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3rdSEASON
あさきゆめみし
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(1)
「冬夜君朝だよ~」
愛莉の声で目が覚める。
日頃のトレーニングの成果か前ほど筋肉痛になることもなくなった。
愛莉が寝る前にストレッチにつきあってくれたり、マッサージしてくれる甲斐もあるかもしれない。
食事もバスケを始めてから変わった。
本棚には体調管理や食事管理などの本がびっしりつまってある。
インターネットを使っても色々レシピを調べてるらしい。
着替えて降りると朝食が並べられてある。
それらを食べ終えると準備をして自分の部屋に戻る。
それから家を出るまでの時間それぞれの時間を過ごす。
たまに愛莉が構ってオーラを出すが、そんな時は愛莉においでと言ってじゃれ合う。
家を出て大学に向かい授業を受ける。
昼休みには、皆で食事。
すると佐倉さんがやってくる。
「片桐先輩!」
「やあ、佐倉さん」
「今日もお弁当持ってきましたよ」
「ありがとう」
佐倉さんが来るとなぜか愛莉は黙る。
顔は笑っているけど……なんか様子が変だ。
どうしたんだろう?気のせいか?
そんな事を考えながら佐倉さんの持ってきた弁当を食べる。
「で、先輩私見つけたんです。先輩の弱点」
「弱点?」
「はい、これ見てください」
佐倉さんはノートPCをとりだすと動画を再生する。
渡辺班の皆はそれを見る。
特段なんてことない、僕の普通の練習光景の動画だ。
「佐倉、これのどこがトーヤの弱点なんだ?ただ活躍してるだけじゃないか?」
カンナが聞く。佐倉さんは得意気に答える。
「それが弱点なんですよ」
誰も意味がわからなかった。
「気づきませんか?試合の時はあれだけアウトサイドからシュートを打っていたのにポジションをシューティングガードに変えてもらったのにも関わらずスモールフォワード並みにペネトレイトしてる」
「それが行けない事なのかい?」
渡辺君が佐倉さんに聞くと、佐倉さんは頷いた。
「片桐先輩はようやくフィジカル面の強化を図ってるところです。まだまだインサイドで接触プレイを続けられるほど体力がない」
それはサッカーの時から言われている事だ。
「やっぱり片桐先輩は40分間フル出場できることを目標にするべきだと思うんです。その為には攻守ともに活躍する先輩がむやみに接触プレイで体力を削るような真似はしない方がいいです。せっかくの視野をもってるんだからもっと周りを活用していくべきです。そうでなくても先輩にはダブルチーム・トリプルチームで挑んでくるんだから」
佐倉さんが言うと皆が「おお~」と感心の声をあげた。
「種目が違うとはいえ流石マネージャーの経験あるだけあるな。視点が違う」
渡辺君が褒めるとそれほどでもとやや照れていた。
「先輩はノールック、ノーモーションのパスが出来るんだから周りと連携する練習をするべきですね。もちろん最初にシュートを相手に意識させることが重要ですけど」
「なるほどね」
「明日コーチに打診してみますね。じゃ、これで失礼します」
そう言って僕の食べた弁当を片付けると佐倉さんは学食を後にした。
「佐倉の奴やるな。意外と出来るやつみたいだな」とカンナが言う。
「本当に冬夜のファンなんだな」と渡辺君が言う。
「片桐君も案外頼りにしてるんでない~」と花山さんが聞いてきた。
「まあ、頼りにはしてるよ」と僕が答える。
でも、愛莉も実はバスケのルールとか勉強してるんだよと、付け加えた。
「え?愛莉ちゃんそうだったの?」と江口さんが言う。
愛莉は元気が無いのか俯いたまま黙っていた。
「あ、そろそろ時間だよ」
竹本君が言うと皆移動を始める。
愛莉と二人きりになる。
愛莉の肩を撫でてやる。
「頼りにしてるんだよ。いつもマッサージしてくれたりしてくれるのは愛莉だけだから」
「……うん」
僕のアシストは愛莉がしてくれている。
愛莉が後ろに居てくれてるから僕は前に飛び出せるんだ。
だから今まで通りでいいんだよ愛莉。
(2)
悔しかった。
こんな思いは初めて。
他人に悔しいと思わされたことはこれが初めてなんじゃないだろうか?
