優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

夢追い人

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(1)

「う~ん……」

私の方が先に目が覚めてしまった。
冬夜君が起こしてくれるって言ったのに。
冬夜君は私の体に抱き着く様に眠っているのでうかつに動けない。
私の方が先に起きたと知ったら、彼はきっと落ち込むだろうから。
うぅ……仕方がない。彼を起こそう。その後寝てる振りをすればいい。

「冬夜君朝だよ」

冬夜君の耳元で囁くと「ん?」と声を出す。
起きたようだ寝たふり寝たふり。

「愛莉?」

私は気づかないふりをして寝たふりを続ける。

「なんだ、まだ寝てるのか」

冬夜君は再びまた寝たようだ。
そうじゃないでしょ、冬夜君の馬鹿!!

ぽかっ

「え?愛莉!?」

私は再び寝たふりをする。
今度は起きてるかな?
冬夜君をちらりと見る。一瞬目と目が合いそうになった。
慌てて目をそらして寝たふりに戻る。
もういい加減気づいてよ。

「愛莉!起きてるの?」

自分で言ったことを忘れたの?
今の私は眠り姫なんだよ?
冬夜君はやっと思い出したかのようだ。
私の顔を自分に向けると柔らかな感触が唇に触れる。
私はようやく目を覚ました。

「起きてるなら起こしてくれたらいいのに」

そうじゃないでしょ!?冬夜君が今日は魔法をかけてくれた日だよ。
魔法使いが100年後に目が覚める魔法が効くように、冬夜君の口づけで目を覚ましてあげるって。

「そうだったな、忘れてたよ」

笑って誤魔化そうたってそうはいかないんだから。
私は拗ねたふりをする。
黙って洗面所に行って顔を洗って髪を梳く。
すると冬夜君がだまって後ろに立ってる。
軽くホラーだよ。

「愛莉ごめん」

冬夜君は突然叫んでいた。
私は驚いて冬夜君の顔を見る。
冬夜君の顔を見て笑ってしまった。
冬夜君はきょとんとしている。
ごめんね。謝っている時の冬夜君の顔が初めて大ゲンカしたあの日の夜の顔とだぶって見えたから。

「ほら、冬夜君も着替えないと朝ごはん食べれなくなっちゃうよ」

冬夜君は動こうとしない。
私をじっと見てる。
鈍いのか鋭いのか分からない人だな~。
私は冬夜君に抱き着く。

「まだわからない?いつも言ってるでしょ。私の心の中ちゃんと見てって」

少し間をおいて冬夜君の表情が安堵の表情に変わっていた。

それから朝食を食べて、出る準備を終えるとチェックアウトギリギリまでテレビを見ていた。
冬夜君は寝ていたけど。
また、運転しなきゃいけないんだ。少しでも寝せておいてあげよう。
私は一人テレビを見ながらスマホを弄っていた。
冬夜君と始めたゲーム。
SSRと呼ばれるキャラと武器を集めて戦闘して話を進めていくゲーム。
冬夜君の方が上手い、というかレア運がすごい。でもその幸運の恩恵は私にもあって冬夜君とマルチプレイすると必ずSSRが当たる、
それだけでは強くなれないのでこうしてたまに一人の時にやっている。
そうしていると時間になる。
冬夜君を起こすとホテルを出る。
あれ?来た時と道が違う。
どうしたの?

「いや、時間たっぷりあるからのんびり行こうと思って」

冬夜君の言う通り途中ご飯を食べても神戸まで5時間足らずで着いた。
考えた末ネットカフェに寄って時間を潰し、夕食を食べてフェリーに乗ることに。
ネットカフェに着くと冬夜君はお目当ての漫画とジュースをもってブースに向かう。
私は一人ネットをしていた。
退屈だ。冬夜君は構ってくれない。
……いいもん。
私達がやってるネットゲームはネカフェ特典なるものがあるらしい。
獲得経験値が倍になったりアイテム獲得率が上がったり。
冬夜君がしてない間にやって差をつけてやる。
一人でやる時用のダンジョンに入ると冬夜君が「珍しいね」と声をかけた。
退屈なんだもん、仕方ないじゃない。
桐谷君の装備は桐谷君に返した。桐谷君には失礼かもしれないけど冬夜君に借りてる装備の方がはるかに強いから。
1時間も狩りをしているとなんか色違いのモンスターに出くわした。
それも倒そうとするとなんか装備を剥がされた。

