ね」

再び僕の手を掴む花山さん。
ただ手をつなぐだけじゃない。指を絡ませるように繋ぐいわゆる恋人つなぎ。
驚く僕を花山さんはこう言った。

「これからは下の名前で呼び合いましょう?悠馬君」
「花山さん……僕は……」
「わかってる。意気消沈してるあなたを落すなんて狡い手を使うつもりはない。いくらでも待つから。早い所立ち直りなさい。今は友達でいいでしょ?」
「わかりました。花山さん……」
「あんた私の言ったこと理解してる?」
「咲さん」
「まあ、それでよしとしましょう」

駐車場までそうして歩いた。
花山さん……咲さんの取り巻きの目線が痛かったけど、次の花はもう咲いているのかもしれない。

(3)

「穂乃果~。今日はバイト?」
「うん、バイトだよ」
「じゃあ、私もちょっと行くつもりだったから」

そう言って二人で歩いていると見たことのある人物に出会った。
それは、西松君と高階さんだった。
まあ、幼馴染というくらいだから二人っきりで話す事もあるだろう。
でもそんな雰囲気には見えなかった。
私達はとっさに物陰に隠れて様子をうかがっていた。

「手筈はどうだい?」
「私がミスしたことある?上手くいってる」
「流石だ……」
「ただ、片桐君が感づいているみたいね。最近青い鳥にも顔を出さなくなったしあの二人」
「片桐先輩は勘がするどいからな」
「でも、メッセージのやり取りは続いてるし支障はないわ。次のフェイズに移行しましょう」
「任せる」

何の事?今までのやり取りは全て偽りのものだったの?私たちは騙されていた?
亜依の顔を見る。亜依は何か考え事をしながら二人の話を聞いてる。
そして次の瞬間私たちは呆然とした。
白昼堂々とキスをしていたのだ。

「じゃあ、夜にまた」
「わかったわ啓介」

そう言って西松君は立ち去った。
西松君の姿が消えるのを確認すると高階さんは言う。

「隠れているのバレバレよ。もう出てきたら?」

バレてた。私達は高階さんの元へ行く。

「高階先輩、今のは一体どういうことですか?」

亜依が正面切って話をする。

「どうもこうもない、恋人同士がキスするのは当然でしょ?」

恋人同士!?

「そうね、もっと強いつながりかしら、彼が生まれたときから婚約者として育てられてきた」

こ、婚約者!?

「ここだと落ち着かないね。青い鳥にでも行きましょうか?」


そうして私たちは青い鳥に向かった。

亜依と高階さんはテーブル席に座っていた。
私は注文を聞いて厨房に伝票をはりつけ、そして二人の様子を伺っていた。

「生まれた時から婚約者ってどういうことですか?」
「文字通りよ、うちの病院は小さくてね。まあ裕福な方だったけど儲けよりも患者さんの命を救いたい。そんな一心でやっていたんだけど経営が成り立たなくて、そこで啓介の病院に支援されていたの。その見返りが私ってわけ」

ドラマになりそうな話だ。

「6歳の時に聞いた時は耳を疑ったわ。でも、父さんの「すまん」の一言を聞いて決意が固まった。……彼は一人息子でね。やりたいように育てられてきた。だからあんな性格になったのかもね」
「事情は分かりました。でも首尾ってどういうことですか?次のフェイズって何のことですか?」
「それは彼の計画を説明する必要があるわね」

西松君の計画はこうだ。
まずは高階先輩と片桐君を二人にさせる。一人になった遠坂さんに声をかける。
シンプルだけどその手はもう通じない事くらい分かってる事なのにどうして同じ失敗を繰り返そうとするのか?
それよりも……。

「そんなにべらべらと喋っていいんですか?私達敵ですよ?」

亜依がそう言うと高階先輩はくすりと笑った。

「あなた達にあの場面を見られた段階で作戦は失敗したようなもの。私のせいじゃない。彼があんなところでべらべら喋るのが悪い」
「仮にも婚約者が浮気をしていて何とも思わないんですか?」
「どうも思ったことがないわ。彼に対して何も思ってないんだもの。ただ親に取り決めされた婚約者ってだけであって、私が恋に落ちたわけじゃない」
「それを手伝うのってどうかと思いますけど?」
「何度か同じことをしてるうちに慣れたわ。所詮その程度の男なんだって」
「同じ女性として自分の好きな人を奪われれる立場になって考えたことありますか!?」