冬夜君の事を誰よりも把握してる私が気づかなかったことを佐倉さんに指摘された。
バスケットという私の知らない世界での出来事だから仕方ない。
けど、そんなんじゃ駄目だ。
冬夜君のお嫁さんになろうというなら、冬夜君がバスケの世界を目指そうというなら私は一緒に勉強しないといけない。
そう思って色々参考書や入門書を買った。
冬夜君のプレイをずっと見ていた。
なのに佐倉さんに先を越された。
悔しい。情けない。もっとしっかりしなきゃ。
この日も冬夜君の練習の日だった。
冬夜君は言われた通り自分に相手を引き付けて周りにパスを出している。
驚く事しかできなかった。いつパスを出したのか全く分からない。いつ相手を見ているのか全然見当がつかない。
冬夜君の練習内容を見ていても悪い所なんて無いと思っていた。
休憩時間。
「はい、冬夜君。これドリンク」
「あ、サンキュー愛莉」
「片桐先輩駄目です!」
「え?」
「ほえ?」
佐倉さんが冬夜君に注意する。
「練習時間も皆シュート練習してるんですよ」
佐倉さんがそう言ってコート内に残ってシュート練習しているメンバーを指した。
「皆レギュラー取ろうと必死なんです。慢心は禁物ですよ!」
「でも冬夜君はシュート練習をしなくてもほぼ入ってるじゃない」
私が反論すると佐倉さんは手にしていたタブレットを見せた。
「先輩のシュート成功率をデータ化してみました。気づきませんか?」
私にはさっぱりわからない。どこを見てもほぼ完ぺきに近い。冬夜君もわからないようだ。
佐倉さんは得意気に語る
「100%なんだけど片桐先輩は0度からのスリーポイントが極端に少ないんです。左サイドは特に少ない。どこから打っても入るからなんだろうけど、このデーターに気づいた人はコーナーに追い込んできますよ。そして、疲れてる時ほどシュート練習は欠かしちゃいけない」
佐倉さんの理論はその通りだった。
「分かったら先輩早くシュート練習始めてください!」
そう言われると冬夜君は練習に戻る。
佐倉さんは私を見る。
「遠坂先輩もバスケの勉強してるんじゃなかったんですか?片桐先輩の何を見ていたんですか!?注意するべきところは注意すべきだと思いますよ。ただ甘やかしてるだけじゃ片桐先輩の為にならない!」
私は何も言い返せなかった。
佐倉さんは踵を返すと冬夜君の側に向かう。
「のんびり打ってないで、いつもの超クイックモーションで打ってください。遊んでるようにしか見えません!」
冬夜君はそう言われると言われるままにシュートの打ち方を変える。
どうしたらいいんだろう?私は居ない方がいいのかな……?
その後も佐倉さんにアドバイスを受けながら練習する冬夜君をただ見ているだけしかできなかった。
(3)
佐倉さんは凄い。
冷静に分析して、的確な指示を出す。
コーチ何やってんだってくらいだ。
もっぱら僕にしか指示を出してなかったけど。
コーチすら気づかない欠点を佐倉さんはズバズバと指摘する。
「相手に会わせてのんびりパスしないで、パス相手に走らせるくらいの勢いでパスしてください!木元先輩もですよ!ポイントガードの木元先輩がそんなんでどうするんですか!?」
木元先輩は苦笑していた。
いつから熱血バスケものになったのだろうかと思うくらい、佐倉さんは指示を出す。
コーチ……それでいいのか?
佐倉さんの徹底した指導はやがてほかのメンバーにまで及んだ。
「ひじが開きすぎです。それじゃ安定したシュートは打てません!」
中には反発する者もいたが、木元先輩がそれを宥める。
僕が入ったこともあり、地元大学バスケ部の実力はレベルが上がったと言える。
それでも行き過ぎているともいえる佐倉さんの指導は続く。
「楽をすることを覚えたら駄目です、辛い時こそ頑張る時です!」
喧嘩にならないのは佐倉さんの指導が鞭ばかりじゃないから。
「練習後はちゃんとストレッチしてアイシングしないとだめですよ」
そう言ってメンバーのストレッチに付き合う佐倉さん。
「佐倉さんすごいね……」
愛莉は僕のストレッチに付き合いながら佐倉さんを褒めていた。
「先輩は、遠坂先輩がいるから大丈夫ですね。皆さんの分のタオル用意してます。夜は冷えますからちゃんと汗の処理してください」
そう言ってタオルを配る佐倉さん。
いつしか佐倉さんは皆に慕われるようになった。
分からないことがあったら佐倉さんに聞き助言を求める。
佐倉さんはタブレットを見せながら一人一人に助言する。
本当に何やってんだコーチ。
僕も佐倉さんに助言を得ていた。
「片桐先輩は右利きのせいもあるかもしれないけどパスもドライブも必ず右から始めますね。意識的に左も使った方がいいかもしれません。シュートも、先輩左でも打てるんだから。両利きのスリーポイントシューターなんて脅威でしかないですよ」
それから左手でのスリーポイントも練習した。
佐倉さんの助言は戦術にまで及んだ。
相手がシュートを打ったら僕は迷わず敵陣へ走れという。
多少の失点覚悟の速攻を目指すらしい。
「片桐先輩はとにかくフリーになることを意識してください。フリーになればどこからでも打てるのだから」
DFはゾーンのボックスワンを提案していた。
「片桐先輩なら確実にポイントガード潰してくれます。そして先輩が先頭に立つことで速攻へも繋ぎやすくなります」
皆が佐倉さんの提案に耳を傾けていた。
皆が佐倉さんを信頼していた。
僕も信頼していた。
だから忘れていたんだ。
影で僕を支えていてくれていた愛莉の存在に。
「佐倉さんのお蔭で皆活き活きとプレイしているよ。これで後顧の憂いなく引退できる」
木元先輩がそう言うと、佐倉さんは笑う。
「その前に3年生からレギュラー選ばないと」
「それがあったな」
木元先輩も笑う。
「問題はポイントガードですよね。片桐先輩にさせたら得点力減っちゃうし」
「佐倉さんに任せるよ、目星はつけてるんだろ?」
「ええ、練習はちゃんと見てますから」
「さすがだ」と木元先輩は言う。
「そろそろ時間だし帰ろうか?」
キャプテンが言うと皆帰り支度を始める。
僕も更衣室で着替えて更衣室をでると、佐倉さんが待っていた。
「片桐先輩今日誕生日でしょ?これプレゼントです」
佐倉さんが渡してくれた中くらいの箱。
「中身は何?」
「それは秘密です。帰ってからのお楽しみってことで」
「ありがとう」
嬉しそうにする僕。
んじゃ、帰って……あれ?愛莉は?
