優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

涙のわけ

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(1)

「ラストだよ!頑張って」

愛莉が声をかけると力が湧いてくる。
気力を振り絞って、最後の上り坂を上り終える。

ゴールに着くと愛莉はストップウォッチを止める。

「昨日よりペース良いみたいだね」

愛莉はそう言って笑う。
早朝にジョギングする。
そう決めると愛莉はストップウォッチを買っていた。
そして朝のジョギングに付き合ってくれる。
愛莉は自転車でおいかけていたが。

「私も少し運動しないと……その……」

その先は聞いたら叩かれそうだから聞かない。
ジョギングを終えると家に帰ってストレッチをする。
そして朝ごはんを食べて。準備をして部屋に戻る。
愛莉の準備が済むと学校に早めに行って朝練する。
渡辺班の活動もあるので、他人より少しでも多めに時間をとっておきたい。
そして朝練をしてると佐倉さんと水島君がやってくる。
授業の時間前になると着替えて棟に向かう。
そして午前の授業が終えると、学食で昼食。
渡辺班の皆が集まってくる。
佐倉さんは昼休みの練習につきあってるんだろう?

「トーヤは練習しなくていいのか?」

カンナが聞いてくる。

「大丈夫だよ。朝やったから」
「他の皆だって朝やってるんだろ?」
「ただやればいいってものでもないらしいから、一日中やってたら集中力もたないでしょ?そろそろ試験勉強もしなきゃだし」

愛莉がそう答えた。
試験と言えば愛莉がアスリートフードスペシャリストの資格を取った。
いつそんな勉強をする暇があったのか疑問だったが。まあ、愛莉だから可能なんだろうな。
献立も変わってきている。
そして午後の授業を終えると一度青い鳥に寄って大学に戻る。
まだ早すぎるくらいだった。
更衣室は空いていたので使わせもらい、コートに行く。
愛莉にストレッチを手伝ってもらい。愛莉にシュート練習をつきあってもらっていると水島君がやってくる。
水島君はストレッチをして、僕の前に立つと身を低くディフェンスの姿勢を取る。
どうしたんだろう?

「お前の課題はインサイドだろ?付き合ってやるからかかって来いよ」
「シュート練習しなくていいの?」
「こう見えてもディフェン力にも自信があってな。良いから来いよ」

質問に答えてくれないけど、1ON1をやろうってつもりらしい。
愛莉もそれを察したのかゴール下から離れた。
僕が右手でドリブルを始めると低い姿勢で右からも左からも対応出来るようにディフェンスする水島君。
この姿勢ならシュートすれば入るんだけど。インサイドの突破力を養うための練習なので敢えて封印する。
しばらくドリブルを続けている。
水島君もひたすら待ち続けている。
僕から動くしかないようだ。
攻撃時間は24秒しかない。
水島君の右側を狙ってドリブルする。水島君は右へ移動する。僕は背後でボールを左手に持ち替え水島君の左に回り込む。
半身でも突っ込んでしまえばチャージングはとられない。そのままレイアップを決めてお終い。

「冬夜君。また右から狙おうとしてる。相手が研究してたら右手狙われるよ」

愛莉のダメ出しが入る。

「左から抜いたからいいだろ?」

愛莉に言うといつの間にか見ていた佐倉さんからもダメ出しが。

「相手がエースキラーと呼ばれる人なら右手を徹底的にマークします。スティールされますよ。何より片桐先輩がディフェンスならそうするでしょ?」

水島君からボールを受け取る。「もう一回って意思表示だ。
そうして練習をしていると、皆が集まってくる。
監督が最後にきて練習が始まった。
練習は19時まで続いた。
19時になっても練習を続けてる人がいた。
僕はクールダウンを行って更衣室に行って着替えると愛莉と帰る。
練習も大事だけど単位落としたら意味がない。
ご飯を食べてお風呂に入って、愛莉のマッサージしてもらい、勉強する。
愛莉はいつも通りノートPCを弄る。
24時を過ぎる頃には愛莉と布団に入る。
布団に入ると愛莉はすやすやと寝ている。
僕の腕をしっかりつかんで離さない。
愛莉の頭をそっと撫でてやる、
愛莉の僕の腕を掴んでいた腕は僕の腰に手を回し体を密着させる。
僕も愛莉の背中に手を回し、抱いてやると愛莉はうっすら目を開ける。