「愛莉逃げなきゃ!」

それを偶々見ていた冬夜君が教えてくれる。
テレポートのアイテムを使ってその場を離れ、一度ログアウトしてから装備を付けなおす。
その間に冬夜君が私がゲームをしているマップに辿り着いていた。
冬夜君は嬉々としてそのモンスターを探す。
MVPと呼ばれるものらしい。
金色に輝く冬夜君のキャラはそのMVPを見つけると迷いも無く突っ込む。
そして瞬く間に倒した。
残されたアイテムの中に緑色の四角のものが。
レアアイテムなんだそうな。
そんなに高くないけどそれでも高額で取引されるらしい。

「やったな愛莉。愛莉とやってるとレアが出るから楽しい」
「そう思うなら冬夜君も手伝ってよ」

私は不満をぶつけていた。

「ああ、ごめん。ちょっと待ってね」

冬夜君の指定した場所に行き冬夜君とプレイをはじめる。と、言っても冬夜君のプレイヤーを追いかけながらダメージを受けたら回復剤を使うだけの簡単な作業だけど。
レベルは一気にあがった。160だったのが今では170ちょっとまで上がってる。

「そろそろ時間じゃない?」

ごはんの時間も考えるとそろそろ頃合いだ。
冬夜君は「ログアウトする前に特典ボーナス受けとき?」と言うので受けてからログアウトしてPCをシャットダウンする。
冬夜君はその間に漫画を片付けてブースを出る。

車に乗ると冬夜君が悩んでいる。
大方夕食の事だろう。

冬夜君に「お肉でいいよ?冬夜君食べたいんでしょ?私の分残ったら冬夜君食べてね」という。

「いいのか?」と冬夜君が聞いてくる。私は頷いた。

冬夜君は肉料理ならと目星をつけていたらしい店に行く。
本当に冬夜君肉好きだね。
私が食べきれない分は冬夜君が食べてくれた。
夕食を食べ終えるとコンビニでジュースや食べ物を買ってフェリー乗り場にいき乗船手続きをしてから船に乗る。
明日になれば地元に帰れる。
まだ8月は終わらない。
残り一か月ちょい何して過ごそう?
デッキに出て神戸に別れを告げる。
船を出るときいつも思う。
船の後方にできる波のように人は思い出を残していく。
それはすぐに消えていく。
それでも思い出は色んなことを深く抱きとめ、
消してゆくけど私は覚えているずっと……。
でも消えていてもいい、また新たに刻んでいけばいい。
ノートに書いた思い出が筆圧で次のページに後が残るように、冬夜君の胸に強く刻みつけてやればいい。
いつか冬夜君の心に深く残ることだろう。
もう見えてる冬夜君との夢のゴールまでそれは続くのだから。

(2)

甘い匂いが漂ってくる。
なんだろうこの匂い。
匂いにつられて目を覚ます。
隣に寝ていたはずのかずさんがいない。

「かずさん?」

私は辺りを見回してかずさんを探す。
かずさんはキッチンで何か作っているようだった。

「かずさん何してるの?」

私はキッチンにたっているかずさんに声をかけた。

「あ、花菜おはよう。もうちょっとでできるからちょっとまってて」

私はテーブルについて、テレビをつけてかずさんを待つ。

「はい、お待たせ。簡単なものだけど」

かずさんが作れっていのはフレンチトーストだった。
フォークとナイフで切って食べる。
美味しい。

「かずさん料理できるんだね」
「一人暮らししてるからね、簡単なものなら作れるよ」

朝食を終えると「片付けもやるから」とかずさんは食器をキッチンに運ぶ。
その後は二人でテレビを見ながら時間を潰す。
昼ごはんは私がカレーピラフを作って食べると青い鳥に向かう。
江口さんの悩みを聞いて江口さんと渡辺夫妻が帰った後に話は続く。

「で、穂乃果何があったの?」
「え?」
「だってこの前まで週末は旅行だって楽しみにしていたのに。何か浮かない顔してるから」
「あ、気付かれた?」
「まあね」
「実は……」