「ここにいるよ」
振り返ると愛莉が立っていた。
「いるなら声かけてくれたらよかったのに」
「邪魔しちゃ悪いかなと思って」
「?」
「用は済んだ?帰ろうよ」
「ああ、そうだな。じゃあ佐倉さんまた」
「はい、また来週」
車に乗るとさっそく包装を破いてみる。
新品のバスケットシューズだった。
ニューモデルの。
それ後部座席に置くと家に帰る。
家に帰ると愛莉が大きな箱を僕に渡す。
「私からの誕生日プレゼント」
愛莉からのプレゼントはジャケットだった。
「それに着替えて」
愛莉に言われたとおりにそれを羽織る。
「じゃ、行こう?」
「どこに?」
「タワーホテル。お部屋取ってるから」
そう言うと僕の車でタワーホテルに向かった。
最上階のレストランの予約をとっていたらしい。
毎年来てるけど今年は違う。
そう、今日は僕の20歳の誕生日。
愛莉とグラスを手に取り乾杯する。
「冬夜君おめでとう」
初めて飲むアルコールの味は美味しかった。
続いてワインを何にするか聞かれる。
「お任せで」
愛莉がそう言うと店員は去っていった。
「やっと念願の夢がかなったよ。冬夜君とここで初めてのお酒を飲むの」
久しぶりに見る愛莉の笑顔。
久しぶりに愛莉の顔を見た気がする。
じゃあ、今まで何を見てた?
佐倉さんだ。ずっと佐倉さんを見てた。
愛莉がその間何を思っていた?何を考えていた?
「愛莉……」
「あ、ワイン来たよ」
ワイングラスに赤ワインを注がれる。
愛莉はそれを一口飲む。
「なんかすっぱいね」
そう言って笑う愛莉。
ごめんな……後でたっぷり甘えさせてやるから。
食事が終わり、レストランを出ると愛莉に抱き着く。
愛莉はそれを振り払う。
「だ~め。今日はもう一軒行くんだから」
そう言うと愛莉とレストランを出て、タクシーを止め繁華街に向かう。
お店の前にタクシーを止めると愛莉は店に入る。
ちょっとクラシカルな感じのお店でカクテルを注文する。
僕はマティーニ、愛莉はマンハッタンを頼んだ。
複雑な想いで味が良く分からない。
愛莉は「美味しいね」と言っていた。
僕も「そうだね」と合わせておいた。
初めてのお酒は哀しいお酒。
お店を出ると「ちょっと酔っちゃったみたいだし歩いてホテル行こ?」と、いって腕を組んで歩き出す。
帰りにコンビニに寄って酎ハイとおつまみを買うのも忘れずに。
悲しい夜は酔って忘れる。それもありかもしれない。でもホテルに泊まるのは何故?
単に移動できないから?
でも、それならタクシーで来ればよかったんじゃ?
そもそもお祝いしてくれる愛莉の気持ち。
一縷の望みを託す。
部屋に戻ると愛莉はベッドにダイブする。
そんな愛莉に覆いかぶさる。
「冬夜君、どうしたの?」
なんて声をかけたらいい?
愛莉の心を覗いてみる。とても温かく思えるのは酔いのせい?
「一緒にお風呂入ろう?」
我ながら何とも間抜けなセリフだ。
「もう、冬夜君もう酔っちゃったの?まだ時間早いよ」
時計は22時。遅くはないだろ?