亜依は必死に訴えるが、彼女の心に届く事は無かった。

「じゃあ私も同じ女性として質問するわ。まだ物心ついて間もない時から突然この人があなたの結婚相手と言われた気持ちわかる?」

亜依は言葉に詰まった。

「それから恋愛すらしてこなかったわ、他人を好きになった事なんて一度もない。啓介の事を好きになろうと努力したけど彼はあんな調子だから……」

遠坂さんには悪いけど、高階先輩に同情してしまった。

「言っておくけど同情して欲しくて言ってるんじゃないからね。むしろこれも作戦のうちだと思ってくれても構わない」

そうは言うけど嘘には聞こえない。その証拠に亜依はなんて言って良いか分からないでいる。

「なるほど。片桐君が言ってた『束縛されているもの』ってそういうことだったのね」
「どこまでも下種な男ね不愉快極まりないわ」

志水さんと江口さんがいつの間にか居た。

二人は「いつもの」と頼むとカウンター席に座る。

「で、これからどうするつもりなの?高階先輩」

江口さんが尋ねる。

「どうもこうもないわ、私は言われた通り作戦を遂行するだけ。あなた達こそ私をどうする?このまま私をグループに入れておくわけ?」
「私たちはこれまで通り何もしない。愛莉ちゃんの言った通り先に動いた方が負ける。それだけのことよ」
「そう、羨ましいわね。そういう感情を持てることが……」

高階先輩は自らを妻と言った遠坂さんをどう見ているのだろう?愛する人がいてその人と結ばれる憧憬はどう映っているのだろう?

「さてと、じゃあ作戦を遂行させてもらうとするわ。皆と仲良くなりたいから一緒に映画でもどうかと思うのだけどいかがかしら」

機械的な口調で話す高階先輩。

「それは私たちの一存で決めることはできない?」
「そうね」

高階さんはそう言うとメッセージをグループに送信する。
皆は裏のグループで高階先輩の言ったことは把握してる。

「いいんじゃない?」

そう言ったのは片桐君だった。
今まで接触を拒んできた片桐君が動いた。
何か奇策があるの?

カランカラン

「遅れました~」

そう言って現れたのは花山さんと竹本君。
花山さん達は奥の席で二人で会話している。
私達は関与しない。そう主張するかのように。

「他に意見が無ければ決まりだな」

渡辺君がそう言う。
確かに誰も反対する者はいなかった。

「今度の週末でいいかい?」

渡辺君がそうメッセージを送ると「いいよ」と高階先輩が送った。

「じゃあ、週末を楽しみにしてるわ。伝えることは伝えたわよ。対策をちゃんと練ってくるのね」

そう言って高階先輩は店を出た。

「なんか高階先輩可哀そうですね」

私は高階先輩に同情してた。

「私もね……なんか敵じゃない気がしてきたのよね」

亜依も同調する。

「それが手かもしれないわよ」

と江口さんが言えば。志水さんは首を振ると封筒をテーブルの上に置く。
封筒には「調査報告書」と書かれてあった。

「彼女の言っている事は本当よ。彼女の病院経営難でつぶれかけているところを西松に助けられてる。条件も間違いない」
「でもこれからどうすればいいの?」

私が聞くと誰も答えてくれない。
皆、頭を悩ませる。

カランカラン。

懐かしい顔を見た。
片桐君と遠坂さんだ。

「おお、久しぶりだな。いつものでいいかい?」

マスターがそう声を張ると彼は頷く。

「久しぶりに腕がなるな!!」とマスターは意気込む。

「高階先輩はもう帰ったの?」

片桐君たちは亜依の対面に座る。

「ちょうど今出たところよ」
「そう、話は聞いたよ。よかったじゃない」
「『よかったじゃない』っていいわけないでしょ!これまでで一番やりづらい相手よ。今まで敵に同情する事なんてなかった」
「解決の糸口がやっとつかめたって気がするんだけど?」

