優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

夢の岸辺に

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(1)

「冬夜君おはよう、朝だよ~」

愛莉が耳元で囁く。

「おはよう愛莉」

僕は愛莉の耳元で囁く。

この後起き上がるはずなのだが愛莉は起きようとしない。

「起きなくていいの?」
「冬夜君に抱かれていて気持ちがいいの。冬夜君は?」

愛莉の仄かに熱を帯びた体温と柔らかな感触が心地よい。

「……そうだね。もう少しこのままで」
「うん……」

愛莉を抱いて眠る。
まるで愛莉がお母さんのようだ。
愛莉の胸に顔をうずめる。
そんな僕の顔を愛莉の両腕が包んでくれる。

「ずっとこのままでいようね」
「ああ、ずっとこのままで……」

「起きろー!!」

ぽかっ

夢だったようだ。

「あ、起きた?」

いつもの愛莉が僕の顔を見る。
僕は愛莉を抱きしめ夢の続きを堪能しようとする。

「冬夜君そういうのは夜のお楽しみ!」

そう言うと愛莉は僕の腕をすり抜けてベッドからでて部屋を出て行った、
愛莉が朝食の準備をしてる間に着替えを済ませると、テレビを点ける。
アイドルユニットが解散するとかそんな話題だった。
しばらくテレビを見ていると愛莉が「ご飯できたよー」と叫んでいる。
テレビを消して僕は部屋を出た。



朝ごはんを食べて、支度を済ませると僕は部屋に戻っていた。
ネットのニュースもテレビのニュースもさほど変わらない。
PCをシャットダウンして、テレビを見ていると愛莉が戻ってくる。
朝の夢の影響だろうか。愛莉が気になって仕方がない。
着替える愛莉に抱き着こうとするが愛莉に拒否される。

「夜のお楽しみだってば~」

分かってる。
でも朝の夢の感覚が妙になまめかしくて気にってしまうんだ。
愛莉は着替えを終え、化粧を済ませると僕の隣に座る。
愛莉のシャンプーの匂い。いや、香水の匂いかな?が気になって愛莉を意識してしまう。
思わず愛莉の肩を抱き寄せる。
愛莉は抵抗しない。
思い切って愛莉を押し倒す。
愛莉は抵抗しない。
僕はただ愛莉を抱きしめていた。
朝の夢の感触が読みがえる。

「冬夜君……」
「わかってる、これ以上はしないから」

だからこのままでしばらくいさせて。

「今日おかしいよ?また変な夢見た?」

隠す理由が無いので愛莉に話した。

「愛莉に抱きついている、夢を見た」

愛莉の体温が若干上がっている気がした。
鼓動は明らかに早くなっている。

「夢にまで私出てきた?」

愛莉はそう言って笑顔で返す。
どうしてあんな夢を見たんだろう?僕にはわからない。
ただその感触だけがいつまでも残っていた。
テレビの音とセミの鳴き声が聞こえてくる中僕たちはその姿勢を保ったままお互いを見つめている。
愛莉は続きを期待しているんだろうか?何も言わずに目を閉じている。
僕は悩んだ、このまま突き進んでいいのだろうか?
それはないな、僕は愛莉を解放してやる。

「もういいの?」
「続きは夜……だろ?」
「うん!」

愛莉はそういうと起き上がりテレビを見だした。
いつでも触れる夢の岸辺に立っている。
しっかりと係留して側にいよう。
また漂流することのない様に。
夏の嵐はいつ訪れるのか分からないのだから。

(2)

椎名さんは本当にやり手のようだ。現場に赴いてはてきぱきと指示を出し。会社に戻っては資料を漁り見積もりをチェックする。
クライアントとの連携もばっちりとこなす。間に俺を挟んでだが。
一度に二つ以上の案件を見事にこなしていく。クライアントの要望に応えつつ予算内でキッチリ収める。

「ふぅ、真鍋君コーヒーいれてくれるかな?」
「アイスとホットどっちがいいですか?」
「じゃあ、アイスで」
「はい」
「真鍋君、クライアントに電話して早急に洗面器の希望を聞いておいて」
「わかりました。色も聞いておいた方がいいですよね?」
「うん、たぶんアイボリーで間違いないと思うけど。念のためね」

俺も言われたことをこなす。
言われたことをただこなすだけじゃなく、その先を読んで動く。
その事の大切さをこのバイトで学んだ。
もちろんただのバイトの身分だという事を忘れずに。
椎名さんや友坂主任の確認を取りながら動く。