「まあ、これから飲むんだし先にはいっておこうか?」
愛莉はそう言って服を脱ぎだす。僕もぬぎだした。
「わあ、冬夜君随分と筋肉質になったね。すごい」
そう言いながら僕の体を洗ってくれる愛莉。
僕も愛莉の体を洗ってやる。
2人でジャグジーで遊ぶ。
風呂を出るとベッドに座って酎ハイを飲みながらつまみを食べて楽しむ。
頭が少しふわふわしてきた。
眠気の若干ある。
今のうちに謝っておかないといけないな。
「愛莉ごめん!ずっと佐倉さんの事考えてた!愛莉が僕の事をどう思っていたのか全然考えてなかった。でも愛莉の事が一番好きだ。愛してる。今までも。そしてこれからも」
「一番ってことは二番がいたの?」
「あ……」
ぽかっ
「今日は冬夜君の誕生日だし初めてお酒飲めたし少しほろ酔い気分だから許しましょう」
「愛莉……」
「またりえちゃんに怒られちゃうしね」
「愛莉ママに?」
「うん、『肉体関係のない浮気くらい許すくらいの器量はもちなさい。ただし本気ならすぐに家に帰ってきていいからね』って前にりえちゃんに言われたの」
なるほど……。
「折角の祝い事だもの楽しいお酒飲みたいよ。冬夜君だってそうでしょ?」
「そうだな」
「じゃ、改めて乾杯!」
「乾杯」
缶を合わせて愛莉と飲む。
そして記念日となる一夜を過ごした。
(4)
夜が明けた。
冬夜君はまだ寝ている。
「朝ごはんだよ~」
「……今日はいいや~」
一杯飲んだもんね。二日酔いかな~。でも……。
「朝ごはん食べないともっと体に悪いよ?」
「……わかった」
朝ごはんを食べると冬夜君は少しは気分よくなったみたいだ。
「愛莉昨日は本当に……」
「冬夜君の悪い癖はそうやってすぐに過ぎたことをぐちぐちいう事。昨日謝ってくれたからいいよ。ていうかさ~……」
「?」
本当に鈍いんだから
「私そんなに怒ってないよ?」
「え?」
「冬夜君のドリブル姿勢はドライブするには最適だけどもっと全体が見渡せないんじゃないか。という意見もあるだろうけど冬夜君サッカーの時からだもんね。敵味方の位置関係を何となく感じ取っちゃう」
「?」
「……ってことは佐倉さんにはわからない。昔からずっと見てる私だから言えるアドバイスだよ」
「愛莉?」
私だって勉強してるよ。そして冬夜君の事を一番知ってるのは私だけ。
「冬夜君は前だけ向いていればいい。信じて……私はずっと冬夜君の背中を見守ってるから」
「……そうだな。愛莉だけだよな」
そう言って冬夜君は笑う。
「じゃ、そろそろ帰ろう?」
「そうだな?」
荷物をまとめて冬夜君と家に帰った。
(5)
背中を見守っているから。
愛莉はそう言って笑っていた。
愛莉はいつもそうだった。
迷った時はいつも愛莉が背中を押してくれる。
愛莉が迷ってる時は僕が支えてやる。
心配しなくていいんだよって。
お互いに支え合って生きてる。
なら、何も心配することはない
一度決めた道を進むだけだ。
家についた。
「愛莉、着いたよ」
「は~い」
家に帰ると父さんたちが待っていた。
「今夜は出かけるなよ」
はい?
「やっとこの時が来たんだ、父さんたちと飲もう」
「昨日飲んだばっかりなんだけど」
「遠坂さんの親も冬夜と飲むことを望んでいる。善は急げだ」
口実つけて飲んで騒ぎたいだけじゃないのか?
「分かった」とだけ告げて愛莉と部屋に入る。
部屋を見回す、愛莉は一生懸命勉強してる。
アスリートの食生活からケアの仕方まで。
そして愛莉は実践してる。
バスケットのルールも把握してきたみたいだ。
愛莉の我儘も過ぎてるかもしれない。
でもそれでいいんだと思う。
僕の我儘を受け入れてくれたんだから。
部屋でのんびり過ごしていると、愛莉が漫画を見ていた。
めずらしいな。
愛莉はやがて言い出した。
「畑中の屋外コートに行こうよ」
「バスケしたいの?」
「ちょっとね。
愛莉と公園にあるバスケットコートに行く。
「先ずはレイアップシュートからだな」
「あ、それ知ってる。漫画で見た」
そう言うとドリブルをしながらゴールに近づき跳躍し華麗にレイアップを決めた。
「これでいいかな」
「ああ……」
愛莉の運動神経の良さは知っていたけどまさか漫画で学習するとはな。
「愛莉は万能だな」
「えへへ~」
「じゃあ、僕と1ON1やってみない」
「……手加減してくれる」
「もちろん」
最初の攻めは愛莉に任せた。
意識したら駄目だとは思てるけどどうしても意識してしまう。
愛莉に接触プレイは出来なかった。
それでも緊張していたのかレイアップを外してしまい思わず向きになってリバウンドに飛ぶ。その際愛莉の体に接触し愛莉は倒れた。
「ごめん、怪我無い?」
「ううん、平気だよ」
日が暮れてきた。
「そろそろ帰ろうか?」
「うん」
そう言って家に帰るとご馳走が。
6人で缶ビールをもって乾杯。
「……片桐さん息子と飲むとはどうですか?」
「嬉しいものがありますね。遠坂さんはどうですか?