「……今からするの?」

なんてことを言うんだこの子は……。

「ごめんな、休みの日にしてくれないか。疲れてて」
「は~い、ごめんなさい。冬夜君が優しいからてっきり」
「愛莉、今から言う事を聞いて欲しい。本格的にバスケを始めたときから考えていた事なんだけど……」

僕は愛莉に僕の決意を話した。

「それが冬夜君が決めたこと?」
「ああ、自分自身で決めたことだよ」

誰の意見にも流されない自分自身で決めた意思。

「冬夜君がそう言うならそれでいいよ」
「ありがとう、まだ決まってないけどな」
「うん、でも冬夜君なら絶対決まるよ」
「ありがとう。じゃあ、話はお終い。寝よう?」
「うん」

愛莉はそう言って目を閉じると再び寝息をつく。
僕も目を閉じる。
決意。
それは夢なのか目標なのかわからないけど一つの到着点。
ちょっと寄り道になるかもしれないけど、一度決めたらある程度はちゃんと目的を決めてけじめをつけよう。
そんな事を考えながら、眠りについた。

(2)

水島先輩がまだシュート練習をやっている。
私はディフェンスについた。

「いいのか?お前冬夜の応援してるんだろ?」
「だからです、ライバルの強化は必要ですから」
「……なるほどな」

水島先輩はシュート練習しながら私に話しかけてきた。

「お前、中学から追いかけてたんだって?冬夜の事」
「中学・高校はサッカーでしたけどね。サッカーも凄かったんですよ」

私は当時の片桐先輩のすごさを説明する。

「天才はなんでもこなすってか……」
「あれでやる気さえ出ればいう事無いんですが……」
「バスケでやる気にさせたってわけか。俺たちは当て馬か?」
「当て馬は日本代表でしたね。まさか勝ってしまうとは思いもしませんでしたが。皆さんも実は凄い実力の持ち主だと思いますよ。それを片桐先輩が引き出したってだけです」
「最終的には冬夜か……」

水島先輩が苦笑いする。

「佐倉さん、玄関で男の人が待ってる。すっごいイケメン」

女子部の谷村さんがそう伝えてきた。
誰だろう?
水島先輩をみると「行けよ」と言う。

「俺もそろそろ上がるから先に帰っとけ。もう遅いし」
「わかりました。クールダウンしっかりしておいてくださいね」

そう言ってコートを出ると更衣室に行く。
更衣室には女子部のメンバーがいた。

「伊織に聞いたよ。男を待たせてるんだって?」

羽海野先輩が言う。

「いえ、今そういうの興味ないんで……」
「バスケ部にいるとか?」
「いませんよ。どうしたら皆さんの力になれるか考えてるだけです」
「なら、メンタルのケアもしなきゃ」
「そうですね……」

会話もそこそこに切り上げて着替えを終えると更衣室を出て玄関にでると言っていた通りイケメンのロン毛の男が立っていた。
別府の大学の帆秋先輩だ。
私は無視して体育館を出ようとする。

「待ってよ、折角車で迎えに来たんだから」
「そういうのってストーカーって言うんですよ」
「この前の話の続きしようよ。俺マジなんだって」
「分かってます、だから真面目に丁重にお断りしたつもりです」
「なんでだよ、俺が別府の大学のメンバーだからか?敵だから付き合えないってことか?」
「常識的に考えておかしいと思います」
「俺が地元大のバスケ部員だったらよかったのか?桜子ちゃんが別府の大学のマネやってたらよかったのか?」