簡潔に説明しよう。
要するに昨夜から中島君と連絡がつかないらしい。
何度も電話をすると電源を切られたらしい。
あからさまに怪しい態度。
やましい事をしているに違いない。
そんな話を志水さん咲良さんを交えて4人で話していた。
檜山先輩は何も言わない、平静を装っている。彼はいつもの事だけど。

「酒井君は何か知ってるんじゃないですか?友達でしょ?」

私は、揺さぶってみた。
一番揺さぶりに弱そうな酒井君を狙ってみた。

「あ、あまり詮索するのはよろしくないんじゃないかな?」
「詮索されて困ることしてるんですか?」
「いや、そういうわけじゃなくてね……人それぞれ事情というものがあるでしょう?」
「つまりあるんですね?」
「い、いや。そこまでは知らないかなぁ……あはは」

態度があからさまに怪しい。
怪しい態度をとっているのがもう一人いた。
私の隣でスマホを手にしている人物・かずさんだ。

「かずさん、スマホ見せて」
「え?」
「女性陣は男性陣のスマホを検閲する権利があったはずです」
「そうね、善君。スマホ見せて」

志水さんがそう言うと酒井君は「い、今ロッカーに入れてあるから」と言い逃れた。

「春樹さんもみせてください。やましい事が無いならみせられるよね~?」

咲良さんも檜山先輩に聞いている。
最初に動いたのは檜山先輩だ。

「……言っとくけど大したこと書いてないぞ?」

そう言って咲良さんにスマホのロックを解除して渡す。

昨夜までログを辿るとある一文を咲良さんは読んでいた。

「今夜は合コンあるから。上手くごまかしておいて……。なんですかこれ~」

酒井君とかずさんが頭を抱える。二人共知っていたのね。

「だから合コンに誘われたんだろ?中島はサッカー部だったろ?普通にあるんじゃね?」
「彼女いるのに合コン行くなんて信じられないです~。春樹さんも行くんですか~?」
「ま、前にも言っただろ?咲良以外の女に興味なんてねーよ」
「興味ない=行かないってことにはならないですよね~?」
「俺が行ってもつまらなさそうにしてるからな、場がしらけるって言われて誘われなくなったよ」
「ってことは行ってたんですね~?」
「咲良と付き合う前の話だよ」
「……その言葉は信じてもよさそうですね~。ログを見た限りだと」

檜山先輩の疑いは晴れた。残りの二人はというと……。

「僕が合コンに誘われるような男に見えるかい?」と笑う。

かずさんは……、沈黙を貫いてる。まさか……。かずさんは突然頭を下げて「ごめん!」と一言言った。

「人数合わせで行ったことがある」
「どうしてそういう事言えるんですか……?行ってないって言ったら信用してたのに」
「嘘ついてバレるよりはましだと思って」
「バレっこないじゃないですか。合コン行ってますってカミングアウトされた時の彼女の気持ち考えたことありますか?」
「次からは彼女いるからと断るよ。大丈夫、浮気なんてしてないから」

それを信じろって言うの?さっきまで合コン行ってたことを隠してた相手を。

「下らねーな。合コンくらい誰だって誘われるだろ?そのくらいでぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるから男も言いづらくなるんだろう。あまり束縛すると本当に浮気しちまうぞ」

檜山先輩が言うと、咲良さんが反抗した。

「じゃあ、春樹さんは私が合コン行っても何とも思わないんですか~?」
「咲良の大学じゃ咲良はアイドルなんだろ?むしろ行っててもおかしくないと思ってたけど」

何の悪びれもなく言う檜山先輩。

「酷いです~、私だってそのくらいの気は使います~。……尻軽じゃないって言ったの春樹じゃない?」
「だから行くのと浮気するのとじゃ全然違うだろ!咲良はそんな女じゃないって信じてるから別に行っても何とも思わねーよ」
「……信じてるのと見くびられてるのとじゃ全然違うんだけど」
「じゃあ、咲良は合コン行ってその辺の男に迫られて許すほどの軽い女だと心配されたいのか?」
「それは……」
「本音で言えば行って欲しくない。でも付き合いとかしょうがないときもあるだろ。一言言ってくれれば別に平気だよ」