「……同じです。あとは愛莉の花嫁姿を見とどけるまでが私の役割です」
「冬夜君~浮気は目をつぶるは、肉体関係を持ったら論外だけど、本気になってしまったら愛莉をうちに連れて帰りますからね」
「はい」
「じゃあ、じゃんじゃん飲んで。冬夜君強いって愛莉ちゃんにきいてたし~。少しくらい平気でしょ」
そうして飲んでいると愛莉からストップがかかった。
「あんまり飲ませちゃダメ。明日ゆっくり休んでもらうんだから」
それはありがたい。
愛莉と二人で部屋で過ごす。
僕はゲームを、愛莉は帳簿をつけ終え。ネットで何かを探している。
バスケの入門編とかそんな内容だ。
そんなに気にする必要ないのに。
照明を落とす、
そしてベッドに入る。
「疲れてるんじゃないの?」
愛莉が聞いてくる。
「大丈夫だよ。昨日の分挽回しないとな」
そう言うと愛莉はベッドに入ってくる。
「じゃあ、挽回してもらおうかな?」
そう言って愛莉が抱きついてくる。
これからは愛莉だけをみていよう。
もう他の女性を見るのは止めよう。
例えどんなに他の人を好きになったとしても僕には愛莉という掛け替えのない存在がいるのだから。
有為の奥山今日越えて。
浅き夢みし酔ひもせず。
愛莉には内緒の話。
僅かに抱いた儚い夢のお話。
それはずっと心にしまっておこう。
12月はあっという間に過ぎていく。
「冬夜君朝だよ~」
愛莉の声で目が覚める。
日頃のトレーニングの成果か前ほど筋肉痛になることもなくなった。
愛莉が寝る前にストレッチにつきあってくれたり、マッサージしてくれる甲斐もあるかもしれない。
食事もバスケを始めてから変わった。
本棚には体調管理や食事管理などの本がびっしりつまってある。
インターネットを使っても色々レシピを調べてるらしい。
着替えて降りると朝食が並べられてある。
それらを食べ終えると準備をして自分の部屋に戻る。
それから家を出るまでの時間それぞれの時間を過ごす。
たまに愛莉が構ってオーラを出すが、そんな時は愛莉においでと言ってじゃれ合う。
家を出て大学に向かい授業を受ける。
昼休みには、皆で食事。
すると佐倉さんがやってくる。
「片桐先輩!」
「やあ、佐倉さん」
「今日もお弁当持ってきましたよ」
「ありがとう」
佐倉さんが来るとなぜか愛莉は黙る。
顔は笑っているけど……なんか様子が変だ。
どうしたんだろう?気のせいか?
そんな事を考えながら佐倉さんの持ってきた弁当を食べる。
「で、先輩私見つけたんです。先輩の弱点」
「弱点?」
「はい、これ見てください」
佐倉さんはノートPCをとりだすと動画を再生する。
渡辺班の皆はそれを見る。
特段なんてことない、僕の普通の練習光景の動画だ。
「佐倉、これのどこがトーヤの弱点なんだ?ただ活躍してるだけじゃないか?」
カンナが聞く。佐倉さんは得意気に答える。
「それが弱点なんですよ」
誰も意味がわからなかった。
「気づきませんか?試合の時はあれだけアウトサイドからシュートを打っていたのにポジションをシューティングガードに変えてもらったのにも関わらずスモールフォワード並みにペネトレイトしてる」
「それが行けない事なのかい?」
渡辺君が佐倉さんに聞くと、佐倉さんは頷いた。
「片桐先輩はようやくフィジカル面の強化を図ってるところです。まだまだインサイドで接触プレイを続けられるほど体力がない」
それはサッカーの時から言われている事だ。
「やっぱり片桐先輩は40分間フル出場できることを目標にするべきだと思うんです。その為には攻守ともに活躍する先輩がむやみに接触プレイで体力を削るような真似はしない方がいいです。せっかくの視野をもってるんだからもっと周りを活用していくべきです。そうでなくても先輩にはダブルチーム・トリプルチームで挑んでくるんだから」
佐倉さんが言うと皆が「おお~」と感心の声をあげた。
「種目が違うとはいえ流石マネージャーの経験あるだけあるな。視点が違う」
渡辺君が褒めるとそれほどでもとやや照れていた。
「先輩はノールック、ノーモーションのパスが出来るんだから周りと連携する練習をするべきですね。もちろん最初にシュートを相手に意識させることが重要ですけど」
「なるほどね」
「明日コーチに打診してみますね。じゃ、これで失礼します」
そう言って僕の食べた弁当を片付けると佐倉さんは学食を後にした。
「佐倉の奴やるな。意外と出来るやつみたいだな」とカンナが言う。
「本当に冬夜のファンなんだな」と渡辺君が言う。
「片桐君も案外頼りにしてるんでない~」と花山さんが聞いてきた。
「まあ、頼りにはしてるよ」と僕が答える。
でも、愛莉も実はバスケのルールとか勉強してるんだよと、付け加えた。
「え?愛莉ちゃんそうだったの?」と江口さんが言う。
愛莉は元気が無いのか俯いたまま黙っていた。
「あ、そろそろ時間だよ」
竹本君が言うと皆移動を始める。
愛莉と二人きりになる。
愛莉の肩を撫でてやる。
「頼りにしてるんだよ。いつもマッサージしてくれたりしてくれるのは愛莉だけだから」
「……うん」
僕のアシストは愛莉がしてくれている。
愛莉が後ろに居てくれてるから僕は前に飛び出せるんだ。
だから今まで通りでいいんだよ愛莉。
(2)
悔しかった。
こんな思いは初めて。
他人に悔しいと思わされたことはこれが初めてなんじゃないだろうか?