私はくるりと反転して帆秋先輩に叫んだ。

「信じられない!そんな事良く平然と言えますね!もう話す事なんて何もない帰ってください」
「ごめん、桜子ちゃん。気に障ったら謝るよ」
「気安く名前で呼ばないで!もう二度と会いたくありません!」

そう言って帆秋先輩のもとから立ち去ろうとする私の肩を誰かが掴んだ。
振り返ると水島先輩が立っていた。

「誰、お前?」

帆秋先輩が水島先輩に突っかかる。

「佐倉、誰こいつ?」

水島先輩が聞く。

「別府の大学のスモールフォワードだった人です」
「ああ、なるほどね」

水島先輩が私の肩を抱く。

「で、うちの大事なマネージャーに何の用?」

帆秋先輩はその様子を見て驚く。

「この人が桜子ちゃんの彼氏さん?」
「違います」
「だったらくっつくなよ!」

手を出そうとする帆秋先輩に水島先輩は毅然と対応した。

「いいの?仮にもバスケの名門なんでしょ?暴力事件とか起こしたら問題なんじゃない?」

帆秋先輩は黙ってしまった。

「また来るから……」
「もう二度と会いたくありません」

帆秋先輩は振り返ることなく駐車場に向かっていた。

「水島先輩助かりました」

私は水島先輩に礼を言う。

「気にするな、クールダウンのランニングしてるところを偶々見かけたから放っておけなかっただけだ。……気をつけて帰れよ」

そう言ってランニングを始める水島先輩。
15分くらい体育館の玄関で待っていた。
それを見つけた水島先輩が声をかける。

「なにやってんだ!風邪引くぞ!?」
「先輩こそ汗の処理しないと」
「まだストレッチ残ってるんだよ」
「手伝いますよ」
「そこまでしてもらわなくても一人で出来るよ」
「じゃあ、お礼させてください。さっき助けてもらったお礼」
「別に良いって」
「私の気が済まないんです」
「何すればいいんだ?」
「ファミレスで夕食でもいかがですか?バスケ論語りましょう。私もまだ覚えたてだし」
「……本当に冬夜の為なら何でもするって感じだな」
「今はチームの強化にも尽力してますよ」
「……まあ、いいよ。ちょっと済ませてくるから待ってろ」

そう言って水島先輩は体育館の中に入って行った。
しばらくして、水島先輩は着替えてやってきた。

「じゃあいくか、近所のファミレスでいいか?」
「はい!」

片桐先輩に対する水島先輩の気持ち良く分かる。


それは小学生のSCにいたときの話。
激しいタックルを受けて、鼻血を出した時の話。
そして……。
言った本人は悪気が無かったんだろう?むしろ心配してくれた居たのかもしれない。
だけど私には屈辱だった。
もう二度とサッカーは出来ない。
その悔しさがあるから、舞台があるのに努力しない人を許せない自分がいる。
水島先輩も片桐先輩に同じ憤りを感じているんだろう?
そんな話をしていた。

「佐倉も色々あったんだな」

水島先輩から出た初めての優しい言葉。
そんな水島先輩にいつしか惹かれていた。

いつどこで何があるか分からない。

そんな話を聞いていた。
今がまさにその時なのだろうか?
今言ったところで水島先輩には同情としか受け取ってくれないだろう。
こういうことはどうしたらいいか分からない。
渡辺班に相談してみようと思う。
きっと解決策を見出してくれるだろう。
その晩渡辺班に話してみた。

「一度あってみたいな、その水島君ってやらに」
「機会があれば青い鳥に誘ってみます」
「そのときまた連絡くれ」
「はい」

シャワーを浴びるとベッドにダイブする。
アラームをセットする。
明日も朝から大変だ。
あ、その前に今日のデータを分析しておかなくちゃ。
結局寝たのは日付が変わった頃だった。

(3)

朝、アラームの音で目が覚める。
アラームを止めると、ベッドから起き上がる。
そのまま朝食の準備にとりかかる。
誠の分も作っておいてやろう。
後で食べるだろう。
アスリートだ、ご飯の方がいいだろう。
ご飯はタイマーをセットしておいた。
後はおかずを作るだけ。
すると突然背後から抱きしめる誠が。