一言があればいい。しかしその一言がなかったから。今回もめてる。

「花菜、これからは断るから見逃してくれ」

私はどうしたらいいのか悩んだ。一度あることは何度もあると聞いたことがある。でも白状したという事は多少なりとも悪いと思ってたという事なんだろう。

「……今回だけですよ」
「分かってるよ」
「……となると、問題は中島君ね」

志水さんが言うと、またも檜山先輩が口を挟んだ。

「だから、ギャーギャー騒ぐことねーって。行って欲しくないならそう言えよ。そしたら分ってくれるよ、渡辺班の男なら」

言うだけ言うと檜山先輩は咲良さんに「そろそろいくぞ」と言って店を出ていった。
咲良さんは檜山先輩について行く「また女子会のメッセージで」と言い残して。
志水さんは、スマホを操作している。
渡辺班にメッセージを書き残していた。

「中島君へ今夜22時に一ノ瀬さんに連絡入れなさい。内容は言わなくてもわかるわよね?しなかったらどうなるかわかってるでしょうね?」

中島君から「……わかった」と着た。

「中島、なんかやったのか!?」
「なんかあったの?」
「南無」
「まあ、頑張れ」

と、男性陣からのメッセージ。

「中島君から何か言って来たら出来たら連絡ちょうだい。女子グルの方でいいわ」

と、志水さんは言った。

「花菜、そろそろ帰ろうか?」
「はい……」

そう言って私達も店を出る。

「あの二人大丈夫かな?」
「檜山君も言っていたろ?渡辺班の男性だったら問題ないよ」
「かずさんも大丈夫……ですよね?」
「信じてもらうしかないな」

いつかありのままに愛せる日まで月日は流れていくしかないのか?
かずさんの右手が私の左手を握る。
かずさんをみるといつもの優しい笑顔。
いつまで見続けていられるだろう?
出来るなら失いたくない、その笑顔。
あと半年もすれば彼は社会人として広い世界に出ていく。
そうしたら新たな出会いが待っているかもしれない。
それが怖くて仕方なかった。
ずっと私を選んでいてくれるだろうか?
その心配が杞憂に終わる日がくるまでもうしばらくの時間を必要としていた。

(3)

22時。
そろそろ時間か。
俺は連絡先から穂乃果を選択してダイヤルする。
穂乃果はすぐにでた。

「もしもし」
「もしもし……」

沈黙が流れる。お互いにどう切り出せばいいのかわからないでいた。
穂乃果が切り出す

「用が無いなら切るね……」
「ま、待って」
「何?」
「……その、ごめんなさい!」
「どういう意味?」

どういう意味って……バレたんじゃないのか?男子グルで話してたみたいだけど。

「浮気したわけじゃねーんだしおたおたするんじゃねーよ。堂々と謝れ」

言ってる意味が分からなかった。がなんとなくは分かる。

「その……メッセージみたんだろ?」
「見たよ。それがなに?」

それが何?って……気にしてないのか?

「合コンに行ってごめんなさい?……それとも浮気したからごめんなさい?……それとも他に付き合う子ができました?」
「合コンに行ってごめんなさい。でも浮気とか他に付き合うとかはないから!」
「どうして黙って行ったの?行くなら行くって言えばいいじゃない」
「行ったら怒られるかと思って」
「怒るっていうか不安だった。どこにいるんだろう?何をしているんだろう?って……だって突然電話が切れたんだもの」
「ごめん」
「もう一度聞くね。何に対して謝ってるの?」
「……隠れてこそこそしていた事」
「……もう2度としないと誓える?」
「誓うよ」

泣き出しそうな穂乃果の声だった。

「絶対だよ。今誓ったんだからね?嫌だよ、こういう気持ちになるの」
「分かってる」
「分かってないからやったんでしょ!」

穂乃果の声は悲痛だった。
自分の怒りをというよりは寂しさを訴えてくるような声。

「ごめん」
「1度言えばわかる……他に言う事無いの?」
「俺が好きなのは穂乃果だけだよ」
「うん……わかった。で、どうだった?」
「何が?」
「合コン、行ったこと無いからどんな感じか分からなくて」

正直、面白くなかった。皆が俺が俺がと自己アピールしてる中、「いや、俺彼女いるんです」とも言えずただ黙ってるだけどの時間。
酒を飲みながらひたすら時間が過ぎるのを待ち1次会が終わるまで待って、2次会はパスして一人で帰る。
2度目はないな、と自分ながらに思った。
その事を穂乃果に伝える。
穂乃果は笑っていた。