冬夜君の事を誰よりも把握してる私が気づかなかったことを佐倉さんに指摘された。
バスケットという私の知らない世界での出来事だから仕方ない。
けど、そんなんじゃ駄目だ。
冬夜君のお嫁さんになろうというなら、冬夜君がバスケの世界を目指そうというなら私は一緒に勉強しないといけない。
そう思って色々参考書や入門書を買った。
冬夜君のプレイをずっと見ていた。
なのに佐倉さんに先を越された。
悔しい。情けない。もっとしっかりしなきゃ。
この日も冬夜君の練習の日だった。
冬夜君は言われた通り自分に相手を引き付けて周りにパスを出している。
驚く事しかできなかった。いつパスを出したのか全く分からない。いつ相手を見ているのか全然見当がつかない。
冬夜君の練習内容を見ていても悪い所なんて無いと思っていた。
休憩時間。
「はい、冬夜君。これドリンク」
「あ、サンキュー愛莉」
「片桐先輩駄目です!」
「え?」
「ほえ?」
佐倉さんが冬夜君に注意する。
「練習時間も皆シュート練習してるんですよ」
佐倉さんがそう言ってコート内に残ってシュート練習しているメンバーを指した。
「皆レギュラー取ろうと必死なんです。慢心は禁物ですよ!」
「でも冬夜君はシュート練習をしなくてもほぼ入ってるじゃない」
私が反論すると佐倉さんは手にしていたタブレットを見せた。
「先輩のシュート成功率をデータ化してみました。気づきませんか?」
私にはさっぱりわからない。どこを見てもほぼ完ぺきに近い。冬夜君もわからないようだ。
佐倉さんは得意気に語る
「100%なんだけど片桐先輩は0度からのスリーポイントが極端に少ないんです。左サイドは特に少ない。どこから打っても入るからなんだろうけど、このデーターに気づいた人はコーナーに追い込んできますよ。そして、疲れてる時ほどシュート練習は欠かしちゃいけない」
佐倉さんの理論はその通りだった。
「分かったら先輩早くシュート練習始めてください!」
そう言われると冬夜君は練習に戻る。
佐倉さんは私を見る。
「遠坂先輩もバスケの勉強してるんじゃなかったんですか?片桐先輩の何を見ていたんですか!?注意するべきところは注意すべきだと思いますよ。ただ甘やかしてるだけじゃ片桐先輩の為にならない!」
私は何も言い返せなかった。
佐倉さんは踵を返すと冬夜君の側に向かう。
「のんびり打ってないで、いつもの超クイックモーションで打ってください。遊んでるようにしか見えません!」
冬夜君はそう言われると言われるままにシュートの打ち方を変える。
どうしたらいいんだろう?私は居ない方がいいのかな……?
その後も佐倉さんにアドバイスを受けながら練習する冬夜君をただ見ているだけしかできなかった。
(3)
佐倉さんは凄い。
冷静に分析して、的確な指示を出す。
コーチ何やってんだってくらいだ。
もっぱら僕にしか指示を出してなかったけど。
コーチすら気づかない欠点を佐倉さんはズバズバと指摘する。
「相手に会わせてのんびりパスしないで、パス相手に走らせるくらいの勢いでパスしてください!木元先輩もですよ!ポイントガードの木元先輩がそんなんでどうするんですか!?」
木元先輩は苦笑していた。
いつから熱血バスケものになったのだろうかと思うくらい、佐倉さんは指示を出す。
コーチ……それでいいのか?
佐倉さんの徹底した指導はやがてほかのメンバーにまで及んだ。
「ひじが開きすぎです。それじゃ安定したシュートは打てません!」
中には反発する者もいたが、木元先輩がそれを宥める。
僕が入ったこともあり、地元大学バスケ部の実力はレベルが上がったと言える。
それでも行き過ぎているともいえる佐倉さんの指導は続く。
「楽をすることを覚えたら駄目です、辛い時こそ頑張る時です!」
喧嘩にならないのは佐倉さんの指導が鞭ばかりじゃないから。
「練習後はちゃんとストレッチしてアイシングしないとだめですよ」
そう言ってメンバーのストレッチに付き合う佐倉さん。
「佐倉さんすごいね……」
愛莉は僕のストレッチに付き合いながら佐倉さんを褒めていた。
「先輩は、遠坂先輩がいるから大丈夫ですね。皆さんの分のタオル用意してます。夜は冷えますからちゃんと汗の処理してください」
そう言ってタオルを配る佐倉さん。
いつしか佐倉さんは皆に慕われるようになった。
分からないことがあったら佐倉さんに聞き助言を求める。
佐倉さんはタブレットを見せながら一人一人に助言する。
本当に何やってんだコーチ。
僕も佐倉さんに助言を得ていた。
「片桐先輩は右利きのせいもあるかもしれないけどパスもドライブも必ず右から始めますね。意識的に左も使った方がいいかもしれません。シュートも、先輩左でも打てるんだから。両利きのスリーポイントシューターなんて脅威でしかないですよ」
それから左手でのスリーポイントも練習した。
佐倉さんの助言は戦術にまで及んだ。
相手がシュートを打ったら僕は迷わず敵陣へ走れという。
多少の失点覚悟の速攻を目指すらしい。
「片桐先輩はとにかくフリーになることを意識してください。フリーになればどこからでも打てるのだから」
DFはゾーンのボックスワンを提案していた。
「片桐先輩なら確実にポイントガード潰してくれます。そして先輩が先頭に立つことで速攻へも繋ぎやすくなります」
皆が佐倉さんの提案に耳を傾けていた。
皆が佐倉さんを信頼していた。
僕も信頼していた。
だから忘れていたんだ。
影で僕を支えていてくれていた愛莉の存在に。
「佐倉さんのお蔭で皆活き活きとプレイしているよ。これで後顧の憂いなく引退できる」
木元先輩がそう言うと、佐倉さんは笑う。
「その前に3年生からレギュラー選ばないと」
「それがあったな」
木元先輩も笑う。
「問題はポイントガードですよね。片桐先輩にさせたら得点力減っちゃうし」
「佐倉さんに任せるよ、目星はつけてるんだろ?」
「ええ、練習はちゃんと見てますから」
「さすがだ」と木元先輩は言う。
「そろそろ時間だし帰ろうか?」
キャプテンが言うと皆帰り支度を始める。
僕も更衣室で着替えて更衣室をでると、佐倉さんが待っていた。
「片桐先輩今日誕生日でしょ?これプレゼントです」
佐倉さんが渡してくれた中くらいの箱。
「中身は何?」
「それは秘密です。帰ってからのお楽しみってことで」
「ありがとう」
嬉しそうにする僕。
んじゃ、帰って……あれ?愛莉は?