「おはよう、神奈」
「調理中にそういうのは止めろと言ったはずだぞ、誠」
「新婚気分を味あわせてくれたっていいだろ」
「そういうのは式を挙げてからにしないか?」
「硬い事言うなよ」

別にいちゃつくのが嫌なわけじゃない、むしろ嬉しいとすら思う。
ただ、調理中とか何かをしてるときにするのは止めてくれと言ってるんだが……。

「ご飯できるまで大人しくしてろ」

そう言うと誠は離れて洗面所に向かう。
朝食の準備が出来上がる頃には誠が戻ってきてた。
誠と二人で朝食を食べる。

「でも俺にあわせて早起きしてくれるなんて、良い女房をもったぜ」
「そういうわけじゃない、いつもより早めに出ないと渋滞に巻き込まれるのを嫌っただけだ」

そう言えば誠も朝練あるんだっけ?

「なるほどな、俺の事はついでってわけか」
「朝食は準備していこうと思ったさ。ただ、朝練の事忘れてた」

あ、お弁当の事忘れてた。

「弁当作る時間を忘れてた。今日は何か買ってくれ」
「学食で食うからいいよ、うちの大学食べ放題なんだ」
「食べ過ぎるなよ」
「わかってるって、自分の体調管理くらい自分でするよ」

朝食を食べ終えると仕度を始める。
前済んでたところより3倍くらい時間がかかる。
加えて途中渋滞がある。
抜け道があるらしいから確かめる為にも早めに出ておきたい。
私が仕度を終える頃、誠は家を出ようとしていた。

「じゃあ、行ってくる」

誠が新婚旅行気分に浸りたいと言っていたな。

「……気をつけてね、ダーリン」

そう言って軽くキスをする。

「うぉお!やる気出た。寄り道せずに帰ってくるからな!」

そう言って誠は家を出ていった。
両家の親には挨拶をすませている。
ちぃちゃんに「兄をよろしくお願いします」と言われた。
両家の親は何も言わなかった。
「息子をよろしくお願いします」と言われたくらいか。
うちの親は特に何も言わなかった。
「幸せにおなりなさい」と言われたくらいか。

家を出ると大学に向かう。
授業を受けるとバイトに向かう。
バイトを終えると夜遅くになっていた。
誠に「今から帰る」と伝えると「夕食は準備してあるから」と返ってきた。
家に帰る途中の道でやけに煽ってくる車に出会う。黒い車だ。
ウィンカーを出して、左に寄せると一気に抜き去って言った。
こんな一般道でそんなスピード出して危ないだろ。
しばらく走っていると路肩に止まっている。
追い越すとまた追いかけてくる。
こっちの車がそういう車だからか、張り合ってくる。
また、路肩に寄せて進路を譲る。
すると後ろに止めて運転手が歩いてくる、

「……なんだ女か。張り合うだけ無駄だったな。車が泣いてるぜ」

そう言って車に戻ると走り去っていった。
感じの悪い奴だな。
そのくらいにしか感じなかった。
帰って誠にその事を話すと「ああ、黒い亡霊か」と言った。

「最近私立大近くの山に現れたやつでな。その山にいる走り屋チームを負かせたらしい。多分冬夜が負かせた連中だ。気にすることはないよ」
「だったら山でやれってのな。あんな一般道で飛ばして危ないと思ったことは無いのかよ」
「神奈は相手にしない方がいい。神奈が事故に巻き込まれる方が心配だ」
「わかってるよ」
「それより晩飯まだだろ、食えよ。これでも気合入れて作ったんだぜ」