片桐君が言う事はたまにわからない。

「糸口?」
「うん、大根みたいなものだよ」
「大根!?」

亜依が聞き返す。片桐君のいう事は本当にわからない。

「要は煮込めば柔らかくなって味も沁みるって事……愛情も時間をかければ染み込んでいくって言いたいんだと思う」

遠坂さんが通訳してくれた。

「あの二人がちゃんとくっつけば僕達の勝ちでしょ?」

片桐君は簡単に言うけど、そんなにうまくいくの?

「あのさ、片桐君ちゃんとメッセージ見た?高階先輩は」
「だから時間をかければ染みるって言ったろ?豚骨だってじっくり時間をかければいい出汁取れるし……」

ぽかっ

「冬夜君が言いたい事は。とっくにあの二人はそう言う感情になってるんじゃないか?ってこと。出汁を濾すように、灰汁取りをしてやるように。味見をさせてやれば簡単にその美味さに気づくんじゃないか?ってこと」
「なるほどね~。それなら遠慮なくできるね」
「時間がかかるかもしれないけどここが勝負どころね」
「やっと仕掛ける時がきたってわけね。いけない、なんか緊張してきた!」

遠坂さんが通訳すると、亜依と江口さんが話しあう。

「じゃあ、とりあえず今度の映画が最初の勝負ね!」

亜依がそう言うと皆がうなずいた。

(4)

週末の日。
私は冬夜君の車で街の駅ビルに向かっていた。
冬夜君本当に大丈夫かな?

「本当は手っ取り早い荒療治があるんだけどね……さすがにやばいから言わなかった」
「ほえ?」
「あ、いや。忘れてくれていいよ……本当にしょうもないことだから」
「な~に」
「内緒……じゃだめ?」
「夫婦に隠し事は無しだよ?」
「あのさ……」


ぽかぽかっ!

「冬夜君の馬鹿!そんなの絶対に許しません!」
「だからボツって言っただろ」
「思っても駄目!」

まったくろくな事考えないんだから。


映画館についた。何組かに別れてみることにした。
私と冬夜君は魔法使いのシリーズのスピンオフ作品を見ることに。

「遠坂さんと一緒ので」
「片桐君と一緒ので」

案の定二人はついてきた。
後の人は他のを見るらしい。
ずっと冬夜君の側にいた。ポップコーンと飲み物を買う時も、上映開始までゲーセンで時間を潰す時間も、映画を観る時もぴったりとくっついていた。
離れたのは、映画が終わってお手洗いに行くときだけ。
冬夜君は入り口で待っていてくれていた。

「ちゃんと話を聞いてきたみたいね。隙が全く無いわ」

鏡を手を洗う時に高階先輩が話しかけてきた。

「これで終わり……なわけないですよね?」
「そうね、まだ仕掛ける時があるかもしれない」
「実際どうなんですか?西松君の事?」
「全部聞いたんじゃなかったの?」
「それだけじゃないと思うんですよね?」
「どういう意味?」
「私も冬夜君から聞いただけだからわからないんです」
「そう」

私達がお手洗いから出ると、冬夜君と西松君が待っていた。

「おまたせ」
「おかえり」

笑みを浮かべる冬夜君と対照的に苦々しい表情の西松君。
皆の鑑賞が終わるまで待つことに。

「愛莉そこ空いてるよ」

冬夜君が開いてる席を見つけて譲ってくれる。
その隣に当然の様に座る西松君。
私は蔑む目で西松君を見る。

「いくら幼馴染とはいえそこは女性に席を譲るべきじゃないんですか?」
「そ、そうですね。深雪、ほら座れよ」
「ありがとう」

そう言って西松君は高階先輩に席を譲る。

「高階先輩いつもそんな扱い受けてきたんですか?冬夜君なら絶対にしませんよ」
「幼馴染だものそんなものよ」

私の方が年上だしね。と付け加えて。

「そんなんだから、西松君みたいになっちゃうんですよ。レディファーストを徹底させないと」
「遠坂さんはいいわね、自分の彼氏が紳士で」
「高階先輩も西松君と一緒にいるより他の人見つけたらどうですか?幼馴染だからってずっと一緒にいる必要ないと思いますよ?」