「ここにいるよ」
振り返ると愛莉が立っていた。
「いるなら声かけてくれたらよかったのに」
「邪魔しちゃ悪いかなと思って」
「?」
「用は済んだ?帰ろうよ」
「ああ、そうだな。じゃあ佐倉さんまた」
「はい、また来週」
車に乗るとさっそく包装を破いてみる。
新品のバスケットシューズだった。
ニューモデルの。
それ後部座席に置くと家に帰る。
家に帰ると愛莉が大きな箱を僕に渡す。
「私からの誕生日プレゼント」
愛莉からのプレゼントはジャケットだった。
「それに着替えて」
愛莉に言われたとおりにそれを羽織る。
「じゃ、行こう?」
「どこに?」
「タワーホテル。お部屋取ってるから」
そう言うと僕の車でタワーホテルに向かった。
最上階のレストランの予約をとっていたらしい。
毎年来てるけど今年は違う。
そう、今日は僕の20歳の誕生日。
愛莉とグラスを手に取り乾杯する。
「冬夜君おめでとう」
初めて飲むアルコールの味は美味しかった。
続いてワインを何にするか聞かれる。
「お任せで」
愛莉がそう言うと店員は去っていった。
「やっと念願の夢がかなったよ。冬夜君とここで初めてのお酒を飲むの」
久しぶりに見る愛莉の笑顔。
久しぶりに愛莉の顔を見た気がする。
じゃあ、今まで何を見てた?
佐倉さんだ。ずっと佐倉さんを見てた。
愛莉がその間何を思っていた?何を考えていた?
「愛莉……」
「あ、ワイン来たよ」
ワイングラスに赤ワインを注がれる。
愛莉はそれを一口飲む。
「なんかすっぱいね」
そう言って笑う愛莉。
ごめんな……後でたっぷり甘えさせてやるから。
食事が終わり、レストランを出ると愛莉に抱き着く。
愛莉はそれを振り払う。
「だ~め。今日はもう一軒行くんだから」
そう言うと愛莉とレストランを出て、タクシーを止め繁華街に向かう。
お店の前にタクシーを止めると愛莉は店に入る。
ちょっとクラシカルな感じのお店でカクテルを注文する。
僕はマティーニ、愛莉はマンハッタンを頼んだ。
複雑な想いで味が良く分からない。
愛莉は「美味しいね」と言っていた。
僕も「そうだね」と合わせておいた。
初めてのお酒は哀しいお酒。
お店を出ると「ちょっと酔っちゃったみたいだし歩いてホテル行こ?」と、いって腕を組んで歩き出す。
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でも、それならタクシーで来ればよかったんじゃ?
そもそもお祝いしてくれる愛莉の気持ち。
一縷の望みを託す。
部屋に戻ると愛莉はベッドにダイブする。
そんな愛莉に覆いかぶさる。
「冬夜君、どうしたの?」
なんて声をかけたらいい?
愛莉の心を覗いてみる。とても温かく思えるのは酔いのせい?
「一緒にお風呂入ろう?」
我ながら何とも間抜けなセリフだ。
「もう、冬夜君もう酔っちゃったの?まだ時間早いよ」
時計は22時。遅くはないだろ?