肉が多めだったが、誠の作った料理だ有難くいただいた。

「じゃあ、俺これからバイトだ。行ってくる」
「大丈夫か身体とか……」
「筋トレも兼ねてだから問題ない。行ってくるよ」

そう言って誠は家を出る。
休みの日はゆっくりさせてやろう。
休みの日と言えば次の連休は成人の日か。
振袖は母さんのを借りることになってる。
着付けは母さんが出来る。
誠に送ってもらおう。
前夜から泊まりに行けばいいか?
母さんにメッセージを送る。
わかったと返事が返ってくる。
シャワーを浴びてテレビを見ながら勉強をする。
履修科目が愛莉たちと違うため独学でやるしかない。
勉強のコツは1年の時にある程度身に着けた。
日付が変わる頃寝る。
寝ていると、ガチャガチャとドアの音がする。
誠が帰って来たのか。
部屋の照明が点くと「おかえり」と誠に言う。

「あ、寝てたか。ごめん」
「大丈夫だ、お腹空いたろ?なんか夜食作るよ」
「あ、コンビニで買ってきた」
「そうか」
「神奈は寝てろよ。俺もすぐ寝るから」
「ああ、じゃあ先に寝るよ。おやすみ」
「おやすみ」

今度から夜食も用意しておいてやらないとな。
照明と物音が気になって、誠がベッドに入るまで結局起きてた。

(4)

日曜日。
椎名さんと二人で遊園地にきていた。
色んな乗り物に乗って遊んでいた。
楽しくて、浮かれて色んなことを忘れさせてくれる。
レストランでお昼を食べる。

「楽しんでるかい?」

椎名さんが尋ねると陽気だった私は「はい!」と答えた。

「それはよかった」

椎名さんはそう言うと昼食を食べる。

「椎名さんは楽しくないんですか?」

私は椎名さんに聞いてみた。

「楽しいよ。ただはしゃぐには大人になり過ぎてね」
「何歳になったって楽しい事は楽しいですよ」
「そうだね……」

椎名さんは何か悩んでいるようだ。
どうしたんだろう?

「何かあったんですか?」
「いや、楽しんでる時に持ち出す話題じゃないから……」
「そう言われると余計に気になって楽しめませんよ」
「それもそうだったね。ごめん……」

椎名さんは何かを考えると話した。

「この前はごめん、ちょっと意地悪が過ぎたかな?気分を害したみたいで」
「……いいんです。今が楽しいなら」
「……真鍋と着たかった。本音はそうじゃないのかい?」
「そうですね。本当は真鍋君と着たかった。そう思ってるのも本音です」
「だよねえ」

椎名さんはそう言って笑う。

「……でも、今は椎名さんとデートしてる。それが楽しい。それも事実です」
「デートじゃないよ、単にこの前の罪滅ぼしをしてるだけ。新名さん僕に好意ないでしょ?デートになってないよ」

私は椎名さんの手の上にそっと、手を重ねる。

「新名さん?」

気づいてくれませんか?私の気持ち。

「もう許してもらえませんか?もう十分辛いことを体験した。そろそろ誰かに甘えたい」
「僕に甘えたいだけ?」
「そうじゃないです。私から何をあげたらいいのか分からないけど……」
「……君がいるだけで十分だよ」

私は恋をした。
その恋は叶わぬ恋だった。
そして別の人に恋をされた。
その人は真摯に私と向き合ってくれる。
ずっと私を待っていてくれる。
まだ好きと言えるか分からないけど。

「新名さんどうしたの!?」

気がついたら私の目から涙がこぼれていた。

「ごめんなさい」

その言葉を椎名さんはどうとらえたのだろうか?

「僕こそごめん、やっぱり楽しいときに話す話題じゃなかったね」

違う。この涙はそんな涙じゃない。

「いいんです。ご飯食べたし次いきましょう!」

ハンカチで涙を拭うと椎名さんの手を取った。
椎名さんは片手でトレーを持ってついてくる。

最後に観覧車に乗った。
二人でいる時間はゆっくりと過ぎていく。
お互い何を喋ればいいか分からないでいた。
結局観覧車に乗っている間何も喋らないでいた。

遊園地を出ると、車の中で二人の時間が出来る。
このまま沈黙しているのも耐えられない。

「今日はありがとうございます。楽しかったです」
「それはよかった」
「あの……、私って迷惑ですか?」
「どうして?」
「今でも真鍋君の事を想ってる我儘な娘だと思ってませんか?」
「わがままなんかじゃないさ、そんな事を言い出したら恋する子は皆我儘になってしまう」
「……あの、さっきの話なんですけど」
「?」
「やっぱりデートだと思います。だって椎名さんは私の事好きだし……」

私の自惚れ?