「真鍋君は確かに、良く動くね」
「でしょ、うちの重要な戦力よ」

椎名さんと友坂主任にそう褒められた。
俺は淡々と言われた作業をこなす。

「真鍋君は彼女がいないの?」

唐突に椎名さんが聞いてきた。

「いませんよ」
「いないのかい?真鍋君なら大学でもモテモテだと思ったけど」

近藤さんがそう言った。

「そんな暇ないですよ」
「それはもったいない。学生時代に作っておくべきだよ。社会人になったらそんな暇無くなるから」
「ああ、そういうの面倒なんですよ」
「面倒とか言ってる場合じゃないわよ」

友坂主任も話に混ざる。

「友坂主任も独身じゃないですか?」
「うぅ!それを言うか?仕事に没頭してたらこの様よ」
「友坂主任は素敵だから今からでも間に合いますよ、何なら俺が」
「ああ、どっかにいい玉の輿いないかしらね」

近藤さんは友坂主任の事を憧れているらしい。
そんな近藤さんを軽くあしらう友坂主任。

「真鍋君、好きな人はいないの?」

友坂主任が聞いてきた。

「い、いませんよ」

若干動揺した。

「その様子だといるな~?大学の子?」
「違いますよ」
「『居ない』じゃなくて『違います』ってことは気になる子はいるってことね」

簡単な誘導尋問にまんまとかかってしまった。

「本当にいませんから。それより、この店の戸敷居無しでいいんですか?」

話題を切り替えようとする俺。

「……社長とか?」

椎名さんが、突然原田さんの名前を口にした。
動揺して思わずCADを閉じてしまう。

「当たったみたいだね」

椎名さんはにやりと笑う。

「あんた何考えてるの?あの人は!」
「どうしたの?何か問題事?」

原田さんがやってきた。

「いえ、なんでもありませんよ。真鍋君、クライアントは吊り戸を希望してるから敷居は無くていいよ」
「わ、わかりました」
「吊り戸の高さ確認してね。床にこすれて開かないなんてことのないように」

椎名さんがそう言うと原田さんは自分の席に戻った。
椎名さんに助けられた。

「君ってすぐ動揺するね」

椎名さんは笑ってた。

「お、俺だって、分はわきまえてるつもりです。高根の花だってことくらいわかってます」
「でも、手は付けたと」
「そんなわけないじゃないですか?」
「真鍋君、フローリングの高さ考えて。あと、それだと板のサイズ上がってしまう」

友坂主任がしてきしたので修正する。

「……手を出したのね?」

俺は顔が赤くなる。
椎名さんがにやりと笑う。
片桐先輩並みにやりづらい相手だ。
このままだと何もかも暴かれてしまいそうだ。
ふと時計を見る。あ、もう終業時間過ぎてる。

「俺、今日この後予定あるんで失礼します」

そう言ってPCをシャットダウンする。

「お疲れ様」
「お疲れ様です」

そう言って退社した。

(3)

「それじゃ、今回は二人に挨拶してもらおうか」

渡辺君が言うと、高階先輩と西松君が立った。

「皆さんにはご迷惑をおかけしました。何とお詫びを言って良いのか……」
「めでたい席なんだからしみったれたことは抜きにしろ!」

美嘉さんがそう言うと西松君は頭を下げて言った

「俺なんかの為にこうして席を設けてくれた事感謝しています」
「わざわざありがとうね、皆式には是非とも来てね」
「じゃ、乾杯といこうか!」

渡辺君がそういうと皆立ち上がってグラスをかつんとあてる。

こうして宴は始まった。

私と冬夜君はまず高階先輩たちに挨拶に行った。

「お二人共おめでとうございます」
「遠坂さん達に祝福されると嬉しいわ」
「遠坂さんにはどうお詫びを言ったらいいのか……」
「めでたい席なんだからそういう話はぬきにしよう?」

そう、今宵は西松君と高階先輩の婚約を祝う宴。

「羨ましいな~。いよいよ結婚なんですね」
「まだ分からないわよ。婚約破棄なんてこともあるんだから」

高階先輩はそう言って笑う。
でも二人はもうその心配は無いと思う。それを物語るかのように、高階先輩を見る西松君の目はとてもやさしい。これなら大丈夫。私はそう確信していた。

「式はいつ頃なんですか?」
「来年の6月に予定してるわ」
「ジューンブライドですね!いいなぁ」
「ぜひ来てね」

冬夜君も西松君と何か話してるようだ。

「おめでとう、西松君」
「彼女との結婚は端から決まっていたんですけどね」
「そういう言い方は無いだろ?」
「わかってますよ。ただ、こんな気持ちで迎えられるとは思いもよらなかった。先輩方のおかげです」
「最後に気づかせてくれたのは高階先輩だよ。彼女を幸せにしてあげないと」
「次は片桐先輩の番ですよ」
「わかってるよ」

プロポーズの日が近いのかな?
期待してもいい?