「まあ、これから飲むんだし先にはいっておこうか?」
愛莉はそう言って服を脱ぎだす。僕もぬぎだした。
「わあ、冬夜君随分と筋肉質になったね。すごい」
そう言いながら僕の体を洗ってくれる愛莉。
僕も愛莉の体を洗ってやる。
2人でジャグジーで遊ぶ。
風呂を出るとベッドに座って酎ハイを飲みながらつまみを食べて楽しむ。
頭が少しふわふわしてきた。
眠気の若干ある。
今のうちに謝っておかないといけないな。
「愛莉ごめん!ずっと佐倉さんの事考えてた!愛莉が僕の事をどう思っていたのか全然考えてなかった。でも愛莉の事が一番好きだ。愛してる。今までも。そしてこれからも」
「一番ってことは二番がいたの?」
「あ……」
ぽかっ
「今日は冬夜君の誕生日だし初めてお酒飲めたし少しほろ酔い気分だから許しましょう」
「愛莉……」
「またりえちゃんに怒られちゃうしね」
「愛莉ママに?」
「うん、『肉体関係のない浮気くらい許すくらいの器量はもちなさい。ただし本気ならすぐに家に帰ってきていいからね』って前にりえちゃんに言われたの」
なるほど……。
「折角の祝い事だもの楽しいお酒飲みたいよ。冬夜君だってそうでしょ?」
「そうだな」
「じゃ、改めて乾杯!」
「乾杯」
缶を合わせて愛莉と飲む。
そして記念日となる一夜を過ごした。
(4)
夜が明けた。
冬夜君はまだ寝ている。
「朝ごはんだよ~」
「……今日はいいや~」
一杯飲んだもんね。二日酔いかな~。でも……。
「朝ごはん食べないともっと体に悪いよ?」
「……わかった」
朝ごはんを食べると冬夜君は少しは気分よくなったみたいだ。
「愛莉昨日は本当に……」
「冬夜君の悪い癖はそうやってすぐに過ぎたことをぐちぐちいう事。昨日謝ってくれたからいいよ。ていうかさ~……」
「?」
本当に鈍いんだから
「私そんなに怒ってないよ?」
「え?」
「冬夜君のドリブル姿勢はドライブするには最適だけどもっと全体が見渡せないんじゃないか。という意見もあるだろうけど冬夜君サッカーの時からだもんね。敵味方の位置関係を何となく感じ取っちゃう」
「?」
「……ってことは佐倉さんにはわからない。昔からずっと見てる私だから言えるアドバイスだよ」
「愛莉?」
私だって勉強してるよ。そして冬夜君の事を一番知ってるのは私だけ。
「冬夜君は前だけ向いていればいい。信じて……私はずっと冬夜君の背中を見守ってるから」
「……そうだな。愛莉だけだよな」
そう言って冬夜君は笑う。
「じゃ、そろそろ帰ろう?」
「そうだな?」
荷物をまとめて冬夜君と家に帰った。
(5)
背中を見守っているから。
愛莉はそう言って笑っていた。
愛莉はいつもそうだった。
迷った時はいつも愛莉が背中を押してくれる。
愛莉が迷ってる時は僕が支えてやる。
心配しなくていいんだよって。
お互いに支え合って生きてる。
なら、何も心配することはない
一度決めた道を進むだけだ。
家についた。
「愛莉、着いたよ」
「は~い」
家に帰ると父さんたちが待っていた。
「今夜は出かけるなよ」
はい?
「やっとこの時が来たんだ、父さんたちと飲もう」
「昨日飲んだばっかりなんだけど」
「遠坂さんの親も冬夜と飲むことを望んでいる。善は急げだ」
口実つけて飲んで騒ぎたいだけじゃないのか?
「分かった」とだけ告げて愛莉と部屋に入る。
部屋を見回す、愛莉は一生懸命勉強してる。
アスリートの食生活からケアの仕方まで。
そして愛莉は実践してる。
バスケットのルールも把握してきたみたいだ。
愛莉の我儘も過ぎてるかもしれない。
でもそれでいいんだと思う。
僕の我儘を受け入れてくれたんだから。
部屋でのんびり過ごしていると、愛莉が漫画を見ていた。
めずらしいな。
愛莉はやがて言い出した。
「畑中の屋外コートに行こうよ」
「バスケしたいの?」
「ちょっとね。
愛莉と公園にあるバスケットコートに行く。
「先ずはレイアップシュートからだな」
「あ、それ知ってる。漫画で見た」
そう言うとドリブルをしながらゴールに近づき跳躍し華麗にレイアップを決めた。
「これでいいかな」
「ああ……」
愛莉の運動神経の良さは知っていたけどまさか漫画で学習するとはな。
「愛莉は万能だな」
「えへへ~」
「じゃあ、僕と1ON1やってみない」
「……手加減してくれる」
「もちろん」
最初の攻めは愛莉に任せた。
意識したら駄目だとは思てるけどどうしても意識してしまう。
愛莉に接触プレイは出来なかった。
それでも緊張していたのかレイアップを外してしまい思わず向きになってリバウンドに飛ぶ。その際愛莉の体に接触し愛莉は倒れた。
「ごめん、怪我無い?」
「ううん、平気だよ」
日が暮れてきた。
「そろそろ帰ろうか?」
「うん」
そう言って家に帰るとご馳走が。
6人で缶ビールをもって乾杯。
「……片桐さん息子と飲むとはどうですか?」
「嬉しいものがありますね。遠坂さんはどうですか?
「……同じです。あとは愛莉の花嫁姿を見とどけるまでが私の役割です」
「冬夜君~浮気は目をつぶるは、肉体関係を持ったら論外だけど、本気になってしまったら愛莉をうちに連れて帰りますからね」
「はい」
「じゃあ、じゃんじゃん飲んで。冬夜君強いって愛莉ちゃんにきいてたし~。少しくらい平気でしょ」
そうして飲んでいると愛莉からストップがかかった。
「あんまり飲ませちゃダメ。明日ゆっくり休んでもらうんだから」
それはありがたい。
愛莉と二人で部屋で過ごす。
僕はゲームを、愛莉は帳簿をつけ終え。ネットで何かを探している。
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そんなに気にする必要ないのに。
照明を落とす、
そしてベッドに入る。
「疲れてるんじゃないの?」
愛莉が聞いてくる。
「大丈夫だよ。昨日の分挽回しないとな」
そう言うと愛莉はベッドに入ってくる。
「じゃあ、挽回してもらおうかな?」
そう言って愛莉が抱きついてくる。
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もう他の女性を見るのは止めよう。
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