私がそう言うと西松君の眉がピクリと動かすのを私は見逃さなかった。
冬夜君の言った通りだ。

「どうです?高階先輩。渡辺班に任せたらいい男性見つけてくれますよ」

冬夜君がそう言うと二人の表情がから笑みが消える。

「こう見えて啓介にもいいところあるのよ?」
「え?私にはわからない!?すっごい最低な人と思ってたんだけど」
「遠坂さんはもっと礼儀がなってる人かと思ったけど違うのね。人の彼氏捕まえて最低とか普通言わないわよ」
「あ、ごめんなさい。お付き合いされてたんですね。私ただの幼馴染かと思ってました。好きな人の悪口言われたら普通怒りますよね」

高階先輩は口を押えてしまった!という表情をしている。
頭を抱える西口君。

「本当にごめんなさい。でも、やっぱりそうだったんですね。お二人共付き合っていたんだ。冬夜君の予想通りだ」
「そういうわけじゃないわよ……」
「隠さなくてもいいのに、どんな相手でも好きってフィルター通しちゃうと素敵に見えますよね。ダメなところも受け止めてしまう……」
「愛莉……それは恋じゃなくて愛って言われたろ?」

冬夜君も役者さんだなぁ。すらすらっと台詞が言えてる。

「あ、そうだったね。ごめんなさい。でも高階先輩の様子を見てると……」
「遠坂さん勘違いをしている。彼女とはそんな間柄じゃない」
「そんな一方的な決めつけってどうかと思います。彼女にちゃんと気持ち確かめたんですか?」
「そ、それは……」

焦る西松君。
その時皆集まってきた。

「どうしたんだ愛莉」

神奈が聞いてくる。
皆に事情を説明する。

「やっぱりそうだったんだね穂乃果」
「亜依ちゃん見間違えじゃなかったんだね!二人がキスしてるところ見たのよ」

そう言うと皆が盛り上がる。

「まさか西松は好きでもない女性にキスするような下種じゃないよな?」

神奈が問い詰める。

「きょ、今日は失礼します。帰るぞ深雪」
「え、あ。うん……」

そう言って二人は立ち去っていく。


その日の晩。皆で宴を開いた。

「いやあ、冬夜さすがだな!」

誠君が冬夜君の背中を叩く。

「ここまでうまくハマるとは思っていなかったよ」

冬夜君はやっぱりファンタジスタだね。劇的な瞬間を作り出すのは才能だよ。
その時女性陣のスマホが鳴る。
女子会のグルだ。

「あんなに狼狽える啓介久しぶりに見たわ。やるわねあなた達……けど用心しなさいよ。彼もやられっぱなしじゃないだろうから」

女性陣はそれぞれのパートナーにそのメッセージを見せる。

「皆、ここからが反撃の開始だ。気を引き締めていくぞ」

渡辺君が言うと「おー!」と皆が叫ぶ。

宴を終えると、皆がそれぞれ家路に着いた。

「2次会行く人は俺に着いて来てくれ!!」

渡辺君はそう言って2次会に行く。
私たちは帰ることにした。


家に帰るとシャワーを浴びて部屋で髪を乾かす。
冬夜君はテレビを見ながらジュースを飲んでいる。

「今日は久しぶりに楽しかった」
「そうかよかったな」
「他人事みたいに言わないの!」
「ああ、なんか実感わかなくてさ。人を嵌めるのって久しぶりだから」
「高階先輩のお蔭だね」
「あの人も本当は気づいてるんだよ。風の憧憬に……」
「憧憬かあ……」

憧れはいつか実現するもの。
私はそう信じてる。
だって私の憧れはいつもそばにいるから……。
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