「つまらないなら、2度目は無いね」
「お願いだから信じて」
「うん、信じる」
「じゃあ、遅いから切るね」
「もう切っちゃうの?」

穂乃果が不服そうに言った。

「明日は昼からだからもう少しお話しよう?昨日してもらえなかったんだし」

穂乃果がそう言うと俺は素直に従った。
日付が変わるまで話をしていた。

(4)

ベッドに横たわるとスマホを見ていた。
渡辺班のメッセージが気になる。
中島君なにをやったんだ?
男子グルを覗く。ログを辿っているうちに理由が分かった。
やっちゃったな、中島君。

「冬夜君~」

愛莉が梯子を上ってきた。大体要件は見当がついてる。

「スマホ見せて♪」
「愛莉この部屋窓がついてるんだ。夜景が綺麗だよ」
「見せて♪」
「瀬戸大橋何時頃だっけ?楽しみだなぁ……」
「見せなさい!」

大人しくスマホを差しだす。
愛莉は操作してメッセージのログをチェックしていく。

「これのことか~」

愛莉はその後グループの他に個人のログもチェックしていく。
別に見られて困るようなことは残してない。
今日の愛莉のチェックはいつもよりも厳しい。
連絡先までチェックされる。

「この人誰~?」
「中学の時の友達」

友達くらいいるだろ?

「もう、連絡してないから要らないよね」

愛莉はそうやって自分の知らない人間の名前を削除していく。

「男の名前にして実は女性でしたってあるらしいって神奈から聞いたもん」

誠……お前、やったのか?
しかしそんな事は関係なく事件は突然訪れる。僕も予想していなかったことが起こる。
連絡先は記憶の手帳のように突然掘り起こされる。

「ああ、女の人の名前だ!!私の知らない人!!冬夜君!!」

そんな人いたっけ?
スマホの画面を見る

村上夏美

……。残ってたんだな、まだ。

「冬夜君!誰!?」

愛莉がまくし立てるが、そんなのは全然聞こえなかった。
どうして今頃になって出てくるのか?
まだ残してあったんだな……。

ぽかっ

「冬夜君聞いてるの!?誰なのよこの人?」

愛莉の誤解を解いてやらないといけないな。

「愛莉が思ってるような人じゃないよ」
「じゃあ、どういう人なの」
「中学の時の同じクラスだった人」
「じゃあ、もう関係ないから消していいよね」
「そうだな……」

僕の様子がおかしいのに気がついたのか、愛莉は操作を止めた。

「冬夜君の思い出の人?」
「ああ、思い出だな」
「うぅ……中学って事は私達付き合ってた時だよね?」
「そうだな」
「冬夜君の憧れの人とか……?」
「そんなんじゃないって言ったろ?……の人だよ」
「え……?」

愛莉は言葉を失った。
夢に出てくるあの人。
連絡先交換したことすら忘れてた。

「……消す?」
「そうだな」
「でも……一回お話した方がいいんじゃないの?」
「今更だろ?」

そう言って躊躇う愛莉に代わって僕が連絡先を削除する。

「もういいかい?」
「うん……」

愛莉は気にしているようだ。
何か気を紛らわせてやりたいな。

「愛莉、ちょっと狭くて体密着させた状態になっちゃうけど」
「?」
「このまま朝まで過ごさないか?」
「……冬夜君がそうしたいだけじゃないの?」

愛莉はそう言ってクスクス笑う。
理由がいまいち分からない僕に対して愛莉は僕の下半身を指差す。

「体は正直っていうもんね」

僕は赤面していた。

「こ、これは……」
「いいんだよ。私も冬夜君と同じ気分だし」
「ね、寝るだけだからな」
「は~い」

愛莉はそう言ってカーテンを閉めると体を密着させて眠りにつく。
愛莉が寝た後もしばらく眠れずにいた。
愛莉の体の温もりが伝わってくるからじゃない。
愛莉の鼓動が聞こえてくるからじゃない。
あの子の声を思い出す。

「酷いよ……冬夜君……」

泣いているあの子の顔を思い出す。
いまさらと言ったけどいまさらで済ませられない。
忘れようと思っても忘れかけた頃に夢に出てくる彼女。
今頃何やってんだろう?
幸せでいてくれてたらいいけど。
そう祈りながら眠りについた。
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