「だし……?」
「椎名さんとの仲、進展有りました。それってデートだと思いませんか?」
「進展あったのかい?」
「ありましたよ。このまま私を椎名さんの事好きにさせてください」
「……わかったよ」

そう思ってる時点で好きになってるのではないのか?
そうも思った。
そうか、私は新しい恋に変わろうとしているんだ。
さよなら、私の初恋。
私はまた涙を流していた。
それは哀しい涙じゃない。
私を包んでくれる新しい人が現れたことに対する嬉し涙だ。

途中夕食をご馳走になって家に帰る。
車を降りるときが来た。
このままどこまでもついて行きたい。

「新名さん着いたよ」
「未来でいいです」
「?」
「また、誘ってくださいね」

そう言って笑顔を作る。

「わかったよ。じゃあまた」

そう言って私が車を降りると彼は走り去っていった。
これでいいんだよね?
今度誘ってくれた時はちゃんと言おう。
自分の気持ちを伝えよう。
あ、そうだ。真鍋君にも伝えなくちゃ。
……伝える必要があるのだろうか?
止められるんじゃないの?
そう期待している私がいる。
まだ吹っ切れてないのか?
時間がかかりそうだな。
でもそれを待つしかない。
きっと椎名さんが忘れさせてくれる。
どうやったら忘れられるのか?
それを椎名さんと頭を寄せ合って考えて行こう。

(5)

「以上でよろしいですか?」
「はい」
「では寸法を測らせていただきますので一度試着してみてください。

そう言って僕を試着室に連れていく店員。
試着すると店員が裾の長さ等を採寸していく。

「少々お待ちください」

そう言ってしばらく待っている間に愛莉は服を選び始める。

「愛莉今日はスーツを買いに来ただけだよ」
「いいじゃん、滅多に来ないんだし」

お構いなく服を選ぶ愛莉。

「あ、これ。トレーニングの時にいいんじゃないかな?」

とか、言って次々とカゴに入れていく愛莉。

「お客様出来上がりました」

と、店員が言う頃には物凄い量になっていた。

「じゃ、カードの方お預かりします」

店員にカードを渡す。

「領収書は要りますか?」
「あ、下さい」
「かしこまりました」

買い物を終えると車に乗る。

「冬夜君次は私の買い物にも付き合ってよ」
「愛莉の買い物?」
「うん」

何を買うんだろう?

婦人服のお店についた。
パーティドレスを買うつもりらしい。
ああ、3月に酒井君が挙式するって言ってたからか。
招待状が届いていた。
愛莉は水色のパステルカラーのドレスを選んでいた。
それにショールを買って、靴屋さんで靴を買って。小物とかも買って……。

「うん、これでよし」

そうして家に帰ると愛莉とゲームをしていた。

「冬夜君少し寝てた方がいいんじゃない?」
「なんで?」
「忘れたの?明日0時にはお出かけだよ」
「愛莉こそ寝なくて大丈夫なの?」
「うん、冬夜君時間になったら起こしてあげるから」
「じゃあ、ちょっと寝ようかな?」

そう言ってベッドに横になる。
眠ったかと思ったらすぐに愛莉に起こされる。

「時間だよ~」

そう言われた僕はスーツに着替えると愛莉の家に向かい振袖を受け取って愛莉と一緒に美容室に行く。
予約していたらしく順番はすぐに回ってきた。
髪のセットをしてそれから着替えに入る。

「出来たら教えて、車で待ってる」

そう言うと車に乗ってシートを倒し横になる。
愛莉が着付けをしている間僕は眠りについていた。
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