「西松おめでとう!」

神奈がそう言う。
振り返ると皆ずらりと並んでいる。私たちは席を譲った。


席に戻ると冬夜君の取り皿に料理を盛ってあげる。
冬夜君はそれを食べる。
皆は次々と祝辞を二人にかける。
私はそれを羨ましそうに見ていた。
冬夜君はそれに気づいたのか。私に声をかける。

「愛莉ごめんね、待たせて」
「いいの。冬夜君の言う通り自立しないと意味がないし」

冬夜君言ってくれたよ?
事実婚だって。
ちゃんと冬夜君は私との事考えてくれてる。
冬夜君は求婚を待ってと言っていたけど、もう意味なんてないよ。
だって私の答え……知ってるんでしょ?

「トーヤ!今日は二次会行くよな!」

神奈が戻ってきた。

「ああ、今日は行かないとだめだろうな」

冬夜君が答える。

二次会はカラオケのパーティルームで行われた。
皆がウェディングソングを歌っていた。
冬夜君は相変わらず食べてるだけだけど。
2次会は朝まで行われた。
夜明けとともに夜の宴は終わりを告げる。

「じゃあ、また」

そう言って皆散り散りに去って行った。

「冬夜君、私たちも帰ろう?」
「あ、ああ。そうだな……」

どうしたんだろ?何か様子が変だ。

(4)

帰らずに海へ向かっていた。
愛莉は戸惑っている。

「どうしたの?」

愛莉が聞いてくる。

「ちょっと行きたいところがあるから」
「?」

僕達は国道沿いにある海岸に向かっていた。

「足下大丈夫?」
「うん、サンダルだし大丈夫だよ」

愛莉と海辺に行くと二人で座った。
愛莉は日傘をさしている。
日傘も一応車に常備しておいた。愛莉の肌は弱いから。

「急に海に来てどうしたの?」

愛莉が聞いてくる。

「なんとなくそんな気分になってさ」
「ほえ?」
「結婚する時期ってさざ波みたいなものなんじゃないかな?って考えて」
「?」
「今寄せてきているうけどいずれ引いちゃうんじゃないかな?だとしたら今のうちに愛莉に求婚しておかないと後で後悔するんじゃないかな?って」

愛莉は何も言わずにただ聞いていた。そして僕が言うとクスクスと笑い出した。

「冬夜君でもそんな詩的な事考えるんだね。でもブーッだよ」

ぽかっ。

「冬夜君はまず大きな間違いをしています。事実婚だって言ったの冬夜君だよ?単に籍を入れてないだけのお嫁さんだよ?」

そういやそうだったな。

「次に冬夜君は気づいてない寄せては引いていくけど……また寄せてくるんだよ?私たちはいつもそうだった。いろんなものが押し寄せてその度に色々あって。やがて引いていく。きっとこれからもずっと」

愛莉の言葉を黙って聞いていた。

「二人が離れてもやがてはまた一緒になるんだから。いや、冬夜君なら一緒に引いてくれるはず。次の波が押し寄せるまで側に居てくれるはずだから」

愛莉の言う通りだ。どうして急にこんな事を悩んでいたんだろう?分かり切っている事のはずなのに。

「冬夜君は今結婚という波にのまれてるだけだと思う。勢いで私に求婚しようとしてる。焦っているだけだよ。無理もないよね?急に二組の結婚を知ったんだから」
「愛莉の言う通りかもしれないな」
「冬夜君は冬夜君のままでいいんだよ?揺らがないで」
「いいのか?今なら愛莉にプロポーズしちゃうかもしれないぞ」
「そう言ってる時点でプロポーズだと思うんだけど?」

そう言われてみればそうだな。

「で、返事は?」
「うぅ……どこまで鈍いの冬夜君は。私はいつも懸命に訴えてきたよ」
「ちゃんと知りたい」
「じゃあ、ちゃんとプロポーズしてくれた時に教えてあげる」

愛莉の顔は赤く染まっていた。
分かり切ってるけど、愛莉の口からちゃんとききたい。
その為にはまず自分の言葉で愛莉にちゃんと伝えよう。どんな台詞がいいんだろうか?

「冬夜君忘れてないよね?長い台詞考えても無駄だよ?私は最後まで聞く気ないからね?」

そうだったな。

「そろそろ帰ろうか?眠くなってきた」
「うん」

そう言って岸辺を後にする。
押し寄せては引いていきそしてまた押し寄せる夢。
そんな夢も二人一緒なら揺れることなく仲良く漂っているのだろう。
決して離れることなくいつまでも……。
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